IS(インフィニット・ストラトス)―皇軍兵士よ気高くあれ―
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第05話 厚木航空基地

 

 

 

 

ISと零戦。新旧兵器による“追いかけっこ”が一応の決着を見せて少し経過した頃、日本国厚木航空基地。

 

そこでは現在、厚木基地所属のIS部隊と基地に駐留している日米の治安維持部隊が、件の((国籍不明機|零戦))を迎えるべく滑走路近辺に展開していた。

 

日本国内の総IS数は(IS学園のを除いて)全部で十機なのだが、そのうちの四機を保有しているのがこの航空部隊である。そして、それは名実ともにこの部隊が航空自衛隊きっての最強部隊であることの証でもあった。

 

それが、三機(零戦に随伴している姫川機も入れて四機)。すなわち全機即応態勢で待機しているのである。それを思えば、今がどれほど異常な状況か分かるというものだろう。

 

「………姫川が件の所属不明機と接触してから、もうすぐ二十分か。………そろそろだな」

 

時計の時刻を確認しながら、ISを身に纏った女性が、誰に言うでもなく呟く。

 

そして、次の瞬間には、女性は表情を引き締め、すぐ後ろに控えていた、同じくISを身に纏った少女たちの方を振り返った。

 

「各員、武器はいつでも((『呼び出し』|コール))できるように準備しておけ!! いざという時は訓練通りだ!! いいな!?」

 

そう女性が怒号にも似た口調で言うと、即座に少女たちから「了解っ!!」という返事が返ってきた。

 

「ふ、いい返事だ。その気概を忘れるなよ?」

 

少女たちの返事に対し、女性は満足気に頷く。

 

たった今少女たちに言葉を投げたこの女性、彼女こそこの部隊の部隊長である桜木千歳三佐(三等空佐)その人であった。年齢は二十二。十代の隊員の多いこの部隊の中では最高齢であり、部下たちを厳しくも面倒見よく牽引する『頼れるお姉様』的な存在だ。

 

(こういった事態は初めてだから皆緊張でもしているかと思ったが、まぁこの分なら問題ないだろう。あとは……………)

 

思考しつつ、千歳は再び前に向き直り、空を見上げる。

 

同時に、ISのハイパーセンサーによって強化された視界が、こちらに向かってくる機影を捉えた。

 

「………来たか」

 

徐々に近付いてくる機影を見据えながら、千歳は小さく呟く。

 

接近してくる機影は二つ。片方は人型、そしてもう片方は単発のレシプロ航空機。姫川と件の零戦で間違いあるまい。

 

「“お客さん”のお出ましだ! 総員、手厚くもてなしてやれ!」

 

二つの機影を見据えたまま、千歳は部下である少女たちに向かってそう叫んだ。

 

 

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「…………ついにここまで来てしまったか」

 

着陸の衝撃に若干身体を揺さぶられながら、春樹はどこか複雑そうな表情で呟いた。

 

まぁ当然だろう、他に選択肢がなかったとはいえ、彼が選んだのは事実上の“降伏”に他ならないのだから。

 

(今まで散々『生きて虜囚の辱めを受けず』(要するに『生きて捕虜になることは許さない。最後まで戦って死ね』ということ)という暗黙の了解を叩き込まれてきたというのに、よもやこんなことになろうとはな。もし散っていった戦友たちが今の俺を見たら果たしてどう思うことやら…………)

 

一瞬、そんな考えが頭をよぎるが、春樹はすぐにその考えを振り払った。

 

(やめよう。今更そんなこと言ったってどうしようもない………)

 

英霊たちが自分のことをどう思っているかはさておき、結局はここまで来てしまったのだ。だったらもう腹を括るしかない。

 

(………まぁ、どうせ一度死んだ身だ。それならいっそ、行くところまで行ってみるのも悪くないか)

 

そう思い直し、春樹は顔を上げて風防の外に目を向ける。

 

すると、春樹をここまで誘導してきた、件の鎧女と目が合った。

 

「ハ・ヤ・ク・オ・リ・ロ」

 

目が合うなり、女はすぐさま口パクでそう訴えてくる。相変わらず銃口はこちらを向いたままだった。

 

「…………とりあえず、降りるか」

 

あの目は本気だ。このままでは愛機諸共蜂の巣にされかねない。

 

さすがにそれは勘弁願いたいので、春樹はおとなしく指示に従った。

 

「寒っ……」

 

風防を開けた瞬間、肌を刺すような冷たい風が吹き込んでくる。

 

