第四回同人恋姫祭り投稿作品だったもの
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第四回同人恋姫祭り投稿作品だったもの

 

 

 

 

 

【怪奇!真夏の夜の悪夢】

 

このお話は諷陵に着き、少し経ってからのお話……

 

「……」

 

(コトッ)

 

「……暑い」

 

机に座り政務をこなしている一刀は筆を置き、一言呟いていた。

 

「ご主人様。手が止まっていますよ。それに、それは言わない約束です」

 

一刀の隣で同じように政務をこなしていた愛紗は目線を向けることなく一刀に話しかけていた。

 

「そうは言うけどさ……愛紗だって暑いと思うだろ?」

 

「いいえ。暑くありません」

 

「……本当に?」

 

「ええ。まったく」

 

「……」

 

眉一つ動かさず答える愛紗に、一刀はじーっと愛紗を見つめた。

 

「な、なんですか」

 

「……愛紗だって汗かいてるじゃないか」

 

「か、かいてなどいません!」

 

「いいや、かいてるよ。額に汗が、ほら」

 

(ぴとっ)

 

「ひゃっ!い、行き成り何をするのですかご主人様!」

 

一刀に額を触られ、驚いた愛紗は小さく悲鳴を上げて慌てて額を隠した。

 

「ほら、こんなに汗が」

 

「い、いきなり何をするんですか、ご主人様!それに、汚いですからお早くお拭きください!」

 

「え?別に汚くは……」

 

「いいから拭いてください!」

 

「わ、わかったよ」

 

顔を赤くして叫ぶ愛紗に一刀は素直に頷いた。

 

「まったく……ご主人様は女心が分かっていません」

 

「ん?何か言った?」

 

「言っていません」

 

呟くように文句を言う愛紗。それを何か話しかけてきたのかと勘違いをした一刀は愛紗に話しかけたがそっけなく否定されてしまっていた。

 

「ならいいけど……でも、愛紗も汗をかいているんだから暑いんだろ?」

 

「暑くありません。このような暑さ気合でどうとでもなります」

 

「気合でって……って、やっぱり愛紗も暑いんじゃないか」

 

「っ!こ、こほん……そ、そうともいいますね」

 

自ら暑いと墓穴を掘ってしまった愛紗は咳払いをして答えていた。

 

「はぁ……クーラーは無理でも扇風機くらいは欲しいよな〜」

 

「ご主人様、せんぷうきとはなんですか?」

 

「扇風機って言うのは風を起こす絡繰りのことだよ。これが結構涼しくて便利なんだよ」

 

「そのような絡繰りがご主人様の世界にはあるのですね」

 

「ああ〜。話してたら扇風機が恋しくなってきたぞ」

 

「無い物をねだってもしようがありませんよ、ご主人様」

 

「それはそうなんだけどさ……うぅ〜、扇風機の事を考え始めたら、余計蒸し暑くなってきたぞ」

 

(ぱたぱた)

 

一刀は誰ながら服のボタンをはずし、中のシャツをパタパタと揺すり始めた。

 

「っ!ご、ご主人様、はしたないですよ。誰かに見られては、君主としての威厳が!」

 

「ここには俺と愛紗しかいないから平気だよ」

 

「そ、そういう問題では!」

 

「まあまあ、愛紗が黙ってればばれないって」

 

「ダメです。我らが主として、シャキッとしていただきます」

 

愛紗は一刀に近づき、服を正し始めた。

 

(コンコン)

 

「失礼します。ご主人様、新しい案件をお持ちしま、し……た」

 

「ん?ああ、雪華か、ご苦労様」

 

一刀は前に愛紗が居たことで、誰が入ってきたのか分からず、横へ傾き入ってきたのが雪華だとわかり挨拶をした。

 

「ん、これで良いでしょう……ん?おお、雪華か、済まないな。預かろう」

 

「ふえ!?あ、あの……その……お、お邪魔しました!」

 

「お、おい!」

 

愛紗は雪華から書簡を受け取ろうとしたが、なぜか雪華は慌てて執務室から出て行ってしまった。

 

その速さに、愛紗は呆気にとられてしまっていた。

 

「一体、どうしたというのだ雪華は……」

 

「さあ、すごく慌ててたけど」

 

一刀と愛紗はお互い雪華の慌てた原因が分からず首を傾げていた。

 

「くっくっく……雪華の慌てた原因が分からないとは……まだまだですな、主。そして愛紗よ」

 

「その声は、星!」

 

愛紗は周りを見回すがどこにも星の姿は見つけられなかった。

 

「私はここだぞ、愛紗」

 

愛紗は声の聞こえた方に振り返るとそこに星が立っていた。

 

「星、そんなところで何をしている」

 

「見て分からぬか?酒を呑んでいるのだ」

 

「見れば分かる!私は、なぜそこに居るのかと聞いているのだ」

 

「なに、ちょっと夕涼みするのに良いところを探していてな。そうしたら、丁度良いところに主の執務室を見つけたのでな邪魔しようかと思っていたところだったのだ」

 

「お、お前はこの時間、警邏であろうが!まさかサボったのか!」

 

「まさか、主ではあるまいし、黙ってサボるわけが無いであろう」

 

「うぐっ……」

 

一刀は星の話に胸を押さえて声を漏らす。

 

「ではなぜここに居る」

 

「簡単なことだ。翠にどうしても抜けられない用事が出来てしまったらしく、困っているところに丁度、私が通りかかったというわけだ」

 

「なるほど、警邏の順番を代わったという訳か」

 

「うむ。暇になってしまったのでな。さっきも言ったように酒を楽しんでいたところだ」

 

「はぁ、状況は分かったが……せめて、交代したことを報告に来て欲しいんだがな」

 

星の説明に納得がいった愛紗だったが、溜息をつきながら星に注意を促した。

 

「ふむ。ではこうしよう。酒を楽しみつつ、交代した趣旨を伝える為、主を探していたっと」

 

「まったく……まあいい。それで、雪華が慌てて出て行った理由が分かるというのは本当なのか?」

 

「うむ。自信を持って言えるぞ……んっんっん……」

 

星は自信を持って頷きながら酒を呑んでいた。

 

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「教えて欲しいか?」

 

「ああ」

 

「そうか……だが、ただと言う訳にはいかないな」

 

「なっ!」

 

「教えて欲しいなら、それ相応の頼み方があるとは思わないか、愛紗?」

 

「くっ!この酔っ払いめ……」

 

「はっはっは、私は別に教えなくても良いのだがな」

 

「……お、教えて欲しい……です」

 

「はて?何か聞こえたような……」

 

「っ!教えてください!」

 

「だが、断る!」

 

「なっ!?」

 

愛紗の精一杯の言葉に星は即答で拒否してきた。

 

「な、なぜだ!ちゃんと頼んだではないか」

 

「ん〜。なんと言うか……面白みが無い」

 

「そ、そんな理由で……」

 

愛紗はガクッと肩を落とし膝をついた。

 

「あ、愛紗。大丈夫か?」

 

「はい。少し疲れただけです」

 

「なあ、星。教えてくれないか?俺からも頼むよ」

 

「主にそう言われると断れませんな……では、これで手を打ちましょう」

 

星は妥協案を一刀たちに提示してきた。

 

「……教えてくだちゃい、お兄しゃま……っと愛紗が主に向かって言ってくださればお教えしましょう」

 

「そ、そんなこと言えるかぁぁあああああっ!!」

 

星の提示してきたお願いを見て、愛紗は大声を上げて拒否していた。

 

「な、なぜそのようなことを、しかもご主人様に言わなければいけないのだ!」

 

「私が見たいからだ。悪いか?」

 

「なおの事悪いわ!ご主人様もそう思いますよね!」

 

「え?あ、う、うん……でも、言われて見たいなぁ」

 

「ご主人様!?」

 

「え?ああっ!こ、こっちの話!気にしないで!

