真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第29話]
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真・恋姫?無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜

 

[第29話]

 

 

((?州|えんしゅう))東部にある李典の村を出発したボクたちは、行きとは違って大過なく旅次行軍する事が出来ていました。

趙雲が又もや退屈しだして騒ぎを起こすのでは無いかと心配しましたが、予想とは違って大人しいもの。

お蔭でボクたちは、のんびり行軍し続ける事が出来て大満足でした。

その為に予定よりも早く進軍する事が出来て、あと数日で橋頭堡に到着する所まで来ていました。

ボクが乗っている愛馬・調和も、思いなしか上機嫌。

これでやっと一息付けると思って、ボクは少し安堵感を覚えていました。

 

 

「あんなあ、大将」

 

ボクがタテガミをナデナデしながら調和と((戯|たわむ))れていると、李典が馬に騎乗しながら横へ寄って来て話しかけてきました。

 

「うん? なんだい?」

「……ちと聞きたい事があるんやけど、かましまへんやろか?」

「ああ、別に構わないよ。なにかな?」

 

李典は村を出発してからこっち、ずっと考えていた事があるそうでした。

それは村での友達たちとの一連の経緯。

彼女は友達の心情が理解出来ない為、ボクに聞いてみようと思い立ったそうです。

 

李典の話しを要約すると、

いくら大将(ボクの事)が悪人じゃ無いと言っても、楽進に聞き入れて貰え無かった事。

((寧|むし))ろ自分の方が((騙|だま))されているから、思い直せと言われた事。

新しい概念を楽進や于禁に話したが、彼女たちは受け入れなかった事。

という事でした。

 

ボクは暫く考えてから、李典に話しかけていきます。

 

「最初に言っておくけど、これは良いとか悪いとか言っているのでは無い事を理解しといてね?」

「ええよ?」

「友達が聞き入れなかったのは、それは友達の権利だから真桜が気に病む必要はないよ。どう思うかは、人それぞれさ。ボクの為に言ってくれているのなら、余計にね。ボクは気にしていないから、大丈夫だよ。

 概念については、恐らく伝える時機があっていなかったか、もしくは受け入れる準備が出来ていなかったんだと思う」

 

李典はボクの言葉を理解していないようで、疑問を問いかけてきました。

 

「なんやの、時機や準備って?」

 

「真桜が初めてボクたちと出会った時、((切羽|せっぱ))詰まってたでしょ? 助けが欲しいのにタライ廻しにされててさ。そういう時に人は自分自身に問いかけて、自分の中に答えを見出そうとするんだよ。相手を説得する手立てか、それとも自分を納得させる考えかは別にしてね」

 

「せやね」

 

「でも、楽文謙さんたちに真桜が概念を伝えた時には、すでに曹軍と一緒にいて安心していたでしょ? 更には一度、ボクたちが賊を撃退した後でもあったしね。だから、自分自身に問いかける必要が無かった。それがつまり、時機があっていなかったって事」

 

李典は頭を上下に振り、ボクの言葉を理解しようと努めていました。

 

「受け入れる準備が出来ていないと云うのは、至極簡単。ただ単に、新しい概念を必要としていないんだよ」

「なんでや? 誰でも幸せに成りたいんとちゃうの?」

 

李典はボクの話しが腑に落ちないようで、疑問を((呈|てい))してきました。

 

「何に幸せを見出すかは、人によって違うだろ? 権利を明け渡して幸せにして貰うと云う選択が、その人の在り方って事なんだよ。自分で責任を取らずに他のモノを責めている方が簡単だし、楽だからね。だから必要としないんだよ」

 

「……」

 

「でも権利を預けている以上、その人の幸せは((束|つか))の間のモノに過ぎないよね? だから、その人の人生には常に((葛藤|かっとう))が付きまとうし、争いごとが絶えないだろう。

 そして、苦しんで、苦しんで、苦しみ((貫|ぬ))いて、もう嫌だ! って、なるまでそれが続くんだよ。その人自身が概念を変えて、自分なりの幸せを見出す選択をしない限りね」

 

李典はボクの話しを聞いて頭を下げ、考え込んでしまいました。

 

「もっとも、それだって悪い事じゃないんだよ? だって、その人の嫌な事が分かるという事は、好きな事が分かるという事と同義だからね。自分の望む事が何かを知る為に、望まない事が起こっているだけなのさ」

 

「そうやろか……」

 

