外史を行く喧嘩師 十幕
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黄巾党本体討伐から、早二月。俺達は天水にていつも通りの生活を送っていた。

 

「狼鬼!今度はウチと仕合や!」

 

「今度は恋と。」

 

「その次は私だな。」

 

「ざけんな!んな事してたら俺が死ぬわ!いくら氣が使えるっつっても限度があんだろうが!」

 

「狼鬼さん、頑張ってください。」

 

「あんた達、中庭壊さないでよ。」

 

「恋殿〜そんな奴やってしまえです!」

 

俺に味方はいねぇのか・・・

 

「行くで!」

 

ちょっと待てぃ!

俺に向かって一気に間合いを詰める霞。そのまま袈裟切り。

 

「クソッ。鬼斬は一日三回しか打てねぇからあと一回か。狼破はあと二回、こいつらの相手するには

 足りなすぎるっての!」

 

鬼斬ってのは、気〇斬の事。狼破は、拳から出す氣弾の事。

どちらも一日三回が限度。それ以上打つと体が動かなくなんだよな。

 

「おらっ!どした狼鬼!そのんもんかいな!」

 

そのまま神速の突きの連撃。

それをすべて手甲で受け止め、そのまま偃月刀を掴んで左ストレート。

霞はそれを首を捻って躱し、偃月刀を勢いよく振り俺を吹き飛ばす。

 

そのまま着地の瞬間を狙い間合いを詰めようとするが、俺もそうはさせない。

飛ばされながら鎖を薙ぐ様に霞の足元を狙い、霞はそれを上に跳んで躱すも、

俺が着地するには十分な時間だった。

 

「これで決める!おおお!狼破!」

 

腕の残像が残る程速く突き出された拳から、濃縮された氣の塊が飛び出す。

 

「来いや!」

 

霞はそれを躱そうとせず、真正面から受ける。

氣の塊と霞の偃月刀がぶつかり、小さな爆発が起きる。

すかさず間合いを詰める俺。

そして、俺の氣弾を受けきったが、反動で偃月刀を弾かれた霞の顔の前で拳を止める。

 

「・・・ウチの負けや。また負けたわ〜」

 

「うっし。今日もいい調子だ。」

 

「最近みるみる強くなってきたな。遠征中も特訓をしていたようだしな。」

 

「狼鬼、恋より弱いけど、強い。」

 

「凄いです。以前は霞さんには、あまり勝っていなかったのに。」

 

「まぁ、ウチの軍が強くなる事に越したことはないけど。」

 

「ふんっ。いくら強くなっても最強なのは恋殿ですぞ!」

 

こんな毎日が続いていた。

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だが、俺の中で一つだけ不安な事があった。

反董卓連合・・・

 

黄巾の乱の後に起きた、乱世の皮切りとなった出来事。

この戦で功を挙げた物が乱世を生き残るが、

月が私利私欲に目が眩むなんて有り得ない。

 

だが、それ以外の可能性はある。

 

だから俺は詠の部屋の戸を叩く。

 

「コンコンッ 詠今いいか?」

 

「狼鬼?ええ、構わないわよ。」

 

了承を得てから戸を開ける。

俺が入ってきたのを確認した詠は書類仕事をしていたのか、筆を置く。

 

「どうしたのよ?」

 

「ちょっと他の連中には聞かせられなくてな。まぁ軍師同士の話しかな。」

 

俺がそう言うと真剣な顔になる詠。

 

「俺の世界の話しなんだが・・・暗、大丈夫か?」

 

すると天井から。

 

「問題無いっすよ〜」

 

「なら、降りてこい。お前にも関係する。」

 

俺がそう言うと音も無く部屋に下り立つ。

 

「こいつはあんたの部隊の隠密よね?なんで関係あるのよ?」

 

