真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の娘だもん〜[第35話]
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真・恋姫†無双〜だけど涙が出ちゃう男の((娘|こ))だもん〜

 

[第35話]

 

 

(あれ……? ここは((何処|どこ))でしょうか?)

 

ふと気が付くと、目の前に流れが((緩|ゆる))やかな底の浅い小川がありました。

さらに小川の向こう((岸|ぎし))を見てみると、色彩豊かなお花畑が一面に見て取れたのです。

ボクが居る場所はジャリが((敷|し))き詰めてある普通の川辺でしたが、少し離れた場所は暗くて先が見通せませんでした。

 

(おかしいですね? たしか、ボクは天幕で劉玄徳たちと会談していたはずです。なんで、こんな場所に居るのでしょうかね?)

 

ボクは腕を組んで下((顎|あご))に片手を((添|そ))えて、自分の記憶を探ってみます。

しかし、どう考えても、こんな場所に来た覚えがありませんでした。

不思議に思って、周りを詳しく調べてみる事にします。

すると、小川の向こう岸に亡くなったはずの父・劉焉がいるではありませんか。

しかも劉焉だけで無く、隣りには母上らしき人物も居ますし、その他にも((懐|なつ))かしさを感じる人物たちが何人も居ます。

そうした人達が、向こう岸からボクを笑顔で見てくれて居ました

 

(なんだ、皆そっちに居るんじゃないか)

 

ボクはそう思って安心し、小川を渡って向こう岸へと行こうとします。

 

(え?)

 

ボクが小川に片足を入れようとした時、後ろの方から猫の鳴き声を聞こえてきました。

その鳴き声は、ボクにとって無視出来ない存在の声に((酷似|こくじ))しています。

気に成って振り向いて、少し離れた場所の地面の辺りを見てみました。

するとそこには、やはり益州華陽国(旧漢中郡)に居るはずの飼い猫のミーシャが居て、つぶらな瞳でボクを見ています。

 

(ミーシャ? なんで君まで、こんな所に居るんだい?)

 

ボクは不思議に思って、ミーシャの居る場所まで戻って行きます。

近くまで行って片足を地面に付けて手招きすると、ミーシャはボクの((懐|ふところ))に飛び乗ってきました。

久しぶりの守護天使のお日さまの香りに誘われて、ボクは心ゆくまで“もふもふ”してしまいます。

その感触はとても気持ちが良くて、暫く((堪能|たんのう))しました。

ミーシャはイヤがる素振りをみせず、ボクの((為|な))すが((儘|まま))に任せてくれます。

いままで色々とストレス塗れの生活を送っていたので、本当に癒されました。

 

(さあ。みんな向こう岸で待って居るから、ボクたちも行こうか?)

 

ボクはミーシャに語りかけながら、小川を渡る為に振り返ります。

そると、いきなりミーシャは鳴き声を荒だてて暴れ出してきました。

 

(え? どうしたの? ミーシャ。 何を慌てているんだい?)

 

ボクは大人しかったミーシャの豹変に驚いて、飼い猫に問いかけました。

しかし、ミーシャは一向に大人しくなる気配を見せません。

ボクが困って小川から離れた方学へ歩いて行くと、ミーシャは途端に大人しく成りました。

まるで、小川を渡ってはイケないとでも言わんばかりな態度です。

不思議に思って試しに小川の方へ歩いて行くと、ミーシャは再び暴れ出しました。

 

(ミーシャは、小川を渡りたく無いのかい?)

