fate/zero?君と行く道?
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行間3 ダークホース

 

 

 

理解出来ないモノほど恐ろしい存在は無い

考えも及ばぬ暗い影に人々は思考を巡らせ真実に至ろうとする

だがその果てに人々は知る

その思案の先にある答えの意味を

 

 

 

 

 

窓から射す日差しで、桜は目を覚ました。同時に先程まで見ていたのがただの夢であったことを理解する。

 

視線を傾けてみれば、隣には自分のサーヴァントである勇希の姿がある。

夢の中にも出て来た家族同然の従者は肘で頬杖をつきながらスヤスヤと寝息をかいていた。

 

見た所まだ日も上がり切っておらず、時間も5時を回っていないという頃だ。

ならばもう少し眠っていても罰は当たらないだろうと思い、桜は勇希に寄り添ってもう一度目を閉じた。

 

再び眠りに落ちる前に、桜はふと先程の夢のことを思い出す。

自分の側にいる大事な人が戦っていたあの情景。あれはもしかすると本当にあったことなのではないかと何の根拠も無くそう思った。

 

だとすれば彼はどんな日々を送って来たのか。今思えば自分は勇希のことを殆ど知らない。

だからといって桜の勇希に対する認識に揺るぎは無いが、あの夢のせいでどうしても気になってしまうのだ。

 

 

「おきたらきこうっと……」

 

小声で決意表明を示し、桜はもう一度まどろみの中に沈んで行った。

 

 

 

時は少し戻り遠坂邸。

華やかな豪邸の地下室に遠坂時臣の姿はあった。

通信機としての機能を有する古びたレコードプレイヤーに視線を向けながら交信相手の、先程までアサシンのマスターであった言峰綺礼の報告に耳を傾ける。

 

 

「ライダーの宝具は恐らく、ギルガメッシュの王の財宝と同等。つまりはEXランク、評価規格外です。」

 

淡々と告げられる事実に、時臣は顎に指を添える。

自身のサーヴァントであるアーチャー、英雄王ギルガメッシュの持つ宝具と同等のモノを有する英霊がいるというのは捨て置けない事実だった。

 

今までは何の障害もなく、ただ確約された勝利を享受するだけとばかり思っていた彼にとって、自分が呼び出した名実共に最強の英霊と互角に渡り合えるだけの敵の出現は予想外だったのだ。

 

 

「とは言え目論見通りには事が運んだな。もし予備知識の無いままライダーと対峙していれば、あの宝具に対処する術を見出せなかっただろう。」

 

時臣の目論見。

それは今回の酒宴の席に全てのアサシンを導入してライダーの宝具の正体を暴くものだった。

その結果、情報収集に於いて絶大な力となったアサシンを全て失うことになったが、長い目で見れば今回の一件で得るものも大きかったと判断していいだろう。

 

告げられた報告を整理すべく、時臣は腰掛けていた椅子の背凭れに体重を預けて暫し思案に耽る。

どうすればあの厄介な宝具を打ち破り、三流の魔術師に呼び出されながらもあれだけのスペックを誇るサーヴァントを倒せるのか。

 

そしてもう一つの懸念事項にも思考を巡らせる。

イーターの正体についてだ。

今までただただ得体の知れない敵であったイレギュラーサーヴァントの正体がよもや異世界の存在であるなど予測不可能であった。

 

過去に前例の無い次元を超えた召喚。しかもそれで呼び出されたのが、単純な肉体的ステータスならばAランク以上をキープし、遠近共に対応出来る強力な宝具を持った難敵が呼び出された。

 

 

「アサシンの偵察で得られたイーターの情報は結局宝具についてのみか?」

 

「はい。まるでどこから監視されているのか事前に予測しているかのように監視の目を掻い潜って移動しており、一切捕捉出来ず。」

 

とはいえ、あの場でこの事実が発覚したのは幸いだった。

異世界の存在など調べた所で無意味であり、下手をすれば見当違いな英霊と勘違いして対応を誤っていたかもしれない。

振り出しに戻っただけとは言え思わぬ落とし穴に嵌まるよか余程マシである。

 

だが、未だに発覚していない事実がある。イーターのマスターの存在だ。

イレギュラーな召喚であるが故にキャスターのマスターと同じく、魔術とは全く縁遠い人物である可能性も示唆出来るが、安易な結論で妥協するのは危険だ。

 

 

「イーターのマスターについては引き続き調査を続けてくれ。可能ならば所在も突き止めて欲しい。」

 

「了解致しました。」

 

その正体不明のマスターが自分の娘であるなど知る術も無いだろう。彼は桜が間桐邸で今も一流の魔術師となるべく修行に励んでいると信じて疑っていなかったののだから。

 

暫くして思考の迷宮から脱出し、立てかけてあった先端に赤い宝石のついた杖を手に取って立ち上がる。

 

 

「ここから先は第二局面だ。アサシンが収集した情報を元にアーチャーを投入して敵を駆逐して行く。ライダーとイーターに処する対策もその中で自ずと見えてくるだろう。」

 

「はい。」

 

「マスターとしての務め、ご苦労だった。」

 

この時点でもまだ時臣は己の勝利を疑っていなかった。それこそが大きな過ちであるとも気が付かずに。

 

 

 

 

