真・恋姫無双 刀蜀・三国統一伝 第参節・黄巾党討伐と覇王との出会い編
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いずれまえがき コメントありがとうございます。前の投稿から気付けば一週間も経っていました。投稿遅れて申し訳ありません。今回はついに魏の覇王の登場です。いやー、あのクルクル髪が可愛いですね。今回も二部に分けさせてもらいます。それではゆっくりしていってください。

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一刀たちは白蓮に別れを告げ黄巾党討伐に向かった。

 

「朱里、一ついいか?」

「はい。なんですか、ご主人様?」

「俺たちについてきてくれた兵の人たちの兵站のことなんどさ、いい補給方法ってないかな?どうしても食料が足りなくなるのは目に見えてるから。」

 

朱里は少し考えた素振りを見せた。

 

「そうですね、確かに六千人分の兵站となるといずれなくなるのは時間の問題です。そこは敵の補給物資を鹵獲しましょう。」

「うーん、やっぱりそれしかないかー。なんか他所の物資を鹵獲するのは気持ちのいいことじゃないけどみんなのためだって自分に言い聞かせるしかないよね。」

「はい。ご主人様のお心を痛めさせるようなことはしたくないのですが・・・。軍師としては最善の策を練るのが義務ですので。」

「その最善の策でみんなが良い環境で過ごせるならいいことだよ。俺のことはたまにで思ってくれればいいからさ。」

 

俺がそう言うと朱里はくすくすと笑った。

 

「私たち臣下は常にご主人様と桃香様のことを第一に考えていますよ。ご主人様と桃香様がいてこその私たちですから。」

「(コクコク)」

 

朱里の隣にいた雛里も頷いている。そんなに首を振らなくても・・・。これはこれで可愛いからいいけど。

 

「そうです。ご主人様や桃香様がいてこそ私たちは槍をふるうことができるのです。」

「そうなのだ!」

 

そう言われて俺と桃香は顔を見合わせて苦笑いした。

 

「みんながそう言ってくれるのは嬉しいけどそれは違うよ。」

「桃香の言うとおりだよ。俺たちは大陸の人たちがいるからこそここにいられるんだ。だから、俺と桃香のためと同時に大陸のみんなのためにってことを胸に閉まっておいてくれ。」

 

俺の横で静かに聞いていた清羅が口を開いた。

 

「ご自分が第一と言われているのにそれに自惚れず、私たちの掲げたものをみんなに再確認させる。これは評価も高いですよ、ご主人様。」

 

清羅の評価が高いのは嬉しいんだけど、俺としてはこれは言っておかないとって思ったから言っただけだからなー。けど、少し嬉しいかな。

 

「主よ、清羅に褒められたのがそんなに嬉しかったですかな?頬が赤らんでいますぞ?」

「え?」

 

一刀が自分の頬に触れると、少し熱を帯びているのを感じた。

 

「俺だって誰かに褒めてもらえたら嬉しいんだから頬くらい赤くなるって。星だってそうだろ?」

「そ、そうですな・・・。」

 

うむ・・・。からかうつもりだったのだが、まさかこのような反応が来るとはな。純粋と言えばそれだけなのだが。主は天然なのか?そんなことを考えているとそばにいた清羅が私の肩に手を置いてきた。

 

「くす。これは一本とられたわね。」

 

微笑みながらそのようなことを言われた。・・・あとで愛紗でもからかおうか。そんなことを考えていた星であった。こんなやりとりをしていると、一刀が方針が決まったということで口を開いた。

 

「みんな、聞いてくれ。」

 

その言葉に武将、兵たちが口を閉ざし一刀の方を向く。

 

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「方針が決まったからみんなに説明する。これから小隊の黄巾党を叩くんだけど、とりあえずは敵の殲滅。だけど、敗走兵がいたら見逃していい。もしこっちについてくれるようなら俺のところに連れてきてほしい。北郷隊のみんなには言ったことだけど、戦う時は出来るだけ三人で一人にあたること。陣形の編成は各隊長たちに任せる。」

 

一刀はそれから一呼吸おいて再び口を開く。

 

「それと、命を大事に。以上。何か質問はない?」

 

聞いていた全員が納得のいった顔をしている。問題はないようだ。

 

「では、みんなで力を合わせて頑張ろう!」

 

一刀の言葉に一瞬の静けさのあと、大きな歓声に変わった。

 