 

ボクは、ミーシャの意志を確認する為に問いかけました。

飼い猫は一鳴きして肯定の意を表します。

どうやら正解のようでした。

でも、ボクが逢いたい人達は向こう岸にいます。

だから、どうしようかと悩んでしまいました。

すると今度は、いつのまにか愛馬・調和が((此方|こちら))の方へやってくるではありませんか。

調和はボクの隣まで来ると、自身の鼻先をボクに押し付けてきます。

まるで、今迄ボクを探し歩いていて、やっと出会えた事を喜んでいるかのようでした。

 

(調和、君も来ていたんだね。探しに来てくれて、ありがとう)

 

ボクは調和の顔をナデナデして上げて、愛馬の気持ちを労いました。

調和は嬉しそうに目を細めて、ボクが顔を((撫|な))でるに任せています。

しかし、ボクが調和を引き連れて小川の方へ向かおうとすると、我が愛馬はボクの着物の((襟首|えりくび))を軽く((噛|か))んで離れるように((促|うなが))してきました。

どうやら、我が愛馬もミーシャと同意見のようです。

 

(ふむ……。君たちは、ボクにどうして欲しいのかな? 皆、向こう岸で待っているんだよ?)

 

ボクは困った事を仕出かす幼子を((諭|さと))すように、飼い猫と愛馬へ語りかけました。

調和はボクの言葉を受けてか、おもむろに頭を下げて自身の背に乗るように促してきます。

 

(え? なに? 乗れってこと?)

 

ボクが問いかけると、調和は一鳴きして肯定の意を表しました。

ミーシャの方も、ボクの懐から飛び出て愛馬の背に登って行ってしまいます。

ボクは仕方が無いなと思って、調和に((跨|またが))ろうとしました。

でも、何故だか分かりませんでしたが、愛馬には((鞍|くら))も((鐙|あぶみ))もなくて登るのが大変です。

なんとかよじ登って所定の位置に収まると、調和は小川から離れるように反対側へ歩いて行ってしまいました。

 

(はあ〜。どうしても、向こう岸には行ってくれないんだね? 分かった。君の好きにして良いよ)

 

ボクは((半|なか))ば諦めの思いを抱いて、調和に行動の自由を許しました。

調和は同意を受けて、足取り軽やかに暗闇の方学へと歩いて行きます。

まるで、本当の行き先が分かっているようだと感じられました。

動物には帰省本能があると聞きます。

だから、そのまま愛馬の好きにさせてみようと思いました。

 

(まあ、良いです。君らに任せてみましょう)

 

ボクはそう思いながら瞳を閉じ、調和が歩く時に((醸|かも))し出される((揺|ゆ))れを楽しんでいきました。

 

 

 

 

「ご主人様!」

「えっ……?」

 

いきなり耳元で諸葛亮の声が聞こえてきたので、ボクは思わず声を発してしまいました。

同時に目を開けて、自分の置かれた状況を確認します。

ボクは天幕内で自身の寝台に身体を寝かしつけていて、周りには諸葛亮を始めとした華陽軍の将軍たちが心配顔で見守っていました。

 

(そうか……。ボクは、夢を見ていたみたいだね……)

 

ボクは自分の置かれた状況を確認した後、そのように結論づけました。

 

「ご主人様! 大丈夫ですか?!」

 

ボクが目を開けたのを確認した諸葛亮が、気遣うように問いかけてきました。

彼女は心配顔で、両目の瞳には涙を浮かべているようです。

どうやら、だいぶ心配を掛けたみたいでした。

 

「……大丈夫だよ、朱里。ボクは、どこにも行ったりしないから……」

 

ボクは諸葛亮の頭を軽く((撫|な))でながら、心配しないようにと告げました。

諸葛亮はボクの言葉を受けて、少し笑顔を取り戻していきます。

やっぱり女の子には、いつも笑っていて欲しいものですね。

ボクは((肘|ひじ))をついて寝台から半身を持ち上げていきました。

 

「皆にも心配かけたみたいだね。でも、大丈夫。ちゃんと生きているよ」

 

少し間を置いて周りを見廻してから、ボクは笑顔で周りに居る将軍たちに話しかけていきました。

将軍たちは、口ぐちに心配をかけるなと苦言を((呈|てい))してきます。

それでも、大事ないというボクの言葉を受けて少しずつ安堵していっているみたいでした。

 

