魔法世界に降り立つ聖剣の主
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4:転生者って良い奴と悪い奴の差が激しい

 

 

 

 

久しぶり。転生者ことシオン・インサラウムだ。

当主になってから2年も経って、仕事は面倒だけどそれ以上に充実した日々を送ってる。

 

今思えば転生して良かったな。

お陰様で随分と殺伐とした日々を送ってるけど、こんなやりがいのある人生を謳歌することは前世ではまず不可能だっただろうから。

 

そんなこんなでもう毎日ウッキウキの俺はいきなり故障した主君を“優しく”そして“丁寧に”修理した後、妹分である女の子に会いに行っている所だ。

 

陛下の言うとおり、彼女とはここ何ヶ月か会ってない。

仕事がたんまりとあった上に馬鹿な連邦共が懲りずに攻め込みまくってたからその対処で国中を飛び回っていたのだ。

 

休憩がてらに茶を交わす事も出来なかったから、ここいらで一目会っておいても罰は当たらんだろう。

 

そして俺は目的の人物がいるという王宮の庭園にやって来た。

見渡してみれば、すぐに金髪の少女と銀髪の眼鏡を掛けた男を見つけた。

 

 

シオン「よぉ二人共!帰って来たぜ!」

 

二人のいる方に歩み寄りながら声を掛けると、少女の方が突然俺に向かって猛ダッシュして来た……って、え?ちょっと待って、一体どうし「兄様〜〜〜〜っ!!」

 

内心で呟く間も無く少女が俺の胸にダイブする。

そして洒落になってない衝突音の後、強烈なタックルを諸に貰った俺はその勢いに逆らえずに吹き飛ばされた。

 

 

オリヴィエ「やっと会えました!ずっと会えなくて寂しかったんですよ!?どうして一目だけでも会いに来てくれなかったのですか!兄様に会えなくて私……!」

 

仰向けに押し倒された形になっている俺の上でマシンガントークをかますこの金髪美少女が、レオンハルト陛下の娘さんで俺の未来の主君である次期聖王オリヴィエだ。

 

まだまだガキの頃に親父の仕事で王宮に来た時に知り合ったらいきなり懐かれて、そして何故だか今みたいに“兄様”と呼ばれるようになった。

 

昔から人見知りが激しくて泣き虫な手間の掛かる妹分だったが、面倒を見てやってる内にどんどん成長して行って今やこんなに大きくなって、お兄さんは嬉しいよ。

 

だからさ……その大きくなったモノを俺の胸板に押し付けるな!理性が今にもリミットブレイクする寸前なんですけど!!

いやまだだ!まだ終わらんよ!!頑張れ俺!負けるな俺!何とかこの泣き虫ガールを引き剥がすんだ!!

 

 

シオン「なぁオリヴィエ、そろそろ離れ「嫌です!」でもさ「ダメです!」あの「離れません!!」……」

 

ダメだ無敵過ぎる。のっけから交渉の余地無しとは。

だけどこのままの状態だったら本気でマズイ。こうなれば強引にでも……

と、そういう考えに行き着いた矢先、オリヴィエが潤んだ瞳でこちらを覗き込んでいた。

 

 

オリヴィエ「迷惑ですか…?兄様は私のこと…嫌いですか……?」

 

シオン「うぐっ……!」

 

何だこれは!何という破壊力!

長年鍛え上げたこの鋼の精神を一気にHP0まで持っていくとは!

 

 

シオン「はいはい大丈夫だから!嫌いじゃないから泣くなって!それとこの体勢はガチでヤバイから!」

 

オリヴィエ「じゃぁ、お願い一つ聞いてくれますか?」

 

何でそうなんの?どうしてそうなった?まぁどいて貰う為には仕方ないか、あまりにも非常識なお願いじゃないなら叶えてあげよう。

 

 

オリヴィエ「それじゃぁ……抱っこして下さい…昔みたいに。」

 

え?この子今何てった?(^◇^;)

抱っこってあの抱っこだよね。昔みたいのってことは……いやいや何を仰るかこの人は!ダメだよそれは色々と!

 

 

俺が冷や汗をかいていると、オリヴィエはまた泣きそうな顔をしていることに気付く。

ええい!分かったよ!やってやろうじゃねぇかよ!いくらでも抱っこしてやるよ!そのまま空中散歩するくらいの勢いで抱え上げてやるよ!!

