魔法少女と呼ばれて 第4話
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―脱出―

「…改造用の術式の効果が切れるまでは時間があるわ…あなた達…」女の声が怪人達へ告げる。術式とは絆の身体を這う様に蠢く魔術文字の事だろう。「術式の効果が切れたら、彼女を"魔宴"の儀式場に移動して…私は今からその準備に入ります。頼んだわよ」

 

その言葉を最後に女の気配が部屋から消える。薄暗い室内には静寂が訪れていた。「…」指示により術式の効果を待つ怪人達は所在無く部屋の中をぶらぶらとしている。意識の無い絆の右手がゆっくりと握られた。怪人の内の一体が寝台に寝かされる絆の側にやって来くる。

 

ギチリと絆の右腕を固定する皮のベルトが軋みを上げる。怪人が絆の右手を掠めた瞬間―――!「おおおおおおおぉぉぉッ!」雄叫びを上げ右手を強引に革ベルトから引き抜き怪人の腕を掴んで手繰り寄せ僅かに浮かせた上体で頭突きを喰らわせた。

 

絆の右手の拳は強引にベルトから抜いたせいで皮膚が裂け血が滲み出している。しかし彼女はそんな事には構わず左腕を戒めるベルトを外しに掛かる。

 

(この機会を待っていた)

 

陵辱と屈辱に責められ涙を流した絆だったが、それでも抗う心を捨ててはいなかった。

 

絆の心は獣の魂。獣は執念深く、己を辱めた者を許さないのだ…決して! だが状況は芳しくない。強襲した怪人の一体は怯んだが室内には、まだ他の怪人が居るのだ。グズグズと手を拱いている暇は無い。焦った絆は無謀にも皮のベルトを引き千切ろうとした。

 

普通なら少女の力では皮製のベルトを引き千切る事は出来ない筈であった。しかし、それは絆の手でまるで紙でも千切るかの如く容易く引き裂かれる。「な…に…!?」結果に自分でも驚く、それだけではない暴れた拍子に右足を縛るベルトも引き千切っていたのだ。

 

それはとても人の力とは思えない。絆の脳裏に思い出したくも無い陵辱の記憶が浮かぶ。奪われた血と肉と臓物…彼女の身体と、それに換わって埋め込まれた"何か"。(…貴女は生まれ変わる…最強の"魔女"に―――)声だけの女が絆に残していった言葉…。

 

だが今はそれを考えている場合ではない。絆は腰と足のベルトも引き千切ると寝台から飛び降りた。幸い怪人の動きは緩慢で絆の行動に追いつけていない。(今なら―――!)途端、絆の身体から力が抜け、彼女は床に膝を崩した。「な…ッ!?」

 

ベルトを簡単に引き千切った筈の彼女の四肢に今度はまるで力が入らず、思う様に動かせない。高熱を発した時の症状のように意識が朦朧とし全身が熱い。「く…ぁ…身体…が…」その間にも怪人達が近付いて来る。「クソ…ッ! 動け…動けよ! 俺の…身体だろうがよぉ!」

 

途端に身体に力が戻り、床を蹴って飛び上がった絆の身体は寝台を回りこんでいた二体の怪人に体当たりをするように突っ込み、もんどり打って倒れた。起き上がった絆は二体の怪人の頭部を踏み付けると、出口を求めて歩き出す。何とか身体は動く物の足取りは頼りない。

 

(くそぅ…こいつ等…俺に…俺の身体に何をしやがった…)本当は気付いている事実を誤魔化しながら絆は壁に取り付き出口を探し、途中で襲ってきた怪人を薙ぎ払いながら四方の壁を這い進む。その時、右手が何かに触れた。一瞬、絆の身体が支えを失い中に浮く。

 

「!?」驚いた次の瞬間、絆の身体は床に叩き付けられた。「痛ッ!」どうやら自動扉の開閉スイッチに触れたらしい。絆は這い上がると廊下へ飛び出し逃げ出した。

 

そこから先は記憶が定かではない。朦朧とする意識と身体を蝕む熱、思う様に動かない身体を引き摺りながら歩き、何処かの部屋で自分の服を回収し、追いかけてきた怪人を退けながら捕らわれていた建物から何とか屋外に脱出する事に成功した事だけを憶えている。

説明
“天城絆”(アマギ・キズナ)は小学校四年生の少女である。謎の黒い怪人によって拉致された彼女は、その身体を改造される。少女の復讐の物語が今幕を開ける!
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