彼女たちに詳しく話しを聞いてみると、ボクは劉備に抱きしめられて気を失ったそうです。

いち早く気付いた周泰が間に入ってボクの引き((剥|は))がしを図り、((公孫?|こうそんさん))が同様に劉備を押さえ付けたみたいでした。

その後、息をしていないように感じられたボクを寝台に寝かしつけて、気が付くまで見守っていたそうです。

暫く目を開けなかったみたいで、随分と気を((揉|も))んだみたいでした。

でもボクは、そこで紹介を受けて居ない『公孫?』と云う人物の名が出て来た事に疑問を抱きます。

それで注意深く周りを見てみると、見慣れない赤髪をした人物に気付いて視線が合いました。

その人物はボクが見ている事に気が付くと、いきなり「申し訳ない!」と言って劉備と一緒に土下座をしてきます。

彼女たちの後方で、同じく関羽と張飛が同様の行動を取ってきました。

 

「君は?」

 

ボクは赤髪の人物の素性を確かめるべく問いかけました。

 

「はっ、はい! わっ、私は―。いっ、いえ。自分の姓名は公孫。名を((?|さん))。((字|あざな))は((伯珪|はくけい))です! この度の事はまことに申し訳なく、お許し下さい!」

 

公孫?と名乗った人物は、劉備がボクにした事を謝罪してきました。

自分が仕出かした事でも無いのに我が事のように謝罪する((様|さま))は、公孫?と云う人物の度量の深さを表しているかのようです。

ボクは初めて公孫?と会いましたが、そんな彼女の態度に好感を抱きました。

 

「別に、君に((咎|とが))がある訳では無いだろう? 気にしなくて良いよ」

 

ボクは公孫?に罪は無いと告げました。

 

「いっ、いえ。ここに居ります劉玄徳は、自分の((朋友|ほうゆう))です。その凶行を止められなかった自分も同罪で御座います」

 

公孫?は、尚も謝罪してきます。

どうやら彼女は、生真面目で実直な人物みたいです。

ボクは、そんな公孫?に話しかけていきました。

 

「大丈夫だよ。ボクには、劉玄徳を討ち首にする意志はない。だから、気に病まないで?」

 

ボクは、公孫?に心配する必要は無いと告げました。

それを受けて彼女は、少し安堵した表情を見せます。

でも、討ち首という単語を言った時、劉備と関羽の身体が一瞬ピクリッと震えたのが見て取れる。

少しは自分の仕出かした事の重大性に気付いているみたいだと、ボクはその時の彼女たちの反応を見て判断しました。

いかに同じ劉姓で義勇軍を率いる将とは云え、劉備は無位無官の民間人といって差し支えありません。

そんな劉備が益州牧で王位についているボクを害せば、その咎は彼女だけに止まらない。

関羽に張飛。下手をすれば、義勇軍の将兵たちや己の家族にまで((累|るい))が及ぶのです。

正義感を持って世の中を正したいと云う思いは認めますが、その思いを強くする余りに我を忘れるのは頂けない。

それに、劉備が義勇軍を解散させる意志が無い以上、彼女にはこれから目に見える形で功績を立てて出世して貰う必要がある。

だから、その為の自制心を養ってもらうよう、劉備には気を付けて貰いたいと思いました。

 

 

「劉玄徳」

「はっ、はい!」

 

ボクは、おもむろに劉備に話しかけます。

劉備は顔を上げてボクに返答してきました。

 

「最後に、もう一度聞くよ? 君は義勇軍を解散させる気はないんだね?」

 

ボクは最後通告だと言って、劉備に問いかけました。

 

「……季玉ちゃんには―。ううん。季玉くんには悪いと思っているけど、私は諦めたく無いの」

 

劉備は真剣な瞳でボクを見て、そう告げてきました。

『ちゃん』付けを『くん』付けに代えても余り意味があるようには見えませんが、彼女なりの決意の表れであると好意的に判断する事にします。

 

「そう……。分かった。君の提案を((呑|の))もう。劉玄徳、君の義勇軍を傭兵として雇うよ」

 

ボクがそう告げると、劉備は喜色の笑みを浮かべます。

その他の人達は、劉備の罪を問うどころか要望を受け入れるボクの回答に驚きの表情を顔に表しました。

 

