はじめの種。
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あれから幾年経ったでしょうか。

 

少女がおりました。

少女は、小さな手をママに繋がれたまま、あたり全体を見回しました。

そこにはなんにもありませんでした。

草も花も、青いお空も蒼い海も、せっせと働く人も、のんびり寝転ぶ動物も、吹く風も、

なんにもありませんでした。

少女は不思議そうにしてママに尋ねました。

 

「ねえママ、どうしてここにはなんにもないの?」

「このお星さまが、まだできたばっかりだからよ」

どこまでも優しく目を細めながら、ママは言いました。

決して少女を軽んじてあやしているのではなく、ただ目の前にある事実をそのままに伝えました。

 

「じゃあ、にんげんがいればいいのかしら?」

少女はこくりと首を傾げ尋ねました。

燃えるような焦げ色以外特に何も見当たらないこう然と広がる大地を少女はぼんやりと眺めるだけでした。

 

ママは言いました。

「人間じゃなくて、かみさまをつくるの

 かみさまが今度は、人間をつくってくれるのよ」

諭すようにママは言いました。

 

かみさまってなぁに、と少女が尋ねると、

それはあなたみたいな人なの、草も木もお空も青海もつくれる人なの、もちろん人間もね、と

少女と同じ目の高さまでしゃがんで、その鴇色の頬に触れながらママは答えました。

 

さあ、とママに促されると、少女は種をひとつ蒔きました。

それから空にこのか弱い種に傅くように命ずると、空には忽ち雲が立ち込め雨が降り始めました。

その星に降った、初めての雨でした。

 

 

その頃、そのお星さまはどうなっていたかというと、

まず女の子とママがきたばっかりのころは、土はガサガサに割れて、

空も海も燃え滾ったような赤茶色が広がっておりました。

気温はいまよりもずっと暑く、草や木が生えてきても一瞬で焼け焦げてしまいそうなほどでした。

岩はとてもしょっぱくて、けれどそれを割って塩を作る人はありません。

それから、ママと少女のしばしの会話が終わると、初めての雨が降ってきました。

雨はお星さまを冷やすと見計らったようにすぐに止んでしまいました。

 

 

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「ママ、もう芽がでたよ」

少女は、鴇色に染まった可愛らしい頬を綻ばせて、それはそれは嬉しそうに言いました。

生まれたての芽には、まだタネの殻がついておりました。

そうして女の子は、誰に言われるでもなく風を傅かせお星さまの全てを冷ましました。

頃合い良く雲が切れると、少女が育てた芽を、強くも弱くもないお日さまの光が燦燦と照らしました。

 

タネだった芽からはやがて殻が取れて、

ひとつだった葉っぱはふたつにひろがりました。

 

少女は歌うように言いました。

「見てママ、このおほしさまには、かみさまが生まれたよ」

とてもとても誇らしそうにしました。

傍らで全てを静観していたママも言いました。

「あなたはとてもえらい子ね

 そしてこのお星さまは、とてもえらいお星さまね」

愛しそうに手を少女を取ると、丸いおでこにキスをしました。

 

ママが女の子の頭を優しく穏やかにになでると、女の子はにっこりと笑いました。

すると二人は、瞬きと同じくらいの速さで、どこかへ消えてしまいました。

 

 

それからまた少し、

といっても人が数えるにはとてつもないほど長い年月がたったころ。

 

あの時生まれた芽はぐんぐんと育って、やがて真っ白いきれいなお花をひとつ、葉っぱと葉っぱの間につけました。

それは誰も目にしたことのない色形をしておりました。

その花が枯れてしまうと、こんどはその花びらのひとつから、かみさまが生まれました。

きれいなお花と同じ色をしたかみさまが、ひとつ生まれました。

かみさまは、薄ぼんやりとした靄に包まれておりましたが、そのかたちはタネを蒔いた少女やそのママと良く似ておりました。

かみさまは、自分がこれから何をするべきか全て知っておりました。

かみさまは枯れた花をそれはそれは愛しそうに手に取りましたが、やがて砂塵のように粉々になり、風に乗ってどこかへ飛んでいってしまいました。

その様子を見送った後、かみさまはまず青いお空と蒼い海をつくりました。

それから草や気や花をつくり、動物をつくり、最後に人間をつくりました。

最後につくった人間だけは、かみさまとおんなじカタチにつくりました。

 

タネを蒔いた少女やそのママと、おんなじカタチにつくりました。

 

 

 

説明
とある星にかみさまが生まれたお話です。
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少女とかみさま 母子 ファンタジー 童話 おとぎ話 

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