影は黄金の腹心で水銀の親友 二話〜四話
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結局あの後、色々と有ったものの後々は殺しあう仲なので一緒に居続けるのもどうかと思い別れた。そう言えばあの人形の名前を聞き忘れてたな。まあ、問題は無いか。

 

「それで、これからどうするおつもりで?」

 

螢ちゃんがそう尋ねる。そう言えば彼女が警戒する理由は今までヴァレリアが何か言ったのかと思ってたけど、よく考えるとスワスチカの関係でも有るのだろう。

スワスチカを開いた人間の手に恩恵は与えられる。つまりラインハルトの黄金練成を受けられるのはスワスチカの数だけ。そしてスワスチカの空きは残り六つでここに居るのは僕も含めると七人。つまり一人合わないことになってしまう。しかし…

 

「ねえ、螢ちゃん。違ってたら良いんだけど僕は別にスワスチカを開く気は無いよ」

 

「!?……それはどう言う事で?」

 

やっぱり、螢ちゃんが警戒していた理由はスワスチカの関係か…となるとヴァレリアは僕のことは今なら倒せる相手だとそそのかしたのかな?後で問い詰めないと。

 

「そもそも前提が違うんだよ。僕と君とでは」

 

「前提が違う…?」

 

この子は自分で考えようとしないタイプの人間だ。確か国民性ジョークで第二次大戦時の最強の軍隊を作るとしたらアメリカの総督、ドイツの将校、日本の兵士と言われてるがこの子はそれに当て嵌まってるね。何も考えずこうすれば叶うといわれたからやっている。

 

「ラインハルトによる黄金練成はどんな願いでも叶えてくれる。それは確かに事実だ。だけどね、僕は彼に魂を売っていないし、そもそも叶える願いの前提が破綻してる。だって彼の願いが叶うことが僕の願いでもあるんだから」

 

水銀の恋の応援と言うのも在るけど、それは黄金練成を使って叶えるようなものではない。だから願いを叶えるのにスワスチカを開く必要性を感じない。

 

「信じられないわ。それじゃあ、貴方は何のためにこんなとこまで来てるのよ…」

 

お、敬語じゃなくなった。そっちが素か。それにしても何のためにと言われてもね?、強いて言うならラインハルトと水銀の為。そもそもこれを言ったらおしまいだけど彼女が黄金練成を成就するのは無理があると思う。確か彼女の兄のトバルカインと彼女自身がスワスチカを開かねば彼女の望みは叶わないはずだ。しかもその上でその後の戦いも生き残らなければならない。

それはつまり五つ目が開くまでに(つまりあと三つ)二人で開いて、大隊長の内、殺人狂と彼らを気に入らなさそうな姉御に殺されない様にしなければならない。はっきり言って無理とかそういうレベルを超えてる。少なくとも今生きてる黒円卓の中で彼女は最弱に近い部類だろうしトバルカインは傀儡なのだから。

 

「何のためにと聞かれてもね。大層な理由なんてないよ。螢ちゃんみたいに兄が居るわけでもないし」

 

「ッ!?」

 

驚きと恐怖と焦り、4:2:4と言ったところだろうか?いや若干怒りも混じってるな。

 

「じゃあさ、望むならさ、手伝ってあげるよ」

 

悪魔の囁き。そう形容してもいいだろう。僕の依存対象はラインハルト、すなわち愛すべからざる光(メフィストフェレス)。そんな存在の影に手伝ってもらうなんて悪魔の契約より性質が悪い。自覚してるだけにそれはもう。

 

「ッ、結構よ!!」

 

そう言って彼女は僕から逃げるように立ち去る。それで良い、生き延びたいならそうすべきなのだから……

 

 

 

******

 

 

 

―――夜・諏訪原タワー―――

 

藤井蓮はボトムレスピットで司狼達と出会い別れた後タワーまで来ていた。

 

「よお、少しはやれるようになったか、ガキ」

 

「こんばんは、藤井君」

 

そして蓮は黒円卓の二人と出会い対峙していた。

 

「何のようだ。戦うってんなら容赦はしないぞ」

 

「ケッ、シュピーネ倒した位でいい気になるなよ」

 

「待ちなさい、ベイ。今日は話し合いに来たのよ。聖餐杯猊下が貴方に会いたがってるの。抵抗しなければこちらからは手を出さないと約束するわ」

 

これは譲歩でも交渉でもなく命令。断ればすぐさま二体一と言う不利な状況で倒されるだろう。だが、

 

「あんた等の誘いに乗る気はない。どうしても連れて行きたいなら力ずくでやってみろ!!」

 

「ハァッ!そうこなくっちゃな!面白くねぇ!!」

 

瞬間、ベイが右手を突き出し蓮に向かって動き出す。

 

(見える!)

