優しき魔王の異世界異聞録・壱 【使い魔は大魔王?】
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―――全ての始まりとはほんの些細な事だ。

大昔の歴史家の言った言葉だが、中々どうしてその言葉は当て嵌まる。

そもそも歴史書に残る大きな事件もまた、その始まりの切欠とは意外と些細な理由が原因な事が少なくない。

・・・そう言う意味では、この出会いもまた些細な現実だったのかも知れない。

 

「・・・アンタ、誰?」

 

その声に意識を失っていたアークは意識を取り戻し、ゆっくりと眼を開く。

今まで意識を失っていた故かその目線は虚ろで、眼に映る光景は何処かぼやけ、まるで夢の中に居るかのようだ。

定まらない目線がふらふらと虚空を彷徨い・・・やがて目の前で自分を覗き込んでいたピンク色がかったブロンドの少女へと定まる。

 

『此処は一体何処だろうか?』―――そんな疑問が頭に浮かび上がる。

少しずつ定まって来た眼で周囲に視線を移すアーク、其処はどう考えても今まで居た筈のフォルトゥナの森ではない事は明白だ。

周囲に存在するのは何処までも続く豊かな草原、その先には宮殿のような巨大な石造りの城が見える・・・サタンの居城はあのような感じだったと思うが、どうも放たれている気配が全く違う。

 

見知らぬ光景に首を捻るアーク。

ふと周囲から視線のようなものを感じ更に周囲を見渡すと其処には一定の距離を保ち自らを見つめる黒マントを羽織った少年少女の姿があった。

アークは一応ソロモン大陸に存在する人々の顔は皆覚えている筈だが、物珍し気に自らを見つめる少年少女達の顔に見覚えは無い。

向けられているのは純粋な好奇の眼に疑惑の目だ―――元々“大魔王”と言う身の上故にそう言った眼で見られるのは珍しくも無いが。

 

「ちょ・・・嘘だろ!? ゼロのルイズがサモンサーヴァントに成功したのかよ!?」

「んっ? でも良く見たらあれって人間じゃねぇの?」

「ぷぷっ・・・ゼロのルイズの奴、サモンサーヴァントに成功しないからって使い魔の代わりに平民用意するなんてな・・・」

「アハハハハっ!! いい加減に無駄な努力止めて留年しちまえよ〜っだ!!」

 

周りを囲むようにしていた少年少女からぶつけられる心無い野次。

羞恥か、怒りか、もしくはその二つどちらもか・・・顔を真っ赤にし、ピンク髪の少女は声を荒げて目の前に立ち上る土煙の中に居たアークに向かって怒鳴る。

 

「ちょっとアンタ、聞いてるの!? アンタ誰って聞いてるでしょ!?」

 

思えばこれも疑問が残る―――アークは本来ならソロモン大陸では知らぬ者が居ない程に有名な人物である、それを知らないと言うのには甚だ疑問が残る。

そこで一つ、かつてベルフェリアの実験に付き合っていた際に何気なく読んだ本に描かれていた事象を思い浮かべるが・・・現在の状況に色々な疑問はあれど、このまま無視すると言うのは礼を失する行為だろう。

取り合えず今の現状の事は一先ず忘れ、アークはゆっくりと立ち上がって衣服の埃を払う。

そして目の前に居る少女に向かって自らの名を名乗った。

 

「初めましてお嬢さん、私の名前はアーク・マティウス、以後お見知りおきを。

ところでいきなり不躾で失礼だと思うけど聞いても良いかな? どうして君は泣いているんだい?」

 

周囲に立ち込める煙のようなものが風によって流されて消える。

其処から現れた人物であるアークを見た瞬間に周囲の野次を飛ばしていた者達もピンク色の髪の少女は今までの不躾だった態度を一変させた。

 

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「お、おい・・・ちょっとまてよ・・・」

「も、もしかしてあれって・・・」

「嘘でしょ・・・」

 

