インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#82
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[side:鈴]

 

なんだか((一組|となり))が嫌に騒がしい平日が終わりを迎えていよいよ迎えた文化祭の初日。

 

一般開放はして無くて学内限定の表向きは『((前日確認日|リハーサル))』だってのにそのテンションは天井知らずと言わんばかり。

『人間花火にでもなれるんじゃないの?』って位に高かった。

 

まあ、

 

「一年一組で『あの』織斑くんの接客が受けられるの!?」

「しかも、今日限定!」

 

「そういえば、生徒会がお触れを出してたっけね。」

「ええと、一年一組の出し物は……!!『メイド&執事の御奉仕喫茶』!?」

「織斑くんの燕尾服!?」

「今日を逃したら明日はないわ!」

「これを逃がす手はないわね!」

 

((一組|となり))ばっかりに人が集まって((二組|ウチ))は開店休業みたいなものになっている訳だけど。

 

 

((本番|あした))は((客寄せパンダ|いちか))が出られないって話だから気持ちは判らないでもないけどね。

………あたしも一夏の執事姿は見たいし。

 

とはいえ、いくらヒマを持て余しているとはいえ((クラス代表|あたし))はここを動く訳には―――

 

「だいひょー、ヒマしてるんだったら((威力偵察|ようすみ))行って来ればぁ?」

「そうそう。準備と調理指導を頑張ってくれたんだし!」

「この調子じゃ、人余りそうだし。」

 

みんなの申し出に思わずうるっと来た。

 

「そ、そう?それじゃあ、ちょっと((隣|ライバル))の様子見してくるわね。」

 

教室を出る前にちょちょい、と襟とか裾とかを直してからドアに手をかけて―――

 

「って、どんだけ長蛇の列になってるのよ!」

 

―――ようとしたら、完全に営業妨害としか言えない、一組への長蛇の列に出入り口が完全に塞がれていた。

 

その列の到る所にメイド服姿だったり燕尾服姿だったりする一組の面々が居て、最後尾の位置を教えたり、整理券を配ったりと忙しそうに動きまわっていた。

 

「ふん、明日は閑古鳥を鳴かせてやるわよ。」

 

そう、呟くように悪態をつきながら、あたしも列の最後尾に並ぶ事にした。

 

 

ええと、最後尾は………うわ、三組の中間くらいまで来てる。

 

これ、何分待ちになるの?

 

「現在、最後尾は八十分待ちでーす。」

 

………うへぇ。

 

 * * *

[side:   ]

 

鈴が一組の入場待ちの列に並び始めたころ………

 

「………はぁ。」

 

「どーしたの、代表。」

「燃え尽き?」

「悩み事?」

 

見事な縁日の会場と化した四組の教室で簪が物憂げな溜息をついていた。

 

流石に金魚すくいは無いが射的、ヨーヨー掬い、輪投げといった定番どころはしっかりと押さえたラインナップに、夏祭りの会場を彷彿とさせる内装。

衣装も本物さながらという力の入り様なのだが、他のクラス同様に閑古鳥が鳴いていた。

 

 

だが、簪の溜息の理由は『閑古鳥』では無い。

しかし現に簪のテンションは底知らずと言わんばかりに最低値を絶賛更新中である。

 

「もしかして、喧嘩した?」

「振られた?それとも、浮気現場を押さえちゃったとか!?」

「代表〜、教えてよ〜!」

 

 

そんな処に寄ってくる『主食:ゴシップ』な数人のクラスメイトたち。

ちらりと一瞥した簪は呟くように告げた。

 

「……………織斑先生から髪の毛を数本抜いて持ってきてくれたら話してあげる。」

 

「ごめんなさい。まだ死にたくないです。」

余りの難易度の高さに声を合わせて謝ってから逃げ出す面々。

 

流石にまだ死にたくはないらしい。

 

「…意気地なし。」

 

「いや、それふつー無理だから。」

 

簪の呟きに、思わず突っ込みを入れずには居られなかった。

 

「ちなみに、髪の毛なんて何に使うの?」

 

 

 

 

 

