恋姫異聞録151 ― 過去・現在・そして未来の為に ―
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「服を風呂場で?皆が使うんじゃないのか?あそこって」

 

「あ!もしかして、洗い場って札が立っていた所って」

 

何度か利用して印象に残っていたのか、蒲公英が公衆浴場にあった浴場の隣にある施設の事を言えば

秋蘭はそのとおりだと頷き、丁度、昼時だし人も少ないだろうからゆっくり風呂に浸かるとしようと銭湯へと足を向け

二人は義姉と一緒なら、何度か行った銭湯も違う楽しみが有りそうだと期待に胸を膨らませ、案内する公衆浴場へ向かい秋蘭の後を追った

 

公衆浴場に着くと、秋蘭は直ぐに隣にある施設に向かう。衣類や布団などを専門に洗う洗濯屋に向かい

店から浴場で着る浴衣を受け取り、涼風を着替えさせていた。どうやら、あらゆる布製品を風呂の残り湯や

汲み変えた、まだ綺麗な湯を使って洗浄する施設らしく、店からは湯気が立ち上っていた

 

「へぇ、こんな場所だったんだ」

 

「お風呂の残り湯って、衛生面とかは大丈夫なの?」

 

「そうだな、一応使う者は体を洗ってから湯船に入るし、洗浄した衣類は最後に綺麗な熱湯で洗い流す事が決まりとなっている

華佗にも話を聞き、週一回は診療所の者が鑑査することになっているから大丈夫だ」

 

説明を聞いた蒲公英は、関心したように頷き、翠はそれじゃあ行こうかと涼風を抱き上げて公衆浴場へと、暖簾をくぐり入っていった

蒲公英は、自分もと秋蘭の手を掴んで「いこ、義姉様」と公衆浴場に入り、秋蘭は少しだけ驚いたが、直ぐに顔を笑に変え頷いていた

 

新城の中央に建てられた公衆浴場は、外壁に城壁のように石が積まれて頑強に創り上げられており、中に入れば夏侯邸の玄関のように

下足箱があり、箱にはそれぞれ木の札で鍵か掛けられるようになっている。そこから、目の前の受付に鍵を預ける

名前が既にこの公衆浴場に登録してあれば、直ぐに腕に付ける番号札が手渡され、後は軽食などが取れる大広間の奥にある

風呂場に行って好きなだけ入浴が出来る仕組みになっている。一言で言えば、現代の大浴場のようなものだ

 

「広いよなー、初めて来た時は、宿舎か何かと思ったよ」

 

「そうだね、こんな場所でお風呂だなんて言っても誰も信じないよ」

 

何度か来ているのだろうが、それでもその広さと大きさに驚き、辺りをキョロキョロと見回していた

そんな二人に秋蘭は、受付から貸し出された大小の手ぬぐいを差し出し、着いて来いと女湯へ入っていく

 

二人は、秋蘭の後に続いて脱衣所で服を脱いで大浴場へ入れば、木製の内装に木製の浴槽。辺りには木の良い匂いが立ち込める

天井は吹き抜けになっており、天気が良い日は廂が掛けられ、木漏れ日のような陽の光が差し込み、雨の日は完全に締められるように

なっている。目の前には様々な浴槽が並び、温度がそれぞれに違い、自分の好きな浴槽へのんびり浸かるといった具合になっていて

その日は薬湯の日だったらしく、湯船が鮮やかな翠に染まっていた

 

「わーっ!凄い良い匂い!ねえお姉様、蒲公英達が来た時は、普通のお風呂だったよね」

 

「ああ、凄いな、今日は何かあるのか?」

 

「いや、週に一度だけ薬湯の日がる。今日がたまたまそうだったと言うだけだ」

 

そういって、まずは湯船に入る前に、体を洗おうと自分の膝に涼風を座らせ手招きする秋蘭

二人は、素直に並ぶように座り、体を洗おうとした所で秋蘭は、拍子木のような物をカチカチとならす

すると、浴場の外から小さな女の子が服を着たまま、袖や足をまくって入ってくる

 

「え?な、なんだ?何が始まるんだ?」

 

「背中を流してくれるだけだ、この子たちは此処で働いているのだよ」

 

「此処で?働く??」

 

入ってきた女の子は、秋蘭の手首の番号を札に書きとめ、「背洗いは三名さまですねー」と頭をさげて

浴場から一度出ていくと、二人の少女を連れて翠や蒲公英の後ろに並び、背中を洗い始めた

 

「ちょ、ちょっとまってくれよ。あたしは自分で洗うから良いって」

 

「蒲公英も、ちょっと恥ずかしいかな」

 

恥ずかしがる二人に、秋蘭は口に手を当てて微笑み、涼風の背中を洗い始めた

 

「そう邪険にするな、その子達は立派に働いて給料をもらっているのだ。それぞれに目的を持ってな」

 

「へ?働いてるって、この子達が?」

 

「ああ、そうだ」

 

秋蘭が言うには、この魏では小さな子どもですら目的を持って働いているとのこと。それぞれに、少しでも家にお金を入れたい者や

自分の読む本を買いたい者、友達どうしで茶店へ行ったり、服を買いたい者、小さいながらも国に貢献したいという者

皆、自分の目的をもって誇りを持って働き、給料をもらっている。それも、この風呂場だけのことでは無いらしい

先ほど行った料理店でも、小さい子が出来る仕事は任され、キチンとした給料が支払われているらしい

 

「あっ!もしかして、採譜が二つあるのって」

 

