Masked Rider in Nanoha 二十五話 果てしない戦いの炎の中へ
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 試験が終わった後、スバルとティアナの二人は五代達と共に場所を移動し、試験会場から近くの陸士隊隊舎に移していた。そこの一室を借り、はやてから二人はある提案を聞かされる事となる。

 

「「機動六課?」」

 

「せや。わたしらが立ち上げる部隊。そこにフォワードメンバーとして来て欲しいんよ」

 

「ど、どうするティア? なのはさん達から凄いお誘いが来ちゃった!」

 

「どうするって言われたって、こんな話を聞いてすぐ答えを出せる程アタシも大物じゃないわよ」

 

 はやての言葉を聞いて二人は互いの顔を見合わせた。Bランクへ昇進が決まった直後でいきなりの異動話。しかも、誘ってくれたのは局内でも有名な魔導師三人組。更に自分達が憧れる者達も希望してくれたと聞けば気分が高揚するというもの。

 しかも、そこではなのはが小隊長だけでなく教導までしてくれるとなれば尚の事。そんな振って湧いた有り得ない話に動揺しつつ、その言い合う内容はどちらも喜びと嬉しさを滲ませていた。念話を使わないのは、それだけ興奮しているのと、ここにいる者達にはそういう気遣いはいらないと言われているのもある。

 

「それは分かるけどさ」

 

「じゃ、まずあんたの意見を言いなさいな。それからアタシが意見を言うから」

 

「あ、それずるい!」

 

 そんなやり取りに五人は苦笑。このままでは埒が明かないと判断し、はやてが即答しなくてもいいと言った瞬間、二人はそれまでのやり取りが嘘のように静かになった。そして、互いの顔を見合わせる。

 

【いい? 同時でいくわよ。どうせ気持ちは一緒だろうし】

 

【うん!】

 

「「是非参加させてください!」」

 

 その答えに五人は笑みを浮かべる。その声にはやる気が満ちていたのだ。これなら何が起きても挫けない人間となってくれる。そんな事を思いながらはやては頷いた。

 

「うん、確かに聞き届けました。近々正式な異動通知がいくから待っててな」

 

 その言葉に二人は笑顔を見せ合ってサムズアップ。それを見て五代が軽く笑い、二人へ尋ねた。

 

「スバルちゃんもティアナちゃんもそれの意味を知ってるんだっけ?」

 

「「はい」」

 

「そっか。じゃあ、これからもそれが似合う人でいてね」

 

 それに二人は少し驚いたが込められた願いを理解し力強く頷いた。それを見ていたなのはがややからかうように五代へ尋ねたのは流れだったのかもしれない。

 

「五代さん。私達そう言われた事ないんですけど?」

 

「え? それなら大丈夫だよ。なのはちゃん達も似合ってるから。これからもそのままのなのはちゃん達でいてね」

 

「何や、どこかおざなりな感じやなぁ」

 

「そうだね。確かにそんな感じだったかも」

 

「な、なのはもはやてもやめようよ。五代さんが困ってるから」

 

 はやてとなのはのからかう言葉に五代が苦笑するのを見たフェイトが二人を諌める。だが、それになのはとはやては軽く笑ってこれぐらいなら五代は気にしないと返した。そんな光景を見つめてスバルとティアナはやや驚いていた。

 彼女達が知る高町なのはは、仕事が出来る凄い実力者であり、エース・オブ・エースの異名を持つ若い局員の憧れなのだ。そんななのはがこんな風に歳相応の顔を見せている事。それが二人の抱いていたイメージを崩していく。

 

 そんな二人を見て、翔一はどこか不思議そうに小首を傾げる。何か変わった事でもあったのだろうか。そう思って二人へ問いかける翔一へティアナとスバルが思った事を伝える。すると翔一は成程と納得した。

 

「俺が知り合った頃からなのはちゃんはこんな子だよ?」

 

 それを聞いて軽く意外そうな顔をする二人。だが、翔一にはその方が意外だった。だからこそ何でもないように言ったのだ。

 

「なのはちゃん達だって同じ人間だから。ティアナちゃん達が思ってるような完璧な人なんていないよ」

 

 そのあっけらかんとした言い方にスバルは驚き、ティアナはそこに翔一らしさを見て苦笑する。翔一のらしさを知らないスバルは感心し、そこから翔一へ昔のなのはについての話を聞きたがった。ティアナはそれを横目に、翔一の告げた言葉に対して考えていた。

 

(完璧な存在などいない。そんな事言われなくても当然だったわ)

 

 翔一のように自然体であろうと思っていたが、どこかで考えに変な思い込みが入っていた。なのはも自分と同じただの人。どこまでいってもそれは変わらない。そんな当然の事を気付かなかった事に、自分もまだまだだなとティアナは感じて息を吐く。

 

(翔一さんには、やっぱまだ及ばないわ)

 

 ティアナの視線の先では、スバルへレストランで働いていた事を告げたためか、是非一度ご飯を作って欲しいと懇願されている翔一の姿があった。その親友の行動にもらしさを感じ、ティアナは小さく笑うと若干困っている翔一を助けべくスバルの肩を掴むのだった。

 

 

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「凄かったねぇ」

 

「……そうね。まさか翔一さん達も参加するとは思わなかったわ」

 

 はやて達と別れ、二人は先程までの話を思い出しながら歩いていた。五代と翔一は基本は食堂で働くため、一緒に前線をする訳ではないとはやて達は告げた。クウガの事を知る二人にすればその配属にはやや疑問が残ったが、五代があまり戦う事が好きではないと言った事もあってか納得していた。

 それにスバルもティアナも翔一の料理が食べられる事に喜びを感じていたし、早く食べてみたい物が出来たのも大きい。それは、その話に関連してなのはが絶賛したとある食べ物。翔一やはやても、その味にはサムズアップをせずにはいられない五代の作る料理。

 

「早く食べてみたいなぁ、ポレポレカレー」

 