「じゃあ行こうか。」

 

一刀たちは黄巾党討伐に向け足を進めた。進むことおよそ半刻、伝令から黄巾党の小隊が見えたとの報告がきた。いよいよ大戦開始だ。いまだにこの雰囲気には慣れていないけど俺だけ弱音を吐くわけにはいかないしな。一刀は己の頬をパンと叩き喝を入れると率いている隊の方へ顔を向けた。

 

「では各隊の配置を伝える。本陣には俺と桃香、雛里と星。左翼は鈴々と朱里。右翼には愛紗と清羅を配置する。異論はないか?」

「ありません。」

 

皆がうんと頷く。

 

「各隊、配置に移動を始めてくれ。みんな、俺たちの理想のためにこの戦い抜こう!武運を!」

「武運を!」

 

各隊はそれぞれ本陣、左翼、右翼に分かれ移動を始めた。各隊が配置に着くと側に桃香、雛里、星がきた。

 

「雛里は本陣に残って本陣と前線の指揮を頼む。」

「御意です。」

「桃香は雛里と本陣に残ってくれ。ついでに雛里の指揮の取り方を覚えてくれ。」

「了解。雛里ちゃん、お勉強させてもらうね♪」

「あわわ。が、頑張りましゅ。」

 

相変わらずカミカミだなー。まぁこの緊張もすぐほぐれるだろうからいいか。

 

「星は俺と一緒に前線に向かってくれ。」

「御意。私の背中、主に預けましたぞ?」

「あぁ、任せてくれ。」

 

一刀は腰に差していた刀、聖桜(せいおう)を抜いた。

 

「ご主人様、気を付けてね。」

「お気をつけて。」

「桃香と雛里も気を付けてね。行ってきます!」

 

桃香と雛里に声をかけた後、俺と星は兵を引き連れて前線に駆けだした。刀を抜くことは白蓮のとこにいた二週間で決心がついた。大切な人たちのために刀を振るおうと。もし奪ってしまう命があったらその分は一生を使って償っていこうと心に決めた。できうる限り、不殺を心がる。気によって剣を振るった風圧で一般兵を吹き飛ばそうという魂胆だ。しかし、それは敵と距離をとっている場合に限る。みねうちも可能だが敵が十数人の場合のみ。つまり、乱戦になれば必然的に人間を斬らなければならない。一刀は震える体に喝を入れると改めて聖桜をみつめた。

 

「それにしても、綺麗な刀だよな。」

 

形状は日本刀で柄の部分に桜の紋様が施されている。この刀は影刀が美桜と旅をしていたときに美桜が渡した刀。美桜の(桜)の文字と花言葉、精神の美しさと神秘な心、純潔。それと聖王と同じ読み方とその意味、徳があり立派な政治を行う王・君主の意味を兼ねている。出会いと永遠の愛の誓いの証らしい。そんな刀を渡してくれたからには負けるわけにはいかない。渡してくれた時にお婆ちゃんが、

 

「これを持っていれば、きっと良い出会いがあるわよ♪影刀さんの周りにもいっぱい可愛い子いたしね。」

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とか言っていたような・・・。俺の周りに女の子ばっかり集まるのはこれのせい・・・もとい、おかげなのかな。今はみんな大切な人たちばっかりだからこの刀に感謝しよう。

 

「主よ、何を物思いにふけっているのですか?」

 

隣にいた星が声をかけてきた。

 

「この刀って昔、お婆ちゃんとお爺ちゃんが使ってたものなんだ。だから、ちょっと家にいたころを思い出してたんだ。それと、これを持っていると良い出会いがあるってお婆ちゃんに言われたことをさ。」

「ほう、主の祖父と祖母の使っていた刀ですか。とすると、そのお二人も武の嗜みがあったということですかな?」

 

あの二人のあれを嗜みと呼んでいいものかな?すでに次元が違うと思うんだけど・・・。特にお婆ちゃん。

 

「あぁ。二人とも強かったよ。お爺ちゃんは超えれたけどお婆ちゃんは無理だったな。どうあがいても敵いそうになかったな。」

「主は天にいたころのことは嬉しそうに話すのですな。」

「そうだね。家族がいて友達がいて・・・。平凡な日常だったけど幸せな毎日だったよ。けど今は星やみんながいるから大丈夫だよ。星も俺にとっては大切な人だからな。」

 

隣を走っている星はくすっと笑った。何かおかしなこと言ったかな?