「そうだ、この子達が働き、私達と同じように食事に行ったり出来る。服を買ったり出来る。料理店などは量が少ない理由として

旅人むけと子供向けという意味がある。子供たちも立派な民だ、国に貢献し就労する事は尊いことだろう」

 

「じゃあ、この子達はお金を稼いで勉強したりもするってこと?」

 

「勿論だ。それに、早いうちから仕事内容を知っていれば、成長した時、直ぐにその職に就く事もできる」

 

この子達も既に自分の人生と戦っているのだと言う秋蘭の話を聞き、二人は一生懸命に小さな手で背中を流す子供たちに視線を移す

子供たちは、それぞれに笑顔で、きっと解らないながらも自分達の仕事に誇りを持ち、働いて給金をもらう事に大きい意味を

見出していることだろう。稼いだ金の重さ、それを僅かながらに買い物をして国に税として還元する。そういったことを少しずつ

学びながら

 

「魏という国は厳しい。だが、みな努力すれば報われる事を知っている。だから、小さな子供達でも皆、笑顔で就労する」

 

「蜀とはまるっきり逆だ、蜀は子供たちは親の手伝いなんかはするけど、皆勉学を習う」

 

「それも悪いとは言わない。だが、勉学が必ず役に立つとは限らない。華琳様は、皆に合った職につけるようにしたいようだ

才能を伸ばし、無駄を省き、幼少期から秀でた才能だけを純粋に伸ばせるようにな」

 

小さい時から多くの事を体験させれば、自ずと自分が好きで自分に興味があるものに惹かれ執着する

ならば、それ以外の無用な勉学などはいらない。必要とあれば、自ら進んでその知識を得ようとするのだから

その時、初めて大人達が多くの知識からよりすぐった物を、吟味した物を与えれば良いのだと

 

「そのうち、学校という施設も創るようだ。もう、構想は出来ているようだがな」

 

「がっこう?なんだいそれ?」

 

「学び舎の事だ、子供たちを集めて様々な体験をさせてやる。そこには、多種多様な師が居て

自分の求める知識が手に入れられるらしい」

 

現代の学校とは毛色の違う学校。どちらかと言えば、専門学校に近いだろう。まずは、子供たちに大きく全ての師から学ばせ

自分の好きな学問や、興味のある学問を見つけた者から専属の師へと着けさせる。勿論、途中で自分に合わないと思えば

直ぐに違う師の元に着くことも可能であるとう、翠にはいまいちピンと来ないものがあったが、蒲公英は空いた口がふさがらない

と言ったところだろうか、そんな事が出来るのか?いや、そもそも子供でも就労出来るこの環境は第一歩、必ず実現させるはずだと

ゴクリと喉を鳴らし、蜀との正反対の行政に言葉を無くしていた

 

「・・・そういえば思い出したんだけど、がっこうていうので義兄様と曹操が殴り合いしてたな」

 

「なんだと、どういう事だ?」

 

「良くわからないけど、昨日、蒲公英と市を歩いてたら宮の目の前にでて、戻ろうかと思ったら近くの東屋から凄い音がしてさ」

 

何事かと、門を覗いた時に地面に転がる昭を見て、駆けつけようと思ったが華琳の姿を見て門に隠れたらしい

華琳は、凄い剣幕で心配する将や兵達を下がらせ、この事は他言するなと怒鳴り、立ち上がる昭に猛然と拳を振るい

昭はそれをまともに喰らいながら、思い切り殴り返していたらしい

 

「どっちも仁王立ちでさ、一歩も下がらないで避けもしないで殴りあってて」

 

「避けもしないで?」

 

「蒲公英も見たよ、凄かった〜。あんな殴り合い見たこと無いよ。普通は、殴られたら眼を瞑ったりするのに

二人共、眼なんか開けたままでずっと殴りあってるんだもん」

 

翠が言うには、二人は「男後宮なんざ知るかっ!」「劉協様に必要なのよっ!」と良くわからない事を叫びながら殴りあい

「この分からず屋っ!」と華琳の拳が昭の腹にめり込み、倒れた所に馬乗りになって

 

「学校を創るのは構わんっ!だがなんで俺が講師にならなきゃならんのだっ!!」

 

「わかったわ、房中術は教えないっ!此れでいいでしょうっ!!」

 

「それなら桂花が居るだろうっ!後宮学校なんか知るかっ!」

 

「男嫌いの桂花に出来ると思うっ!?これは協様直々の指名よっ!聞き分けろ、馬鹿っ!!」

 

と罵倒しあっていた

 

そう、喧嘩の原因とは後宮学校。この外史の世界では女性が皇帝になることが主であり、王や猛将達も女性が多い

その為、女帝武則天のように男後宮が作られていた。それも、きちんと武則天の時のように後宮学校が作られ

正しい礼儀作法や、正しい教えを学び、相応しい男として育て上げられる。そもそも、この後宮学校を創る事になったのは

閨に置かれ、宦官達が皇帝の閨の時間を計る水時計を受け取った時に、華琳が劉協と約束したことであり

昭にとっては、知ったことでは無いし、教える事は好きだが房中術を教えるなど、昭にはとても耐えられない事だった

 

「約束したのは華琳だろうっ!自分で何とかしろよっ!」

 

「貴方の力が必要なのっ!貴方じゃなきゃ駄目なのっ!これは私の望みでもあるのよっ!!」

 

「・・・」

 

「いい、分かったわね。これ以上は譲歩出来無いわ」

 

「・・・・・・分かった、その代わり約束だぞ」

 

最後は、昭の胸ぐらを掴んで引き寄せていた華琳が、口を切ったのだろうか昭の顔にポタポタと血を落としながら

良い返事が返って来たことに喜んでにっこり微笑み、乱暴に手を放すとスタスタと宮に行ってしまったらしい

 