「一体何の意味かしらね? カレーは知ってるけど、ポレポレって……どこの言葉よ」

 

「う〜……六課に行けば分かるよ。その時、五代さんに聞こう」

 

「それもそうね。さて、じゃあ宿舎帰ったら荷物を纏め始めるとしますか」

 

「おーっ!」

 

 元気一杯答えるスバルに苦笑しながらティアナは歩く。やや前を行くスバルが昼食をどうするかと聞き、ティアナは時計を見つめた。時刻は既に昼になっていて、どこも忙しい時間となっているだろうと予測してティアナは苦い顔。

 スバルもそれに気付いて、同じく苦い顔しながらどこか近くで探す事を提案する。それにティアナも頷き、出来れば安くて美味しい空いてる所がいいと言いながらため息を吐いた。そんな場所はきっとないと分かっているからだ。それを聞いたスバルもそんな所は早々ないと思って苦笑する。

 

 そんな風に会話しながら二人がクラナガンの街を歩いている頃、五代達は五人で食事をしていた。とは言っても店などではなく、部屋を貸してもらった陸士隊の食堂だ。ティアナ達も誘われたのだが、試験で疲れたのと突然の話で驚いたのもあり今日は遠慮させて欲しいと辞退していた。

 

「それにしても、クウガの正体が知られてるとはなぁ……」

 

「ティアナちゃんとスバルちゃんが出会ったのは、ある意味運命だったのかもね」

 

 はやての言葉に五代は何か不思議なものを感じてそう告げる。それになのはとはやてが腕を組み、自分達もそうだったようなものだと思ってか互いに視線を送り合って苦笑した。

 フェイトはそんな二人のやり取りに笑みを見せるが、何か思い出したのかやや不安そうに視線を五代へ向ける。

 

「エリオは知らないですよね?」

 

「だと思うよ。戻ってきてから海鳴で変身した事はないし、クウガの姿で会った事は当然ないから。あ、でもRXはどうだろう? 後で光太郎さんにも聞いてみたら?」

 

「エリオ君と、キャロちゃん……でしたっけ。俺、エリオ君は会った事あるんですけど、キャロちゃんはないんですよね」

 

「あー、キャロが海鳴におった頃は翔にぃも完全ミッド暮らしで忙しい時やったもんな」

 

「キャロは優しい家庭的な感じの子ですよ」

 

 なのはの言葉に五代も頷いた。一緒に小さい竜がいるんだと嬉しそうに告げて。それに翔一が軽く驚き、フェイトへ視線を向けた。竜など本来であればおとぎ話の中でしかいない存在。それが本当にいるのかと思ってのだ。

 フェイトも翔一の反応からそれを悟り、フリードと呼ばれていると言いながら執務官服の内ポケットから一枚の写真を取り出した。そこにはフェイトと手を繋いで微笑むキャロの肩に乗るフリードと、光太郎に肩車されてどこか照れているエリオが写っていた。

 

 それを見て翔一は頷いた。キャロの表情や姿から確かに優しそうな感じだと思えたのだ。しかし、その写真を見たはやてが軽くからかうように笑みを見せる。それに気付いたフェイトがどうかしたのかと尋ねた瞬間、それを待ってましたと言わんばかりにこう言った。

 

―――いや、まるで親子やと思ってな。

 

 その一言にフェイトが思考停止し、ややあってから再起動。顔を赤くしながらそんなのではないと反論した。それにはやてが面白がって色々と返す中、五代と翔一は写真を見て笑顔を浮かべていた。

 とてもエリオもキャロも嬉しそうに見える写真。見ているだけで心和む何かがそこにはある。だからだろうか。何かいいよねと五代が言えば、和みますねと翔一が返す。そんな二人の会話を聞きながら、なのはは頬を掻いて呟いた。

 

「こっちとこっちで別空間です……」

 

 隣では、フェイトがあまりにもムキになって反論するのではやてが苦笑しながら謝っていて、反対では五代と翔一が写真をキッカケに光太郎との再会に思いを馳せて会話に花を咲かせていたのだ。

 その両極端な光景を交互に眺めてなのはは一人微笑む。これも自分達らしいかと思いながら。そしてフェイトとはやての会話へ加わり、五代や翔一が言っている光太郎を話題に場の雰囲気を変えていくのだった。

 

 その頃、エリオ達と別れた光太郎は転送ポートにやって来ていた。そこには銀髪の女性が立っていて、光太郎を確認すると柔らかく笑みを浮かべて手を振った。それに光太郎も手を振り返し、女性に近付いた。

 

「待たせちゃったみたいですみません」

 

「いや、こちらもついさっき来たところだ。それで……もう帰るのか?」

 

 リインはそう言って光太郎へ視線を送る。その視線を受けて光太郎は笑顔で頷いた。もう二人の意志はちゃんと確認出来た。そう思って頷いた事をリインも感じ取って何も言わずに転送魔法を展開した。

 向かう先は当然ミッドチルダの転送ポート。そして、そこから八神家へ向かう事になっている。実は、今夜八神家で六課発足に先立ち結束式を兼ねたパーティーをする事になっていて、リインと光太郎はその準備のためにこれから買い物等をしなければならないのだ。

 

 故に一度八神家へ行き、そこで必要な物を確認してから車で買出しに行く事になっている。光太郎が選ばれたのはそこが理由。翔一はバイクの免許はあるのだが車はない。五代ははやてが是非来て欲しいと言われたので除外。結局、動ける者で車が運転出来る者は光太郎しかいなかったのだ。

 

 アクロバッターを駆ってミッドの首都であるクラナガンから郊外へ向けて少し南を目指す二人。海を眺める事が出来る高台の邸宅。そこに八神家はあった。その玄関先にアクロバッターを止め、光太郎とリインはそこで待ち構えていた人物から声を掛けられる。

 

「あ、お邪魔してるよアイン。光太郎さんもお久しぶりです」

 