 

「主もああ言っておいでではないか。さあ、思いのたけを主に伝えるのだ愛紗よ」

 

「……お」

 

「おっと、可愛らしく言わなければ、もう一度だぞ愛紗よ」

 

愛紗が口を開け言いかけた時だった、星が割って入り、さらに要求をしてきた。

 

「くっ!……お、教えてくだちゃい、お兄しゃま……〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 

言い終えた愛紗の顔は見る見ると赤くなり爆発寸前になっていた。

 

「くっくっく……どうですかな、主よ」

 

「え?お、俺?」

 

「ええ、主が可愛いと思わなければ、もう一度やって貰いますが」

 

「…ご主人様」

 

そんなに恥ずかしかったのか、愛紗は涙を潤ませて一刀の事を見つめていた。

 

「か、可愛かったよ。うん……」

 

「うぅ〜……ぜ、絶対誰にも言わないでくださいね、ご主人様」

 

「ああ、約束するよ」

 

「星!お前もだぞ!」

 

「なんだ、もういつもの愛紗に戻ってしまったのか?先ほどはあんなに可愛らしかったというのに」

 

「お、おのれ〜星……部屋の中に居ればお前に斬りかかれたものを……」

 

「はっはっは。それは残念だったな」

 

「くっ!」

 

「まあ、そういきり立つな、愛紗よ。ちゃんと雪華が出て行った理由を終えてやるから」

 

「なら、早く話せ」

 

「そう、急かすな。まずは、想像するんだ愛紗」

 

「想像?」

 

「そうだ。では行くぞ、愛紗の目の前には扉がある」

 

「ふむ」

 

「その扉の向こうには主が一人、政務をなさっている。そこへ愛紗は追加の案件を主に渡す為に扉を開けた」

 

「……」

 

「すると、そこでは服に手を掴んだ桃香様が主と見詰め合っていた」

 

「なっ!ご、ご主人様!?」

 

「まあ、落ち着くのだ愛紗よ。これは想像だといったであろう?」

 

「うっ……」

 

「っと、まあ。雪華はそんな現場を見てしまい恥ずかしくなって逃げ出したとそう言うことだ」

 

動揺する愛紗を星は落ち着かせ、雪華が慌てて出て行った理由をといて見せた。

 

「うぅ……そんな風に見られていたとは……」

 

「愛紗よ。雪華を追いかけなくて良いのか?このままだと誤解されたままだぞ」

 

「そうだ!ご、ご主人様、私は雪華を追いかけて誤解とといてきます!」

 

「あ、ああ行ってら……って行っちゃったよ」

 

愛紗は一刀の返事を待たずして雪華を追いかけに部屋から出て行ってしまった。

 

「はっはっは。賑やかですな……んっ」

 

「はぁ、でも少しからかい過ぎじゃないか?もっと普通に言えるだろ」

 

「それでは面白くないではありませぬか」

 

「星の基準は面白いかどうかなのか?」

 

「もちろん」

 

「さいですか……」

 

力強くうなずく星に一刀は呆れたように答えた。

 

「っと、そうでした。主にお耳に入れて頂きたい事が」

 

おちゃらけていた星だったが、まじめな話なのか表情を変えて一刀に話しかけてきた。

 

「ん?事件か何か?」

 

「いえ、そう言う訳では無いのですが。街の至る所で噂が広がっているので何か起こる前にと思いまして」

 

「わかった。それじゃ、聞かせて貰おうかな」

 

「はっ」

 

星は頷くと一刀に話し始めた。

 

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「それでは朝議を始める!」

 

星から話を聞いた数日後の朝。事件は起こった。

 

「え?追剥!?」

 

「はい。なんでも夜遅くに出歩いていると背後から何者かがついて歩いてくるそうです。ですが、振り返ってもそこには誰も居なく、歩き出すとまた何者かがついてくるそうです。それを何度か繰り返したのち、肩に触れられ、振り返るとそこには……」

 

「わっ!」

 

「ひっ!」

 

「ふえええっ!?」

 

朱里が話している所を急に星が大声を上げて朝議に参加していたみんなを驚かせた。

 

「くっくっく……」

 

「お、おい。星……いきなり大きな声を上げないでくれ」

 

「そ、そそそ、そうだぞ!ふ、不謹慎ではないか!」

 

「おや?愛紗よ。何をそんなに震えているのだ?それに先ほど、悲鳴を上げていなかったかな?」

 

「な、何をバカなことを!わ、私が悲鳴などあげる訳が無かろう!」

 

星はニヤニヤと笑いながら愛紗の事を見ていた。

 

「ふぇぇえ……私は、怖かったです」

 

「大丈夫か、雪華?よしよし」

 

「ふえ……あ、ありがとうございます」

 

「うむうむ。雪華は素直で可愛らしいな。あの恥ずかし様、見ていて和んでしまうな。それに引き換え……」

 

「な、なんだその眼は……わ、私は本当に恐れてなどいないぞ!」

 

星に冷ややかな目線を向けられた愛紗は一瞬怯みながらも否定していた。

 

「や〜ん!ご主人様、こわ〜〜〜い♪」

 

「うぉ!」

 

「と、桃香様!?」

 

星と愛紗のやり取りの横では桃香が可愛い悲鳴を上げながら一刀に抱き着いていた。

 

「だって、怖かったんだも〜ん♪えへへ」

 

「そう言いながら、笑っているのはなぜですか、桃香様」

 

「それは〜……こうやってご主人様に抱き着いてれば怖くないから♪」

 

「はあ……兎に角、ご主人様からお離れ下さい。話が進められません」

 

「え〜。このままでも話は聞けるよ」

 

「は、な、れ、て、く、だ、さ、い!」

 

「うぅ〜、そんなに強く言わなくてもいいのに……」

 

愛紗に強く言われて渋々一刀から離れる桃香。

 

「さて……如何いたしましょうかご主人様」

 

「う〜ん……それで、実際の被害はどうなの?」

 

「それが……まったく被害は出ていません」

 

「え?それって、追剥になってないんじゃ……」

 

「は、はい。ですが被害を受けたみなさんが口をそろえて『大事なものを奪われた』と言うもので……」

 