土煙の消えたその場所に現れたアークを見て、皆言葉を失う。

鮮やかな緑の長髪、黒を主軸に至る所に金や銀の装飾が施された貴族階級以上の存在が纏うかのような衣服、柄の部分に眼のような装飾の入った剣を題材にした家紋のようなものが入ったこれまた煌びやかな装飾のマント。

そしてその両腰にはそれぞれサーベルとブロードソード(片手剣)のような二本の剣が携えられていた。

 

いや、それだけではない。

彼らが驚いている理由はその言い方を変えれば神々しくも見える外見だけではない。

周囲を取り巻く少年少女が驚いている理由―――それは、アークの頭と尻の部分であろう箇所に存在する、本来人間ならば決して存在しない物を見て驚いているのだ。

そう・・・アークの頭に存在する二本の輝く角と、尻の部分に存在するこれまた輝く尾を見て。

 

一方のピンク髪の少女も困惑を隠す事が出来ない。

彼女は今まで何度となく魔法を習い、使おうとしては失敗し、その魔法の才能の無さから“ゼロ”などと言う不名誉な称号を与えられ嘲笑われていた。

だからこそ、今回こそ必ず使い魔の召喚を成功させ、馬鹿にしてきた者達を見返してやろうと言う強い意思があったのだ。

 

そして儀式を執り行い、失敗かと思ったら成功。

更に召喚してしまったのは使い魔と呼ぶには余りにも失礼過ぎるであろう、どう見ても貴族階級の中でもかなり上位に属しそうな青年である。

年の頃は己の4〜5歳ほど年上程度の若々しい青年―――しかしその柔和に笑うその端正な顔立ちの奥には何処か威厳のようなものまで感じるのだ。

更に更にその立ち振る舞いもまた精錬されている・・・だけならまだしも、その頭と尻には角と尾があると言う、どう考えても困惑するのが当然のような人物だった。

 

「ん? あれ、どうかしたかな?」

 

鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしていたピンク髪の少女に優しく声をかけるアーク。

現状が理解出来ない以上、自分に出来る事はこの現状が何なのかを把握する事だけだ―――それに彼は目の前で泣いている少女を放って置ける程、薄情な人物でもない。

・・・まっ、そんな性格故に貧乏籤を引いたり勘違いされる事が多いのだが。

 

「な、何でもないわ・・・そ、それより貴方、一体何なの・・・?」

 

これはある意味、純粋な少女の好奇心のようなものもあったのだろう。

『一体何なの』等と言う無礼な物言いだが、その質問に対してアークはさして気にする事もなく再び名を名乗った。

 

「アーク・マティウス、それが私の名前だよお嬢さん。

・・・と言うか、いつまでもお嬢さんなんて呼び方をするのも無礼だから貴女の名前も教えて貰えないかな?」

 

「え? え、えっと、そ、そうね・・・わ、私は・・・」

 

アークの言葉に何処か頬を紅くしながらピンク髪の少女が名乗ろうとする。

 

・・・と、その時。

 

「お、おい、どうした!?」

「ちょっと、何処行くのよ!?」

「・・・・・・?」

 

名乗ろうとした少女の目の前に映った光景―――

それは、周囲に居た取り巻きの少年少女達が傍らに連れていた不思議な姿の生き物達が一斉にアークに向かって襲い掛かっている姿だった。

 

いきなりの事に驚き、止まってしまうピンク髪の少女。

周囲の者達は何とかその奇妙な生き物達を止めようと慌てて声を荒げるが・・・彼らの眼に映ったのは更に眼を疑うような光景であったのだ。

 

「ん? おいおい、くすぐったいよ君達」

 

奇妙な生き物達はアークに襲い掛かったのではない。

寧ろアークに向かって我先に、まるで愛玩動物(犬や猫等)が撫でて欲しいかのように身体で喜びを表しながら走り寄って行ったのだ。

流石にこの光景には周囲の少年少女達も、目の前のピンク髪の少女も言葉を完全に失っていた。

 