「本当?!」

「ああ、本当だよ。でもね。雇う以上、命令には従ってもらうよ? それに、君の意に((沿|そ))わぬ事をボクたちがしたとしても、勝手に行動を取る事も許さない。良いね?」

 

ボクの提案を劉備は((快諾|かいだく))しました。

 

「それから。君を許すのは今回限りで、二度目は無いからね。本来は、君の仕出かした事は極刑にされても文句は言えない事だ。その累は関雲長、張翼徳にも及ぶ。その事を((肝|きも))に((銘|めい))じて、忘れないでね?」

 

ボクは劉備が嬉しさの余りに自制する事を忘れないように、クギを((刺|さ))す事も忘れませんでした。

 

「はっ、はい! 本当に、ごめんなさい!」

 

劉備は再度、頭を下げて謝罪してきました。

ボクはそんな彼女に続けて話していきます。

 

「今の君の気持ちが本物かどうか、これからの働きで見せて貰うよ?」

「はい! 頑張ります!」

 

劉備は頭を上げてボクと視線を合わせ、自身の両手に((握|にぎ))りコブシを作ってヤル気をアピールしてきました。

 

「あっ、そうだ。季玉くん、私の真名は『桃香』です。受け取って下さい」

 

劉備は自身の真名をボクに預けてきました。

どうやら、謝罪と世話になる((印|しるし))としてと云う事らしいです。

 

「そう……。ボクの真名は刹那。これから宜しくね?」

「はい!」

 

ボクは劉備に真名を預けるのにちょっと((躊躇|ためら))ってしまいましたが、ここで退いては元の((木阿弥|もくあみ))だと思って彼女に自身の真名を預けます。

劉備はボクの((葛藤|かっとう))を知る((由|よし))も無く、((天真爛漫|てんしんらんまん))な笑顔で返答してきました。

いつまでも土下座をさせて置く訳にもいかないので、4人には立って貰います。

その後、関羽・張飛とも真名を交換していきました。

 

「そうだ。公孫伯珪どの?」

「はっ、はい!」

 

ボクは劉備一行と真名を交換した後、公孫?に視線を合わせて問いかけました。

急に名を呼ばれた彼女は、緊張しながら返答してきます。

 

「もし、これからの予定が決まっていないのなら、伯珪殿にも一緒に居て欲しいと思っているのだけれど、どうだろうか?」

「えっ?」

「お礼にと云う訳では無いけれど、食料物資などが不足しているなら少しは用立てさせて貰うからさ」

「いや…でも……」

「伯珪殿には桃香の凶行から救って貰った恩義もある。その恩義に((報|むく))いさせて貰えないだろうか?」

 

会談を始める前に、趙雲たちからの簡単な報告で公孫?軍は正規軍半分、義勇兵半分と云った編成であると聞き及んでいます。

救援に赴いた際に軍の錬度が明らかに((偏|かたよ))っているのを見て、そう判断したそうでした。

それ以前に、趙雲たちが公孫?軍に客将として働いていた時に、だいたいの軍容を見ていたと云う事でも一目((瞭然|りょうぜん))だったらしいです。

でも、義勇軍が半分と云う事は、正規軍を維持するだけの軍資金が欠乏している事を意味します。

それに加えて劉備軍を受け入れていれば、内情は火の車な事でしょう。

だからボクは、恩義に報いるという方便を使って公孫?に援助を申し込んだのです。

もっとも、劉備の行動を抑制してもらう為と云う、ボクなりの目的もあるんですけどね。

 

