優しき魔王の異世界異聞録 〜プロローグ〜
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今は昔の物語―――

人の住む普通の世界とは違う、次元の狭間に存在する広大な大陸があった。

 

大陸の名はソロモン大陸。

その大陸は超常的な能力を持つ強力な魔族と非力な人間とが同居する世界で、人間達は長きに渡り魔族達に隷属する生活を強いられ続けていた。

魔族至上主義のその世界の中で力無き人間達は蹂躙され、絶望の現実の中で喘ぎ続ける。

 

誰もが願う、平穏な世界が欲しいと。

誰もが声を枯らして叫ぶ、自分達はただ穏やかに生きたいだけだと。

だがそんな切なる願いが魔族達に届く筈もなく、人々は永遠に続く牢獄とも言える現実を生き続けるだけであった。

 

しかしそんなある日―――そんな現実を憂い、立ち上がった一人の魔族が居た。

彼は人間を虐げる側の存在でありながら人々が魔族によって奴隷のように生かされている現実を憂い、人と魔族の平等に生きていける世界を望む。

そしてそんな何よりも難しく途方も無い望みを、ソロモン大陸を統一する事で成し遂げたのだ。

 

彼の名はアーク・マティウス。

当時、ソロモン大陸に存在した8つの種族のどれにも当て嵌まらない存在であり、唯一人間を蔑まなかった魔族の中でも極めて変わった人物である。

彼の実力、そして尽力により奴隷同然であった人間達は細々とではあるがソロモン大陸の中で認知され、長大な大河によって隔たれ住む地域も人権も確立されたのだ。

当時の人間達はソロモン大陸を統治し、七つの種族を率いる魔王達を束ねる“大魔王”と言う存在となったアークに感謝の意を表し、やっと訪れた穏やかな日常に感謝して生きていた。

 

だが―――誰もが持つ“欲望”と言う存在は末恐ろしいものだ。

最初は平穏を得、子孫へとアークに対する感謝の念を伝え続けていた人間達だったが・・・飽くなき欲望と時の流れは彼らの脳裏から“感謝”と言う思いを次第に風化させていく。

助けられたと言う恩を忘れ、広大なソロモン大陸の中で魔族が自ら達を統治する事に反感を持つ者達が増え―――そしていつしか人間達は、己達の手で大陸を統治したいという欲望を抱くようになる。

 

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後に人間界に伝えられる物語―――其処は人間と魔族が同居する戦乱の世界。

魔族達の頂点に君臨する大魔王アークは全世界統一と言う野望を掲げ、世界征服へと乗り出した。

これに抗う人間達は魔族に対抗する為に勇者ヒイロ・ブレイブを筆頭とし、戦士イクサ・ミツルギ、魔法使いマジコ・マジカ、僧侶ミスト・クロスの四人で構成された“パニッシャーズ”なる一行を組織する。

勇者達は多くの冒険を乗り越え、見事大魔王の討伐に成功・・・大魔王と魔族達の世界征服に待ったをかける事に成功する。

これによって魔族達は衰退し、ソロモン大陸は人間達の統治による天下が始まる―――

 

・・・そう、人間達はそう考えて大魔王を討伐した。

圧倒的に実力の劣る勇者達に『八柱駒(エイトピラー)』と呼ばれる神秘のアイテムを持たせて。

この『八柱駒』とは本来は魔力の蓄積装置として活用する為のアイテムである―――だがそれと同時に強力な魔力吸収装置として使う事も可能な代物だ。

全部で八つあり、一つで上級魔族の魔力全てを無効化させてしまう程のもので、これを八つ使って尚アークの魔力を封印しきる事には至らなかった。

しかし力の弱った魔王を四人がかりで封印するなど難しくは無いだろう。

 

人間界においては英雄視されている勇者達一行。

だが彼らもまた魔族に対しては手段を選ばぬ卑劣な戦法を多用していた。

大魔王アークに対しても人間界からの親善大使を装い近寄り、騙まし討ちに近い形で成し遂げられたものであったのだ。

・・・そこまでしてでも大陸の覇権を当時の人間達の王は握りたかったのだろう。

 