 

「主、それは口説き文句に聞こえますぞ?」

「気分を損ねちゃったなら謝るよ。けど大切な人には変わりないよ。ずっと一緒にいてほしいからさ。」

「・・・//。ありがとうございます。そう言われずともこの趙子龍、一生あなたに仕えさせてもらいますよ。」

「ありがとう。」

 

主は何でも直球で言ってくるのだからお人が悪い。しかもそれが当たり前だと言わんばかりに。出会って間もないのだが、どんどん深みに入っていく気がする。これが恋というものなのだろうな。まぁ、我が主はこの先ずっとこのお方と桃香様だけなのだ。全身全霊を持ってお守りするだけだ。

 

俺たちが敵前線と衝突する一里(500m)手前で隊に静止させた。これに疑問を持った星が俺にその疑問を持ちかけてきた。

 

「どうしたのですか?」

「星も含めて、向こうの前線がこちらに来るまで止まっていてくれ。向こうからこちらに突撃してきて、残り五尺(150m)ほどになったら俺がとっておきをだすから、そのあとに前線とぶつかってほしい。」

「主、そのとっておきとは?」

「内緒♪」

 

星も兵の人たちも釈然としないようだったが了承はしてくれた。あとは向こうさんがこっちに突っ込んでくれるのを待つだけだ。名付けて!飛んで火にいる夏の虫大作戦!・・・なんか、カッコよくないな。そう思いながらも一刀は聖桜を鞘に納め、抜刀の構えで集中力を高めていく。そうこうするうちに黄巾党の前線が本陣の前衛の方に突撃してくる。

 

「なんだあいつ、刀を構えたまま動かないでいるぜ?」

「怖くて刀を抜けないんじゃないか?」

「それはそれは。あいつを最初に血祭にあげるぞ!」

 

黄巾党の前線が近づいてくるなか、一刀は音で向こうとの距離を判断していた。

 

もうすぐか、カウントダウン開始。五,四,三,二,一…、カウントが終わると一刀が目を見開いた。

 

「抜刀、嵐(あらし)!」

 

一刀は抜刀から目にも止まらない勢いで空を切り結んでいく。その中心に気を集中させ、最後に中心から上段に向けて刀を振り上げた。そしてゆっくり刀を納めると敵の前線に向けて暴風が通り抜けていく。それを後方から目撃していた義勇兵たちは何が起きたのかと唖然としていた。星も驚愕の表情を隠せないでいた。しかし、これを食らった黄巾党前衛はひとたまりもない。まさか目の前から竜巻のような暴風が襲ってくるとは誰が予想できただろうか。前線のほぼ半数が宙に舞いそのまま落下した。加減をしていたとはいえ、ある程度の高さから落ちたとなればただごとでは済まない。落下し骨折、捻挫や打撲で動けなくなるもの、運のない者は落下してくる者を避けきれず下敷きになるものなど、被害は甚大なものだった。そして一刀は自軍の方を振り向いて一言。

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「ごめん。少しやりすぎたみたい。」

 

その一言に唖然としていた星が復活し一刀の方に駆け出してくる。

 

「主、敵の兵を減らしていただいたのはありがたいのですが・・・。私たちの兵があのように固まってしまってはどうしようもないですぞ?」

「うーん、やっぱり加減が難しいなー。けど、これでだいぶ向こうの兵数は減らせたから許してよ、ね?」

「いえ、許すとかそういう問題ではないのですが・・・。」

 

一刀が放った嵐は右翼、左翼、本陣にいた者たちにも衝撃を与えた。

 

「あれはご主人様が放った技なのか。なんとも規格外というか、予想の斜め上を行くというか。」

「ご主人様の刀を使いつつできるだけ不殺を心がけるとはこのことなのでしょうね。さすがは私たちのご主人様ね、愛紗ちゃん。」

「あの方の武が素晴らしいとは分かっていたがこれほどとは・・・。かの飛将軍とも渡り合えるのではないか?」

「そうね。」

 

「うにゃ!あれ、お兄ちゃんのなのだ!」

「はわわ!あのようなもの、人が出来るものなのでしょうか?」

「お兄ちゃんだから無問題(モーマンタイ)なのだ!」

「鈴々ちゃん、それ、説明になってません・・・。」

 