「う〜ん。いったいどういう事だ?」

 

朱里の説明を聞いてさらにわからなくなった一刀。

 

「うむ。正体が分かりましたぞ、主よ」

 

「え、あの説明で星は犯人が分かったのか?」

 

「はい。犯人は……」

 

「犯人は?」

 

「犯人は……幽霊です」

 

「……は?」

 

「ですから、幽霊です」

 

「……さて、犯人だけど。他に心当たりは無いか?」

 

星の意見を無視して一刀は他の意見を求めた。

 

「主〜」

 

「うぉ!だ、抱き着いてくるなよ!幽霊なんている訳が無いだろ!?なあ、愛紗」

 

「え、ええ。そ、そうですね。幽霊など居る訳が無いですよね」

 

「その割には愛紗ちゃん。すっごく驚いていたような気がするんだけどな〜」

 

「なっ!そ、そんなことある訳が無いではありませんか、桃香さま。武人であるこの私が幽霊如きに驚く訳が無い絵はありませんか」

 

「ふ〜ん。なら、愛紗ちゃんにその追剥を退治してもらおうかな」

 

「……え?と、桃香様?」

 

「うん?何かな?」

 

「い、今、何と仰いましたか?」

 

「愛紗ちゃんに……その追剥犯を退治してもらおうって言ったんだよ」

 

「……ええぇぇええええっ!?」

 

桃香の話を聞いた愛紗はしばらくの沈黙の後、大きな声を出して驚いた。

 

「だって愛紗ちゃん。怖くないんだよね。だったら、その追剥犯を捕まえるなんて簡単だよね」

 

「し、しかし桃香様。流石に一人という訳には」

 

「もしかして、怖いのかな?」

 

「ま、まま、まさか!」

 

「なら、一人でも大丈夫だよね?」

 

「し、しかし、相手が複数人居るという可能性も」

 

「う〜ん。それもそっか」

 

「は、はい!ですから」

 

「うん!なら、愛紗ちゃんとご主人様とで退治してもらおうかな」

 

「「……え?えええ!?」」

 

桃香の提案に一刀と愛紗は声をそろえて声をあげた。

 

「よ〜し!決定!それじゃ、星ちゃん!準備にかかって!」

 

「御意!」

 

「朱里ちゃん、雛里ちゃん。詳しい情報の収集と纏め、よろしくね」

 

「え、ちょ、と、桃香?」

 

「さあさあ!ご主人様と愛紗ちゃんは準備して!今夜は忙しくなるんだからね!」

 

戸惑う一刀と愛紗をしり目に手際よく皆に指示をしていく桃香。

 

「あっ、ご主人様と愛紗ちゃんは夜の退治の為に今日のお仕事はやらなくていいからね」

 

「え、で、ですが桃香様。それでは」

 

「はいは〜い!恋ちゃん、タンポポちゃん!二人をお部屋まで強制送還〜〜♪」

 

「りょ〜かい!」

 

「……わかった」

 

「それじゃ、ご主人様!部屋に行こうね〜♪」

 

「ちょ!た、たんぽぽ!?せ、背中!背中に当たってる!」

 

「え〜?何が当たってるの?たんぽぽわかんな〜い♪」

 

たんぽぽはわざと一刀の背中に抱き着いて慌てさせていた。

 

「……愛紗、行く」

 

「し、しかしだな恋」

 

「……行く」

 

「うっ……」

 

「……行く」

 

「恋殿のいう事を聞いた方が身のためですぞ」

 

「ねね。それはどういう意味だ」

 

「桃香から力ずくでも部屋に連れて行くように言われているからなのです。恋殿も本当はそんなことしたくはないのです。だからいう事を聞くのです」

 

「……愛紗、行く」

 

「はぁ……わかった。まったく、桃香様ときたら……」

 

愛紗は諦め、溜息を吐き歩き出した。

 

「ん?ねねよ。何を持っているのだ?」

 

「これですか?これは足止めですぞ」

 

「足止め?」

 

「部屋に着けばわかるのです」

 

「??」

 

ねねの言っている意味が分からない愛紗だったが自分の部屋へと戻って行った。

 

「ほらほら〜。ご主人様も、部屋に早く戻らないとずっとこのままだよ〜」

 

「わ、わかった!戻る!戻るから離れて!痛い!一部から目線が居たいから離れて!」

 

「……ふん、この変態太守が、死ねばいいのよ」

 

「え、詠ちゃん。言い過ぎだよ」

 

「ああ、良い忘れる所だったのです。このへぼ主。お前はあとで陳宮きっくをおみまいしてやるのです。覚悟していろ!なのです」

 

「ふぇ……ご主人様」

 

「ゆ、雪華!これは違う!違うからな!?と、兎に角、部屋に戻るから離れてくれたんぽぽ!」

 

「だ〜め♪ご主人様が部屋に戻るまで離れないよ〜♪」

 

「うわ〜〜〜〜!」

 

一刀は抱き着くたんぽぽを連れて全力疾走で自分の部屋まで戻って行った。

 

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「はぁ〜〜〜〜〜〜、なぜこんなことに……」

 

深い溜息を吐く愛紗。

 

「はぁ……明らかに、準備が良かった……と、いう事は前々から計画してた可能性があるよな」

 

溜息を吐く横で同じように溜息を吐き、この状況を説明する一刀。

 

「ふえ?そ、そうなんですか?」

 

そして、そんなこととはつい知らず、桃香を説得して一緒に同行してきた雪華。

 

一刀たちは桃香に言われ、なぜか警邏ではなく、犯行の調査と言うことで事件現場を回っていた。

 

「雪華は本当に何も知らなかったんだな」

 

「は、はい……確かに随分と手際がよかったとは思っていましたが」

 

「どうせ、星の差し金でしょう。あいつは面白いことであればなんでもしますからね……ふふ、後で覚えていろよ星め……ふふふふふ」

 

愛紗はそう言いながら、獲物を握り締め不適に笑い出した。

 

「ま、まあ、こうやって俺たちが見回ることで、安心して皆が暮らせるなら良い事じゃないか、なあ、雪華」

 

「は、はい!私もそう思います」

 

「それはそうなのですが……」

 

「それにしても、本当に星さんが言っていたように幽霊の仕業なのでしょうか?」

 

「ん〜。そうなんだよな〜。追剥に遭ったって言ってるみたいだけど実際は何も盗まれては無いわけだろ?」

 

「いえ、それが少し違うようなんです」

 

「少し違う?どういうこと?」

 

「はい。朱里さんから詳しく聞いたのですが。実際は、『大切なものを盗まれた』と言ったそうです。『追剥に遭った』とは誰も言っていないそうです」

 

「う〜ん。何が違うんだろう?同じ意味に聞こえるけど」

 

「私もそれを聴いた時、良く分かりませんでした。ちゃんと説明できなくて、すみません」

 

「いやいや。雪華のせいじゃないよ」

 

(なでなで)

 

「ふえ……」

 

自分なりの意見が言えず謝ってくる雪華に対して、一刀は頭を撫でて慰めた。

 

「とにかく、まずは順番に被害のあった場所を回ってみよう」

 

「はい。そうですね」

 

「愛紗もそれでいいかな?」

 

「……」

 

「愛紗?」

 

「……」

 

「お〜い。愛紗」

 

「ひゃわぁぁあああっ!」

 

(ぶぅん!)