「やあユーノ君。元気そうだね」

 

 八神家に着いた二人を出迎えたのは無限書庫の司書長になったユーノだった。外出用のスーツを着込み、眼鏡をかけた知的な青年。そんな風に成長したユーノがそこにいた。

 

 光太郎がユーノと出会ったのはハラオウン家で世話になり始めた頃。戦闘機人は、もしかしたら地球ではなく魔法世界で生まれたのかもしれない。そう考えた光太郎はそのための情報を得る方法をフェイトへ相談した。それでフェイトが紹介したのが無限書庫。そして、司書長をしていたユーノだった。

 

 ユーノは光太郎から夜の一族の事を聞き、戦闘機人と自動人形の併せて三点で検索をかけて情報を探した。結局それで見つかった情報は、かつて次元世界のどこかに夜の一族らしき種族がいたという事だけ。他に明確なものは見つからなかった。

 だが、それ以来二人に縁が生まれ、主になのは絡みでユーノが光太郎へ意見を尋ねる事になったのだ。というのも、光太郎は五代や翔一と違い色恋にも敏感そうに見えたため。

 

 光太郎はそんな事はないと言ったのだが、現実としてユーノから見れば五代と翔一は鈍感そうに見えていた。事実、二人は女性から異性として好意を向けられているのだ。それにも関らず、それに反応さえ示していない事をユーノは周囲の話で気付いていたのだから。

 そんな二人がユーノにはなのはと重なったのは言うまでもない。ユーノがその事を話すと、光太郎も五代達の事に関しては苦笑気味に同意したのだ。

 

「もう来ていたのか。ユーノ、仕事はどうした?」

 

「うん、とりあえず僕がやらないといけないものは終わらせたよ。後は僕がいなくてもいいような案件ばかりだ」

 

「相変わらず大変みたいだね、無限書庫は」

 

「それでも仮面ライダーに比べれば僕らの仕事は楽ですよ」

 

 苦笑する光太郎にユーノはそう苦笑して返す。リインはそんな二人のやり取りを聞きながら家の鍵を開けた。そして靴を脱いで中へ入っていく。それをユーノと光太郎は見送り、玄関で話し始める。

 話題は、なのはの事だった。まったく意識してもらえないと嘆くユーノへ、光太郎は思い切ってなのはに告白するべきだと提案した。だが、ユーノはそれに難色を示す。今の状態で言っても、なのはは友達でいようと言いそうで怖いと思っているために。

 

「光太郎さんの言いたい事は分かります。確かにそれぐらいしないとなのはは僕を見てくれませんから」

 

「いや、そうじゃないんだ。なのはちゃんはしっかりとユーノ君を意識しているんだよ。ただ、なのはちゃんはきっと自分の気持ちが分かってないんだと思う」

 

「どういう事です?」

 

「多分、昔から近い距離に居過ぎたために、ユーノ君を家族に近い風に捉えてしまっているんだ。だから関係が発展しない」

 

 そう言って、光太郎は杏子の事を思い出していた。彼らもまさにそうだったのだ。家族同然に過ごした相手。だが、杏子は異性として見ていたと光太郎は気付いていた。しかし、それに答える前に彼はそれが出来ない体になってしまった。

 故に、光太郎はユーノとなのはを応援していたのだ。その姿が在りし日の自分達と重なって見えたから。自分と杏子が手に入れる事の出来なかった幸せな未来。それを二人には送ってもらいたいと思って。

 

「……分かりました。僕、言ってみます! 今日、この気持ちをなのはへ……」

 

「それがいいよ。なのはちゃんも、きっとユーノ君の事を好きなはずさ。俺が保障するよ」

 

 そんな会話が終わったのを見計らったようにリインが買い物メモと籠を手にリビングから姿を見せる。だが、その顔に疑問符が浮かんだ。その視線の先では光太郎とユーノが凛々しい表情で頷き合っていたからだ。

 何かあっただろうかと思いつつ、二人へ声を掛けるリイン。こうして三人は揃って買い出しへと出かけるのだった。

 

 

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 辺りを夜の闇が包む中、賑やかな雰囲気が漂う八神家。テーブルには様々な料理が並び、それらは全て翔一とはやてにリインの三人が作った物だ。そして、そのパーティー会場となったリビングには五代達だけではなく、もう二人参加している者がいた。

 

「グレアムおじさんも来て欲しかったんやけど……」

 

「ごめんなさい。どうしても今日は無理だったの」

 

「でも、お父様行きたがっていたからさ。ホントだよ?」

 

 彼女達の名はリーゼアリアとリーゼロッテ。あの戦いの際、邪眼を相手に戦った仲間であった。二人は六課後見人の一人であるグレアムの代理としてこのパーティーに参加していた。

 

 実は、邪眼との戦いの後、グレアムははやてを犠牲にしようとした事を悔いて局を辞めようとしたのだ。だが、それを二人とクロノが止めた。二人の仮面ライダーとはやてが守ろうとしたものを無駄にするつもりかと告げて。

 みんなが笑い合えるように、そして闇の書の悲劇を乗り越えるために。そう願って仮面ライダーは戦っていた。はやても最後には全てを知った上でグレアムを許し、感謝さえした事も告げて三人は彼へ迫った。

 

 みんなの笑顔のために。それを目指して戦ったクウガとアギトやなのは達。なのにも関わらず、グレアムがここで局を辞めたらその気持ちを踏み躙る事になる。そう三人は強く断言したのだ。

 

 それを受け、グレアムは考えた。仮面ライダーが戦う理由、その決意。それを三人から聞かされ、局員としてあるべき姿をそこに感じたのだ。故に思った。許されぬ罪を犯したと思うのなら、局員として戦って償うしかない。自分の命を賭けて全ての笑顔のために戦おうとした仮面ライダー。それに応える手段が今の自分にはそれしかないと。

 