一応、太陽は出ているから多少はマシな方なのだろうが、それでも外気温は驚くほど低かった。

 

(もともとこういう気候なのか、それとも今が真冬なだけなのか、どちらにしても夏の暑さになれきっていた俺にとってこの寒さは相当こたえるな…………)

 

吹き付ける風と空気の冷たさに若干身震いしながら、春樹はそう思った。

 

まぁ、そんな状態においても、さりげなく周囲に目を向け、冷静に情報を収集していく辺りはさすが軍人といったところだろうが。

 

(…………なるほど、これがあの女の所属する基地というわけか)

 

舗装された広大な滑走路、コンクリート造りの巨大な施設とそこに隣接する塔のような建築物、そして駐機場と思しき場所に並んでいる“ずんぐりした形の双発機”等、はっきり言って、目につく光景全てが、春樹が今まで抱いていた軍事基地のイメージを軽く凌駕するようなものばかりだった。

 

(…………さっき見た街も凄かったが、こっちはまた違った意味で凄いな。滑走路以外、地面が剥き出しだった我が軍の基地とはえらい違いだ)

 

今はもう見ることがかなわないであろう祖国の海軍航空基地に思いを馳せながら、春樹は単純に羨ましいとも思った。別に所属していた基地の設備に不満があったわけではないが、これほど立派な基地を見せられては羨むなという方が無理な相談である。

 

(日本にもこれくらいの技術力があれば、鬼畜米英どもにあそこまで追い詰められることもなかったろうに。まったく、じつに残ね――――ん?)

 

とその時、遠くからサイレンのような音が近付いてくるのが聞こえてきた。

 

(なんだ?)

 

妙に甲高く、耳障りなその音に若干眉を顰めつつ、春樹は音の近付いてくる方向に目を向ける。

 

と同時に、サイレンが鳴り止み、音源と思しき複数の車がブレーキ音を響かせながら停車する。直後、停車した車から小銃で武装した複数の人間が出てきた。

 

(なるほど、こいつらはこの基地所属の警備隊というわけか)

 

こちらに銃口を向け、素早く散開する武装兵士たちを観察しつつ、春樹はすぐに納得した。

 

まぁこれだけの騒ぎだし、彼らにとって春樹は“招かれざる客”以外の何者でもない。警備の部隊が彼を拘束するために出張ってきても何ら不思議はないだろう。

 

(抵抗…………は無駄だろうな。装備も戦力も差がありすぎる)

 

一応、彼も護身用の拳銃くらいは所持している。

 

だが、片や拳銃一丁、片や小銃二十丁。普通に考えて勝負になどなるはずもない。

 

それに、ここは彼らの拠点とも言うべき場所である。

 

当然今春樹を包囲している部隊がここの全戦力というわけではないだろうし、これだけ敷地の面積が広いとなると、基地の兵たちを振り切って逃げるなど到底不可能だ。

 

(…………まぁ、腹を括るしかないか)

 

ひとつ溜め息をつき、春樹は本日何度目かの覚悟を決める。

 

そして、銃を構えたまま徐々に接近してくる兵士たちに目を向け―――――――

 

「っ!?」

 

瞬間、春樹は驚きのあまり、思わず目を見開いた。

 

「こちらは厚木航空基地警備小隊である! 抵抗は無意味だ! ただちに両手を頭の後ろに置いて、その場にうつ伏せになれ!!」

 

兵士の一人、指揮官らしき中年の男が声を大にして叫ぶ。

 

だが、生憎今の春樹には届いていなかった。

 

「な……ぜ………」

 

部隊の左翼、そこに展開している兵士たちを凝視しながら、春樹は半ば呆然と呟いた。

 

まぁ、当然だろう。何せ、そこにいたのは彼がこの世で最も忌み嫌っている白人、それも春樹にとって憎悪の対象だった“星条旗”が刺繍された軍服を身に纏った白人だったのだから。

 

これが意味することはただ一つ。そして、それは春樹にとって最も許容しがたい現実だった。

 

「……ぜ………らが………」

 

自身でも意識しないうちに、言葉が口を突いて出てくる。

 

そして、春樹の表情から先程まで見られた戸惑いや驚愕などといった感情が消え、代わりに別の感情が沸々と沸いてくる。

 

憎悪や殺意という、煮えたぎるマグマのように熱くドロドロとした感情が。

 

「何故、こいつらがっ! ここにいるっ!」

 

絞り出すように呟き、春樹は鋭く米兵たちを睨み付ける。

 

その時、一人の米兵と目が合った。

 

「っ!!」

 

米兵の顔を目にした瞬間、春樹の目つきがより一層鋭くなった。

 

何故? なんてことはない。その米兵が、春樹の故郷を焼き、故郷の人間と唯一の家族だった義妹たちの命を奪った米戦闘機のパイロットとよく似た顔をしていたからだ。

 

今でも鮮明に覚えている。焼ける故郷、炎に包まれる家屋、機銃掃射の餌食となった老若男女の人間たち、そして――――「ごめんね」という言葉を残して逝ってしまった二人の義妹たち。

 

(こいつが、こいつらさえいなければっ!!)

