Masked Rider in Nanoha 二十七話 過ぎ行く日々はOne&Only
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 機動六課始動から一週間。その間特に何か動きがある訳でもなく、スバル達は訓練と書類仕事だけで過ぎる日々だった。なのは達も指導や書類仕事ばかり。五代と翔一は食堂で大忙しで働いていた。光太郎はヴァイスと理解を深め、彼の後輩であるアルトからも慕われる事になる。

 

 ロングアーチと呼ばれる部署の所属であるアルトは、フェイトの補佐でもあるシャーリーやアースラで事務官をしていたルキノと共に三人娘と影で呼ばれる密かな人気者。彼女のおかげもあり、光太郎はいち早く他の課員達と親しくなっていく。

 

 ちなみに五代が初披露したのは折り紙。動物や乗り物などを紙で作り上げ、食堂の一角に飾ったのだ。それが女性達の心を掴み、五代が作った折り紙は瞬く間に食堂から姿を消す事となった。その後もたまに欲しがる者がいたため、五代は追加で数点の折り紙を折っている。

 翔一の作る料理は職員達の胃袋を完全に掴み、五代のコーヒーは一部の者に大変気に入られた。リインはそんな二人を補佐しながら、寮母としても精力的に働いていた。男子寮はリインが、女子寮はアイナが責任者となっていて、夜はアイナがいないためにリインが両方の責任者となっている。

 

 食堂を基点に課員達と繋がりを持っていく五代と翔一に対し、光太郎はアルトやヴァイスなどを通じて繋がりを増やしていく。持ち前の勘で探し物を見つけたり、見かけ以上に怪力だったりもその要因となって。

 

 一方フォワードメンバーはといえば、ティアナはなのはの教導が基礎固めばかりしかやらない事に疑問を持って、その意図を尋ねに行くなど自然と疑問を解決するべく動き、スバルは光太郎がかつて一度会った事のある相手と思い出して、奇妙な縁を感じながらも関係を深めていた。

 エリオは光太郎や翔一から五代が長物の扱いが上手いと聞き、それを軽く教わったりしながら中国拳法―――ほとんど五代の自己流に近い―――も教わって少しずつ強さを磨き、キャロは翔一から彼やはやて流の簡単で美味しいレシピを教わり、いつかミラとタントに食べさせると意気込んでいた。

 

 訓練ばかりの日々。それでも、四人は文句も不満もなく過ごしていく。焦りそうになると、五代が、翔一が、光太郎がさり気無くそれを薄れさせ、迷った時には、なのはやフェイト、はやてが言葉や経験などを踏まえて意見を与える。

 ヴィータやシグナムはあまり口を出さないが、それでも四人が聞けばそれに答え、シャマルは優しく相談に乗る頼れるカウンセラーとして四人に認知されていく。ザフィーラは、早朝起きた時に光太郎と手合わせしている光景を目撃され、その強さに四人は認識を改める事になった。

 

 たった一週間。その間に四人は様々な事を知り、また少し成長していくのだった。そして、そんな彼らに新たな力が託される事になる。

 

「……じゃ、今日はここまで」

 

 夕方の訓練を終了し、なのはは座り込む四人へ笑顔でそう告げた。今日はシュートイノベーション。制限時間内になのはへ一撃入れるか、彼女の射撃を時間内避け続ける事が今日の訓練内容だった。

 何とかティアナとキャロが援護に徹し、スバルが突進力を生かして道を切り開いたところをエリオが加速力でその道を突き抜けるという戦法で合格を掴み取ったのだ。

 

「「「「ありがとうございました」」」」

 

「うん、すぐに返事は出来るようになってきたね」

 

 体力がついてきた事を確認し、なのははそう言って笑う。その言葉にスバル達は苦笑しか出来ない。初日の事を思い出せばなのはの言葉はそういう反応をする事しか出来ないために。

 そしてなのはが歩き出したのを見て、スバル達も立ち上がって後を追おうとした。だが、その時エリオが視界に映った何かに気付うて視線を下げる。そこにはスバル手製のローラーブーツがあった。

 

「スバルさん、それ煙出てますよ」

 

「え? うわっ!? ホントだ!」

 

「ティアさんのデバイスも……」

 

「……みたいね。あ?、今日かなり酷使したからなぁ」

 

 自作である二人のデバイス。長年使ってきた上に今日の訓練でかなり無茶をしたため、その二つはその寿命を全うしようとしていた。完全に沈黙した自分達の相棒を悲痛な面持ちで見つめ、スバルとティアナは言葉がない。

 手製であるという事は、それだけ愛着もあるという事。初めて使った時から苦しかった事や嬉しかった事などを思い出し、二人はただ黙って物言わぬ相棒を見つめていた。そんな光景にエリオとキャロもどう声を掛ければいいのか迷っていた。

 

 すると、なのはがスバルとティアナの気持ちを汲み取って少し悲しみを込めた声で告げた。

 

「……悲しいけど、その子達は立派に生きて眠ったから本望のはずだよ。二人がどんな思いで使って、そして大事にしてたかは、その子達が一番良く知ってるから」

 

「なのはさん……」

 

「そう、ですね」

 

「だから、今はゆっくり眠らせてあげて。その思いを受け継ぐデバイスを準備しなきゃいけないし……」

 

 二人の手にしたデバイス。ローラーブーツとアンカーガンを指して命と評したなのは。その思いが嬉しくてスバルは瞳を潤ませ、ティアナは頷いた。だが、なのはの告げた思いを受け継ぐデバイスとの言葉に、二人だけではなくエリオとキャロも驚きを見せた。