「まずは話を聞け。俺の世界の話だ。

 黄巾の乱の後、大陸は束の間の平和が訪れたが、それは霊帝の崩御で崩れさった。

 朝廷内は血で血を洗う権力争いが繰り広げられた。

 霊帝の後継をめぐり劉弁と劉協が争い、それぞれを支持する皇后何氏と霊帝の母董氏の間で激し  い対立があった。

 んで、何進はどうしても劉弁を皇帝にするべく、軍事力を背景に劉協側を黙らせようとし、

 袁紹、それと、董卓を洛陽に呼び出すんだ。」

 

俺がそこまで言うと。

 

「・・・・・・有り得ない話じゃないわね。皇帝陛下は今病に伏していると聞くわ。

 皇帝陛下の容態次第じゃ、いつ崩御されても不思議じゃないわね・・・」

 

「んでだ。その何進は十常侍に暗殺される。そして、董卓等は十常侍を暗殺。

 そんな感じで都の支配者となった董卓は暴政の限りを尽し、それを良しとしない諸侯達が

 反董卓連合を結成し、董卓は打ち破られました。

 これが俺の世界の顛末だ。」

 

「何が言いたいの・・・」

 

「もしかすると、ここでも有り得るかもしれないって事だよ。」

 

そう言うと詠は怒りを露わにし。

 

「あんたね、月がそんな事するとでも思ってんの!」

 

「思ってる訳がねぇだろうが。ただ心配なんだよ。有り得なくは無いんだ。

 もし霊帝が崩御して、洛陽に呼び出せれてでもみろ。

 月が洛陽の酷さを黙って見ている筈が無い。少しでも良くしようとし

 良くなる、良くする自信は俺はある。

 けど、それを心良く思わない奴が、嘘っぱちの檄文でも流してみろ。

 今天下を狙う奴等は功を挙げる機会を虎視眈々と狙っている。

 そこに真実は関係ない。あるのは勝者の語る物語があるだけだ。」

 

「・・・ごめんなさい。すこし感情的になっていたわ。」

 

「気にすんな。でだ、もしもそんな事になったら、俺達に勝ち目は無い。

 だからちょっと手を打っておきたくてな。

 俺の独断でやるわけにも行かねぇし。それで、詠にと思ったんだ。」

 

俺の独断なんかでやったらかなり不味いからな。

 

「そうね、何をするのかにもよるけど。取り敢えず聞かせて。」

 

俺は今考えてる事を詠に話し、今からやろうとしている事も説明した。

 

「成程。だから、李カクを呼んだのね。」

 

「ああ。こういう仕事は暗が一番適任だからな。」

 

「任せてくださいっす〜」

 

・・・今結構シリアスな感じなんだから少し空気読めや。

 

「この件に関してはあんたに一任するわ。何も無ければそれで良し。

 もしも起きたら・・・」

 

「任せとけよ。月はこんな所で退場する奴じゃねぇ。んじゃ話は通したぜ。

 また明日な。」

 

「ええ、また。」

 

「んじゃ、私も。」

 

そうして、この日は眠りについた。

 

そしてそれから、準備を進める事二ヶ月。遂にやって来た。

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霊帝の崩御。そして・・・

 

「涼州刺史董仲穎。来度の黄巾党討伐の功績を称え恩賞を譲渡する故、軍を連れて

 直ちに洛陽にまで参上するように、との大将軍何進様からの御達しである。」

 

華美な格好をした文官が玉座の間に居る全員に聞こえる声で言う。

 

「分かりました。軍の準備が出来次第参上致しますと、何進様にお伝え下さい。」

 

ここで断るという選択肢は無い。

相手は紛いにもこの国の重鎮。逆らえばどうなるかは想像がつく。

 

そして、その文官が洛陽に向かって行った日。

 

「やっぱし呼ばれたか。まぁあいつ等の考えてる事なんて分かりきってけどな。」

 

「どういう意味よ?」

 

俺達はまた詠の部屋で作戦会議を開いている。

 