 

 

オリヴィエ「本当ですか!」

 

地の文読まれたぜ!?神にやられた時からご無沙汰してたけどこの人も完備してるのその能力!?

 

 

シオン「はいはい。分かったから退いてくれ。」

 

オリヴィエ「は〜い。」

 

上機嫌で俺の上からオリヴィエが離れる。

あの夢心地な感覚が胸板から無くなったのが少し名残惜し…ハッ!

一体何を言ってるんだ俺は!?

 

服についた埃をはたき落としながら立ち上がる最中に、抑制したモノが顔を出してしまい若干顔を赤くしている俺に、もう一人の人物の声が掛けられる。

 

 

ユート「はっはっは。“蒼き武神”と謳われる君もオリヴィエには敵わないみたいだね。」

 

シオン「そう思うなら助けやがれガリ勉野郎が。」

 

ユート「いやいや、邪魔しちゃ悪い雰囲気だったし、心なしか楽しそうだったからね……主に見ていた僕が。」

 

シオン「はい今聞き捨てならないこと聞いたぜ?喧嘩売ってんなら買うぞ?表出ろやコラ。(−_−#)」

 

オリヴィエ「兄様!退いたんですから抱っこして下さい!」

 

俺の親友だったり悪友だったりする男、ユートアレクセイに睨みを利かすが、傍にプンスカしながら袖を揺するオリヴィエがいてそれどころじゃない。

 

全く、魔眼とかいう面倒なものを貰っちまって軽くコミュ症に陥ってた所を助けてやった途端にこれだ。

引っ込み思案な殻を破って鬼畜眼鏡に進化を遂げるとはなんたる奴。

 

俺は内心幼馴染の間違った方向への成長を嘆きながらオリヴィエの背中と膝の裏を抱えて持ち上げる。

まぁつまりはお姫様抱っこって奴だ。まさかこの歳になって別段彼女でもない奴にこれを要求されようとは。

 

 

オリヴィエ「ん〜!良い気持ちです♪」

 

やれやれ我が妹分はいつになったら兄離れするのだか。(-。-;

見目麗しい美女なのに、こうして抱っこされながら俺の首の裏に手を回して額を胸板に擦り付けてくる姿を見てると甘えん坊が過ぎる子供にしか見えない。

 

こんなまだまだ精神的にも幼い娘が将来王様なんてやっていけるのだろうか?

そう思うと少し不安だが、まぁそこは俺達が支えれば良いんだし、悲観になる事もないか。

 

 

シオン「そろそろ降ろすぞ?」

 

オリヴィエ「え〜。もう少しだけこのままでいたいです〜。」

 

シオン「我が儘言うな。それに魔術の特訓の最中だったんだろ?続きやらねぇと。」

 

オリヴィエ「それは兄様が来たから一度「休憩しねぇよ。最後までやれっての。」むぅ〜」

 

不満そうなオリヴィエを降ろしてユートの方を向かせる。

オリヴィエも流石に折れたのか、渋々といった様子でユートの方に歩み寄って行く。

 

 

ユート「冷たいね。何なら本当に休憩にしてあげても良かったのに。照れちゃって。( ̄▽ ̄)」

 

シオン「じゃかぁしいわボケが。ケツから魔弾ブチ込まれて口から出されてぇかチビ。ちゃんと仕事しやがれ。(♯`∧´)」

 

ユート「おお、怖い怖い。それじゃぁ怖い将軍様にお尻掘られちゃわない内に再開しますか。」

 

何か誤解を招くような言葉を残してユートが指導に戻ろうとしたその時だった。

 

 

???「おい!そこのテメェら、俺のオリヴィエに何してやがんだ!!」

 

最高に聞きたくない声がした気がした。

まぁどこのどいつなのかは分かってるんだけど一応振り向いて声の主が誰かを確かめる。

 

そこにいたのはいっそ不気味な程に整った顔をしたイケメン(?)だった。

赤い右目と金色の左目、聖王一族特有のオッドアイのソイツは俺達を忌々しげに睨みながらドスドスと荒い足取りで近寄って来る。

 

 

シオン「これはバビロニア閣下。如何なされましたか?」

 

一応丁寧な口調を心掛けるが、そこに敬いの意思は一切無い。

当然だ。コイツは元々敬語を使う価値すらないただのクソ野郎なんだから。

 

