5人の夏 ―第二幕―
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     第二幕

  「本当にひかちゃんってば、勝手に約束するんだから。まず相談してよね。」

  「っていうか、ゆみちゃんもそうじゃん。人の事言えた立場?」

そう言って2人は吹き出した。

  「やっぱりうちら実の兄弟なんだよ!考えてることホント一緒!」

ゆみの言葉にひかるもうなずいて、

  「だよだよ!ここまでくるとねえ。ホントあきれる。」

とまた笑う。

  「こうなったのもきっと運命だよ。4人で行こうか!」

   「そうだね!よし、決まり!」

ひかるはさっそく竜一に電話を、ゆみは雅也にメールをおくる。

出発はあさっての午前7時。持ち物は、5日間分の宿泊費と、千円分のおやつ(バナナはおやつに入らない)。そしてあとは各自必要だと思われるもの。 

    「かなり適当だね…。」

竜一はかなり心配そうに呟く。

    「それじゃあ、あさって。車よろしくお願いします!」

ひかるは笑顔で電話を切り、隣りではゆみが雅也のメールの返信をみて笑顔でうなずく。

2人はお互いにアイコンタクトで

    (それじゃあ帰る。)

    (うん。送っていくよ!)

と言葉(?)を交わし、立ち上がる。

 

げろ  げろろ  げろ   げろろ

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隅田川の橋の真中は、ゆみの借りる借屋とひかるの住むマンションのちょうど中間地点なので、いつもここで二人は別れる。わかれる前に少し話をするのは、毎回同じ。

       「楽しみだね、あさって。」

ひかるは呟きながら、隅田川に小石を投げる。

      「うん、すごく。って言うか、緊張しない?」

ゆみもひかるの真似をして、小石を思いっきり遠くへ飛ばす。

      「うん。かなりね。」

この夏キャンプは、2人にとって本当に特別だった。

それは、竜一や雅也が一緒について行くということだけでなく、2人にとってもっと大きな理由があった。

      「そういえばさ。」

ひかるはゆみに背を向けて話し出す。

      「東京の専門学校のこと、どうなったの?」

この数ヶ月間、2人が避けてきた話題。

ゆみはひかるの背中に笑いながら「どうして?」と聞き返す。

お願いだからその話はよして、という2人の間の無言の言葉。

しかしひかるはそれを無視して続ける。

       「来年の4月に、行くんでしょ?東京に。」

        「うん。」

遠慮がちにゆみが答えると、

        「そっか。雅也君とはどうするの?」

と、ひかるはわざと声のトーンをあげて笑顔でゆみに聞く。

         「…わからない。どうなるんだろうね。」

         「でもさ。寂しくなるなー。ゆみちゃん居ないとさ。

         「うん。」

         「夏休みくらい、帰ってきてね。」

         「もちろん。でもひかちゃんも来てよね。」

ゆみの言葉に、ひかるはくすっと笑って、

         「まだ半年以上あるのに、今すぐ旅立っちやうみたい。」

と言って笑い出した。

         「ほんとだね!」

と言って、ゆみもつられて笑い出す。

本当は2人とも泣き出したかった。でも、涙は見せたくないから、二人は笑っていた。

笑えばきっとなくこともないだろうから。たとえひきつった笑顔でも。

昔からずっと一緒だったから、素直になれなかったのかもしれない。

ホントの兄弟みたいに育ったから、一緒にいるのは当たり前だったから、本当は離れ離れが怖いのに、強がっていたのかもしれない。

         「…それじゃ、おやすみね!ひかちゃん。」

ゆみが軽く手を上げ、ひかるはうなずいて手を上げる。

背中を向けて歩き出そうとするゆみの背中に、ひかるは小さく

         「おやすみ、ゆみちゃん。」

とささやいた。

きれいな夜空を、小さな光の粒となって横切る小さな飛行機。

隅田川の蛙が、今日はどことなく寂しげだった。

 

 

 

         

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「5人の夏」の続きです

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隅田川 カエル 5人  

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