IS学園にもう一人男を追加した 〜 21〜24話
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21話

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

 

一 「これで決める!」

 

零落白夜を発動させた俺はラウラに直進する。

 

ラ 「触れれば一撃でSEを消し去る能力・・・たとえ、教官が使っていた能力とはいえ、当たらなければ意味がない」

一 「だったら、当てればいいことだ」

ラ 「何を世迷言を」

 

もし一人で戦っていたら、俺の攻撃は当たる前にAICで動きを封じられ、すぐにやられていただろう。

 

一 「忘れたのか? 俺たちは二人組みなんだぜ」

ラ 「!?」

 

刹那、シャルルがアサルトライフルでラウラのレールカノンの砲口を爆砕させる。

 

ラ 「くそっ・・・?」

シ 「一夏!」

一 「おう!」

 

雪片弐型を構え、振りかぶる。避けきれないと確信した一撃。だが、刃がラウラに触れる直前、雪片弐型から光が消える。

 

一 「なっ!? ここにきてエネルギー切れかよ!」

ラ 「・・・残念だったな」

 

雪片弐型から視線をラウラに戻すと、ラウラの両腕が俺の懐に入り込むのが見えた。もちろん、プラズラ手刀を出現させて。

 

一 「おわっ!」

ラ 「エネルギー切れを起こすほど消耗している状態では、もう戦えまい。あと一撃入れれば私の勝ちだ!」

 

初撃を避けた俺をワイヤーブレードで追撃してくる。すると、シャルルがアサルトライフルで援護に入るが・・・

 

ラ 「邪魔だっ!」

シ 「うわっ!」

 

ワイヤブレード二本がシャルルを牽制し、二本目のワイヤーブレードが横っ腹に当たり吹っ飛ばされる。俺はシャルルに気を取られ隙が出来てしまい、それをラウラが見逃すはずはなく、プラズマ手刀で地面に叩きつけられてしまった。

 

ラ 「うああああっ!」

 

ラウラが俺を追撃しようとするが、シャルルがタックルで阻止する。

 

シ 「まだ終わってないよ」

 

サブマシンガンを両手に瞬時加速を使い、ラウラとの間合いを詰め、撃ち続ける。

 

ラ 「瞬時加速だとっ! そんなデータはなかったはず!?」

シ 「今初めて使ったからね」

ラ 「この戦いで覚えたというのか・・・だが、私の停止結界の前では無力!」

 

ラウラは右手をかざし、シャルルの動きを止めようとするが、動きが止まったのはラウラの方だった。ラウラの背にシャルルのアサルトライフルの弾丸が命中する。もちろん撃ったのは俺だ。

 

一 「これでAICは使えないだろ」

ラ 「この・・・死に損こないがー!!」

 

ラウラが感情丸出しでこちらに攻撃を仕掛けようとするが、シャルルがその隙を逃すはずはない。

 

シ 「どこを見てるの?」

ラ 「な!?」

 

一気にラウラに近づき、盾の装甲をパージする。その中には六九口径パイルアンカー『灰色(グレー・)の鱗殻(スケール)』が姿を現す。そのパイルアンカーの通称は・・・

 

ラ 「『盾殺(シールド・ピアース)し』だと!?」

シ 「この距離なら外さない!」

 

ズカンッ!っとラウラの腹部に強烈な一撃が叩き込まれ、絶対防御が発動する。だが、その威力を相殺しきれなかったのかラウラの顔が苦しい顔つきになり、フィールドの壁近くまで吹っ飛ばされる。

 

シ 「うおおおぉっ!」

 

ラウラを追撃し、パイルアンカーのリボルバーが回り、再装填する。

 

[ズカンッ! ズカンッ! ズカンッ!]

 

続けざまにパイルアンカーを撃たれ、ラウラの体が大きく傾く。

 

一 「やった!」

 

誰もがラウラを倒したと思っただろう。だが、その瞬間、ラウラに異変が起きた。

 

 

ラウラSIDE

 

 

(負けるのか・・・こんな所で、私が・・・)

 

確かに相手の力量を見誤った。それは私のミス、しかし、それでも

 

(負けられない、負けるわけにはいかない!)

? 「ならば願うか?」

ラ 「!?」

 

突然、私の頭の中に野太い無機質な声が流れ込んできた。

 

? 「汝・・・より強い力を欲するか・・・?」

 

言うまでもない。力があるなら、あの人になれる力があるのなら・・・

 

ラ 「よこせ、力を・・・比類なき最強を、私によこせ!」

 

Damage Level … D.

Mind Condition … Uplift.

Certification … Clear.

 

〈 Valkyrie Trace System 〉…… boot.

