インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#49
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空の教職復帰の翌日、一夏は不可解な事態に遭遇していた。

 

「―――」ビクビクオドオド。

 

どこか怯えている様子の箒。

隣、二組の教室では鈴も同様に怯えている。

 

そしてそのほかの一年生ほぼ全員が妙な熱気に包まれている。

 

そう、それは学園祭を前にハイになった集団のような………

 

ただ、何と言うべきだろうか。

 

一夏にとっては悪い予感しかしなかった。

 

たとえば……そう、『一年生((総粛清|ぜんめつ))フラグが成立』したかのような………

 

そうなったらどうやって粛清対象からハズしてもらうか、一夏は考える。

(とりあえず、空に訓練を見てもらって『関わって無いアリバイ』作るか。)

 

そして、事件はこの数日ほど後………週末を目前に控えたその日に起こった。

 

 * * *

[side:箒]

 

あの日以来、私と鈴は『一夏の勉強を一緒に見る』という題目で一夏や空と行動を共にするようになっていた。

 

これには、シャルロット達が空を着せ替え人形にして楽しもうというバカげた計画に現をぬかしている間に一夏との仲を盤石にしてしまおうという打算と、あの集団から身を守る為という実利も含まれている。

 

それに、あの連中の企みが成功しようとしまいと、どちらにしろ大粛清からは逃れられないだろう。

それなら『私は関わっていない』という証拠の為にもこうやっていた方がいい。

 

それに、その時間勉強しなくてはならないのは私も同じだからな。

 

専用機持ちの中で全てにおいて最も劣っているのが私だ。

機体性能だけは一番高いらしいが、私が使いこなせねば意味がない。

 

そんなこんなで私は空に勉強を教わり、代わりに必要な時に手を貸すようにしていた。

 

そして今日も、私たちへの指導を終えて職員室へと戻る空に付き添い一夏に車椅子を任せて階段を降りようとしていた。

 

「…やはり、誰かに手を借りるかエレベーターを使うべきではないのか?」

 

「できる事はやっとかないとね。あとでクセになるから。」

 

なんでも、義足は損傷こそ軽いものの神経接続系にノイズが混ざっていて少し動きにくいらしい。

 

それが長時間移動になればなるほど動かなくなり易くなる為に車椅子を使っているのだが、空は階段だけは自力で歩こうとしていた。

 

空の言い分によると『不調も動かせば少しは改善する』だとか。

 

 

「さて、と。」

 

空が階段の一段を降り、次の段に足を降ろす…その時だった。

 

 

「あ!居たッ!」

 

「確保ッ!」

 

「ついでの篠ノ之、鳳コンビも確保ッ!」

 

いきなり吶喊してくる十五名ほどの女子。

 

「あ、馬鹿っ!」

 

私は思わず叫んでいた。

 

一人が空の腕を掴み、それは丁度空が段を降りて重心を戻すところであった為に―――

 

「あ―――――」

 

不自由の足を体全体でバランスを取って階段を下りていた空は、見事に足を踏み外した。

 

ついでに、腕を掴んだ女子も巻き添えを食って半分ほどある踊り場まで一緒に落ちる。

 

「きゃぁっ!」

「うぐっ――」

 

どたん、と盛大な音。

「!」

 

 

「あいたたたた……」

 

掴んで巻き添えを食った女子はなんとか起き上る。

 

だが、庇ったのか下敷きになっていた空はぐったりとした様子だった。

 

「空っ!」

 

私と鈴は人だかりをかき分けて、一夏も車椅子を投げ出して空の元に駆け寄る。

 

「おい、空!しっかりしろ!」

 

「頭を打ってるかもしれないから動かしちゃダメよ。誰か、先生呼んでッ!」

 

「判った!」

 

その場は鈴と一夏に任せ私は職員室へと走る。

 

 

 

「篠ノ之、廊下は走るな。」

 

「織斑先生!いいところに!」

ちょうど職員室の側まで来た時、千冬さんにでくわした。

 

「どうした?」

 

不思議そうな顔になる千冬さん。

 

「空が、千凪先生が階段から落ちました。頭を打ったのか、ぐったりしてます。今は、一夏と鈴がついてます。」

 

「わかった。案内しろ。」

 

「はいッ!」

 