 

愛紗の肩に手を置いた一刀。それに驚き、愛紗は悲鳴を上げて得物を振り回した。

 

「うぉ!」

 

「ふえ!?」

 

間一髪のところで、一刀は雪華を抱きかかえて地面に伏せた。

 

「はっ!す、すみませんご主人様!お怪我はありませんか?」

 

「あ、ああ。俺も雪華も大丈夫だよ」

 

「ふえ〜。驚きました」

 

「本当にすみません……」

 

「愛紗、もしかして本当はこわっ」

 

「っ!さ、さあ、気を取り直して行きましょう!被害のあった場所までもう直ぐですよ!」

 

愛紗に話しかける一刀だったが、愛紗は話を逸らすかのように一刀の話に割り込み、さらには先に歩き出してしまった。

 

「あ、あの、ご主人様。もしかして愛紗さん……」

 

「うん。多分、そうだと思う。けど、本人は認めたくないみたいだね」

 

二人は愛紗に聞こえない声の大きさで話していた。

 

「……っ!?」

 

(ドドドドドッ!)

 

「な、なぜ着いて来ないのですか、ご主人様!振り向いたら近くにご主人様が居なくて、こわっ……ごほん、ごほん!はぐれたのではないかと心配いたしましたよ!」

 

「あ、ご、ごめん。少し雪華と話してて」

 

「す、すみません」

 

「い、いや。それなら良いのだ……で、では、先を急ぎましょう」

 

「あ、ちょっと待って」

 

「な、なんでしょうか、ご主人様」

 

一刀に呼び止められる愛紗は、止まりこそしたが、一刀とは目を合わせようとはしなかった。

 

「手でも繋がないか?」

 

「なっ!わ、私は先ほどから怖くは無いと!」

 

「違う違う!それは分かってるよ」

 

「では、なぜ手を繋がなければならないのですか?」

 

「えっと……実は恥ずかしいんだけど。俺、お化けとか幽霊が苦手なんだよね」

 

「え?そ、そうだったのですか?」

 

「ふえ?ご、ご主人様?」

 

「……」

 

「っ!」

 

驚く雪華だったが、一刀が雪華に向かい、片目を閉じて合図を送ったことで、一刀の意図を知り、慌てて口を押さえた。

 

「ああ、だから手を繋いでくれると。安心できるんだけど……ダメかな?」

 

「……し、仕方ありませんね……こ、今回限りですよ」

 

「うん。ありがとう、愛紗」

 

「〜〜〜っ!さ、さあ、行きますよ!」

 

一刀に笑顔でお礼を言われ、恥ずかしくなったのか、愛紗は一刀から顔を背けた。

 

「あ、あの、ご主人様。私も手を繋いでも構いませんか?」

 

「ああ、いいよ」

 

「あ、ありがとうございます!えへへ♪」

 

雪華は一刀と手を繋ぎ、嬉しそうに微笑んだ。

 

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「……」

 

「……」

 

「……えっと、二人とも?少しくっつき過ぎじゃないかな?」

 

「わ、私はご主人様をお守りする為に寄り添っているのです」

 

「ふぇ……暗いところ怖いです」

 

二人あべこべの返答が返って来たが、愛紗の声は震えていた為、それが嘘だと言う事が一刀には分かっていた。

 

「そろそろ、一件目の事件現場だけど……特に犯人に繋がりそうなものはなさそうだな」

 

「は、はい……そのようですね」

 

辺りを見回す一刀たち。だが、これと言って犯人に繋がりそうな物証は発見できなかった。

 

「ここは問題なさそうかな」

 

「……」

 

「愛紗?」

 

「は、はい!?」

 

「どうしたの、じっと遠くを見つめて」

 

「そ、それがですね……誰かにこちらをじっと見られているような気配が……っ!け、決して怖いから自意識過剰になっているとかではありませんよ!」

 

「わ、わかってるよ。雪華はどうだ?」

 

「そ、そうですね。問題ないかと……」

 

問題無いと言ってはいるものの、雪華は一刀の腕にしがみ付き、顔を隠していた。

 

「……大丈夫だよ。ちゃんと俺が守ってあげるから」

 

(なでなで)

 

「ふえ……ご主人様ぁ〜」

 

嬉しさからなのか、怖さからなのか、雪華は目に涙を溜めて一刀の事を見上げて名前を呼んでいた。

 

「あ、あの……ご主人様?」

 

「ん?なに?」

 

「あ、いえ……何でまりません……はぁ」

 

「?」

 

愛紗に声を掛けられた一刀だったがすぐに何でもないと言われて首を傾げていた。

 

「よし、とにかく次に行って見ようか……あ、あの…差年ちょっとだけでも離れてくれると歩きやすいんだけど……」

 

「それはダメです!」

 

「ふぇ……」

 

「はい……」

 

愛紗に強く言われ、雪華には泣きそうな顔をされて、一刀は諦めて返事をして次の現場へと歩き出した。

 

………………

 

…………

 

……

 

「ここの現場も特に問題無しっと……」

 

一刀たちが調査を開始して二刻が経過していた。城を出た時はまだ低かった月も、すでに真上まで上っていた。

 

次々に被害現場を回っていった一刀たちだったが、これといった収穫は未だに出てきていなかった。

 

「う〜ん。本当に幽霊なんているのか?そもそも、なんで幽霊が追剥なんかするんだ?」

 

「で、ですから、幽霊など存在しないのです。いえ、存在していてはいけないのです!」

 

「あ、うん。そうだね。愛紗の言う通りだ……ゆ、雪華はどう思う?」

 

「……」

 

「雪華?」

 

雪華に話しかける一刀だったが、返事が返って来なかった為、もう一度、雪華を呼んだ。

 

「ふえ?あ、すみません。ちょっと考え事をしていました」

 

「何か気になることでも?」

 

「はい。あ、でも、まだ確証が無くて」

 

「うん。それでも構わないから、話してくれるかな」

 

「はい。えっと、気のせいかもしれないんですけど、被害現場が少しずつお城に近づいて来ている気がするんです」

 

「えっ、それって本当か?」

 

「はい。あ、これを見てください」

 

雪華は折り畳まれた地図を取り出し、一刀たちに見えるように地面に広げた。

 

幸いにも、夜中で人は居なく、空も満月で明かりが無くても地図を見ることが出来た。

 

「まず、最初の現場がここです。そして、次にここ……」

 

雪華は地面に落ちていた小石を被害があった場所に置いていった。

 

「そして、最後にここです」

 

「確かに……少しずつだけど近づいてるな」

 

「はい。これは城の誰かを狙っているということでしょうか?」

 

「いや。城に近づいてるからといって関係者が狙われているとはまだ言い切れないよ」

 