 その四人の視線を受け、なのはは小さく笑みを浮かべてついてきなさいとばかりに歩き出す。それを追って四人も歩く。向かう先は隊舎内のデバイスルーム。そこでは、目覚めの時を待つ力と想いがあるのだ。

 

「スバルとティアナに専用のデバイスをって考えたキッカケは、実は五代さんと翔一さんなんだ。ほら、あの試験会場で初めて会った時に二人が使ってるのがストレージだったでしょ。五代さん達はデバイスって言うとインテリジェントしか知らないに近いからね」

 

「それでアタシ達にもインテリジェントを?」

 

「うん。でも、知ってるとは思うけどインテリジェントは高価で相性もある。だから翔一さんと八神部隊長がティアナのデバイス費用を、五代さんと光太郎さん、それにフェイト隊長がスバルのデバイス費用をそれぞれのお給料から捻出する形で製作したんだ」

 

「そんな……どうしてそこまで」

 

 スバルの言葉になのはは邪眼の事を言うべきかどうか迷うも、まだその時ではないと思ってこう答えた。それはその内分かるからと。そのなのはの声がやや険しい事に気付いて四人は思わず足を止める。

 何かあると悟ったのだ。スバルとティアナへインテリジェントを作らねばならない理由が。そしてそれがとてもよくない内容だとも四人は察していた。だがそれをなのはへ尋ねる事はしない。その内分かると言われたのなら、自分達はその時を待つだけと思って。

 

 こうしてなのは達はデバイスルームを訪れる。そこで初対面を果たすスバルとマッハキャリバーにティアナとクロスミラージュ。今はまだ眠りし力。それを二人が手にする時、機動六課は本当の始動を迎える事となる。

 

 

 

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 夕食の時間となり、再び忙しさを増す食堂。五代は自作のクウガのマークが入ったエプロンをつけ、コーヒーにカレーにと動き回り、翔一も自作のアギトのマーク入りのエプロンをつけ、特製アギト御膳(ご飯、味噌汁、漬物、旬の物を使った和風のおかずが二品)やアギトセット(パン、季節のスープ、旬の物を使った洋風のおかずが二品)の調理に大忙し。

 

 無論、喫茶ポレポレとレストランAGITOには他のメニューもあるが、人気はその二つ。リインはそんな翔一の補佐と五代のサポート、更にそれ以外の雑務をこなす八面六臂の活躍を見せていた。

 ちなみに、リインがつけているのはクウガのマークにアギトのマークが重なったエプロン。邪眼を倒した際のものを五代が表現した唯一無二の物だ。

 

「五代、私とザフィーラにナポリタンを頼む」

 

「あたしはアギト御膳だかんな」

 

「私は……はやてちゃんどうする?」

 

「わたしはセットにするわ。リインもそれでええな?」

 

「はいです!」

 

 八神家五人の注文を受け、五代と翔一は無言でサムズアップ。リインはそんな二人に苦笑しつつお盆を準備。まず出来上がったのはナポリタン。それを手にしてシグナムとザフィーラは先にテーブルへ。

 ザフィーラは狼の姿でいる事が多いのだが、食事時や鍛錬時はこうして人の姿をする事となっていた。それは翔一が望んだため。彼はザフィーラをペットではなく人と思っているので、狼の姿での食事は禁止と告げたのだ。

 

 二人が席につき、少ししてセットが完成。はやてとシャマル、ツヴァイが動き出し、ヴィータはそれを眺めて不満顔で翔一へ早くしろと急かし出す。それに翔一は苦笑しながらも御膳を完成させてお盆をヴィータへ差し出した。

 

「へへっ、やっぱ美味そうだな」

 

「お昼にシグナムが食べとるの見て、ずっと言うとったもんなぁ」

 

「リインは少しもらったです」

 

「私も迷ったけど、夜あまり食べると太るから」

 

「なら、夜に甘い物は取るなよ」

 

「湯上りの甘味が一番いかんと聞いたが?」

 

 賑やかなはやて達。それを見て笑みを浮かべる五代達。更にそこへ外回りを終えたフェイトが顔を出す。その隣には光太郎がいた。車を預けるついでに連れ立って歩いてきたのだ。

 

「お、今は空いてるかな」

 

「みたいですね」

 

「いらっしゃいませ」

 

「独創的な味と料理のレストランアギトか、オリエンタルな味と香りのポレポレ。どちらのご利用ですか」

 

 翔一が笑顔で迎えれば、五代がそれにやや畏まった口調で問いかける。それに二人は苦笑を返し、何を食べるかと話し合う。その間に五代達は返ってきた食器を洗ったり、この後の状況を予想しながら準備を始める。

 やがて二人の意見が決まったのか、フェイトと光太郎が笑顔でポレポレカレーを注文。それに五代が言った言葉に軽く周囲が言葉を失う。

 

「カレー二つね。注文、どうもありが豆板醤は四川の決め手」

 

 その言葉に光太郎もフェイトも苦笑するしかない。五代の言葉で食堂にいた全員が視線を彼へ向けたからだ。そして、その五代の言葉に翔一が頷き、小さく今度自分も何か言わないといけないと呟くのを聞いたリインが軽く頭を抱えていた。

