IS ――十六条の陽光――
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本章 1‐1 夢ならば

 

 

 

少年は白い空間の中で目を覚ました。辺り一面が潔癖な白で塗り固められた、穢れのない空間。こころなしか、左側があまり見えない気がした。

 

――ここは天国だろうか?

 

眠気交じりの思考は、ドアの開く音と共に現れた看護婦によって否定された。

『ここは病院だったのか』、回答を得ると共に『自分は何故、ここにいるのか』という疑問が湧き、記憶を呼び込むうちに

 

――全てを思い出してしまった。

 

そして((何|なに))となく悟った。

 

――今、自分は一人ぼっち、孤独なのだと。

 

ポツポツと、純白のシーツを水が濡らす。胸の内から沸き起こる感情を、涙を、少年は止められなかった。いや、止めようとは思わなかった。

 

乱れ狂う激情の雨が、陽光の差す個室に止め処なく降っていた。

 

少年の心には、撃ち抜かれた左目と同じように、ポッカリと穴が開いてしまっていた。

 

『夢なら、良かったのに』

 

〜 〜 〜 〜 〜

 

時は跳んで12年後

 

少年は成長し、少しの青臭さは残るものの、立派な大人へと近づいていた。

背は伸び、筋肉も付け、最早幼い頃の母性をくすぐる姿は微塵の欠片も残さず、『強い男』への展望を遂げていた。それは勿論、過去の出来事が一番の要因だ。『庇護してくれる者の影に隠れて震えているだけでは駄目なのだ。自らも強くなり、庇護する者を逆に守れるようにしなければ。そうすれば、あの過ぎ去った悲劇を繰り返さずに済む』、事件の当事者の一人である彼は、棺に納まった両親の無残な姿を見てそう思った。彼はこの事件を、『父親を殺され、母親が目の前で犯されるという悲劇』を、己を鍛えるためのエネルギーへと転換した。

泣きもした、死のうと思うこともしばしばだった。父の遺産を狙う、親戚を名乗る輩の所為で人間不信に陥ったこともあった。

 

それでも少年は歩き出した。涙に視界が霞みながらも、一歩一歩、揺らぎながら進んだ。

遺産の金を焼却炉に投げ入れた、日本国海軍に勤める小父の下で毎日必死に『生きた』。体を鍛えながら本を読み、身を守る術・生きていくための知恵を、他の子供がのんきな顔で遊んでいる間に見に付けていった。彼に娯楽は必要なかった。

小母は異常だと思ったが、だからといって止めようなどとは決して思わなかった。必死な顔で、必死に汗を流し、必死に生きている『息子』を見ていると、止めること自体が彼への侮辱に思えてならなかった。無理して風邪を引いたときは怒り、彼が何か新しい技術を身につけたときには、例えそれが殺人に利用できる術であっても盛大に褒めた。褒めちぎった。いつも無表情の彼は、この時だけは心底照れ臭そうに笑い、それを可愛らしいとさえ思うようになった。

小父は、自身を鍛えてくれと請うた彼を徹底的に扱いた。『体を虐め抜く』を体現するようなメニューを考え、彼に渡した。少しずつ慣れていく彼の成長スピードに驚き、そして自身のことのように喜んだ。毎日必死に生きている彼を見て、((自身の仕事|日本国海軍士官))にやりがいを感じるようになった。部下に『息子』の自慢をするのが日課になった。部下たちは少々ヒキながら聞いていたが。実はこの時、ある兵器の影響で男たちには非常に肩身の狭い世界となっていたのだが、小父はそれでも毎日にこやかに生きていた。部下の男衆も、彼の笑顔を頼もしく思っていたのだが、無論少年は知る由も無い。

 

そんな、普通とは言い難い、非常に特殊な環境下で育った彼は今、高校生としての第一歩を踏み出そうとしていた。

…彼の本意ではなかったが。

彼は小学校を卒業後すぐに日本国海軍に入隊し、高校にも入らずそのまま海軍生活を続けようと思っていたのだが、様々な事情が蓄積してこのIS学園なる教育機関へと入学することとなるのであった。国から強制されたこともあって、彼は当初反発していたが、『そろそろ同年代の子達との付き合い方も身に着けた方がいい』という――今更すぎの感はあるが――彼を心配した両親の声を聞くと渋々入学することを決めた。ただ入学するだけでは癪だったので、政府とある契約を結びつけることにしたが。

また、隣の席に座って寝ている可愛らしい少女も、大和を入学に導いた理由の一つだった。

 

『美月・アザレア』

 

それが彼女の名だった。アメリカ在住の日本人の母とアメリカ人の父の間に生まれ、大和と同様に数奇な運命を辿り、今こうして彼の膝を枕に眠りこけている。その頭を優しく撫でながら、大和は思った。『やはり、ここに来るのは止した方が良かったのかもしれない』と。理由は、今彼が置かれている状況にある。

視線、

視線、

視線。

最早『刺すような』を通り越して『貫くような』になっている視線の嵐。体育館で行われた入学式よりは数が減ったが、それでも一年一組40人中37人が見ていると思うと、ツライというか疲れるというか。

彼が周囲の視線を集めている理由は至極簡単だ。

 

 

 

――彼が、男であるにも拘らず、『IS』を操縦できるためである。

説明
2041年夏――日米関係の歪が明らかになった頃、ある少年の両親が殺された。少年もまた、左目を失った。
幼くして両親を失った少年は遺産目当ての親戚を拒絶し、自衛官を務める小父の下に自ら赴く。

それから12年後――
少年は紆余曲折を経てIS学園へと入学する。
その傍らに謎の少女を連れて…
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