緋弾のアリア 紅蒼のデュオ 7話
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パン!パァン!

 

機内に銃声が響き渡った。アリアとキンジは一気に緊張状態になったが、飛牙だけは口角を吊り上げ、喉で小さくククッと笑いを零す。その瞳は何時もの緑色ではなく、まるで血のような赤に染まっていた。

 

室内で一番ドアに近かった飛牙が肩を細かく震わせているだけで微動だにしないのを怪訝に思ったアリアとキンジは、その異変に気付いてしまった。

 

「ックックック…。さぁ、楽しいパーティーの始まりだ…」

 

そんなアリア達の視線に気付いていないのか、または故意に無視しているのか、飛牙は先程の会話より一層低いトーンで一人呟くと、アリア達には見向きもせず部屋を出た。アリア達は数瞬呆然としたが、今機内で起きている事態を思い出し慌てて廊下へ飛び出す。

そこでアリア達が見たのは、機体前方で機長と副操縦士を両手に持ちつつ何やら不機嫌な顔をしている先程のCA。そして、かつて二人が見たこと無いまでに口角を上げ、邪悪な笑みを浮かべた飛牙であった。

 

 

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「Je vous remercie pour ce soir invite a la fete.(今夜のパーティーへのお招き、感謝しよう)」

 

「…N'oubliez pas que vous n'etes pas invite,Scar.(…お前を招いた記憶はないがな。スカー)」

 

「Pourquoi ne pas.(いいじゃねえか)Je viens de profiter de cette fete.(このパーティー、楽しませてもらうぜ)」

 

「…Amour blanc.(…好きにしろ)」

 

アリア達の前では、先程の二人が明らかに日本語でも英語でもない言葉での口戦が繰り広げられていた。

現在Eランク状態のキンジには仮にこれが英語だったとしても内容は分からなかったが、アリアはこの言語−−−フランス語を正確に聞き取っていた。その中で、飛牙は現在起こっているこの事件をパーティー呼ばわりした。今やアリアも知っている事であるが、元々『武偵殺し』の諸事件は全て今回の為に仕込まれた可能性が高い。全てはアリアを狙い、殺すためだ。

アリア自身も『武偵殺し』には並ならぬ憎悪を抱いている。愛しき母に濡れ衣を着せ、いつ終身刑を言い渡されてもおかしくない状況なのだ。

加えてキンジも、アリアは知らないことであるが、尊敬していた兄が『武偵殺し』に殺されたのだ。『武偵殺し』にかける念は生半可なものではないだろう。

 

アリア達にとって重要な意味を成す今回の事件。それをパーティー呼ばわりされたことに、アリアは少しだけ憤りを覚えた。

 

「…ほら、役者の登場だ。演じきってみせろよ」

 

アリア達が出て来たのを確認した飛牙は、キンジにも分かるように日本語でCAを諭す。CAは軽く舌打ちした後にいッと笑って、拳銃で威嚇しようとしたまま固まっているキンジを見た。

 

「Attention Please.(お気を付け下さい)でやがります」

 

その言葉を聞き、キンジは直感的に気が付いた。やはりコイツが『武偵殺し』………兄を殺した人間であると。

 

だが、キンジの次の動作より早くCAは動いた。ピン、と恐らく何かのピンを抜いたと思われる音を立て、胸元から小さなカンを取り出し放り投げた。それは空気が抜けるような音を放ちながらキンジの足下へと転がった。

 

キンジは一瞬のうちに判断した。これは十中八九ガス缶であると。ただのスモークなら視界が不明瞭になるだけだが、毒ガスという可能性もある。反射的にキンジは叫んでいた。

 

「−−−みんな部屋に戻れ!ドアを閉めろ!」

 

目下のガス缶で完全に動転したキンジは、周りの客に指示を出すと自身もアリアと共に客室に飛び込み、ドアを閉めた。

キンジはこの時、飛牙が廊下に残された事に気付かなかった。ぐらりと飛行機が揺れ、機内の照明は一瞬の後全て落ちた。

 

