IS〈インフィニット・ストラトス〉 〜G-soul〜
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式典の日の夜。

 

俺はあるところに来ていた。

 

エレクリットカンパニーに最も近い墓地だ。

 

みんなはいない。俺一人だ。

 

式典が終わってから俺たちはエリナさんと近くの街を散策して、いま一夏たちはエリナさんの家にいる。

 

ここには式典の時も来たが、気が付いたらここにいた。

 

「……………」

 

風が髪を撫でる。

 

ヴー…ヴー…。

 

「ん?」

 

携帯に着信が入った。

 

「もしもし? シャルか?」

 

『瑛斗、いまどこにいるか当ててあげようか?』

 

「いきなりどうした。ちなみに墓地にいる」

 

『あっ、当てようとしたのに!』

 

「ドヤァ…」

 

『もう…あんまり遅くならないでよ?』

 

「あれ? 怒らないのか?」

 

『みんな、瑛斗の気持ちは察してるんだよ』

 

「そうか…ありがとうな」

 

『うん』

 

「もう少ししたら戻るからよ」

 

『わかった。気を付けてね』

 

電話を切って、所長の墓石まで歩く。

 

 

カサ…

 

 

「ん?」

 

足に何かが当たった。花びらだ。

 

「あ…」

 

所長の墓石の前に花束が置いてあった。

 

式典の時はこんなものはなかった。誰かが式典の後に置いたんだろうか。

 

「…なにか挟まってる」

 

花束の中にメッセージカードが入っていた。

 

 

『信愛なる裏切り者へ スコール・ミューゼル』

 

 

「これは…………!」

 

スコールが来た…!? それに裏切り者ってどういう――――――

 

「……………Mは元気かしら?」

 

「!」

 

 

パンッ!

 

 

振り返えると、長い金色の髪を風になびかせたスコールがいた。

 

「うっ…………」

 

頭が揺れるような感覚に陥る。俺の脇腹に小型の注射器のようなものが刺さっていた。

 

「く…そ…………」

 

スコールが近づいてきたところで俺の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

「うぅ……………」

 

目を覚ますと、俺はどこかの建物の一室で両手足を鎖で拘束された状態で立たされていた。

 

「あら、お目覚め?」

 

「スコール・ミューゼル……………!」

 

目の前には椅子に座り、足を組んで笑みを浮かべるスコールがいた。

 

「そんな怖い顔しないの。せっかくの顔が台無しよ?」

 

近づいてきて、俺の顎を上げてささやくように言う。

 

「舐めるなよ、こんな鎖…!」

 

G−soulを展開しようとするが左手首の待機状態のG−soulは動かない。

 

「なっ…!?」

 

「無駄よ」

 

スコールがニヤリと笑う。

 

「その鎖はISの展開システムに干渉して展開させなくすることができるのよ」

 

「スコール、やるならさっさとやって」

 

奥の方から焦れたような声が聞こえた。

 

「アンタは…!?」

 

出てきたのは俺が社長室を出たときに会った女性、ジェシー・ライナスさんだった。

 

「こんばんは。桐野瑛斗くん」

 

「アンタも亡国機業だったのか…!」

 

「そうよ。亡国機業にいろいろな技術を提供してるの。その鎖だって、造ったのは私よ」

 

「それよりも、良いことを教えてあげるわ」

 

スコールが笑いながら言った。

 

「ツクヨミを壊したのはね………私よ」

 

「なにっ!?」

 

「簡単な任務だったわ。爆弾を仕掛けて、ボン! ですもの。うふふ」

 

「てめえっ!」

 

 

ガチャガチャ!