 

憎悪と殺意が沸々と際限無く湧き上がり、春樹から冷静な判断力を奪っていく。

 

無理もない。何せ、故郷と家族の仇(現実はただの人違いであるが)がすぐ目の前にいるのだ。常識的に考えて冷静でいろという方が無理な相談だろう。

 

「………れ」

 

ボソリと呟き、春樹は憎悪と殺意の混在する鋭い目つきのまま、米兵を睨み据える。

 

最早、そこには先程までの冷静さは欠片も存在していない。それどころか、今の春樹には目の前の米兵と仇である米パイロットが完全に重なって見えており、『怒りに我を忘れる』という状態まではいかないまでも、それに限りなく近い状態にはなっていた。

 

「…た…れ」

 

仇によく似た米兵を見かけたためか、ドス黒い感情が僅かに残った正常な思考さえも侵食し始める。

 

そして、ふと思い出す。故郷が蹂躙された後、風防ガラス越しに見えた米パイロットの表情を。

 

地上を見下ろす米パイロットが浮かべていた『侮蔑と嘲りの混ざった笑い』を。

 

「……たばれっ!」

 

憎悪と殺意がより一層濃さを増し、それに伴って次第に呟きも大きくなっていく。

 

 

 

 

そして、溜まりに溜まった憎悪と殺意が頂点に達した瞬間、春樹の中で、何かが―――――切れた。

 

 

 

 

「くたばれっ!! 鬼畜米英ぇっ!!!」

 

直後、激しい感情の波に突き動かされ、春樹は叫ぶ。

 

そして次の瞬間、彼は護身用の拳銃を抜き放ち、躊躇うことなく米兵に向かって発砲した。

 

 

 

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「おいおい、いったいこれは何の冗談だ」

 

零戦パイロットの姿を確認した瞬間、千歳は驚愕から思わず呟いた。

 

彼女だけではない。周囲に展開する彼女の部下たちも驚きと戸惑いを顕に動揺しており、中には互いに顔を見合わせる者までいる始末だ。

 

まぁ、彼女たちの反応も当然というべきかもしれない。何せ、これだけの騒動を引き起こした元凶の正体が“十代半ばほどの少年”だったのだから。これで驚かない方がどうかしている。

 

(突如発生した空間異常、唐突に現れた国籍不明機、極めつけは十代の少年パイロットか。よくもまぁこれだけたちの悪い面倒ごとが続いたものだな、今日は厄日か?)

 

内心で悪態をつきつつ、千歳は件の“少年パイロット”を注意深く観察する。もちろん小銃はいつでも撃てるようにしてある。

 

正直、少年相手にこんな物騒なものが必要になるとは思えないし、彼女としても出来れば生身の人間など撃ちたくはない。

 

だが、僅かでもテロの危険がある以上、必要とあらば撃たねばならない。少なくとも、こうして観察している間に彼が少しでも不審な動きを見せれば、立場上やむなくといった事態は普通にありうる。

 

出来ることなら、それは避けたい。

 

(ただのコアなミリオタの仕業か、あるいはどこぞの国からの亡命者か、それについては正直どちらでもかまわないが、とにかく戦闘には発展してほしくないな。果たしてこの先どう転ぶことや―――――――ん?)

 

その時、彼女はふと“あること”に気付く。

 

件の少年が、一人の米兵を、まるで親の敵を見るような目で睨んでいることに。

 

(なんだ? いったいどうしたんだ?)

 

何故米兵を睨んでいるのか、そのことに疑問を抱きつつ、千歳は少年――正確には彼の表情――に目を向ける。

 

瞬間、彼女は背筋が寒くなるのを感じた。

 

(なん……だ、これは………)

 

少年の目から発せられる“異常なまでに鋭い敵意と殺意”を感じ取り、その毒々しい視線に千歳は戦慄する。

 

視線を向けられているのは自身ではない。それが分かっていても、恐怖からか思わず身体が硬直してしまう。

 

それはさながら、抜き身のナイフを首筋に当てられているような感覚で、先程まで表情にあった困惑や戸惑いといった感情がまるで嘘のようだった。

 

(………こいつは、いったい何者なんだ?)

