緋弾のアリア 紅蒼のデュオ 8話
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「俺は俺だ。それ以上もそれ以下もねぇ」

 

壁に寄りかかっている飛牙は、姿勢をそのままに理子を睨む。彼は先程自身がナポレオンの愛人の子を祖にもつ人間であると言われた。だが、彼はその発言にさほど興味を抱かず、自分は自分であると主張した。

 

元来彼は他人と比べられるのを嫌う。そのくせ他者のことは比べるのだからたちが悪いが、基本的に個人は個人という考えを持っている。

誰かに強要され従う人間よりも、己の意志で動く者を彼は愛す。今の理子には己の意志で動いている気が感じられず、血或いは他の大きなモノに操られていると飛牙は感じた。

故に彼は今の理子を4世とは認めていない。嘗て多大な迷惑をかけた、あの3世の娘とは。

 

 

 

 

 

 

 

「お前がただ操られているだけならば、お前はただの4世だ。己の意志で…ッ!」

 

理子に視線を向けていた飛牙は、突如自身の上にある屋根が音もなく崩れ、いや斬られたのを確認した。とっさの判断でそれを避けると、数瞬後に天井が崩れ落ち、続いて人が降りてきた。明らかな殺意を感じた飛牙は跳んで間を取り、非殺傷のゴム弾が装填されたM29を構えた。

降ってきたのは青袴を着た男。長い黒髪の下の目は飛牙に対する威圧感に満ちていて、白銀に光る美しい刃をもつ日本刀を上段に構えていた。

 

「お主…。理子殿を貶めるのはそこまでにしろ」

 

「…怜那が言ってたサムライか」

 

「左様。拙者は14代目石川五右衛門。故あって理子殿の護衛を任せられている者」

 

刀を構えた侍…五右衛門は飛牙に殺気をぶつける。その中でも飛牙は飄々とし、だが殺気を込めて五右衛門を睨む。

 

(コイツ…かなり出来るな)

 

(こやつ…なかなかの手練れと見た)

 

緊張感漂う空気の中、飛牙はM29を相手の額に向けて構え、五右衛門は愛刀の切っ先を相手の胸に向けて構えていた。

 

 

 

 

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どれほどの時間が経っただろうか。既にアリア達は後退し、理子もそれを追い退室したためこの部屋には二人しかいなかった。

緊迫した空気の中、先に膠着状態を破ったのは飛牙だった。構えていたM29からゴム弾を放ち、腕に襲ってくる強烈な反動をやり過ごし、再度銃を構えた。だが、飛牙は銃口の向こうを見て驚愕に顔を歪めた。

当たることは無い、間違い無く避けるだろうと考えていた飛牙は照準をややずらして射撃体勢に入ったのだが、目標は銃口の先にいなかった。

まさかと思うが命中したのか?そう考えた飛牙は視線だけ戻した。

 

そこには、先程と比べ刀は動いているが、変わらない構えで飛牙に殺気を飛ばす五右衛門が、少し離れた床にゴム弾がめり込んでいるのが見えた。

 

−−−−コイツ!マグナムの弾を弾きやがった!

 

一瞬飛牙が止まりできた隙を五右衛門は見逃さなかった。両者はおよそ10m程離れて対峙していたが、五右衛門は一瞬の内にその間合いを詰め、刀を振り下ろす。

対する飛牙は咄嗟の判断でM29を捨て、腰に装備したダガーを両手に構え刀を迎え撃つ。

飛牙はすんでのところで刀の軌道上にダガーの刃を置いた。だが、彼が全く予期していないことが起きた。刀はまるで遮る物など無いかのように二本のダガーの刃を切り裂いたのだ。

 

「ーッ!!」

 

その光景に一瞬飛牙の動きは完全に止まるが直ぐに思考を切り替え、刃同士の衝突により生じた微かな火花を自身への影響を省みず可能な限り最大の火力で爆発させた。発生した爆発は微々たる物だったが、自身の腹部にほぼ接する形で起爆させたため体は後退。頬に深い切り傷と防刃性マントを切り裂かれた程度で済んだ。

 

「グッ!ガハッ!」

 

だが、腹部に直撃した爆発の衝撃は体を蝕み、飛牙は肺の空気を吐き出した。また、能力を急激に酷使した事で反動は脳に現れ、断続的にハンマーで叩かれたような頭痛が彼を襲っている。

 

3秒。たったそれだけの時間で形勢は五右衛門に傾きつつあるのは誰の目を以てしても明らかだった。だが、苦しみながらも飛牙は不敵に笑い、やがてそれは狂笑に変わった。

 

「…クックック。アヒャヒャヒャ!オもしレェ!オもしレェよオまエ!」

 

息を整え顔を上げた飛牙の顔は、至る所で血管が浮き出し、血走った目はより赤みを増し、赤黒い瞳の奥は妖しく光っていた。異様な顔に変貌した飛牙はその表情をより狂気に歪め、まるで獲物を狩る猛獣のごとき目つきで五右衛門を睨み付ける。