 

ぎりぎりでそれを避けすぐさまマリィに呼びかける。そして次の瞬間には右手にギロチンを展開させ反撃を仕掛けようとすると、

 

「いい気にならない事ね藤井君」

 

淡々とした口調でされど剣戟は鋭く蓮を切り裂こうとする。とっさの回避は無理だと判断し、蓮は右手を突き出してギロチンで防ぐ。

螢の攻撃は単調でムラが無く、しかし型通り故に強力な攻撃。一方、ベイの攻撃は一撃一撃が重く故に隙もムラも多いがそれを補って余りある戦闘経験。まさに対極、だがしかし、故に対策も立てれず防御、回避、防御、防御、回避と後手に回り続け不利になる一方。

そんな状況でついにベイの一撃が蓮に当たりそうになる。回避も防御も間に合わない。くらえば致命的なのは確実。そうでなくともそこで動きが鈍ればますます不利になる。しかし一人の乱入者が蓮の危機を救った。

 

タァン!

 

一発の銃声。その銃弾はベイの頭を狙うように放たれたそれによって蓮は間一髪でベイの攻撃を回避する。

 

「てめぇ……」

 

立ち上がったヴィルヘルムからは、戦いを楽しんでいた時の薄笑いは消えていた。口調こそ静かなものの、激怒しているのは誰の目から見ても明白だった。

 

「クソガキがぁ……てめえよっぽど死にたいらしいな」

 

ヴィルヘルムが睨み付ける先、蓮の背後にいつの間にか背中を合わせ佇んでいた司狼が居た。

 

「お前…!」

 

「よぅ蓮、今のはちぃーっと危なかったんじゃねえの実際。そのへんオレに感謝の言葉とかないのかよ?」

 

「………」

 

蓮は何も言えずあきれ返っている。螢も突然現れた司狼に呆れと困惑を生み出していた。

 

(今日は厄日なんだろうか…)

 

半ば真剣に御祓いにでも行こうかと思う螢を無視して話は進む。

 

「まぁ、何はともあれこれで二対二って訳だ」

 

「馬鹿司狼!とっとと帰れ!!」

 

「嫌だね、オレが動くのをお前に止められる覚えはねえよ」

 

「おいクソガキ、何一人でラリってるんだよ」

 

「うるせえ、黙れ」

 

ヴィルヘルムが司狼に文句を言ったその瞬間、司狼は銃をヴィルヘルムに向け三発。問答無用とばかりに撃ち付ける。しかし、

 

「……おい、進歩のねえガキだな、お前も」

 

呆れと言うより、鬱陶しいといった風情で撃たれた弾丸を胸から取っ払う。当然だろう聖遺物を持つ相手に銃弾なんて効きはしない。

 

「一緒に戦ってくれなんて頼んでない。悪いことは言わないから早く逃げろよ!」

 

「全く、話聞けよ。お前は優等生同士、オレはチンピラ同士……おまえ、女丸め込むの得意だろ?二対二で丁度いいだろ。オレはあいつで、お前はあの嬢ちゃんとだ」

 

「でも司狼。お前じゃあいつ等には何があっても勝てない。いいからさっさと…」

 

「もう遅いぜ。今更逃がすとでも思ってんのか、これも前に言ったよなぁ―――」

 

一呼吸置きヴィルヘルムは呟く。

 

「俺を攻撃した以上、次なんかねえ」

 

賽は投げられた。この状況下で二対二の戦いになることは既に決まっている。

蓮と司狼はどちらか一人を二対一で即座に倒すか、一対一で片方が片方を倒すことである。

 

「フォローなんか期待するなよ」

 

「そりゃオレの台詞だっつの。喧嘩のケリは、どっちがこれに生き残るかで着けようや」

 

まるでどちらかが死ぬかのような言い草。それに蓮は顔をしかめる。

 

「じゃあテメエらよ……揃って死ね」

 

ヴィルヘルムが何かを投擲する。そして、常人でしかない司狼にそれを避ける手段は無いはずだった。

 

「舐めすぎだろ、お前」

 

しかし、司狼はそれを苦もなく反応し回避していた。それどころかヴィルヘルムの米神に銃を突きつけトリガーを引く。

その瞬間、場の空気は凍った。さっきまで場違いな闖入者でしかなかった司狼がこの場で一番異彩を放つものとなる。デザートイーグルの連射を受け、ダメージこそ無いが数歩後ろに下がったヴィルヘルムはサングラスが砕かれその素顔が晒される。そして無表情に呟く。

 

「レオン、気が変わった。そっちのガキはお前がやれ」

 

「そう言う事だ、蓮。気にするな、こっちも気にしないから」

 

「……分かった」

 

蓮は螢と、司狼はヴィルヘルムと図らずもその形で戦うことになった四人、ここから本格的な戦いの火蓋は切って落とされる。

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「まあ何にせよ、クリストフとやり合って命拾ったのは伊達じゃねえって言うわけか」

 

なかなかに楽しめそうだ。唯の雑魚だと決め付けてたのは早計だった。だが、

 