―――それが間違いの始まりだとも知らずに。

 

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人間達の手により始まる筈であったソロモン大陸の統治、しかしそれは“大切な事を忘れていた”彼ら自身によって頓挫する事となる。

いや・・・寧ろその事が原因となり、人間達の立場は以前にも増して危うくなってしまう事となった。

 

その理由とは一体何なのか? それは簡単な事だ。

本来、今までは屈強でならず者とも言える魔族達を抑圧して管理していたのが何を隠そう自ら達の身勝手により封印した大魔王アークだったのだから。

アークは誰よりも人と魔族の共存・平等な世界を望み、魔族達が大河を渡り人間界に侵攻しようとするのを人知れず律し続けていたのである。

 

しかし人間達の自己欲によって“大魔王アークと言う箍”が外れてしまった魔族達。

抑える者が居なくなった現実は彼らを好き勝手な略奪行為や破壊行為を働かせる事に何の良心の呵責も無くさせてしまったのだ。

まあある意味では人間達は己達の首を己達自身の手で絞める結果となってしまったと言う事である。

これにより大陸において人類の命運は風前の灯となった。

 

そこで再度勇者ヒイロ一行が立ち上がる事となる。

だが策略による騙まし討ちと言う手を使って大魔王を倒した勇者達には魔族達と正面から戦って勝てる力は無かったのだ。

彼らはそこで一計を案じ、かつて己達が封印した大魔王アークを復活させ、彼の力を以って再度魔族達を支配し、管理して貰おうと考えたのである。

・・・愚行も此処までくれば怒りを通り越して呆れるものだ。

 

しかし本来なら怒るべきであろう復活したアークは平和と『人と魔の平等に生きれる世界を作る』という願いを叶える為に快諾。

自分勝手で身勝手な人間達の要求に応じ、再びソロモン大陸の統一と魔族達の統治の為に監視役の勇者一行と旅に出る事となったのであった。

『八柱駒』の封印により、非力な少年の姿となりながらもだ・・・。

 

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大陸統治の為の旅は困難を極めた。

大魔王アークが消息を絶った後のソロモン大陸は、彼の戦友であり部下であった七つの魔族を率いる王達・・・通称“七魔王”が支配者として君臨していたのだ。

尚、ソロモン大陸には人類以外に【プライド】【ラース】【エンヴィー】【スロゥス】【グリード】【グラトニー】【ラスト】と言う七魔族、そしてそれらに含まれない特殊な魔族であるアークの【ヴァイス】と言う全9種族が存在している。

それぞれの魔族を率いる魔王達の存在が更に旅を困難とさせたのである。

 

第一魔族【プライド】の王・ルキフェール。

神々しき天使を模した魔族達を率いる、気高く品行方正な光魔王の名を冠す偉丈夫。

 

第二魔族【ラース】の王・サタン。

龍や蛇を模した魔族を率いる、苛烈にして勇猛果敢な竜魔王の名を冠す武人。

 

第三魔族【エンヴィー】の王・レヴィアタン。

海洋生物や水棲生物を模した魔族を率いる、無邪気で天真爛漫な海魔王の名を冠す小姫。

 

第四魔族【スロゥス】の王・ベルフェリア。

禍々しい悪魔を模した魔族を率いる、気紛れで自由奔放な夜魔王の名を冠す賢者。

 

第五魔族【グリード】の王・マーモン。

鳥や獣を模した魔族を率いる、実直で豪放磊落な獣魔王の名を冠する猛者。

 

第六魔族【グラトニー】の王・バアル=ゼブル。

昆虫や節足動物を模した魔族を率いる、破天荒で大胆不敵な暴魔王の名を冠する剣鬼。

 

第七魔族【ラスト】の王・アスモ=デウス。

美女や植物を模した魔族を率いる、温厚で純情可憐な幻魔王の名を冠する女帝。

 

それぞれの強敵と渡り合い、多くの魔族と戦いながらもアークはその人知を超えた剣術を以って弱体化したというハンディを乗り越え続けた。

そんな直向に前を見つめて歩み続けるアークの姿に最初は警戒心を持っていた勇者一行も心を軟化させ、自ら達のした行いを恥じ、アークに協力するようになる。

更にアーク自身を再び認め、忠誠を誓う魔族も、そして魔王も次第に増えていった。

 

