Masked Rider in Nanoha 二十六話 動き出す運命の戦士達
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 機動六課始動前日。ミッドに一組の男女がやって来た。とはいっても、少年少女という表現がぴったりの年頃ではあったが。彼らは都会然としたミッドの転送ポートに懐かしいものを感じつつエスカレーターへ足を乗せた。

 

「ずっと籠の中でフリードは大丈夫かな?」

 

「平気だよ。それにもう少しすれば自由にさせられるから」

 

 共に下りのエスカレーターに乗って話すエリオとキャロ。エリオは両手に子供が持つにしては大きめの鞄を持ち、キャロは両腕にフリードの入った籠を抱えていた。六課への異動が正式に決まった二人は、スプールスからミッドへとやって来たのだ。

 フェイトからの連絡でこの場所に迎えが来る事を聞いていた二人は、エスカレーターを降りると周囲を見渡す。すると、待合所のような場所にいた男性がその姿を見て椅子から立ち上がった。

 

「エリオ君、キャロちゃん、こっち!」

 

「「五代さん!」」

 

 五代は片手を大きく振って二人へ呼びかける。それに気付き、二人は笑顔で五代の傍へと走り出した。だが、そんな五代の横にキャロが知らない人物がいた。翔一だ。キャロが来ると聞いた翔一は対面を済ませておきたいと考え、二人の迎えを五代と共に引き受けてここにいたのだ。

 そんな翔一へエリオは再会の挨拶をするが、キャロは初めて会うためにやや戸惑いを見せる。そんなキャロへ五代は簡単に翔一の事を話し、エリオがそれに補足を加えた。

 

「ほら、すごく料理が上手くて、レストランで働いてたって教えた人だよ」

 

「……あっ、ご飯がすごく美味しいってエリオ君が言ってた」

 

「初めまして。俺、津上翔一って言います」

 

「あ、初めまして。私はキャロ・ル・ルシエです」

 

 キャロが理解したのを見て、翔一はキャロと視線を合わせるべくしゃがんでそう笑顔で告げた。それにキャロは嬉しそうに笑顔を返して自己紹介。そして、それと共に籠の中からフリードが一声鳴いた。

 それに翔一は軽く驚きを見せたが、前もって聞いていた事もあってかそこまで動揺せずにいる事が出来た。それどころか、籠の中にいるフリードの頭を指で軽く撫でる事さえやってのけたのだから。

 

 それにキャロは驚き、エリオと五代は笑みを見せる。フリードは翔一に対して何も警戒する事無くその行動を受け入れ、頭を優しく撫でられていた。それが心から嬉しそうに見えて、五代は籠を少し開けてフリードへ手を伸ばし喉元を軽く触る。

 それに翔一が猫じゃないですよと言えば、いや、意外といけるかもと五代が返した。そのやり取りを聞きながらエリオが苦笑しつつキャロへ視線を向ける。

 

「翔一さんって、五代さんとどこか似てるよね」

 

「そうだね。少し驚きかも……」

 

 楽しげに笑うキャロの視線の先では、フリードを二人して撫で続ける五代と翔一の姿があった。この後、五代達は機動六課の隊舎がある湾岸地区へ移動する。その際の足は当然バイク。エリオとキャロの荷物を二台のバイクの後方にバインドで固定し、運転する五代達とハンドルの間に挟まるようにエリオ達が座った。

 

 その道中で軽く会話を交わす五代達。五代はキャロと、翔一はエリオとそれぞれ簡単に近況を話した。やがて周囲の景色からビルが消えて水平線が見えてくる。

 どこか海鳴にも似た雰囲気を漂わせる場所。そこに機動六課の隊舎や宿舎はあった。五代達はそこへ二人を案内した。荷物をそれぞれのあてがわれた部屋に置かせるために。

 実は、もう五代と翔一、そして光太郎は荷物を宿舎へ運んでいた。三人は正規の局員達とは違い、あくまで協力者。そのため、本来ならば局員用の宿舎を使う事は出来ないのだが、そこははやてが部隊長権限で認可を出した。

 

 ちなみに五代と翔一は相部屋で、光太郎とエリオも相部屋となっている。実は、翔一はザフィーラも誘ったのだが、はやてが念のための用心棒としてどうしても自分達の部屋にと言って聞かなかった事を追記しておく。

 その際、はやての意見を聞いたザフィーラが、どこか苦渋の決断をするかのように苦悶の表情を浮かべていたのが翔一には印象的だった。

 

 宿舎前で停止する二台のバイク。新築の綺麗な外観にエリオとキャロがしばし無言で眺めている後ろで、五代と翔一はバインドで固定されていた荷物を前に感心していた。

 

「いや、やっぱり便利ですよねバインドって」

 

「うん。まったく動いてなかったもんね。急いで荷物運ぶ時には便利だなぁ」

 

「バイク便の人とかは欲しがりそうです。あ、後は主婦の方とか」

 

「あー、じゃあミッドのバーゲンは凄いかも。バインド合戦でみんな動けなくなっちゃったりして」

 

 五代の想像に翔一も笑った。するとそんな話をしている二人へエリオとキャロが苦笑気味に告げる。そんな魔法の使い方をしたら問題になると。そして荷物を固定していたバインドを解除し、それを落とさないように五代と翔一が受け止めた。

 

「さ、じゃあ中に入ろうか」

 