そして同時刻、冬木市のとあるホテルにて、一人の男が受話器を片手に眼前の地図を睨み付けていた。

 

男の名は衛宮切嗣。セイバーの本当のマスターでありこの聖杯戦争の参加者の中でも異質な部類に入る男だ。

切嗣は電話先の人物である協力者の久字舞弥にいくつか指示を送った後、傍に置いてあった袋から取り出したハンバーガーに噛り付きながら地図に視線を戻す。

 

 

(遠坂邸に動きは無し。初日のアサシン撃退以来、時臣は穴熊を決め込んだまま。不気味なまでの沈黙。間桐のマスターは間桐邸には戻らず、まるで何かを探し回るように冬木市中を彷徨い歩いている。その様子は見るからに無防備で襲撃は容易に見えるが……バーサーカーの不可解な特殊能力は遠坂とアーチャーを牽制する意味でも、今は泳がせておくべきだろう。ロードエルメロイは再起不能の筈だが、ランサーは脱落していない。新たなランサーのマスターが誰なのか、早急に確認する必要がある。キャスターの居所は未だ不明だが、昨夜もまた市内で数名の児童が失踪した。奴らは何のはばかりもなく狼藉を繰り返しているのだろう。)

 

脳裏に今あるだけの情報を並べて行きながら、切嗣は食べ終えたハンバーガーの包み紙を丸めてゴミ箱に放り投げ、今度は煙草を口に加えながら再び思案する。

 

 

(ライダーはマスター諸共常時飛行宝具で移動する為、追跡が困難。一見豪放に見えるが、隙の無い難敵だ。舞弥の報告にあったアイオニオン・ヘタイロイという宝具のことも気になる。そしてイーター……。今まで真名も宝具もその他の能力に至るまで全く分からない得体の知れない英霊だったが、今回の一件で異世界の英霊であることが判明した。よってこちらに情報を手に入れる手段は無く、対して向こうにはアーチャーの正体を見破るだけの知識がある。セイバーの真名が知れ渡っている以上、こちらは大した策も講じられず、常に相手に有利な状況で戦わざるを得なくなる。そして宝具についても謎が多い。身体の一部を重火器に変質させる能力や、触れた物を根こそぎ抉り取る大剣。報告によれば同じ特性をもったままの遠距離攻撃も有しており、遠近共に死角が無い。加えて高い隠蔽能力を有するキャスターを半日足らずで捕捉し、尚且つその場にいち早く急行したことから移動速度もかなりのものと見ていいだろう。しかもこちらの監視や偵察、追跡を悉く躱して所在を掴ませないだけの隠密能力も厄介だ。そのせいでこちらは…否、恐らく全ての陣営が奴の拠点を突き止められていない。ライダーとそのマスターは何か知っていそうな素振りを見せていたそうだがそれだけでは判断材料にもなり得ない。)

 

参加しているマスターの写真とその居所である地点がマークされた地図の中にも、勇希や桜の姿は無い。

それは未だに切嗣がイーター陣営の所在を掴めていない証拠であった。

 

(セイバーとランサー並みの白兵戦能力にアーチャーの宝具を迎撃し切るだけの遠距離攻撃の手段を持ち、ライダーに匹敵する機動性とキャスターを即座に発見するだけの索敵能力。アサシンばりの隠密行動。バーサーカー級の身体スペック。全てのサーヴァントの利点を全てとまではいかなくとも高水準で兼ね備えている。その上未だにマスターの正体が分からずどんな手札を残しているのかも一切不明。相変わらずの得体の知れないダークホース。)

 

厄介な敵が現れたものだと、らしくもない溜息を吐いて、煙を吐き出す。

たった一晩で各勢力に多大な衝撃を与えた酒宴の席によって、聖杯戦争は更に加速の一途を辿るのだった。

 

 

 

 

時は戻り、桜が眠りについて2時間後。とうとう勇希が目を覚ました。

あの聖杯問答の後、急いで間桐邸に戻りさっさとベッドに横になったものの、やはり真夜中まで起きていたせいか不覚にも爆睡してしまった。

本来サーヴァントに睡眠はいらないのだが、既に受肉して現界状態にある勇希は英霊の特性を大部分有していない為そうもいかない。

 

 

「全く、融通利かないよなサーヴァントシステムって。蟲爺ももうちょい自由の利くモン作って欲しかっ…んっ?」

 

既にいない人物に理不尽な要求と不満をぶつけながらも上体を起こそうとした時、髪を何かに引っ張られた。

視線を落とせば、桜が横になって寝息を立てながら自分の髪を掴んでいることに気が付いた。

 

とても安心し切った安らかな表情に、勇希は内側から暖かい感情が浮き上がるのを禁じ得なかった。

 

 

「でもなぁ…このままだと朝飯作りに行けないし、可哀想だけど離してもらって…って、力強いなオイ。」

 

そっと桜の指を解こうとしたが、小さくて細い指はしっかりと握られていて開かなかった。

強引に開かせるのも忍びなく、勇希は諦めたように先程と同じ体勢で横になる。

 

 

「ま、良いよな。眠れる時にぐっすりと眠らせてやるくらいは……とは言え、コイツは朝飯が適当なものだけになっちまいそうだぜ……」

 

苦笑しながらも、勇希は自分のマスター目覚めを待つのだった。

 

 

 

説明
今回派短めですね
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