 故にグレアムは今も局員として戦い続けているのだ。部署毎のいざこざや軋轢。しがらみや偏見、誤解などを取り除こうと。局員同士が共に手を取り合って、みんなの笑顔のためにと動けるように。

 安易に強大な力に頼るのではなく、小さくても全員の力を合わせてやれる事をやっていこう。グレアムは陸や海、空の者達へそう訴えているのだ。

 

「そうやな。おじさんも頑張ってくれとるから、今のわたし達がおる」

 

「そ〜ゆ〜事。それに、六課設立にもお父様の力が関わってるんだからね」

 

 はやてが嬉しそうに言った言葉にロッテがそう軽い感じで続く。その内容が偉そうに聞こえ、アリアが軽くロッテの頭を小突いた。

 

「もう、そんな言い方しないの」

 

「あはは、ええよええよ。わたしもそう思うし、軽い冗談な感じの言い方やったから気にしとらんわ」

 

「ロッテさん、相変わらずアリアさんに頭上がらないんですね」

 

 そんな二人のやり取りを見ていた翔一が笑みを浮かべながらそう言うとアリアが笑い、ロッテは苦い顔をした。二人が翔一と再会したのは、彼がはやてと再会して一週間後の事。

 はやてとグレアムとの顔合わせに際し、予期せず再会を果たしたのだ。だが、それははやてによる二人へのサプライズ。グレアムはそれを知っていて二人には何も言わなかったのだから。

 そして、翔一と再会したリーゼ姉妹はしばらく言葉がなかった。それを見た翔一が笑顔でサムズアップしたのを受け、彼女達も幻ではないと涙を流して喜んだ。そんな二人だったが、五代との再会は比較的早かった。

 

 五代が魔法世界に帰還してたった一週間。場所は、五代がリインに連れられ訪れたグレアムの執務室。グレアムが五代へ直接会って礼を言いたいと言ったためだ。そこで二人も五代への再会を果たした。

 前もって聞いていた事もあり、二人はそこまで驚かなかったがそれでも涙は止める事が出来ず、五代はそんな二人に困りながらも嬉しそうに答えたのだ。ただいま、と。

 

 そんな事を思い出しているリーゼ姉妹の横では、ユーノが五代と会話中。話題はすずかとアリサの事。ユーノの事を最初はフェレットだと思っていた二人は、五代から人間だと聞いて驚いたのだ。

 そして、五代を通じてアリサがこう伝えたのだ。このスケベと。それがいつかの温泉の事を言っている事を理解し、ユーノは休みを取って地球へ赴き二人へ直接謝罪をした事がある。おかげでユーノと五代の感動の再会は、どこかケチがついた形となったため、彼としてはどこか悲しいものが残った事件となった。

 

「で、アリサちゃんが良い人がいないって最近よく言うんだよ」

 

「ははっ、じゃ、こっちの人でよければ紹介するって伝えてください」

 

「う〜ん……そうだね。言うだけ言ってみるよ」

 

 ユーノの苦笑混じりの言葉に五代も同じように苦笑して答えた。光太郎と違い、五代や翔一は中々ユーノと話す機会がない。無限書庫へ行く用事がないのもあるし、そもそも翔一は接点がないのだ。

 一方、五代は冒険家だったのでユーノが考古学者として動く時には共について行っていた。そのため、五代は何度か次元世界を旅した事がある。すずか達に断りを入れ、翠屋の手伝いを休み、リインに送り迎えだけを頼んで。

 

 行き先はユーノが頼まれた調査対象の遺跡の数々。彼と二人で過ごす時間は、冒険に飢えていた五代には心から満足出来る内容だった。何せ、調査が終わると同時にユーノへ感謝の言葉をこれでもかとばかりに述べるのだから。

 まぁ、最後には次もよろしくと頼むので、さすがにユーノも苦笑いを浮かべた事を追記する。それぐらい五代にとってユーノとの遺跡での時間は忘れられないものだったのだ。

 

「でも、ユーノ君っていつの間にか光太郎さんとも知り合ってたんだね」

 

「ええ。フェイト経由ですけど。戦闘機人の事で」

 

「あ、ユーノ君。ちょっといい?」

 

 五代と光太郎の話をしようとしたユーノだったが、それを遮るようになのはの声が響く。それに五代が笑みを浮かべ、ユーノを促した。それにユーノが申し訳なさそうに軽く頭を下げ、なのはの方へ向かって歩き出す。

 すると、光太郎が五代の横へ苦笑しながらやってきた。シグナムから一度手合わせをしてくれと頼まれたのだ。六課が始動したら自分達を相手に模擬戦をする気だと光太郎が告げると、五代も苦笑して困りましたねと返す。

 

 そんな時だった。二人に長らく聞こえなかった声が聞こえてきたのは。

 

”若者よ”

 

(アマダム?)

 

”光太郎”

 

(キングストーン!?)

 

””闇が目覚めた。心せよ、此度の闇は深い……””

 

 そこで声は消えた。だが、五代と光太郎は互いを見合うとその表情と雰囲気だけで同じ事を聞いたと理解した。

 

「聞こえました?」

 

「ああ。最後には警告まで受けた」

 

 それだけで二人は内容が一致する事を認識。だが、今はまだそれを告げる時ではないと思っていた。せめてこのパーティーが終わるまでは、この時間だけは幸せに浸らせてやりたいと。しかし、フェイトがそんな光太郎達の僅かな変化に気が付いた。

 

(光太郎さんに五代さん……何かあったかな? 少し雰囲気が暗いような……)

 

「二人してどうしたんですか? 何か楽しんでないように見えますけど」

 

「そんな事ないよ。ただ、この時間も後少しで終わるんだって思ったらね」

 

「そうそう。俺もそう思ったんだよ。六課が始まったら忙しくなるからさ」

 

 フェイトのやや窺うような言葉に二人は戸惑うも、五代がそれらしい事を言って答えれば光太郎もそれを受けて笑顔で続ける。それを聞いたフェイトが納得したように頷いたのを見て、五代は飲み物を取りにそこを離れた。