「はわ〜、ご主人様、すごーい!」

「あわわ、すごいです。まるで、龍が駆けて行ったかのような、中央が真っ二つに割れてしまいました。これは好機です。どなたかいますか?」

「はい。」

「ご主人様と星さんに半数ずつに分かれ右翼、左翼との挟撃にあたるように伝えてください。それと、挟撃にあたることを朱里ちゃんと清羅さんのいる左翼、右翼にも伝令さんを飛ばしてください。」

「御意。」

 

一人の伝令はあとの二人に事を伝えると、各々それぞれの部隊の方へ駆け出して行った。伝令から通達を受けた各部隊はすぐに挟撃に向かった。

 

「俺は左に向かうから星は右を頼む。」

「御意!趙雲隊、右翼との挟撃を行う!行くぞ!」

「北郷隊!俺に続け!」

 

俺と星はそれぞれ挟撃すべく、隊を半分に分け駆けだした。

 

「愛紗ちゃん、本陣から伝令よ。本陣から前線に出たご主人様の隊か星ちゃんの隊がこちらとの挟撃に来るって。」

「そうか、分かった。関羽隊、聞け!中央からこちらとの挟撃をしに応援に来る。向こうとの挟撃で黄巾党を殲滅するぞ!」

「おーーーーーーーーーーー!!」

 

「鈴々ちゃん、本陣から伝令です。本陣から前線に出たご主人様の隊か星さんの隊がこちらとの挟撃に来るそうです。」

「分かったのだ!張飛隊、聞くのだ!お兄ちゃんか星がこっちに来るから一緒に黄巾党を叩くのだ!突撃!粉砕!勝利なのだ!」

「おーーーーーーーーーーー!!」

 

それから右翼、左翼に分かれ黄巾党の挟撃を開始した。そこで一刀は敵兵と衝突したときに少し考えた。決心したとはいってもいざ実行に移るとなると思考が麻痺しそうになる。だがそういうわけにはいかない。一刀は腹を決め相手の剣は弾き刀を横に薙いだ。

 

「ぐ、ぐふ・・・。」

 

どさっという効果音と共にたった今生きていた者の命が一刀の手で掠め取られた。一刀は生身の人間を斬ったという実感と骨を断った生々しい感触に襲われた。

 

「う、うぁ、うああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

一刀が吠えると数人の敵兵を見据えた。それに気づいた黄巾党の兵たちが一刀に斬りかかるが一刀のまるで獣のような雰囲気に後ずさりした。目が血走り、猛禽類のように獲物を狙う猛獣。後ずさった数人の兵の中の一人が前に出た。

 

「怯むな!数でかかればあのようなこぞ・・・」

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その者の言葉が紡がれることはなかった。その者の首が胴から離れ地に落ちた。ある程度距離を置いていたのでこの一瞬で距離を詰められることはないと思っていたのが祟ったのだろう。

 

「おい、なんなんだこいつは!」

「畜生!死ねーーーーーーー!」

 

一刀はその二人にに加えもう一人、3人の首を確実に狩りとっていった。一刀の後ろで戦っていた北郷隊も一刀に続くように士気が上がり次々と敵を殲滅していく。

 

「ひぃ、化けものだ!悪魔だ!」

「退散!退散!!」

 

しかし一刀は視界に入ったものの首を刎ね、胴を裂き、地と己を敵の血で濡らしていった。

一刀は敵の四分の一を一人で殺した。そして、左翼を殲滅し鈴々たちと合流したのだが・・・、

 

「お兄ちゃん、お疲れ様なのだ!」

「ご主人様、お疲れ様です。」

「・・・」

「お兄ちゃん?」

「・・・」

 

鈴々と朱里の言葉に一刀は返事を返さない。

 

「何か変ですよ、鈴々ちゃん。ご主人様の雰囲気がただ事ではないように思うんだけど・・・。」

 

朱里が一刀の顔を覗き込んだ。

 

「ひっ!」

 

朱里は思わずのけ反った。一刀の瞳は血走り、光が宿っておらず焦点が合ってない。普段から穏やかな一刀とはまるで別人のようだった。約一刻後、本陣から右翼の敵殲滅が終了したことを本陣の伝令から知らされた。

 

「伝令さん、右翼と本陣の方にこちらに来てもらうように報告してください。ご主人様が動けなくなったと言えばいいので。」

「御意。」

 