「義兄様が心配だったんだけど、直ぐに近くの兵士が抱えて行っちゃってさ、元気そうだし大丈夫かなって」

 

背を流し終わり、お湯を掛けられた翠は、子供たちに礼を言って湯船に浸かり空を見上げながら思い出す

そういえば、義兄も笑っていたなと

 

あんなに酷い殴りあいだったのに、楽しそうで、なんか少し羨ましい気がした等と考えていれば

秋蘭が何処か安心したかのように、翠の隣で涼風と共に湯船に浸かり同じように空を見上げた

 

「心配じゃないのか?曹操とお義兄様が喧嘩してるのに」

 

「ああ、大したことはない。華琳様と本気で喧嘩が出来るのは昭だけだし、華琳様は笑って居たのだろう?」

 

懐かしむように眼を細める秋蘭に、翠と蒲公英は華琳と昭が不思議に思えたのだろう。ついこの間は、一方的に華琳が

昭に叱られ子供のように泣いていたのに、今度は一歩も引かない殴り合いの喧嘩だ。気になった蒲公英は、秋蘭の隣で

湯船に浸かりながら、それとなく二人の関係を聞いて見ることにした

 

「ねえ、秋蘭お義姉様。お義兄様と曹操の関係って一体どんな関係なの?兄妹みたいでもあるし、親子みたいでもあるし

仲の良い友人みたいでもあるし」

 

蒲公英の問に、秋蘭は涼風の肩が湯に浸かるように少し躯を傾けて、涼風の髪を優しくかき上げながら

「・・・全部だ」と呟いた

 

「全部?」

 

「そう、華琳様は不器用なお方でな、甘え方が良く解らないご様子。だから、態と昭にはあのように叱られたり

殴りあいになったり、時には素直に甘えてみるがどうもしっくりこないようだ」

 

「もしかして昔からあんな感じなの?」

 

手を隙間なくあわせて水鉄砲を飛ばす涼風を見ながら秋蘭は頷き、ポツポツと昔を懐かしむように話し始めた

 

「まだ、私と姉者が華琳様と出会って直ぐの頃だ、その頃にはもう昭は華琳様の隣に居た」

 

 

 

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私たち姉妹は、自分達の力に驕り自分達の前には敵など誰も居ないと思っていた。それを打ち砕いたのが華琳様

元は同じ夏侯家の出身で、曹騰様のお引き合わせで巡りあったのだが、我ら姉妹は華琳様に対して自分達の方が上だと

無礼な考えを持っていた。そんな考えは直ぐに華琳様に切り伏せられた。姉者は剣で負け、私は弓と知で敵わぬと思い知らされた

心から華琳様の強さと高貴な心、そして何者にも勝る美しさに感服し、我らは直ぐに華琳様のモノとなった

 

「何一つ勝てなかった。それほどあの方は強く気高く美しい」

 

知れば知るほど心惹かれ、眼が離せなくなっていく。自分の心があの方に支配される事に喜びを感じるようになっていた

それと同時に、常に傍に居る唯一の男、昭が気に入らなくなってきてな。いつしか目の敵にするようになっていた

姉者は何かあれば昭に剣を向けて命を狙い、私は意地が悪い事に小さな嫌がらせをしていた

といっても、必要以外は口を聞かない無視に近いものだが

 

【しねーっ!】

 

【剣を振り回すなっ!見てないで助けてくれよっ秋蘭!】

 

【・・・】

 

知り合い、我ら姉妹と昭の仲があまり良くないが、何時も四人で居る事が多くなってきた

そんな時、近くで賊が出没したという情報が、華琳様に従う者達から入ってきた。その頃には、もう華琳様は数名の従者を従え

近くの荒くれ者を統率していた。自分の力と知力に絶対の自信を持っていらっしゃた華琳様は、曹騰様達や警備の者の手を煩わせる

事もない、我らで討ち取り賊を皆の前に晒してみせようとな

 

「従者って・・・なんか、小さい頃から凄い人なんだね」

 

「そうだ。あの頃は華琳様に傷を付けた者など誰もいなかったし、出来なかった。我らには、華琳様こそが天の御遣いに見えていた」

 

族は、付近の山に現れる事が解った。我らは幼いながらも武器を揃え、敵の情報を正確につかみ、華琳様は必勝の策を練った

誰もが我らの勝利を確信し、後は夜を待ち実行に移すのみだったのだが

 

「だが?」

 

「実行に移すことは出来なかった」

 

誰もが華琳様に従い、否定的な意見など誰も発しない。華琳様の言葉は全てが正しいのだと盲信し、闇夜を進軍していた時

道の真ん中で一人、華琳様を見据えて両手を広げて昭が道を塞いでいた

 

【行くな、殺されるぞ】

 

【きさま、かりんさまのみちをふさぐきか!こんどこそころしてやる】

 

【よいどきょうだ、私の弓でくるしまぬよう、いっしゅんでおくってやろう】

 

剣を構え、矢を引き絞る私達二人を前にして、昭は一歩も引かないどころか私達など見もせずに、華琳様の眼をずっと見据えていた

私たちは、無視され気にも掛けられないことに怒りが湧いてな、貴様などに言葉を交わした自分達が馬鹿だったと、攻撃をしようと

した時、華琳様が我らに退がれと命令を出した

 

【なぜですか?あ奴は、かりんさまの道をじゃまして】

 

【良いから退がりなさい。私の言葉が聞けないのかしら?】

 