「キャロちゃんはフェイトちゃんと相部屋だからね」

 

「あれ? なのはさんと一緒じゃないんですか?」

 

 翔一が言った一言にエリオは不思議に思ってそう尋ねた。てっきりそうだと思っていたのだ。親友で仲が良いなのはとフェイト。一部からは怪しげな噂さえ言われる二人なら、きっと相部屋だろうと思っていたのだろう。

 それに五代が苦笑して翔一を見る。翔一もそれに苦笑を返して頷いた。そんな二人の反応にエリオとキャロは揃って顔を見合わせた。

 

「実はね……」

 

「なのはちゃん、恋人が出来たんだ。それで、一人で部屋を使った方がいいってフェイトちゃんが言ったんだよ」

 

 翔一の言葉に続くように五代が説明。エリオとキャロはその恋人が出来たとの話に驚くのと同時に笑顔を見せた。フェイトから話を何度も聞いた相手であるなのは。エリオは何度か会った事もあるし、キャロも会った事は少ないがその時の事は鮮明に思い出せるぐらいだ。

 強く優しい人。それが、なのはへの二人の共通見解。そんななのはに恋人が出来た。それは、二人にとっても喜ばしい事だった。何故なら、二人はフェイトが光太郎と結婚してくれればいいのにと考えていたからだ。

 

 なのはがそういう風に幸せになってくれれば、フェイトも自身もそうなろうとしてくれるかもしれない。その時、自分達が光太郎とそうなって欲しいと告げればフェイトもその気持ちをはっきりしてくれるはずと。

 エリオもキャロも知っているのだ。フェイトが光太郎を意識しているのは。それが異性としてかどうかまでは定かではないが、それでも他の男性とは違う事は確かだと思っている。

 

「まず荷物を部屋に置いて来よう。案内するから」

 

「はい」

 

「でも、私達だけいいんですか?」

 

 五代の言葉にキャロはどこか申し訳なさそうに問いかけた。他の者達はまだなのに、自分達だけ先んじていいのかと思って。それに五代と翔一は小さく笑みを見せて語り出す。実は荷物の運び込みだけはほとんどの者が終わらせている事を。

 大半が持ち運びに時間がかかるものだったり、大きな物だったりと様々だがほとんどの者が既に荷物を寮へ運んでいたのだ。それを知る五代と翔一は二人へこう言った。心配しなくても、皆荷物を多かれ少なかれ運び入れているから二人も気にせず置きに行っていいのだと。

 

「それが終わったら、リンディさん達に会いに行こう。そこで光太郎さんも待ってるから」

 

「光太郎さんが?」

 

「待ってるんですか?」

 

 二人の言葉に五代は頷き、行動を促す。早くしないと遊ぶ時間が無くなると言って。翔一はキャロを案内するために女子寮へ。五代はエリオと共に男子寮へと入っていく。荷物を翔一と五代が持ったまま、その隣をエリオとキャロは嬉しそうに笑みを見せながら歩く。

 五代へスプールスの自然や動物との思い出を話すエリオ。逆に、接点が無かったために色々な事を話して理解を深める翔一とキャロ。そんな会話が無人の宿舎内に響くのだった。

 

 

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 新暦七十五年 四月。ついに機動六課は動き出した。はやては部隊長として六課の人間全員に自分の思いを語っていた。そのはやての横には、なのは達隊長陣と五代達協力者三人が立っている。

 対して、はやて達の向かい側にはスバルやティアナだけでなくエリオとキャロのフォワードメンバーの姿や、ヴァイスやシャーリーなどの前線魔導師ではない者達の姿もある。更に寮母として参加するアインの姿さえあった。

 

「……なので、ここでの経験を生かして、それぞれがそれぞれの道を歩いていくために、成長出来る場所になる事を切に願ってます」

 

 はやてが話し終えたのを感じ、全員がこれで式は終わったと思った。だが、はやてはどこか楽しそうに笑みを見せると視線を五代達へ向ける。

 

「さて、気付いた方もいると思いますが、こちらにいる三名は局員ではありません。民間協力者として私達と一緒に働いてくれる人達です。皆さんから向かって右側から、食堂で働く五代雄介さん。同じく津上翔一さん。そして、整備員兼予備ヘリパイロットの南光太郎さんです」

 

 突然紹介され若干戸惑う三人だったが、それでもその場で一礼し笑顔で全員へ挨拶をした。五代は明るく、翔一は元気良く、光太郎は爽やかに。それに全員が好印象を受けたのを見て、はやては小さく頷いた。

 

「彼らは次元漂流者でありながら、この次元世界のために力を貸そうとしてくれる人達です。だからこそ、全員気兼ねなく色々と話をしたりして交流を図ってみてください。きっと、皆さんの今後につながる発見があるはずです」

 

 はやての言葉に五代達は苦笑する。一方、言われた方は真面目に受け取っている者もいればどこか疑うような感じの者もいた。それを見ながら五代ははやての意図を考えて呟いた。

 

「はやてちゃん、少し気を遣い過ぎたのかな?」

 

「いえ、多分俺達を少しからかいたいんだと」

 

「彼女らしいな……」

 

「お前達、まだ式は終わっていないぞ」

 

 ぼそぼそと話す三人へどこか呆れるようにザフィーラがそう呟く。それを聞いて微かになのは達が微笑む。こうして機動六課はスタートする。式も終わり、同じフォワードメンバーとしてスバルとティアナはエリオとキャロと顔合わせをする事になった。