 

少年から放たれる威圧感に、言い知れぬ恐怖と不安を抱きつつ、千歳は思考する。

 

見た目は少年。しかし、彼が放つ眼光や威圧感、そして纏う雰囲気はたかだか十代の少年にはありえないほど鋭く、恐ろしい。はっきり言って、この国の同世代の少年たちでは、まず再現できないだろう鋭さと恐ろしさだった。

 

(………嫌な予感がする)

 

少年の纏う雰囲気に当てられたか、一抹の不安が脳裏をよぎり、千歳は部下たちに警戒を促すべく、ISの回線を開く。

 

だが、千歳が言葉を発しようとした瞬間、無情にもその不安は現実のものとなった。

 

「くたばれっ!! 鬼畜米英ぇっ!!!」

 

叫び、少年は目の前の米兵に向けて、両手を突き出す。

 

はたして、その手の中には、かなり型の古い一丁の拳銃が握られていた。

 

(なっ!!?)

 

予想外の―――正確には、予想はしていたが一番確率が低いと思っていた―――事態に、千歳は言葉を失う。

 

それは他の者たちも同様らしく、皆明らかに動揺し、一瞬動きが鈍くなっていた。

 

まぁ当然といえば当然の反応だが、その一瞬の硬直が招いた結果はけっして小さくなかった。

 

 

タァンッ!! タァンッ!! タァンッ!!

 

 

火薬の弾ける乾いた音が立て続けに三発、真冬の空に鳴り響く。

 

その直後、一発目の弾丸が米兵の背後に停車していた車両に着弾し、カァンッ!!という金属音とともに火花が散る。二発目以降は、着弾の衝撃で僅かによろめいた米兵の脇を通過していった。

 

(よかった…………)

 

撃たれた米兵が無傷で済んだことに安堵しつつ、千歳はもう一度少年に目を向ける。

 

見ると、彼は再び発砲すべく、銃の引き金を引く指に力を込めているところだった。

 

「待っ――――!!」

 

千歳は銃を構える少年に向けて声を上げる。

 

同時に、少年を『敵』と認識した警備小隊の面々が、各々が手にする小銃の引き金に力を込める。

 

だが、どちらも少年を止めることはできなかった。

 

「死ねぇっ!!」

 

感情に支配された少年が、あらん限りの力で叫ぶ。

 

その直後、引き金にかかった指が少年の意志によって引かれ―――――なかった。

 

 

ゴガッ!!

 

 

銃声の代わりに、辺りにそんな鈍い音が響いた…………ような気がした。

 

そして、音の発生源である少年は、為す術も無く吹っ飛ばされ、数メートル程転がった後、動かなくなった。

 

「な………」

 

千歳は今目の前で起こった出来事に目を見開き、絶句した。

 

まぁ、それも当然だろう。何せ――――――

 

「ISで……人間を殴り飛ばした………だと?」

 

彼女の部下の一人、姫川香織二等空尉が背後から少年の頭部を殴り飛ばした――もちろんIS展開中――のだから。

 

説明
帝国海軍航空隊『特務零戦隊』に所属する桐島春樹は、祖国を、そして大切なものを守るため、命を賭して戦い、戦場にその命を散らした。だが、彼は唐突に現れた女神(自称)により、新たな世界に転生させられることとなる。そして彼は新たな世界でもう一度戦場を駆け抜ける。そう、全ては大切なものを守るために。 ※オリ主・オリ設定ものです。その手の作品が苦手な方、またオリ主の設定に対して「不謹慎だ!」と思われる方は戻ることを推奨します。基本は原作に沿って話を進めていきますが、所々で原作ブレイク上等という場面があるかもしれませんし、所々でおかしな点が見受けられるかもしれません。それでも構わないという方は本編へどうぞ。
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コメント
面白かったです。続き楽しみにしています。(シン)
春樹にとっては米軍が日本にいることに理解できないでしょうね・・・ってか姫川二等空尉いろんな意味で怖いですw(吉良飛鳥)
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IS-インフィニット・ストラトス- 残酷な描写あり 大日本帝国海軍航空隊 零式艦上戦闘機 亀更新 オリ主 主人公ISチート オリキャラ 

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