「――――――――人形に埋め込んで、午前二時くらいに、こつーん、こつーん、って。」

 

やけに小さい声だったが、クラス中に響き渡ったかのように広まり、気温が下がったかのような錯覚に陥る。

 

一気に音が無くなったかのようにクラス中がシンと静まり、簪の『ふふふふふふ…』という気味の悪い笑いのみが残る。

 

 

 

 

 

午前二時から午前二時半までを古い言い方で『丑三つ時』と言う。

その時間帯に『こつーん、こつーん』なんてやると言ったらもう当てはまるのは一つしか無い。

 

 

それに気付いたクラスメイトの一人は思う。

 

これは、『本気でヤバい』と。

 

今の簪は本気で呪いそうだ。

場合によっては自分たちが生贄にされかねない。

 

『誰か止めろ』『あんたがやれよ』的な視線が瞬時に四組の教室を駆け巡る。

 

だが、行動に出る事が出来ずにただ、居心地の悪い、不気味な空気が満ちて行くのを黙って眺めるだけだ。

 

「ふふふふふふふふふふ………」

 

四組の教室に簪の不気味な嗤い声が響いていた。

 

 

 * * *

[side:鈴]

 

並び始めてからおおよそ一時間。

ヒマを持て余して辟易してきた頃に漸くあたしの番が来た。

 

 

「大変お待たせしました、お嬢様。お席へご案内致します。」

 

まったく、本当に待たせ過ぎよ!

そう憤りつつも案内するメイドを観察してみる。

 

声はさっき聞いた通りかなりハスキー。

背も結構でかいし肩幅も結構ある。

髪型は黒のロングでストレート。

前髪がちょっと長くて目元を隠してるのがちょっとマイナスだけど、こう言う手合いは大抵前髪を上げるとそれなりに美人と相場が決まっている。

 

「どうぞ、こちらへ。」

 

そんなメイドさんがひいてくれた椅子に腰かける。

 

「お品書きになります。お決まりになりましたらお声をお掛けください。」

 

「ん、ありがと。」

 

あたしにメニューを渡した後、そのメイドさんは忙しそうにあっち行ってこっち行ってを繰り返す。

 

他のメイド勢に指示だしたりしてるからさしずめメイド長ってところかしら。

 

―――それにしても、

 

「あんなの、一組に居たかしら。」

 

自慢じゃないけど、あたしは結構一組に入り浸ってる。

一夏が居るからというのも有るけど、箒にセシリア、ラウラにシャルロットと『いつものメンバー』が揃ってるっていうのも結構大きい。

 

そんなこんなで大体顔と名前は覚えた筈なんだけど、あんなの居たっけ?

 

「うーん、どっかで見たこと有るような………」

 

首をかしげていると、

 

「ああ、鈴か。」

 

「あ―――箒?」

 

箒がやってきた。

 

 

―――――((燕尾服|しつじ))姿で。

 

よくよく見るといつもつけてるリボンをつけてないし、後頭部あたりで結ってるポニーテールも『とりあえず束ねただけ』みたいな感じになってる。

 

『ザ・執事』って言ってもいいかもしれないような格好だった。

 

――胴周りが締ったシルエットの燕尾服のせいで無駄にでかい箒の胸が強調されてるのは意図的に無視すれば…の話だけど。

 

「いや、今はこういうべきか。―――いらっしゃいませ、鈴お嬢様。」

 

恭しく一礼してくる箒は、なんか妙にかっこよく見えた。

というか、なんだか一夏と被って見えた。

 

―――まあ、根っこは似てるものね。

 

「ふ、ふん。で、一夏は?」

 

「ああ、それなら……」

 

箒が指さす方向に居るのは―――あたしを席まで案内してくれたメイドさん。

 

思わず箒とそのメイドさんを二度見三度見してしまった。

間違いない。

箒が指さしてるのはあのメイドだ。

 

 

と、言う事は――

「―――まさか!」

 

あの長身も肩幅もハスキーな声も、見慣れない理由も全部説明がつく。

 

そりゃ、見慣れないハズだ。

だって、『一夏が女装しているのだから』。

 