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奇妙な生き物・・・“使い魔”と呼ばれる生き物達が落ち着くまで相手をした後、不意にアークは周囲を見渡しながら表情が変わる。

そう言えば少し前まで共に居た筈のマーモンとルキフェールの姿が見えないのだ・・・。

 

「お嬢さん、二つほど質問させて貰っても良いかな?」

「ルイズよ・・・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

「おっと失礼・・・じゃあルイズ殿、此処は一体何処なのか教えて貰っても良いかな? それと、私以外に此処に倒れていた人物が二人居なかったかな?」

 

ルイズと名乗った少女は訝しげな表情となり、アークの質問にさも当然の如く答える。

 

「はあ? 此処はハルケギニアのトリステイン王国、トリステイン魔法学院よ? それ位の事は知ってるでしょう? それに他には誰も居なかったわよ?」

 

ルイズの言葉にアークは顎に手を当てて考え込むような仕草を取った。

ハルケギニア・・・アークがソロモン大陸を統治してそんなに時は流れていないにせよ、そんな地名は一度も聞いた事がない。

トリステイン王国のトリステイン魔法学園などと説明していたが、ソロモン大陸にはそもそも魔法学園は存在していない。

(ソロモン大陸の場合は魔法は師から弟子に一子相伝で伝えられている故に魔法使いの数は他の職に比べると少ない)

 

それに自分以外に倒れていた人物は居なかったそうだ。

まあ、マーモンもルキフェールも他に追随を許さぬ程の猛者であるが故に心配はしていないが・・・それでも居なかったと言う事には一抹の不安があった。

だが所詮、考えたって解らない事は解らない―――首を横に振ると言葉を続ける。

 

「トリステイン王国、ねえ・・・知らないな。

まあ細かい事は別に後で良いとして、そもそも何で私は此処に? 私は確かフォルトゥナの森に居た筈だけど・・・。

・・・もしかしてルイズ殿、貴女が私を此処に呼び出したのかな?」

 

ルイズの無礼な物言いに対してあくまでも優しい口調で語り続けるアーク。

そもそも彼はかつて人間によって騙まし討ちされた際にも怒りを見せなかったように破格なまでのお人好しである。

その為か少し程度の暴言やら何やらで怒りを露にする程短慮でも短気でもないのだ。(・・・そう言った部分が面倒に巻き込まれる原因なのだが)

 

「君はメイジの使い魔召喚の儀で呼ばれたのですよ」

 

そこでふと、二人の会話に割り込んだ人物が一人。

この人物の名はコルベール、このトリステイン魔法学園の教官を勤める人物である。

 

彼はルイズがこの魔法学院に入った頃からルイズの努力を見てきた。

『ゼロのルイズ』等と言う不名誉な称号を与えられ、蔑まれ、嘲笑われ、そんな裏で誰よりも努力をし続けていたのを誰よりも知っている。

そんな彼女がやっとの事で使い魔召喚の儀を成功させて現れたのは・・・明らかに貴族階級でも上位に見えるような衣服を纏った角と尾を持つ“亜人”だった。

 

彼が何者なのかは解らない。

だが少なくともこのまま彼女が勝手に話を進めて彼を使い魔にしたとあっては後にどのような問題が発生するか解らなかった。

・・・最悪、彼が人間にせよ、亜人にせよ、何にせよ、有力者であったとしたら国際問題に発展しかねないのだ。

人間(?)を使い魔にするなど前例はないが、それでも召喚したと言う事は事実である。

 

「取り敢えず、このような場所で話すような事ではないでしょう。

一度学院まで足労頂き、そこで色々な事を話させて頂くと言う事で宜しいですかな?」

 

「まあ確かに、私も解らない事が多過ぎますからお言葉に甘えます。

えっと・・・貴方は・・・」

 