 

 

一夏SIDE

 

 

ラ 「ああああああっ!!!」

シ 「な、なに!?」

 

突然、ラウラの絶叫がアリーナ全体に響き渡り、同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電流が放電し、パイルアンカーを打ち込んでいたシャルルが吹き飛ばされた。

 

一 「一体、何が・・・・な!?」

シ 「えっ!?」

 

俺とシャルルが目を疑った。ラウラのISが変形、いや、変形などという生易しいものではない。形を保っていたシュヴァルツェア・レーゲンの装甲がすべてスライムのように溶けだし、そのスライムがラウラを飲み込んでいく。それはまるで、黒い闇がラウラを引きずり込んでいくようだ。そして、ラウラを飲み込んだ"何か"が形をだんだんと成形されていく。その姿は全身装甲のように体全体が黒で覆われているが、輪郭的に顔と肩から肘までは露出しているように見える。

 

千 『非常事態発令! トーナメント全試合中止! 状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む! 来賓、生徒はすぐに避難すること! 繰り返す!』

 

千冬姉が会場全体に避難放送をかける。だが、今の俺にとっては気にするとこじゃない。問題はその黒い"何か"が手に持っている武器だ。

 

一 「あ、あれは・・・『雪片』・・・」

 

見間違うはずがない。千冬姉が使っていた刀。つまり、こいつは千冬姉と武器を使っている。千冬姉の名を汚そうとしてる。そう思うだけで怒りが沸きだってくる。

 

一 「シャルル、こいつは俺がやる」

シ(一 「え、でも、SEがもうないんじゃ「いいから、下がれ!」・・・一夏・・・」

 

シャルルが下がるのを見て、雪片弐型を構える。刹那、黒い奴が俺の懐に飛び込んできて、雪片を振るう。その振りは紛れもなく、俺が最初に習った千冬姉の太刀筋だった。

 

一 「ぐうっ!」

 

雪片弐型が弾かれ、構えていた体制が崩れる。黒い奴が尻餅をついた俺に上段の構えをとる。

 

(まずい・・・!)

 

後退しようと体を動かすのと同時に黒い奴が縦一直線に鋭い斬撃が俺の左腕に直撃する。左腕の装甲が粉々に砕け、白式のSEが底を尽き、強制的に白のガントレットに戻る。斬撃をあびた左腕には血がにじみ出ていた。

 

一 「それがどうしたぁっ!!」

 

だが、そんな怪我は今の俺には関係ない。怒りに身を任せ、握り締めた拳を武器に駆けていく。だが、その行動はシャルルによって止められる。

 

一 「離せよっ、シャルル!」

シ 「ちょ、暴れないで、一夏!」

 

シャルルは俺の背中から動きを抑え、浮遊しながら黒い奴から距離を取ろうとするが、俺が我を忘れて暴れているせいで思うようにスピードが出ず、黒い奴が追い討ちをかけてきた。だが、雪片モドキがシャルルに触れる前に黒い奴が壁の向こう側に吹っ飛ぶ。

 

獅 「デュノア、ISを解除しろ。あいつは武器に反応して攻撃をしかけてきてる」

シ 「え? あ、うん」

 

横から黒い奴に蹴りを入れた獅苑の言葉にシャルルはISを待機状態に戻す。それと同時に獅苑もISを解除して地上に降りた俺たちに近づく。俺はシャルルの拘束から解放され、黒い奴の方に駆け出そうとするが、シャルルが生身で俺を止める。代表候補生なのだろうか、俺より華奢な体なのに俺の体を背中から羽交い絞めしている。

 

一 「邪魔をするんじゃねぇ! 邪魔をするなら、お前もブッ飛ばすぞっ!」

シ 「一夏・・・」

 

シャルルの力がふっと力が抜け、俺は駆けだす。だが、その瞬間、俺の頬に痛みが響き、体が吹っ飛ばされる。獅苑の拳によって・・・

 

一 「いってぇ・・・なにしやがんだ、獅お[グフッ]・・・ん〜〜〜!」

 

地面に倒れていた俺の口元を獅苑の足が踏みつける。抵抗して獅苑の足を掴み退かそうと試みるもののビクともしない。

 

獅 「・・・今のお前じゃ、何も出来ない」

一 「んぅんんんぅ(なんだと)!」

獅 「だから、まずは考えろ。そして行動しろ。それが、今お前に出来ることだ」

 

俺に出来ること・・・その言葉が俺の心に刺さる。獅苑は俺から足を退かし、ISを纏う。

 

獅 「お前の力はなんのためにある?」

一 「え・・・?」

 

獅苑は飛び立つ。黒い奴のもとに・・・

 

(俺の、力・・・?)

 

去り際に言い残した言葉が俺の頭の中をかき乱していく。

 

(俺の力ってなんだ? なんで力を求めたんだ? どうして力を持っているんだ?)

 

だんだんと疑問を膨れ上がっていき、自分が分からなくなる。

 

(・・・白式)

 

右手首につけているガントレットを見る。こいつは俺の相棒で俺の力だ。でも、今は相棒は動かない。俺は完全な無力。

 

(どうすればいいんだっ!? 考えたって余計に分からなくなるだけじゃないかっ!)

 

ガントレットは左手で握り締め、口を固く縛る。

 

シ 「・・・一夏」

 

目を開け、顔を上げるとシャルルが手をこちらに延ばしている。

 

一 「シャルル・・・」

 

酷い事を言った俺に笑顔を向けているシャルルがとても眩しく見える。同時に涙が俺の頬を伝う。

 

一 「・・・ごめん、シャルル。酷い事を言っちまって」

 

これで許してもらえるわけがないと自分でも分かっている。今ごろになって獅苑の言葉を理解した自分が悔しくて仕方がない。

 

シ 「それでいいんだよ」

一 「え・・・?」

シ 「悩んで、苦しんで、泣いていいんだよ。それで人は成長するんだから」

一 「・・・シャルル」

シ 「って、朝霧君ならそう言うんじゃないかな?」

 

泣いていい、か。そういえば、最近泣かないな。まぁ、高校生にもなって泣くことはねぇだろうけど・・・そう思いシャルルの手を借りて立ち上がる。

 

