やがて翠の森にて語られた話。
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そこは深い森に囲まれた長閑な村でしたが、ひとつ悲しいお話がありました。

 

その昔悪戯好きな兄と引っ込み思案な妹がこの村に住んでました。

ところがある日兄が姿を消し、それから幾日か後に妹の方まで姿を消しましたが、

十数年経った後に妹の方だけひょっこり帰ってきました。

ぼろぼろになった木靴を両手に抱きかかえて戻ってきた彼女に村人は泣いて喜びました。

しかしどうやら彼女は失踪しているうちに気が違ってしまったようで、

木靴を見てはうっとりと、兄さん兄さんと話しかけました。

とても気立ての良い子だったので誰もが哀れみ悲しみましたが、

終には村近くの森の、大きな木の下で命を絶ってしまうのでした。

 

 

紫外套に身を包んだ少女を見ながら、老婆はそう語りました。

 

「もちろん昔話よ

 ただちょうど貴女くらいの齢だったものでね

 年寄りの戯言と思って聞き流してちょうだいな」

 

少女は老婆の話を嘘だとはこれっぽっちも思いません。

ただ、あの時ガラスの山の鍵をくれたひばりの最期を聞くのは、

どこか悲しく、どこかすっきりしたような、何ともいえない気持ちでした。

 

「おばあさんは、ずっと悔いていらっしゃったの?」

少女は尋ねました。

 

おばあさん、と呼ばれた老婆は、とても懐かしそうに言いました。

「昔はね、リオには本当に腹を立てたものよ

 リネットにはもう少し我儘を言ってほしかったの

 でもどちらも同じくらい大切な我が子だったことを、亡くしてから気づいたのね

 死んだ子の齢なんて数えるものじゃないと言うけれどね、それはとても難しいことだわ」

 

 

老婆は穏やかに言いました。

「ずっと昔の話よ

 それにこの村の人はみんな優しいから、触れないわ

 でもね、不思議なことにそれからこの村にひばりが飛んできて、

 毎日素敵なお歌を歌って慰めてくれるの

 きっと天の国で、あの子たちが二人幸せに遊んでるのね」

 

老婆が尋ねると、少女も笑顔で答えました。

「ええ、きっと」

 

 

それから少女は、老婆に教えてもらった木の下まで行くと

そのまま暫く目を瞑りました。

少女が一人になると、どこからともなく翼の生えた黒猫が現れました。

「君の恩人は、ここで眠っていたのだね」

少女は頷くと、その頬に一粒の涙が伝いました。

 

「なぜ泣いているのかね」

少女はつぶやくように言いました。

「何も知らず看取ることも叶わなかった者の手向けよ

 滑稽でしょう」

木の幹には二羽のひばりが楽しそうに囀っておりました。

 

説明
エピローグです。本編は挿絵が出来次第公開したいと思います♪ 棄てられた子供〜に登場したひばりのお話です。
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