「おっと、これは失礼。

私はジャン・コルベール、トリステイン魔法学院で教鞭を取っている者です。

さあ、これにて解散とします! 皆さんも早く戻りなさい!!」

 

コルベールがそう告げると周囲に居た生徒達は次々に宙へと浮かび出し、学園の方へと戻っていく。

それを物珍しげに見つめていたアークだったが、ルイズとコルベールが空中を飛ばずに歩いて学園の方へと向かい出したのを見、その後ろをのんびりと歩き出す。

ふと見上げた空の向こう―――まだ昼の時間でありながら空にうっすらと浮かんだ大きな月は二つ存在し、それを見たアークは再び首を傾げていた。

 

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アークがコルベールに連れられて来た場所、それはトリステイン魔法学院の学長室だ。

其処には立派な髭を蓄えた、威厳に満ちた老人が待っていた―――この人物の名は『オールド・オスマン』と呼ばれているこの魔法学院の最高責任者である。

オスマンは学長室に入ってきたアークの姿を睨む様にゆっくりと観察した後、穏やかな口調で口を開いた。

 

「初めまして、ワシは本学院にて学院長を務めておるオスマンと申す。

皆からはオールド・オスマンなどと呼ばれておるがね・・・それで、君の名前を聞かせて貰いたいのじゃが?」

 

「これはご丁寧に、私の名前はアーク・マティウス。

此処に来る前は“ソロモン大陸”と呼ばれる大陸に住んでいた者です」

 

まあ実際の所は“住んでいた”のではなく“統治していた”のだが。

だが、どうも此処でその事を口に出すのは面倒が起こる原因になるような気がしたのでアークは黙っていたのだ。

それに考えても見ればアークが居た世界では彼の尽力により魔と人とが歩み寄って生きれる世界にはなったが、この見覚えの無い場所がそうだとは言い切れない。

故にアークは自らの素性を偽って説明をする事に決めたのだ・・・意外と彼、空気は読めるようである。

(ちなみに角と尾は飾りだと言う事にしておいた)

 

「ソロモン大陸・・・ですか? 聞いた事の無い土地の名前ですね」

「コルベール殿、残念だが私もハルケギニアだのトリステインだのと言う地名は聞いた事が無いよ」

 

コルベールの疑問に対してアークもまた言葉を返す。

少し前に記したかもしれないが、アークはベルフェリアの実験に付き合っていた際に手持ちぶたさである書物を読んでいた。

それに書かれていた事象に余りに酷似した現実であるが故に焦りは無かったが・・・。

 

「私の事はこれ以外に教えられる事も無いので良いとして・・・。

何故、私がこのルイズ殿に呼び出されたのか聞かせて貰いたいな―――それとついでに、この土地の常識には疎い故に簡単に教えて貰えると助かるのですが?」

 

友好的な態度を取って接してくるアークに安堵したオスマンとコルベール。

彼らはこのハルケギニアの常識や現在の状況について簡潔にではあるが説明を始めた―――その間、召喚をしてしまった当の本人であるルイズは緊張で固まっていたそうだ。

 

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彼ら二人の簡潔な説明によるとこうだ。

元々このハルケギニアと言うのは魔法によって多くの事を成す魔法社会であり、魔法を使える者は“メイジ”と呼ばれ、貴族としての封建社会を築いている。

このような社会故に魔法を使えない者は“平民”として貴族に奉仕しながら生活をしているそうだ。(ちなみにハルケギニアに住む大部分の人間は此方に当て嵌まる)

で、この学院はハルケギニアの小国・トリステイン王国に存在する魔法学院であり、此処では貴族の子息や息女を預かり魔法を教えているらしい。

 

アークを呼び出したのはトリステイン王国の中でも王族に血筋が繋がる大貴族の『ヴァリエール公爵家』の三女であるルイズ。

この学園では一学年上へと進級する為に使い魔を得なければならず、使い魔召喚の儀においてアークを呼び出してしまったのだ。(尚、契約して使い魔を持たねば留年)