「そうかもしれませんが、用心に越したことはありません」

 

「まあ、確かにね……ん?」

 

「な、何ですか急に立ち止まり」

 

「ど、どうかしましたか?ご主人様」

 

「いや……あそこにぼんやりと誰かが……」

 

「え?……だ、誰も居ませんよ、ご主人様?」

 

「え?……本当だ」

 

雪華に言われもう一度見てみた一刀だったが、雪華が言った様にそこには人影などはなかった。

 

「おかしいな……確かに、人影を見たような気がしたんだけどな。消えちゃったのかな?」

 

「ご、ご主人様、怖いこと言わないでください。ほ、本当に幽霊だったらどうするんですかぁ〜」

 

「ごめんごめん。別に怖がらせるつもりは無かったんだよ」

 

涙目になって訴える雪華に一刀は慌てて謝り、頭を撫でて落ち着かせていた。

 

「まあ、ここに居てもなんだし、次の場所に行こうか。愛紗もそれでいいか?」

 

「……」

 

「愛紗?」

 

「ひゃぁぁああああっ!」

 

愛紗の肩に手を置いた瞬間、愛紗は悲鳴に似た声を上げた。

 

「ど、どうしたんだ愛紗?」

 

「ご、ご主人様!いきなり肩に手を置かないでください!驚いたではありませんか!」

 

「ご、ごめん。まさか、こんなに驚くとは思わなくて」

 

「っ!い、いえ、私も少々驚き過ぎました。申し訳ありません、ご主人様」

 

「……えっと、言い難い事かもしれないけど、愛紗ってお化けとか幽霊って苦手だよね?」

 

「っ!な、なな何を言い出すのですか、ご主人様。そ、そそそそんなことあああるわけが無いではありませにゅ……ありませんか」

 

「あっ。あんなところにお化けが」

 

「ひっ!」

 

「嘘だよ。お化けなんて居ないよ」

 

「なっ!?だ、騙したのですか!?」

 

「愛紗が素直にならないからだろ?俺は別にお化けとか幽霊が怖い事が恥だとは思わないぞ」

 

「で、ですが、それでは示しが……」

 

「誰だって一つや二つ、怖いものくらいあるよ。愛紗はそれが、幽霊とかだったってだけだろ?」

 

「うぅ……出来れば、ご主人様だけには知られたくありませんでした」

 

「なんで?むしろ俺は嬉しかったけど」

 

「嬉しかった?」

 

「ああ。あんなに強い愛紗が、お化けとか幽霊が苦手だったんだなって思ったら。やっぱり女の子だなって思ってさ」

 

「なっ!何を言い出すのですか急に!」

 

一刀の思わぬ告白に顔が赤くなる愛紗。

 

「つ、次に行きますよ!まだ被害現場はあるのですから!」

 

「ああ。雪華も行こうか」

 

「はい」

 

「そ、それと……このことは桃香様たちには秘密にしててくださいね、ご主人様。それと雪華」

 

「は、はい……」

 

「ああ、それは構わないけど……多分、桃香や星も含めてだけど、何人かはもうばれてると思うぞ?」

 

「なっ!?え、ええ!?」

 

「は、はい……私は気が付きませんでしたが、おそらくは」

 

「な、なんてことだ……」

 

あまりの事に膝を着く愛紗。

 

「はぁ〜〜〜〜……」

 

「えっと……とりあえず、先に進もうか」

 

「……はい」

 

一刀の話に力無く返事をする愛紗だった。

 

-6ページ-

一方その頃、城では……

 

「えへへ♪今頃愛紗ちゃん、ご主人様に怖くて抱き着いてるかな?」

 

「どうでしょうな。愛紗の事です、主には弱い所を見せたくないとやせ我慢しているかもしれませんぞ」

 

「あ〜。それはありそうだよね。でも、私としてはそう言った弱い所もご主人様に知ってもらいたいんだよ」

 

「流石は桃香様。恋の好敵手だというのに懐がお深いですな。……ところで愛紗のお化け嫌いをどこでお知りになったのですかな?」

 

「え?結構前からだよ。だって愛紗ちゃん、隠すの下手なんだもん」

 

「はっはっは。確かに、愛紗は嘘を吐くのが下手ですからな」

 

「でも、そんな愛紗ちゃんでもご主人様はきっと受け入れてくれるって信じてるから」

 

「そうですな。そう言えば、結構前に主から聞いた話があるのですが」

 

「なに?」

 

「なんでも普段見せない姿に可愛さを見出す、『ぎゃっぷ萌え』なるものがあると、主が言っていましたな」

 

「ぎゃっぷ萌え……それって普段は強い愛紗ちゃんでもお化けとかが怖くて震える所を見てご主人様が愛紗ちゃんの事をもっと好きになるってこと?」

 

「簡単に言えば、そうでしょうな……」

 

「うぅ〜。私、もしかしてかなり離されちゃった?」

 

「……」

 

「うえ〜ん!どうしよう、星ちゃん!」

 

「さて、私は月でも見ながら酒でも飲むと致しましょうかな」

 

「あ〜ん!見捨てないで星ちゃ〜〜〜ん!」

 

-7ページ-

「ここも……特に何もなさそうだな」

 

「ほっ……そのようですね……やはり、幽霊などと言うものが存在するわけがないのです」

 

「まあ、それは置いといたとしても、雪華が言った様に城に近づいてるな」

 

「はい。ここからでも城が見える様になってきましたから」

 

雪華は頷きながら少し上を見上げて城を見つめていた。

 

「とりあえず、ここで被害のあった場所は全部だよね?」

 

「はい。ですが、やはりここも特になりもありませんでしたね」

 

「ああ。さて、どうしたものか……」

 

一刀が腕を組んでこの後の事を考え始めたその時だった。

 

「うわぁぁぁああああああああああっ!」

 

「っ!今の声は!」

 

「あちらからです!」

 

「急ごう!」

 

「「はい!」」

 

一刀たちは悲鳴の聞こえた方へ急ぎ入りだした。

 

「っ!ご主人様!あそこで人が倒れています!」

 

一刀たちの前方に俯せになって男が倒れていた。

 

「おい!大丈夫か!しっかりしろ!」

 

「うぅ……」

 

「怪我はしてないみたいだな」

 

「はい。ですが、すごくうなされていますね」

 

「ああ、話を聞きたいけどこの状態じゃ無理そうだな」

 

倒れていた男は外傷は無く、気を失っているだけだった。

 

「少々荒治療ですが……はっ!」

 

愛紗は男の上半身を起こし、活を入れた。

 

「うぅ……ここは……」

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、あなた様は、御遣い様……」

 

「一体何があったんですか?」

 

「……奪われてしまった」

 

「え?」

 

「俺の大事なものが奪われちまったんだよ!」

 

「一体誰に奪われたんですか」

 

「お、恐ろしくてそんなこと言えない!み、御遣い様も気を付けてください!」

 

「あ、ちょっと!」

 

男はそれだけを言うと逃げるようにしてこの場から去って行った。

 

