インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#64
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それは夏休みも残り少なくなった、千冬と真耶が休暇を取り、空が光の無い目で仕事し続けていた日から数日後の事だった。

 

「招待状…ですか?」

 

「ああ、そうだ。」

 

簪の問いに鷹揚に答える千冬。

同じくその場に居る一夏、箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラの六人も簪同様に不思議そうな表情を浮かべている。

 

 

「明日の朝、九時に迎えのバスが来るからそれまでに準備をしておくように。…と言っても、ISと身柄さえあればそれでいいとの先方からの御達しだ。」

 

「一体何処からのなんですか?」

 

箒が代表して皆が気になっている処を訊ねた。

 

「それはな、―――」

 

 * * *

[side:簪]

 

目的地に着いたのはちょうど((正午|ひる))を少し過ぎた頃だった。

 

多少は長時間移動の事も考えているらしく広めに取られている座席間のスペースのおかげでエコノミークラス症候群とは無縁だったけど、それでも足腰は固まり気味に。

 

学園の整備科建屋とアリーナを合体させたような建物の傍らで下車した私たちはめいめいに伸びをしたりして体をほぐしていた。

 

と、そこに近づいてくる足音。

 

 

 

「ようこそ、槇篠技研へ。」

 

「―――――――――!」

 

出迎えてくれた金髪でカジュアルなブルーのサマースーツを着た女性を見て、箒、セシリア、ラウラ、シャルロットが固まった。

まるで、あり得ないモノを見てしまったかのように。

 

…どうしたのかな?

 

「それはね〜、あの人が((銀の福音|シルバリオ・ゴスペル))の操縦者だったからだよ〜。」

 

こっそりと本音が私に耳打ちしてきた。

なんで本音が居るかと言うと私の打鉄弐式の整備担当という名目で連れて来たからなんだけど。

 

 

「へー。」

 

そっか。あの人が臨海学校の時に暴走して空くんを殺しかけた((銀の福音|シルバリオ・ゴスペル))の―――――って!

 

 

「元気そうだな。」

 

「ええ、おかげさまで。」

 

うぅ、織斑先生が談笑してるせいで驚くタイミングが取れない………

 

「ねえ、アレ誰?」

 

鈴が固まってる私に声をかけてきた。

 

「ええと、((銀の福音|シルバリオ・ゴスペル))の操縦者だって。」

 

「へぇそうなん――――ええっ!?」

 

(正しくは又聞きだけど)私が告げた事実に驚きの声を上げる鈴。

 

「ん、どうした?」

 

「ああ、そういえばそっちの子たちとは直接の面識は無かったわね。折角だし、自己紹介しておきましょうか。」

 

その人は私たちの前に立つ。

 

「元((銀の福音|シルバリオ・ゴスペル))の((専従試験操縦者|テストパイロット))、ナターシャ・ファイルスよ。」

 

よろしくね、と微笑みかけてくるファイルスさん。

 

「さて、立ち話も何だし中に入りましょうか。副所長から案内するように言われているし。」

 

こっちよ、という声かけの後に建物の中へと入ってゆくファイルスさん。

私たちはその背中を追って、中へと入る。

 

最後尾は最後まで固まっていた織斑君だった。

 

 

 

案内された先は一階の奥にある結構な広さの応接室だった。

 

 

 * * *

 

「さて、まずは面倒な事から済ませちゃいましょうかね。」

 

私たちが応接間に通されてから程なくして副所長の槇村さんがやってきた。

 

その手に三つのA4サイズの書類が入る封筒を持って。

 

 

 

「織斑一夏くん、篠ノ之箒さん。」

 

「はい。」

 

「あなた達二人には書類上だけれども槇篠技研の所属になってもらう事になったわ。」

 

「…ハイ?」

「それは、どういう事でしょうか。」

 

首をかしげる織斑くんと理由を問う箒。

それでも差し出された封筒とボールペンはちゃんと受け取る。

 

「以前から『篠ノ之束の開発した第四世代型IS』の所属を何処にするかでモメていたのは知っているでしょう?」

 

「はい。」

「ええ。」

 

「その件について――」

「束さんが技研の資材と資金で作ったんだって言ってあげたんだよ。ついでにそこで次世代機の研究開発をやってる事もオマケして。」

「――あら?」

 

聞き覚えのある声に私たちは一斉に天井の通気ダクトを見上げる。

 

けれども声がしたと思われる方向には誰もおらず―――

 

「ふっふー、引っかかったね。」

 

圧縮空気の音を伴って私たちが入ってきたドアが開く。

 

そこには…

 