聖王の血を引く者の一人、オリヴィエとは親戚の関係にある男にして最後の転生者ギルガメス・バビロニア。

オリヴィエの一家とは分家みたいな関係にあり、昔から聖王に尽くして来た一族だそうなんだが、コイツが当主になってからその信用と実績は地に落ちている。

 

王族でありながら、その義務に関心を示さず、やりたい放題。

国内では良い女がいたら手当り次第に口説いて回っては、ユート曰くニコポにナデポとかいうほぼ洗脳系のチート特典で女をたらしこんでるらしい。

 

そのあまりに不自然な堕とし方から、国内からも何か怪しい妖術で女を操ってるんじゃないかとかいう当たらずしも遠からずといった噂が立っている。

だが、この能力って一定の魔力または精神力を持っている奴には通用しないらしく、コイツが一方的に堕ちたと思い込んで勘違いしてる女も相当いるらしい。

 

そしてずっと昔からのその勘違いのターゲットにされてる人の一人がオリヴィエだ。

幼少の頃、俺と同じ様な理由でオリヴィエと出会い、その瞬間から撃墜済みと思い込んでいるらしく、こうして自分以外の男とオリヴィエが一緒にいたら怒鳴り込んで来て強制的に引き離すらしい。

一度チート特典の能力まで使って危うく死人が出そうになったのはまだ記憶に新しい。

 

そしてコイツの横暴はそれだけに止まらず「強力な能力を保持してるから使えるんじゃない?」って理由でリモネシアとの戦いに連れてったことがあるんだけど、見事に命令無視を連発して作戦を滅茶苦茶にしてくれた。

 

あの時ユートが指揮官やってて俺が早めに駆けつけたから良かったものの、下手をすれば今頃ベルカは国土の三割を間違い無く奪われていたと言われている。

 

そのせいかコイツはあれっきり戦場には出されていない。

何度か勝手に出陣しようとしたこともあったが、その度に何とか陛下が止めに入っていたから事無きを得ているものの、こちとら後ろから剣の束を雨あられと撃たれたらって不安がまだ残ってて敵わない。

 

だが、ここまで上げるとどうしてこんな奴が当主の座に就けたのかって疑問が残るんだが、そこにも一応理由はある。

コイツの親族総勢5人が、他国との商談からの帰路の途中で事故に会い一人残らず死亡したからだ。

 

故に一族最後の生き残りであるコイツが当主の位置に収まった。

未だに事故の詳細は分かっていないが、俺とユート、あるいは何人かの頭の切れる連中はこの事件の真相に大体目星をつけている。

 

まぁそういう話は置いといて、今重要なのは俺とユートとオリヴィエがいる所にコイツが混ざったということだ。

 

ただでさえ転生者である俺達を疎ましく思っているこの思い込みボーイに、オリヴィエと仲良くやってる所を見られたらどうなるか、まぁ簡単に想像できる。

 

 

ギルガメス「よりにもよってテメェらかよ。いつもオリヴィエに付き纏いやがって!その子がどんだけ迷惑してるのか分かってんのか!」

 

いやいや、付き纏ってるのも迷惑かけてんのもお前だから。自分の行いを他人のモノとすり替えるなし。

 

 

ギルガメス「オリヴィエ、こっち来い。こんな奴らと一緒にいても良い事なんて一つも無いんだ。」

 

オリヴィエ「バビロニア卿、そんな言い方酷いです!二人はただ私の為に……」

 

ギルガメス「テメェら…!オリヴィエに無理矢理こんなこと言わせやがって!許さねぇぞ!」

 

オリヴィエの言葉を遮って勘違いどころか既に勝手な誇大妄想と化して来ている言葉を叩きつける。

だが、俺達からしてみればコイツの言葉は自分の思い通りにいかない事に駄々をこねる餓鬼の我が儘でしかない。

 

そんなのに付き合ってられるほど暇でもないんだ。

とは言え、無視した所でギャーギャー騒がれて鬱陶しいだろうし、言い諭すのも難しいだろう。

 

コイツは自分がこのアニメを基にした世界の主人公で、物語は自分中心に回ってると思い込んでる身勝手野郎だ。

こちらの言い分が通用しない時点でどうしようもない。

 