「まあ。不安と一体に成っていて自分が不幸だと思っている人には、そんな事を言っても聞く耳を持たないかも知れないね。大抵の人達は、現実というモノが一つしか無いと思っているから尚更にね」

 

李典は顔を上げてボクを見ます。

ですが彼女は、ボクが何を言ったのか分からないと云った感じでした。

 

「なに言うとんねんな、大将。現実は一つしか無いやろ?」

「もちろん、共通している部分は多くあるよ? でもね。共通している部分がある別の現実と思うか、唯一無二の同じ現実と思うかとでは、意味合いが違ってしまうんだ」

 

李典は余計に訳が分からなくなって困惑しているようだと、ボクには見受けられました。

ボクは彼女に詳細を話していきます。

 

「人は現実を見る時、自分を通してしか現実を見る事が出来ない。自分を通すという事は、自身の“思い”を通して見ると云う事。共通部分は多くあるけれど、それぞれ個々の思う現実をボクたちは生きているんだ。

 だから同じ人が二人と居ないと同様に、同じ現実というモノも存在しないのさ」

 

「……」

 

「でも大抵の人達は、唯一無二の同じ現実を生きていると思ってしまっている。そして、権利を預けてしまって束の間の幸せしか感じられないから、幸せで居続ける為に他のモノを従わせて支配する事で永続させようとするんだ。自分にだけ都合の良い現実を、他のモノに強要すると云うやり方でね」

 

李典は何となく分かるけれども、許容できずにいるようでした。

今迄、現実を唯一無二のモノとして((捉|とら))えていたのですから、当然かもしれません。

 

「だからね、真桜。全ては、新しい概念を伝えた相手の選択次第なんだよ。ボクたちは自分以外の存在を、どうする事も出来ないんだ。例えその相手が自分にとって、どんなに大事な人で、どんなに幸せになって貰いたいと思っていてもね」

 

話しを聞いた李典は、また頭を下げて考え込んでしまいました。

彼女は新しい概念を伝えて、楽進や于禁たちに幸せになって貰いたかったのかも知れません。

でも、それが上手くいかなかったので、ずっと模索していたのでしょう。

ボクは口を((噤|つぐ))み、そのまま時が流れるに任せました。

 

 

ボクたちはそれぞれ、自分の頭の中に在る思いによって創られた別の現実を生きているのです。

しかし多くの人達は、その事に気付いていません。

ボクたちは思いによって現実を見定めて、それぞれの現実で人生を体験しています。

ある事実を幸せな事として、ある事実は不幸な事だと自分自身で決めて。

今の自分にとって有益な思い込みもあれば、有害な思い込みもあるでしょう。

いったいボクたちは、どれだけ多くの思い込みを持っているのでしょうか?

しかし責任を取って幸せで在り続けるに為には、自分の感じ方を統御しなければ成らない。

そして、今の自分にとって不要な思い込みを少しずつでも解きほぐして、受け入れて行くしか方法が無いのです。

余りにも地味で、余りにも根気がいる作業かも知れませんが。

 

 

「真桜。“思い”は現実を見定めるだけで無く、現実を創造していく“力”でもあるんだ」

 

暫く静寂を感じていたボクは、おもむろに李典へ話しかけました。

李典は顔を上げてボクを見詰めますが、彼女は困惑しているようです。

でも、これも仕方が無い事だとボクは思いました。

多くの人達にとって現実とは自分の外に在り、時に自分を((酷|ひど))い目に合わせて((翻弄|ほんろう))し、時に自分を優しく受け入れてくれる存在だと思っています。

どちらにせよ自分は現実に対して無力であり、対処出来ない存在だと思い込んでいるからです。

 

「何故かと言うと、人が何かを始める時には、必ず動機と云う名の“思い”を持ってから行動を起こすからさ。その時の動機が、その時の自分にとって望んでいる思いか否かは別にしてね」

 

李典は話しを黙って聞いてくれていました。

ボクは、そのまま話し続けます。

 

「先頃の((宴|うたげ))での一件で、ボクは昔からの自分の((癖|くせ))、つまり無意識での思い込みを選択している事に気付かず天幕に籠って居て、危うく真桜を失うところだったよね? 真桜もボクが拒絶しているのではないかという不安の思いに従って、そのまま曹軍へ行っていたかもしれない。

 でも、真桜が不安の思いのまま行動する事を踏み止まって、桔梗がボクの思い込みを気付かせてくれたから、今のボクたちの関係が在る」

 