 そんな中、即座に用意されるポレポレカレー。二人がこれを頼んだのは時間が早いのも理由の一つ。それと、これを頼むと五代が必ずサービスとして五代ブレンドのコーヒーをつけるのだ。

 

「はい、これはサービス」

 

「ありがとうございます」

 

「いつも思うけど、これでいいのかい?」

 

 採算などを考えてない五代のやり方に光太郎がそう尋ねる。それに五代は笑みを返して頷いた。損して得取れですからと、そう言って五代はサムズアップ。自身で納得出来る行為と思っている。そう光太郎へ示したのだ。

 それに光太郎とフェイトが納得して笑みを見せる。するとその言葉を聞いていたはやてがにやりと笑みを浮かべて五代の方へ顔を向けた。

 

「なら、その分五代さんのお給料から引かせてもらおか」

 

「あっ! そりゃないよはやてちゃん」

 

 はやての容赦ない言葉で途端にその笑顔を崩す五代。はやてはその反応に笑いながら冗談だと返す。その言葉に安堵の息を吐く五代を見て今度はその場にいた全員が笑い声をあげた。

 こんな風に五代が笑いを取る時は大抵人が絡んでの事が多い。翔一の場合は若干それとは違う形となるが基本は一緒だ。和やかな雰囲気に包まれる食堂。だが、五代と翔一は揃って小さく首を傾げていた。

 

「……遅いね」

 

「遅いですね」

 

 その理由は未だ姿を見せない若者四人組だった。いつもなら元気良くお腹を空かせたスバルとエリオが現れ、それに続く形でティアナとキャロがフリードと共にやってくる時間なのだ。

 

「何かあったかな?」

 

「訓練が長引いてるのかもしれないですね」

 

「ティアナちゃんが反省会してるとか」

 

「あ、じゃあスバルちゃんがお腹空きすぎて動けないとかはどうです?」

 

「……五代のはともかく、翔一の意見はどうかと思うぞ」

 

 来ない理由を予想し合う二人に、リインはそうどこか笑いを堪えるように告げる。それにやや反省する翔一と苦笑する五代。そのまま三人は再び意識を仕事へ集中していく。

 その頃、その本人達はなのはから教えられたデバイスの事で頭が一杯だった。スバルとティアナは完全新型で恩人達の想いが作らせたインテリジェント。エリオとキャロは既に持っているデバイスを本格的な物へとするために機能を解除する事となっている。

 

 エリオは槍型のアームドデバイスであるストラーダを、キャロは手袋型のブースとデバイスであるケリュケイオンをデバイスマイスターでもあるシャーリーに預けてきたのだ。

 

「でも、まさかねぇ……」

 

「アタシ達に専用のインテリジェントなんて……」

 

 スバルとティアナは先程聞かされた話を思い出し、そう言い合った。スバルはローラーブーツに代わる”マッハキャリバー”を、ティアナはアンカーガンに代わる”クロスミラージュ”をそれぞれ与えられる事になっていた。

 それを明日には渡され、訓練に使用する事になる。そう考えると不謹慎だが心が弾むのだ。未知なる力を秘めた新型デバイス。それを使いこなす事が出来ればまた一歩強くなれると考えて。と、そこでスバルの空腹を訴える音が鳴り響く。

 

「あ、あはは……ごめん」

 

「とりあえず食堂に急ぎましょうか」

 

「そうだね。五代さん達は待っててくれますけど、早く行ってお仕事終わりにして欲しいですから」

 

「そうね」

 

「そうと決まれば急ごう。ポレポレカレーが待ってるよ!」

 

 先を行くように急ぐスバルに三人が笑いながら急ぎ足で歩き出した。その途中でそれぞれのデバイスに想いを馳せて語らうその光景は、既に以前からそうだったような印象さえあった。

 

 

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「あ〜、生き返るなぁ」

 

「ですねぇ」

 

「やっぱり広い風呂はいいよなぁ」

 

 男子寮の風呂に浸かり、表情を緩める三人の男。五代と翔一、そして光太郎だ。エリオもそんな三人と同じように力の抜けた顔をしている。ヴァイスとザフィーラは揃って洗い場で頭を洗っていて、隣のグリフィスは眼鏡が曇るために何度もレンズを拭いては険しい表情をしていた。

 先程までは整備員達や他の者達もいたのだが、五代達が現れるのと入れ替わりで風呂から出ていったため、今はそれだけしかこの場にいない。六課は部隊長がはやてである事もあって日本色が強い。この大浴場もその一つだった。

 

「でも、こうなると温泉に行きたいですね」

 

「あ、いいね。六課の慰安旅行とかじゃ駄目かな?」

 

「はやてちゃんは賛成するだろうけど、きっと無理だろうね」

 

「なら、僕は銭湯って所がいいです」

 

 三人の言葉を聞いたエリオがそう笑顔で告げた。光太郎から色々な話を聞いたエリオ。その中には、そういう暮らしの中の話もあった。五代達もエリオの言葉に懐かしさを感じて頷くと銭湯に関する思い出を語り出す。

 風呂上りの牛乳が美味いと五代が言えば、ラムネもいいですよと翔一が言う。光太郎はコーヒー牛乳も捨て難いと言って、二人に頷かれていた。そんな話に置いていかれた形になり、エリオは完全聞き役に徹していた。それでもその顔は楽しそうに笑っていたが。

 