だからといってこのままみすみすオリヴィエをコイツに渡して退散したら彼女があまりにもかわいそうだ。

それに兄貴分として、こんな道端で会う度に舐めるような視線でオリヴィエをジロジロと見やがる変態野郎に妹分を好きにさせてやる気はない。

 

 

シオン「殿下、陛下より貴方をお呼びするように仰せつかっておりました。至急謁見の間に一人で来るようにと。」

 

オリヴィエ「え?」

 

急に態度が変わった事と、何の話だか分からない俺の言葉にオリヴィエは一瞬だけ困惑するが、俺が目で合図するとすぐにその意味を理解したのかそそくさと立ち去って行く。

 

アイコンタクトで伝えた内容は「適当に理由作ったから逃げろ」というものだ。

陛下はオリヴィエがギルガメスに半ばストーキングとセクハラ行為を受けていることを知っている。

駆け込んで事情を話せば奴を暫く近付けないように取り計らってくれるだろう。

 

ギルガメス「待てよオリヴィエ。俺も一緒に「バビロニア、陛下はお一人で来られるようにと申されていたんだよ?君がついていっちゃ駄目じゃないか。」チッ…!テメェら次オリヴィエに近づいたらただじゃすまさねぇからな。」

 

そんな小者みたいな捨て台詞を吐くと、ギルガメスは機嫌悪そうにしながら立ち去って行った。

その背中が見えなくなったと同時に俺とユートは思わず嘆息する。

 

 

シオン「やれやれ、あのクソ野郎にも困ったもんだ。毎度俺様自論炸裂されてちゃ堪ったもんじゃねぇ。」

 

ユート「全くだよ。陛下も身内に甘過ぎるんだ。先代には世話になってたからとか、王の血筋をそう易々と刑に処する訳にはいかないとか、そんな理由で許容出来る範囲を超えてるよ。アイツのやってることは。」

 

シオン「だからって押さえ込もうにもあいつはチート特典の塊みたいな奴なんだろ?まぁあの程度なら倒せないことも無いが周りへの被害が馬鹿にならん。」

 

そう、奴は俺達とは違い、元からとんでもない量の特典を要求していたのだ。

ユートの推察によれば、最強の魔力と身体能力、王の財宝に無限の剣製とかいうチート能力、セイバーだかアーチャーだかの対魔力と戦闘経験、ついでにイケメン顏とニコポにナデポ。

 

もしかしたらまだあるかもしれないが、この時点で手のつけようがないバグキャラだ。

まぁそれでも負ける気はしないけど……

しかし、そんなチートの権化と真正面からぶつかれば周りへの被害が出る。

 

奴はそんなの気にせず暴れるだろうしこっちも流石に手加減しながら戦ってたらキツイだろう。

 

 

ユート「そこなんだよね〜。せめて王の財宝と無限の剣製だけでも封印出来ればかなり違うんだけど……」

 

シオン「例の対魔力に聖王の鎧か。」

 

ユート「うん。そんじょそこらの封印術式だと簡単に破られちゃうんだよね。」

 

八方塞がりだ。陛下がさっさと追放するなり投獄するなり処刑するなりすりゃ手っ取り早いんだが、そんな真似すれば奴は間違い無く暴れ出すだろう。

 

このクソ忙しい時に戦闘の余波で国中滅茶苦茶になって他国につけいる隙を与えては目も当てられない。

 

まぁ陛下が奴に手出ししないのはそういう意図があってのことかもしれない。

要するにギルガメスはいわゆる爆弾なのだ。

そこら辺に転がられてたら邪魔臭いが、下手に退かそうとすれば爆発する。実に迷惑な話である。

 

 

シオン「近々そっちの話も陛下としてみるかな。」

 

ユート「そうだね。国内で不穏な動きが見られる連中の大掃除もそろそろ始まる頃だから、それと並行して計画を進めておこうか。」

 

そうして俺達は暫く談笑に更けって時を過ごしたのだった。

 

 

 

 

あとがき

転生者勢揃い回でした。

いやぁ、オリヴィエさんのキャラ考えたりバビロニアさんをどうやってド屑にしようか物凄く悩みましたけどこんなもんで最低野郎にはなってますかね?

次回の次回くらいから一気に物語を加速させてくつもりなんでよろしくお願いします。

 

 

説明
転生者集合回。踏み台転生者のキャラが意外と作り辛い。
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