少しだけ、強い口調で命を下す華琳様に、我らは何も言えず渋々武器を納め、後ろに下がった所で我らの耳に何かを叩く

鈍い音が響いた。其れが何か気がつき振り向いた時には、華琳様と昭が一歩も引かずに互いを殴り合っていた

 

【何度も邪魔をしてっ!それほど私の策と兵が信用出来ないのかっ!】

 

【ああ、出来ないねっ!てめぇは仲間が死んだらどう責任取るつもりだっ!!】

 

力も無い、実戦の経験もない、想像だけで立てた策でどう勝つつもりだ?大人と子供の力の差を侮るな、お前は万能なんかじゃない

と殴りつづける昭に、華琳様も負けじと今までそこら辺の荒くれ者たちをねじ伏せてきた、自分の策は完璧だ、お前に何が分かる

確かに近くで見てきただろうが、力が無いお前に何も語る資格は無い、兵が死ぬのは戦の常だ、覚悟の無いものは此処に居ないと

何度も殴り返していた

 

我らはその壮絶な光景を見て華琳様を助けるなど出来ず、ただ驚きと信じられない光景に眼を奪われていた

今まで誰も、誰にも傷つけられる事が無かった華琳様が、あんなに弱い男に、しかも姉者の剣や私の矢から泣き言をいって

逃げまわり、最後には華琳様に助けられていた臆病者が、華琳様と対等に殴り合い華琳様は血を流しているのだから

 

「驚いたなんてものじゃない、まるで空から魚が降ってきたような衝撃だ」

 

「だよねー。今まで逃げまわって、喧嘩なんか見たこと無いお義兄がいきなりなんて」

 

「・・・」

 

それは自分でも驚く、無理もないと想像して痛そうに顔を顰める蒲公英だが、翠は真剣な眼差しで秋蘭を見ていた

視線に気がついた秋蘭は、どうした?なにかあるのかと首を傾げれば、翠は自分の考えを呟く

 

「曹操には力が無いのか」

 

「気がついたか、そのとおりだ。流石だな、魏でも知っているのは私と昭のみだ」

 

「えっ!?どういう事?お姉様っ!」

 

翠が気がついた事とは、話からすればおそらく本気で殴り合っているのだろう、だが力の無い義兄は曹操と互角に殴り合っている

どう考えても可怪しい、確かに義兄の耐久力は並では無いのかもしれない。だが、そうだとしても一般の兵より優れているようには

見えない。翠から言わせれば、義兄の耐久力とは慣れだ。痛みや、苦痛に慣れ、心力が大きいからこそ容易に耐えるこ事が出来て居るだけ

 

「父様と互角に斬り合っていたんだ、おそらく体術は氣を手足に巡らせている。武器にあんな使いにくい大鎌を使っているのは

回転力と重さで叩き斬る為だ。巧く使えば、一撃で敵を武器、鎧を一刀の元、両断出来る」

 

「それも水のなせる技か?洞察力が鋭いな、迂闊に余計な事は喋れんよ」

 

「えっ!?えっ!!ええ〜っ!!!」

 

気になって確認で聞いただけだ、この話は蜀に持ち帰るつもりはない。義兄様と約束したんだ、話を続けてくれと

驚き、曹操の弱点を見つけられたかもしれない、此処で深く聞かなければと口を開こうとする蒲公英に

翠は涼風の真似をして、水鉄砲を顔に喰らわせて口に人差し指を当てる。これは、他言無用だと

 

「それで、その喧嘩はどうなったんだよ?」

 

「ふふっ、その後か」

 

暫く殴りあって、お互い顔は青痣だらけで口から血を流して、最後は華琳様の拳が昭の腹に入り、昭は崩れ落ちた

倒れた昭を見て、一度天を仰ぐように見上げて呼吸を整えた華琳様は、皆を連れて賊の元へ行こうとしたのだが

昭が這いずりながら、華琳様の足を掴んでな

 

【兄妹が死ぬとこなんか、見たくな・・・ぃ】

 

そう言って、気絶した所で華琳様は後ろに振り返り「帰るわよ」と仰って、夜道を戻られた

我らは、二人の殴り合いに少々面食らってはいたが、華琳様の帰るとのお言葉で何時もの調子を取り戻し

姉者は、これ以上華琳様のお手を煩わせるな、此処で首を切り落として殺してやると、剣を振り上げたのだが

 

【彼に手を出したら殺すわよ】

 

と、初めて華琳様がお怒りになる所を見て、姉者は泣きだしてしまった。私も、華琳様がお怒りになる所を初めて見て

萎縮し怯えて声も出せず、皆も同じだったようで暫く身動きが取れなかったが、華琳様はお一人で自宅へ戻られてしまっていた

 

「やっぱり負けたんだね、幾ら力が無いっていってもお義兄が勝てるわけ無いよ」

 

「ああ、だがその時から華琳様と殴り合いのできる昭に、皆は少しずつだが一目置くようになった」

 

「そりゃそうだ、だれも手出しの出来無い王に、唯一刃向かって生きてるんだからな」

 

「それでも、特に親しいと言うわけでは無かったが、見方が変わっていたよ」

 

義兄の過去に興味深く話を聞いていた翠は、湯を手で掬って高く上げると、流れ落ち陽の光で照らされ光り輝く雫を眺めながら

幼い義兄の姿に思いを馳せる。小さい頃から、今とあまり変わらない、どうしようもない程、心が強い人なのかと

 

「それで、喧嘩の後ってどうやって仲直りするんだ?曹操が義兄様に謝る姿って、あまり想像つかないんだよな」

 