 自己紹介を終えて互いの事を簡単に話した後、話題は四人に共通する事に変わる。そう、五代達の事だ。ティアナは翔一、スバルは五代、エリオとキャロは光太郎と、それぞれ関わりが深い相手が異なり、それ故に意外な話や納得の話などをし合っていた。

 

 ティアナとスバルは光太郎の情報がほとんどなく、エリオとキャロは五代と翔一がそこまでない。そのため、どちらかと言えば自分達よりも三人についての情報交換になっていた。

 だが、それもあってかすぐに四人は打ち解ける事となる。敬語を使おうとするエリオとキャロに、ティアナとスバルは普通に話して欲しいと告げたのもその一因。これからは背中を預け合う仲間になるのだし、共に気楽に笑い合っていたいと言って。

 

「ま、馴れ馴れしくしろとは言わないわ。でも、アタシ達は固い喋り方されるよりはそっちに近い方がいいの」

 

「そういう事」

 

「……分かりました。なら、これからよろしくお願いします。スバルさん、ティアナさん」

 

 エリオの呼び方にティアナは笑みを見せ、ティアでいいと返す。親しい者やそう呼んでもらいたい相手にはそう呼ばせているからと付け加えて。それにエリオは少し驚くが、嬉しそうに頷いた。

 

「あ、勿論キャロもね」

 

「はい、よろしくお願いします。スバルさん、ティアさん」

 

「キュク〜」

 

 そうやって四人と一匹が楽しげに会話しているのを少し離れた場所から見て安堵している者がいた。なのはだ。思ったよりも早く打ち解けたようだと思い、小さく息を吐いて笑みを浮かべる。何となくだが、その原因が五代達にあると思ったのだ。

 どこまでも影響を与える人達だと、そう思いながらなのははティアナ達へ近付く。そう、他の者達はオリエンテーションなのだがフォワードである四人はこれから即訓練となっているために。

 

「もう話は終わった?」

 

「あ、はい」

 

「自己紹介とポジション、それと……ね」

 

「光太郎さん達の話を、少し」

 

 ティアナがやや苦笑したのを受け、エリオが同じ表情でそう続けた。それになのはは笑みを見せて、詳しい話は夜に休憩室でしなさいと軽く注意する。そして、そのまま四人を連れて訓練場へと向かう。これがスバル達の六課初日の光景だった。

 

 

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 格納庫に置いてある四台のバイク。一台はヴァイスの私物。赤色を基調とした物だ。だが、その隣に置いてあるのは青が基調の変わったデザイン。そう、アクロバッターだ。更にその隣はビートチェイサー。その横が翔一のバイクとなっている。

 それを眺め、ヴァイスは光太郎へ視線を向けた。光太郎は自分も乗る事になるヘリを眺め、黙々とその整備をしている。ヴァイスは光太郎の事をあまり知らない。彼の中にある情報といえば、先輩であるシグナムから聞いた僅かなものと今日出会った時に交わした会話だけだ。

 

 それでも、光太郎が好ましい相手だとは思ったし、ヴァイス自身はとても話が分かる同僚だと思ったぐらいだ。先程もバイクの話やヘリの話などをして盛り上がったぐらいなのだから。

 民間とはいえ、光太郎もヘリパイロット。その話は局員としてしかヘリに乗った事のないヴァイスにはとても興味深かった。危険な状況へ向かう局員とは違い、楽しい空の旅を安全に送ってもらうために操縦する民間。その違いと、光太郎が話した世話をしてくれた社長夫妻の事はヴァイスにとっては色々と思う事もある話だった。

 

(でも、どうしてあんなに悲しそうな目をしたのかねぇ……)

 

 しかし、その思い出話をしている時、光太郎はどこか悲しい目をしていた。それにヴァイスは気付いていたが、敢えてそれに触れずにいた。

 自分も聞かれたくない事や言いたくない事の一つぐらいはある。光太郎の目からそれを感じ取ったため、ヴァイスは何も言わなかったのだ。何故ならそれは、自分が取り返しのつかない失敗をしてしまったような目に見えたからだ。

 

「ヴァイスさん、これは何です?」

 

「あー、今そっち行きますわ」

 

 気が付けば光太郎は整備を外から中へと移していた。そのため、内部機器が分からない光太郎は助けを求めた。光太郎がいた時代は平成元年。ミッドの技術はそこから遥かに先をいっている。だから光太郎には分からない物ばかりだったのだ。

 ヴァイスから機器の説明を受ける光太郎。それは、彼が初めてヘリに乗った時に似ていて懐かしさを感じさせた。何も分からない彼に優しく丁寧に教えてくれた佐原俊吉。彼がゴルゴムとの戦いを終え、心身共にボロボロになっていた際、それを助け再び生きる希望を与えてくれた光太郎の恩人との思い出を。

 

(……おじさん、いつかおじさんは俺に言ってくれましたね。生きる意味を見つけろって。生まれる命には、必ず意味があるんだ。そう信彦をこの手にかけた俺に言ってくれた事、今でも覚えてます)

 

 幼馴染で兄弟のように育った相手。それを自身の手で止めねばならなかった。そんな苦しみと悔恨の日々。それを俊吉は払い除けたのだ。事情は知らぬでも、自分の親戚である光太郎が悩んでいた事に気付き、それに何とか力になってやりたいと動いた事で。

