空の蒼 ソラの紅
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朱に染まるという言葉があるが

染まる前の色は何を思うのだろう───

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?入ってきていいわよ?」

声を掛けられてハッとする。

彼女を見た瞬間、そこだけ切り抜かれた1枚の絵画のような、何人も立ち入ってはいけない領域のような、そんな錯覚に襲われた。

 

月夜見 紅───彼女の話はこの学校でも一時期囁かれたことがある。

数少ない友人曰く、「不思議系」だそうだ。聞いた時は全く意味が分からなかったが。

何でも、授業中はずっと空を見上げていて、それに気づいた教師が指名しようとする直前に席を立ち、黒板の問題を解いて席に戻ったり───

ある時は知人との会話中、突然何もない場所を見つめだし、気になった知人がどうしたのかと声をかけたところ、

「今日は早く帰った方がいいわ。強制はしないけれど、その方があなたにとっては幸せよ。」

と言われたらしい。

まさかと思って帰ってみたが特に変わりなく、会話が鬱陶しくなったのかと勘ぐった。

だが夜にTVによく見慣れた通学路が映り、そこで交通事故が起こったとニュースで流れた。

しかも時間帯があのままゆっくり帰ったら鉢合わせしていた時間だとか。さすがにゾッとしたらしい。

 

とはいえ、自分には関係のない人だと高をくくって面白半分で聞いていただけだったのだが───

「それじゃ、失礼します・・・。」

いくら俺が素行の悪い生徒とはいえ、さすがに少しは萎縮する。

上級生というのもあるにはあるが、何故か纏っている空気のせいとでもいうのだろうか、堂々とした態度が取り辛いのだ。

「俺は先輩と初対面ですよね・・・?」

「ええ、こうして顔を合わせるのは初めてよ。」

お互いやはり初対面だ。何故呼び止めたのだろうか?

「なら如何して俺に声を掛けたんですか?」

「どうしてかしら?あなたを呼び止めないといけないと思ったの。そう私が感じたから、では駄目かしら?」

「何とも言えない理由ですね、それ。まぁ、別にそれが悪いってわけじゃないですけど。」

「なら良かったわ。だって嘘だもの。」

「は?」

全くもって意味が分からない。からかうために呼び止められたのだろうか?

目の前でクスクスと笑っている彼女を見るがそれが本当かどうかすら読み取れない。

思わずため息をついてしまう。

「あー。特に理由もないなら帰っていいですかね?ちょっと腹が減ってますんで何か食べに行きたいんですけど。」

そろそろ腹から猛抗議が来そうな予感がする。ここで益体もない話をしてるよりは食欲の方がよほど重要だ。腹が減ってはなんとやら、とも言うくらいだし。

「あなたは空を見て何かを感じたことはない?」

唐突に真剣な顔で話題を振られて少し戸惑った。

空を見て何かを感じたことなど誰にでもあることじゃないだろうか。明日は晴れるな、とか雨が降りそうだなとか。

 

───ただ1つ、小さい頃から親にもひた隠しにしてきたことがある。

空を見上げながら寝ると、必ず夢の中で俺が空に浮かんでいるということだ。

当時は夢の内容などよく覚えていなかった為、特に気にもしていなかったが、高校に入ってからは鮮明に覚えているのだ。

といっても何をするでもなく空に漂いながら、やがて空に溶けていき、そして目が覚める───そんな夢。

 

「この空には私達には見えないイロが混ざっているの。でもあるときふっとそれが見えるときがある。そしてそれが見えたときは決まってその日は綺麗な夕焼け。まるでそれを暗示しているみたいに。」

よく分からないが、夕焼けになる日は何か予兆があるということだろうか。確か夕焼けが出るメカニズムは以前TVで見たことがあった気がする。そのことだろうか?

「その見えないイロが見えた日は、決まって空から視られていると感じるの。誰かがいるわけでもないのに。」

人が空を飛べるわけがない。そんなことが出来るやつがいたら今頃大ニュースかどこぞの実験のためとかで捕獲されてそうだ。鳥くらいは飛んでいるだろうが。

「どうしても気になってしまった私は、イロが見えた日に授業を抜け出してより空に近い場所で確かめてみようと思った。そしてそこに───あなたが、いた。」

そういえば1度目が覚めたと同時に屋上のドアが閉まる音がしたような気がしたが、あれは彼女だったのか。確かめる気もなかったからそのまま二度寝したが。

「それからは毎回確認の為に屋上にいって、そしてその度にあなたがそこにいた。見えなかった日は逆にいつもあなたはいなかった。───ねぇ、聞いてもいいかしら?夕焼けが出ない日、あなたは何故屋上にいなかったのかしら?」

そんなことを聞かれても困る。ただ単に今日はやめとこうとか、そんな単純な理由しかない。

確かに屋上で寝ているときは大抵夕焼けだったような気はする。でも偶然が幾度か重なっただけとも考えられるし、それに俺が寝ているとき毎回来ているわけでもないだろうし。

「ちなみに、屋上には毎日行っていたわよ?授業中じゃなくても確認は出来るもの。」

さすがにそこまでやられると逆に背筋が寒いんだが。

というか、俺が屋上に寝ていて、そのときに空から視線を感じて夕焼けになる、それでそこまで拘る理由になるのだろうか?

「俺が屋上で寝ていて、その日が夕焼けになるっていうのは分かりました。でも視線は説明つきませんよ?俺は空を飛べませんから。そんなビックリ人間じゃないし。」

そろそろ本格的に空腹だ。話を切り上げようと終了の流れに持っていく。

「人間が空を飛べたら大事件ね。でも飛べなくても視ることは出来るわ。」

「は?どうやって?道具を使ってというのなら寝てる俺が使えるわけないじゃないですか。」

「そうね。だからこそ聞きたいの。

 

 

───何故あなたは、空に漂っているの?」

説明
2話目です。小説家になろう でも投稿する予定です。
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