「あ!蒲公英も!この間、お義兄様に叱られてたって聞いたけど、それも信じられないもん」

 

「私が知っているのは、一つだけだ。もしかしたら、知り合う前はもっと違う感じだったのかもしれない」

 

我らと屋敷に戻られた華琳様は、暫く何かを考えるように椅子に座って足を組んで居らっしゃった

仲間達は、今日は攻めこまないのだと理解し、一人、また一人と華琳様に断りを入れて屋敷から出ていった

最後に残ったのは私達姉妹のみで、我らも今の華琳様の元に長居しても思案の邪魔になるかも知れないと

失礼させて頂こうかと思った時だ、急に華琳様は立ち上がり、厨房へ行って料理を始めたのだ

 

姉者と私は、訳もわからずただ流れるように料理を作り上げていく華琳様のお手前に見とれていた

次々に作りあげられる料理、粥から始まり点心に煮魚、我らの住む地、特有の辛味を効かせた麻婆豆腐など

華琳様の作る料理から、自分で食すのではなく誰かに出すものだとそこで気がついた。何故なら、華琳様は、あまり辛いものを

好まれない。一体、こんな夜更けに誰に作っているのかと思っていた時だ、丁度料理が全て仕上がるに合わせ

隣の部屋から物音がしてた。誰か、この屋敷に帰ってきたのだろうかと思えば、華琳様は料理を隣の部屋に運び始めた

 

【お帰り】

 

【ただいま】

 

華琳様にお手伝いしますと、料理を手に後を着いて行けば、部屋の寝台に躯を横たえる昭がいた

仰向けで、自分の口から流れる血を手ぬぐいで拭きながら、大の字で寝台に寝そべる昭に華琳様は、何も言わず食事を並べて

私と姉者は、意味が解らず同じように食事を並べて居れば

 

【食べて、作ったの】

 

【口のなかズタズタだ、食えない】

 

【私も食べるから】

 

【・・・分かった】

 

そう言って、昭は寝台からフラフラと起き上がり、椅子に着くとレンゲを持ち、華琳様は、【お茶、食べる前に飲んで】と

薬湯を差し出し、昭は素直に口の中の血を洗い流すように、痛みで顔を顰めながら味わうように飲み込んでいた

同じように、顔を顰めて薬湯を飲み、黙々と二人は食事を取っていた。私たちは二人は、なんとも奇妙な感覚を覚えながら

二人の食事を見ていたよ。そして、同時に理解した。これが二人の仲直りの形なのだろうと

 

「そして、昭以外だれも、華琳様の友人になれる者は居ないのだと思い知った」

 

謝罪など無い、だが素直に口に出来ない心を昭は理解している。それが、薬湯と薬膳。良く見れば、打ち身などに効く

雲南百薬を使った薬湯から始まる料理は、どれも昭の躯を気遣った物ばかり。其れを黙々と食し、途中で辛味のある麻婆豆腐は

華琳様が本気で心配してくれた昭を殴ったご自分に対する罰のように、口の中を切っているにも関わらず少々涙目になりながら食していた

 

【美味しい?】

 

【美味い】

 

【そう、良かった】

 

味を聞いて、今まで無表情だった華琳様のお顔に笑が戻った。これが華琳様と昭の謝罪と仲直りなのだと解ったのは

随分と後になってからだ。子供の私達には理解が出来なかったが、あの時は華琳様のお顔に笑が戻った事で一杯だったよ

そんな私達に、華琳様は【貴女達も食べなさい、せっかく用意したのだから】とお言葉を掛けてくださって、大喜びして

食事を掻きこむ姉者に呆れつつ、私もご相伴にあずかった。

 

「それからだな、昭と私達姉妹の関係が変わっていったのも。とにかく、華琳様のお側に居る者として嫉妬と尊敬が入り混じった

感情を抱いたが、最初に姉者が昭の優しさと自分を馬鹿にしない大きなふところに、次第に懐いていっていた」

 

「秋蘭お義姉様も?」

 

「私は、少々違うが、まあそれはそのうち話してやろう。そろそろ上がらねばのぼせてしまう」

 

「そうだな、今日の薬湯のせいか、肌もツルツルだ。これ以上いたら、怖くて歩くこともできなくなるよ」

 

冗談を言う翠に蒲公英は珍しいと少々驚いていたいが、秋蘭は柔らかく微笑み頷いて浴場から出て、着替えを済ませて

使用した手ぬぐいを専用の返却場へ返して、四人は流水で冷やされた牛乳を飲んでいた。勿論、風呂からあがった蒲公英が

一番に売店へ行き、お気に入りのメロンの果汁を絞り、牛乳で割った清涼飲料水を一気飲みし、後から着た三人と同時に

二杯目を口にしていた

 

「そういえば、さっきの話の賊はどうなったんだ義姉様?」

 

「賊か、賊は討伐された。派遣された兵が大打撃を受けた後、二軍と三軍が送られてな」

 

その後、賊は並の武将などではなく、将兵崩れと烏丸族の混合で編成されていたらしく訓練された兵でも

捕まえるのに随分と被害を受けたらしい。我らが行っていたら、華琳様と姉者、私は生き残ったかもしれぬが

仲間は全滅していただろう

 

「そうじゃなくても、普通の賊相手でも多少は被害うけただろう。子どもと大人じゃ差が大きすぎる」

 

「普通でも多少で捕らえられるんだから、その時から頭角ってやつを既に表してたんだな」

 

「王になる人って、やっぱり何処か人と違う秀でた部分があるよね」

 