 その姿と優しさに光太郎は立ち上がる力をもらった。その際、言われた言葉を思い出して光太郎は心で告げた。生きる意味、見つけましたと。二度と俊吉達のような犠牲者を出さないために、RXとして戦うと。

 

 そんな事を思いながら、光太郎はヴァイスの説明に頷きを返すのだった。ここで出会った者達を守り抜いてみせると誓うように。

 

 

「じゃ、今日はここまで」

 

 なのはの声が訓練場に響く。その視線の先には、疲れ果てた姿のスバル達の姿があった。なのはの訓練は想像以上に厳しく、四人はついていくだけで精一杯。結局、何にも良い所を見せられないまま訓練は終了したのだ。

 地面に突っ伏している四人を見てなのはは苦笑する。昔は自分もこうだったと思い出して。だからこう告げたのだ。思っていたよりも動けている。この調子で頑張ってくれるなら、必ずそれが報われるようにしてみせると断言までした。

 

「とりあえず、明日からは早朝訓練も始まるからね。今日はこれだけかな」

 

「あ、ありがとうございました……」

 

「「「ありがとうございました……」」」

 

 笑みを浮かべるなのはへティアナが何とかそう言うと、スバル達もそれに続いて声を出す。それが少し面白く感じ、なのはは小さく笑う。するとそこへ空間モニターが現れた。それは隊舎内全てに出現していて、五代と翔一の姿が映っている。

 その格好は共にエプロンと三角巾を付けていて、いかにも食堂のスタッフといった感じだ。そののどかさに二人を良く知る者達は笑みを見せ、知らない者達はやや呆気に取られていた。そんな空気を無視するように五代が翔一へ小さく掛け声を発した。

 

『本日より!』

 

『レストランAGITΩと!』

 

『オリエンタルな味と香りの喫茶ポレポレが!』

 

『開店です!』

 

 最初と最後だけ同時に告げ、後は交互に言葉を発しながら告げられた内容。それは食堂の宣伝だった。誰もがその光景と内容に声を失う中、二人はおすすめや一押しなどを次々と告げていく。それを聞きながらなのはは思う。これで六課の人間にも確実に五代と翔一の性格が分かったと。

 更にここで働く者で食堂に行かない者はいない。となれば、否応なく五代と翔一とは関わる事になる。そうなれば、絶対に少なからず影響はあるだろうとも思った。何せ、五代も翔一も天然の人誑しなのだから。

 

(でも、レストランアギトって……翔一さんらしいなぁ……)

 

 自分のもう一つの名前を隠すどころか堂々と使用する所に翔一らしさを感じるなのは。しかし、翔一がアギトだと知っているのは闇の書事件関係者以外では光太郎とツヴァイのみ。

 故に、きっとこの名の意味を理解する事は出来ないだろうと思い直し、なのはは意識をモニターへ戻した。どうやらもう宣伝は終わりのようで、二人は互いに何かないかと聞き合っていた。

 

『まだ何かあった気がするんだけどなぁ……』

 

『あ、五代さん。あれですよあれ。週一回の!』

 

『あ〜! そうそう。それだ』

 

 盛り上がる二人だが、その後ろには苦笑するはやてと頭を抱えるグリフィスが映り込んでいる。そう、二人がいるのは食堂ではなく何と指揮所。つまり司令室だ。

 そこを頼み込んで使わせてもらっているのだが、どうもそれを段々忘れ始めているようだ。その証拠に、二人は画面さえ見ずに話し出していたのだから。

 

『週に一度、おれの技から何か一つを見せようとしてたんだよ。室内で出来る物にしようとは思うけど……外じゃないと駄目なのもあるからなぁ』

 

『なら、その時はこうやって中継ですかね?』

 

『あ、そっか。その手が』

 

『あ〜、五代さんも翔にぃもそこまでや。わたしはいつまでも見ていたいし、聞いてたいけどな。仕事、戻ってくれるか?』

 

 どこか突っ込みのない漫才のような様相を呈してきたのを察し、はやてがそう苦笑しながら止めに入ったところでモニターが消えた。訪れる静寂。しかしその次の瞬間、どこからか笑い声が聞こえてきた。

 それは隊舎全体。二人のやり取りで性格は理解され、はやての冷静な締め方に面白さを感じたのだろう。なのはも確かに笑いを堪えるのが辛かったのだから間違いない。

 

 その証拠にティアナ達は笑っている。その笑顔を見たなのはは思う。この笑顔を守るために六課はあるのだと。なのはとフェイトは六課の設立理由は邪眼対策だと聞かされている。それも勿論あるのだが、はやてはまだなのは達に伝えていない事があった。

 それはカリムの予言。はやて自身もまだどこか不安に思う部分はある。だが、それを考えても仮面ライダーが三人いる事に大きな希望を感じていたのだ。故にカリムからは不安がないように見えるのだから。

 

(私達も五代さん達もあの頃とは違う。邪眼がどれだけ強くなっても、絶対負けないっ!)