結果的に多くの戦いを乗り越え、アークは再びソロモン大陸を統一する。

しかしその間の過程は余りに長く、此処に書き記す事は難しい為に割愛させて頂こう。

―――要は“大魔王アークの統治の元、再びソロモン大陸に平穏が訪れた”と言う事だけ理解して貰えば良いだけなのだから。

ただ昔と一つだけ違うのは、魔族達の住む領域と人間界とを別け隔てる為に存在した大河は無くなり、人と魔族とは昔よりも歩み寄りを強くしたと言う事だけである。

 

・・・そしてソロモン大陸の再度の統治から約一年後より物語は始まる。

 

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ソロモン大陸の再統治より一年―――

多くの戦いによりそれなりに荒廃した人間界などの復興の為に大陸に住む者達は尽力を続けていた。

しかし昔と違うのは、人間界の復興の為に尽力する人々の中に魔族の姿が見て取れる事だ。

 

人間には人間の、魔族には魔族の出来る事を分担して続けている。

もちろん誰もが魔族と人間とが共に働いている事を喜んでいる訳ではない、寧ろ見たくもなさそうな者達も居る。

それでも本来は虐げる者と虐げられる者、強き者と弱き者とに別れていた者達が少しずつでも歩み寄ろうとする姿を見れただけでも充分な進歩と言う奴だろう。

 

 

―――場面はソロモン大陸の中心部にある一つの城に移る。

名をヴァクストゥーム・ヴァールハイト(独語:真実の成長)城と言い、このソロモン大陸に存在する城の中では最も広大にして命を宿す城だ。

そしてこの物語の主人公であり、ソロモン大陸の統治者である第八魔族【ヴァイス】の王であるアーク・マティウスの居城である。

・・・その居城の中でアークは一人の人物と話をしていた。

 

「・・・アークさま? どういう事かアルカに説明して貰って良いですか♪」

 

語尾は楽しげに見えるが・・・その表情は笑いながら怒気を露にしている少女が一人。

この少女の名はアルカナ・トラスト、ソロモン大陸の統治者であるアークに仕える唯一の使い魔である人物だ。

幼そうな言動だがこれでも長きに渡りアークの事を慕い、全てを捧げ、彼の身の回りの世話をしている。

・・・だがどうやら、本日は実にご立腹のようだ。

 

「ん? 何がだアルカ?」

 

対して長身で長髪の穏やかそうな表情の青年が言葉を返す。

この人物こそが大魔王アーク・マティウス、魔の眷属の長で魔族の頂点に立つ大魔王でありながら自由と平等と平和を愛する思想の持ち主である。

統治者としては致命的なまでにお人好しで騙され易い性格であったが、ソロモン大陸を再統治する際の冒険で多くのものを見て成長し、今はその部分は抑えられていた。

・・・そんな彼からしてみると、何故アルカナが怒っているのかが理解出来ない。

 

「『何がだアルカ?』じゃありません!!

アークさま、アルカは再三お頼み致しましたよね・・・外出される際はアルカか、それとも七魔王さま方の幹部の方と共に行って下さいって。

それなのに何故お一人で、しかもいまだに魔力磁場の安定していないフォルトゥナの森に行かれたんですか!?」

 

アルカナのその言葉にアークは『ああ、その事か』と小さく呟く。

その怒られていた意味を(多分理解はしているのだろうが)良く判らない為か軽く言うアークの態度を見て益々アルカナは顔を真っ赤にする。

 

「あ、ああああ、アークさまぁぁぁぁ!!! ○※×■△∵※◎□▼※―――ッ!!!」

 