急いで戻り、私と一夏で空を保健室に運ぶ。

 

外傷こそないものの、それ故に余計に心配が募るばかりであった。

 

 

 * * *

 

保健室に空を運びこんだ私たちは職員室そばの一室に集められ、事情聴取を受けていた。

 

と言っても、私と一夏と鈴は『勉強を見てもらった後、職員室まで付き添いをする約束になっていて一緒に居た』としか言いようがない。

 

向こうは『確保』とか叫んでいたという証言が私たちから出たために大分萎縮させられているが…

 

と、その時、

 

『トゥルルルルル―――ガチャ』

 

「はい、生徒指導室……ああ、下屋先生。それで――――――」

 

どうやら保健室からの内線らしい。

 

「―――――――――では…」

 

ガチャ、と受話器が戻され千冬さんはこちらに厳しい視線を向けてきた。

 

「千凪が、とりあえず目覚めたらしい。……が、少しばかり混乱が見られるようだ。この事は内密にしておけ。見舞いが来ても混乱させるだけだからな。」

 

では、行くぞ。と千冬さんは立ち上がり私たちもそれに倣う。

 

行く先は数室先の保健室。

 

そこで待っていたのは、予想外の展開だった。

 

 

 

「失礼します。」

 

そのままずかずかと入っていた千冬さんに続き、私たちも入る。

 

そこでは保健室の養護教諭の下屋先生とベッドに寝かされ、今は起きている空が居た。

 

「丁度いいから、あそこに居る先頭四人の名前をフルネームで言ってみて。」

 

と、下屋先生が私たちの方を指差した。

 

先頭四人というと…千冬さんと私と一夏と鈴か。

 

確かに、クラスメイト時代から一番付き合いがあったのが私たちだが………

 

「ええと……織斑千春さんと織斑 ((一秋|かずあき))くん。」

 

季節がずれてる!?

 

「で、篠ノ之はたきさんと、((鳳 鈴音|おおとり りんね))さん。」

 

なんか似てるけど違うぞ!?

私は箒だ。………確かに、『はたき』も『ほうき』も文字数と最後の一文字はあってるが………

 

そして鈴が日本語読みでホラー映画化してるな。

 

「………それじゃあ、六月に一組に転校してきた生徒の名前は?出身地も。」

 

「えっと、フランスのシャーロット・デュノアさんと、ドイツのラウ・ラ・ボーデヴィッヒさん?」

 

何処ぞの名探偵みたいだな、シャルロット。

 

「……なんかラウラが絶望して世界を滅ぼしそうになってるぞ。」

 

一夏も思わず呟いていた様子。

 

こりゃ駄目だ、と言わんばかりに額に手を当てる下屋先生だったが…

 

「冗談です。」

 

にこり、と柔らかな笑みを浮かべる空。

 

「そちらに居るのが一組担任の織斑千冬さん、その隣が織斑先生の弟の一夏くん。篠ノ之箒さんに((鳳 鈴音|ファン リンイン))さん。転校生はフランスのシャルロット・デュノアさんとドイツのラウラ・ボーデヴィッヒさん。ですよね?」

 

むむむ………

 

「なぁ、箒。」

 

「……なんだ。」

 

「空って、あんな茶目っ気のある姿見せた事無いよな。」

 

一夏が『信じられない』と言わんばかりに言ってきた。

 

…確かに。

 

「そうだな。どちらかと言えばしっかり者で冗談の度が過ぎた物をたしなめる側だ。」

 

そう、どちらかと言えば母親か長姉ポジションだ。

あんな『お茶目な悪戯っ子』なハズがない。

 

「判ったわ。それじゃあ少し休んでいて。」

 

下屋先生が私たちに『外に出ろ』と身ぶりで伝えてきた。

 

それに従い、私たちは保健室の前の廊下に出る。

 

「…見てもらった通り、記憶には問題無いのだけど…ちょっとばかりね。」

 

「頭を強く打ったから、でしょうか。」

 

「まあ、考えられなくもないわね。当座は様子見が妥当かしらね。」

 

「では、その方針で…お前らもいいな?」

 

「はい。」

 

うぅむ、まさかこんな事になるだなんて………

 

だが、本当に大事になったと気付いたのは翌日の事だった。

説明
#49:火遊びは計画的に
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