ソードアート・オンライン―大太刀の十字騎士―
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 ゲーム開始から二年。

 

 私のギルド《血盟騎士団》は、アインクラッド最強と呼ばれるようになった。

 

 最近では《Knights of the Blood》の頭文字を取ってKoBと呼ばれている。

 

 そのギルドの中でも、団長の次に強いと言われている私は、無条件で有名になってしまった。

 

 団長の茅場さん――ヒースクリフに頼んで作ってもらった、血盟騎士団自由騎士隊(現在二名)に入りたい人が続出しているとか。

 

 ちなみに自由騎士隊とは、好きなときに攻略を休めて、好きなときに攻略していい部隊のことだ。

 

 まあ、休みなんてほとんど取らないけどね。

 

「暇だ〜」

「なら、もう行きましょうよ。何時まで寝てるんですか?」

 

 私の呟きに応えたのは、ファリア。

 

 私を含めて二人しかいない自由騎士隊の部隊員で、私の弟子?部下?だ。

 

 ちなみに武器は片手剣直剣。

 

「だって、まだ夜じゃないし」

「はぁ、まったく」

「ヒナー、入るわよ」

 

 許可を得てないに入ってきたのは、KoBのサブリーダー(私は別部隊のリーダー)、閃光の二つ名で有名なアスナだ。

 

「あ、こんにちは、アスナさん」

「こんにちは、ファリアさん、ヒナ」

「いらっしゃい〜」

 

 私はベッドに寝っ転がったまま、応える。

 

「まったく。ヒナ、起きなさいよ」

「だって〜。それより、どうしたの?」

 

 私が聞くと(話を変えたかった訳じゃないぞ)、アスナは恥ずかしがりながら、答える。

 

「ちょっと付き合ってほしいことが……」

「キリト君のとこ?」

「ち、違うわよ!いや、違わなくないけど……」

 

図星か。

 

この副団長様、実はキリト君のことが好きなのだ。

 

「別に、会いに行こうって訳じゃないわよ!ただ、攻略が近いから、生きてるか確認するだけだから!」

「はいはい。さあ、行こうかファリア」

「はい、ヒナ様」

 

 様付けは止めろっての。

 

「キリト君はどうせ、五十層のアルゲードのエギルんとこでしょ」

「ううん、迷宮に」

 

 迷宮か……どうせ、エギルのとこ行くだろうから、そっちに行ってればいるかな。

 

「よし、エギルのところ行くよ」

「はい」

「え!?ちょっと待ってよ」

 

一年ほど前に購入した二十二層の自宅から数分、そこからまた、アルゲードをさ迷って数分、商人にして一流斧使いのエギルの店に着いた。

 

「ほら、入るよ」

「あ、うん」

「はい」

 

 私たちは店に入るが、キリトとエギルが話しているようで、私たちに気づかない。

 

 アスナがキリト君の肩をつつく。

 

「キリト君」

 

 ちなみにアスナには、護衛が付いていて、その人たちもいるので、店の中はいっぱいだ。

 

 元から狭いせいもあるだろうが。

 

 つつかれたキリト君は、アスナの手を掴み、振り向いて私を見ると、私の手も掴んで言った。

 

「シェフ捕獲」

「な……なによ」

「ふにゃ?何かな?」

 

 私とアスナの手を掴んだことにより、アスナの護衛の一人、長髪の何って言ったっけ、その人がキリト君に殺気を向けている。

 

 ファリアに関しては、剣に手をかけている。

 

 まったく、止めろっての。

 

 キリト君は私たちの手を離して、その二人に向かって手を振りながら言葉を返した。

 

「珍しいな、アスナ、ヒナ。こんなゴミ溜めに顔を出すなんて」

 

 キリト君が私とアスナを呼び捨てにしたのを聞いた、護衛の人とファリアの顔が引き攣る。

 

 ついでに、店をごみ溜め呼ばわりされたエギルも。

 

 まあ、エギルはアスナのおかげで大丈夫そうだ。ていうかファリア「まさか、ヒナ様に浮気相手が」とか「シリカ様に報告しなければ」とか言うのやめてくれるかな。

 

 ファリア知ってるよね?キリト君のこと。

 

 そんな事考えてると、ファリアがエギルを指差して言った。

 

「駄目ですよ!このような、ごっつい人とお付き合い何て!」

「そっちかい!つか、付き合わんわ、こんな奴と」

 

 私がそう言うと、ファリアは「なんだ」と言って安心し、エギルは「こんな、こんな……」と繰り返し呟きながら、涙を流している。

 

「ははは……それより、何でこんなとこに来たんだ、って質問だったよな?で、何でだ?」

「なによ。もうすぐ次のボス攻略だから、ちゃんと生きてるか確認に来てあげたんじゃない」

「私は付き添いだよ〜」

「フレンドリストに登録してんだから、それくらい判るだろ。もしくは、ヒナに聞けば簡単なことじゃないか。そもそもマップでフレンド追跡かヒナの勘でここに来れたんじゃないのか」

 

 キリト君が言うと、アスナはぷいっと顔をそむける。

 

 可愛いなぁ。襲いたくなっちゃう。

 

 おっと、危ない危ない。自制自制っと。

 

 私がそんなことを心の中でやっていると、アスナが両手を腰に当てつんと顎を反らせる、ツンデレ御用達の仕草で言った。

 

「生きてるならいいのよ。そ……そんなことより、何よシェフどうこうって?」

「私も気になるな〜」

「あ、そうだった。お前たちいま、料理スキルの熟練度どのへん?」

 

 料理スキルね。

 

 私、ソードスキル(剣技)使えないから、職人系(そこらへん)上げてるんだよね。

 

 料理の他にも、鍛冶とか上げてるんだよ。

 

「聞いて驚きなさい、先週に《完全習得(コンプリート)》したわ」

「なぬっ!」

「私はかなり前から、コンプしてるよ〜」

「ああ、知ってる」

 

 知ってるなら聞くなよ!