 光太郎もそれについて行こうとしたのだが、その腕をフェイトが軽く掴んだ。それに光太郎が振り返ろうとすると、フェイトが周囲に聞こえない程度の声で告げる。

 

―――後で聞かせてくださいね。

 

 それに光太郎が軽く息を呑む。もうフェイトは既に光太郎から離れていてシグナム達の方へ歩き出していた。しかしその背中がどこか悲しそうに見えたため、光太郎は心の中で謝った。

 

(ゴメン、フェイトちゃん。ちゃんと話すよ。この時間が終わったら、必ず……)

 

 邪眼が目覚めた。それを聞けばこの楽しい時間に影を作る。ならば、せめてこの時間の終わりに告げよう。厳しく激しい戦いの日々。その始まりを、自分達の言葉が告げるのだ。そう考え、光太郎は拳を握り締める。

 どこにいるか分からぬ邪眼。それを必ず見つけ出し、この手で倒すのだと。あの時自分と共に戦ってくれた先輩達はいない。だが、その意志は、その魂は確かにここにあると思って。

 

(異世界に破壊と混乱をもたらす邪眼。俺は、絶対に貴様を許さんっ!)

 

 そう心に改めて誓う光太郎。すると、その頬に何か冷たい感触が当てられる。それに小さく驚きつつ光太郎が振り返ると、そこには二人分の飲み物を手にした五代と料理を手にした翔一がいた。その笑顔に光太郎は笑みを返す。

 

(そうだ。今の自分にも心強い仲間がいる。仮面ライダーの仲間が)

 

 そう思い直し、光太郎は手渡された飲み物と料理を受け取る。その時、光太郎の脳裏にいつかキングストーンが彼へ言った言葉が思い出された。

 

 自分の力を秘密にし、孤独に生きろ。そうしなければ人はその力を妬み、自分を恐れるだろうとの警告を。その言葉に対し、今の光太郎はこう断言出来る。決して孤独などになる必要はない。異なる世界や異なる時代の者達でも受け入れてくれる者はいる。ならば、本当に恐れるのは人ではない。

 

(真に恐れるべきは人を信じる事の出来ない心、か。きっと、それこそが一番の敵なんだ)

 

 そう思う光太郎の目の前で、五代が翔一の皿から一つ揚げ物をもらって口に入れた。すると咀嚼している五代の表情が輝かんばかりの笑顔へ変わる。

 

「これ美味しいね、翔一君」

 

「それはリインさんが作ったんです。で、これがはやてちゃんで、こっちが俺です」

 

「へぇ……おおっ! こっちも美味しいね!」

 

 次ははやての作った物を口に入れ、五代はサムズアップ。翔一も嬉しそうに頷いた。そんな光景を見て、光太郎も笑みを浮かべて自分の持つ皿にある翔一が作った物を口に入れた。

 すると、そんな光太郎を翔一がどこか真剣な眼差しで見つめている。それに苦笑し、光太郎は感想を言った。美味いと。それに翔一は笑顔で喜び。五代も同じ物を食べて頷いた。

 

「うん。翔一君のも美味しいよ」

 

「ああ。さすがコックさんだよな」

 

「喜んでもらえて嬉しいです。六課でも、俺、頑張ります」

 

 そんな風に盛り上がる三人。それを眺め、フェイトとはやては少し寂しそうな視線を送っていた。

 

「あんな光景を、いつまでも見てたいわ」

 

「そうだね……」

 

「……邪眼倒したら、やっぱり……」

 

「止めよ。この話は、もう何度もしたじゃない」

 

 フェイトの聞きたくないとばかりの声にはやても黙った。二人だけではない。この話はなのはやすずか、アリサさえ交えてした事がある。倒すべき恐ろしい相手。それを倒すために遣わされた存在、仮面ライダー。

 故に、それを倒した時、きっと彼らは彼らのいるべき世界へと帰る。それはおそらく二度と会えぬ別れ。

 

 そのため、なのはとアリサは兄にも似た五代との別れを嫌がり、すずかは恩人とも言える五代との別れを惜しんでいる。はやては初めての家族である翔一との二度目の別離を拒否したい。そしてフェイトはその出生を受け止めてくれた光太郎に思う事があるのだ。

 

「ほんま皮肉なもんや。出会わせてくれた神様には、お礼と恨みを同時に言いたなるわ」

 

「……そう、だね」

 

 会わせてくれた感謝と、二度と会えぬ別れをもたらす事への恨み。三人のいた世界が共に地球である事はなのは達も分かっている。だが、当然だが彼女達の地球にゴルゴムもクライシスも未確認もアンノウンもいない。いた事さえない。

 つまり、三人は地球の並行世界出身。それはいかな管理局といえど行き来出来るものではない。ならば今度別れる時が今生の別れとなるのは必然。そうなのは達は考えているのだから。

 

 そんな事を思いながら、二人は目の前で楽しげに会話する五代達を見つめる。そんな時、二人の脳裏にある言葉が浮かぶ。世界はこんなはずじゃない事ばかりだというクロノの言葉を。今程その言葉のやるせなさを感じる時はない。

 そう痛感しながらもフェイトもはやても口には出さない。言えばきっとあの明るい声が聞こえてくるからだ。誰よりも笑顔が好きな男の声が。

 

―――大丈夫。きっとまた会えるから。

 

 何故かそう言われた気がして二人は小さく笑みを零す。今はそれだけでよかった。いつか別れの時が来てもきっと大丈夫。そんな風に考えながら二人は互いへサムズアップを送り合うのだった。

 

 

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「……ユーノ君、今、何て……」

 

「なのはが好きだ。異性として、女性として。もっと分かり易く言うなら……愛してる」

 