シ 「僕の胸なら貸してあげてもいいよ?」

一 「ばーか、女の胸で泣くなんて男がすることじゃねぇよ」

シ 「そうかな〜?」

一 「そうだ」

 

さっきまでの悩みからも、苦しみからも抜け出したかのように心が軽くなっている。

 

シ 「・・・答えは見つかった?」

一 「いや、まだ分からないけど、今やるべき事は分かった」

 

教師陣と獅苑が黒い奴と戦っている方に目を向け・・・

 

一 「ラウラを助け出して、そしてぶん殴る!」

シ 「それ、最初と変わってないんじゃない?」

一 「いいんだよ。これは俺だけしか出来ない事なんだから」

シ 「思い切った事を言うね。でも、それでこそ一夏って感じだね!」

 

シャルルはそう言うとISを展開し、腰部分からコードのような物を出し、ガントレットに差し込む。

 

シ 「じゃあ、次は行動しないとね・・・リヴァイブのコアバイトスを開放。エネルギーの流失を許可」

 

すると、コード部分とガントレットが光りだして、白式にエネルギーが流れ込んでくる。シャルルは俺に指を指し・・・

 

シ 「やるからには、絶対負けないでね」

一 「当たり前だ。負けたら男が廃るってもんだ」

シ 「じゃあ、もし負けたら明日から女子の制服で通ってね」

一 「うっ・・・い、いいぜ。勝てばいいんだもんな」

 

もう一度、獅苑たちの方を向くとすでに教師陣はSEが尽きて安全なところまで非難している。今も必死になって動きを止めようとしている獅苑を見て思う。

 

(獅苑、俺は行動するぞ。だから、俺の出番、取んなよ)

[エネルギー供給率 5%]

 

 

 

 

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22話

 

 

 

 

獅苑SIDE

 

 

教師陣がリタイヤして今は俺一人で謎の黒いISと戦っている。Bソードを二本使って、相手の攻撃をいなし、隙あらば斬りつける。だが、斬れた部分は粘土の様に跡がつき、すぐに再生する。

 

(これじゃあ、限(きり)がない。 でも、本気で攻撃したら銀髪が・・・)

 

相手は得体の知れない物体だとしても中には銀髪がいるのは間違いない。そのせいで思い切った攻撃が出来ないでいる。だが、それよりも気になることがある。

 

(・・・なんで、そんなにも悲しんでいるんだ。こいつは)

 

黒いISから感じ取れる、悲しみ。それ以外にも、怒りや苦しみも伝わってくる。そんな事を気にしていると、相手の一太刀で俺の体が吹き飛ぶ。

 

(くそっ・・・戦いに集中しなければいけないのに、なんでこんなに、あいつの事が気になるんだ)

 

Bソード二本を逆手に持ち、片方を相手の武器の側面に刺し、もう片方を相手の足を通過させ地面に刺し動きを封じる。そのまま、武器に刺したBソードを引き寄せるように相手に近づき、頭突きをかます。

 

[キュイインッ!]

獅 「え・・・?」

 

視界がいきなり真っ白になり、すぐに黒に変わる。体の感覚はなく、意識だけが別空間に飛ばされた感じがする。だが、暗闇の空間から一筋の光が見え、その光が一気に膨れ上がり、昔の白黒テレビのようなビジョンが映る。その映像には一人の少女が映っている。

 

(あれは・・・銀髪か・・・)

 

銀髪が床からのライトに照らされている姿が映されており、その周りには顔は見えないが、円で囲んだイスに座っている人達が銀髪を見つめている。

 

? 「遺伝子強化試験体C−0037・・・お前の識別記号は『ラウラ・ボーデヴィッヒ』だ」

獅 「!?」

 

遺伝子強化試験体だと・・・それってつまり、体を弄られた人間って事か。ドイツはそんな事をしてたのか!

そう思っていると周りに色々なビジョンが出る。

一つは銃を使って的を射抜く銀髪の姿。

一つは自分より二倍くらいの大男を平然と投げ倒す銀髪の姿。

一つは戦闘機に乗ってトラックを破壊する銀髪の姿。

そして、その中にも一番大きいビジョンが目の前に映し出される。

ナノマシンの移植手術。ISの適合性向上のために行われる処置『ヴォーダン・オージェ』・・・別の言い方をすると疑似ハイパーセンサーとも言う。

 

(こいつは教科書で見たことがある・・・)

 

脳への視覚信号伝達の爆発的な速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナンマシン移植処置の事を指す。あと、この移植手術には危険性がないと聞いているが・・・

またビジョンが変わり、今度はISの試験運転の映像が流れる。銀髪はISに装備されている大砲を的に向かって撃ち続けているが、全部の砲弾が的に当たらず、ただ砂塵が舞う。つまり、銀髪はISと適合せず、出来損ないという事になってしまう事が感じ取れた。

そう思った瞬間、あたり一面が闇に染まる。だが、遠くの方に光が見え、その光の中に一つの人影が写る。

 

(・・・織斑先生?)

