楽しく逝こうゼ?
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「うぅ…や、やめるんだマックレーン…赤いコードはブラフだ…やめろって……んぁ?」

 

…何やら危ない夢から少しずつ覚醒してボンヤリと開いた眼に飛び込んできたのは、鉄がむき出しっぽい天井に蛍光灯。

鼻につくのはなんか色々と混じり合った、どことなーく覚えのある薬品が混ざった刺激臭。

そして視界の隅でデスクに向かって何やらコンソールを叩く見覚えがありまくるむっさいオッサン。

暫くそれらの刺激を受け続け、やがて俺、橘禅は自分の居場所の答えへ辿り着いた。

 

「アースラの…医務室ぅ?」

 

「お?漸く起きよったか、ボウズ」

 

若干寝惚けてる俺の呟きが聞こえたオッサンが椅子から重たそうに腰を上げて俺に近づいてきた。

 

「気分はどうじゃい?」

 

カルテを片手に聞いてくるので身体を動かすと筋肉が少しばかり悲鳴を上げてくる。

筋肉「もうちょっと休ませて欲しいッス」って休暇を申請してきやがるな。

 

「…全身筋肉痛みてぇに痛いでっす…」

 

いや、動けないことは無いんだけど動かすと痛いんだよなぁ。

オマケに血が足りねえのかちょっとボンヤリする。

 

「かっかっか!痛いのは生きてる証拠じゃい、ありがたく思え」

 

俺の言葉を聞いたオッサンはカラカラと笑い出す。

おい、笑うんじゃねえよ。

いや、確かに生きてる証拠だからありがてえけどさ。

そこまで大笑いされっとなんかムカつくんだけど?

 

…つうか、なんで俺はここにいんだっけ?……確か……

 

「お前さんが担ぎこまれたときはビックリしたぞぃ?半年振りにその面を見たかと思えばまぁた怪我して運ばれてくるたぁな…」

 

あ〜、そうだ。思い出してきたぜ。

闇の書の闇とバトって((山吹色の波紋疾走|サンライトイエローオーバードライヴ))を使ったんだっけか。

んで、その反動で出てきた激痛で気絶したんだったな……あの痛みは本気で体がバラバラになるかと思ったぜ。

 

身体をベットから起こすとなにやら右腕に違和感を感じた。

そこに目を向けると俺の右腕には手首から肩に掛けて包帯が巻いてあった。

 

なんだこりゃ?

 

軽く動かしてみると筋肉痛とは違う鋭い痛みが奔る。

それに顔をしかめてると……

 

「あぁ、そこは今回の一番重症のところだ…まだ傷が塞がっとらんからあんまり動かしちゃイカンぞ?」

 

と、オッサンがカルテを閉じながら言ってくる。

……ありゃ?俺いつこんな怪我したっけか?

 

オッサンに話を聞くと、ここに運び込まれた時には手首から肩に掛けて一筋の裂傷が入ってたそうだ。

検査の結果はなにかしらの強いエネルギーが俺の腕の中の血管を駆け巡ったせいで血管が負荷に耐え切れなかったんだろうと。

……ここで出てきたなにかしらのエネルギーってのは間違いなく波紋の力だろうな。

波紋は体内の血液を操って作るエネルギーだから、血液とは密接な関係がある。

俺は今回、((山吹色|サンライトイエロー))の波紋を右手に全て集めて球体を作った。

多分、右手に波紋を収束するために血液が血管の耐久力を超えて身体を駆け巡ったせいで血液の圧力が腕を裂いたんだろう。

 

幸い破れた血管は腕の表面だけで傷痕は残るが後遺症はないとのこと。

まぁ、とりあえずは無事なわけだ。

 

しっかし((山吹色|サンライトイエロー))の波紋を使うとここまで反動が凄いとは…

さすが波紋の中で一番強いパワーなだけはあるってことか。

神からもらった修行法には極めれば反動はなくなるってあったし、もっと練習しねえとな。

それにゃまず……

 

「なぁ、ボウズ…」

 

と、俺が今後の練習について考えてるとオッサンから呼ばれたので顔を上げた。

 

「なんだよ?オッサ…」

 

見上げた先のオッサンの顔はとんでもなく真剣な表情だ。

そこにはお茶らけは一切許さないという無言の圧力があった。

 

「無茶すんのは別にいい…ガキのうちの特権だしな…それにその身体はお前さんだけのモンだからな…どう使おうがお前さんの自由だ」

 

「……」

 

俺を見下ろすオッサンは腕を組んで俺を諭すように話してくる。

その顔は長い年月を生きた大人の威厳と貫禄に溢れてる。

 

「でもな……お前さんが無茶して傷つきゃ、お前さんのために『泣く女』がいるってことだけは頭に入れとけ…」

 

そう言われて俺が真っ先に頭に思い浮かんだのは波紋の反動で海へ落ちそうになった俺を抱えて涙を零してた二人だ。

 

「……フェイトとアルフのことっすか?」

 

オッサンは何も答えずに俺を見つめ続ける。

 

「……あの娘達、すげえ必死だったぞ?フラフラになりながら腕が血だらけのお前さんを((医務室|ココ))に連れてきてな?

