fate imaginary unit 第六話
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「いよいよか……」

 

アインツベルン城の片隅で彼女はそう呟いた。

 

部屋に籠っているより隅にいて外でも見ていた方が退屈しないで済む。

 

魔術師達がこの冬木の街に集まってきているのを感じる。

 

今晩にでも七人のマスターとサーヴァントが集まって聖杯戦争が始まるのであろう。

 

彼女、ケルベスフィール・フォン・アインツベルンは、言ってしまえば失敗作である。

 

いや、体に欠損はなく、むしろ作られたと聞けば納得してしまうような容姿に赤い目が印象的な彼女は重ねて言うが失敗作である。

 

全く、失敗作と言われた身にもなって欲しいのだが。

 

いつもそう思いながら溜息をついている。

 

しかし、アインツベルンからしたら、せっかく作ったのだから勿体ない。

 

それに、新しいホムンクルスを作成するのには時間がない。

 

ならば、コイツでも使うか。

 

その程度の考えで私をマスターに指名したのだろう。

 

失敗作というのも、あの人達からしたら失敗なのであって、当人としてはなんら不自由もない。

 

私には感情があるのだった。

 

本来アインツベルンは聖杯戦争を行うマスターに感情など不要と考えているらしく第三次聖杯戦争のマスターはロボットのように感情を無くし魔術回路を詰めこむという試みのもと造られたらしい。

 

らしいというのはケルベはそう聞いていただけだからだ。

 

人間までとは言わないが、それなりの感情を持ち合わせており、泣いたり笑ったりすることが出来てしまう。

 

それを失敗だと決めつけたアハト翁などは一度たりともケルベに会おうともしなかった。

 

感情を持ってなにが悪いのだろうか。

 

自分たちだって笑ったり泣いたりする癖に。

 

「全く酷いやつだよな。なんだっけその……」

 

「アインツベルン」

 

「そうそうアインツなんとかって奴ら。作るだけ作って失敗したらポイかよ」

 

暗闇から男の相槌が聞こえる。

 

「まぁ、アインツベルンってのはそういう家系だからしょうがないわよ」

 

ケルベは半ば分かっているような諦めたような心情を吐露する。

 

「俺のマスターにしては随分とまぁ湿気てるなぁ……」

 

お前もそう思うだろ?と何かを叩いているようだがケルベからは何も判別がつかなかった。

 

「それで私はあなたをなんて呼べばいいのかしら?」

 

「そうだな……」

 

暗闇の中の彼は考えているようだった。

 

「シンプルに復讐者〈アヴェンジャー〉でいいんじゃないか?」

 

「そう、ならアヴェンジャー。聖杯でも取ってアインツベルンの連中でも見返しますか」

 

復讐者。

 

そのクラスに位置する彼は何に対して復讐を誓うのか。

 

機会があったら聞いてみようと思う。

 

「さながら私はアインツベルンという家系に対しての復讐者ってところかしら」

 

そう考えるならイレギュラーとも言えるクラスの出現は必然だったのかもしれない。

 

そんなことを考えていた。

 

ケルベは身近にあった本を一冊取ると宙に投げる。

 

突如としてケルベの髪がふわりと揺れる。

 

暗闇から光が二つチカッチカッと見えた。

 

次の瞬間、分厚いハードカバーの本が真っ二つになりそれぞれが壁に突き刺さった。

 

本に刺さっていたそれらのナイフは二つが二つとも禍々しい形をしていた。

 

「いいね。マスター。それでこそ俺のマスターだよ」

 

 

説明
御三家の一つアインツベルン家は聖杯戦争のための秘策としてあるモノを作っていた。
ホムンクルス。
人の手で作られた人。
ただ、聖杯を求めるためだけに作られた存在。
何も感じず何も思わず。
そう、そういう存在のはずだったのだ――。
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二次創作 第三次聖杯戦争 Fate アインツベルン 

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