 

 不屈の心に燃える希望の灯。それを確かに感じながらなのはは誓う。スバル達をあの頃の自分達よりも強くしてみせると。あのパーティーの後、五代と光太郎から語られた邪眼復活の事実。それに対し、その場にいた全員が決意を新たにしたのだから。

 

 今度こそ完全に倒す。その時の気持ちを思い出し、なのはは四人へ立ち上がるように言った。そしてお昼にはポレポレカレーが食べられるからと告げて笑顔を見せた。それに頷く四人を見て、なのはは先に戻っていると告げてどこか楽しげに歩き出した。

 その様子にキャロだけが意外そうな表情を浮かべる。ティアナはそんなキャロの反応に以前の自身を重ねて苦笑し、なのはも普通の人と同じだからと告げて歩き出した。そうやって歩きながら四人が話すのは昼食の事。カレーを知らないスバルに対し、翔一経由で食した事のあるティアナと地球の日本通であるハラオウン家にいたエリオとキャロはそれを知っていた。

 

「どんなの?」

 

「何も先入観無しで食べなさい」

 

「でも、美味しいですよ」

 

「私は甘い方が好きですけどね」

 

 ティアナは何も言わず、エリオは美味しいと保障をし、キャロは下手な情報を与え、それを聞いたスバルが混乱する。そんな会話をしながら四人もなのはに続けと隊舎へ向かう。視線の先には、真新しい隊舎があった。

 

 

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 クラナガンにある時空管理局地上本部。そこの一室であるレジアスの執務室にグレアムがいた。共に向かい合うように椅子に座り、レジアスの秘書をしている娘のオーリスはそんな二人から少し離れた位置でそれを見つめていた。

 グレアムは本局の立場でありながらレジアス達地上を擁護し、支援をしている数少ない陸所属ではない友人。そうなったのはここ数年前からだが、その関係はそれほど悪いものではない。互いに局が発祥した世界を守る事が出来なければ、他の世界を守る事は出来ないと意見は一致しているのもある。

 

 だが、そんな関係にも関わらずレジアスの表情はあまり明るくなかった。それはグレアムが彼へ告げた内容にあった。

 

「それで六課へはあまり干渉するなと?」

 

「いや、大目に見てくれと言ったのだゲイズ中将。あの部隊は単なる実験部隊でない事は知っているだろう」

 

「例の聖王教会の小娘の予言とやらか。あんなものに振り回されて……」

 

 レジアスがそうグレアムへ反論しようとした時だった。グレアムは静かに懐からある写真を取り出してテーブルの上へ置いた。それを見てレジアスの表情が変わる。そこに写っていたのは、ヴィータと協力して崩れた瓦礫から男性を助け出しているアギトだった。

 その異形を見て言葉を失うレジアスへグレアムは告げた。彼らは仮面ライダー。邪悪を倒すために異世界より来た者達だと。その異世界という言葉にレジアスは訝しむような視線を見せる。次元世界にそんな存在がいる世界は観測されていなかったのだ。

 

 それを知るグレアムは簡単に説明をした。そう、闇の書事件の真相を。そして機動六課の本当の相手は、その際現れた不気味な存在だと教えたのだ。

 だが、その内容を聞いても信じられないとばかりにレジアスは表情を険しくする。並行世界を渡り、自分達と何の関係もない世界のために戦う者達などがいるとは思えない。そう考えたためだ。

 しかし、それを察してグレアムは小さく言った。彼らの姿勢は局員のあるべき姿と同じではないかと。それにレジアスは言葉が無かった。自分達と何の関係もない世界のために戦う。それは、確かに全ての局員に言える気持ちだったのだから。

 

「彼らは、本来いた世界でも人知れず恐ろしい怪物達と戦っていたそうだ。自分達の力は、全ての生きる者達の笑顔を守るためにあるのだと、そう思って」

 

 そう話すグレアムは、どこか眩しいものを見つめるかのような視線をレジアスへ向けた。レジアスはその視線に何も言えない。彼がもっと地上に人と資金をと叫んでいるのは、地上での被害を減らしたいからだ。その根底には、仮面ライダーと同じく全ての者達の幸せを、暮らしを守りたいとの思いがある。

 

(馬鹿な……こんな存在が本当にいると言うのか。噂は本当だったのか……)

 

 ここ数年ミッドで囁かれるようになった噂。仮面ライダーを名乗る異形達が災害現場や事件現場に現れ、局員や一般市民達を助けているというものだ。実際に目撃した者達もいて、その存在は今や一部の局員達の中では有名だった。

 よく目撃されるRX。それに次いでアギトが多い。クウガも少ない訳ではないが、二人に比べるとどうしても目撃回数は少ない。そして三人に共通するのはただ一つ。仮面ライダーを名乗り、決して人に危害を加えない事。

 

「ゲイズ中将、少し耳を貸してもらえないか」

 

「……分かった」

 

 グレアムの表情が真剣なものなのを見て、レジアスはきっとこの話絡みだと認識した。互いに身を乗り出し、グレアムはレジアスへこう囁いた。

 

―――六課には、その仮面ライダーが有事に備えて協力している。

 

 その言葉にレジアスは表情を一変させた。グレアムはそう言って再び姿勢を戻す。更に、どこか戸惑うレジアスへこう言った。その内の一人は戦闘機人関係者を追いかけているのだと。それが自分に向けて言われた物と気付き、レジアスはゆっくり視線を上げる。

 そう、光太郎とフェイトは管理局内部に関係者がいるのではと思い、既に調査をしていた。そこにはクイントからの情報が大いに役に立った。ジェイルから渡されたデータ。そこには、戦闘機人関係も当然あった。レジアス・ゲイズの名は戦闘機人をジェイルへ依頼した者として名前が上がっていたのだから。