 あの後ユーノから話があると言われ、こうして別室で話をしていたなのはだったが、突然の事に頭が真っ白になっていた。ユーノは回りくどい言葉は使わず、最初から想いをぶつけたために。

 最初なのはは好きと言われた時、何で今更と思った。そう、自分もユーノが好きだと知っているはずなのにと。だが、それに続いてユーノが言った『世界中の誰よりも』の言葉に声を失ったのだ。

 

 そんな中、何とか搾り出したなのはの問いかけへユーノは駄目押しの言葉を返した。愛している。これが意味する事をなのはとて理解している。そして、それを理解した瞬間、なのはの視界がぼやけ出す。

 ユーノはそんな反応を見て拒絶かと慌てるが、なのははそうじゃないと首を横に振って否定した。彼女は言われて気付いたのだ。自分もユーノを異性として好きな事に。

 

「嬉しくなっちゃったの。ユーノ君が、私の事そこまで思ってくれてるんだって」

 

「なのは……」

 

「それで、ね。一つお願いがあるんだけど……」

 

「何?」

 

 なのはのどこか躊躇うような、そして恥らうような表情にユーノは不思議そうな表情を返す。それになのはは、やや緊張した面持ちで告げた。もう一度、最初の言葉を言って欲しいと。それを聞いて、自分の答えを言いたいから。そうはっきり言ったのだ。

 ユーノはそんななのはの言葉に顔を真っ赤にして頷いた。正直に言えば、一大決心の末告げた言葉をもう一度と言われた瞬間、口から無理と出かかったのだ。しかし、ここでそれをしなければ掴みかけたものが逃げてしまうと、そう実感してユーノは大きく深呼吸。それを見てなのはは小さく苦笑。

 

「……僕は、なのはの事を愛してる。世界中の、ううん次元世界の誰よりも……」

 

「ユーノ君……」

 

 最初と込めた想いは同じでありながら、内容を更に深くして告げられた言葉。飾り気ない純粋な気持ちがそこにはあった。なのはの先程止まったはずの涙がまた流れ出す。だが、ユーノはもう慌てない。静かに、優しく、それを見つめてなのはの答えを待ったのだ。

 

「……私も、ユーノ君の事が好き。この気持ちに気付かせてくれて……ありがとう」

 

「なのは……」

 

 ゆっくりと近付くユーノ。それになのはは少し驚くも、すぐに何かに気付きじっとした。互いの呼吸を感じる距離。ゆっくりと回されるユーノの腕。それを感じて、なのはもユーノへ腕を回す。

 そして、互いの視線を絡ませて笑みを見せ合う。それはこの現状がどこかおかしいと感じてのもの。自分達らしくないが、どこか自分達らしい空気感。それを感じて二人は苦笑した。

 

「こんなに近くでユーノ君の顔見るの、初めてかも」

 

「僕もだよ」

 

「ううっ……何かドキドキするね」

 

「同感。このまま心臓が破裂するって言われても、今の僕は信じるよ」

 

「にゃはは。それ、困るなぁ」

 

「うん。僕も嫌だ」

 

 そして、ユーノが回した腕に力を込めた。それを感じてなのはも目を閉じた。ゆっくりと近付いていく二人の顔。そして、互いの唇が重なりそうになった瞬間、ユーノの眼鏡がなのはに当たり音を立てる。

 そのせいで何となくだが失敗したような感じを受け、ユーノとなのはは揃って苦笑い。だが、ユーノがなのはから腕を放そうとした瞬間、彼女の腕が離れまいと余計抱きしめた。

 

「なのは?」

 

「眼鏡……取って」

 

「……取ったよ」

 

「言葉だけじゃなくて、今のももう一度……」

 

「えっと、今のって?」

 

「う〜、女の子に全部言わせるつもっ?!」

 

 なのはの言葉を遮るようにユーノの口がそれを塞ぐ。それに驚いて目を見開くなのはだったが、嬉しそうに目をゆっくりと閉じていく。その裏で、パーティーは終わりを迎えようとしていた。

 

 

 同時刻、ベルカ自治区にある聖王教会。そこの一角にあるカリムの自室。そこでカリムは、自身のレアスキル”プロフェーティン・シュリフテン”から導き出された予言を書き記した物を見つめていた。

 

「焼け墜ちる法の船。死者の列。闇の覚醒。冥府を司りし者。甦る王。そして……悪しき世を創ろうとする眼」

 

 その単語が意味する事を改めて考え、カリムは大きくため息を吐く。彼女は機動六課後見人の一人でもある。その背景には、この予言が大きく関わっていた。管理局体制の瓦解。それを予言は暗示していたのだ。

 しかし、この予言を陸は信じる事をせず、海と空もそこまで関心を見せなかった。だが、何かあってはいけないとグレアムやリンディ、更に伝説の三提督と呼ばれる存在の力添えを受け、出来た部隊。それが機動六課なのだ。

 

「でも、どうしてはやてはこの予言を聞いてあそこまで強気でいられるのかしら?」

 

 そう、はやてはこの予言を聞いてから一度として不安を見せた事はないのだ。それは、予言の最後にある一文が原因。

 

―――闇に汚れた仮面で哀しみを隠す戦士。太陽と進化の輝き合わさりし時、龍騎士の咆哮が聖なる泉を呼び戻す。

 

 クウガとRXに告げられた邪眼復活の報。それに含まれた警告を聞き、内心不安を抱く二人。

 それを知らず、結ばれる絆がある。それを知らず、抱く悲しみがある。幾多の想いが、事態の始まりを告げる。そしてもたされし予言。それが意味する物とは?