前例は無いとは言え一応召喚の儀に答えたアークと契約するべきなのだが・・・アークは立ち振る舞いや服装などから何処か異国の貴族らしく見えるので、易々と契約する訳には行かないと言うのが現状らしい。

・・・と、此処まで説明を終わらせてからオスマンは更に言葉を続ける。

 

「・・・とまあ簡潔に説明すればそんな所じゃよ。

勝手に君を召喚してしまって悪いとは思っておるのじゃが・・・どうじゃろうか、契約を受けては貰えぬかのぅ?」

 

其処まで聞いた後、一度顎に手を当てて考え込むような仕草を取るアーク。

今聞いた話の内容はアークにとっては余り気分の良いモノではなかった―――それは別に自分の巻き込まれてしまった現状についてではない。

貴族と言う存在による封建社会、魔法の使えない者は価値が無いとでも言っているような差別と言う名の現実・・・それはあたかも、かつて魔族達が大手を振るって人間達を虐げていた頃のソロモン大陸を思い出させたのだ。

 

「一つ聞かせて貰いたい事があるけど良いかな?

その“使い魔召喚の儀”とやらで召喚されて契約をした使い魔と言うのは一体どんな仕事をするんだい?」

 

アークの質問はルイズに対してのもの。

勿論、ソロモン大陸でも使い魔という存在はあるが故にある程度の事は見当が付く。

しかし・・・魔法を使える者が偉いなどという歪んだ考え方をする世界でどのような事をさせられているのかが少しだけ気になったのだ。

案の定、その言葉にビクッっと肩を震わせたルイズは恐る恐る口を開いた。

 

「えっ・・・え、えっと・・・そ、そんなにおかしな事なんてしないわよ。

例えばマジックアイテムとかを作る際に必要な秘薬を見つけて来たり、あたしの護衛をしてくれればそれで良いの・・・あ、あと、雑用とか、かな?」

 

その言葉にアークは内心頭を抱える。

ルイズの言っている事は要は召喚した主の専属の使用人になれと言う事だ―――いや、悪い言い方をすれば『奴隷』か?

それと共にアークは胸を撫で下ろす・・・もし此処に上級魔族や自分以外の魔王達が誤って召喚されたとしたら目の前のルイズやオスマン、コルベールの命は無かっただろう。

特に人間嫌いで苛烈なサタン、戦闘狂のバアルが召喚されてたら等と考えたくは無い。(多分、この二人が召喚されたら平和に終わる事は無かったと断言出来る)

更にアークは知らないが、実は意外に人間を好んで居らずアークの為なら手を汚す事も厭わないアルカナが召喚されていたら確実に血を見ていたと思われる。

・・・そう言う意味ではルイズ、実に運が良いと言えるな。

 

「・・・ちなみに使い魔というのは何時まで続けるのかな?」

「それはあたしかそれとも貴方のどちらかが死ぬまでだけど」

 

何も気にする事無くさらっとそう呟くルイズ。

それは先程のように言い方を変えれば『召喚された使い魔は死ぬまで主専用の奴隷』と言っているのと同義だ。

流石にお人好しのアークであっても彼女の奴隷になる気など更々無い―――だがそれでも、この世界の在り様は何とかしたいとは思っていた。

力のある者、無い者によって線引きされ、人が人として当たり前に生きていけない世界・・・例え世界は違えど、アークの願いは『誰もが平等に生きれる優しい世界』なのだから。

 

それに人の人生は少なくとも魔王である己より明らかに短い。

そんな儚い人生の中で魔族よりも輝いて己の信念を貫いて生きる人間の事をアークは好意的に思っていた。

例えこの世界に縛られる事となったとしても高々100年と言った所だろう・・・その程度の歳月は魔族にとってほんの短い時にしか過ぎない。

ならば・・・その少しの時の間位だったら自らを召喚した少女を見守る事に使っても良かろう。

 