公孫?は少し躊躇っていましたが、熟考の末に提案を受けてくれました。

ボクの申し出の真意を、彼女なりに理解してくれたのかも知れません。

そんな彼女にボクは謝意を告げ、真名を交わしていきました。

公孫?は終始恐縮しっ放しで、言葉を交わす際に舌を噛んだりして敬語が苦手みたいです。

詳しく聞くと、彼女は殆んど幽州から出る事は無く、自分より身分の高い人物に余り会わないとの事。

せいぜい、太守の印璽を貰いに首都・洛陽に赴いた時ぐらいだそうです。

だからボクは、正式の場で無いから敬語は不要と告げました。

そんなボクの気遣いに公孫?は、感謝の意を告げて普段通りの言葉使いで話してくれます。

普段の公孫?の言葉使いは、なんだか男友達と話しているような感じを受け、とても気安い関係を築ける予感を抱かせる。

益州と幽州では離れ過ぎていて((頻繁|ひんぱん))な交流とはいかないですが、親密な関係を築いていけると良いなと思いました。

その後暫く今後の簡単な予定などを話した後、公孫?と劉備一行は自身の軍へ戻って行きました。

 

 

 

「さて。何か言いたい事があるのなら、聞くよ?」

 

ボクは部外者が立ち退いた後の天幕内で、華陽軍の将軍たちを見廻しながら告げます。

劉備への処遇に対して、不満の意などを持っているかも知れないと云う危惧からでした。

 

「それでは。((僭越|せんえつ))ですが、私が代表してお聞きします」

 

郭嘉が一歩前に出て来て、そうボクに話しかけてきました。

ボクは彼女に言葉を続けるように((促|うなが))します。

 

「劉玄徳の取った態度は、明らかに((不遜|ふそん))の((極|きわ))みです。処罰するどころか要望を御受けした事の真意を、お聞かせ下さいませんか?」

 

郭嘉は自身のメガネを片手で上げ、まるで厳しい家庭教師のような感じを((漂|ただよ))わせながら問いかけてきました。

 

「真意……ねぇ。それは同じ劉姓で、孟徳の取り成しがあったから…では、納得出来ないだろうね?」

 

郭嘉のみ為らず、他の将軍たちも頭を上下させて同意を示しました。

 

「何も処罰しないと云うのであれば、内外に示しがつかないと考えますが?」

 

郭嘉は、尚も詰問してきました。

 

「示し…か……」

「はい。そうでなければ、組織は成り立たないと思います」

「……稟は、ボクに損なうほどの威厳があると思う? ボクが他者に((侮|あなど))られたからと云って、傷付く? 影響を受ける? そして、そんなボク見て、君たちは不甲斐ない((主|あるじ))だからとボクに失望するかな?」

 

ボクの言早な物言いに、郭嘉は沈黙を持って返答してきました。

他の将軍たちも、ボクの言葉を黙って聞いています、。

 

「示しなんてモノはね、それを失うと困る人にしか必要の無いモノなんだよ。ボクには元々そんなモノは無いし、無くとも君たちに侮られるとも思わない。桃香や白蓮たちがボクを侮って外に言い触らしたとしても、ボクがそれに影響される事は無い。それだけの((絆|きずな))を、君たちや華陽軍の将兵、さらには華陽国の領民と築いてきたと思うから」

 

ボクは言葉を続けます。

 

「桃香…劉玄徳には、少し因縁があってね。その因縁を、ボクは解消しなければ成らないんだ。だから、彼女を傭兵として雇ったのさ」

「因縁……ですか?」

「うん。どんな因縁なのかは、いま話す事は出来ない。いずれ話せる時まで待ってくれないかな? 時期が来たら、話せると思うからさ」

 

ボクの告白を受けた郭嘉が疑問を挟み、それに返答します。

郭嘉も含めた他の将軍たちは、ボクの話しを聞いて了承してくれました。

ボクは彼女たちに感謝の意を告げ、疲れたと言って少し横に成る為に解散を告げます。

皆は少し言い足りない感じでしたが、ボクの身体を気遣って天幕内から出て行って行きました。

 

 

 

「大丈夫なのか?」

 

天幕内に一人残っている北郷が、ボクを気遣うように問いかけてきました。

ボクは自身の寝台に身体を寝かしつけながら、彼に返答していきます。

 

「何がだい?」

「いや……。劉備―じゃない、劉玄徳だよ。近くに居ない方が、良いんじゃないか?」

「ボクが害される可能性があるって云う事?」

「……ああ」

 