 

その人影は織斑先生で銀髪と同じ軍服を着ている。

 

千 「ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。一ヶ月で部隊内最強の地位に立てるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」

 

そして、多量のビジョンが俺の横を通り過ぎていく。そのどれもこれもが銀髪と織斑先生の訓練の様子や、共に笑い合う銀髪と織斑先生が映し出されている。

 

(銀髪にとって、織斑先生がすべてだったのかもな)

 

そう思っていると、目の前に流れてきたビジョンがピタッと止まる。

 

ラ 「どうして教官はそこまで強いのですか? どうすれば強くなれるんですか?」

 

その時、織斑先生が滅多に見せない優しい笑みを浮かべた。

 

千 「私には弟がいる」

ラ 「弟、ですか・・・」

千 「あいつを見ていると、分かる時がある。強さとはどういうものなのか、その先に何があるのかもな」

ラ 「・・・よく分かりません」

千 「今はそれでいいさ。いつか日本に来る事があるなら会ってみるといい・・・だが、一つ忠告しておくぞ。あいつに・・・」

 

織斑先生の声が消える。その逆に銀髪の心の声が聞こえてきた。

 

ラ 「(違う。私の憧れているあなたは、そんな優しい顔をしない。あなたは強く、凛々しく、堂々としているあなたなのに・・・)」

 

周りの背景がどんどん黒に染められていく。

 

ラ 「(だから、許せない。教官にそんな表情をさせる存在を!)」

[ブツッ]

 

テレビの電源が消えるように背景が完全に黒に染まり、なにも見えなくなり、そこで俺は現実に戻される。

 

獅 「うっ!」

 

まるで長い夢を見ていたかのように、目を開く。目の前には黒いIS。その黒いISに俺は殴り飛ばされ、アリーナの壁に叩きつけられる。

 

獅 「くっ・・・あれはいったいなんだったんだ」

 

あの夢のような光景を思い出して頭を悩ましている俺との間合いを詰めた黒いISが刀を振るう。

 

獅 「がはっ!」

 

その攻撃は俺の肩を直撃してさっきまで戦っていた場所にまで、吹っ飛ばされる。

 

獅 「く、くそっ」

 

今の攻撃はかなり効いたらしく、軽い脳震盪を起こす。何とか立ち上がろうとするが、すぐに片膝を落としてしまう。そんな俺の目の前に人影が一つ

 

獅 「・・・答えは見つかったか?」

 

相変わらず、ピッチピチスーツを着ている姿は気持ち悪いが、今はとてもこいつの背中が大きく見える。

 

一 「そんなもん分からねぇよ。ただ、ラウラを助けてブッ飛ばすだけだ」

獅 「・・・まぁ、それも答えか」

 

あとの事は一夏に任せることにして、ISを解除し、その場に座り込む。

 

(見せてくれ。お前の答えを・・・)

 

 

一夏SIDE

 

 

さっきまでこちらに猛スピードで近づいてきたはずの黒い奴は獅苑がISを解除した途端に動きを止め、俺と対峙してるような形になる。俺は右手に意識を集中させ、雪片弐型と右腕の装甲だけが展開される。すると、雪片弐型に反応して雪片モドキを構える。

 

一 「零落白夜、発動!」

 

雪片弐型から本来の二倍の長さでバリアー無効化の力を持った刃が出てくる。だが、その雪片弐型のエネルギー刃の形状が細く鋭いものへと結束していく。その形は日本刀の集約した姿になっている。

 

(ありがとよ、白式・・・)

 

雪片弐型を腰に添え、居合いの構えを取る。相手を見据え、だんだん相手の姿しか映らなくなる。

 

(行くぜ、偽者野朗・・・)

 

黒い奴が雪片モドキを振り下ろす。それは千冬姉と同じ動き。だが、それはただの真似事。

 

[ギンッ]

 

腰から抜き放って横に一閃。雪片モドキを弾き、すぐに雪片弐型を頭上に構え、縦一直線に断つ。

これこそが一閃二断の構え・・・千冬姉に学び、箒の姿を見て覚えた技だ。

 

敵 「ギ、ギ・・・ガ・・・」

 

ジジッと電流が走り、黒い奴の胸元部分がパックリと割れ、そこからラウラが出てくる。一瞬、眼帯の外れたラウラと目が合い、眼帯をつけていた目は美しい金色を放っていた。

 

一 「・・・まぁ、ブッ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 

目が合った時、ラウラの目はひどく弱った子犬のような眼差しをしていた感じがした。助けてほしいと・・・

 

獅 「結局、その答えか・・・ん・・・」

 

獅苑が話しかけてきて、片手をかざす。これがハイタッチの誘いだと直ぐに分かった。

 

[パチンッ!]

 

 

 

 

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23話

 

 

 

 

ラウラSIDE

 

 

千 「一つ忠告しておくぞ。あいつに会う事があれば、心を強く持て。あれは未熟者のくせにどうしてか、女を刺激するのだ。油断していると惚れてしまうぞ」

 

そんな風に言う教官は凄く嬉しそうで、それでいてどこか照れくさそうだった。その仕草が今なら分かる。これはちょっとしたヤキモチなのだと・・・

 

ラ 「教官も惚れているのですか?」

千 「姉が弟に惚れるものか、馬鹿者」

 

ニヤリとした顔で言われても、私の心は落ち着かない。私は思った。教官にこんな顔をさせる男が・・・

 

(羨ましい・・・)

 

そして、その男と出会った。戦って、理解した。強さとはなんなのか。だから、私は男に問う。なぜ、そんなに強いのかを・・・

 

一 『強くねぇよ。俺は強くない』

(なぜだ? お前は強いではないか)

一 『俺なんかより強い奴なんてザラにいるよ。それに俺には越えたい壁があるんだ』

(・・・それは教官か?)