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「フム・・・まあ良いさ、ならばその申し出を受けよう」

「・・・えっ? ほ、本当に!?」

 

アークの言葉に安堵の表情を浮かべるルイズ、コルベール、そしてオスマン。

そんな嬉しそうな表情を他所にアークは言葉を続ける。

 

「ただし先に言わせて貰いますが、私はルイズ殿に“協力”をするだけであって“奴隷”にはならないよ」

 

その言葉に表情が変わる三人。

そんな三人を納得させる為にアークは穏やかな口調のまま説明を続ける。

 

「この国が魔法を使える者(貴族)が重要視される国だという事は良く判りました。

なら此処で一つ質問があるのですが・・・例えばですが召喚されたのが私ではなく何の変哲も無い普通の人間を召喚してたとしたら、貴方達どうしました?」

 

最初は質問の意図が解らず、少し考えた後にその質問の意味を理解したコルベール。

例えば使い魔召喚の儀でアークではなく何の変哲も特徴も無いような平民を召喚していたとしたら、ルイズは一体どうしただろうか?

言葉の端々から貴族階級である事に誇りを持っている事が良く解る彼女の事、恐らくそのような状況となれば『もう一度召喚させろ』などと怒鳴り散らしていたに違いない。

 

使い魔召喚の儀は神聖な儀式だ、故にやり直す事は出来ない。

そのような状況となっていれば多分、コルベールは『直ぐに契約しなさい』と促していただろう。

其処から状況の理解出来ていない平民に強引に一方的な契約を済ませたら、ルイズから一方的な主従関係の下に奴隷のように扱われていたかも知れない。

メイジである以上、平民は支配されるもの・・・そんな身勝手な考えによってその平民は彼女の下で生きていかなければならなかったかも知れない。

あくまでも可能性の段階だが、今の悪しき風習の続くハルケギニアではそうなる可能性の方が高いのだ。

 

「別に私は召喚された事に今更文句を言う心算もないし、ルイズ殿も呼びたくて私を呼んだ訳ではないでしょうし。

ですが例え呼んだのが私であれ、そうでないであれ、奴隷扱いする事は良くは無いでしょう?

例え何を呼び出したにしてもそれは心を持った存在であるなら、一方的に命令を聞くだけの駒ではないという事を忘れないでください」

 

アークのその言葉は王としての言葉。

国を統治するのが王の責務―――だがその国とは他でもない、其処に住む人々そのものの事である。

人が居らねば国は回らず、人がいなければ農業も工業も発展する事はない―――全ては何の変哲も無いか弱い人々が国と言うものを支えているのだ。

そしてそんな力無き人々を護る者、それこそが上に立つ貴族であり、王である事も忘れてはならない。

威張り散らす者、弱者を虐げる者・・・そんな連中は上に立つ資格すらない。

 

そんなアークの言葉にルイズは落ち込む。

アークの言った通りだ、己は使い魔召喚の儀という物を勝手に勘違いしていた。

使い魔さえ召喚出来れば後は何でもしてくれる、自分の言う事に何でも従ってくれる、意に反する意見など許さない。

ただ己にとって都合の良い奴隷が出来るという風にしか考えていなかった・・・それがどれ程傲慢で、どれ程身勝手な事か考える事もせずに。

 

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「さて、余計な事を言うのはこの位にしてその契約とやらを済ませましょうか? えっと、私はどうすれば?」

 

アークがそう促すとルイズは顔を上げる。

確かにアークの言葉はルイズに自らの行いを考えさせるものであったが、それとこれとは話が別だ。

使い魔の召喚に失敗して留年などと言う事になったらそれこそ自分は両親に顔向けが出来ない。

 

「じゃあ、屈んで頂戴」

 

その言葉にゆっくりと屈むアーク。

するとルイズは何処か頬を紅く紅潮させながら呪文のようなものを唱える。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