 やがてヴァイスやグリフィスもその会話へ参加し、ザフィーラはその話を聞きながら海鳴にあるスーパー銭湯の話を出した。その思い出話に翔一も懐かしそうに応じ、五代も聞いた事はあると返して、そこからヴァイスやグリフィスも巻き込んだ銭湯話へと発展した。

 

「女湯と声が筒抜け?!」

 

「マジかよっ?!」

 

「そうなんだよ。壁の上が繋がっててさ。先に上がるよなんて伝えたりしてね」

 

「そうそう。俺はよく上がるのが早いって言われたなぁ……」

 

 グリフィスとヴァイスが反応した事に五代はそう説明し、光太郎は懐かしむように言って遠い目をする。だが、それを聞いた翔一が最近の銭湯はそうじゃないと返し、ザフィーラがそれを肯定する。エリオは五代達の話に人の繋がりを感じていたので、その良さが無くなった事実に軽くがっかりしていた。

 一方、ヴァイスは別の意味で残念がっていた。だが、それを察したグリフィスが呆れたような視線を向ける。加えて覗きをする気ですかと鋭く突っ込み、ヴァイスがそれに何が悪いと反論し始めた。

 

 そんなヴァイスを見てザフィーラがエリオへ静かに告げた。あんな男にはなるなと。それにエリオが真剣に頷いたのを見て五代達三人は苦笑するのだった。

 

 そうやって男性陣が盛り上がっている頃、女子寮の大浴場でも狙ったかのように銭湯の話をしていた。

 

「お風呂にそんなに種類を作るなんて……」

 

「面白そうですね!」

 

「うん。機会があったら一度連れて行ってあげたいけど……無理かなぁ」

 

 なのはがやや残念そうにそう告げると、スバルが少し慌てて気にしないで欲しいと手を横に振る。こちらでの話のキッカケは、スバルの湯上りのスポーツドリンクが美味しいとの発言。それに、その場にいたはやてがフルーツ牛乳だと返したところからこの話題は始まったのだ。

 ヴィータがコーヒー牛乳が一番と言うと、それにフェイトが同意し、シグナムは普通の牛乳が至高と断言。それを聞いたシャマルとリインが揃って頷き、ツヴァイとキャロは話についていけずそんな会話に聞き入るのみ。

 

 一人なのははスバルとティアナに地元のスーパー銭湯の内容を話し、それに二人は感心するやら呆れるやら。本来なら、スバル達となのは達隊長陣が共に入浴する事は稀である。訓練終わりに汗を流しに来るスバル達とは違い、なのは達は簡単な書類仕事等を片付け、それから入浴となるからだ。

 しかし、今日はデバイスを見に行った事に付随し食事が遅くなった事が影響した。そのため、このようにスバル達となのは達が出くわしたという訳だった。そして、もう一つ現状へ至った理由がある。

 

 そう、なのはは本来ならば夜遅くまで掛けて訓練プログラムを組み上げるのだが、それを精密に神経質とまで言えるような程作りこんでいないためだ。その要因の一つは、なのはが撃墜されていないため。そして、もう一つは五代の存在だった。

 

 それは、最初の夜になのはが作業していた時の事。何となしに夜の散歩をしていた五代がなのはを見かけたのだ。夜も更け、日付が変わるまで二時間もないにも関らず訓練場の設定をしているのを見て、五代はなのはへ聞いたのだ。何故そこまでしている理由を。

 それになのはは自分が長期間の教導をした事がない事を話し、スバル達のために出来るだけの事をしたいと思っているからだと語った。そこには長期教導をした事のない不安があった。それを聞いた五代はなのはの考えを理解したと頷いたが、こう告げたのだ。

 

―――なのはちゃんが考えている程、人って弱くないよ。

 

 その言葉の意味を判りかねているなのはへ、五代は笑みを浮かべて言った。何から何まで完璧にしなければいけない。そう思うのはいい。だが、それが必ずしも相手のためになるとは限らないと。

 時には、どこか至らない場所があってもいい。それもいい経験として力に変えるのが人なのだ。五代はそう言ってなのはを見た。いい加減にやれとは言わない。しかしあまりにも根を詰めるのは良くないからと、そう告げて。

 

「訓練前に疲れてたら、意味ないよ」

 

「……そうです、ね。なら、これぐらいにします。細かい調整とかは……それが必要になったらで」

 

「うん。それでいいよ」

 

 笑い合う五代となのは。そして、揃って歩きながら会話する。なのはが少し冗談で何かミスをしたらどうしようと言うと、五代は少し考えてこう告げた。

 

「大丈夫。失敗しても、後悔しても、悩んでも、困っても、それでもみんな、前に進んでいくんだから」

 

 サムズアップ。それになのはもサムズアップ。自分がどこか迷った時、道を示してくれる笑顔がそこにある。なのははそう考え、ある事を思い出す。自分はエースと呼ばれる存在。優れた空戦魔導師に与えられる称号。それに対し、優れた陸戦魔導師にはストライカーという称号がある。

 どちらも状況を一変させる存在という意味合いが込められているが、五代達仮面ライダーはまさにそれだ。だが、エースもストライカーも彼らには相応しくないと思ったのだ。

 

 そう、言うなればヒーロー。状況を一変させるではない。いるだけで勝てると思う存在。不可能さえ可能にするであろう者。それがあの戦いでなのは達が感じた感覚。絶望を払い、希望を灯す。いるだけで絶対大丈夫と断言出来る何かを持つ者。それが、仮面ライダーなのだから。

 