一 『千冬姉もそうだけど、もう一人いるんだ。もしかしたら、千冬姉よりも高い壁かもしれないけど』

(無理だな。お前に教官は超えられない)

一 『そこまではっきり言うなよ・・・でもさ、もし、その壁を越えられたら、やってみたいことがあるんだ』

(やってみたいこと?)

一 『誰かを守ってみたい。自分の全てを使って、誰かのために戦ってみたい』

(それじゃあ、まるで・・・あの人のようだ・・・)

一 『今、思いついたんだけどな・・・だからさ、お前の事も守ってやるよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ』

 

『守ってやるよ』と、言われ、私の心がときめく。

 

(『守ってやるよ』、か・・・そうか。これが・・・そうなのか。こいつの前では私もただの"女"なんだな・・・確かに、これは惚れてしまいそうだ)

 

【保健室】

 

ラ 「う、ぁ・・・」

千 「気がついたか」

 

最初に目に入った光景は見知らぬ天井。横を向くと教官こと織斑先生が声をかけてきてくれた。私はベットから体を起こそうとすると全身に激痛が走る。

 

千 「無理に動かない方が良いぞ。全身に筋肉疲労と打撲がある」

ラ 「は、はい・・・教官」

千 「なんだ?」

ラ 「何が・・・起こったのですか?」

 

おそるおそる聞いてみる。すると、教官はしばらく沈黙する。

 

千 「・・・一応、これは機密事項だが・・・VTシステムは知ってるな?」

ラ 「知っています」

 

VTシステム・・・正式名称はヴァルキリー・トレース・システム。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステム。IS条約で現在、どの国家、組織、企業においても研究、開発、使用すべての面で禁止されている。

 

千 「それが、お前のISに積んであった」

ラ 「・・・」

千 「巧妙に隠されていたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意思、いや願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在、学園がドイツ軍に問い合わせている。直にIS委員会からの強制捜査が入るだろう」

 

ギュッとベットのシーツを握り締め、教官と目を離し、窓から見える夕日の方を見る。だが、私は夕日を見えているのではなく、心に空いた穴のせいで虚空を彷徨っている。

 

ラ 「私が・・・望んだからですね。"あなたに、なることを"」

 

振り絞って出した声もかすれ、"の間の部分は声に出なかった。

 

千 「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」

ラ 「は、はい!」

 

いきなり名前を呼ばれ、驚きながら、教官の方を向く。教官の目はとても真剣な目をしている。

 

千 「お前は誰だ?」

ラ 「わ、私は・・・」

 

今の状態だとラウラ・ボーデヴィッヒとは言えない。そう言える自信が今の自分にはなかったからである。

 

千 「誰でもないなら、ちょうどいい。お前はこれから、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

ラ 「え・・・?」

 

教官は席を立ち、出口に向かう。

 

千 「ああ、それから。お前は私にはなれないぞ」

 

ニヤリと笑顔を見せながらそう言って、部屋を去っていった。

 

ラ 「・・・ふふ・・ははっ」

 

なぜか笑いがこみ上げてきた。笑いたびに全身に痛みが出るが、気にしない。

 

(ズルイ姉弟だ。言うだけ言って去って行ってしまうのだから・・・)

 

完敗。完膚なきまでに前の私を消し去った。

 

(自分で考えて、自分で行動しろか・・・)

 

時間はある。今からでも遅くはない。

ここからラウラ・ボーデヴィッヒが始まることが出来るのだから。

 

 

千冬SIDE

 

 

千 「盗み聞きはよくないぞ、朝霧」

 

保健室から出ると壁にもたれ掛かっている朝霧を発見する。

 

獅 「・・・別に盗み聞きはしていませんよ。勝手に聞こえてきたんですから」

千 「それは盗み聞きと変わらないだろう」

 

すると、獅苑が目を閉じ、考え始める。

 

獅 「・・・それもそうかもしれませんね」

 

気の抜けた答えについ、転びそうになるが、ここは学校。誰かに見られるかも分からないため、必死で堪えた。

 

千 「はぁ。お前、そんな気の抜けた奴だったか?」

 

入試試験で出会った時より、かなり生き生きしているように見える。失礼な言い方をすると、人間らしくなった気がする。

 

獅 「そうですかね。もしかしたら、原因の半分はあいつらのせいかもしれませんね・・・」

 

あいつら・・・あぁ、一夏たちの事か。

 

千 「もう半分は?」

獅 「秘密で・・・」

 

どうせ、布仏だと思うが、これ以上は追求はしないでおこう。

 

千 「それより、ボーデヴィッヒに用があるのではないのか?」

獅 「・・・もうちょっと時間を置いて入ります。なんか、今は入っちゃいけない気がするんです」

千 「奇遇だな。私も止めようと思ったところだ」

 

どうやら、朝霧と考える事はだいたい私と同じらしい。

 

千 「じゃあ、ラウラを頼んだぞ。私にはまだ仕事がある」

獅 「一応、教師ですからね」

千 「・・・あぁ、一応な」

 

本当は一応、教師って言った事を注意しようと思ったのだが、なぜか、怒る気にもならない。それがただ機嫌が良いだけなのか、相手が朝霧なのだからは分からない。もちろん贔屓(ひいき)しているわけでもない。一つだけ分かるのは、これが恋愛感情じゃないって事だけだ。

 

 

獅苑SIDE

 

 

(・・・そろそろ、いいかな?)