 

 

-5ページ-

 何度目か分からないトイの襲撃を退け、チンク達と龍騎達は合流するやそこから全員で脱出を開始した。道中会話はない。先頭をトーレなどの戦闘特化陣が務め、最後尾は龍騎が引き受ける形で出来るだけ素早く進む一同。

 その間もトイの襲撃は途切れる事なく行なわれたが、全員揃ったナンバーズの前には多少強度が上がっただけのトイは敵ではなかった。そして、やっと出口に近付いた時、その場所に何者かが立っていた。

 

 その人物を見てトーレが動きを止める。後ろに続くジェイル達も同様に。唯一龍騎だけはその理由が分からず、彼らの間を割るようにしてその前方を見て―――呆然となった。

 

「な、何だって……」

 

「ふむ、貴様が龍騎か」

 

「どうしてジェイルさんが二人いるんだ!?」

 

 そこにいたのはジェイルだった。しかし、頭髪の色が違う。ジェイルが紫に対し、目の前の相手は漆黒。だが、その外見はそれさえ除けばジェイルそのものだった。

 その謎の相手は龍騎達を一通り眺め、頷いた。手駒には丁度良いと。それを聞いた瞬間、龍騎は嫌な予感を覚えて身構える。それと同時にウーノが叫んだ。

 

「ドクターっ!」

 

「どうしたんだい!?」

 

「囲まれてる、な……」

 

「……これ、クア姉のISだよ」

 

 周囲に出現するトイ達。その光景を見て苦い顔になるチンク。そして、どこか呆然とした表情でセインが呟いた内容にクアットロが嫌そうな表情を見せた。トイが何もない空間から現れたのを見た誰もが理解したのだ。それがシルバーカーテンによるものだと。

 先程まではトイ達が使ってこなかった特殊能力。だとすれば、それを行ったのは目の前の相手しかいない。そう思い、ジェイルは問いかけた。君は一体何者だと。それに謎の相手は無表情で答えた。

 

―――創世王。

 

 その言葉をキッカケに動き出すトイ達。当然トーレ達が迎撃する。だが数が多く周囲を囲むようにしているためにトーレ達も苦戦を強いられた。龍騎はそれを援護したいのだが、創世王と名乗った相手から感じる威圧感から不安を抱きそれが出来ないでいた。

 しかも、逃げようにも出口を相手が塞いでいるので脱出も不可能。トイは次々と補充がかけられ、囲みを突破する事も難しい。そんなまさに絶体絶命の状況に龍騎はある決意をする。

 

「ジェイルさん、後どれぐらいで爆発するかな」

 

「……後五分弱だよ」

 

「五分……分かった。じゃ、俺がアイツをどかすからその間に逃げて」

 

 龍騎のその言葉に全員が視線を向けた。トイを牽制、或いは倒しながらナンバーズは龍騎を見つめる。その視線を背に受けながら創世王を名乗る相手へ向かっていく龍騎。だが、それを見た相手はその体を瞬時に変化させる。

 不気味な一つ目の巨体。邪眼完全体と呼ばれる姿へ。その不気味さに嫌悪感を抱いて息を呑む一同だが、それでも龍騎は戦った。手にしたドラグセイバーを振りかざし力強く斬りつける。すると、それを止めもせずに邪眼は受けたのだ。

 

「え……?」

 

 誰かの信じられないとの気持ちを込めた呟きが響く。その視線の先でドラグセイバーが邪眼の肩で完全に止まっていたのだ。傷をつける事さえ出来ずに。それに龍騎は驚愕するしかない。そこへ邪眼が電撃を至近距離で放った。

 それを喰らい、吹き飛ばされる龍騎。更に邪眼は追い打ちをかけ、龍騎の体へ容赦なく電撃が流れる。飛び散る火花と上がる龍騎の呻き声。それが意味するのは龍騎の苦戦、その光景を見て全員に戦慄が走る。

 

 今まで誰よりも強い存在であった龍騎。それを簡単にあしらい、苦しめる存在がいる事に。だが、苦しみながらも龍騎は何とか体勢を整えて立ち上がる。今、この悪夢を壊せるのは自分しかいないと思って。邪眼はそんな龍騎へ嘲笑うように告げた。

 

「貴様では我は倒せん。いや、今のように傷をつける事さえ叶わぬ」

 

「……やってみなきゃ、分からないだろ」

 

 その挑戦的な言葉に龍騎は一枚のカードを手に取った。それは翼の絵が描かれた物。そして、そのカードを龍騎がかざした瞬間、周囲を炎が包み込む。そのカードこそ、ジェイル達が見たがっていた”サバイブ?烈火?”である。

 次の瞬間、ドラグバイザーが炎によって変化を起こし銃のような姿のドラグバイザーツバイとなった。それを見て龍騎は手にしたカードをドラグバイザーツバイへ差し込んだ。

 

”SURVIVE”

 

 普段とは違うくぐもった音声が響くと同時に龍騎の体が変わっていく。その体を包む鎧は、銀から真紅へ。まるで周囲の炎を吸収するかのように変化を起こす。燃え盛る炎に照らし出され、龍騎サバイブは敢然と邪眼を睨みつけた。

 

「これが……サバイブ……」

 

 ジェイルはその姿に見とれ、心から喜びに打ち震えていた。望んで止まなかった龍騎の隠された力。まさしく全てを焼き尽くす炎の化身。その風貌に、その威容に、その力強さにジェイルだけでなく、ナンバーズ達も目を奪われていた。

 邪眼さえ、その状況に身動き一つしない。自身がデータで知る龍騎。それにはそんな姿は無かったからだ。自身が密かに見ていた中にもそれはない。未知なる姿、未知なる力。それに邪眼は恐れを抱いていた。

 

(奴も……クウガ共と同じか?!)

