インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#50
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[side:箒]

 

「はぁ………まさかこんな事になるとはな……」

 

「全くだ。」

 

私と一夏は寮の食堂で茶を飲みながら今日何度目かも判らない溜め息をついていた。

 

原因は、空の豹変。

 

今まではダークブルーのスーツをきっちりと着て、『織斑千冬弐号』とか『IS学園最強にして最凶 その弐』、『明鏡止水への最短ルート』『仙人養成の((専門家|スペシャリスト))』と呼ばれ恐れられてきた。

 

そんな空が可愛らしいエプロンドレスに((機械的|メカニカル))なウサミミという服装をしていたのだ。

――まるでうちの姉のように。

 

まあ、姉さんとは違って年齢的にも無理はまだないし似合ってて可愛らしいのは認めるが…

 

朝のホームルームでその格好を初めて見た時は思わず『その格好は…?』と尋ねてしまったくらいだ。

 

ちなみに答えは『シャルロットと簪が『是非に』と頼み込んできたので仕方なく』であるらしい。

その話を聞いた途端に先日『嬉々として空を着せ替え人形にすると言っていた連中』の事が頭をよぎった。

 

簪を首魁としてシャルロット、ラウラ、セシリアその他…私と鈴以外の一年生ほぼ全員が参加するその団体が表だって動きだしたのだろう…と。

 

…あの連中としては今の、疑う事無く『生徒を信じる優しいだけの先生』状態な空は都合がいいのだろう。

 

まあ、元に戻ったら粛清の大鎌が振るわれる事になるだろうが。

 

「あら、織斑くん、篠ノ之さん。」

 

「ん? 千凪先せ――――――」

 

空の声に振り向いて、絶句した。

 

 

そこに居たのは―――裾の短い着物姿、まるで座敷童のような格好の空が居た。

 

一瞬、完全に頭が真っ白になり、それから思った事は唯一つ。

 

『あいつら、またやったのか。』

 

「えっと……自分でも似合わないとは思ってたんだけど、そんなに変?」

 

私たちが絶句したのが『変だから』と思ったらしい空がそう言ってきた。

 

―――むしろ似合いすぎて怖いのだが……

 

「お、俺は似合ってると思うぞ。可愛いし――い゛ッ!」

 

ちょっと慌てた様子で言う一夏に、ちょっとムカっと来たので思い切り足を踵で踏み抜いた私はきっと悪くない。

 

「あらあら。」

 

クスクスと笑う空。

その様子は『微笑ましい』と言わんばかりだ。

 

「そういえばデュノアさんたちからお願いされてた事があったわね。」

 

「お願い、ですか?」

 

「そう。篠ノ之さんと鳳さんを見かけたら『部屋』まで連れて来てくれって。」

 

…この瞬間、物凄く嫌な予感がした。

 

「わ、私はこの後用事が…」

 

「もしかして、織斑くんとデートかな?」

 

「ち、ちが―――」

 

咄嗟に否定しようとしてしまって、ふと思う。

 

これは『その通りだ』と言う方向に持っていって一夏と外出してしまえばいいのではないだろうか。

外出申請は『今この場に居る教職員』つまり空に頼めばいい。

 

………一夏とででで…でーと、できるし、な。

 

ならば、行動あるのみッ!

 

「――ちが、わないです…。だから外出許可をお願「あ、居た!」す………」

 

私の決死の覚悟で―でも恥ずかしさゆえにかなり小さくなってしまった呟きは空の背後から聞こえてきた声にあっさりと押し流されていた。

 

そこに居たのは、簪。

まずいぞ………

 

「箒も居たの。」

 

「あ、ああ。」

 

「じゃ、織斑くん。箒、借りてくね。」

 

「…へ?」

 

「空くん、行こ。」

 

「…はいはい。でも無理強いは駄目よ。」

 

「判ってるって。」

 

「ちょ、待―――――」

 

全く何もさせてもらえず私は簪に捕縛されて連行される事になってしまった。

 

 * * *

[side:   ]

 

「では、次は………セシリア作、英国風メイド!」

 

一年寮のとある場所でSD協会の面々が用意した衣装をかわるがわるに着せてはお披露目撮影しては着替えを繰り返して、ファッションショー状態なイベントを行っていた。

 

 

一緒に連行された箒は黒い、フリフリフワフワなワンピースとドレスの中間みたいな格好にされた上で天井からつるされていた。

なお、制服は没収中である。

 

なお、鈴も同様にオレンジのに着せ替えられているがこちらは何故かネコ耳付きである。

 

 

吊るされた二人の前に((題名|タイトル))通りに英国風のメイド服に身を包んだ空が出てきた。

 

ややぎこちないのは恥じらいからだろうか………と、思いきや。

 

(………この状況、なんかおかしくないかな。)

 

なんて、空が自分の置かれている状況に違和感を感じ始めていたからである。

 