「朱里、どうすればいいのだ?」

「私もこうなった人への対処は習わなかったから・・・。どうしよう・・・。」

 

それから半刻後、本陣に戻っていた右翼の部隊と共に全員が朱里たち、左翼部隊のもとに到着した。しかし、一刀の様子を見た者全員が息をのんだ。みなが集合しても一刀は止まった場所から動かず言葉も発しない。ただ少しの息遣いが聞こえるくらいだ。

 

「ご主人様はどうしてしまったというのだ・・・。」

「おそらく人を斬ったことで精神的に耐え切れなくなったんだろう。主は人を斬ったことがないとおっしゃっていたからな。」

 

愛紗と星の話を聞いていた雛里は朱里の服の裾を掴みながら言った。

 

「朱里ちゃん、ご主人様、大丈夫かな?」

「きっと大丈夫だよ。けど、このままじゃどうしようもないからどこかに移動して落ち着いたところに行かないと。」

「じゃあ、黄巾党が放置して行った陣地があったからそこに行こう。桃香様、いいですか?」

「分かった。」

 

桃香は恐る恐る一刀に近づくと一刀の肩に触れた。

 

「ご主人様、移動しよう。」

 

すると肩に触れただけで真横に倒れてしまった。途中で清羅が一刀の体を抱き支えたので地に衝突せずに済んだ。

 

「ご主人様は立ったまま気絶していたのね。」

 

清羅は一刀が浴びた返り血が付くことを気にせずに背におぶった。体から力が抜け全体重がのしかかってくる。正直言って女の子がおぶるにはきついものがある。だが前の戦いで救ってもらったのも含めて恩返しをしたいと思っていた清羅は今の状況の一刀を他の人に任せようという考えはなかった。

 

「では私は先頭にいますので朱里ちゃん、道案内お願いします。」

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「はい。」

「清羅、疲れたら言うのだぞ?」

「ありがとうございます。」

 

それから半刻後、黄巾党が放置した陣地に着いた。いまだ一刀は目を覚ます素振りを見せないままだった。朱里と愛紗は兵に指示を出し残っている物資の確認のためにあたりの捜索にあたらせた。とりあえず清羅は一刀の頭を自分の膝に乗せ一刀の体を横たわらせた。

 

「とりあえずご主人様の顔に付着したしている返り血を拭きたいので少量の水と布を持ってきてください。」

 

側にいた兵に指示を出し水と布を持ってこさせた。清羅は水を布を受け取ると布を軽く水に浸して一刀に付着している血を拭き始めた。

 

「あまり心配させないでくださいね。あなたに何かあったら私もどうしたらいいのか分からなくなってしまいますから。」

 

一刀の顔を拭き終わると数分後、一刀は目を覚ました。

 

「ん、んっ・・・・」

「ご主人様、大丈夫ですか?」

「あれ、清羅?なんでここに・・・。ん?俺は確か左翼部隊との挟撃のために敵兵と戦ってたはずだったはず・・・。そっか、俺、人を斬ってから自制が効かなくなって暴走したのか。清羅、迷惑かけちゃったな。ごめん。」

「いえ、このくらい迷惑のうちに入りませんよ。それより、目が覚めたのですから皆を安心させるためにも顔を見せてきてはいかがですか?」

「そうだな。・・・、ん!・・・あら、なんか体が動かないや。」

 

一刀があははと笑うと清羅は仕方ないですねと言いながらも表情は微笑んでいた。清羅は桃香に一刀が目を覚ましたことを伝えると数分もしないうちにみなが集合した。

 

「みんな、心配かけたね。ごめんな。」

「良かった〜。あんまり無茶したら駄目だからね。」

「桃香様のおっしゃるとおりです。ですが、目覚めてくださって・・・ほんとに良かった。」

「主よ、この心配分はメンマで水に流しましょう。」

「いずれ奢らせてもらうよ。」

 

星の冗談に周りの空気が和んだ。だがちびっこ三人は半泣きになりながら一刀のもとに飛び込んできた。一刀が三人の頭を優しく撫でると三人は落ち着いたのか笑顔になり懐からはなれた。

 

「もう大丈夫かな。清羅、ありがとう。」

「いえ、膝枕くらいならいつでもしてさしあげますよ。」

 

一刀はもう少しあのままでも良かったかなと思いながら埃をはたいてから体を起こした。そのとき周りにいた女性陣(清羅以外)は、私もご主人様を膝枕したいなー。などと思っていたのはまた別の話。

 

「ご主人様!私の膝もいつでも貸してあげるからね♪」

 

・・・桃香だけは口に出さないと気が済まなかったらしい。

一息ついてからこれから移動するか決めようかしていたところ、あたりの見張りをしていた者から通達が来た。

 

「陣地の南方から官軍らしき軍隊が現れ、そちらの指揮官と話をしたいという者がきました。」

「官軍?我らに何用だ?」

「いえ、官軍の旗ではなく曹の旗を掲げていました。」

 

官軍と名乗り官軍の旗ではない。どういうことだ?