「それだけだ。随分と懐かしいじゃねえかよ、おい」

 

これは所謂、不感の兵士だ。壊れることを前提に性能限界を振り絞り、脳内はアドレナリンをだだ漏れにしてリミッターを無視した人間。今も昔も常に試みられてきた理想の一つだ。故に、

 

「お前、もう長くねえよ。死相が見えるぜ、ガキ。そうなって生き残った奴はいねえ」

 

「ああ、だから?そんなのは関係ねえさ。分かってるのは、オレはお前ら変態相手にある程度遊べるってこと」

 

そうして一呼吸置き宣言するように俺に向かって吠える。

 

「いや、もしかしたら殺(や)れるかもしれねえぞ」

 

面白い。法螺でも何でもそれを口に出せるだけたいしたもんだ。悪くない。

 

「いいねえ、その自信はどっから来てんのかは知らねえが、そう言ったんだ。殺(や)り合おうじゃねえか」

 

「さっき蓮は強いほうから潰そうと考えてたみたいだが、そりゃ違うよな。こういうときは、まず弱い奴からつぶすんだよ。つまり……」

 

「つまり?」

 

言うまでもない。そのためにこの組み合わせが生まれたのだ。コイツじゃ誰も殺せない。が、さっきの身体能力は異常だ。時間を稼ぐくらいなら幾らかは出来るだろう。そうすると、

 

「あのガキがレオンを殺すまでの間、お前は俺の足止めか?ははは、なるほど。意外に目端が利くじゃねえかよ。だが、幾つかミスってるな。あの坊ちゃんに女殺せるか疑問だし、元よりその前提は俺がお前を殺せなかった場合にしか通用しねえぜ、おい」

 

「どうかな、あいつは意外と容赦ない性格してるし。場合によっちゃあ、ガキでも遠慮しねえよ。んでもってオレは一言も…お前が強い方だとは言ってないぜ」

 

そう言った直後、目の前のコイツはデザート・イーグルを構え、乱射する。曲芸じみた射撃。横一直線にばら撒くように放たれる弾丸。そして賞賛すべきはそれが全て俺に命中する射線であること。だが、

 

「そんなチャチなもんで俺を殺せるって言いたいのかぁ!!」

 

馬鹿が、楽しむのは止めだ。コイツは徹底的に潰す。

 

「さあ、おっ始めようぜ!!」

 

 

 

******

 

 

 

―――ビルの屋上―――

 

「あれは確か…ヴァレリアが戦ったと言ってた人か。あんな動きが出来るとは意外だな」

 

アルフレートは一人独白しながらヴィルヘルムと司狼の戦いを見物している。其処は橋とタワーの中間地点ともいえる遊園地の近くにあったビルの屋上であった。どちらの戦いにも遠すぎず近すぎずの位置、状況次第でどちらにも介入出来る位置だった。

 

「まあ、こうなったならとりあえずは見物するだけだけど」

 

腕を組みながらこれから如何するかアルフレートは考える。スワスチカの開いてる数は現在二つ。アルフレートはラインハルトに依存している以上スワスチカの数によって魂の総量が変化する。今の段階では彼の魂はシュピーネにすら劣る上に活動しか使えない。故に出来ることは少ない。そこまで思考した所で一つ手段があったことを思い出す。

 

「ああ、あれなら使えるか。勝てないだろうけど人形を鍛えるぐらいは出来るか」

 

「全ての者にその右手、あるいは額に刻印を押させた。(Gedruckt wurde, oder auf die Stirn gestempelt, dass Recht fur alle Personen.)

そこで刻印がないならば物を買うことも、売ることも出来なくなった。(Kann nicht mehr Dinge kaufen, auch wenn Sie nicht uber, um dort eingraviert verkaufe.)

この刻印とはあの獣の名、あるいは数字だった。(Dies wurde mit der Nummer oder dem Namen des Tieres eingraviert.)

獣の数字(メム・ソフィート)666(サメフ ヴァヴ)」

 

そう言って詠唱を完成させる。聖遺物によるものではない。彼の本質の一端となる一つの能力。それは聖遺物を真似た物だが聖遺物の活動にすら劣る彼自身の魔術だった。本来ならばこれを戦いに使う事はないだろう。が、彼が今使える数少ない手段ではこれしか使える物がなかった。

 

「まあ、一応は霊的にも物理的にも同時に攻撃、防御できるだろうから物差し程度には役に立つはず」

 

彼を中心として大量に蠢く物体が現れる。それらは全て異質な獣であった。彼の使った『獣の数字(メム・ソフィート)666(サメフ ヴァヴ)』は劣化版聖遺物の加護を受けた物と言ってもいいものである。

存在の定義を予め定めておくことによって生み出された異質な魂を持つ生物。それらは霊的存在であると同時に肉体も持っており聖遺物を持つもの相手でも戦うことが可能な生物である(無論、その性能はかなり低く、良くて活動段階の相手までとしか戦えないだろうが)。