『ゼンを、ゼンを助けて下さいッ!!お願いですッ!!』ってボロボロと涙を零しながら俺に必死な声で言ってきたよ…

 その後もお前さんの治療が終わるまで、休まずにずうっと病室のドアの前で待ってたんだ……ありゃ将来、最高にイイ女になるぞ?」

 

オッサンはそう茶化すが、俺はそんなこと耳に入ってこなかった。

 

オッサンの話の続きを聞くと、俺が気絶した後フェイトとアルフは自分達のことを二の次にして俺をアースラまで連れてきたらしい。

皆が休むように言っても聞かず、ずっと二人で医務室のドア前で待ってたそうだ。

俺の治療が無事に終わると気が抜けたのか、ヘナヘナと腰を抜かしちまったらしい。

それでも、俺が問題無いと診断が出て、フェイトもアルフも涙は出ていたが、笑顔を浮かべてたそうだ。

 

それを聞いて俺に沸いてきたのは嬉しいとかの感情じゃなくて……情けなさだけだった。

 

「…あいつらに……心配、かけちまったな…」

 

なぁ〜にやってんだかな俺は……町の平和を守っても、((女|アイツ等))を泣かせてりゃ世話ねえよな…ホント……情けねえ…

俺は余りの情けなさに頭を抱えて項垂れる。

 

「ボウズ…どうせ無茶すんなら、女も泣かせないでやりたいこともやる…そんぐらいの無茶をやんな…」

 

俺が頭を上げるとオッサンはさっきの表情から一転して朗らかに笑ってる。

 

「……それ、すっげえ難しくねえッスか?」

 

要は今回みたいな無茶しても倒れないであいつ等を安心させろって事だろ?

そんなグレートな芸当できたら今回も心配させてねえと思うんだが……

 

だが、オッサンは俺の言い分なんぞまるで無視して豪快に笑う。

 

「かっかっかッ!!難しくない無茶なんぞ無茶とは言わんよッ!!だからこそ、やる価値はあるだろ?」

 

……あぁ、確かにそうだわな。

どうせ無茶やるならトコトン無茶やってやんなきゃな。

まさか医務のオッサンに教わるとは……大人にゃ敵わねえな、ホント。

 

「…ウッスッ!!次があったらそうしまッス」

 

俺は決意を改めて、医務のオッサンにしっかりと頷く。

まぁ、無茶するようなことはないほうがいいんだがな。

 

「おうおう、精々頑張んな……まぁでも、無茶せんに越したこたぁねえからな?死んだら元も子もないわい」

 

それは激しく同感です。

 

その後は軽い検査をして筋肉痛を抑える薬と血を補う薬をもらって医務室から出た。

俺はフェイト達にお礼と謝罪をしようと思ってアースラの中を探したんだが…

 

「へ?全員地球にいるんすか?」

 

途中で会ったアースラのスタッフさんに聞くとフェイト達はアースラから一旦降りたらしい。

今はリンディさんとエイミィさんがアースラで仮眠を取ってるだけで他の皆は地球に行ってるそうだ。

何のために地球に行ったかはスタッフさんも聞いてないとのことだ。

 

「…わっかりました。そんじゃ俺も地球に帰りますわ」

 

リンディさん達は仮眠中だし、俺一人じゃアースラにいても意味は無えからな。

さっさと帰って寝るとしましょ。

 

「わかったわ、それじゃ転送ポートまで行きましょ?」

 

アースラのスタッフさんと一緒に俺は転送ポートまで向かう。

スタッフさんにポートを操作してもらわないと帰れないしな。

 

「それにしても無事でよかったわ。アナタ、腕から凄い血が出てたのよ?

 もうフェイトちゃんもアルフちゃんも凄い取り乱しちゃって……

 あなたが無事って判るまでは二人とも涙が止まらなくて大変だったわ。

 アナタが半年前に何も言わずに地球に帰っちゃった時もそうだったけど…

 あの娘達はアナタのこと本当に大事に、大切に想ってるわ。」

 

うぅ、改めて言われると罪悪感がマッハでやべえ。

自惚れかも知れねえけど、あいつらが泣く大半の理由が俺にあるような…

 

「フフッあんなに一途なイイ子、それも二人同時に好かれちゃって…モテモテじゃない♪

 …あんまり女の子を泣かせちゃ駄目よ?と・く・に、無茶して悲しませるのは男として失格よ?」

 

スタッフさんは何か、腰に手をあてて人差し指を振りながら言ってくる。

何この「経験者は語る」みたいなオーラ?逆らえねえんだけど。

 

「う、ういっす…勉強になりました…以後、気をつけます…」

 

「よろしい♪頑張れ、男の子♪」

 

スタッフさんはそう言ってニッコリ微笑んでる。

な、なんつうかこっ恥ずかしいぜ…

なんか、この人もそうだけど女ってこぉゆう話題が好きだよなぁ…

それに後半は叱られちまったし……大人ってすげえ。

 

 

それとさっきからすれ違う人たちに「大丈夫か?」とか「心配したぞ?」とか声をかけてもらってる。

どうやらアースラのスタッフの方々も俺のことを心配してくれてたらしい、ありがとうございます。

俺は歩きながら転送ポートに着くまでスタッフさんと談笑してたんだが……

 

「それにしてもあの子……八神はやてさん、大丈夫かしら?」

 

……は?