 

「南方から現れた官軍を名乗る曹の旗。おそらく、黄巾党討伐に乗り出した諸侯。曹操さんでしょう。」

 

雛里が話から推測して話をまとめた。

 

「曹操さん?」

「はい。許昌を中心に勢力を伸ばしている方です。共同戦線を張れる可能性もありますから、会った方が得策でしょう。」

「分かった。じゃあ曹操さんをここまで案内してくれる?」

「御意。」

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見張りの方は曹操さんの案内をするために来た道を戻っていった。そこで桃香が再び口を開いた。

 

「ところで、曹操さんってどんな人なの?」

「噂では治世の能臣であり詩人で乱世を生き抜く奸雄と呼ばれています。」

「奸雄か。そのように呼ばれているものを本当に信じられるのか?」

「曹操さんは誇り高い人のようですから、曹操さん自身がそれを許さないでしょう。器量、能力、兵力、それに財力。そのすべてを持ち合わせている人ですから。」

「うは〜。完璧超人さんだ。」

 

桃香がぽかーんとした顔をしている。くれぐれもそんな顔を曹操の前でしないように見張っとかないと。

 

「それにしても誇りか、それは人それぞれな気もするけど・・・。」

 

そう呟くと俺たちの後方から足音と共に一人の女性の言葉が聞こえた。

 

「誇りとは、天へと示す己の存在意義。誇り無き人物は、たとえそれが有能なものであれ、人としては各地の下品の下品。そのような下郎は我が覇道に必要なし。」

「誰だ貴様!」

「控えろ下郎!この方はいずれ天下を統一する曹孟徳なるお方であらせられるぞ!」

 

この人が曹操。それにしてもまた女の子だ。今に始まった話じゃないから深くは考えないようにしよう。

 

「あなたが曹操さん!?」

「ええ、私は曹操孟徳。官軍に請われ、黄巾党を征伐するために軍を率いて転戦している者よ。」

「私は劉備玄徳と言います。」

「そう。劉備、あなたがこの隊の指揮官かしら?」

「形的にはそうですけど、私たちはご主人様が決定権を持っていますからわたしではないです。」

 

ん?俺が決定権を持ってるの?初耳なのだが・・・。というか俺は桃香の理想に賛同して行動を始めたから桃香が決定権を持っていると思うんだけどな。

 

「ご主人様ぁ?」

「はい♪北郷一刀さんです。」

「ただいま紹介にあずかりました、北郷一刀です。」

「ふぅーん。」

 

曹操さんは俺を品定めするかのようにじろじろ見てくる。少し恥ずかしいのだが。

 

「なんかぱっとしないわね。しかし、武の方は相当な手練れだと見たわ。」

「そうでもありませんよ。人を斬った途端に暴走して自制が効きませんでしたから。さっきまで気を失っていましたから。」

「そう。それよりそんなことを私に話していいのかしら?」

「ええ。すぐに克服しますから。」

「いい心がけね。それより、あなた、指揮官なんてできるのかしら?そうは見えないのだけど?」

「人並みにですよ。それと、俺は桃香・・・劉備の理想に賛同して仲間になったわけですから、実質の指揮官は劉備です。」

「あらそう。ならどうしてあなたがご主人様なんて呼ばれているのかしら?」

「ご主人様はですね、天の御使い様なんですよ♪」

 

桃香が胸を張って言った。語尾にえっへん!とでも付きそうな。それとどこか嬉しそうだ。なんで桃香がそんなに嬉しそうに言うの?ってつい聞いてしまいそうになったが抑えた。

 

