エンドレス
[全1ページ]

 夜道。

 街灯も仄かで、人通りも少ない道。

 男は、今日がチャンスだと思った。

 今日がチャンスだと知っていた。

 今日しかチャンスが無いと理解っていた。

 本能的に。

 感覚的に。

 あの女を殺すには今日しかない……と。

 暗闇で息を潜め

 男は、女が通るのを待った。

 電柱の陰に隠れるなんてのは我ながら間抜けだと思うが、それでも男は待った。

 あの女。

 あの詐欺師め……

 俺を騙したあの女に、今夜、復習を果たす。

 そう思うと、そう自覚すると、自然と笑みが零れた。暗く……邪悪な笑い。

 そう思い、両手でしっかりと握るナイフ。

 

 そして……人影。

 あの女だ。

 辺りに人はいない。

 一人。

 落ち着け。

 落ち着け落ち着け。

 落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け。

 自分に、言い聞かせる。

 暗示の様に。

 呪いの様に。

 そして男は走り出す。

 握りしめた、ナイフで、後ろからひと突き。

 女は呻き声を上げ、倒れる。

 まだ息がある。

 喉を掻き切り、声を止める。

 そして……

 刺す。

 刺す刺す。

 刺す刺す。

 刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す。

 最後に、胸に突き立てる。

「終わった……」

 達成感より虚しさ。

 見ると回りには大量の血。

 男は、そして、立ち去った。

 何処へ行くかはわからない。

 

 ――――――――――――

 

 恋人を殺された男がいた。

 仕事を終えた帰り道、通り魔に襲われたそうだ。

 鋭利な刃物を使っての刺殺。

 無惨にも……メッタ刺しにされて殺されたらしい。

 通り魔だから、特定できる可能性が低いからと、警察は最初から犯人を捜す気は無かった。

 犠牲者が一人だから。

 一般人だから。

 他人事だから。

 表面ではしっかりやってますみたいなことをしておきながら、結局は何もしていない。

 無能。

 だから、俺は自分で成し遂げる。

 そう……。

 復讐を。

 彼女を殺した犯人を。

 必ずこの手で。

 

 男はありとあらゆる手を使い、

 情報を集めた。

 死体のあの状況から言って、ただの通り魔の可能性は低いだろう。

 通り魔なら、あそこまで……あんなになるまではしないだろう。

 ならば残るは……、

 怨恨。

 彼女に恨みを抱いた何者かが……あり得ない話では無かった。

 実際彼女は自分の他に何人もの男と交際があった。

 そのうちの誰かが、振られた恨みを抱いていてもおかしくはない。

 そう、考えて彼女の交友関係を調べ、

 友人知人の話を聞きに回った。

 探偵を雇い、自身も走り回った。

 そして得た一つの情報。

 彼女に恨みを抱いてそうで、

 最近連絡が取れなくなった男。

 顔と、名前が判明った。

 何故かは知らないが、俺はこの男だと確信した。

 ポケットの中のナイフがやけにハッキリと感じられる。

 

 ナイフ。

 このナイフはある時偶然拾ったものだった。

 犯人を殺すときは刃物を使うと心に決めていた。

 犯人に関する情報を集める合間にでも買おうと思っていたのだが、

 犯行現場から少し離れたところにある川、

 そこで偶然このナイフを見つけた。

 怪しく光るナイフ。

 何故かこのナイフを使いたい衝動に駆られた。

 そして決めた。

 このナイフで殺してやると。

 

 そして一ヶ月後。

 犯人の男の現在の住所を既に調べ上げていた。

 そして……今、男は扉の前にいる。

 この奥に奴が……彼女を殺した犯人がいる。

 ゆっくりと……鍵のかかっていない……扉を開ける。

 

 ――――――――――――

 

 逃亡生活数ヶ月。

 いつ警察がくるかと怯える日々は過ぎた。

 どうやらただの、よくある通り魔として処理したようだ。

 自分が……

 自分だと割れることはないだろう。

 安心していた。

 確信していた。

 油断していた。

 そして、不意に扉が開いた。

 外から一人の男が侵入ってくる。

 見覚えのある……ナイフを持って。

 そう、女を殺した……あのナイフ。

 何故この男が持っているのかはわからないが

 自分はもう助からないということだけはわかった。

 そして、諦めていた。

 

 ――――――――――――

 

 扉を開ける。

 呆然とした男が中にいた。

 コイツだ。

 コイツだ。

 コイツだ。

 男は、驚いてはいたが、諦めたような雰囲気を醸しだしていた。

 相手がなんだろうと構わない。

 こっちにはこっちの言い分がある。

 少なくとも、コイツは彼女を殺したんだ。

 だから……俺も、コイツを殺す。

 殺す。

 殺す殺す。

 コロスコロスコロスコロス。

 そしてナイフ……。

 

 一瞬だったのかもしれない。

 永遠だったのかもしれない。

 男は、血の海に佇んでいた。

 終わった。

 俺の復讐はこれで終わった。

 もういい。

 もうこれでどうなってもいい……。

 

 男は……去っていった。

 ナイフを持って。

 

 ――――――――――――

 

 夫を殺された女がいた。

 ナイフでメッタ刺しにされて。

 貸しアパートの一室で殺されていたらしい。

 数ヶ月前から連絡が取れなくなり

 捜索願を出していたのだが

 最悪の形での再会となってしまった。

 女は……復讐を誓った。

 右手には、あのナイフを持って。

 

 エンドレス。

説明
創作始めた初期の頃の掌編。タイトル通り、エンドレス。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
483 457 2
コメント
[夢双] さん>どうか連鎖は終わって欲しいと思いつつ、エンドレス。 コメントありがとうございました。(零)
[華詩]さん>コメントありがとうございます。人間ってのは哀しい動物で、なかなか相手のことを許せないものなんですよね……(零)
誰かがどこかで相手を許さない限り、無限に広がっていきそうです。何だか考えさせられました。(華詩)
タグ
オリジナル 小説 テキスト 短編 掌編 

零さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com