転送ポートに着いたときに出たとんでもない言葉に俺は頭が混乱した。

 

「え!?は、はやてになんかあったんスか!?」

 

どおいう事だ!?

俺が気絶してる間に何があったんだ!?

 

スタッフさんの言葉に混乱しながら聞き返すとスタッフさんはキョトンとしてた。

 

「え?…あ、あぁッ!!そっか!!アナタは気絶してたから知らないわよね?

 アナタがアースラに運び込まれた後、八神はやてさんも気を失って倒れちゃったの。

 確か……原因は心労と疲労が重なったからだったと思うわ。」

 

て、てことは闇の書が実は生きてたとかゆう最悪のストーリーじゃねえんだよな!?

焦った!!超焦った!!

俺の知らねえ所で地球存亡を賭けた第二作戦がおっ始まってたかと思った!!

 

で、でもまぁ、冷静に考えりゃはやてが心労で倒れたってのは納得できる。

今日一日で自分が死にそうになったり、家族が目の前で消えたりとかなり苦しい一日だったからな。

まだ、9歳のはやてにはかなり辛かったはずだ。それで倒れても不思議じゃない。

むしろあんな風に戦えたのが不思議なくらいだ。

あれ?でも俺さっきまで医務室にいたけどはやての姿見てねえんだけど?

 

「あぁ、アナタはさっきまで医務室にいたのよね?はやてさんは守護騎士の人たちが自宅につれて帰ったの。

 彼女はアナタと違って身体は怪我が無かったから、帰宅許可と自宅療養許可が出たのよ」

 

俺が首を傾げているとそれを察したスタッフさんが教えてくれる。

なるほど、それで俺一人だけ取り残されたわけね……さ、寂しいわけじゃないんだからねッ!?ホントだからねッ!?

……ちょっと自重しよ…

 

「さて、それでは地球に転送するわ、準備はいい?」

 

「あっはい。お願いしまっす…ちなみに今、向こうは何時ですか?」

 

俺、時計持ってないからわかんねんだよなぁ…携帯もバッテリー切れてるし。

外を見ても宇宙空間じゃ昼か夜かわかんねえっつの。

もし夜の12時過ぎてたら……お袋の説教は覚悟しとかねえとな…ハァ…

 

「えーと……向こうは朝の8時ね…あ、ちなみに雪も降ってるわ」

 

((Holy shit|なんてこったい))!!説教ってレべル超えてるじゃんッ!?

またお袋にブチのめされなきゃならんのかドチクショーッ!!

極めつけにゃクソ寒い雪の中歩いて帰れとかドンだけ鬼畜なんだよッ!?

 

俺の悲しみにくれた心境が伝わるわけもなく、俺は一瞬で海鳴公園に転送された。

現在、テスタロッサ&ハラオウン家には誰もいないので転送できない結果がこれだ。

 

「…帰ろ…帰ってほうれん草でも食べて鉄分補給しよ……ハァ……」

 

重い溜息を吐いて、頭に積もる雪の冷たさに身を強張らせながら俺は公園を出る。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

帰る道中、街は見事なまでに銀世界だった。

寒さに震えながら雪を踏みしめて自宅を目指していると……

 

「ん?……あれは?」

 

俺の少し先をはやてが車椅子に乗りながら懸命に車輪を回して走ってた。

だが、雪に車輪を取られて思う様には進んでいない。

つうか、あいつ何してんだ?一人でこんな雪の中…

はやての周りにははやてを守るはずの守護騎士が一人もいなかった。

ただの買い物にしてもはやて一人をこんな雪の中に放り出す筈が無い。

何より一番おかしいのははやての表情だ。

とても切羽詰まっている…っていうか、余裕が無い顔だ。

 

これはさすがにおかしいと思って、俺は筋肉痛を我慢しながら走ってはやてに駆け寄る。

 

「おいっ!!はやてッ!!」

 

「あっ!!禅君ッ!?怪我はもう大丈夫なんかッ!?」

 

心配してくれんのはありがてえが、今はお前のほうが余裕ないだろ?

 

「俺のことはいいッ!!それよりどぉしたんだよ、こんな雪の中一人で何やってんだ!?」

 

俺がそう聞くと、はやての顔がまた焦りに包まれていく。

 

「そ、そや!もう時間がないねん! リィンフォースが!!」

 

「…ん?りぃんふぉーすって誰だ?」

 

初めて聞く名前だけど守護騎士にそんな奴いたっけ?

だが、俺の質問には答えず、はやてはまた車椅子を動かそうとする。

 

「早くせえへんとリィンフォースが!!」

 

あー…、こりゃマジで一大事みてえだな。

ったく、こっちはまだ病み上がりだってのによ…。

 

「ほら、行くぞはやて」

 

俺ははやての後ろに回って車椅子のハンドルを持つ。

 

「え?」

 

いやいやいや、なんでキョトンとした顔してんだよ?