 

 

鎖が音を立てて俺の動きを止める。

 

「お前のせいでどれだけの人が死んだと思ってるんだ!」

 

「いちいち騒がないの。計画を進めるために必要なことだったのよ」

 

「なにをっ!」

 

「はいはい、スコール。もういいかしら?」

 

パンパンと手を叩きながらジェシーが言う。

 

「もう…せっかちね」

 

「一分一秒が重要なのよ」

 

スコールが俺から離れ、ジェシーが近づいてくる。

 

「何をする気だ?」

 

「あなたに新しいISをあげるわ」

 

「IS?」

 

眉をひそめるとスコールが口を開いた。

 

「私からのプレゼントよ。手に入れるのに苦労したんだから」

 

「良く言うわ」

 

ジェシーが取り出したのは、黒いリング。

 

「それは…!」

 

依然、攫われた一夏を助けに行ったとき、スコールが俺に近づけたものだった。

 

「あの時は準備が不十分だったから、万全を期させてもらうわ」

 

「そういうこと…」

 

大きな音を立てて鎖が外れた。

 

「よっ!」

 

それと同時に俺の胸の真ん中にリングが押し付けられた。

 

 

バリバリバリバリ!

 

 

「ぐあああああああああああっ!!」

 

リングから電流が走り、粒子となって、俺の身体に纏わりついていく。

 

「な…んだ…………これは………………!?」

 

「聞こえてるかどうかわからないけど、説明してあげるわ」

 

スコールの声がすごく遠くに聞こえる。

 

「今あなたはセフィロト二号機、《ブラックヴィジョン》を展開しているの」

 

「セフィ…ロト…………!?」

 

「あなたの思考を読み込んだサイコフレームがどんな影響を及ぼすのか、楽しみだわ」

 

スコールが何を言っているのか段々分からなくなってくる。

 

(俺の中に…何かが流れ込んでくる…………!)

 

 

コワセ………

 

 

(また…この声が……!)

 

 

コワシテシマエ……………!

 

 

(嫌だ…………!)

 

 

コワセ、コワセ、コワセ、コワセ!

 

 

(やめろ…………!)

 

 

コワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセ! 

 

 

コワシテシマエ! 

 

 

スベテヲ!

 

 

「がああああああああああああっ!!!!」

 

視界が黒く塗りつぶされ、俺は意識を手放した。

 

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「……………」

 

スコールはその禍々しさに息を呑んだ。

 

目の前で叫びをあげた瑛斗は漆黒の粒子に飲み込まれ、その粒子が変化した装甲に身を包み、その顔は全体を覆うマスクで隠されている。

 

装甲に走る青色のラインはサイコフレームだが、今は稼働しておらず、光を放ってはいない。

 

狂おしいほどの漆黒。もはやそれに瑛斗の面影はない。

 

「ガァァァァァッ!!」

 

 

ドォッ!

 

 

「うっ!」

 

瑛斗だったものが放った咆哮に、スコールは一歩退く。

 

(怯えている…? 私が………?)

 

自分で疑うが、震えるその手が真実を物語っている。

 

「スコールッ!」

 

「!?」

 

ジェシーの声が聞こえたときには、ブラックヴィジョンの拳が迫っていた。

 

「くっ!」

 

瞬時にセフィロトを展開、それを受け止める。

 

だが想像以上に重い拳にスコールの身体は簡単に吹き飛び、壁に激突した。

 

「ガアァッ!」

 

《ブラックヴィジョン》は右腕に高出力ビームガンをコールし、スコールに銃口を向けた。

 

「うっ!」

 

瓦礫から出たスコールはBRFを発動してビームに備える。

 

 

ゴォッ!

 

 

放たれた真紅のビームはBRFに干渉され四方八方に飛び散った。

 

「きゃああっ!」

 

ジェシーはとっさに頭を下げて身を守った。

 

「……………」

 

周囲の煙が消えると、ジェシーは顔をあげた。

 

そばにはスコールが立っていた。展開はしていない。

 

「あ、アイツはどこに…………?」

 

首をめぐらせるがそれらしき影は見当たらない。

 

「あそこよ」

 

スコールが指差した方向の壁には、大きな穴が開いていた。

 

「スコール! 腕から血が……!」

 

挙げていない方の腕はぶらりと垂れ、血が流れている。

 

「完成されたBRFでも防ぎきれないビームなんて…………」

 

「あなたたちはどうやら、とんでもないものを造ったみたいね」

 

そう言うスコールの目は、《ブラックヴィジョン》が消えた穴の向こうの夜空を見ていた。

説明
目醒る漆黒
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インフィニット・ストラトス

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