IS~音撃の織斑 二十三の巻:決断の時
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次の朝、一夏はある問題が発生していた。それは時偶ラウラが自分のベッドの中に潜り込んで来ると言う事だ。新しく買った黒猫の着ぐるみパジャマで。だが、今回は何故か余計に何か多い様な気がするのだ。上にはラウラ、そして自分の広げられた両腕を枕にして寝ているのは・・・・

 

「お前らなあ・・・・」

 

更識姉妹であった。静かな寝息を立てて自分を抱き枕にしている。それに加え、自分の上にラウラが丸まっているので、動けないのだ。目覚まし時計がけたたましいアラーム音を発したが、その音を止める為には動かなければならない。だが、動けないのだ。まだ早いが、一夏は二段変身会得の為に自主練をしなければならない。

 

「おい・・・・早くどけ、ラウラ。」

 

「ふみゅう・・・・」

 

寝ぼけ眼だが、聞こえていたらしく、するりと一夏の上から滑り落ちた。ゆっくりと二人の頭の下から腕を抜くと、目覚ましを止めた。ベッドの上にメモを残すと、いつもの様にトレーニングを始めようとした。

 

「一夏・・・・?」

 

途中で道着姿の箒が入って来た。朝練を終えて帰る途中なのか、竹刀袋を持っている。

 

「おお、箒。自主練か?」

 

「あ、ああ。お前は、どうしたのだ?こんな朝早くから・・・」

 

「俺もまあ、鍛錬してるんだ。夏は余計に体がだらけるからな。剣術も、まあいつも通りだ。」

 

「そうか・・・」

 

箒はどこか嬉しそうだった。自分の事を思い出したと言って以来、積極的に話しかけて来る様になったのだ。百キロ近くの錘を付けたバーベルを五秒程かけて持ち上げては下ろし、再び持ち上げては下ろしを繰り返している。それを見た箒は目を見張った。

 

「何をどうすればそんな物を持ち上げられるのだ?」

 

「ん?鍛えるだけだ、只管な。」

 

今度は逆立ちをして両足を広げ、そのまま両腕を曲げ伸ばしし始めた。

 

「あの男とは、どう知り合ったのだ?」

 

「ああ、師匠の事か。俺を救ってくれた恩人さ。モンド・グロッソ決勝戦前に俺が拉致られた時に、俺を救出してくれた。結局織斑千冬は決勝戦で勝ったがな。その時からだ。俺が、織斑の姓を捨てたのは。」

 

「・・・・」

 

次に一夏は天井から吊るされているサンドバッグを素手で殴り始めた。鋭い音が鳴り響く。一頻り殴り続けると、再び言葉を紡いだ。

 

「そして師匠は、俺自身を変えるきっかけを作ってくれた。俺は、強くなって証明する。俺は、俺だと。お前だってそう思った事は少なからずある筈だ。」

 

今度はサンドバッグに様々な蹴りを叩き込み始めた。箒はそれを聞いて何も言えなくなった。天才(天災)を姉に持ち、用心保護プログラムにより繰り返される監視、聴取、そして引っ越し。勝手に期待され、勝手に見放される。それがどれだけ辛いかは、痛感していた。

 

「だが、だからと言って・・・・千冬さんをずっと憎み続けていい理由にはならない!」

 

「憎んではいない。その事では、福音事件の後決着をつけた。お前も見ていただろう?」

 

そう。元、とはいえ、世界最強を負かした一夏自身が育んで来た強さを目の当たりにした箒はそれを見て、理解したのだ。一夏は誰にも責任を取らせず、見たくない物を見据え、幾度も深い傷を負いながら前に突き進んで来たのだ。そしてその戦いの中に同じ武道を嗜む者として、その深い悲しみを箒は見た。

 

「憎んではいないが、俺はまだアイツを許さない。姉とも呼ばない。俺が許すと言わない限り、何も変わりはしないだろう?二度とそんな薄っぺらい台詞を吐くな。」

 

そう言い終わり、最後の後ろ回し蹴りでサンドバッグの布が遂に破れ、詰めてある砂利や小石が零れ落ちた。

 

「その内木でも使わなきゃな。」

 

赤くなった自分の拳を見てそう呟いた。

 

「一夏!もう一度私と手合わせをしてくれ!」

 

頭を下げる箒を一夏は怪訝そうに彼女を見た。

 

「何故?最初にお前と手合わせをした時も、織斑千冬と戦った時も、お前は肌で感じた筈だ、箒。今のままでは俺には勝てないと。」

 

「絶対に勝つ!私は・・・・あの頃の私ではない!」

 

自分を見据えるその目を見据え、一夏は渋々頷いた。元々真剣は戦鬼流の鍛錬の為に持って来ているので、ちょうど良かった。

 

「良いだろう。ただし、真剣で勝負だ。二刀流で来い。お前の流派は古流武術で、二刀流も使うと聞いた。」

 

場所を道場に移し、二人は静かに佇んだ。今は午前六時半。一夏は背中にもう一本の刀を差し、直刀で居合いの構えを取り、箒は刀と脇差しを構えていた。

 

「行くぞ。呼吸を乱すな。一歩も退くな。目を逸らすな。気を抜けば・・・・死ぬぞ。」

 

一夏はそう言うやいなや、前に出した右足で力強く踏み込んだ。それにより、床が軋む。箒は蛍光灯の光に反射された刃の煌めきを見て刀を交差させて防御した。

 

(重い・・・・!受ければ、腕ごと持って行かれてしまう・・・何と言う速さだ!)