急がないとって言ったのアナタですよ?

 

「俺が押した方が速いだろ……事情は走りながら聞かせてもらうぜッ!!行き先は!?」

 

「あっうん!!あそこの山の上の広場や!!頼むわッ!!」

 

「うっしゃー!!行くぜえッ!!」

 

俺は筋肉痛を我慢しながら車椅子を押して走る。

さあて、こんなに必死になるのはどんな事情か、聞かせてもらいましょぉか?

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「あー…走りづらいぜぇっ!!」

 

「禅君、頑張って!!」

 

雪の道を俺+車椅子で跳ばす。あ、もちろん安全運転だから。

はやてを落とさないように注意した上での最速スピードだ。

 

「てか、お前はこの道を一人で行こうとしてたのかよ!?」

 

「あ…」

 

「まったく、無茶にも程があんだろ…」

 

俺の言葉ではっとしたはやては恥ずかしそうに俯く。

そんな当たり前のことが頭に入らないくらい急いでたってことなんだよな…。

一体全体何があったんだよ?

 

「そんで!?そのリィンフォースってのはどんな奴なんだよ!?」

 

筋肉痛を我慢しながら押して走ってるから声が荒っぽくなっちまったけど許して。

んでまずはリィンフォースって奴のことが聞きてえ。

そんな名前の奴は闇の書の闇とバトッた時にいなかった筈だがなぁ。

 

「そ、そやったな!!えーと、リィンフォースはなぁ…」

 

はやてが話してくれたのは中々にヘヴィな話だった。

 

まずリィンフォースとは闇の書の意志そのもので闇の書の機能を司る管制人格の「第5の守護騎士」と呼ばれる存在。

戦う時には主と融合して戦う「融合騎」ユニゾンデバイスというらしい。

俺達が病院の屋上で対峙したときのはやてが変わった女がリィンフォースではやてはあの時彼女の中に入っていたそうだ。

はやては闇の書に飲まれたときにその闇の書の中で彼女と対話して強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエールという意味を込めてリィンフォースという新しい名前を授けた。

闇の書から意識が戻って出てきたときにはやての髪の色と瞳が変化してたのもリィンフォースとユニゾンしてたからだと。

 

はやてはリィンフォースが歴代の主に勝手に改変されて望まない破壊を繰り返して苦しんでいたこと、何とかしてリィンフォースを助けてあげたいこと、様々なことを話してくれた。

そもそもはやての脚が動かなかったのは、リィンフォースのバグとやらが原因だったそうだ。

 

大事な家族がお別れも言わずに消えようとしてる。

目が覚めてそれを知ったはやては居ても立ってもいられず、家を飛び出した所で俺と遭遇して今に至ると。

 

…そんなのってねえよ…歴代の主に勝手に改変されて望んでもいねえ破壊を繰り返させられてきて…しかも改変した主達は勝手に死んでいって…

そんな悲しいことを何度も何度もずっと繰り返させられて…やっと、やっと優しい主に巡り会えたのに、その主を守るために自分を殺すしかないなんて…

 

 

あんまりにも悲しすぎるだろ……

 

「うちは、うちはもう、家族を失いたくない!あの子にも幸せになって欲しいんや!

 今まで辛い思いした分たくさん幸せに……せやから、うちは絶対にリィンフォースを止めなアカンねん!

 …だから、お願いや、禅君…病み上がりで辛いんはわかっとるけど…うちを広場まで連れてって欲しい!!うちの一生のお願いや!!」

 

はやては凄い必死な声で俺に訴えかけて頭を下げてくる。

普段ならどぉってぉことない道だが、車椅子を押している俺も筋肉痛のハンデがあって正直キツイ、はやて一人じゃ絶対に間に合わないだろう。

 

つまり、俺達が間に合うかどうかは全部俺に懸かってるということだ。

 

……上等ぉじゃねえか…やってやんよ。

 

筋肉痛が辛いだ?

そんなみみっちい事言ってる場合じゃねえだろぉが『橘禅』!!?

目の前のダチが大事な((家族|ファミリー))失いそうになってんだぞ!?

ここで気張らなきゃいつ気張るんだよッ!?

 

悲しい別れなんかさせてたまっかよ……そのリィンフォースって奴がバグってて生きれないってんなら……俺が『治して』やらあッ!!

 

「…わかった!はやて、スピード上げるぞ!しっかり捕まってろ!」

 

俺は車椅子の持ち手を握りなおして車輪横の空いてる空間に足を乗せる。

腕は『((隠者の紫|ハーミット・パープル))』で持ち手ごと厳重に括り付ける。

車椅子二人乗りモードってな感じだ。

もうはやてを『安全』になんて言ってられねえ。

多少無茶だが、マッハスピードで目的地まで行くぜッ!!

 

「さぁ出番だぜ、『クレイジーダイヤモンド』ッ!!?」

 

俺は『クレイジーダイヤモンド』を上半身だけ具現化して、車椅子の『((車輪|ホイール))』を握らせる。

多分、正面から見たら『((愚者|ザ・フール))』そっくりなんじゃねえか?