「……そうやね」

 

「“今の自分の思い”は、今の自分が置かれている現実を見定めるだけで無く、これから取る行動すら決める力を持っているんだ。

 つまり。今どんな思いを持っているかで、これから創られる自分の現実が決まっていくんだよ。思いによって創られた現実が、その時の自分にとって望んでいる現実か否かは別にしてね」

 

今こうして李典と共に在れて、ボクは本当に良かったと思っています。

厳顔がボクの思い込みを気付かせ、共に在って欲しいという自身の望みとかけ離れている事に気付けて本当に良かった。

自分一人では気付けない事でも周りの人の助言によって気付ける事もある。

だからこそ、その時の自分にとって耳に逆らう((諫言|かんげん))であったとしても、ボクはこれからも聴いていこうと思っていました。

それが本当の自分の望みへと((繋|つな))がる、((道標|みちしるべ))かも知れないから。

 

 

「真桜。君は、どう在りたい? どんな現実を望む?」

 

ボクは李典の思いを知るべく、彼女に優しく問いかけました。

 

「……ウチは、皆と一緒に幸せで在りたいんよ。凪たちや大将たちと一緒に笑いあって、ずっと仲良う在りたいわ」

 

李典は顔を上げ、どこか遠くを見詰めながら、自身の心の内を話してくれました。

まるで今、望んでいる現実に自分が居るかのように。

 

「なら、その思いを忘れずに抱き続けるんだ。そうすれば君の思いが、君を望む現実へと((誘|いざな))うだろう。

 だけど人は部分的にしか状況を((把握|はあく))する事が出来ず、全体を((網羅|もうら))する事が出来ない。だから、それが実現するか否かは天のみが知るがゆえに人の身では計れない。けれど信じず、思わず、行動しなければ、実現する事も無い。人の身に出来る事は実現すると信じ、思い続けながら、一歩一歩、自身の((為|な))す事を為して行くしかないんだ」

 

李典の望みが彼女にとって良い事なのかどうか、今のボクには分かりませんでした。

ですが例えその望みが何であれ、ボクは手伝って行こうと思っています。

何故なら、ボクたちは苦楽を共にする仲間なのですから。

 

「真桜。君がボクに力を貸してくれるように、ボクも君に力を貸そう。一人では無理な事でも力を合わせれば出来ると、ボクは思っているよ」

「ホンマ? ホンマに手を貸してくれるん?」

「もちろんさ。ボクたちは仲間だろう?」

「おおきに…ホンマおおきにな、大将」

 

胸の内に湧き上がる想いを((堪|こら))えているかのような李典に、ボクは話しかけました。

彼女は希望を見出したのか、涙目ながらも笑顔を取り戻します。

やっぱり、女の子は笑顔が一番ですよね。

それからボクたちは、取り留めのない話しをしながら行軍を続けました。

 

 

 

 

数日さらに行軍し続けると、昼前頃に橋頭堡付近へ到着する事が出来ました。

先触れを魏延に任せ、ボクたちは悠々帰還の途につきます。

 

「あっ、刹那様! 橋頭堡が見えて来ましたよ!」

 

ボクの傍らに居る周泰が、持ち前の目の良さで目的地を見付けて報告してくれました。

それから暫く橋頭堡へ向かっていると、ボクの目に城門前に数人居るのが見て取れ、それは黄忠を始めとした残留組だと確認します。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 

城門前まで行ってボクが調和から降りると、黄忠が代表して労いの言葉を掛けてくれました。

しかし、ボクは少し違和感を覚えます。

何故なら黄忠は微笑しているのに、目が笑っていない笑顔だったからでした。

しかも、ボクが同じ並びにいる郭嘉や((程c|ていいく))、更には魏延や北郷にも顔を向けて問い掛けるのですが、彼らは一様に顔を背けるのです。

 

「え〜と、紫苑? 留守中に…何かあった?」

 

ボクは訳が分からず、黄忠に問いかけました。

 

「いいえ、全然。まったく問題ありませんでしたわ」

「そっ、そう? それは良かっ…」

「ただ単に、誰かさんが根こそぎ持って行ってくれたお蔭で、次の補給が来るまでお酒が呑めなかっただけですわ」

「……」

 

ボクはこの時、李典の村へ出発する準備を任せていた日の事を思いだします

そういえば、持ち出すお酒の数量を指定していなかったような? と。

ボクは黄忠が怒っている事情が分かって、慌てて彼女に説明しようと思いました。

 