 

「……何が言いたいグレアム提督」

 

「私は何もない。ただ、伝言を預かっているのだよ、その仮面ライダーから。君は地上の人間だ。なら、もしかすればその事件の関係者を捕まえる事もあるだろう。その相手に、こう言って欲しいそうだ」

 

 そう言うと、グレアムは一度目を閉じて息を吐く。そして、目を開くと静かに感情も込めずに告げた。

 

「人の命の重みを知るのなら、それを踏み躙る行為に手を出してはいけない。誰かを悲しませて残りを笑顔にしても、今度はその誰かが悲しみを生む。それを考えずに命を弄ぶのなら、容赦はしない」

 

「……そうか」

 

「それと、最後にこう言ってくれと。人ならざる哀しみと苦しみは、自分達だけで沢山だ……と」

 

 それだけ伝えるとグレアムは立ち上がった。もう用件は済ませたとばかりに。オーリスはそれを見てレジアスへ視線を向けた。レジアスは何も言わず、最後の言葉の意味を考えているようだった。そして、グレアムが部屋を出ようとした瞬間、その背に向かって言い切った。

 

「グレアム提督、そのライダーとやらに伝えてくれ。その言葉、確かに伝えておく、と」

 

「……分かった」

 

「頼む」

 

 人ならざる哀しみと苦しみ。その意味をレジアスはこう取った。ライダー達もまた何らかの犠牲者故に自身と同じ事が起きぬように戦っているのだ。人間の体へ手を加えて恐ろしい存在とする事を防ぐためにと。

 そう考え項垂れるようなレジアスにオーリスは何も言えない。初めて見たのだ。レジアスが激しく後悔している様子など。そんなレジアスへ気付いたのかグレアムがドアの前で立ち止まった。

 

「……レジアス」

 

 その場でグレアムは一度振り返り、公人としてではなく私人として言葉を掛けた。それにレジアスが視線だけ動かして応じる。

 

「私も君も、ライダーには感謝しなければならんな」

 

「……その話、今度家で飲む時にでも聞かせてくれ」

 

 グレアムの声から彼もかつて何かライダーとあったのだろうと気付き、レジアスはそう返した。その言葉にグレアムは頷いて部屋を出た。それを見届けたレジアスは息を吐いた。自分が指示した事が何を意味するかを改めて突きつけられたために。

 

(いっそ儂自身が戦闘機人になればよかったのかもしれん。儂がスカリエッティにやらせた事は結局犯罪者と同じ事だ。誰かに悲しみを強いて誰かを助けるのではいかん。それをどうして儂は忘れてしまったのだろうな。いつの間にか理想ではなく現実だけを見つめ、内容ではなく数だけを考えるようになってしまっていたとは……)

 

 オーリスはそんな父の姿を見て軽く驚いた。普段の高圧的な雰囲気とは違い、どこか昔の雰囲気に近かったのだ。親友のゼストと夜遅くまで正義について語って飲み明かし、母を困らせていた頃に。だがオーリスがそんな事を思い出している間にレジアスはいつもの雰囲気へと戻っていた。

 

 その後、レジアスは六課への干渉を最小限へする事を決め、自身は無視する形を取った。何か問題を起こさぬ限り、一切の手出しをしない。そうオーリスへ厳命した。

 こうして誰も知らない場所で六課を守るために動く者がいる。ライダーに助けられた者がまた誰かを助ける。その輪が繋がり、やがて大きな力となる。きっとそれが、世界を守る力に変わる。

 

 

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 夜の森を歩く真司達。あの後何も起きない事に真司は疑問を抱いたが、ジェイルやクアットロなどはそれに納得していた。そう、邪眼がジェイルの姿をしていた事から一つの仮定を立てていたのだ。

 それは、あれがジェイルの受精卵を使って誕生しているという事。それならばその数は十二いるはずだ。それを証明するように起きるはずだったラボの爆発はなかった。それを踏まえた推測をジェイルは真司へ告げて納得させていた。

 

「で、これからどうするのさ?」

 

 オットーやディエチが枝を集めてISを使って起こした焚き火に当たりながら、真司はそう全員へ尋ねた。聞かれたナンバーズは誰も答えられないのか黙り、ジェイルだけがそれに困り顔で答える。残っている施設などへ行けばいいのだが、それを相手も当然知っている。つまり、自分達が知る場所へは安全を考慮して行けない事を。

 よって、今出来る事はウーノのISで周辺の調査を行い、当面の寝床に出来そうな場所を発見する事。その結果が出るまでは全員で焚き火を囲みながらしばらく話し合いとなった。そうなると話題は必然的にジェイルを模した創世王を名乗った怪物―――邪眼の話となった。

 

 不気味だったと誰かが言えば、どうやってラボに潜入したのかと疑問も上がる。更に一番の問題は、最後に見たISらしき能力。クアットロの物と同質の効果を持つ能力を使った事に誰も言葉がなかった。

 もし、あれが本当にISならば相手は全員のISを使える可能性がある。それを思ってナンバーズが揃って表情を歪めた。言うなれば、自分達の力がその自分達を困らせる事になるのだから。

 

 と、そこでクアットロがある事に気付いて一つの仮説を立てた。それは先程の龍騎との戦いを思い出しての仮説。

 