 

「オレのたイ質、どウせリュパン4せイにでも聞かさレてルんだロ?」

 

「…………インセイン・サヴァン・シンドロームか…」

 

五右衛門は思い出す。自身の主が調べた、東京武偵高の危険分子。幼い頃からスカーの名で戦場を駆けてきた傭兵崩れ。面白い事の為には手段を選ばず、全力でそれに臨む。

彼はインセイン・サヴァン・シンドローム、略称ISSと呼ばれる特殊な体質を持っている。彼は常人よりもアドレナリンの分泌量が多く、気分の高揚などちょっとしたトリガーで多量のアドレナリンが体中を回る。普段は何の影響も及ぼさないが、戦闘になると即座にアドレナリンが分泌され、身体能力と思考判断力の向上、ちょっとした麻酔効果を得られる。

戦闘時の極度な昂揚、自身にかかった負荷など一定条件を満たすことでISSは真価を発揮し、アドレナリンの過剰分泌及び伝達速度の大幅な向上によって身体能力と判断力は通常の十倍にも跳ね上がり、大きな負傷でなければ痛みさえ感じない状態になる。しかし思考力は通常の半分にまで低下するため、作戦上つかいづらくなる厄介な特質だ。また痛みを感じないため自身への負担が大きく、ISSが切れた後の反動が大きい。

 

 

 

 

 

「よく分かってんじゃねェか…。さて、だイ二幕の始まリだ!」

 

既に使い物にならなくなった両手のダガーを放り捨て、マントの中から取り出したグローブをはめる。かなりの反射神経とそれに応えるだけの力量をもつ五右衛門相手に徒手格闘は分が悪いが、既に勝機を見出したのか飛牙は不敵に笑っていた。

 

「わリィが…イちげきでオわラせル!」

 

「……上等!」

 

飛牙は獰猛な目つきで五右衛門を睨み、五右衛門も刀を構え飛牙に対峙する。

 

数瞬後、飛牙は爆発的に加速して五右衛門に迫る。振り上げた腕は、左。

 

(……陽動か!ならばッ!)

 

五右衛門は敢えてそれを避けず、刀を構えて飛牙に突っ込んだ。

 

 

 

 

 

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「ごばっ…!」

 

血を吹いたのは、飛牙だった。

飛牙の左手は五右衛門の横腹に当たってはいた。だが、それによりダメージが入った様子は全く見られない。

対する飛牙の右横腹からは鈍く輝く刃が突き出し、血を吹き出していた。

 

(…取ったッ!)

 

確かな手応えを感じた五右衛門は、これで無力化しただろうと思い刀を抜こうとする。だが、人体に刺したためか刃はなかなか抜けず、軽く舌打ちをする。

 

ゾクッ…!

 

突如として五右衛門は背筋に言いようのない悪寒を感じた。刀が横腹に刺さった飛牙は顔を臥しており、口から血を流しているのがわかるきりであった。

 

だが、五右衛門は臥した顔の暗がりの中で、飛牙の口角が確かに上がっているのを確認した。

 

「…ククッ。コウスレバカタナハツカエネェヨナァ?」

 

聞こえたのはノイズ混じりのおどろおどろしい声。小さいがハッキリと聞こえた声に五右衛門は戦慄する。

 

「サテ…イマノオレジャア、チイトヒビクゾ」

 

逃げろ!と身体が警告を鳴らすが、咄嗟の判断では刀を手放せなかった。先代より受け継いだ最強の刀。刀を選ぶか己を選ぶか、僅かに彼は迷った。

 

「…コレニテ終演」

 

僅かな隙を飛牙は見逃さなかった。先程の負傷により更にアドレナリンが分泌、現在も全く痛みを感じていない。

思考能力は激減したが、通常の100倍にまで跳ね上がった身体能力を駆使、懐に刀が刺さったまま本命の右手を振りかぶる。最早人間としての限界を超えた彼の腕には裂傷がいくつも入り、赤黒い血液を辺りに撒き散らす。

そうして放たれた右ストレートは五右衛門の腹を正確に打ち抜き、突き刺さっていた刀もろとも彼を吹っ飛ばす。そのまま彼は壁に激突、右手に愛刀を携えたままその後二度と動くことはなかった。

 

「…オワッタ、カ」

 

今出せる限りの全力を尽くした飛牙は二、三歩と後ろに下がり、そのまま倒れるように壁を背に座り込む。真っ白な壁は一部赤くなったが、彼はそんな事に気付きもせず目の前の男を見る。気絶している相手の顔は無念さに満ちていて、だがどこか笑みを浮かべているようにも見えた。

 

「……ツカレタ」

 

彼の意識は徐々に深みへと落ちていき、遂に完全な闇へと落ちていった。

説明
遅くなりました。テストなんて大嫌いです。
メインヒロインが空気な点について…
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非ハーレム 銃火器 緋弾のアリア 

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