本来は獣を町に放して諜報を行わすために造られたのだが唯の人間でしかない司狼と形成に至ったばかりの蓮の物差しとしては十分な物だとアルフレートは判断した。

そして、その数は666匹(あるいは頭)。ある物は人であり鳥であり、またある物は鼠のような物もある。他にも異形の形として頭が三つある狼、尾が蛇の亀、羽の生えた馬などと神話上に出てきそうなキメラも存在したがそれらに大した実力などは無い唯の飾り程度の物であり、一般人には脅威であろうがこんな物はある程度魔道に身を修めていれば聖遺物持ちで無くとも簡単に屠れる位の存在だ。

 

「目的は現時点での実力の確認。後はライニを満足させれそうな才能があるか調べて来い。ああ、好きに死んで来い(・・・・・)。お前ら程度ならいくらでも造れるから」

 

いつもと違う口調になるアルフレート。しかし呼び出された男は気にするでもなく頭を下げる。

 

「畏まりました。我が主」

 

額に666(Nrw Ksr)の数字を持っていた唯一の人型の獣はすぐさま獣達に指示を与え、彼自身も含めて一斉に移動を開始した。

 

「せめてこの位は苦も無く倒して下さい。でなきゃ人形としては期待はずれも良いとこでしょうし」

 

元の口調に戻った今でも口元は僅かに歪んでいた。

 

 

 

******

 

 

 

―――諏訪原大橋―――

 

橋の上で戦っているのは蓮と螢だった。剣とギロチンをぶつけ合い互いに凌ぎを削りあいながら武器を振るう。

 

「はあぁ!」

 

「おおぉぉ!」

 

また一太刀、螢が蓮の体を斬ろうとし、蓮はそれを防いでそのまま押し返そうとする。

形勢は蓮に有利であった。現状の蓮は実力に於いて螢に勝っている訳ではないが、螢の目的は殺すことではない。故に創造を使えず螢はジリ貧の状態で蓮を動けなくしなければならなかった。しかし蓮は螢を殺すことを躊躇いはしない。そこに大きな差ができ、螢は段々と押し込まれていく。

 

「くらえっ!」

 

「くっぅ!?」

 

蓮の斬戟が螢の首を狙う。咄嗟に剣を突き出し防御するも螢は一気に態勢を崩し大きな隙を見せる。

 

(これで…終わりだ!!)

 

蓮は一瞬、ほんの僅かに躊躇いを見せる。態勢を崩した螢には間に合わない程度の躊躇いを…本当に殺しても良いのかと。

だが、迷うわけにはいかない。彼の敵はまだ大量に残っており今、螢を残せば確実に敵を倒せる機会はなくなる。

そう思いギロチンを首に向ける。一撃で仕留めきる為に。だが、

 

「いけませんねぇ、レオンハルト。せめて身を賭してスワスチカを開く位の気概を持たねば」

 

蓮の攻撃が防がれる。僅かな隙を見せねば殺せたかもしれないのにと、後悔すると同時に、防いだ相手を見て驚愕する。

 

「神父、さん……」

 

「ええ、藤井さん。こんばんは」

 

驚愕する蓮を無視し不敵な笑みを浮かべるクリストフ。だが驚く螢すらも無視して話し出す。

 

「それにしても、意外でしたね。貴方はこの場では手を出さないのではなかったのですか?」

 

「我が主はそのような事を誓った覚えなど無い。唯、今宵に於いて貴殿らと共に行動するつもりは無いと言われただけだ」

 

そう言った直後、暗闇から突然一人の男が現れる。その男は額に666と書かれておりその後ろには複数の獣が彼に従うように付き従っていた。それらの獣にも額や手の甲に数字が描かれている。

 

「フム、貴方達だけで私や彼らを殺せるとでも?たかが千にも満たない獣の分際で、ですか?」

 

「そこまで自惚れてはおらぬよ。主の命は実力を測ることだ。基より我らは造られた魂でしかないのだ。聖遺物を持つ者に敵う道理は無かろう」

 

そう言って数百も居る獣たちは蓮を殺そうと動き出す。クリストフや螢は狙われないが実際にすぐ傍を通り抜けたりしているので気分の良いものではないだろう。

 

「クソッ!」

 

右手のギロチンを振るい襲い掛かる獣を薙ぎ払う。一番近くに居た数匹の獣の首を断ち切る。だが他の獣はそんな事気にせずにそのまま突撃する。咄嗟に振り切った直後な為もう一度ギロチンを振るうことも出来ず止むを得ず左脚で蹴り飛ばす。

すると上から何十羽もの鳥が一斉に襲い掛かる。

 

「邪魔だぁー!」

 

蓮はむしろ襲い掛かる鳥に向かって跳び上がり斬戟を浴びせる。空中に跳んだ事でまともに身動きなど取れない。そこを狙って多くの獣が待ち構え、飛べる鳥類は攻撃を浴びせようとするが蓮はそのまま勢いをつけて落下し、それを利用してギロチンを放つ。