「もしかしたら、あいつは私達の中にあった受精卵毎にISを使えるのかもしれないわ。しかも、それは何度も使えるものじゃなくて回数制限か制限時間があるのかも」

 

「クア姉、それってどういう事?」

 

「……分かったぞ。もし奴が私達全員のISを使う事が出来るのなら、先程の戦いで何故私のライドインパルスやオットーのレイストームを使わなかった? それを使えば真司に勝てたはずだ」

 

「それだけじゃないわ。あいつは使えるはずのシルバーカーテンも使わなかった」

 

「そうか。使いたくても使えなかったとすれば、時間か回数に制限があると考えるのが妥当か」

 

 トーレの指摘にドゥーエが補足する。それを聞いてチンクがまとめを告げ、真司達はそれに少しだけその表情を緩めて納得していく。これは仮定でしかない。それでも信頼度は高いと感じていたのだ。

 残るISは十一。その中で戦闘に役立つものはそう多くないといえたからだ。安堵の息を吐く真司やセイン達妹組。対してそれでも表情を険しくしているのがドゥーエ達姉組だった。そう、彼女達は気付いているのだ。例え単体では戦闘向きではないISでも、連携すれば恐ろしい力を発揮出来る事を。

 

 ジェイルはそんな周囲の対比を眺め、どうしたものかと頭を巡らせようとしていた。すると、調査していたウーノが視線を彼へ向ける。現在地から一番近い建造物を発見したのだ。

 

「ドクター、ここから約三十分程の場所に建造物があります」

 

「そうか。なら、そこへ行ってみよう。今は例え局員でもいいから会いたい気分だよ」

 

 ジェイルの笑えない言葉に真司は頷いて返す。そして冗談めかしてこう言った。

 

「これから行く場所が悪い事をしてる奴らの隠れ家だったらいいのに」

 

「じゃ、それをあたし達が捕まえて管理局に感謝されようよ」

 

「いやいや、いっそそこを乗っ取って第二の家にするッス」

 

 そんないつもの空気に先程まで誰もがどこか感じていた悔しさや悲しさを薄れさせていく。真司とセインにウェンディのムードメーカーがいつものような話をするだけで全員に笑みが戻っていった。ついさっき住み家を失ったとは思えない程、明るく楽しげに話す真司達の姿と表情で。

 善は急げとばかりに焚き火から長い枝に火を移して簡易的な松明を作るチンク。それを手に先頭を行くのはトーレだ。そのまま真司達はぞろぞろとウーノが見つけた場所へ向かって歩き出す。明かりを手にした事もあってか雰囲気が明るくなると当然話題も変わる。その道中での会話は初披露となったサバイブの話へとなっていた。

 

 セインがかっこよかったと言ったのを皮切りに、口々にその強さと姿に賞賛と感謝を告げていく。真司がいなければあのままどうなっていたか分からない。その思いが全員にはあったのだから。だが、真司は周囲の言葉に照れながらもこう返した。

 

―――でもさ、みんながトイを相手してくれてたから俺はあいつだけに集中出来た訳だし。お互い様だって。助けてくれてありがとな。

 

 その言葉に誰もが真司らしさを感じて微笑んだ。暗い夜道を松明の明かりが淡く照らす。途中でその火を拾った別の枝へ移して、トーレは火傷しないように気を付けながら先頭を行く。

 

 少しでも今の雰囲気を壊すまいとして、セインが今の現状を旅だと思えばと言い出した。それを受ける形で真司がなら今日はキャンプかと続くと、野宿は嫌だとクアットロが文句を言う。そんなやり取りに感化されるように、もう一度風呂に入りたいとセッテが言えば、やや苦笑気味に我慢しろとトーレが応じた。

 せめて衣服をいくつか持ってきたかったとディードが呟けば、オットーはそれに頷き、そんな姉妹達を見たディエチが嬉しそうに笑みを見せれば、チンクも同じような笑みを浮かべていた。ウェンディはトーレから松明を受け取り、ノーヴェとやや先行する形で前を行きながら何かを話している。そして、ウーノとドゥーエは思った程妹達が悲しんでいない事に安心感を覚えていた。

 

 ジェイルはそんな様子を眺めながら笑みを浮かべて歩いていた。家は失ったが家族は守れた。そう思ってジェイルは隣を歩く真司へ呟いた。

 

「真司、あいつをラボから追い出すのを手伝ってくれるかい?」

 

「当然だろ。あそこは俺にとっても家みたいなものなんだからさ」

 

「……そう、か。そうだったね」

 

 真司の気負う事ない返事にジェイルは小さく笑みを浮かべるとそう言葉を返す。その後、二人には会話はなかった。ただ土を踏みしめる音だけを響かせて二人は歩く。その耳に聞こえてくるナンバーズの声を聞きながらいつも通りの表情で。

 やがてその視線の先に大きな黒い影のようなものが見えてくる。それが何なのかが分からない真司とジェイルだったが、先頭を歩いていたノーヴェは戦闘機人故に見えたのだろう。それを指さしてこう告げた。

 

「あ、見えたぞ。あれだ」

 

 渓谷の谷間にひっそりとある建物。その説明を聞いた全員が同じ事を考えていた。きっとまともな場所ではない、と。

 

 

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「嘘から出た真とはよく言ったもんだよ」

 