「そっ、それはだね。((已|や))むに((已|や))まれぬ事情と言いますか、理由があってだね? それで……」

 

「それに! たしか怪我を負った将兵の為の医療用にとお聞きした筈ですのに、焔耶ちゃん曰く? それは、それは楽しい宴会だったそうで、結構な事ですわね」

 

「あっ、いやっ。そっ、それは…だね?」

 

「たしかに歓迎会は、仲間の大切な家族を助けた後と((仰|おっしゃ))っていました。ですが、それは((橋頭堡|こちら))へお戻りになってからと、わたくし思っておりましたわ」

 

ボクは何とか説明しようとするのですが、黄忠は言早に自分の思いを告げてきて聞き入れてくれません。

ボクは万策尽きて、ただ彼女に謝るしかありませんでした。

 

「あー、うん。ごめんね? 紫苑。成り行きで、そうなっちゃったんだよ。別に狙って、そうした訳では無いんだ。本当だよ?」

「いいえ、謝って頂くには及びません。ただ、お蔭で仕事が((捗|はかど))らずに溜まった決済を、ご主人様にして頂きたいだけですわ」

「……溜まった決済って、どれ位あるの?」

「たいした量ではありませんわね。今から2〜3日程、不眠不休で決済して頂ければ終わる程度ですわ」

 

なんでしょうか。

ボクの耳が、おかしくなったのですかね?

2〜3日不眠不休で決済しなければ成らない量が、たいした量では無いって言っていますよ、黄忠さん。

 

「では参りましょうか、ご主人様。善は急げですわ」

「えっ?! ちょっ、まっ、待って?! 紫苑さん?!」

 

話しはこれで終わりと、黄忠は着物の((襟首|えり))をつかんでボクを引きずって行きます。

 

「ちょっ、だっ、誰か! 見てないで助けてよ?!」

 

ボクは黄忠に引きずられながらも、なんとか抵抗して助けを求めました。

 

「紫苑さま。しばし、お待ち下さい」

 

ボクの救助要請の声を聞いてか、魏延が黄忠に話しかけました。

 

「あら? なにかしら、焔耶ちゃん」

「刹那様もお疲れで御座います。今日は休息に充てられて、仕事は明日からにしては((如何|いかが))でしょうか?」

 

ナイス魏延! 良く言った!

それでこそ、初代親衛隊隊長だよ!

ボクは((喝采|かっさい))を送り、これで助かると思って安堵します。

 

「う〜ん。でもね、焔耶ちゃん。明命さんや親衛隊の皆さんもお疲れだから、ご主人様の護衛を焔耶ちゃんに頼もうって思っていたのよ? 部屋に二人っきりなんだけど、ダメかしら?」

 

黄忠は魏延に対してサラッと、とんでも無い発言をしてくれました。

魏延は黄忠の言葉を聞いて瞳を輝かせます。

 

「そうですか! そういう事でしたら、致し方ありません。不詳ながら、この魏文長! 立派に護衛を務めさせて頂きます!」

(はや?! 早いよ、焔耶! 意見変えるの、もっと考えてからにしようよ?!)

 

ボクは速攻で意見を他変える魏延に、思わず心の中でツッコンでしまいました。

魏延が頼りにならないので、ボクは他の将軍たちに助けて貰う為に((懇願|こんがん))の目を向けます。

しかし((殆|ほとん))どの将軍たちは顔を背け、残りの将軍たちは面白がって笑顔でボクを見送っていました。

 

 

ああっ天よ、どうか教え給え。

いったい、いつ、どの思いが原因で、ボクはこの現実を創ったのでしょうか?

((矮小|わいしょう))な人の身では、それが分からないのです。

 

 

ボクは心の内で、天に教えを乞い願います。

しかし、天はボクの問いかけに静寂を持って答えるだけでした。

まるでボクの全てを受け入れ、優しく包み込むかのように。

 

 

 

 

ふえーん。

いーやーだーよー。

なんで、こうなるのぉー?!

 

誰でも良いから助けてよぉー!(号泣)

ヘルプ・ミー!

説明
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
*この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。
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コメント
ikuyirohさん、コメントありがとう。演出でそれっぽい感じを出してみたんですけど、怖かったでしょうか? (愛感謝)
宗教家っぽい主人公ですね。ちょっと怖いです(ikuyiroh)
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