北郷は、史実の劉璋が劉備に益州を追われた未来の記憶を持っている人物でした。

だから余計に、劉備をボクの近くに置く事を気にかけてくれるのでしょう。

ボクは、そんな北郷に気安い感じで話しかけていきました。

 

「大丈夫……とは言い切れないけど、その事があって、彼女を近くに置く事にしたんだよ」

「どういう事だ?」

「……皆には言わなかったけどね。ボクは気を失っていた時に、どうやら((三途|さんず))の川に行っていたみたいなんだよ」

「三途の川……? おい、刹那! それって?!」

 

ボクの告白に北郷は、慌てて問い出してきました。

三途の川を渡る。それは((即|すなわ))ち、ボクが死ぬ事を意味するからです。

ボクは真剣な顔持ちで北郷に話しかけていきました。

 

「ボクは今迄、劉玄徳と云う存在を恐れていた。史実の劉季玉と、ボク自身が同じ末路を((辿|たど))るのではないかとね。だからガムシャラに“力”を蓄えて、その恐怖心から逃れようとしていたんだと思う。“力”があれば対抗出来て、安心感を持てると思ってさ」

 

北郷は、ボクの告白を黙って聞いてくれていました。

 

「でも、いくら((紛|まぎ))らわせて忘れて居たとしても、恐怖心はボクの中に巣食ったままだった。だから、劉玄徳と出会って恐怖心が((蘇|よみがえ))り、史実の劉季玉と同じようにボクも死にかけたのかも知れない。そして、このまま恐怖心と向かい合うこと無く過ごしていけば、今度こそ本当に死んでしまうかも知れないんだ」

 

今のボクの心境を多少なりとも理解出来るのは、史実を知っている北郷だけです。

だから、ボクの悲痛とも云える告白を、彼は痛まし気な表情を顔に表しながら聞いてくれていました。

 

「前に言ったと思うけど、ボクには成し遂げたい事がある。だから、それを成し遂げるまでは、死ぬ訳にはいかないんだよ」

「そう……だったな」

「うん。だからさ、劉玄徳と云う存在に対する自分の恐怖心と向き合い、受け入れ、解き放つ事で、それを解消したいんだよ。もう二度と、影響される事の無いようにね」

 

三途の川に居た時に何も無ければ、ボクはそのまま小川を渡っていました。

ミーシャと調和が見付けてくれなければ、ボクは生きて((此処|ここ))には居なかったでしょう。

ボクが今生きて居られるのは、((僥倖|ぎょうこう))と云って差し支えありません。

だからこそ、この((奇貨|きか))を活かそうと思ったのです。

 

「そう…か。色々考えているんだな……」

 

ボクの告白を受けて少し納得できたのか、北郷は((呟|つぶや))くように話しかけてきました。

彼が何を考えているかは分かりませんでしたが、ボクを気遣ってくれているのは理解できます。

だから、そんな北郷にボクは心の中で感謝の意を表しました。

 

「一刀」

「うん? なんだ?」

「少し疲れた。このまま少し寝るよ」

「そう……だな。少し寝た方が良いかも知れないな」

 

ボクの言葉を聞いた北郷は、天幕内から静かに退出して行ってくれました。

睡眠を邪魔しないようにとの、彼なりの思いやりなのだと思います。

次第に深い眠りに入って行く過程で意識を手放しながらも、ボクは考え続けていました。

ここで劉備と出会った事は、天の采配ではないだろうかと。

そしてそれは、ボクの中の劉備への恐怖心に気付かせ、それを解消させる為の機会を創る為だったのではないかと。

 

人生において、人は時に((岐路|きろ))に立たされる事があります。

まるで、人生体験で学んできた事を実生活に((活|い))かしているかどうかを確認する為に、天が人々に試練を課して選択を((迫|せま))っているかのように。

ある選択を同じ意識水準で同じ解答を示してしまえば、同じ展開にしか成っていかない。

だから選択を誤ると、違う時、違う場所、違う人達であるのにもかかわらず、何故か同じような状況に何度も((陥|おちい))ってしまう。

天が課す試練は、人の身には過大な苦難だと思える場合があります。

でも天にとっては、人々の意識をより高みへと((誘|いざな))う為に、挑戦の機会を与えている((心算|つもり))なのかも知れないのです。

試練を受けている人の身にとっては、ありがた迷惑に感じられる事ではありますが。

 