「行っちゃいましたね……」

 

「ああ……行っちゃったな……まあ、あれだけ走れるなら問題ないだろう」

 

「ええ、ですが、ここで被害が出たということは……」

 

「ああ、まだ近くに居るかもしれないから探してみよう。だけど、何が起こるか分からない、一緒に行動しよう」

 

「はい。雪華もそれでいいな」

 

「はい」

 

一刀たちは被害のあった周辺を探し始めた。

 

………………

 

…………

 

……

 

「いませんね」

 

「ああ、そう遠くへは行ってないと思うんだけどな」

 

「足が素早いのでしょうか?」

 

周辺を探してみたが怪しい人物は誰一人見つけることが出来ないでいた。

 

「どうしましょうか一旦城に戻りましょうか?」

 

「う〜ん……これ以上探し回っても見つかりそうにない、か……そうだな。一旦城に戻ろうか」

 

愛紗の提案に一刀は少し考えて城に戻ることを決めた。

 

(やっと見つけたわ)

 

「っ!今の声は!」

 

「ど、どこから!?」

 

「ま、周りには誰も居ませんよ!ま、まさか、本当に幽霊!?」

 

「そ、そんな訳無いだろ!幽霊など居る訳が無い!」

 

「で、ですが、どこにも人影が居ませんよ、愛紗さん!」

 

辺りを見回す一刀たちだったがそこには一刀たち以外誰も居なかった。

 

「くっ!いったいどこから!」

 

「っ!上だ!」

 

「ふえ!?」

 

「なっ!?」

 

一刀の声で一斉に上を見る愛紗と雪華。

 

そこには天高くから落ちてくる黒い塊があった。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「ふえ!?ど、どうしましょう!」

 

「と、兎に角、この場から離れるんだ!」

 

「は、はい!」

 

「わ、わかりました!」

 

落ちてくる黒い塊が何かわからなかったがそこに居ては危険だと判断した一刀は二人にこの場から離れる様に叫んだ。

 

「はぁ、はぁ……あぅ!」

 

「雪華!」

 

「ご、ご主人様!」

 

走っていた雪華だったが石につまづきこけてしまった。一刀は雪華を助ける為に向きを変えた。

 

(どごーーーーんっ!)

 

雪華を抱き起したところで黒い塊は一刀たちの近くに落ちた。

 

「ご主人様ーーーーーーっ!」

 

「げほっ!げほっ!ゆ、雪華……無事か?」

 

「けほっ、けほっ……は、はい。ご主人様が守ってくれましたから」

 

土煙が舞い上がり雪華と一刀は咽て咳をしていた。

 

「だ、大丈夫ですか、ご主人様!」

 

「あ、ああ、なんとか……愛紗は無事か?」

 

「ほっ……はい。しかし、ご主人様と雪華に怪我が無くて何よりです」

 

土煙のせいで一刀たちの姿が見えない愛紗だったが、一刀たちが無事で一安心をする愛紗。

 

「あらん、失礼ねん。大切なご主人様に怪我なんてさせる訳無いでしょん」

 

「「「っ!?」」」

 

土煙の中からなんとも野太い声が聞こえてきた。

 

「どぅふふ♪やっと見つけたわよん。ご主人様」

 

「だ、だれだ!なんで俺の事を知ってるんだ!」

 

「それは知ってるわよん。なんたって体を預けあった中ですものん」

 

土煙が晴れて来てそこから現れたのは……

 

-8ページ-

「どぅふふ♪ご主人様の愛の戦士、貂蝉ちゃんよん♪」

 

「ひっ!」

 

「ば、化物!」

 

「きえーーーっ!誰が丸剥げ三つ編みの変態化物ですってぇ〜!」

 

「ふ、ふぇ……」

 

「ゆ、雪華!?」

 

雪華はあまりの恐怖からなのか、一刀の腕の中で気を失ってしまった。

 

「あらん?私の美しい姿を見て気を失うなんてぇ、なんて罪作りなわ・た・し」

 

「くっ!な、なんという威圧感だ……この威圧感は、ご主人様以上!」

 

「さぁ、ご主人様。再会の挨拶に暑いベェ〜ゼをしましょ♪むちゅちゅちゅちゅ〜〜〜〜」

 

巨漢の男は体をくねらせ口を尖らせて一刀に迫って行った。

 

「ご、ご主人様には近づかせないぞ、化物め!」

 

「愛紗!」

 

「だれが、筋肉ムキムキの変態ですってぇ〜〜〜!?」

 

「そんなこと誰も言っていないだろうが!」

 

「いくら愛紗ちゃんだからってぇ、言って良い事と悪いことがあるのよん」

 

「なっ!き、貴様〜!我が真名を!許せん!」

 

「あらん?許せなかったらどうするのか知らん?」

 

「決まっている!この場で斬り捨てる!ご主人様、雪華を連れて逃げてください!どうやらこの者はご主人様を狙っているようです!」

 

「そんなこと出来る訳がないだろ!逃げるなら一緒だ、愛紗!」

 

「どぅふふ、私からは誰一人として逃がさないわよん♪特にご主人様は♪」

 

「そうはさせるか!てやーーーっ!」

 

「負けないわよん。きぇぇぇいい!」

 

愛紗と巨漢の男がぶつかり合う、その時だった。

 

(はい。そこまでですよ。お二人とも)

 

「え?うぁ……なんだ、急に体の力が……ご、ご主人、さま……おにげ……く……だ……」

 

「あ、いしゃ……ぅ……」

 

物腰の落ち着いた声が聞こえたかと思うと一刀と愛紗はその場で倒れてしまった。

 

………………

 

…………

 

……

 

(……さま……ご……さま)

 

「うっ……誰だ……俺を呼ぶのは」

 

誰かの呼ぶ声に一刀は重たい瞼を開けた。

 

「ご主人様!」

 

「と、うか?」

 

「ふえ〜ん!よかったよ〜!このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思ったんだから〜〜!」

 

「ここは……俺の部屋?あれ、確か愛紗と雪華とで被害のあった場所を回っていたはず……」

 

「うん、そうだよ。でも、あまりにも帰ってくるのが遅くて心配になって探しに出たら三人ともお城の近くで倒れてたんだよ。何があったの?」

 

「え?……っ!痛っ!頭が……どこかぶつけたのか?」

 

思い出そうとする一刀だったが、頭の痛みに顔を歪めた。

 

「わわっ!無理しないで、今はゆっくり休んでてくださいね」

 

「ああ、ありがとう、桃香……っ!そうだ、愛紗と雪華は!」

 

「二人とも大丈夫ですよ。今は目を覚まして、安静にしてもらっています」

 

「そっか……それならよかった。二人はなんて?」

 

「愛紗ちゃんも何も覚えていませんでした。でも、なんだか恐ろしい者を見たような気がするって言っていましたよ」

 

「恐ろしい者……確かに俺も見たような……」

 

「雪華ちゃんはなんだか黒くてとても恐ろしいものを見たって……すごく震えてました」

 

桃香は凄くすまなそうな顔をしていた。

 