牛乳を飲みながら同意する翠に、蒲公英は「お姉様もだよ!」と言い、自分はそんな事はない。知識に秀でた事など無いし

有るのは父から授かった武だけだと答えれば、蒲公英は得意げに腕を組みながら

 

「鉄心叔父様から聞いた事あるもん、蒲公英よりずっと小さい時に、一人で槍を持って三十人近い賊を全て切り伏せたって」

 

「へ?あ、あたしはそんな事してないぞっ!!」

 

「覚えてないの?叔父様の話だと、可愛がってた馬を奪われて、殺されて、誰も近寄れないくらいに怒ったお姉様は、叔父様の

銀閃を持ち出して、一人で大立ち回りをして見せたって聞いたよ?」

 

あわや全員を突き殺す寸前で、叔父様が槍を弾き飛ばして、疲れて気絶したお姉様を抱えて帰ったと言えば

翠は朧気に覚えていたのだろうか「あ・・・あぁ、そういえば」と、眉根を寄せて記憶を呼び覚まし

秋蘭は、少々眼を見開いていた。察するに、華琳様と近い年齢で既に天武の才の片鱗を見せてい居たのだ

幼年で、自分よりも一回りも二回りも大きい存在を相手をねじ伏せる程の力を有していた事に、背筋が凍るような

感覚を覚え、其れだからこそ昭の水ですら容易く習得したのかと妙な納得をしていた

 

「お前も普通では無かったか、道理であれほどの武を見せるわけだ」

 

「あたしは大したこと無いよ、そんな性格のままで成長すれば簡単に罠に嵌って命なんかいくつあっても足りないよ」

 

「だが、そうならなかった。馬騰殿や韓遂殿、昭との関わりで今の姿があるならそれは誇れる事だ」

 

戦では手合わせしたく無いがなと付け加え、笑って見せる秋蘭に、翠も笑で返して「そうだね、誇りだよ」と残りの牛乳を

飲み干していた。蒲公英も、翠の表情をみて笑い、三杯目の牛乳を店員に頼んだ所で止められ

また義兄様に腹を撫でてもらうつもりか?と言われて渋々伸ばしたてを戻していた

 

「ふーっ、さっぱりしたー!次は何処に行くんだ?」

 

「次は整体だ、湯に浸かって躯が解れた所で、按摩師に香油を使って全身を揉んでもらう」

 

「わ!なにそれっ!蒲公英、整体って言うからゴキゴキ体を鳴らされるのかと思ってたっ!!」

 

按摩師と聞いて、見も知らぬ男に体を触られるのかと、少々嫌な顔をする翠と蒲公英だったが

香油と聞いて、朝の良い香りの香油を思い出したのだろうか、興味津々で話に食いつく蒲公英

 

「鳴らしたりはしないな、女性の按摩師しか居らぬから安心だ、何より美容に良い」

 

「ほんとか?よかった、あたしは遠慮しようかと思ったんだけど、それならやってみようかな」

 

「それが良い、最後に甘味を食して終わりだ。後はゆっくり昭の帰りを待って、一番良い状態で迎える」

 

此処まで来て、ようやく秋蘭が何時も休日にこのような出歩き方をするのか二人は理解した

体と心を休め、体力をつけ、体を美しく保ち、最高の笑顔で昭を迎える為であると

 

同時に涼風と遊びつつ、娘と市でフラつきながら、目いっぱいに遊んで父の帰りを二人で待っているのだろう

 

「平日は、仕事に洗濯、掃除ばかりに追われてしまう、娘と思い切り遊ぶには丁度良いのさ」

 

「家事もこなして、涼風の相手もちゃんとしてて、本当に凄いよ」

 

「大したことはない、翠も娘を持てば出来るようになっている」

 

そんなもんかな、あたしは自信ないよと応える翠に、秋蘭はそんな事は無い、昭の義妹ならば出来るさと微笑み

四人は秋蘭の案内するまま、茶店で天草を使った果物入り牛乳寒天を食し、翠と蒲公英の二人は杏仁豆腐に似てるけど

全然違うと大喜びでおかわりをしていた。聞けば、天草も寒天も昭から聞いた食べ物であり、天の名も着いていることも

相まって、魏では一番人気の甘味らしく、男女の愛の告白や結婚などの勝負時に必ず食べるらしい

 

その後、夏侯邸に帰り、屋敷を隅々まで掃除して昭が帰るまで翠と蒲公英と話をしながら涼風と遊び

夕餉の用意をして昭が帰ってくれば、鏡の前で一度、自分自身を確認して、玄関で出迎えていた

 

[お帰り」

 

「ただ・・・ぃま・・・」

 

「どうした?顔が紅いぞ、熱でもあるのか?

 

「熱は、無いよ・・・その、えっと」

 

紫色の鮮やかな藪蘭を髪に差し、昭から贈られた浴衣で着飾り、腰帯は教わった結び方、マリーゴールドで華を作る

美しい蒼の浴衣と藪蘭の花言葉【隠された心】という、秋蘭の真名に近い華を差した髪が目を奪い、離さない程に釘付けになった

昭は、照れて目のやり場に困ってしまう。秋蘭はそんな様子を見れるだけで十分に満足だったのだろう、嬉しそうに昭の手をとり

居間に導くようにして手を引いて歩く

 

「隠してないだろう」

 

「皆の前では隠しているさ、お前の傍にいる時だけは、隠せない。私の隠した心が昭(てらされ)てしまうからな」

 