 

「ぜ、禅君?なにを…」

 

はやては今『クレイジーダイヤモンド』を出す理由がわからねえみてえで困惑している。

だから、俺はしっかりとはやてに((忠告|・・))してやる。

 

「はやて……振り落とされたくなきゃ、しっかり掴まってろよ?」

 

俺はかなり真剣な顔ではやてに話しかける。

『クレイジーダイヤモンド』というとんでもねえ馬鹿馬力を持つエンジンを積んだ今の車椅子二人乗りモードは半端じゃねえからな。

そう、例えて言うなら………

普段は普通のTAXIがボタン一つでレース用にチューンされたモンスターマシンに化けるってぇなモンだ。

いや、日本生まれの660CC120馬力の軽エンジンがデトロイト生まれの6900CC900馬力のマッスルエンジンに化けるのほうがしっくりくるか(笑)

 

「え!?いや、ちょっ自分、何するつもりやねん!?」

 

はやての更に困惑した声を無視して俺は時計を探す。

道路近くにあった公共用の電子時計が表示する現在時刻は………『8時15分』ね。

よし、覚えた。

後、はやて?俺はちゃんと忠告したぜ?

シートベルトはきちんと締めましょうって?(大嘘)

あ、後は例の掛け声もしなきゃな(笑)

『((隠者の紫|ハーミット・パープル))』のシートベルト良し(俺だけ)

覚悟と準備良し(俺だry)

さあて、逝きますか(一緒に)

 

「 ((depart|出発します))ッ!!」

 

『ドララララララァーーーー!!』

 

ギュイィィィィィィィッ!!

 

俺の声に呼応して『クレイジーダイヤモンド』は一気にエンジンをレッドゾーンまでブン回す。

『クレイジーダイヤモンド』の((剛腕|ドライブシャフト))が超高速でホイールを回してタイヤに駆動力を伝える。

いき過ぎた馬力がホイールに伝わると車椅子はその場でホイルスピンを巻き起こす。

激しくスピンするタイヤは足元の雪を掻き飛ばしてアスファルトに接触、バーンアウトを引き起こして白煙を撒き散らしながらウィリー状態で雪道をカッ飛ぶ。

 

「へっぶぅぅぅぅっ!?」

 

俺の忠告をキチンと聞いてなかったはやては車椅子では体験したことがないであろう急発進と加速で車椅子の背もたれに頭を叩きつけられる。

なんとも乙女らしくない声が出たのははやての名誉のために言わないでおきましょ。

暴れ馬のようなウイリー状態から元に戻った車椅子は更に加速していく。

 

今、俺の頭ん中に直接どこぞのイカれたTAXIに乗った時の曲が流れてくるぜぇ…

 

足が不自由な人のために健気に生活を支える車椅子たんが凶悪なじゃじゃ馬様に変貌して俺達はさっきまでとは段違いのスピードで雪道を駆け抜けていく。

そして、ある程度走ると大きなヘアピンに差し掛かった。

だが俺は、否『クレイジーダイヤモンド』は((加速|アクセル))を緩めないでそのまま突っ込んでいく。

 

「ちょぉぉぉぉぉッ!?こ、こないなスピードで突っ込んだらま、曲がれれへんのとちゃ……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」

 

『ドオラアッ!!』

 

ギャリギャリギャリイィィィィィィッ!!!

 

ヘアピンに入る直前で俺は『クレイジーダイヤモンド』を全身具現化させ、両足を地面に突き立てる。

突き立てた足が地面を擦りながらリアブレーキの役割を果たして車椅子に制動が掛かる。

そのまま足を突き立てた状態でフロントの車椅子を強引にヘアピンのイン側に曲げて突っ込む。

 

『ドララララララァーーーー!!』

 

ギュイィィィィィィィッ!!

 

インに入った所からさらにアクセルを吹かして今度は車体をアウト側へ流していく。

車体の向きが完全にヘアピンの出口を向いた所で『クレイジーダイヤモンド』は足を地面から離して再び上半身だけになる。

そのまま流れるように車椅子はヘアピンを抜けてその先のストレートを目指して駆け抜けていく。

だが、『クレイジーダイヤモンド』が生み出すパワーが強すぎて車椅子の足は完全に負けている。

そのパワーに振り回されてヘアピンから立ち上がる瞬間、車椅子が不規則なタイミングで左右に振られるが『クレイジーダイヤモンド』の力で抑えつける。

 

これじゃまるでドッカンターボ積んだ車みてえだな。

 

「ゆ、夢か!?これは夢なんか!?夢だと言ってぇぇ!?車椅子でありえへんスピードで雪道をドリフトするなんて滅茶苦茶すぎるわぁぁぁぁぁ!?」

 

はやては車椅子にしがみついて滅茶苦茶テンパッてるが『クレイジーダイヤモンド』は1ミクロンもお構い無しにスピードをドンドン上げて坂道を駆ける。

このスピードなら絶対とは言わねえけど多分間に合うだろッ!!

 

ガチャガチャガチャ……グキッ……

 

……ん?なんぞ?今の『音』?

 

「待って待って待ってぇぇぇぇ!!?こ、こないな無理させとったら車椅子が……」

 

バキィィィッ!!