余りの怒りに何を言っているのかよく判らない言語で怒鳴り続けるアルカナ。

まあ当然の事である、元々彼女はかなり昔からアークに仕えているが故にまるで家族のように彼の事を感じているのだ。

それに最近は鳴りを潜めたとは言えアークはとんでもない程のお人好しであり、それが原因で人間によって騙されて力を失い、何度と無く死に掛けた事すらある。

そんな彼が例え自らが再び大陸を統一したとは言え、何処で現体制を妬ましく思っている者が居るかも判らない・・・そんな状況では心配をするなと言う方が無理だろう。

・・・アークとすれば平和へとなったソロモン大陸を自らの目で見回りたいと言う思いもあるので、アルカナや他の魔族の幹部などを連れて行けば落ち着いて見て回れないのである。

(アルカナやら他魔族の幹部やらを連れて行っては明らかに『偉い人物の警護』と言う態度が見て取れる為、落ち着いて見て廻れない)

 

その後―――アルカナの説教は約三十分以上も続いたそうだ。

しかしアーク自体、アルカナが怒る理由は自らを心配してと言う事を理解していた為か逃げる事も無く全てを聞いていた。

言うだけの事を言い終わり気が済んだのか、アルカナは再三『何処かに行く時は誰かと一緒に』と釘を刺してから城内の自室へと戻っていったのであった・・・。

 

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「ふう・・・まあアルカの気持ちも有難いが・・・」

 

アルカナが自室に戻った後、一人残ったアークは呟く。

実はアークが一人で自らの居城の近くにあるフォルトゥナの森に向かっている事には理由があった。

つい最近の事だが、フォルトゥナの森の中に原因不明の次元の歪みが発生していると言う報告を受けたのである。

しかし其処から発せられる魔力が余りにも不可解なもの故に“魔力磁場が安定していない”と言う噂を流し、其処に近付く者を制限していたのだ。

 

ソロモン大陸を良き大陸にしようとしているアークにとって、自らが統治者であれ部下を危険が待っているかもしれない場所に連れて行く訳には行かない。

故に彼は一人でその次元の歪みの正体を確かめようとしていたのである―――そもそも前以上の魔力や力を得た現状の自分ならば、不測の事態にも対応出来ると思っていたのである。

自分の心配より人の心配をしている辺り、アークのお人好しさ加減はまだまだ強いらしい。(まあ本来ならば大陸の王なのだから自らの身の安全を優先すべきだろうが、アークはそう言った事をするのが余り好きではない)

だが、自らにとって家族のような存在の一人であるアルカナにこれ以上心配をかける訳にも行くまい・・・どうするかアークは悩んでいた。

 

しかし丁度その時―――

 

「おいアーク、報告に来てやったぞ・・・何呆けた面してんだテメェ?」

「・・・アーク、大陸の人間達と魔族との共存の件で新たな意見書が来ているのだが?」

 

いつの間にかアークの居る玉座の間には二人の人物が現れていた。

一人は先に口を開いた口の悪い漢・・・屈強な体格でその両肩には鷹のような鷲のような鳥の頭飾りを付けている。

もう一人は聡明そうな口調の青年・・・金髪で、白く光り輝く二対の翼を生やしている。

何者なのかは理解出来ない、だが少なくとも判る事はこの二人とも尋常ではない覇気の様な物を身に纏っている事だ。

そんな二人に気付いたアークは親しげに笑って口を開く。

 

「やあ、マーモンにルキフェール、久しぶりだね」

 

彼ら二人はソロモン大陸を統治する大魔王アークにとって最も信頼する部下。

そしてアーク・マティウス個人にとっては心を許した戦友達である“七魔王”の内の二柱である。

 

屈強な体格の漢が第五魔族・グリードを統べる獣魔王マーモン。

金髪で二対の翼を生やした青年が第一魔族・プライドを統べる存在にして七魔王達の実質纏め役でもある光魔王ルキフェール。

人間界と魔界の統合にソロモン大陸の再統治後故に忙しかった為、アークがこの二人と会うのも久方ぶりの事であると言えるだろう。

・・・実際の所は他の魔王達にも彼是一年近くは会って居ないのが現状だが。

 

と、そこでふとある事に気付くアーク。

先程アルカナは『何処かに行く時は誰かと一緒に』と何度も何度も釘を刺していた。

ならば逆に言えば・・・誰かを連れて行けば問題はないという事だろう。

 