 

「うおぉぉぉー!」

 

ズドン!まさに音に表現するならばこの音が適切だ。一見すると鈍い音だがその音が攻撃の重さを物語っている。その一撃により百以上の獣が斬られ、あるいは吹き飛ばされる。

螢はその一撃の威力に驚き、クリストフは笑みを深め、遠くで見物していたアルフレートは喜んだ。全員が思った事は予想以上の成長だということ。この早さで成長するなら或いはラインハルトに届き得るのではないかと誰もがそう思い、螢は警戒を一層高め、クリストフは己の策が成功出来るかもしれないと考え、アルフレートは人形の出来に感嘆していた。

 

「これ程とは、我らでは物差しには釣り合わなかったと言う事か?」

 

「舐めてんじゃねえ。お前らみたいな唯の獣で相手になるか」

 

男が呟きそれに答える蓮。ギロチンによって屠られた数はおよそ百五十。中には未だ生きているものもあるが、それとて直に消滅(・・)することだろう。

 

「なッ…!?」

 

屍骸の消滅に驚く蓮。しかし、その魂は別に蓮に飲み込まれた訳でも男やアルフレートの元に集まったわけではなかった。ただ消滅しただけ。異形の魂は現界に耐え切れずに崩壊したのだ。

 

「我々の魂は不完全か。フム、魂の定着が出来ないのであれば我々はやはり失敗作の烙印を押されたということか。では、せめて潔い死に様を見せるとしよう」

 

「何なんだ…お前らは?」

 

「我々は所謂、人造の生命体であり聖遺物に似た加護を受ける物とよ。もっとも不完全な代物だが」

 

「そうじゃない…そんなことを聞きたいんじゃない!何であんた等はそんなに平然としてられるんだ!!」

 

蓮には分からなかった。何故そんなにも平然と命を投げ出すのかも、何故それを命じた者を怨まないのかと。

 

「理解できないか。だとしても、我らは主に忠を尽くすだけのこと。我らは主によって造られたのだから」

 

男は懐からダガーを取り出す。勝てないことは理解しているが、別に彼は勝ちにこだわらない。彼らに求められたのは藤井蓮という存在に対する物差しの役割。故に彼は自ら死に向かう。

 

「行くぞ、ツァラトゥストラ。我が主の為に糧となれ!」

 

死を覚悟しての一閃。自らの命ごときで物差しが出来るのと言うなら命など安いと言わんばかりに。

 

「ッ…はあぁぁ!」

 

その鬼気迫る迫力に一瞬詰まるが襲い掛かってくる以上は反撃する。そう思いギロチンで首を狙う。しかし、確実に落とせるだろうと思った首は外れる。首ではなく男は体を左側にずらしわざとその身を中てる。左肩から腕を断たれるが右手に握ったダガーを蓮に向かって刺そうとする。

 

「…ガッ……ツアァ……」

 

だが、向かっていったダガーが蓮に刺さることはなかった。

蓮のギロチンは狙いを外したがそのまま軌道を横に変え体を胴体から断ち切った。

 

「ハ、ハハハ、やはり…私、ごと、きでは…一太刀、すら届かぬ、か…」

 

男は不安定となった肉体のせいか魂が消滅した。それでも蓮は警戒を解かない。何故なら、

 

「なるほど、これほどまでとは…やはり恐ろしい成長速度ですね、藤井さん」

 

「だからこそ、ここで討ち果たすべきでは、聖餐杯猊下」

 

ここには敵である螢とクリストフがまだ待ち受けているのだから。

 

「お前らは何も思わないのかよ」

 

蓮は敵であり本物では無いとはいえ二度目の人を切り殺した。その感触は先ほどの獣や前に殺したシュピーネとは全く感覚が違っていた。獣には意思が無かったから、シュピーネには香純を救うと言う目的があったから。

 

(だけど、今回は違う。自分の意思で、誰かを救うと言う目的が在った訳でもなく殺した。あの男には明確な意思が在った。自分を犠牲にしてでも俺を殺すと。それをただ向かって来たから(・・・・・・・・)殺した。)

 

その感触は重たく意思を感じる。達成感や爽快感よりも重圧を感じる。嫌悪感のようにも感じる。だがそのどれもが当て嵌まってるようにも当て嵌まってない様にも思える。

蓮は思う。こいつらは何も感じないのかと。

 

「藤井さん、嫌悪感や不快感でも感じましたか?それは乗り越えるべきことです。少なくとも我々に挑むのであれば」

 

「ええ、そうよ。私もとっくにそんな感覚通り越したわ。私達に勝ちたいと思ってるなら乗り越えることね」

 

「黙れよ。人を殺したことがそんなにも自慢できることか?あんた等は…あんた達はそんなことで自慢でもしたいのかよ!!」

 