 

織斑先生は自分の仕事に向かった後、数分ぐらい保健室の前で待機し、今やっと保健室の中に入る。

 

ラ 「誰だ?」

獅 「・・・朝霧だ」

ラ 「ああ、お前か・・・」

 

銀髪は窓の向こう側をずっと見ている。俺は気にせず、ベットの近くにあったイスに座る。

 

ラ 「何の用だ?」

獅 「トーナメントについて・・・トーナメントは中止。だが、皆のデータを取るとかで、一回戦だけは行う」

ラ 「そうか」

 

興味なさ下に答える。俺も興味ないけど・・・

 

獅 「あと、お前のISだが、装甲は粉々になったが、コアは無事だ。パーツを交換すれば大丈夫と言っていた」

ラ 「そうか」

 

以外にもISについて話しても興味がないように見える。こいつなら、なんらかのアクションが出ると思ったんだが・・・すると、銀髪がこちらを向き、目を合わせる。黒いISとの戦闘中で見た夢、左目のヴォーダン・オージェが金色に輝いている。

 

獅 「どうした?」

ラ 「・・・私はラウラ・ボーデヴィッヒだ」

獅 「・・・」

 

何も知らない人なら頭に?マークが浮かぶだろう。だが、俺は聞こえていたのだ。織斑先生との会話を・・・

 

獅 「・・・ああ、お前はラウラ・ボーデヴィッヒだ」

ラ 「ならば、お前は誰だ?」

獅 「俺は・・・朝霧獅苑だ」

 

すると、突然、ボーデヴィッヒが笑い出す。怪我しているのに笑ってるせいで顔が痛みで引きつっている。

 

ラ 「そうか。お前は朝霧獅苑か」

獅 「・・・いい顔になったな。ボーデヴィッヒ」

ラ 「!?」

 

ボーデヴィッヒの顔が驚きに変わる。今まで銀髪と呼び続けていたため、この呼び方が新鮮だったのか。それとも自分の名を呼ばれ、俺からラウラ・ボーデヴィッヒとして見られる喜びなのかもしれない。

 

ラ 「・・・ふふ、お前にそう呼ばれるとくすぐったいな。でも、悪くない感覚だ」

獅 「・・・そうか」

ラ 「ああ」

獅 「なら、安心だな。じゃあ俺は帰る」

ラ 「あ、ちょっと待ってくれ!」

 

席を立ち、出口に向かおうとしたら、ボーデヴィッヒに止められた。

 

獅 「なんだ?」

ラ(獅 「いや、その・・・悪かった。本当はあいつ(本音)と組む予定だったのに、こんなことに巻き込ん「そこまでだ」・・・!?」

 

ボーデヴィッヒの唇に人差し指を当てる。ボーデヴィッヒは仰向けの状態のため、必然とボーデヴィッヒの上に乗り出す構造になる。

 

獅 「もう終わったことだ」

ラ(獅 「で、でも「それに、今からお前はラウラ・ボーデヴィッヒなんだろう。だったら、昔の自分を引きずるな。前に進め。時間はたっぷりとあるんだからな、小娘」・・・」

 

織斑先生ならこう言うと思い、真似みたんだが、さすがに小娘は言い過ぎたかな。

 

獅 「ああ、それから。綺麗だぞ。その左目」

ラ 「あ・・・」

 

今頃になって眼帯がないことに気づいたボーデヴィッヒを置いて保健室を出た。

 

 

 

 

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24話

 

 

 

 

一夏SIDE

 

 

【学食(夜)】

 

『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所は日時の変更は各自、個人端末で確認の上で確認・・・』

 

誰かが学食のテレビを消す。

 

一 「シャルルの言うとおりになったな」

シ 「そうだね。あ、一夏、七味取って」

一 「はいよ」

シ 「ありがと」

 

一応、俺たちは事故の当事者なんだが、どうしてか、かなりのんびりしている。ちなみに、なぜ、寮食堂で夕食を食べているかというと、さっきも言ったが、俺たちは事故の当事者なのだ。事故に関して質問攻めになるのは想像できるだろう。あの後、女子たちの質問攻めにあったのはもちろん、寮の食堂で女子たちが待ち伏せしていることが分かり(のほほんさん情報)、今ここで学食を食べている。まぁ、ここでも少数だが、質問攻めされた。

 

一 「ふー、ごちそうさま。やっぱり、この学園の料理はうまくて幸せだ〜・・・ん?」

 

向こう側に女子十数名。こちら側を落胆した様子で見ている。

 

女1 「優勝・・・チャンス・・・消えた・・・」

女2 「交際、無効・・・」

女3 「うわああああんっ!」

 

ドドドドッと走り去っていく女子達。

 

シ 「・・・どうしたんだろうね?」

一 「さぁ・・・?」

 

女子達が走り去った意味が分からず、シャルルと首を傾げる。女子達が走り去る前の場所を見ると、ポツーンっと箒が立っていた。

 

箒 「・・・」

 

まるで魂が抜けたような姿になっている箒に近づき声をかける。

 

一 「そういえば箒。先月の約束だけど」

箒 「え!?」

一 「・・・付き合ってもいいぞ」

箒 「・・・なに!?」

 

箒の顔がぱあっと明るくなり、そして、俺の首もとを締め上げる・・・なんで?

 

箒 「本当に! 本当にいいのだな!?」

一 「お、おう・・・」

箒 「な、なぜだ? り、理由を聞こうではないか・・・」

 

俺から手を離し、腕組みをしながら咳払いをする。箒の頬は少し赤く染まっていた。

 

一 「そりゃ幼馴染の頼みだからな。付き合うさ」

箒 「そうかぁ!」

一 「買い物くらい」

[ドガッ!]