「……ごめんなさい、ご主人様」

 

「どうしたんだ急に謝ってきて」

 

「だって、私と星ちゃんが悪乗りしなければ、ご主人様や愛紗ちゃんたちがこんな目に遭わなくて済んだんだよ」

 

「……でも、桃香は街の人たちの事が心配だったんだよね?だから、調査をしようって言ってきたんだろ?」

 

「……(こくん)」

 

(なでなで)

 

「も、もう、ご主人様。子供扱いするのは止めてください」

 

「頭撫でられるの嫌だった?」

 

「嫌じゃないですけど、むしろご主人様に撫でられるのは大好きですよ?でも、なんだかこの状況で撫でられると子供をあやしてるみたいで」

 

「はは、誰も見てないんだからいいじゃないか」

 

「うぅ〜、でも〜〜」

 

「ほらほら」

 

(なでなで)

 

「……そ、そんなに撫でられたらご主人様に甘えちゃうよ〜」

 

「別に俺は構わないぞ」

 

「うぅ〜〜……」

 

(ばんっ!)

 

「ひゃう!」

 

「そこまでです。桃香様」

 

「あ、愛紗ちゃん!?も、もう大丈夫なの?」

 

「ええ。気を失う前に何があったかは思い出せませんが……ですが、一つだけ分かったことがあります」

 

「な、なにかな?」

 

「それは……桃香様と星が企んでいたということです」

 

「あ、あははは……って、せ、星ちゃん!?」

 

「む、無念……」

 

愛紗の後ろで首根っこを掴まれている星がいた。

 

「ご主人様」

 

「は、はい!」

 

「少々桃香様にお話があるのですが、お借りしてもよろしいでしょうか?」

 

「あ、え……」

 

「−−−っ!(ふるふる)」

 

戸惑う一刀は桃香を見ると全力で首を横に振っていた。

 

「そうですか。ありがとうございます、ご主人様」

 

「ご、ご主人様何も言ってないよ!?」

 

「そうですか?私には『どうぞご自由に』と聞こえましたが」

 

「い、言ってないよね、ご主人様!」

 

「あ、ああ」

 

「ほ、ほら!」

 

「いいえ。私にはしっかりと聞こえました。『愛紗を怖がらせた罰を与えてくれ』っと」

 

「も、もしかして……怒ってる?」

 

「いいえ、怒ってなどいませんよ、桃香様」

 

「っ!お、怒ってるよね!顔、笑ってないし!怒ってるよね!」

 

「さあ、桃香様。行きますよ」

 

「ご、ご主人様、助けて!」

 

「ご、ごめん。無理」

 

「ひ〜ん!ご主人様に見捨てられた〜〜〜」

 

「桃香様、諦めなされ。こうなった愛紗は誰にも止められませぬぞ」

 

「うえ〜ん!愛紗ちゃんのお説教はお化けよりも怖いよ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

「それでは失礼します、ご主人様」

 

愛紗は桃香と星を連れて部屋から出て行ってしまった。

 

「……雪華の様子でも見に行ってみようかな」

 

一刀は今起きたことを見なかったことにするかのように立ち上がり雪華のお見舞いに向かった。

 

-9ページ-

とある場所。

 

「まったく……あなたと言う人は……一連の事件は貴方のせいですね」

 

「あらん。私はただご主人様を探していただけよん」

 

「手当たり次第若い男を襲って何を言っているのですか」

 

「だって〜、ご主人様には一番綺麗な私を見て貰いたかったんだもの」

 

「……はぁ。綺麗、ではなく鬼霊の間違いでしょ」

 

「相変わらず手厳しいわね。管輅ちゃんは」

 

「あなたがいい加減過ぎなのですよ、貂蝉」

 

「どぅふ♪それが私なのよん」

 

「……その気持ち悪い動き止めて頂けませんか。見るに堪えません」

 

「もう、本当に手厳しいんだから、管輅ちゃんは」

 

「いいから本題に入りますよ」

 

「もう……律儀ね、管輅ちゃんは」

 

「……これ以上ふざけるのでしたらこの場から強制的に出て行ってもらいますよ」

 

「わかったわよん……それじゃ、はじめようかしら」

 

「はい……」

 

《To be continued...》

-10ページ-

葉月「えっと……間に合いませんでした」

 

愛紗「まったく、何をしているのだお前は」

 

葉月「だ、だって!仕事が忙しくて書く暇がないんですよ!仕事で帰ってきて、疲れてるからそのまま寝ちゃう感じで!」

 

愛紗「まあ、それは知っているが……ならもっと短い話にすればよかっただろう」

 

葉月「うぐ!それを言われると……」

 

愛紗「どうせ、書いていたら止まらなくなったのだろ」

 

葉月「御察しの通りで……」

 

愛紗「まったく……それで、一応この作品は同人恋姫祭りの為につくったのであろう?」

 

葉月「ええ、まあ。間に合いませんでしたが」

 

愛紗「なら、形だけでもそうしてはどうだ?確か、おりじなるきゃら?は設定を乗せるとかいうのがあったであろう?」

 

葉月「ああ、そう言えば、そんなのありましたね……では!たたらたったら〜!強制転移〜!ポチッとな」

 

(ぼふんっ!)

 

雪華「ふえ!?こ、ここはどこですか!?」

 

管輅「あらあら、なにごとですか?」

 

葉月「という訳で、オリジナルキャラの紹介です〜」

 

雪華「ふえ?」

 

葉月「ほらほら、自己紹介、自己紹介」

 

雪華「は、はい……えっと、姓は姜、名は維、字は伯約です。真名を雪華と言います。よろしくお願いします」

 

葉月「ちなみに雪華の読み方は『シェンファ』です。ちなみに身体の特徴は……」

 

雪華「ふぇぇええええっ!そ、それは秘密ですぅ〜〜〜〜!」

 

葉月「むぐぅっ!?」

 

雪華「え、えとえと!あっ!ま、前に乗せた紹介文が確かありましたよね!」

 

愛紗「ああ。だがあれは……」

 

雪華「の、乗せてください!」

 

愛紗「い、いいのか?」

 

雪華「はい!」

 

愛紗「お前が良いのであればいいが……これがそうだな」

 

姜維プロフィール

 

姓:姜 名:維 字:伯約 真名:雪華(シェンファ)

 

身長:158cm

 

体重:「お、乙女の秘密です!」

 

B:「わーーっ!」 W:「い、いえません!」 H:「お、大きくありませんよ!」

 

使用武器:龍背九節棍 (りゅうはいきゅうせつこん)普通の棍より固く、まるで龍の背中の様に固くて丈夫。節が多い為、扱いが難しい。姜維の父親の形見武器。

 

体の特徴:肌は一般的な人より白く、髪は銀髪。

 

真名の由来:普段から良く笑う子で、その笑顔は一面の銀世界の中に一輪の花が咲いているように綺麗で可愛らしいところから付けられた。

 

性格:真面目な性格で何でも人の言う事を信じてしまう。そのせいもあり、よく星にからかわれている。

 