 

「「…あっ」」

 

はやての忠告は文字通り一足遅く、車椅子の車輪が片方だけ捻じ切れた。

良く見てみるとブレーキやらなんやらの細かい部品もバラけて後ろへ飛んでいってる。

まぁ、無茶なドリフトとスピードアップのツケがきたんだろうなぁ……

片輪を失くした車椅子は一度ガンッと音を立てて地面にぶつかり、その衝撃で俺とはやては車椅子ごと宙に浮き上がり、重力の鎖から開放される。

 

ふぁっきん。カッ飛ばしすぎたぜベイビー。

 

「ほら見てみぃぃぃ!?言わんこっちゃないわぁぁぁぁぁ!!?」

 

今、俺達と車椅子は宙に浮きながら前につんのめる感じで再度地面に向かっているんだが、はやてさんや?

こんな状況でもちゃんと突っ込みを入れるとは、やるじゃねえか。

これが俗に言う関西人の血ってやつでぃすか?

まぁ、俺も大分落ち着いてるけどな。

それは理由があるからだけど……はやて、お前テンパりすぎて『クレイジーダイヤモンド』の『能力』忘れてんだろ?

 

「なぁに、これぐれえ問題ねえよ。」

 

「この状況の何・処・が・!問題ないんやぁぁぁぁぁ!!?うちら今、絶賛浮遊中やで!!?このままやったら冷たい地面に熱っついファーストキッス☆なんやでぇぇぇぇ!!?」

 

俺達は宙に浮きながら会話を続ける。

っていうか、はやてさんゴメス。俺はファーストキッス☆じゃねえっす(笑)

 

「ノープロブレム、問題なく……」

 

要は『クレイジーダイヤモンド』か『俺』のどっちかが部品に『触れて』りゃいいんだからよ?

 

「『治す』」

 

キュウウゥゥイィィィインッ!!!

 

外れた部品、捻じ切れたシャフト、飛んでいったタイヤが全部宙に浮く車椅子に集まってくる。

車椅子はそのまま新品同様の姿を空中で取り戻していく。

 

「……へ?」

 

地面に着地するころには車椅子はさっきまでと同じように問題なく雪道を爆走していた。

はやてはしばらくポカンとしていたが、無事だとわかると大きく息を吐いて、椅子に深く腰掛ける。

 

「………た………助かったぁ〜〜…」

 

はやては本気で安堵した声を上げてる。

……いやまぁ……確かに地面に涙のキッスなコースは免れたけどよぉ………まぁだ安心すんのは速くねえか?はやてちゃんよ?

直ぐに次のコーナーだぜww?

しかも道幅が広い高速コーナー、こりゃあかなりスピード乗るんじゃね?

はやてもそれに気づいた様でギョッと目ん球が飛び出そうに……訂正、飛び出てたww

 

「うぇあっ!!?ぜ、ぜぜぜ禅君!!ブレーキ!ブレー…ア゛ッーーーーーー!!?」

 

『ドララララララァーーーー!!』

 

ギュイィィィィィィィッ!!

 

二度目のコーナーは一度車椅子をアウトに振りってからインに突っ込む、コーナー全体の幅が広いのでケツをアウト側のガードレールにギリッギリまで寄せる。

もう大分頂上向きに上がったのでガードレールの先に広がるのは崖だ。

座っているしかないはやての目は崖下に釘付けになってる。鼻水出そうになっても、それでも絶叫は忘れない。

こんな状況でもリアクションを忘れないのはまさに関西人の鑑だぜッ!!

 

「ア゛ッーーーーッ!!?落ーーーちーーーーーるーーーー!!?」

 

ズザザザザザザザザッ!!

 

ってありゃ?

ちょいと遊びすぎたか?

段々と車椅子がガードレール側に寄っていくが、思ってた位置で止まらずにそのままガードレールに引き寄せられていく。

このままじゃ間違いなく道から外れてフライアウェイ、地面のグレートに頑固な赤いシミになっちまうぜ。

だが、対処法はあるんだなこれが。

 

「『クレイジーダイヤモンド』ッ!!」

 

『ドラアッ!!』

 

再び『クレイジーダイヤモンド』を全身具現化させて左足の足の平をガードレールに沿わせる。

 

 

ギャリギャリギャリイィィィィィィッ!!!

 

「ひゅえ!?な、なんやのこの音h……ぴゃーーーーーッ!!?」

 

突如鳴り響く『金属を擦る』音にびっくりしたのか、はやてが奇声を発する。

はやてが音の発生源を見ると『クレイジーダイヤモンド』がガードレールにつま先を当てて火花を散らしていた。

それを見て、はやては更に美声ならぬ鼻声(びせい)を上げた。

こうやって足をガードレールに沿わせてりゃ走行が可能なので、崖に落ちる心配は無くなる。

ミニ四駆のローラーみたいなもんだ。

でも火花を散らしながら走るその様は決して車椅子が走るシーンじゃねえな。ましてやミニ四駆でもねえ。

 

一番しっくりくるのはそう……ローライダーだな。

 

ローライダー乗りがやるパフォーマンスのインタニウムラン(ハイドロと呼ばれる油圧サスペンションを上下させてリアの腹下に装着した火打石を地面に擦りながら走る)にそっくりだ。

そのまま車椅子?は火花を散らしながらコーナーを抜けてまたストレートに入る。

もはやはやては涙目でプルプルしてるぜ。

つうかやっべえ、滅茶苦茶楽しいんですけど、この車椅子レースッ!!!