先日、頭を打ってズレた歯車が本来の位置に戻りつつあると言えば判り易いだろうか。

 

 

そして、―――

 

ピシッ

「あ。」

 

元々、『長時間負荷をかけると完全に壊れる危険性のある状態の義足』だったのだ。

その為の車椅子だったのだが、その事を忘れていたSDの面々は空を歩きまわらせてしまった。

 

ついでに、階段から落ちた時の衝撃もあり、―――――今さっき完全にイってしまった。

 

その結果待っているのは………転倒。

 

余りに突然の事で頭から倒れる空。

 

 

 

『ゴン!』と中々にイイ音が部屋に響いた。

 

 

 

「だ、大丈夫かなぁ………」

「けっこういい音したよね。」

 

「空くん!」

「千凪先生!」

 

簪とシャルロットが倒れた空の元に駆け寄る。

 

 

 

 

―――――それが、最後の死亡フラグ―――イベント開始を告げるフラグであると知らずに。

 

 

「大丈夫?」

「頭打ったみたいだけど………」

 

うつ伏せに倒れていた空を仰向けにした時………

 

がっし

「へ?」

 

二人の頭に、空の手が掛けられた。

 

親指と小指でしっかりとこめかみをホールドするようにして、空は思い切り手を握りしめた。

 

「いたたたたたたたた!!!」

「あがががががががが!!!」

 

突然の悲鳴にその場に居る全員が呆ける。

 

「二人とも、なにやってるのかなぁ?」

 

呆けて、次の空のセリフに顔色が悪くなる。

 

「まったく―――人が記憶の混乱起こしてるのをいい事に遊んでくれちゃって………」

 

ぐっ、と力が入り、止めが刺された。

 

「「ぴぎゃっ!」」

 

くたり、と力を失くした簪とシャルロットの腕。

 

その二人を打ち捨てると空は声を張り上げた

 

 

「全員ッ、その場で正座ぁッ!」

 

『織斑千冬弐号』にして『IS学園最強にして最凶 その弐』。『明鏡止水への最短ルート』にして『仙人養成の((専門家|スペシャリスト))』が戻ってきた瞬間だった。

 

鈴と箒を解放させた後、空はその場で数時間に渡る説教を敢行。

 

多数の生徒+山田先生を足のしびれで撃沈の憂き目に遭わせる事となる。

 

が、

 

「SD協会は……永遠に、……不滅―――」

 

起き上りかけた簪が宣言し、その直後にアイアンクロ―で再度撃沈。

 

説教も一時間の追加となったのは言うまでも無い。

 

 

 

―――この日、空の『最凶伝説』に新たなページが加わる事となったのだが、誰一人として語ろうとする者は居なかった。

 

 * * * * *

[omake]

 

「はぁ………大変な目に遭ったものだ。」

 

箒は解放され返却された制服を抱えて部屋に戻る最中だった。

 

幸い、他の生徒はほぼ全員が現在説教中なので寮内に人気は殆どない。

 

鈴も鈴で別に戻って行ったので箒が出くわす可能性があるのは、一番見てもらいたくて、一番見てもらいたくない人物ただ一人。

 

「お、箒。どうしたんだ、その格好。」

「ひゃぁッ!」

 

そう、織斑一夏その人である。

 

「あああああああ、あの、これは、だな………」

 

「どうしたんだよ、そんなに慌てて。安心しろよ。別に変なところは無いし、俺は似合ってると思うぞ?」

 

「そ、そうか………」

 

予想外に褒められて箒はつい嬉しくなって顔を赤らめる。

 

………たまにはこういう格好をしてみるのもいいかな、なんて思いながら。

 

 

 

「い〜ち〜か〜!」

 

「ん?鈴?」

 

その直後、鈴が現れた。

「って、お前もか。」

 

「どう?似合うでしょ」

 

「そうだな。でも、二人してどうしたんだ?そんな珍しい格好して。」

 

「ああ、空のアレに巻き込まれただけよ。」

 

「ふーん。」

災難だったな、なんて二人の肩をポンポンと叩く一夏。

 

「そういえば、こんなのをのほほんさんから貰ったんだが。」

 

と、一夏が取り出した写真。

「大変だったな。」

 

そこには……

 

「ッ!!」

 

簪が、ラウラに撮らせた鈴と箒の『告げ口』封じのための写真。

 

衣服が乱れ、ロープで拘束されているという、いろんな意味で危ない写真。

「これも連中の仕業か。ホント、大変な目に遭ったな……って、どうした?」

 

「記憶を、」

「喪えッ!」

 

思い切り一夏の頭を強打する二人。

 

呆気なく気絶した一夏をよそに二人はその写真の処分に奔走したのであった。

 

……なお、起きた一夏は『写真の事』だけは忘れていたとか。

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#50:一年生壊滅事件
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