 

言った瞬間、顎に強烈な右ストレートが飛んできて、見事にヒット。

 

箒 「そんな事だろうと思ったわっ!」

[ドゴッ!]

 

うずくまってた俺の腹に蹴りが入り、体が浮いた。

 

箒 「ふん!・・・」

シ 「一夏ってたまにワザとやってるんじゃないかって思うときがあるよね」

 

うずまくっている俺にしゃがんで声をかけてくるシャルル。

 

真 「織斑君! デュノア君! 朗報ですよっ!」

 

1−1の副担任こと、山田先生がやってきた。つか、俺がこんな状態になってるのにスルーするのか・・・?

 

真 「今日は大変でしたね。でも! 二人の労をねぎらう場所が、今日から解禁したんです!」

シ 「場所・・・?」

真 「男子の・・・大浴場です!!」

 

 

獅苑SIDE

 

 

[コロ、コロ・・・]←飴を食べている音

 

ボーデヴィッヒの訪問の後、一夏達がまだ校舎にいると聞いて探している。

訪問から時間はかなり経っているが、これには事情がある。一応、体の検査を受けるため、保健室とは違う場所に設けられた教室に行ったのだが、機械のトラブルとかがあって、こんな遅くなってしまった。本音には遅くなるからと前もって伝えてあるから心配は要らないと思うけど・・・

 

(でも、まさか。検査が始まる瞬間に故障するとは・・・結局、検査をしてないし・・・)

 

だが、前みたいに体自体には異常はないと言われたし、問題はないはずだ。普通のISには操縦者保護機能でそんな無理な戦いをしなければ、大した怪我はないのだが。俺の場合、全身骨折という前例がない怪我を負ったことに誰もが首を傾げたそうだ。

 

(・・・まぁ、どうでもいいか)

 

軽くこの事を流して、校舎の廊下を歩く。すると、向こう側から女子十数人が俺の横を通り過ぎる。通り過ぎるというか、俺が端っこに避けたんだが・・・

 

(何かあったのか? みんな泣いてたし・・・)

 

すると、次は向こう側から不機嫌オーラがにじみ出ている箒が来た。

 

獅 「あ、箒。一夏知らな「あいつの事など知らん!!」・・・」

 

そのまま、去っていく箒。

 

(一夏の奴、またなんか仕出かしたか?)

 

あの箒の反応からだと、一夏にまた気に障ることでも言われたのか、上げるだけ上げられて、結局は突き落とされたのだろう。一夏ならよくやりそうだ・・・そう思っていると、向こう側から一夏がダッシュで走ってきた。

 

一 「お! 獅苑!」

 

一夏は片腕をあげ、近づいてきたと思ったら、俺の両肩を掴んで大きく揺さぶる。

 

獅(一 「さっき箒が不機嫌だっ「聞いてくれよっ! 男子も大浴場が使えるようになったんだぜ! やっぱ、シャワーだけじゃスッキリしないもんな。だからさ、お前も早く来いよ!」・・・」

 

そのまま、走り去っていく一夏。すると、一夏が走ってきた方向に一夏に負けないほどの走りを見せるデュノアの姿が・・・どうやら、一夏を追いかけているようだ。

 

シ 「あ! 朝霧君。ねぇ、一夏見なかった?」

獅 「・・・一夏なら通り過ぎていった。ダッシュで」

シ 「ほんとっ! ありがとう!」

 

これまた、一夏と同様に走り去っていった。

 

真 「あ、朝霧君、ここにいたんですね!」

獅 「・・・次は山田先生か」

真 「え? なんですか?」

獅 「いえ、なんでもないです。それでどうしましたか?」

真 「あぁ、そうでした。実は男子の大浴場が使えるようになったので、伝えに来たんです。織斑君とデュノア君には、もう伝えてあります。特に織斑君なんか子供のように喜んじゃって」

 

だから、あんなに元気だったのか・・・

 

真 「それでは、私は仕事があるので・・・」

 

山田先生は軽快な足取りで去っていった。俺はこの場にいる必要がなくなり、その大浴場に行くため、寮に向かう。

 

(・・・あれ? そういえば、デュノアって女じゃなかったっけ?・・・ま、いっか)

 

 

一夏SIDE

 

 

[チャポーン]

一 「・・・」

シ 「・・・」

 

まずい。この状況は非常にまずい。大浴場に入れると聞いて、実際、大浴場に来て気づいた。シャルルが女の子であること。

 

一 「・・・」

シ 「・・・」

 

お互いに背中合わせに湯船に浸かっている。背中からはシャルルの体温が感じ取れ、女性特有の甘い匂いが俺の鼻をくすぐる。シャルルが少し動くたびに、胸がドキリッと跳ねる。

 

シ 「・・・ねぇ一夏」

一 「は、はい!」

 

声が裏返る。

 

シ 「ど、どうしたの!?」

一 「い、いや、なんでもない。俺、もう上がるわ」

 

このままだとのぼせそうなので湯船から出ようとすると、シャルルに腕を掴まれる。

 

シ 「ちょ、ちょっと待って!」

一 「!?」

 

その瞬間見えてしまった。シャルルは俺の方を向いて腕を掴んでいるため、まぁ、その、あれだ。見えてしまった。

 

シ 「っ!!?」

 

その事に気づいたのか、シャルルが両腕で自分の体を隠す。

 