自身の持っている恐怖心や((葛藤|かっとう))をどうするかは、人々の選択に任されています。

そのまま無視し続けるもよし、受け入れて解放するのもよし。

どの選択が正しくて、どの選択が間違っていると云う事でもない。

ただ単に、自分の選択した結果を受け取るだけだからです。

ボクの身に巣食わせて居た恐怖心・葛藤と云う名の人生の壁は、つねに((其処|そこ))に存在していた。

今迄のボクの意識水準では、単にそれに気付けず見えなかっただけ。

でもボクは、今回の件で自身に劉備への恐怖心・葛藤がある事に気が付く事が出来た。

気付けていなかった事が気付けたと云う事は、自分自身の意識の成長を意味する。

だから、後は気付けた事を((忌避|きひ))する事なく受け入れ解放していけば、次第に影響される事も無く成っていく。

 

死への恐怖は、とても大きくて深い。終わりが見えずに((途方|とほう))も無い。

だから、そう簡単には受け入れ解放する事は出来ないかも知れません。

受け入れたつもりで居ても、恐怖心や葛藤が何度も蘇って来て((苛|さしな))まれてしまう事もある。

あまりに((熾烈|しれつ))を極めた過大さゆえに、時には心が((挫|くじ))けてしまう事もあるでしょう。

それでも、少しずつでも受け入れていければ、いつかは無く成っていくと思うのです。

新たな恐怖心や葛藤を積み重ねていかない限りではありますが。

 

 

 

 

((人気|ひとけ))の無くなった天幕内で寝台に身体を寝かしつけながら、ボクは少しずつ力を抜いて深い眠りに入っていきました。

次に目が覚めた時には、思いを新たにした自分自身で在りますようにと思いながら。

 

そして、こんど気付きの機会を与えてくれる時には、もう少し((穏便|おんびん))に事を運んで欲しいと天に((意宣|いの))りながら……

 

説明
無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。
*この作品は、BaseSon 真・恋姫†無双の二次創作です。
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コメント
shirouさん、コメントありがとう。アッーの展開ですか。そこまで気に入って貰えているとは予想外でした。(笑)その場の勢いと云うか、シャレの積もりだったので。今後の展開ですが、期待を裏切らないようにしたいです。でも、ダメだったらゴメンナサイ。(愛感謝)
一刀と二人っきりで・・・・・・思わずアッー展開をwまぁ処分云々に関しては確かに軽いんでしょうがそこは作品の味付けなので今後の展開に期待じゃないでしょうか?君主が対外的に悪し様に言われていても支持する民衆がついてくれば国としては問題ないかと(恋姫における董卓と洛陽の関係みたいに)。攻めてきたら痛い目に遭わせるだけですしね。(shirou)
h995さん、村地栄さん、コメントありがとう。ご意見ご尤もだと思います。でも、それらは主人公の現実に起っている事では無くて、主人公の頭の中にある物語であると思うのです。そういった想像の思いに囚われているので、ここで劉備を討っても第二・第三の劉備が出て来て切りが無いと考えました。臭いものにフタをしても、元から絶たないとダメって云う感じです。(愛感謝)
示し云々だの因縁だの言ってるがそれは処罰しない理由にはならんだろ。ここで劉備討っとけば将来の危険が減るのは確実なんだから殺らないのは不自然すぎる。この主人公明らかに考えすぎていてもう何したいんだかよくわからん。(仙天狐)
ちょっと考えすぎかもしれませんが、この主人公はどうも王としての自覚が足りないような気がします。王である以上は他の者に示しをつけないと、統治する国の威信がなくなって外敵に攻められかねないということに思慮が及んでいないようです。取り返しのつかない事態にならなければいいのですが……(h995)
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