蓮は怒りを感じる。殺したことに対する何かを乗り越える。そんな事するのがそんなにも偉い事なのかと。蓮はここで覚悟を決めた。僅かな時間だがそれでも明確に何かが変わった瞬間。黒円卓に対して躊躇うことはもうない。確実に斃してみせると。

 

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―――諏訪原タワー―――

 

蓮が獣達と相手をしている丁度その頃、ヴィルヘルムと司狼の下にも新たな人物が現れていた。

 

「ナウヨックス、テメェ邪魔してんじゃねえよ」

 

苛立ちを隠すこともせず声に出すヴィルヘルム。声を向けた先には少しだけ笑みを浮かべながら佇むアルフレートの姿があった。

 

「邪魔しに来たわけじゃないよ。ただ、彼に興味があったので。少し話したらすぐに下がるよ。

はじめまして、アルフレートと言います。君は…司狼君であってたかな?」

 

「人にもの尋ねるときは自分の目的言ってからって教わらなかったのかよ?正体言ってから聞けや」

 

「そこは名前じゃなかったかな?まあ、良いか。では改めて始めまして、アルフレート・ナウヨックス、ドイツ軍時代にての階級は親衛隊少佐。他に聞きたいことは?」

 

「じゃあ遠慮なく、お前さん…何だ?」

 

「?だから先程言ったでしょう。アルフレー…「御託はいいんだよ。オレが聞きたいのはそんなことじゃねえ、あんたは少なくとも人じゃねえだろ。いや、そういう事じゃないか。そこの中尉殿やあの女とも違う。なんていうか匂いだ(・・・)オレらと根本から違っていやがる」……へえ、やっぱり面白いよ、君は」

 

先程から浮かべていた微笑を深くし、狂気にも似た笑みを一瞬浮かべる。

 

「気に入ったよ、まあ会う機会があったら力を貸してあげてもいいね。でもまあ、今は…」

 

「おい、もういいだろナウヨックス。てめえのその戯言で俺を苛立たせんな。いきなり出てきてペラペラ喋ってんじゃねえよ。しかもまた会ったらだぁ?おいおい俺がコイツを生かすとでも思ってんのか、なあおい!」

 

ヴィルヘルムが吼える。チラリとアルフレートはそちらに顔を向け微笑のまま言った。

 

「彼から逃げれたらの話だろうね」

 

「ハ、その位やってやろうじゃねえか、力貸すとか簡単に言っといて後で後悔すんなよ」

 

「無視すんな、てめえらぁ!」

 

ヴィルヘルムが右手を突き出し突っ込んでくる。アルフレートはしょうがないとばかりに肩を竦めながら言う。

 

「はいはい、後は好きにして良いよ。すぐに引かせてもらうさ」

 

そう言ってヴィルヘルムの突撃に対し自身の一部を刃の形の影に変える。そしてそれがヴィルヘルムの影に突き刺さりヴィルヘルムが動きを止める(・・・・・・)。

 

「な、テメエ!?」

 

「確かルサルカちゃんも影を使ってたでしょ、それを真似てみてね。影踏み遊びならぬ影縫い遊びってね。もっとも拘束力なんて一瞬だけどね。じゃあねヴィルヘルムに司狼」

 

そう言いながら闇に溶け込むように消えていくアルフレート。ヴィルヘルムが完全に動けるようになったころには既に居なくなっていた。

 

「それじゃあ、まあ生き残ればあいつが何かくれるらしいし、それに期待してちょっとばっかし頑張ろうじゃねえか」

 

「おいおいそれじゃあまるで全然本気出してなかったみたいな言い草じゃねえかよ」

 

しかし、それは有り得ないことだ。司狼は常に本気だったし仮にそうじゃなかったとしてもヴィルヘルムに通用することは無い。だが司狼は特に意味の無いハッタリを続ける。

 

「案外そうかも知れねえぜ、実はオレには隠された力がある、って感じに」

 

「ハハ、そりゃおもしれえ。じゃあ、ぜひそうして貰おうじゃねえかよッ!」

 

 

 

******

 

 

 

―――諏訪原大橋付近―――

 

ヴィルヘルムから逃げてきた僕はまあ、獣の情報があるとはいえ人形の方も気になるので少しばかり寄ってみることにした。

 

「速い、いや逆か?僕らが遅いのか?遠くじゃ良くわからないね、やっぱり」

 

ともあれ覚醒は進んでるようだ。この調子なら黒円卓相手に勝ち進みスワスチカを開ききっとライニの満足する仕上がりとなってることだろう。もっともただ呆然と待ってあげるほど僕はお人好しじゃない。だからこそ『獣の数字(メム・ソフィート)666(サメフヴァヴ』を送り込んだんだけど。

 

「いや〜ものの見事に蹂躙されたね〜」

 

確かに全滅するだろうとは思っていたし、このくらいは倒して欲しいと思っていたが…まさか666を集結させてたNrw Ksrまでこうもあっさり倒されるとは思ってなかった。

自らの身を犠牲にしてまで向かったのに一太刀すら許されないとはね。僕が女だったら惚れてるだろう。いや、そしたらその前に水銀やライニに惚れてるかな?