一 「わ、悪いっ! でも、決してワザとじゃなくて・・・」

シ 「・・・一夏のえっち」

 

グサッと心に刺さる言葉。

 

一 「そ、そうだ! なんか用があるんじゃなかったか?」

 

シャルルともう一度、背中合わせに座る。

 

シ 「う、うん。前に言った事、なんだけど・・・」

一 「前って言うと、もしかして、学園に残るって話か?」

 

俺がシャルルが女の子と気づいた晩に話した事だ。

 

シ 「・・・僕ね、ここにいようと思う。僕はまだここだって思える居場所を見つけられていないし、それに・・・」

一 「それに?」

シ 「・・・」

 

沈黙から数秒。シャルルの手が俺の背中に触れ、そのまま、後ろから抱きしめられた。

 

一 「シャ、シャルル・・・」

 

声が裏返るのも無理もない。俺の背中にぴったりとシャルルの体が密着しているのだから・・・

 

シ 「・・・一夏が」

一 「ん・・・?」

シ 「一夏が言ってくれたから。ここにいろって。そんな一夏がいるから、僕はここにいようと思えるんだよ・・・」

 

自分にとっては当たり前の事を言ったつもりが、シャルルにとっては、その言葉が凄くうれしかったようだ。もしそれが、少しでもシャルルの助けになっているなら嬉しい事だ。

 

シ 「それにね。僕、決めたんだ。僕の在り方を・・・」

一 「・・・そうか。頑張れよ、シャルル」

シ 「シャルロット」

一 「え・・・?」

シ 「シャルロット。お母さんが僕にくれた、本当の名前・・・二人っきりの時には一夏にはそう呼んでほしいんだ」

一 「・・・わかった。これからもよろしくな、シャルロット」

シ 「うん・・・」

 

後ろから抱きつかれているため、シャルル・・いや、シャルロットの表情は分からないが、嬉しいと顔に出ていると想像がついた。だけどさ、忘れていないと思うけど・・・

 

一 「それよりさ。そろそろ離れてくれないか。この状態じゃ、色々危ない気がして・・・」

シ 「え!? あ、う、うん! そうだねっ! ぼ、僕、先にシャワー使うからっ!」

 

シャルロットはパッと俺の体から離れ、湯船から出る。背中から水音が聞こえてる中、俺は思った。

俺はみんなを守れるように強くなると。獅苑と千冬姉も守れるくらいに・・・

 

(お前が言った意味、ちゃんと俺に届いたぜ。獅苑・・・)

 

そのころ、獅苑は・・・?

 

獅 「(いつになったら、入れるんだろう?)」

 

以前、千冬姉と同じ状況に立ち、大浴場の入り口で突っ立っていた。

 

 

一夏SIDE

 

 

事件の翌日。

 

真 「みなさん、おはようございます・・・」

 

山田先生がなぜかやつれているが、朝のSHRが始まる。

 

真 「今日は、その、転校生を紹介します・・・」

クラス全員 「え・・・?」

 

教室に入ってきた転校生は女生徒姿のシャルロット。その姿を見て、俺も含め、女子生徒みんながこの状況についていけてない。

 

シ 「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくおねがいします」

真 「えぇと、デュノア君はデュノアさんって事でした・・・」

箒 「・・・は?」

 

山田先生の説明でクラスがポカーンってなる。だが、すぐに騒がしくなる。

 

女子1 「え? デュノア君って女・・?」

2 「おかしいって思った! 美少年じゃなくて、美少女だったわけね!」

3 「って、織斑君、同室だから知らないわけ・・・」

4 「ちょっと待って! 昨日って確か、男子が大浴場を使ってたわよね!?」

(やばっ!)

 

さすがに女子と風呂に入ったなんてバレたらとんでもない事が起きる。主に箒や鈴、セシリア方面から・・・言い訳をしようと立ち上がると、教室の扉が吹き飛ぶ。

 

鈴 「一夏ーー!!」

 

SHRの時間のはずが別クラスの鈴が登場(IS展開中)。

 

鈴 「死ねーーー!!!」

 

フルパワーの衝撃砲が放たれ、俺に一直線。

 

(あ、死んだな・・・)

 

だが、いくら待っても、俺が天に召されることなく、ゆっくりと閉じた目を開く。

 

一 「ラウラ!」

 

そこには、シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラがいた。どうやら、間一髪、俺と鈴の間に入って、AICで衝撃砲を相殺したようだ。

 

一 「助かったぜ、サンキむぐっ!?」

 

振り向いたラウラが俺の胸倉をIS装備のまま掴まれ、強引に唇を奪われる。しかもかなり、ディープなキス。

 

箒・鈴・セ 「!?」

一 「!?!?!?!?」

クラス全員 「・・・」

 

沈黙がラウラが離れるまで続く。だが、次のラウラの言葉でさらに波乱を呼ぶ。

 

ラ 「お、お前を私の嫁にする! これは決定事項だ、異論は認めんっ!」

女子1 「・・・え」

クラス全員 「えぇーーーーー!!?」

一 「・・・はぁ!?」

 

 

本音SIDE

 

 

獅 「zzz・・・」

本 「こんなにうるさいのに良く寝られるね〜。いい子、いい子」

 

机に突っ伏している獅苑くんをサラサラな髪を撫でる。もちろん、袖から手を出して。

 

獅 「zzz・・・♪・・・」

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インフィニット・ストラトス 朝霧獅苑 のほほんさん 

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