 なのはがそんな事を思い出している横では、はやて達を見つめる者がいた。ロングアーチ三人娘の一人、ルキノだ。彼女からすればはやて達はエリート魔導師。それがやたらと庶民じみている事に軽い驚きを感じていたのだ。

 

「……い、意外とはやてさん達って庶民的なんだ」

 

「ルキノ、その気持ちは分かるけどさ、はやてさん達もあたし達と同じようなもんだって。月給聞いたら、そこまで大差あるって訳でもないし」

 

「そうそう。仕事が忙しくなる割に見返り少ないんだよ。それに、フェイトさん何でもお仕事請けちゃうし……」

 

 女三人寄れば姦しいとばかりにアルト達が会話している視線の先では、はやて達が既に話題を湯上りの飲み物から五代達三人へと変えていて、シグナムが光太郎は模擬戦をしてくれない事をぼやいていた。

 だが、それにシャマルが軽く呆れ気味にため息を吐く。シグナムが模擬戦を望む相手である光太郎。そして同じそれとなく要望している相手の五代。その二人にはある共通点があったのだから。

 

「仕方ないでしょ。光太郎さんも五代さんも基本戦う事が嫌いだし」

 

「だな。翔一だってどうしてもって言ってやっとだろ」

 

「……一度でいいと言っているのだが」

 

「あ〜、無理無理。五代さんも光太郎さんも平和主義者や。力を使う事は最後の手段やからな」

 

 はやての言葉にフェイトが頷いた。それを見たシグナムは心の底から残念そうに項垂れる。リインは、そんなシグナムへ苦笑すると同時に大袈裟だなと告げた。それにツヴァイが同意するように頷いた。だが、キャロはどうしてシグナムがそこまで光太郎や五代との模擬戦に拘るのかが分からなかった。

 

(光太郎さんも五代さんも、そこまで強いとは思えないんだけど違うのかな……? 魔法使えないし、シグナムさんよりは弱いような……)

 

 二人が仮面ライダーだと知らないキャロにとって、二人は一般の魔法を使えない者達よりは強い程度の認識。勿論光太郎がザフィーラと手合わせしたのを見たのでかなり凄いとは思っている。それでもバインドなどを使われれば勝てないと思っているのだ。

 そんな風に考えるキャロの後ろでは、スバルとティアナがこの後の事を話していた。休憩室を使って談笑しつつお菓子を食べる事は決まっているのだが、話題を何にするかを決めかねていたのだ。

 

「やっぱり仮面ライダーについてかな?」

 

「う〜ん……でも、噂程度しか話せないでしょ」

 

「じゃ、なのはさん達も誘ってみようか」

 

「……時々アンタの素直な思考が羨ましくなるわ」

 

 上司に当たり、しかも仕事などで忙しいなのは達隊長陣。それを雑談に誘って貴重な時間を使わせる事を躊躇いもせずに提案するスバル。そんな彼女にティアナはやや呆れながらそう答えた。

 それを聞いていたのか、なのはが少し嬉しそうに笑みを浮かべて二人へ視線を向ける。そして二人へ構わないと告げながら念話でフェイトとはやてに声を掛けた。内容は、一度スバル達にライダー達の事を話しておこうというもの。

 

 なのはは、今後戦う事になる相手の事だけではなく、共に戦う仮面ライダーについても情報を与えておくべきだと考えた。いざという時に驚いたり、心乱す事がないようにと。そう告げるとフェイトとはやても少し迷ったが、確かにそうしておくべきだと判断した。

 何せ、五代も翔一も光太郎も変身の必要があれば躊躇う事無くすると知っているから。真実を教える必要はない。ただ、事実を教えて心構えだけでもしておいてもらおうと。

 

【それに、スバルとティアナは五代さんがクウガって知ってるんだよ。なら、レアスキルや特別製のバリアジャケットとかで通じる気がする】

 

【ま、確かにキャロ達にもある程度の情報は知らせとくべきか】

 

【……いいよ。でも、極力光太郎さん達の詳しい話はしない方向で】

 

 こうして、なのははその場にいた全員に話したい事があると告げ、風呂上りに五代達も含めて話す事になった。それに不思議そうな反応を見せるスバル達へ、なのはは少し真剣な声で告げた。話は五代達や二人のデバイス製作に関する事だと。

 

 

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 六課の男子寮と女子寮は渡り廊下で繋がっている。そのため行き来は簡単に出来るのだが、消灯時間になるとその渡り廊下が施錠され、行き来出来なくなるのだ。寮母であるリインに言えば開けてもらう事は可能だが、余程の理由がない限り不可能。

 そして、憩いの場所である休憩室は男子寮側の渡り廊下からすぐの所にあった。そこに五代達は集まっていた。その手には飲み物やタオルなどを持っていて、実に見た目は和やかだ。しかし、放している内容は全てそういう訳ではない。

 

「……で、俺はスバルちゃんと会ったんだ」

 

「はい。私の忘れられない思い出の一つです」

 

 六課の主だった人間が勢揃いで休憩室にいる異常な光景。寛いでいる格好だが、雰囲気はどこかそうではないのは話題のためだろう。

 あの後、エリオを通じて休憩室へ呼び出された五代達は、なのは達が仮面ライダーの事を教えたいという話に初めこそ戸惑った。が、邪眼がいつ現れるか分からない以上、いつまでも黙っておくのも不味いと思い了解して現在に至る。

 