 

「でも、やっぱりあの獣は失敗作だったな〜」

 

やはり魂が安定しない。人造だから仕方ないともいえるが魂が現実という違和感に押しつぶされてしまうから体という堅い殻が必要となる。だからこそ肉体が傷つけば魂が漏れ出し、次第に現実という外側に圧迫され潰されて崩壊する。誰が如何考えても失敗作だ。

 

「せめて魂が残れば僕という存在に魂を吸収させることも可能なんだけど」

 

そうすれば質が悪くてもスワスチカを人造の魂で開けただろうに。崩壊して魂そのものが消滅してるからそんなことも出来ない。まあ、出来ないことを嘆いても仕方が無い。

 

「さてと、次はヴァレリアとかな。まあ今の人形では勝てないだろうけど」

 

これは確定している事実だ。今の人形じゃ絶対にヴァレリアに勝てない。彼の鎧を貫けるならそれは創造位階のレベルだ。だけどまあ、暇だし遊んであげようかな。

 

 

 

 

******

 

 

 

―――諏訪原大橋―――

 

「あんた達を斃す」

 

俺はそうはっきりと呟く。殺しなんてやりたくは無い。だけどこいつらの暴挙を許せば世界が終わることになる。だから、俺はたとえこいつらを殺す事になっても、もう躊躇わない。

 

「いい覚悟です、藤井さん。ですがそれは例え親しい者に対してであったとしてもそう言えますか?」

 

「如何いう事だ?」

 

「ですから、単純な話です。よもや気が付いていないわけではないでしょう。教会の人間である私が敵なのです。それはつまり……」

 

教会の人間が敵…まさか、いやでも、そんなことが…

 

「テレジアに対しても同様に殺すことが出来るというのですか?」

 

「そんな…まさか…?氷室先輩がそんな事するわけ!」

 

「無い、と本気でそう言い切れるのですか?貴方は本当にテレジアのことを知っているのですか?学年の違う生徒など知らないことのほうが多いでしょうに」

 

確かにそうだ。俺は氷室先輩のことを良く知っているわけじゃない。友人ではあるし、昼食を一緒に食べるくらいには親しいつもりだ。だけど、それは全部俺から見た氷室先輩に過ぎない。氷室先輩から見れば俺は親しいつもりでいた道化に映っていたのかもしれない。

 

「そういうことです。貴方ではテレジアを救えない。例えどれほど努力しようとも貴方が敵である限りテレジアを救うことなど出来はしない」

 

「そんなことは無い!俺は先輩だって救っ…「救えるわけが無いでしょう!敵である貴方に!!」……」

 

絶句してしまう。笑い話だ。元の日常に戻るために戦ってるのに元の日常の一人が敵だなんて。

 

「世界は何時だってそうなんですよ。報われない、救われない、私達の様な凡才では救える者など高が知れている。だからこそ私はテレジアを救う。あの子達(・・・・)を救ってみせる。その為なら、例えテレジアが好いているであろう貴方が相手でも容赦はしませんし、私自身を犠牲にしてでも救ってみせる」

 

神父が構えだす。俺なんかよりも堅い信念、揺らぎを見せない瞳。何もかも俺なんかよりもずっと強い意志。だけど、だからこそ…

 

「だったら、俺はお前らの親玉を止めてみせる。その上で氷室先輩も救う。だから、そんな悲しい事言うなよ、あんたが死んだら氷室先輩だってきっと悲しむ」

 

そう言わずにはいられない。この人は強い、それは認める。だけどそれ同時に脆い。

 

「貴方は、ハイドリヒ卿を知らぬからそのようなことが言えるのだ。彼は恐ろしい方だ。だからこそ私も憧れた。彼のようになりたいと。

故に、貴方は負けぬと、勝つといいますか。この私に?我々に?貴方が?ははは―――愛を信じて?打倒すると?なんて眩しい!

美しく羨ましく妬ましく愚かしい!実に実に実に至高!」

 

「それで、そうして真似して最後にはメッキに喰われるのがお望みかい?ヴァレリア」

 

それは突然現れた。闇夜に影として現れた存在。存在はまるでそこには居なかったかのように、けれどはっきりと、それこそまるで全てを見られるかのように…

 

「貴方は…」

 

神父が呟く。その存在に恐れを抱くかのように、同時に何かを期待するかのように。

 

「全く、そんなこと言っちゃって、これを見たのが螢ちゃんや僕だったから良かったものの、エレオノーレ殿やゲッツ殿だったら不敬罪で殺されたかもしれないよ」

 

「このくらい多めに見てくださいよナウヨックスさん。それにハイドリヒ卿は御覧になられているのでしょう?」

 