「マーモン、ルキフェール、悪いけどちょっと頼みたい事があるんだけど・・・」

 

だがそれが新たな長き冒険の始まりになると言う事を、アークはもといこの時は誰も気付いては居なかった―――

 

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「・・・で? こんな森に一体何が有るんだ?」

 

アークに頼まれて共に来た内の一人であるマーモンがぼやく様に尋ねる。

本来はルキフェールも彼も自らの治める領土の治安維持で忙しい筈だ―――しかし七魔王には有能な側近が多い為かアークに比べれば楽は出来ていた。

元々アークの居城に来たのも領土の治安維持についての案件を伝えるのと共に暇が少しあった為に気晴らしに来ただけであったのだが、まさか大陸を治める王自らが部下にやらせれば良い様な見回りに付き合わされるとは思っても見なかったのだ。

・・・尚、アークは基本的に側近が殆ど居らず(アルカナのみ)、更に自分のするべき仕事は自分で片さないと気が済まないタイプの人物である事はいう必要もあるまい。

 

「マーモン、この森は魔力磁場が安定していないと言う情報が流されている場所ですよ。

しかしその実、原因不明の次元の歪みが発生して原生生物や魔物などが姿を消していると言うのが本当の理由です。

それを危惧したアークがこの森に魔族や人間が近付かないようにしていると言った所ですかね」

 

実はフォルトゥナの森に原因不明の次元の歪みが発生している事を知っているのはアークとルキフェール、それにサタンのみである。

他の魔王達にも一応は伝える心算であったのだが―――マーモンを筆頭に興味がなかったり、黙っている事が不可能であったりと散々な連中が多いので説明はしていなかった。

(バアル・・・強者を倒す事しか興味がない、マーモン・・・面倒な事は嫌い、ベルフェリア・・・発明が忙しくてそれどころではない、アスモ・・・バアルやアーク以外に興味なし、レヴィ・・・精神が餓鬼故隠し事が出来ない)

 

・・・そんな説明を『興味ねぇな』の一言で切るマーモン。

しかし彼は元々粗野そうな外見とは別に面倒見の良い人物だ、それ故にアークとルキフェールに付き合って生い茂った獣道を只管進んでいた。

そして暫く進んだその先で、三人の目に本来存在しない筈の“ソレ”が姿を現す。

 

「・・・何だこりゃ?」

「うん、私も最初はその感想が出たよ」

 

マーモンに続きアークが目の前の光景を見つめて呟く。

彼らの眼に映るソレは、本来は何もない筈の空間にポツンと浮き上がっていた。

いや、違う―――本来何もない空間をまるで裂くかのようにして漆黒の裂け目が刻み込まれている。

 

あたかもそれは元々其処に存在しているかの如く―――

しかし、それでいて空間を侵食するかのようにフォルトゥナの森の中心部に堂々と存在しているのだ。

更にその裂け目から感じる不思議な魔力のような波動に、三人は首を傾げる。

 

「フム・・・己の目で確かめて見てもこれが何なのかは理解出来ませんね。

例えばこの空間の裂け目が何時、どの様に現れたか判れば多少の進展はあるかも知れませんが・・・それでもこれ自体が何なのかを特定するには至らないでしょう」

 

「あん? 何だ、テメェもこれが何なのか解らねぇのかルキフェール。

だったらベルフェリアでも連れて来て調べさせりゃあ良い事だろ、アイツはテメェよりも超常現象にゃ詳しいだろ」

 

「確かに彼女は私よりもこう言った超常現象的な状況には聡いでしょう。

ですが彼女を以ってしてもこのような不可解な現象の解明は不可能だと思われます・・・何故ならこのような状況下で・・・」

 

其処から専門用語込みでルキフェールはマーモンに説明を続ける。

言われてる事の意味が良く判っていないマーモンは頭に疑問符を浮かべながらルキフェールの説明を聞き続ける。

そんな二人の姿を横目で見ながら、アークは可笑しそうに微笑んでいた。

 

だが、ふとその時―――

 

『・・・の・・・いる・・・もべ・・・神聖・・・しく・・・魔よ・・・!!』

 