軍師として朱里の元で現在勉強中。ただ朱里より身長が高いせいもあり、傍から見ていると師弟逆転している。

 

順風満帆な生活を送っていたが、雪華が森の中へ果物を取りに行っている間に邑は黄巾党の残党に襲われ壊滅。その後、さまようようにして一刀たちが統治する平原へとやってきた。数日間水しか飲んでおらず、空腹から店の肉まんを盗み一刀とぶつかったことが切っ掛けで仲間になる事になった。

 

一刀の事は恋愛対象と言うより、『お父様の様に優しい人』又は『命の恩人』と見ており、どうにかして恩を返したいと奮起している。

 

雪華「ふぇぇええええっ!?体重とか載せないでくださいぃ〜〜」

 

愛紗「いや、だから確認したではないか」

 

雪華「ふぇぇええ……もうお嫁にいけないです」

 

葉月「ちなみに、口癖は『ふえ〜』です。って、前の紹介の時にも同じことを言ったような」

 

管輅「あらあら。次は((私|わたくし))でいいのかしら?」

 

葉月「あ、はい。どうぞ」

 

管輅「では……初めまして皆様。管輅と申します。オリジナル作品では名前しか出てきませんでしたがこの作品ではこうしてお話に組み込んでいただいております。どうぞよろしくお願いいたします」

 

葉月「ちなみに、ものすごく毒舌キャラです」

 

管輅「あらあら、葉月さん……それは言わなくてもよろしいのではないかしら?あばらをへし折りますよ。この情報漏えい野郎さん♪」

 

葉月「っ!あ、相変わらずのキレですね……あばらはご勘弁願いたいので、これ以上言いません」

 

管輅「ふふふ、賢明な判断ですね。この弱腰屑虫さん」

 

葉月「……え、えっと……管輅のプロフィールはトップシークレットで!そうしないと私の命が!」

 

管輅「あらあら、もう手遅れなような気もしますが……ああ、((私|わたくし))の事が知りたいのでしたら、前作の後半部分を読んでいただけるとお分かりになると思いますので、そちらの作品も宜しくお願い致しますね」

 

葉月「ち、ちゃっかり、宣伝してるし……」

 

管輅「なにかおっしゃいましたか盗聴屑虫さん」

 

葉月「な、何も言っていません!」

 

雪華「か、管輅さんって……」

 

愛紗「ああ……敵に回したら生きてはいられないだろうな」

 

管輅「ふふふ……ああ、大事なことを言い忘れていましたね。真名は永久と申します」

 

葉月「え、えっと……今回の話はお題通りに『怪談』にしたんですけど……ある意味、化物と般若を出してみましたがいかがだったでしょうか?」

 

雪華「ふぇ……あの時の事を思い出すとまた気を失いそうになります」

 

愛紗「般若とは誰の事だ葉月……そこのところを詳しく教えてほしいものだな」

 

葉月「え、えっと!じ、次回は必ず、前回の話の続きを載せるので楽しみにお待ちください!あ、愛紗!え、偃月刀をも持ってこっちに来ないで!」

 

愛紗「ふふふ……貴様にも桃香様や星と同じように私と話し合わなければならないようだな」

 

管輅「奇遇ですね。((私|わたくし))も少し、お話が合ったのです」

 

愛紗「そうか……なら」

 

管輅「ええ……ふふふ」

 

葉月「ちょ!なに二人して頷いてるんですか!い、いや……こっちに来ないで……いやーーーーーーーーっ!」

 

愛紗「待て、葉月!」

 

管輅「あらあら、逃がしませんよ」

 

雪華「ふえ!?あ、あの、この後どうすればいいんですか!?」

 

葉月「ぎゃーーーーーーっ!?」

 

雪華「え、えとえと……そ、それではみなひゃ、ふぇ、噛んじゃった……それではみなさん。また次回読みに来てくださいね」

説明
ども、第四回同人恋姫祭りに間に合わず二日遅れになってしまった作品です。

このままお蔵入りするにはとても勿体無い……本音を言っちゃうと間が持たないので投稿することにしました。

とりあえず、ルールにのっとって作品の紹介をば

[真・恋姫無双アナザーストーリー 雪蓮√ 今傍に行きます]
私の初投稿作品です。
話のあらすじは毒矢を受けた雪蓮が一刀の居る世界に転生してくる話になっています。

[真・恋姫無双アナザーストーリー 蜀√ 桜咲く時季に]
ただ今、執筆継続中の話がこちらです。
こちらの話は、一刀が恋と同等の力を持つチート仕様になっております。
チートが嫌いな人は読まない方がいいかな?
まあ、喰わず嫌いはだめだとおもうので、一話くらい読んでくれると嬉しいです。きょ、強制じゃないんだからね!

次にお勧め作品です。

おちR様
漫画が中々面白いです。次の作品早く読みたいな〜

うすべに桜子様
かなりエロいです。もうエロエロです。そして甘々です。

AC711様
私のオリキャラを絵にしてもらいたい人、第一号の方です。でも、依頼する勇気が全くありません。
それくらい絵がうまいです。

Sirius様
同じく私のオリキャラを絵にしてもらいたい人、第二号の方です。言うまでも無く、依頼する勇気が全くありません。

とまあ、きりが無いのでこのお三方で終わりにしますが……まだまだご紹介したい人がたくさんいます。


それではお楽しみください。

この作品では、
一刻=1時間
一里=4km
として話を進めています。
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コメント
峠崎丈二様>一刀が居る限り、救いは無いかと!だって、女性みんなが一刀の事、好きになっちゃうし!(葉月)
散っていった男たちに、合掌……この世界に救いはねえのかwww(峠崎丈二)
mokiti1976-2010様>うぅ〜、本当に無念です。皆勤賞をのがしてしまったとです!げふ・・・(葉月)
本郷 刃様>真夜中に後ろから現れたら戦慄を覚えますよね。「あらん、誰かに呼ばれた気がしたんだけど」ぎゃーーーーーっ!!でたーーー!(葉月)
FDP様>現物よりも怖いと言われてしまった!偶に思うことが・・・リアル貂蝉が居たらどうしよう、っと・・・(葉月)
Satisfaction様>ある意味で、確かにそうですね。実態のある恐怖というやつですな。(葉月)
叡渡様>いったい、何を奪われたのでしょうね〜。私も怖くて書けない!って、なんか襲われてる!?(葉月)
殴って退場様>確かにうなされそうですよね。しかも、良い男だと迫られて・・・(葉月)
夜中に漢女は反則だ!!…そして期日に間に合わなくて残念。(mokiti1976-2010)
女性の声はやはり管輅でしたか・・・・・・そして幽霊よりも貂蝉の方が絶対に怖い(ガクガク)(本郷 刃)
いつもの現物よりもこっちの方が怖いっす!(FDP)
ある意味最恐の怪談だ・・・(ミドラ)
夜中に貂蝉を見た日には悪夢にうなされそう…(殴って退場)
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恋姫†無双 同人恋姫祭りに間に合わなかった…… 

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