インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#80
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一夏と箒が元に戻ったその日、一年一組の朝のホームルームは阿鼻叫喚の地獄と化していた。

 

と、いうのも………

 

「なんでっ!どうしてっ!」

「世界って、なんて無情な………こんな筈じゃなかったことばっかりだよ。」

 

「女形みたいに美形な純情少年の篠ノ之君を返せぇぇ!!」

「男の子みたいな口調してるけど、美少女で実は乙女な織斑さん、かんばーっく!!」

 

 

「こんな世界………有る必要あるのかな………」

 

 

「ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅぐ―もがっ!」

「ちょ、それはヤバいって!」

 

「いあ、いあ、はす―むぐぅっ!」

「それも駄目ぇッ!」

 

「闇よりもなお暗きもの、夜よりもなお深きもの―――」

「おいぃぃ!?」

 

悲しみに暮れる者、世界を恨む者。

現実から目をそむけ、喪われたモノを求めようとする者に虚ろな眼をして世界を破壊しようとしだす者まで。

 

ただ、その反応は戻った事を悔やむ声ばかりで漸く戻れた二人としては物凄く微妙で反応に困る訳なのだが…

 

「なあ、一夏。私たちはどんな反応をすればいいんだ?」

「………とりあえず、((苦笑|わら))えばいいんじゃないか?」

 

クラスメイト達の、残念さ具合を。

 

荒れる者、宥める者、傍観する者、煽る者、苦笑いする当事者と一部有識者、うろたえる真耶。

様相は様々であったが、ホームルームの終了を告げるチャイムが鳴り、千冬と空が現れたと同時に鎮静化した。

 

………一組の生徒は良く((調教|くんれん))され、骨の髄まで染み込んでいる学生であるが故に。

 

その様子を見て真耶は泣きそうな顔で千冬に縋り、空と千冬は苦笑をこぼすのであった。

 

 

 

 

 

 

 * * *

その翌日………

 

「嫌!」

 

そんな、強い拒否を告げるシャルロットの声が一組の教室に響き渡った。

 

「そんな事言わずに、ね?」

 

「そうだよ。みんなが幸せになれるんだよ?」

 

「だからさ、ほら皆を助けるんだと思って。」

 

そう、なんとかなだめようとするクラスの面々。

だが、

 

「絶対に、嫌!」

 

そう、シャルロットは拒絶する。

 

「だから、そこをなんとか!」

 

「ならないよ!」

 

 

「ぶー。」

「けちー。」

 

「ケチで結構!」

 

なんとかしようとするが腕を組み、そっぽを向いてしまったシャルロットに説得は無理だった事を悟る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、何が原因でこうなっていたかと言うと、

 

「………似合うと思うんだけどな、燕尾服。」

 

シャルロットに執事の格好をして貰おうとしたが故のひと悶着であった。

一組が抱える大きなアドバンテージであった((学園唯一の男子生徒|おりむらいちか))は『一般公開される文化祭二日目はクラスや部の出し物に出てはならない』と通達されていた。

故に執事要素の充足のために何人かが執事の格好をする事になり、一時期は男装して『男子生徒として』通っていたシャルロットにも白羽の矢が立ったのだ。

 

がっくりと肩を落とす姿にシャルロットは溜め息をつく。

 

「だから嫌なんだよ。」

 

当のシャルロットとしては女の子の性である『可愛い格好をしたい』という思いと、自分が男装すると『可愛い男の子』になってしまうのが嫌という思いが入り混じって拒絶したい限りなのだ。

夏休み中、臨時バイトとして@クルーズで働いた時の心の傷は無視できるほど小さくはない。

 

「無理強いはやめておけ。シャルロットにも譲れない一線はあるのだ。皆もそうだろう?」

 

そう、場を収めに掛ったのは燕尾服姿の箒だった。

その姿勢の良さとここ一週間ほどは男子だったせいか妙に似合っていた。

 

「うぅ………」

 

「シャルロット、向こうでラウラが『メイド服のサイズ合わせをやるから来い』と言って居たぞ。早く行ってやれ。」

 

「うん。わかった。行ってくるよ。」

 

助かった、と言わんばかりにシャルロットは『@』のロゴが入った箱の傍らにいるラウラの所へと向かう。

 

 

「まったく。………ところで鷹月、一夏の姿が見えないが…?」

 

「ああ、織斑くんなら―――」

 

 

 

 

「とりゃーー!」

「ればっ!」

ドサっ―――

「獲ったどー!」

 

 

 

 

「――今、捕まえたみたい。」

「思いっきり悲鳴が上がってたよな?」

 

箒がそう突っ込むと、クラスメイト―鷹月静寐はニヤリと笑ってこう言った。

 

「………これは必要な犠牲だったんだよ。」

 

程なくしていつも本音と一緒にいる面々が本音を先頭に教室に戻ってくる。

 

―――――白い、そこそこに大きな((獲物|ナニカ))を引き摺りながら。

 

「いやぁ、おりむーは女の子には手を上げないから楽だったよ。」

 

「囲んで壁際に追い詰めて((肝臓|レバー))に一撃で終わったもんね。」

 

「いやー、本音ちゃんがあそこまで鋭い一撃を繰り出せるとは……正直恐れ入ったわ。」

 

なんというか、恐ろしい会話である。

 

「………で、一夏を捕まえてどうするつもりなんだ?」

 

「…それ、聞いちゃう?」

捕縛班含め、教室中の殆どの目が光ったような気がした。

 

「あ、ああ。」

 

「当然、コレのサイズ合わせするんだよ。」

 

「こ、これは………!」

 

箒は静寐が手に持った『ソレ』に思わず固まる。

 

「さーて、みんなー!始めるよー!」

 

わらわらとクラス中から一夏の元に集まってくる。

気がつけば人垣が出来上がっていて床に転がされている一夏の姿は最早見えないくらいだ。

 

 

「………一夏、死ぬなよ。」

 

取り巻きから外れる事になった箒は一夏の無事を祈るしかなかった。

 

 

 

数刻後、当然のことながら何処ぞの最終話で腹を撃たれて殉職した警官のような((悲鳴|こえ))を上げるのだが、それは最早『お約束』なので割愛する。

説明
#80:本番五日前と四日前のごたごた




追)2013/9/16

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