 

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「……ンジ!キンジ!」

 

機内の非常灯で赤くなった室内、動揺の余り一瞬意識を手放していたキンジは、アリアの呼び掛けにより意識を取り戻した。

五体満足、痺れなし。どうやら先程のガス缶はただのスモーク弾だったようだ。己の誤判断に歯噛みしつつ、そういえば…と室内を見渡す。

 

「あれ…紅月は?」

 

「…あの時に別の部屋に入ったのか、或いは逃げ遅れたのか…。少なくとも、ここにはいないわ」

 

「…そうか」

 

キンジは考えていた。

あの時飛牙とCAが何を話していたのか、現在のキンジでは何語かさえも分からなかった。あのふざけた口調、あのCAこそが『武偵殺し』であるとキンジは確信していた。

なら飛牙は内通者だったのか…?考えても答えは出ない。そもそもあの二人は親しげでも無ければ業務的に話している訳でもなく、どちらかと言えばCAが嫌そうに話していた。

ならばあの会話の内容を…とアリアに再度問い掛けようとしたその時。

 

ポポーンポポポン。ポポーン………

 

ベルト着用サインが注意音と共に点滅し、和文モールスを示した。

 

 

 

オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ

 

オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イルヨ

 

 

 

「…誘ってやがる」

 

和文モールスを解読したキンジは、無意識にそう呟いた。

だが、文の中に飛牙に関する記述が無かったのが気になった。

どこか悶々とした感情のまま、ガミガミと怒鳴りながら雷を怖がるアリアを伴ってバーに向かった。

 

 

 

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一階のバーでは、先程のCAと飛牙が座っていた。飛牙は自分が適当にブレンドしたマティーニ(ジン:ベルモット≒2:1)が注がれたグラスを口に傾けつつ、舞台の主役が来るのを今か今かと待ち構えていた。

 

「タダ酒は一段とうめぇな。これも『武偵殺し』とやらの恩恵ってわけだ」

 

やや皮肉気なその言葉に、CAは顔を歪め舌打ちをした。

 

「そこら辺にしておきな。ここはフランスじゃないんだから、U20の飲酒は御法度だ」

 

「ああ、そういや日本ではU20は飲んじゃいけねえんだったか。ったく、不便な国だ」

 

そう言いつつも未だグラスを傾ける飛牙に、CAは呆れ顔で首を振りつつアリア達を待った。

 

「しっかし、アルセーヌ・リュパン4世っつうからどんなヤツかと思えば、まさかこんな出来損ないだったなんてな。あの3世のガキとは思いたくねえぜ。」

 

その言葉にCAはキッと形相を変え、座っていた椅子を立った勢いで倒し、よく見ればかなり美しい顔を極端に歪めて飛牙を睨んだ。

 

「貴様だって、出来損ないだろうに!」

 

「そこだ。何で俺様が出来損ないかって聞いてんだよ4世サン?」

 

「黙れ黙れ黙れ!あたしを数字で呼ぶんじゃない!」

 

「だったら教えろよ。血筋なんて関係ねぇ。俺様は俺様だ……ったく、嫌なタイミングで来やがるなあのヤロウ…」

 

浅く溜め息をはき、一階と二階を繋ぐ扉を見やる。

バーの扉の前、先程の喧騒が聞こえていたのか萎縮しているが、確かにアリア達の気配がした。

 

「さて…役者が来やがった事だし、脇役は端によってやろう。だが、後で教えろよ」

 

相手の返答の是非を許さないように強くCAに言うと、離れた壁に寄りかかり腕を組んだ。

 

 

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一階にあるバーのシャンデリアの下、そこには何故か肩で息をしながらこちらを、いやアリアを睨んでいる先程のCAがいた。

そして、自分達側寄りの壁には飛牙が壁に寄りかかって腕を組んでいた。

 

「全く、今回もキレイに引っかかってくれやがりましたねえ」

 