瞬間、天が落ちてきた(・・・・・・・)。

 

「率直なご感想をお尋ねしたくありますね。どうでした?」

 

『悪くない』

 

「ええ、人形としては合格でしょう。それと、ラインハルト殿、お久しぶりです」

 

「黒円卓(わたし)に負けぬと。よくぞ吠えた。その魂、敵に値する。そしてナウヨックス、久しいな。カールは元気かね?」

 

彼らは世間話でもするかのように、いや実際その程度なんだろう。俺も櫻井も重圧に耐え切れず押しつぶされてる。神父ですらそこに立つのがやっとの状況で、ナウヨックスと呼ばれた喫茶店で出会った敵は何てことも無くただ話していた。

 

「名乗ろう、愛しい我が贄よ。私はラインハルト。聖槍十三騎士団黒円卓第一位、破壊公(ハガル・ヘルツォーク)―――ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。愛すべからざる光(メフィストフェレス)……などと卿の縁者に呪われ(しゅくふく)た、曰く悪魔のような男らしいよ」

 

「彼が名乗ったのなら僕も名乗らねばならないね。僕はアルフレート・ヘルムート・ナウヨックス。元ナチス・ドイツ|親衛隊(SS)少佐。ラインハルト殿の腹心にして影―――もっともこの名も偽名に過ぎないが」

 

光と影。形容するならそれ以外に当て嵌まることのないであろう表現。そしてマリィが光であるラインハルトを目にして恐怖を感じていることが分かる。そして俺とマリィは同時に呟く。

 

「「こわい……」」

 

ならばどうする?マリィがこわいと感じ俺にもその感情が伝播する。恐怖を感じた人間がすることは大別すれば二つしかない。

 

「逃げるか、あいつを…」

 

この恐怖の根源を…

 

『一刀のもとに断てばよい』

 

同じ獣でも先の666とは違う。本物の獣であるラインハルトの重圧に立ち向かい構えそして討つ。そう判断し動こうと構えた直後、

 

「調子に乗るな、人形。暴走して作り変えたところで(・・・・・・・・・)、脱皮した所(・・・・・・・)で今のお前がライニに歯向かうなんておこがましい。いずれ超えようとも今から死に逝くな、お前はあくまであいつの(・・・・)の人形でその娘(・・・)の玩具なんだから」

 

踏み抜かれる。地面に這い蹲らされる。影が俺の体を貫いて縫い付けられる。邪魔だ、今のコイツじゃ俺に勝てない。縫い付けられてるのはあくまで唯の影だ。かき消せる。

今ラインハルトを斃さねば次の機会が訪れない。先ほどまで感じたラインハルトの重圧も程よいプレッシャーに変わっている。今を逃すわけには行かない!だから、お前は…

 

「邪魔するなぁー!!」

 

「ッ!!」

 

吹き飛ばす。所詮コイツは雑兵だ。俺はナウヨックスの拘束から抜け出し、全力でラインハルトに向かいギロチンをあいつの首を断ち切るために疾走する。

 

「ナウヨックス、拘束などする必要は無いよ。カールの事だ、こう考えているだろうよ…戯れろ、せいぜい可愛がれと」

 

「ッ!?」

 

皮一枚、髪の毛一本、断ち切ることも出来ずに俺の刃はラインハルトに何の痛痒も与えられない。力も覚悟も恐怖に対する克服もした。だけど、それを何一つ意味を成さないかの様に跳ね除ける。

 

「恐れでは私は斃せぬよ。カールよ、私なりの愛し方をこの女に教授するが、よかろうな」

 

「いいのでは、彼も貴方の愛は認めているのですから」

 

「では―――私は総てを愛している。それが何者であれ差別はなく平等に。私の業(あい)とはすなわち破壊だ。総てを壊す。天国も地獄も神も悪魔も、森羅万象、三千大千世界の悉くを。

ああ、壊したことがないものを見つけるまでな。卿はどうだ、私に壊された(だかれた)ことがあったかね?知りたいな」

 

「ならば一度抱いてみれば良いよ。君に抱かれて喜ばない女性なんていないだろう?」

 

ビキリ、とギロチンに深い亀裂が走った。マリィが…壊される…

 

「やめろオオオオォォォッ――――――!!」

 

「卿も怒りの日の奏者なら、楽器のなかせ方は心得ることだ、ツァラトゥストラ。なに、すぐに返してやろう。もっとも、別の男に抱かれた女を、再度受け入れる度量があればの話だがな」

 

しかし、俺の絶叫は意味を成さずラインハルトはそう言って素手で、マリィを砕ききった。それと同時に俺の目に映ったのは、ラインハルトの腕に抱かれて呆然としているマリィだった。死ぬのか…こんな所で…俺は…

 

「安心しろ、人形。まだお前は死なない、死ねない。運命の束縛は今始まったんだから」

 

沈んでいく…俺の意識が沈んで、いく……

 

 

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