ふとアーク達の目の前に刻まれた空間から何かが聞こえて来たのだ。

ただの空耳だろうか? それにしては何処と無く人と同じ言語のように聞こえたのだが。

 

「おや? ルキフェール、マーモン、今その空間から何か聞こえなかったかい?」

「・・・? いえ、何も聞こえなかったと思いますが?」

「テメェの空耳だろ・・・つうかこんなモン、とっとと塞いじまえば良い事だろうが」

 

そう言って次元の裂け目に近付くマーモン。

彼、いや彼らにとって見れば空間に開いた次元の歪みを再び閉じ直す事等赤子の手を捻る程に簡単な事だ。

故に彼はさっさと次元の歪みを閉じてしまおうとしていた―――この森に現れたそれが何なのかを理解していないままに。

 

「あっ、私がやるよマーモン。

元々これを最初に見つけたのは私だし・・・『・・・たしは・・・るわ・・・』・・・ほら、やはり何か聞こえるじゃないか」

 

マーモンを制し、歪みを閉じる為に次元の裂け目に近付くアーク。

だがその時、再びその次元の裂け目から声のような物が聞こえて来たのだ―――更に今度はルキフェールにもマーモンにも聞こえるような大きな音でだ。

その聞こえて来た音に首を捻りながら二人はアークと共に次元の裂け目へと耳を傾ける。

 

次の瞬間、彼らの耳に届き、その目で見たのは―――

 

『・・・我が導きに―――答えなさい!!!!』

 

そんな少女の声と・・・。

 

「えっ!? こ、これは一体!?」

「クッ・・・馬鹿な、何ですかこの凄まじいまでの聖の波動は・・・いけません、引き摺り込まれる!!!」

「クソが、一体何なんだこりゃあよ!!!」

 

次元の裂け目から発生した光の帯が自ら達を包む姿。

そして、他に追随を許さぬ程の力を持つ筈の魔王達は光の帯に取り込まれてそのまま次元の裂け目へと飲み込まれていった。

 

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同刻―――

アーク達が次元の裂け目に吸い込まれると共に、ソロモン大陸のそれぞれの魔王達の納める領域に存在する八つの柱駒が一色ずつ眩い光を放つ。

更に光を放った八つの柱駒は祭られる場所を飛び去り、一直線にある場所へと向かって行った。

 

その場所は、次元の歪みの存在するフォルトゥナの森だ。

八つの光が時限の歪みに消えると共に今まで空間を侵食するかのように開いていた空間の裂け目はゆっくりとその口を閉じる。

こうしてソロモン大陸に存在していた謎の歪みは消滅したのである。

 

アーク達は一体何処へと行ったのか?

何故次元の歪みに八つの柱駒が吸い込まれてしまったのか?

次元の歪みから聞こえて来たあの声は一体何なのか?

それについてはこれより始まる長き物語の中で語られていく事となるだろう。

 

そう―――次元違う世界にて、再び多くの戦いを経験し、前へと歩んでいく優しき魔王の物語が。

 

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はい、初投稿完了いたしました。

神羅万象クロスオーバーシリーズ第二弾、第八章『大魔王と八つの柱駒』とのクロス作品でございます^^

 

この作品の主人公の名は『アーク・マティウス』

全てを超越する力を持つ大魔王でありながら人と魔の平等に生きれる世界を望む優しい魔王です。

日本一ソフトウェアの魔界戦記ディスガイア4の主人公ヴァル様こと『ヴァルバトーゼ閣下』と同じようなタイプですね。

 

しかし余りにも人が良い故に人間に騙まし討ちされて封印。

挙句の果てにはアークが抑えていた魔族達が暴れ始めたのを止める為に封印を開放される。

・・・怒って良いんだよ、アーク君。

 

この物語では原作が終わっていない事を考慮して何があって誰を倒して再びソロモン大陸を統一したかは省いています。

・・・まあそこらは大人の事情と言う事で。

 

では、これにて物語の幕開けです^^

同じ神羅万象クロスオーバーシリーズ第一弾の『白面ノ皇帝』と共に応援宜しくです^^

説明
これより始まるは優しき魔王の異世界での異聞録
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タグ
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