意識をCAに戻されたキンジは、CAがどこか疲れたようにそう呟くと、おもむろに自身の顔面に被せていた特殊メイクを剥いだのを確認した。

 

「−−−理子!?」

 

「Bon soir(こんばんは)」

 

その顔は忘れられない、ここ数週間アリアや『武偵殺し』に関する情報調査を依頼し、飛行機に乗り込む前に一悶着あったばかりの同級生、

 

 

−−−峰 理子だった。

 

 

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飛牙はまるでこれが当然の、あらかじめ内容を伝えられた舞台を見ているかのように目の前の光景を見ていた。

キンジは唐突な事態に混乱している。キンジ程ではないが、アリアもまた目を見開いて驚愕していた。

 

刹那の沈黙の後、最初に言葉を発したのは理子だった。

 

「アタマとカラダで人と戦う才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、キンジやヒュウガみたいな遺伝系の天才がけっこういる」

 

ま、ヒュウガは出来損ないらしいけど、と理子は早口で付け加える。

 

「でも…お前の一族は特別だよ、オルメス」

 

理子の言葉に、アリアは電流にでも打たれたかのようにピクリと硬直した。

オルメス……ホームズのフランス語読み。アリアがH家…シャーロック・ホームズの子孫である事を理子は暗示した。

 

「あんた…一体…何者…!」

 

アリアから投げかけられた言葉に、こうなると理解出来ていた筈の理子は、一瞬この名を言うのに躊躇したような挙動を見せ、そして名を名乗った。

 

 

「あたしの…理子の本当の名前は理子・峰・リュパン4世。アルセーヌ・リュパンの曾孫」

 

その言葉に、今度はキンジまでもが驚いた。

フランスの大怪盗、アルセーヌ・リュパンと言えば世界的に有名な人物だ。十分な教養が無くても、その名を知らないなんて事は無いだろう。そこまでの有名人だ。

 

「でも、家の人間は誰も『理子』とは呼んでくれなかった。4世、4世、4世って、どいつもこいつも、理子をそう呼びやがったんだ」

 

どこか吐き捨てるように、言葉の節々に棘を仕込みつつ理子は話す。それに反応したのはアリアだった。

 

「そ、それがどうしたのよ…。4世の何が悪いってのよ」

 

その言葉に理子は過敏に反応し、先程飛牙に怒鳴り散らした時と同じ形相で叫んだ。

 

「−−−悪いに決まってんだろ!!あたしは数字か!?ただのDNAか!?違う!!あたしは理子だ!!数字じゃねぇ!!」

 

突然キレた理子に、アリアとキンジはたじろいだ。だが、飛牙は真っ赤に染まった目を理子の方に向けた。

 

「テメエが何故名前に固着すんのかはどうでもいいが、テメエはテメエだろ。尤も、俺の知るあの3世のガキとは思いたくないがな」

 

「お前に何がわかる妾のガキが!!」

 

さもつまらなそうに突き放した飛牙に向かって、理子は自然と先の答えを出す形で飛牙に怒鳴る。

 

「…んだと?妾の子だあ?」

 

「そうだ!!『アイツ』は言っていた!!お前はナポレオンと愛人の子の子孫の一人、正当な血筋じゃ無いと!!」

 

「ほう…。じゃ、さっきの出来損ないはそっからか」

 

先程飛牙が知りたがっていた情報を感情のままあっさり吐いた理子に、ハッと冷笑を浴びせる。

 

「くっだらねぇ。全くもって下らねえな。その『アイツ』ってやつもお前も、ただ血筋の呪縛に縛られてるだけじゃねえか」

 

徐々にクールダウンし始めた理子に、彼はまだ続ける。

 

「例え俺が妾の子孫だったとしても、

 

 

 

俺様は俺様。それ以上もそれ以下もねぇ」

説明
6話の続きです。
途中のフランス語はGoogle翻訳を使用した物なのでおかしいところがあると思います。
なんかアンチっぽくなってしまったかもです。
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非ハーレム 微アンチ 銃火器 緋弾のアリア 

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