秋蘭にとっての真名である、昭(明るく照らす、顕れる)を出されれば、昭は頬を指先で掻いて

綺麗だよ、愛しているよと少し、小さな声で秋蘭に愛の言葉を囁く。すると、居間にいるはずの翠と蒲公英が

いつの間にか廊下の影で様子を伺っており、翠は言葉を無くして顔を赤くし、蒲公英は興味津々に見ていたが

昭と目があい、直ぐに翠を引っ張って居間の奥へと消えていった

 

「・・・仕方がないな」

 

「私は何でも良い、昭が褒めてくれただけで今日は良い日だ」

 

「恥ずかしいが、こういう日があっても良いか」

 

腕にしがみつくように体を寄せて抱きつく秋蘭。昭は、髪に差した藪蘭の香りに誘われるように秋蘭を抱きしめて

居間から飛びだして、父に飛びつく涼風を抱き上げる

 

「今日はお風呂に行ったの!おねえちゃんたちと、ごはんもたべたの!それでね、それでねっ!!」

 

「楽しかったか?」

 

「うんっ!明日は、お父さんと一緒だから涼風うれしいの!」

 

父と同じ輝くような笑顔で今日の出来事を一生懸命話す娘と、昭を見ながら幸せを噛み締め

早く戦が終わることを願い、秋蘭は食事を用意した居間へと二人を導く

出来る事なら、義妹達とも共に幸せに暮らせる日々を夢見て

 

 

 

-3ページ-

 

 

 

日が落ち、辺りを暗闇が支配する時、全ての人々が寝静まった深夜。月明かりが照らす練兵所に二人の影

 

昭が纏うのは、普段着の漆黒の長袍。公務をしている時に羽織る真蒼の外套ではなく、昔を思い出させる闇に溶けこむような長袍に

凪は緊張が走った。それは、動きやすく、昭の得意な隠密行動に適した服装であるから

真剣に、自分の思いに応えてくれているのだと感じるからだ

 

「始めるか、今日からこの時間は全て凪の為に使う」

 

「はいっ!よろしくお願いしますっ!!」

 

「目隠しをしろ、折れた腕はまだ完治していないだろう?片腕だけで、鍛錬を行う」

 

柔らかな声の後に、大きく小気味よい声が響き、戸惑うこと無く、差し出された手ぬぐいを巻いて視界を塞ぎ

二人は構えを取ると腕の手首より下を合わせて前後に押し合う

 

腕が絡みあうように交差され、始まって僅かで凪の顔が苦痛に歪み、対照的に昭の表情は余裕がある

 

何度も何度も押し合い、時には引きながら凪は腕の交差の速度を上げていくが、直ぐに昭に圧倒されてしまい

躯を流され最後は息を荒げて地面にへたり込んでしまう

 

「はあっ、はあっ、まだまだっ!」

 

「いや、次は舞を教える。秋蘭から授かる脚技の基礎になるはずだ。俺の手を取れ、足の動きを感じろ」

 

自分に合わせろと言う昭に、凪は直ぐに立ち上がって手を取り、何度も何度もゆっくり、凪にも理解出来るように

泥の中で足を動かすかのようにゆっくりと動かしていく。だが、それも目隠しを外さずに、凪は躯で昭の動きを感じ取る

 

「良いか、お前の目指すモノは俺が会得したモノそのものだ。注意深く、全身で感じ取れ」

 

「はいっ!」

 

真夜中の舞は続く、全ては勝利を掴むために。ただひたすらに、己の信じるものを真っ直ぐに見据えて

 

 

 

「なあ真桜、豪天砲っちゅうのウチにも作ってくれへん?」

 

「なんで急に、何処で聞いたん?豪天砲のことなんて」

 

深夜、自分の工房で作業する真桜の元に現れたのはホロ酔い加減の霞。どうやら詠から豪天砲の事を聞いたらしく

威力と広範囲に撒き散らす氣の波動、利用すれば短距離の高速移動まで可能にする武器に興味が湧いたらしく

自分にも作って欲しいと頼み込みに来たようだ。出来るなら、戦に使い敵を一度に蹴散らそうと思ったらしい

 

「無理や、あれは謹製品。同じものはできんひんですよ」

 

「なんで?一度作ったんなら、同じものは簡単に出来るんと違うんか?」

 

不思議そうに問う霞に真桜は首を振り、豪天砲の設計図を出して説明を始める

そもそも、凝縮した氣に耐えられるほどの薬莢を作ることだけで恐ろしいほど時間がかかる

薬莢も特殊な金属でできており、氣を吸い取り内部に蓄える性質を持つ希少金属で、これを加工するだけでも

薄氷の上を歩くような神経を使う作業であるということ、作り上げとしても、薬莢に一定方向からの衝撃を加えられた

時にだけ、その反対方向に凝縮された氣を方向性をもたせて放出できるようにしなければならないことなど

とにかく、これ一つを作り上げるだけで相当な時間を要する事を説明するが、霞は途中で頭から煙を出していた

 

「量産なんかもってのほかです、そうでなかったら謹製品なんて言わへんですよ」

 

「なんやー残念やな・・・っと何作ってるん?柄かこれは?」

 

「そうです。螺旋槍は壊されてもうたから、新しいウチの武器を作るつもりですよ」

 

「へー・・・何やこれっ!ホンマにこんなん出来るんか!?さっき豪天砲は無理やって言ったやんか!!」

 

作業台に広げられた設計図と、隣の注釈をみて驚く霞。真桜はニヤリを笑を作り、小さな希少金属を作業台に転がす

これこそ、御使の髪を使った神剣と使用者の躯を考えた雷咆弓を創り上げた経験が生み出した、自分だけの武器

新たな螺旋槍だと、再び作業にとりかかる。戦までに必ず完成させて見せると

 