 

 自身を追い詰めた存在であるクウガとアギト。それらが自分を追い詰めるキッカケとしたフォームチェンジ。その一種と感じ、邪眼は微かにだが恐怖を抱いたのだ。そんな恐怖とは対照的に、揃って希望を感じているのがナンバーズ達だ。

 龍騎から感じる力。その姿。それら全てが先程まであった不安を、絶望を焼き尽くす。希望と言う名の紅い龍騎士がそこにいた。烈火を身に纏い、悲しみを切り裂く戦士が。

 

「何? この安心感は?」

 

「決まってるでしょ? 真司君は仮面ライダーだからよ」

 

「炎が……真司へ宿ったのか……?」

 

「綺麗……」

 

「……見せてもらうぞ、真司。その力を!」

 

「すごい……凄いよ! 真司兄!」

 

「兄上なら……きっと」

 

「兄様、信じています」

 

「これがサバイブ……兄貴の奥の手」

 

「勝てる……絶対勝てるよ!」

 

「ディエチの言う通りッス! あたしらもにぃにぃに負けてらんないッスよ!」

 

「お兄様、こちらは私達に任せてください!」

 

 炎を越えて襲い来るトイ達を迎撃しながら、十二人の視線が、想いが龍騎へ注がれる。周囲の炎が消えた瞬間、龍騎は静かにファイナルベントを取り出した。それを見てジェイルが我に返る。

 龍騎が自分に言った事を思い出したからだ。逃げ道を切り開く。そのために龍騎は奥の手を出したのだ。だからナンバーズへ向かって叫んだ。

 

「みんな、一度でいい! この囲みを突破するんだ! そして、真司が確保してくれる出口から脱出する!」

 

「「「「「「「「「「「「了解っ!」」」」」」」」」」」」

 

 その頼もしい声を聞きながら龍騎は手にしたベントカードをドラグバイザーツバイへ挿入した。

 

”FINAL VENT”

 

 それに呼応して現れる烈火龍ドラグランザー。ドラグレッダーが強化された姿だ。以前にも増して強靭に、力強くなったその姿に邪眼は警戒するように身構える。なまじ情報がある分、それが覆ったために不安や恐怖が生まれるのだ。

 

 ファイナルベントの効果でドラグランザーの姿がバイクへ変形し、龍騎はそれに乗り込んだ。目指すは邪眼が塞ぐ出口。そこへ向かってウィリーしながら走り出すドラグランザー。その口の部分から恐ろしい温度の火球を邪眼目掛けて連続発射しながら加速していく。

 

 ドラゴンファイヤーストームと呼ばれるサバイブ後の龍騎最強の切り札だ。その威力を前にして邪眼は立ち向かおうとするが、龍騎はそれを吹き飛ばす勢いのまま突撃を敢行した。

 それと正面衝突する邪眼。その突進を体で止められた事で邪眼は勝利を確信した。だが、龍騎はそれさえ予想していたのかその手に一枚のベントカードを持っていたのだ。

 

”SWORD VENT”

 

「っしゃあっ!!」

 

「な、なんだとぉぉぉっ!!」

 

 掴んでいた手にドラグブレードへ変化したドラグバイザーツバイが傷を付けた。カタール状のその刃を片手に直撃させられ、若干だがドラグランザーを抑えていた力が弱まる。その瞬間、好機を逃さず再び加速するドラグランザー。そして、そのまま邪眼を押し出すように外へ運んでいく。

 龍騎は完全に外へ出た所で再度邪眼の手を狙ってドラグブレードをもう一度振るうと更にドラグバイザーツバイで射撃を行う。そのダメージに耐え切れなくなったのか邪眼が堪らずその手を放した。当然その体はドラグランザーによって弾き飛ばされる。

 

 遠くへ飛ばされた邪眼を見た龍騎はドラグランザーを停止させるとすぐにストレンジベントを取り出す。それは、状況に応じてランダムに姿を変える特殊なカード。

 

「これで……とどめだ!」

 

”STRANGE VENT”

 

 一度挿入されたストレンジベントは読み込まれると違うカードへ変化を起こし、再度読み込まれて効果を発揮する。そして、この状況で変化するのはただ一つ。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 再びウィリー状態で動き出すドラグランザー。そう、変化したのはファイナルベント。ドラゴンファイヤーストームの連続使用という、まさに絶対勝利の布陣。邪眼が体勢を立て直す間すら与えず、そのまま龍騎はその邪悪な姿を踏み潰す。

 断末魔さえ上げる事が出来ずに爆発する邪眼。それと同時にジェイル達もそこに合流した。残り時間は三分を切った。そのため、龍騎達はそのまま急いでラボから距離を取る事になり、必死で走り去る。

 

 こうしてジェイル達はベルカ自治区の夜の闇へと消えて行った。それを見つめている者達がいると知らずに。

 

 ジェイルラボ内研究室。そこにあるモニターに表示されているタイマー。それが残り一分を切った所で停止する。そう、ジェイルしか停止出来ないはずの物を解除した者がいたのだ。それは、黒い髪のジェイル。龍騎が倒したはずの邪眼だった。

 

「一つ散った、か。まぁいい。おかげで龍騎のデータは得た」

 

 そう呟き、邪眼はコンソールを操作する。次々と表示されていくデータ。それは、トイの改良案とナンバーズのデータであった。そこに加えて表示されるPROJECT.F.A.T.Eの文字とマリアージュのデータ。

 更に邪眼が操作して表示させたのはジェイルが当初企てていた管理局転覆計画の予定。それを見て邪眼は笑う。心底嬉しそうに、楽しそうに、そして嘲笑うかのように。

 

―――我が代わりにやってやろうではないか。貴様達が考えた玩具を使って、この遊戯をな。

 

 そう呟く邪眼の後ろには、同じように笑う存在が十人いるのだった。

 

 

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StS編一話目。平和なクウガ達と違い、クライマックスな龍騎。そしてついにお目見えのサバイブ。龍騎が戦ったのは完全体とはいえ、たった一人で邪眼を撃破するのはサバイブだからこそ。

 

次回は機動六課始動の日をお届け。龍騎達は、この直後からスタート。

説明
機動六課始動へ向けて動くなのは達。スバルとティアナが参加を決めたその夜、遂に五代達も闇が目覚めた事を知る。
一方、真司達はラボからの脱出を図るがそこで復活した邪眼と戦う事になり危機に陥るのだった。
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