 まずはなのはやスバルによるクウガの話。事情を知らない者達へ、なのはは五代達をレアスキル持ちと告げた。それは、自身の体を強靭な鎧で覆い、危険な状況に対応させる事の出来る能力だと。

 それを聞いてスバルもティアナも納得していた。クウガの姿を実際見たスバルとそれを聞いていたティアナからすれば、その説明は実にしっくりくるものだったのだ。

 

 そして、二人以外にもエリオやキャロなども理解すると同時に納得していた。どうして何の力もない五代達を六課に誘ったのか。その理由を聞いたと思ったからだ。五代も翔一も光太郎も同じ能力を持つ者達。

 だが、それはあまり頻繁に使うものではない。そうはやてが告げると、五代達もそれに頷いた。出来る事なら使わないままでいたいと五代が言うと、光太郎がそれに無言で頷き、翔一はそうですねと同意したのだから。

 

「じゃ、次はアギトの話?」

 

「そうや。翔にぃの話やな」

 

 そのままはやてが語るアギトの話。様々な場所で救助活動をしていた時の事を話し、ヴィータやシャマル等が補足などをしながら懐かしむ。ティアナは、自分が知らない所で翔一が災害と戦っていたと知り、その事を自慢もしない所に密かに感心していた。

 エリオ達も翔一が人知れずしていた内容に、素直に尊敬の念を抱いていた。普段明るくどこか抜けているような雰囲気さえ漂わせる翔一が、危険な場所へ赴き、命を助けていたのは、驚きと共に敬意を払う行為だからだ。

 

「……という訳で、翔にぃも立派な災害救助者や」

 

「でも、俺だけじゃ出来ない事ばかりだったから。はやてちゃんやシャマルさん達がいてくれて、助ける事が出来たと思うよ」

 

 はやての誇るような言い方に、翔一はそう柔らかく否定するように告げた。自分一人では出来ない事ばかり。はやて達が支えてくれたからこその結果だと、そう強く言い切って。

 それに照れくさくなるヴィータを見て、シグナムが小さく笑みを見せる。シャマルとリインは微笑み、ザフィーラは無言。はやては胸を張ってツヴァイはそれの真似をする。

 

「最後はRXだね。私と光太郎さんは、ミッド限定だけど一緒に捜査をしていたんだ」

 

 フェイトが一つ一つ思い出すように話し出す。それは出会いの空港火災から始まって、つい最近までの事件にも及んだ。それを語っている時のフェイトはどこか懐かしむような目をし、声には喜びと感謝が滲んでいた。

 光太郎と出会ったからこそ、今の自分やエリオ達がいる。そうフェイトが言うと、エリオとキャロが頷いて返す。兄のように思っているとエリオが言えば、キャロも同じように感じていると告げた。

 

 そこに込められたのは、親愛。光太郎をただの兄代わりなどではなく、心から慕っているという想い。そして同時に二人はフェイトへも想いを伝える。フェイトが自分達を引き取ってくれたから、こうして笑い合っていられるのだと。

 そこには救われた感謝と出会えた喜びが込められていた。笑顔でありがとうと告げる二人に、フェイトは一瞬言葉を忘れ、その後感極まったのか瞳に涙を浮かべた。それを見た光太郎がそっとハンカチを差し出す。その二人を見つめ、誰もが思った。フェイトと光太郎にも、特別な絆が出来ていると。

 

 仮面ライダーを知り、その正体を知ったスバル達。だが、それは事実であって真実ではない。彼らが背負った使命。その重さと苦しさは、まだ欠片さえ見せられていない。何故ならば、それを完全に知る者は六課にはいないからだ。

 フェイトも光太郎の事情を知りはしたが、五代と翔一の事情を完全には知らない。三人が持つ”人”ならざる痛みと哀しみの記憶。それをなのは達が完全に知る時、六課の戦いは終局を迎えるのかもしれない。

 

「でも、これで話は終わりじゃないんだ」

 

「うん。六課に五代さん達が協力してくれている理由。それを話さないとね」

 

「闇の書事件。その真相と結末を、話そか……」

 

 なのはの言葉にフェイトとはやてが続く。その真剣な表情と雰囲気にスバル達は揃って息を呑んだ。闇の書事件自体は局内でも有名な事件。その真相と結末。光太郎も知ってはいるが、詳しい話をもう一度と思い、黙って三人を見つめていた。

 そしてはやてが静かに語り出すのだ。全ての始まりと、ここに至る流れを。闇を飲み込む邪悪な存在との戦いの記憶を。

 

 

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「真司、これは?」

 

「それはラー油。辛いけど、それを使うと美味いんだ」

 

 アギトの質問に真司は笑顔で答える。現在、真司達はあの施設を使って昼食中。メニューは真司の希望で餃子となった。そう、アギトと出会った事を祝うために。チンクが陣頭指揮を執り、真司監修の下餃子は完成し、現在凄まじい勢いでそれが無くなっていた。

 小麦粉から皮を作ったためかなりの重労働になったが、全員の協力で何とか昼食に間に合う事が出来た汗と努力の結晶なのだ。材料も何とか施設にあったので無事に餃子を作る事に成功した。

 

「……辛っ! けど……美味しい……これ、美味しいよ」

 

 真司へ驚きながらも笑みを見せるアギト。名前を付けたためか、アギトは真司を気に入りその傍にいるようになった。セッテも自身を助けてくれたためかアギトは気に入っていて、昨夜は共に寝たぐらいの懐き方だ。

 