 真司はそう呟きながらジェイルと共に周囲の光景を眺めていた。そう、真司が冗談で言った事が的中したのだ。見つけた建物は違法研究施設で、ジェイル達を確認するや否や問答無用で襲い掛かってきたのだから。

 仕方なくトーレ達が応戦。殺さぬように気を付け、加減をしながら施設の奥へと進んでいったのだ。そして、その奥に彼女はいた。小さい妖精のような存在―――融合騎と呼ばれる存在が。

 

 それを初めに見つけたのはセッテだった。拘束されているその体を見て痛々しい気持ちになったセッテは、細心の注意を払ってその拘束を取り除く。自由になったその体は落下を始めるが、それをセッテが優しくその手で受け止めた。

 

「……ぇ?」

 

「大丈夫か、妖精さん」

 

 真司からおとぎ話を良く聞いていたセッテは、目の前の相手がその中に出てきた妖精だと思い密かに感動していた。一方の相手は、突然見も知らない相手から心配されている現状に混乱していた。

 彼女は一先ずセッテへ礼を述べ、状況を把握しようとする。そこへ施設の制圧が終わったため、のんびりと歩いて真司とジェイルが現れた。するとジェイルがセッテの手にいる存在を見て反応を見せた。

 

「おや……融合騎だね」

 

「「融合騎?」」

 

 ジェイルの言葉に真司とセッテの声が重なった。ジェイルはそれに苦笑しながらゆっくりと説明を始めた。古代ベルカ時代に騎士を助けるために生み出された存在。それが融合騎。

 それぞれに適正の高い主がいて、それ以外とは融合出来なかったり、出来ても真価を発揮出来なかったりと欠点はあるものの、自分と合った騎士と融合すればその力はかなりの物になる一種のデバイスのような者だと。

 

「……でも、今は全滅したと思っていたんだけどね。そうか、ここは彼女を研究していたのか」

 

「ドクター、この子は助かりますか?」

 

 セッテの悲しそうな表情にジェイルは静かに視線をその手に乗る存在へ向ける。弱ってはいるが、十分に回復出来るだろう。そう判断しジェイルは頷いた。まずは食事と休息が最優先と言って。

 それにセッテは頷き、手にした融合騎を真司へ託すと急いで施設内部の探索に加わったのだった。融合騎のために必要となりそうな物を探すために。

 

 残された二人は仕方ないのでそこにある設備を使って融合騎の事を調べ始めた。そこで判明したのはあまりにも少ない情報だった。研究データ以外のものはなく、彼女自身に直接関係しそうな事はたった一つしかなかったためだ。

 

「烈火の剣精……」

 

「それが彼女の識別名みたいだね」

 

 そこに載っていた言葉を聞いて、真司は妙な親近感を感じていた。烈火とは龍騎のサバイブカードの名でもあるからだ。

 しかし、その後ジェイルはこう言った。識別名はあっても名称はないと。つまり、彼女には名がないのだ。それを聞いた真司がなら名前を付けてやろうと決心するのはある意味で当然と言えた。

 

「うし! なら、俺が何か名前考えてやるか」

 

 そう言って真司は手に乗っている小さな命を見つめ、色々と考える。

 

「通り名が烈火みたいなもんだから……じゃあ、紅蓮」

 

「す、少し怖いよ……」

 

「なら……真紅とか?」

 

「あ、何かいいかも……」

 

「お。それなら……焔は?」

 

「……さっきの方がいい」

 

 真司の挙げる”烈火”から連想する言葉に融合騎は反応を返す。そのやり取りを聞きながら、ジェイルは一人今後の事を考えていた。とりあえず今日はこの施設で過ごす事になる。ここに残っている食料などを拝借し、その後どこへ向かうかを考えなければならない。

 しかし、真司やナンバーズはともかく彼は犯罪者だ。中々当てなどあるはずもなく、ジェイルは頭を悩ませる。その後ろでは未だに真司による名前挙げが続いていた。

 

「う〜ん……龍火」

 

「……微妙」

 

 三国志に出てくる英雄と同じ響きを持たせたにも関らず、酷評を返され真司は軽く落ち込んだ。だが、龍に対してではないと思い再び考え出す。龍に拘っていたのは、彼女が真司の挙げた龍華の名前に反応し、龍が気に入ったようだったからだ。

 真司はその後も龍を活かした名前を何とか挙げるのだが、どれも彼自身もどこかしっくりこないと思っていた。そこで真司は龍そのものを使うのではなく、その特徴になる物を挙げようと思った。

 

「……よし、アギトはどうだ?」

 

「アギト……アギト。うん、それがいい」

 

「うっし! これで決まったな」

 

「うん」

 

 龍の顎門。炎を吐く口の別名。真司はそこから名付けた。それに彼女―――アギトも気に入り、こうして名前は決まったのだった。

 真司達が出会った融合騎。その名は、烈火の剣精アギト。龍騎士と出会えし古の力。共に烈火を持つ二人の出会いが、また一つ闇に対する力と変わる。

 

 

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機動六課始動。そして、動き出す運命。真司達はルー達代わりにアギト救出。これで当面の役者は揃いました。

 

残る役者はどちらもある意味で物語の鍵。予言にも出てきた存在です。

説明
いよいよ始動する機動六課。だが、まだそこへ邪眼の手は伸びない。
五代達の影響を受け変化した流れはよい方向へなのは達を繋いでいく。
一方、真司達は思わぬ出会いと力を得る事になるのだった。
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