後何本ぐらいコーナーがあるかはわかんねえけど、はやてはどこまで耐えれるかね?(笑)

コーナー3つで失神とかすんじゃねえぞ?(笑)

 

「さあ、はやてッ!!俺と一緒に 楽 し く 逝 こ う ゼ ? 」

 

俺は極上の笑顔ではやてに笑いかける。

車椅子の歴史を塗り替える奇跡のドライブ。

その栄えある第一号のお客様に(笑)

 

「神様助けてーーーーーーーーーーーーー!!?……ッ……あ……あ、ぁぁ…ア゛ッーーーーーーーーーーーーー!!!?」

 

『ドララララララァーーーー!!』

 

 

 

かつてない恐怖のヒルクライムに八神はやての断末魔の絶叫が海鳴の山に木霊した(笑)

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

SIDE リィンフォース

 

 

「短い間だったが…お前達にも世話になった…ありがとう……」

 

私は主はやての声を聞くことができる切欠を作ってくれた二人…『高町なのは』と『フェイト・テスタロッサ』のデバイス達に感謝の言葉を送る。

 

『Don,t worry(お気になさらず)』

 

『Take a good journey(良い旅を)』

 

だが、レイジングハートもバルディッシュも特には気にしていないようだ。

……主人達に似て、優しいデバイス達だな。

 

……私はやっと本来の自分を取り戻すことができた。

それも全て、主はやてとその友人達のおかげだ。

 

今まで私は「闇の書」と周りから呼ばれていたが私の本来の名前は「夜天の魔導書」という名だった。

元々は各地の優れた「魔導師」や「魔法」を記録して半永久的に残す為だけに造られた巨大ストレージデバイスでしかなかった。

そもそも「無限再生機能」や「転生機能」は記録の劣化や喪失を防ぐ為の単なる「復元機能」でしかなく、あのような凶悪なプログラムではなかったのだ。

 

…もう思い出せないが歴代の所有者の誰かが行った改変の末にバグが生まれ「夜天の魔導書」は暴走を起こし、「防御プログラム」を始めとする各種機能が破損・変質してしまった。

 

その結果「魔法」の記録と保存という本来の目的も歪み、「リンカーコア」蒐集を所有者に強要、最後にはその命をも奪ってしまう悪辣な存在へと成り果てた。

その後も強大な力に魅せられた者や不運にも選ばれてしまった者達の元で私は…「闇の書」として望まぬ、止めることのできぬ凶行を繰り返してきた………

今代の主、八神はやての下に来てからも、私はいずれまた、主を喰い殺してしまうだろうと諦めていた。

だからせめて、その最後の瞬間まで主に幸福な夢を見ていただき、安らかに眠って欲しかった。

もし、主が私を蔑んでも、私は甘んじて受け入れる。

そう覚悟して………

だが、主は私の闇に飲まれた時に主は私のことを「家族」だと言ってくれた。

蔑まず、罵声も浴びせずに……只、暖かく受け入れてくれた。

 

「私が主として最初にやることや…名前をあげる…もう「闇の書」とか「呪いの魔導書」なんて呼ばせへん」

 

主はそう言って私を見ながら微笑みを浮かべて下さった。

 

「夜天の主の名において汝に新たな名を贈る

 強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リインフォース」

 

「新名称リインフォース、認識しました…始めまして、我が主はやて」 

 

「始めましてや…それからいらっしゃい、私の新しい家族」

 

「っ……ありがとうございます」

 

こうして、私は新たな名「リインフォース」を授かり、融合事故の回避と暴走プログラムとの分離に成功した。

そして、主の友人である高町なのは等の協力によって暴走プログラムの停止を成し遂げることができた。

彼女達のおかげで私は長い間繰り返すことしかできなかった破壊の運命から逃れられたのだ。

今まで、私ではどうすることもできなかった呪いを止め、心優しき主はやてを喰い殺さずに済んだことは本当に嬉しかった。

 

……だが、神はどうやら私に今までの凶行の裁きを与えたいらしい……

 

偶然にも私の中に残ったバグが新しい再生機能を私自身の中に生成してしまったのだ。

ご丁寧に私の融合騎としての機能を司るプログラムと完全に融合して新しい臓器のように私の体に根付いている。

私の中の再生機能がいずれまた防衛プログラムを再生してはやてをまた侵食し、「闇の書」として復活する事が不可避であると解った。

 

…私は彼女を…主はやてを守る為に自ら消滅する道を選んだ。

あの方を殺さずに済むのなら…………私の命など惜しくは無い。

 

既に守護騎士達は「夜天の書」からリンクを切り離してある。

彼女等の存在はプログラムから切り離されたので、人間に近い構造になっている。

人の様に生き、人の様に死んでいく。

私が居なくとも、彼等が主を守り通してくれるであろう。

 