「天の御使い・・・。あの管轤の占いに出てきたやつね。あの与太話をあなたは信じているのから?」

「信じてくれとは言いません。信じさせる証拠もありませんしね。ただ、そう思って俺たちについてきてくれる人たちのためにも努力するだけですよ。」

「あなたの言うことも筋は通っているわね。その御使いの名をどう生かすかは己次第。ということで合っているわよね。」

「はい。」

 

曹操さんは一息おくと桃香の方に顔を向けた。

 

「では劉備、あなたに問うわ。あなたの掲げる理想とは何かしら?」

「私はこの大陸に生きているみんなが平和に笑って暮らせるようにするために旅を始めました。大陸を平和にして、誰しもが笑顔で過ごせる国にしたい。」

「それがあなたの理想なのね。」

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「うん。そのためにはだれにも負けたくないって思ってる。」

「そう。ならば劉備よ、平和を乱す元凶である黄巾党を殲滅するために私に協力しなさい。今のあなたたちに独力で黄巾の乱を鎮める術はないでしょう。しかし、今は一刻も早く暴徒を鎮めることが大事。どうかしら?」

 

桃香はうーんと困った表情をして俺の方を見てきた。

 

「その提案、乗ろう。曹操さんのいうとおり、今の俺たちにこの乱を鎮める力はない。だけど、曹操さんのように、力のある人と協力すれば早くにこの乱を鎮めることができる。」

「あら、良く分かっているじゃない。」

「俺たちが協力して曹操さんたちに何の得があるかは分からないけど何か得があるんだろう。」

「あら、それを聞かないのかしら?」

「聞いても教えようとは考えてませんよね?」

「そうね。私たちに何の得があるか、それは自分で考えなさい。考えに考え抜いて出た答え。それが答えよ。では協力成立ということでいいわね?」

「はい。」

「共同戦線については軍師同士で話し合いなさい。以上よ。春蘭、秋蘭、進撃の準備に取り掛かるわよ。」

「御意。」

 

曹操は横にいた二人を連れて行ってしまった。

 

「何かすごい人だったねー・・・。」

「鈴々、あいつが何を言ってるのか全然分からなかったのだ。」

「とりあえず共同戦線になることも決まったことだし、俺たちは俺たちで準備を始めよう。」

 

一刀が準備に取り掛かろうと歩を進めようとすると星と清羅が一刀を引き留めた。

 

「主よ。ほんの一刻前まで気を失っていたのです。今日はおとなしくしておいてください。」

「そうですよ。朱里ちゃん、雛里ちゃん、見張りをお願いね。」

「はい♪」

「・・・二人とも、なんで嬉しそうなの?」

「はわわ!そんなことないでしゅよ!」

「あわわ、そ、そうでし・・・。」

 

二人ともカミカミに言っても説得力ないよ。ということで俺は朱里と雛里と天蓋でおとなしくしていた。というか三人で他愛無いことをお喋りしていた。

それから翌日、曹操さんのとこと共同戦線を張り各地に散らばった黄巾党殲滅に向けて出発した。

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あとがき 読んでいただきありがとうございます。第参節・黄巾党討伐と覇王との出会い編はいかがだったでしょうか。今回は星と清羅を多めに立ち回らせたつもりです。一刀が人を斬った場面については、そのまま自制を効かせて立ち回らせようとも思ってのですが、あのような一刀もありかな〜と思いあのようにしました。お気に入りとしては膝枕の場面ですね。誰かに一刀を膝枕してほしいという願望がありあのようになりました。というか・・・、私もかわいい子に膝枕してほしい!・・・思考がだだ漏れになってしまいました。すみません。みなさん、熱中症には気を付けましょう。次は今回の終わりから約三か月後の話になります。恋ちゃんとねねちゃん登場です!第参節が終わったら、一端、拠点フェイズを挟もうと思います。それでは、次回:飛将軍と御使いと編 でお会いしましょう。

説明
何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。
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コメント
更新に今気付いた(´・ω・`)   恋ちゃんに、拠点パートとな・・・  楽しみだね(yosi)
間隔が一週間位なら問題無いかと…私もそんなものですしね。それにしても女の子の膝枕か…全く縁の無い話だ。(mokiti1976-2010)
今回もとても面白かったですよ♪華琳との出会いは何をもたらすんでしょうか・・・次回の恋&音々の登場も楽しみです!(本郷 刃)
他の方々も一週間間が開くくらいならよくあることですので気にしないでください。次回も楽しみにしております。(アルヤ)
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真・恋姫無双 桃香 一刀  清羅 華琳  

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