 結局あの後、施設を使って真司達は一夜を過ごした。中にいた者達は一室へ閉じ込め、その扱いや今後を踏まえて食事終わりにジェイルが結論を伝える事になっている。いつまでもここにいる訳にもいかないし、違法行為をしていた者達を放置するのも気が引ける。

 そのため、ジェイルは一大決心をしていた。それを決めた理由はただ一つ。あの平和で楽しい時間を取り戻すためだ。邪眼が未だに自分達の家を占拠している事は明白。故に、それを駆逐しなければならない。しかし、今のジェイル達だけでは戦力が足りないだろうと考え、ある事を決断したのだ。

 

「……さて、食事も終わったようだし、今後の事を話そうと思う」

 

 ジェイルの言葉に全員が真剣な面持ちでその顔を見つめた。アギトも簡易的にではあるがジェイル達の素性とここに来た経緯を聞いていた。その際、ジェイルからは犯罪者と言われたが、真司達の性格や接し方などからアギトは彼らを悪人とは思っていなかった。

 きっと何か事情があったのだろうと、そう考えていたのだ。それに真司達は実験動物にされていた自分を助けてくれた恩人。その恩に応えずに融合騎は名乗れない。そう思ってさえいたのだから。

 

(創世王だが何だか知らないけど、真司達の家を取り戻すためにアタシも手伝わないと……)

 

 アギトは融合騎。騎士とユニゾンする事でその真価を発揮する。だが、残念ながらその適正が高い者がいなかった。真司は全員からかなり期待されたものの融合係数は低く、アギトは結局ロードを見つける事が出来なかった。

 それでも簡単な魔法は使える。微々たる力でも、何かの役には立つだろうとアギトは思っている。そう思って表情を凛々しくするアギトの耳にジェイルの声が聞こえてきた。

 

「まず……ここを管理局に教える」

 

 そのジェイルの言葉にほぼ全員が納得した。ここは違法施設。詳しく調べれば色々な事が分かるだろう。そして、ここの者達の処分も局に任せるのが妥当と言えたからだ。しかし、そんな納得が出来る内容から一転、誰も予想しなかった事をジェイルは告げた。

 

「そして、伝える相手はゼスト隊だ」

 

 その瞬間、全員が声を失った。特に真司達ゼスト隊を知る者は絶句。オットー以降の四人は知らない故の戸惑い。アギトは、そんな周囲の様子に困惑していた。

 その状況を見てジェイルは静かに語り出す。自分達が対峙した相手。邪眼がもし想像通りの相手ならば、ラボを使って何をするか予測が出来ない。なら、これは既に自分達の手に負える範囲を超えていると。

 

「だから私達と接点のあるゼスト隊を頼り、管理局と共にそれと対峙する」

 

「でも、兄貴が倒したじゃんか! なら、今度も……」

 

「ノーヴェ、君の言う事はもっともだ。でも、真司がサバイブを使って何とか一体だよ? 同時に三体も四体も襲われれば……どうだい?」

 

 ジェイルの諭すような問いかけにノーヴェは返す言葉を失う。それを横目にし、代わりにトーレが口を開いた。

 

「負けるでしょう。我々が手を貸しても無理です。ベントカードは一度の変身で一度きりしか使えない」

 

「……ファイナルを使ってしまえば真司君もあいつを倒す手がない、って事ね」

 

「かといって、その都度変身し直す時間をくれるとも思えんしな。……ISも使ってこれるとしたら、次回は今回のようにはいかないかもしれん」

 

 トーレに続くようにドゥーエとチンクが返す言葉。それに全員が悔しい思いをしていた。龍騎が強化した力を使ってでしか倒せない相手。しかし、その真司は自分達と違いただの人。戦闘機人であるにも関らず、その真司に助けられるしかない自分達。その現実にそれぞれが不甲斐無さを感じていた。

 

 だが、アギトがここで抱いた疑問をぶつけた。それは、彼女以外には当然の事として話されていたある単語。

 

「ね、変身って何?」

 

 その言葉に真司が自分のカードデッキを見せる。そして仮面ライダーの説明をするのだが、それがサバイブにまで及んだ時、聞いていたアギトが何か思いついたように表情を輝かす。

 

「ね、ね! その烈火ってカード使ってみせてよ。アタシの通り名と同じだし、見てみたいんだ」

 

「……まぁ、もう隠す必要ないしなぁ」

 

 アギトの興味深々という目に真司はどこか照れくさいような感覚を覚えるが、既にサバイブを見せる事への抵抗はない。子供のようなアギトの目と純粋に見たいという気持ちに真司は小さい頃の自分を思い出していたのだ。

 幼い頃見ていた架空の存在。正義の味方のショーなどでその姿に憧れた事もある真司としては、アギトの言葉はその頃の自分と同じに思えたのだ。

 

 こうして、真司はアギトへサバイブを見せる事にした。変身を見てアギトは興奮し、更にサバイブの影響で周囲に炎が走った時などは本当に子供のようにはしゃいだ。

 だが、サバイブとなったその姿を見て、アギトは呆然となりながらも呟いた。

 

―――アタシの……理想のロードだ……

 

 紅蓮の炎を纏うような龍騎の姿。真紅の鎧に身を包み、焔を想像させるその威容。アギトはそれを見て心から思ったのだ。自分の仕える騎士は、龍騎しかいないと。

 そして、無意識にアギトは龍騎へと近付いていく。龍騎はそんなアギトに気付き、どうしたのかと尋ねるのだが、それに返ってきた言葉はたった一言。

 