夏休み終わってすぐの頃に『女になった一夏』は見てるけど『女の格好をした』と『女になった』は訳が違う。

 

「………ああ。クラスの連中の悪ふざけで―――私一人では止める事も出来なかった。」

 

箒は物凄く悔しそうに、そして疲れ果てたような表情を見せた。

箒が『私一人』と言ってる処を見るとラウラやセシリア、シャルロットも敵に廻っているのだろう。

 

まあ、それはともかくとしても…

「………終わったわね、その連中。」

 

いろんな意味で。

 

「今は職務に没頭して考えないようにしているようだが…」

 

「悪い事は言わないわ。一夏がぶち切れたらさっさと逃げときなさい。なんなら、ウチのクラスに匿うわ。」

 

「…ああ、その時はそうさせて貰う。」

 

普段怒らないヤツほど、ブチギレた時の反動が大きいからね。

特に、一夏の場合は普段が菩薩なだけにキレると阿修羅あたりまで一気。

 

まあ、その発散方法が割と建設的なのが一夏らしいけど………

 

「箒、おサボりはよくないよ。」

「これでも我がクラスの執事長だ。あんまり拘束しないで貰いたいな、鈴。」

 

と、そこに何と言うか……凹凸コンビ(?)が現れた。

((金髪ぽわぽわメイド|シャルロット))と、((銀髪眼帯メイド|ラウラ))の二人組だ。

 

「ああ、すまん。今、動く。ああ、鈴の注文を受けておいてくれ。」

 

それではな、と言って離れて行く箒を見送りつつあたしは手元にある品書きに視線を落とす。

 

 

「…で、あんたらはなんで一夏にあんな格好させてんのよ。ふつーに執事でいいじゃない。」

 

「いやな、一夏と箒は明日の本番に出すことが出来ないだろう。」

 

「そうね。」

 

生徒会からストップがかかった…というか、生徒会の方で色々とやることがあるから出来ないって言うべきかしら。

 

「それ故に本番は一夏と箒という執事筆頭を二人も欠く事になる。その上シャルロットは執事役が嫌だというのでな。クラスの半分ずつで執事とメイドをすることになったのだが―――」

 

「だが?」

 

「せっかくだから、一日目は箒にも執事をやってもらおうということになり―――」

 

「そのノリで、箒が男装するなら一夏は女装させようということになったんだよ。」

ラウラの言葉をシャルロットが笑顔でつなぐ。

 

「……よく、一夏に受け入れさせたわね。」

 

「何、布仏が((肝臓打ち|レバー・ブロー))を一発叩き込んで、伸びてる間にすべて片づけたから楽なものだったよ。なんせ無抵抗だからな。」

 

「クラスのみんなで囲んだから結構早かったよね。箒は不参加だったけど。」

 

「あんたら鬼か。」

 

鬼か、悪魔の集団にしか見えないだろう。

なんとなく、悶絶したまま伸びてる一夏を取り囲む一組の面々と、少し離れたところで痛ましい物を見る目で眺めながら冥福を祈る箒の姿が目に浮かんできた。

 

…ああ、これが騒がしかった原因の一つか。

 

「まったく。一夏のヤツの機嫌が悲惨な事になっても知らないわよ?」

 

「大丈夫、大丈夫。」

 

「一夏もクラスのためとやってくれているしな。」

あたしの忠告を笑い飛ばす二人。

 

「……あっそ。」

 

あたし、知ーらない。

 

どうなっても、泣くんじゃないわよ。

あたしは箒以外は助けないからね。

 

 

―――ん、扱いが違うって?

そんなの、信用の差よ。

 

さて、そんじゃお隣さんの品揃えチェックでもやっときますか。

ま、一夏がオーケー出したヤツなら間違いないだろうけどさ。

 

うぅん、強敵よね。

 

中華喫茶とメイド&執事喫茶………微妙に被ってるのが痛いわ。

説明
#82:文化祭 一日目

大変お待たせしました。
激遅筆状態になってますがゆっくりと着実に進めて行きたいと思います。
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