主はやて………短い時間でしたが…私は貴女に逢えて…貴女の騎士で入られて…幸せでした。

 

体が少しずつ消え行く感覚を感じながら私は目を瞑る。

 

「 ……………フォ……スーーーーー!!」

 

だが、私の耳に聞こえる筈の無い主はやての声が響く。

今、主の姿を見てしまえば決心が揺るぎそうだった私は目を瞑ったまま儀式に集中しようとした。

 

「リィンフォーーーーースーーー!! みんなぁーーーー!!」

 

「は、はやてッ!?」

 

その主の声に反応して鉄槌に騎士が動く気配がした。

今、騎士や高町達に動かれると儀式が止まってしまうので私は目を開けて動かぬよう呼びかけようとして……思考が停止した。

 

「芸術は情熱思考理念頭脳気品爆発萌え優雅さ勤勉さといろいろあるが何よりも一番はッ!! 速 度 だぜッ!!ヒャッハァーーーーーーーーーー!!!」

 

『ドララララララァーーーー!!』

 

「きゃあああああああああああああッ!!」

 

私の視界の先には猛烈な速度でこちらへ向かってくる車椅子?が見えた。

有り得ない速度のまま私の前まで横向きに滑ってくる車椅子には主はやてと病院で戦った奇妙な使い魔…『クレイジーダイヤモンド』を持つ少年『タチバナ・ゼン』が乗っていた。

車椅子の後ろに乗る彼は満面の笑みを浮かべているが……主の顔は恐怖に染まっている。

 

『タチバナ・ゼン』……闇の書の闇との戦闘で傷つき、治療中もアースラの中でテスタロッサ達が涙を流しながら無事を祈っていた魔導師ではない少年。

そして、とても優しい力と心を持った少年だと皆、口を揃えて言っていた。

主はやてと融合している中で彼の持つ力…『クレイジーダイヤモンド』の能力を聞いたときは驚いたが…それと同時に強く憧れもした……

…私とは正反対の…本当の意味での『優しい力』…私にはその力がとても眩しく思えた。

全てを壊すことしかできず、闇に染まっていた私とは対極に位置する……暗い闇の中にいた私には眩しすぎる『太陽』のように感じた。

その『優しい少年』の使い魔が車椅子の車輪を握って足を地面に突き立てて横向きに滑らせながら車椅子を私の前で止める。

 

ズザザァッ!!

 

「到着だぜッ!!出発時刻は『8時15分21秒』ッ!!到着時刻は……『8時19分32秒』ッ!!」

 

横滑りが止まった車椅子の上で主は疲労困憊、精も根も尽き果てたような顔をしているが少年は広場の時計を確認してなにやら一仕事やり遂げた顔をしている。

 

「あぁ…景色が横に流れてへん……最高や……」

 

「スマン、ちょいとやりすぎたぜ……でもまぁ…」

 

そして、少年は私を見やり、先ほどの雰囲気が嘘のように思えるほどの真剣な表情を作る。

 

「そのおかげで何とか間に合ったみてぇだな……とりあえず、初めまして…で、いんだよな?リィンフォースさんよ?」

 

…確かに、この姿で対話するのは初めてだな…

私も彼に礼を言いたかったのだが、彼は力の使いすぎで気絶していたので諦めていた。

正気の状態で顔を合わせるのは今が初めてだ。

 

「あ、あぁ、そうだな……お前は『タチバナ・ゼン』だな?」

 

「あ?なんで俺の名前……あぁ、そっか…はやての中にいたんだっけか…まぁ、ちゃんと自己紹介しとくぜ?俺が橘禅だ、よろしくな?…それよりよ…」

 

少年……橘禅は依然として私を真剣な表情で見詰めている。

そして意を決したのか、その先の言葉を紡ぐ。

 

「あ…」

 

「「ぜーーーーんーーーーーッ!!!」」

 

ドゴシャアァァァッ!!!

 

「…んたっちゃぶるううううううううううううううッ!!?」

 

だが、彼が何かを言おうとした瞬間、横から砲弾の如く飛んできたテスタロッサと彼女の守護獣アルフに弾き飛ばされた。

それを受けた彼は体がくの字に曲がって樹木に向かって飛んでいく。

 

ドグチャッ!!!

 

「どぅあがすッ!!?」

 

そして聞こえてはならない音を立てて近くの木に顔面から激突し、潰れたカエルのような声が聞こえてくる。

二人に抱きつかれたまま彼は木に押し付けられズルズルと滑りながら落ちて木の根元に腰掛けるような形になった。

 

『『『『『………』』』』』

 

……だ、大丈夫なのだろうか?顔から激突していたが……

 

 

いきなり起きた衝撃的な展開に私や守護騎士達も空いた口が塞がらなかった。

この時私は、テスタロッサが動いたことで儀式が止まってしまった事が目の前の出来事のせいで完全に頭から抜けていた。

 

 

 

SIDE END

 

 

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後半へ続くッ!!

 

説明
第20話〜橘禅・怒涛の爆走ッ!!

遅くなってしまって申し訳ありません。
最近執筆が進まないです…ぐすん。
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