 

(まさか今のを見切るとは・・・・様子見とは言え、中々やる。あの頃の自分では無いと言う言葉、あながち嘘でも無さそうだ。)

 

『戦鬼流:((鬼突|きとつ))!!』

 

直刀をしまい、大太刀を抜いた。何十合と打ち合い、何度も刀が折れそうになる様な衝撃を感じながらもやめなかった。箒の腕は痺れ、もう刀を正眼に構える余裕も無かった。

そして遂に体の力が抜け、箒はがっくりと膝を折った。完全に倒れ込む前に一夏が彼女の体を受け止めた。

 

「言ったろ?お前は俺には勝てないと。だが、確かに、以前のお前では無くなっている。清らかな覇気を感じた。強くなったな、箒。」

 

それだけ言うと、汗を拭き、呼吸を整えながら部屋に戻った。

 

「お帰りなさい。ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し?」

 

だがドアを開けた所で再びドアを閉めた。疲れてはいるが、楯無と簪が裸エプロンで三つ指をついている幻覚を見る程疲弊していない・・・・筈だ。部屋の番号は1025。間違い無く自分が宛てがわれた部屋だ。もう一度ドアを開けると、やはりまだそのままだった。

 

「お前らは一体何をしている?」

 

「んー?ちょっとやってみたくなっただけ。ラウラちゃんはもう部屋に戻ったわよ?」

 

「だろうな。ラウラは毎度の事だが、お前らはどうやって俺の部屋に入った?」

 

「お姉ちゃんが・・・・」

 

「生徒会長権限で相部屋になりました?♪」

 

一夏は何も言わずに刀をベッドの下に戻して術を掛け直すと、シャワーを浴びて制服に着替えた。

 

「お前・・・・人をおちょくるのも大概にした方が良いぞ?その下、水着なのはバレバレだぞ。考える時間をくれとはいったが、だからと言って俺の部屋に不法侵入していい理由にはならない。俺は朝飯に行く。じゃあな。」

 

 

 

 

Side 一夏

 

さてと、朝の騒動が終わった後、俺は朝飯を食いに来た。ここの飯は下手なレストランよりも美味い。俺はとりあえず食券を四枚程買って和食セットの大盛りを二つ、そして洋食セット二つの大盛りを貰って来た。これだけでも小さなテーブル一つを完全に占領した。三十分位で完食出来るが、他の奴らは化け物でも見るかの様に俺を見た。これ位食えるだろう?朝の運動量を考えたら俺には足りない位だ。だが、俺がここに座ったのはある理由がある。

 

「織斑先生。今日は四組との合同訓練がありますね?その時に、俺と模擬戦をして貰えませんか?福音事件の後でやったあれは、お互い疲弊していました。あれだけでは煮え切りません。」

 

「良いだろう。」

 

「お、織斑先生?!」

 

「確かに、あの時はお互い心身共に削られていた。」

 

「用はそれだけです。これでけじめをつける。もう一度だけ、全力でぶつかれば・・・」

 

食器を片付けると、教室に戻った。俺の席の近くには、ラウラ、簪、そして楯無が談笑していた。

 

「よう、お前ら。」

 

「あ、一夏。」

 

「兄様!」

 

「お帰りなさーい、一夏君。」

 

「さっきは、ごめんね・・・」

 

簪が申し訳無さそうにシュンと項垂れる。犬耳が付いていたら力無く垂れているだろう事を不覚にも俺は想像してしまった。

 

「あ、いや・・・俺こそすまない。朝練の後で少し疲れていたんだ。」

 

一夏は簪とラウラの頭を優しく撫でた。

 

「私も撫でて欲しいなー。」

 

楯無が本当に羨ましそうに言った。仕方無いからとりあえず文句を言われる前に撫でておいた。時計を確認すると、そろそろ授業が始まる時間だ。四組との合同授業で、今度はIS操縦応用編に移るらしい。

 

(次で最後だ、織斑千冬。次で、俺は・・・・)

説明
はい、次回は一夏vs千冬フラグを立てました。一夏はまだどちらにするか、決めかねています。
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コメント
なんだか一夏が丸くなっちまった。次回は千冬が本当にボコボコにされるのかな?(西湘カモメ)
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