「ユニゾン・インって言って」

 

「え? ユニゾン・イン?」

 

 その瞬間、龍騎に吸い込まれるようにアギトが消える。その次の瞬間、龍騎の鎧の背後から炎の翼が出現した。その変化に驚く龍騎とジェイル達。融合係数が低いはずの龍騎。それが完璧な程にユニゾンしていたのだ。

 ジェイルは事情を聞こうと龍騎の中にいるアギトへと呼びかけた。すると、龍騎が少し理解出来ていないという感じで彼女の言葉を告げる。どうも真司の時は融合係数が低いのだが、変身してサバイブになった途端、それが著しく変化したのだと。

 

 その理由は分からないが、ジェイルはおそらくサバイブの影響だろうと結論付けた。龍騎の体を変化させるサバイブ。それはきっと体の構造を作り変えるに近い効果があるのだろうと判断して。

 融合係数も、もしかしたらその影響を受けて変化したのかもしれない。それを聞いた龍騎はなるほどと頷いた。一方でアギトは龍騎とのユニゾンに感無量だった。

 

(すごい……すごいよ、この感じ! 間違いない……真司がアタシのロードだっ!)

 

 全身で感じる一体感。力が溢れ出すかのような感覚にアギトは気分が高揚していくのを感じていた。一方の龍騎も龍騎で驚いた事がある。それは魔法が使えるようになっていた事。正確には、魔法の影響を受けるようになったのだ。

 背中に翼が出現したのを見て、試しにと飛行魔法をアギトが使ってみた。すると龍騎が空を飛んだのだ。それを見てトーレとセッテが揃って笑みを見せた。空戦だけが龍騎の不得意な戦場。それを良く知る二人だからこそ、その光景は嬉しく思う物でしかない。

 

(これなら奴が私のISを使おうと……)

 

(例え空戦に持ち込まれても……)

 

((負けないっ!))

 

 龍騎の弱点が克服された事。それは喜ばしい以外の何物でもない。相手がサバイブの情報を得た今、龍騎とアギトのユニゾンは何よりの切り札となり得る。相手の情報を逆手に取り、翻弄し困惑させる。

 龍騎が地上戦も空戦も出来るのなら、戦術の幅も大きく広がる。そう考え、トーレは視線をウーノとクアットロへ向けた。どうやら二人も同じ事を考えていたようで、トーレの視線に笑みを返してみせたのだ。

 

 そして、龍騎が変身を解除するのと同時にアギトも強制的にユニゾンを解除された。だが、その表情は笑顔。少し疲れた真司へ向かって、アギトは嬉しそうに言った。

 

―――真司、アタシはアンタをロードに決めた!

 

 その言葉に全員が小さく驚きを見せるが、先程の光景を見れば確かにそれは納得がいくと真司以外は頷いた。真司はどこか自分には相応しくないと言ったのだが、アギトがあまりに熱心にロードになってくれと言うので、条件付きでそれを承諾する。

 条件は一つ。自分と違い、普段からアギトとユニゾン出来る高い適正の相手を見つけたらそちらへ声を掛ける事。ただし、いくら適正が高くてもアギトが気に入らない相手ならその限りではないとは言ったが。

 

「え〜? 真司で本決まりでいいじゃないか」

 

「でもベルカの騎士ってまだいるんだろ? ならきっとその内見つかるって」

 

「でもなぁ……真司以上の相手はいないだろうし」

 

「そうか?」

 

「おう、あんなに相性いい相手なんてそうそういないさ」

 

 そんな風に話す二人。真司の肩に乗っかり、満面の笑みを見せるアギト。そんな笑みに真司もどこか嬉しそうな笑みを返す。それを見てセインがやや拗ねたように口を尖らせ真司へ文句を言い出した。

 会ったばかりなのに仲が良い事に腹を立てながら真司の腕を掴むセイン。ちゃっかり胸を押し当てる事で真司をびっくりさせるのが彼女らしい。それを見たウェンディが面白がって便乗し、更に混沌と化す真司の両脇。

 

 それを見つめて苦笑するジェイルとドゥーエ。微笑ましく見つめるはウーノとクアットロだ。一方で何とも言えない表情を浮かべるのがチンクとトーレ。真司とはしゃぎ合うのをどこか悔しそうに見つめるセッテとノーヴェ。そしてディエチとディードにオットーは純粋に羨ましがっていた。

 アギトはそんなセインとウェンディの行動に不思議そうな顔をしたものの、真司が動揺しているのが面白いのか笑い声を上げていた。こうしてジェイル達は行動を開始する。全ては、あの楽しく穏やかな時間を取り戻すために。

 

 

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六課は仮面ライダーの正体暴露。とはいえ、その成り立ちや真実は本人達以外は知らないため、真相は明かされず。

 

ジェイル達は龍騎が新たなる力獲得。しかし、それでもまだ邪眼と対峙するには足らず。交わるキッカケは出来ました。ゆっくりですがライダー達の合流も近いかも……

説明
仮面ライダーが起こした変化。それがなのは達の運命を変えていく。
起きるはずだった衝突。すれ違うはずだった想い。それらを彼ら自身が変えられるようにと。
一方ジェイル達は邪眼に対抗するべくある決断を下す事となる。そして龍騎は新しい力を得るのだった。
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コメント
映った何かに気付うて視線を⇒気付いて(黄金拍車)
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