「簡単だよ。何かあった時月の事を身代わりにすんだよ。

 良くも悪くもウチの過保護軍師殿が正体をひた隠しにしたせいで、

 月の容姿を知っているのは、ウチの軍の人間と馬家のみ。

 顔の知られて無い人間を自分の身代わりにして自分達はとんずらこく、っつーことよ。」

 

何進はそう考えてんだろうな。まぁそんな事させねぇけど。

 

「うっ。まるで僕が悪いみたいじゃない。」

 

「誰も詠のせいとは言ってねぇぞ。」

 

「・・・んで、どうなのよ。仕込みの具合は?」

 

無理やり話かえやがった。

 

「七割方終わってるよ。後は俺が馬騰に会いに行く。」

 

「本当にあんたじゃないと駄目なの?」

 

「暗でもいいんだが、それだと信憑性が薄い。俺が会いに行って話つけてくる。」

 

「・・・頼むわよ。あんたの働き次第じゃ。」

 

「わぁってるよ。俺に掛かってんだからな。」

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そして、軍の準備が整い、天水を発つ日。

 

「狼鬼さん。本当に馬騰様に会いに行くんですか?」

 

心配そうな顔をして言う月。

 

「ああ。今後の為にどうしても会っておかないとなんだ。悪いな。」

 

「分かりました。どうか御体だけには気を付けて。」

 

「なんや狼鬼は一人で観光か〜いいな〜ウチの行きたいわ。」

 

そう言って俺の首に腕を絡めてくる霞。

 

「霞。観光じゃねぇっての。マジで今後のウチの軍に関わってくんだからよ。」

 

「霞。その辺にしておけ。狼鬼が困っているぞ。」

 

「華雄。分かった。なら、頑張りぃや。」

 

「恋。俺が居ない間、月や詠の事ちゃんと守ってやってくれよ。」

 

「任せる。月と恋の敵は、倒す。」

 

そう言って方天画戟を構える恋は滅茶滅茶頼もしかった。

 

「恋殿のいる所、大陸のどこよりも安全ですぞ!」

 

ねねが両腕を上げながら言う。

 

「なら、そろそろ行くか。んじゃあな。洛陽で会おうぜ。」

 

そう言って馬で一路、武威に向かった。

 

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あとがき

 

 

こんばんは、荒紅です。

 

今回は洛陽に行くまでを書きました。

ここで一旦狼鬼さんは別行動です。

 

 

・・・なんかオリジナルな感じを出そうとして、変な感じになりそう。

これからグダグダな事になる予感がするので、

先に謝っておきます。

 

すいませんでした。

 

それではご感想などコメしてもらえるとありがたいです。

 

んじゃ

説明
今回から反董卓に入ります。
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コメント
ZERO様:勿論です!誰も死なせはしませんよ、狼鬼さんが(荒紅)
反董卓連合とはどうしても起こる物なんですね・・・・自分は董卓軍が個人的に好きなので・・・・荒紅さんどうか誰も死なない結末をお願いします。(神帝)
イマ様:馬騰さんは登場しますし死にません。結婚ですか・・・・有りですね。(荒紅)
デーモン赤ペン様:味方に引き込めそうなのが西涼っていうのが二割、翠が好きだからってのが八割方あります。(荒紅)
アルヤ様:・・・実際それぐらいしか月の生き残る方法が無いんですよね。(荒紅)
仕込みか・・・・・・馬家を味方に+檄文が出たら善政の噂を流させる、位しか思いつかんな・・・・・・(アルヤ)
更新されていたか、お疲れ様です。月側に引き込めるのって、地理的にも関係者的にも西涼がベストですよね。ということでオレの恋姫での初恋こと翠が登場か・・・ktkr!そしてwktk!な感じで次回も待ってます(デーモン赤ペン)
お、遂に反董卓連合の話に入ってきましたね。仕込みがどんなのか気になります。あと、馬騰様、生存ルート&狼鬼と結婚で宜しくお願いします。(イマ)
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真・恋姫†無双 狼鬼   華雄   ねね  喧嘩師 

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