五つの力を司るペンタゴン―――この者に祝福を与え、我が使い魔と成せ―――」

 

そして・・・片膝を付いたアークに対し、ルイズはコントラクト・サーヴァントの口付けを行った。

いきなりの事に眼が点になるアーク・・・そんな彼にルイズは更に頬を紅潮させながら呟く。

 

「か、感謝しなさいよ・・・ファ、ファーストキスだったんだからね!!」

 

どうやら彼女、照れていたらしい。

気が強そうに見えるが可愛いらしい部分もある・・・アークはそんな風に考えていた。

 

―――次の瞬間。

 

「・・・? グッ!? な、何だ・・・この感覚は・・・!?」

 

熱い―――まるで全身中が焼け焦げるかの如く熱い。

更に体を襲う虚脱感、何かが体から抜けるような感覚・・・こんな感覚をアークは今まで感じた事は無い。

・・・いや違う、一度だけしか感じた事が無いというのが正しい。

 

「大丈夫よ、使い魔のルーンが刻まれてるだけだから直ぐに済むから静かに・・・って、えっ!?」

 

そう、本来ならば契約の儀は使い魔のルーンを刻まれて終わりの筈。

身体に熱さと痛みを感じるもその期間は長くて数秒、それが済めば激しい熱と共に体の何処かに使い魔を表すルーンが刻まれる。

・・・その筈なのに、アークの場合は痛みと熱さが五分以上も消えないのだ。

 

「ちょ、ちょっと何!? い、一体どうしたのよ!?」

 

驚くルイズ、今まで経験した事の無い状況に言葉の出ないコルベールとオスマン。

そんな彼らの姿を尻目に激痛に苛まれていたアークの体が行き成り輝き始める―――これは一体何なのか?

そして輝いたアークの体から八つのそれぞれ別の色の光が飛び出すと、それが形を成し、アークの近くへと転がり落ちた。

 

「・・・クッ・・・何、だったんだ、今のは・・・?」

 

体の熱さと痛みが治まり、周囲に対して輝いていた光も消え、ゆっくりと立ち上がるアーク。

先程の現象は一体なんだったのか、まずはそれを聞くべきだろう・・・目の前にいるルイズ達に眼を向けた。

 

だがそこで彼らの表情を見ると、驚愕したような表情を浮かべていたのだ。

それに疑問を思った時、何故だろうか? 今までと何か違うようにアーク自身は感じていたのだ。

 

先程は見下ろしていた筈のルイズの目線が、自分と同じ目線にある。

それと共に・・・アークの足元には実に見覚えのある、出来れば二度と見たくない筈の物が落ちていたのである。

チェスの駒のような形をした、八つの駒が・・・。

 

「・・・・・・あの、ちなみに鏡ってあります?」

「あ、ああ・・・す、少し待っていてくれるかな?」

 

コルベールがいそいそと鏡を持ちに行く。

その間の時間、学長室内には気まずい空気が流れ続けていた。

暫しの時の後、コルベールが持って来た鏡を覗いた瞬間―――アークは自らに起こった変化に気が付く。

 

それは―――

 

「な・・・こ、この姿は・・・ま、まさか“僕”は・・・また・・・?」

 

鏡に映ったその姿は、かつてパニッシャーズによって力を封印された際の幼きアークの姿。

 

「え、ええええ・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!?!?!」

 

そして硬直から立ち直ったルイズの悲鳴のような声が、学長室から外にまで響いたのであった・・・。

 

説明
〜さても始まる大魔王の異世界での歩み〜
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コメント
ユウジさん いやいや・・・アークがあのまま(全力)ゼロ魔の世界に参戦したら、それこそ俺様無双作品で終わりじゃないですか。 (ZERO(ゼロ))
勿体ない。最後のがなければ、期待できた作品ではありますが・・・。(ユウジ)
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