「なんや、凪も真桜も急にどうしたん?眼の色が変わったな」

 

「隊長が新たな道を示してくれたおかげですよ。ウチらなーんの心配も要らんで歩いて行けるから、脇目なんか振らんし

余計な事に時間取られることもない。隊長はウチらの道に必ず手を貸してくれる。一つの事に集中できるからホンマ、最高ですわ」

 

「新たな道か、そういえば沙和も診療所におってなんかやっとったわ。こら戦が楽しみやな」

 

 

 

診療所では、沙和が華佗の残した書物を読みあさり、頭の中で纏め、庭にでて凪のように馬歩の構えをとって

両手で何かを優しく包み、抱き上げるような形を取る。呼吸はゆっくりと、自分の躯の中を探るように、取り込んだ空気が

体内の何処に巡るかを確かめるように、吸い込んでは吐き出していく

 

「まずは氷なのー」

 

馬歩のまま、両腕で氷の固まりを抱えるイメージを創りだす。固く、何処までも冷たく、両腕か凍るような氷塊

周りで見ていた華佗の弟子達は、次第に沙和の吐き出す息が白くなり、両手が冷たさで赤くなっていく事に驚いていた

 

「次は火なのー。さっきは失敗しちゃったけど、今度は・・・」

 

同じように、氷塊から火炎玉にイメージを切り替える。真逆の属性に、冷たさから熱さに切り替えていく

先程は、イメージの差に上手く想像することが出来ず、呼吸を乱してしまい、その場に倒れてしまったが

今度は慎重に、少しずつ炎のゆらぎを、熱さを、燃え盛る炎の熱風を創りだしていく

 

「おお!汗が!!」

 

ユラユラと燃え盛る炎を抱きかかえるイメージを正確に創りだした沙和は、額から汗を滲ませ

まるで本当に火炎を抱きしめているかのように、手は小さな火傷の痕を創りだしていく

 

「・・・仕上げなのー」

 

最後に瞼をゆっくり開けて、両手を擦り合わせ背筋を伸ばし、両腕を伸ばして掌を前へ

腹から溜め込んだモノを吐き出すように、気合を入れれば背筋に走る黄金の気脈が弟子たちの肉眼でも確認出来るほど

川の激流のように上り、沙和の体内を駆け巡る

 

「内氣功の完成ですっ!お見事っ!!」

 

「此れで終わりじゃないのー。内氣功を呼び水に、外氣を取り込んでみせるのー」

 

「が、外氣ですとっ!?おやめ下さいっ、外氣は自然の氣!無限にして強大、師ですら扱えぬ氣で御座いますぞっ!!」

 

「使いこなして見せる。絶対に、諦めないのーっ!戦で氣を使いすぎて躯が動かなくなるなんて絶対嫌なのーっ!!」

 

仲間の治療が出来ず、足手まといになる事など絶対に嫌だ、隊長の躯を治すのは当たり前、だけどそれで終わりじゃ無い

自分に道を示してくれた隊長の思いに応えなければ、自分が外氣功を習得し、仲間に伝えて救える者を増やす

それが、自分に課せられた使命だと、沙和は更に掌をゆっくり回し、まるで空からこぼれ落ちる雨を受け取るように

両手を掲げ、大地と大気から氣を己へと導いていく

 

「絶対に沙和達は諦めないのーっ!!」

 

夜空に叫ぶ声は、凪と真桜にも聞こえたのか解らない

 

だが二人は空を見上げ、戦に向かい己を磨きあげていく

 

この先の未来の為に、昭の示した道を歩んでいくために

 

説明
ごめんなさい遅くなりました><

月曜日に上げるとかいって、結局一週間たってしまいました
どうも風邪を引いてしまって、進みませんでした

夏だというのに、ここ三日間、気温が低すぎて毛布に包まって寝てます
本当に夏なのか?もう七月後半だぞ?

皆様はどうお過ごしですか?気温が高い所では本当に夏といった感じで
暑いらしいのですが、気温の変化に体を壊さぬようお気をつけ下さい

何時も読んでくださる皆様、コメントくださる皆様
応援メッセージをくださるみなさま、本当に有難うございます
これからもよろしくお願いいたします
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コメント
お風呂で語られた四人の過去話に、昭と華琳の関係は変わらずにいて、だから今の魏があるのだと実感しました。 三羽烏が次の戦でどのように成長した成果を見せるのか、楽しみにしています。(Ocean)
前、中では昭たちの幸せななってほしい日常の話で心があったかくなり、後では、三羽鳥の頑張りで心を熱くさせるそんなお話でした・・・さすがとしか言えません。特に真桜の武器がどのように進化するかが一番気になります(鎖紅十字)
昭と華琳の小さいころの話もみてみたいですね。 三羽烏はもっと高くとべますね!(siasia)
昭と華琳の仲直りの仕方はとてもいいですね。三羽烏もそれぞれに進化を始めているようで。続きを楽しみにしていますね。(summon)
大将が一騎打ちしなければならなくなった時点で、負けと言えるから大した問題でもない(からあげ)
魏の三羽烏はどうやら火烏(カウ)に化けそうですね♪ その活躍を楽しみにしています^^(アーバックス)
続きが気になって仕方がない・・・あと、体調には気を付けて無理はしないでくださいね。(破滅の焦土)
1+1+1=3じゃなくて6にも9にもなる三羽烏いいなぁ。そして知られてしまった華琳の弱点どうなるのか決戦の行方。(shirou)
言葉を交わさないで通じ合えるって本当に貴重だよね(patishin)
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