「やっほー、みんな。おっひさー。」

 

白衣を羽織った、篠ノ之博士がそこに居た。

 

「さてさて、みんなに重大発表がありまーす。」

 

ぽかーんとする私たちと頭が痛そうにする織斑先生の前、槇村さんの隣まで来ると、先ほど私たちが見つめた通気ダクトがおもむろに開き――

 

『祝 就職』

 

「正式に、槇篠技研にお勤めする事にしましたー!」

 

まるでくす玉のように開いたダクトから紙吹雪と一緒になって降りてくる。

まるで掛け軸のような達筆な文字が意味も無く腹立たしいけど。

 

「なん、だと……!?」

 

表情が固まる織斑先生。

 

「にしし、まあ結局やる事は変わらないんだけどね。」

 

「束が、就職だと………!?そんなバカな、今日は世界最後の日なのか!?」

 

 

 

「それじゃあ、一夏くんと箒さんはココにサインをお願いね。一応、諸書類にも目は通して。」

 

「はい。」

「判りました。」

 

織斑先生と篠ノ之博士が織りなす((混沌|カオス))な空間はとりあえず置いておいて手続きをさっさと進める槇村さんと織斑くんと箒。

 

程なくして…というか所属についての書類数枚に二人がサインをすれば手続きの為の書類作成は終了。

 

「それじゃあ、ナターシャさん。先導よろしく。」

 

「了解。それじゃあみんな、ついて来てね。」

 

「あ、あの…織斑先生は………」

部屋を出ようとするファイルスさんをシャルロットが呼び止める。

完全に織斑先生を置いてく前提になってるから、それでいいのかって意味で。

 

「折角だから幼馴染同士のじゃれ合いを存分に楽しんでもらえばいいと思うわよ。」

 

「………そうですね。」

 

ちら、と入り口付近から部屋の中の様子を見る。

 

現実を否定しようとする織斑先生と自慢げな篠ノ之博士という何ともカオスな空間にシャルロットは納得し、私たち八人は部屋を出て行く事にした。

 

 

 * * *

 

一時間ほど経って、研究棟を廻り終わった私たちは最上階にある食堂で――

 

「さて、これで一回りしたけど何か聞きたいこととか有る?」

 

休憩兼質問タイムを迎えていた。

 

「宜しいですか?」

 

「オルコットさん、どうぞ。」

 

先陣を切ったのはセシリアだった。

 

「他にも研究棟らしき建物はありますのに、何故『一回り終わった』なのです?」

 

それは私も思った。

 

他にも研究施設らしい建物は一杯あり、かなりの敷地面積があるのに見て回ったのは最初に入った一棟の中だけ。

 

「ああ、それは((槇篠技研|ウチ))で現行のISを取り扱っているのが((IS技術開発棟|ここ))だけだからよ。」

 

 

「現行の、IS?」

 

意味がよく分からないので思わずなぞるように呟いた。

 

「そう。現行の、戦闘用パワードスーツとしてのISはここだけ。あっちの棟…ほら、あの((射出台|カタパルト))の隣のアレ。あそこでは宇宙開発用のISの技術開発をやってるわ。むこうはIS関連技術の他分野への応用の為の研究棟。」

 

ファイルスさんの指す方向を見たらちょうどカタパルトから何かが打ち出された処だった。

 

「今、何かが射出されたようだな。」

 

「ラウラ、なんだったか判る?」

 

「いや、ここからでは流石に遠くてな。人型に近い形状はしていたと思うが…今のは何なのです?」

 

目撃できたラウラにシャルロットが問いかけ、そこまではラウラも判らなかったみたいでファイルスさんに尋ねる。

 

「それじゃ、実際に行ってみる?」

 

脈略も無く、いきなりそんな声が私たちに投げかけられた。

 

「あ、副所長。」

 

「案内御苦労さま。ここからは私が引き継ぐから、あなたは福音の所に行ってあげて。」

 

「ハイ。それじゃね。」

 

ひらひらと手を振ってから去ってゆくファイルスさん。

 

けど、私たちにとって大事なのは別の所にあった。

 

「福音がここに有るんですか?」

 

「ええ。といってもコアだけで機体はウチが新造したモノだけどね。さ、カタパルトの所に行ってみましょうか。」

 

体よく流された気もするがシャルロットやラウラの興味はさっきの『射出物』に移った様子。

 

「さ、付いて来て。」

 

「はーい。」

 

「うん、元気でよろしい。」

 

なんだか、遠足みたいだった。

 

 

「―――本音、」

「――――((承知|わかってるよ))。」

説明
#64:予期せぬ再会
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