 

 てか、アホか、アスナは。

 

 熟練度とは、スキルを使用する度にちょっとずつ上がっていき、最終的に一○○○に達して完全習得になる。

 

 ちなみに経験値により上がるレベルとはまた別で、レベルアップによって上がるのはHPと筋力、敏捷力ステータス、それから《スキルスロット》という習得可能スキル限界数だけだ。

 

 私は今確か、十四ぐらいのスキルスロットがあるが、コンプに達しているのは、料理、裁縫、細工、索敵、隠蔽、それと特殊なのを一つと戦闘に関係ないのがあるが、普通の攻略組プレイヤーは基本、戦闘スキルをコンプしている。私みたいなのは……居るはずがない。

 

 つまりアスナは、攻略組のトッププレイヤーながら、戦闘の役に立たないスキルに途方もない時間をつぎ込んだわけだ。

ちなみに私は、節約のために料理していたら、いつの間にかコンプしていた。

 

「……その腕を見こんで頼みがある」

 

 私とアスナを手招きし、アイテムウィンドウを他人にも見える可視モードにした。

 

 何々?

 

 アイテムウィンドウを可視モードにして、料理ってことは、レア食材かな?

 

 そう思って除き込むと、案の定レア食材があった。

 

 しかも、S級という超レア食材。

 

 それを見たアスナは、それを見るや否や目を丸くして驚いた。

 

「うわっ!!こ……これ、S級食材!?」

「すごいねぇ」

「取引だ。こいつを料理してくれたら一口食わせてやる」

 

 料理するのはいいんだけど、私も持ってるんだよね。

 

 まあ、一人で食べるのも寂しかったし、ちょうどいいか。

 

 私はいつでも食べれるからいいんだけど、アスナは違うようで、キリト君の胸ぐらを掴み、顔の数センチの距離まで引き寄せて、言った。

 

「は・ん・ぶ・ん!!」

 

 そんなに食べたいのか。

 

 その積極さを恋路に使いたまえよ。

 

 キリト君は迫力に負けたのか、はたまた女の子との距離の近さにドギマギしたのか判らないが、頷く。

 

 アスナはやったと左手を握る。

 

 そしてキリト君はウィンドウを消去しながら振り向き、エギルに言った。

 

「悪いな、そんな訳で取引は中止だ」

「いや、それはいいけどよ……。なあ、オレたちダチだよな?オレにも味見くらい……」

「感想文を八百字以内で書いてきてやるよ」

「そ、そりゃあないだろ!!」

 

 私たちが、この世の終わりか、といった顔で情けない声をだすエギルを無視して歩き出そうとした途端、私とキリト君のコートの袖をぎゅっとアスナが掴んだ。

 

「でも、料理はいいけで、どこでするつもりなのよ?」

「うっ……」

「あ、忘れてた」

 

 まさか、場所を忘れるなんて。

 

 私の家でもいいんだが、今日はちょっと。

 

 となると、キリト君かアスナの家になるんだが、キリト君の家じゃレア食材はきついだろう。

 

 消去法でいくと、残るはアスナだ。

 

 アスナの家は料理の道具もあるし、きれいだから適任だろう。

 

 私がアスナに期待の眼差しを向けると、アスナは呆れながらも答えた。

 

「仕方ないなあ。どうせ君の部屋にはろくな道具もないでしょ。で、ヒナの家は汚れてるとかでしょ。今回だけ、食材に免じてわたしの部屋を提供してあげるわ」

 

 さすが、アスナ様。

 

 私のことを判ってるぅ。

 

 そして、アスナは警護の人たちに向き直り、声をかけた。

 

「今日はここから直接《セルムブルグ》まで転移するから、護衛はもういいです。お疲れ様」

 

 うーん、ファリアは……連れてくか、だってなんか、さっきから目で「私にも食べさせてくれますよね?食べさせてくれたら嬉しいなぁ」って言ってるんだもん。

 

 断ったら私が悪役みたいじゃん。

 

 と、私がそんなことをしてると、護衛の一人が叫ぶ。

 

 あれぇ?名前なんて言ったけ?

 

 確か、クラッデールだっけ?

 

「いや、絶対違うだろ」

 

 おお、私の心を読むなんて、さすが相棒。

 

「ア……アスナ様!こんなスラムに足をお運びになるだけに留まらず、ヒナ様はともかく、素性の知れぬ奴をご自宅に伴うなど、と、とんでもない事です!」

 

 大丈夫かなぁ?この人。

 

 かなりのアスナ崇拝者だよ。

 

 そう思ってアスナに目を向けると、アスナも相当うんざりしたご様子だ。

 

「このヒトは、素性はともかく腕だけは確かだわ。多分あなたより十はレベルが上よ、クラディール」

「な、何を馬鹿な!私がこんな奴に劣るなどと……!」

 

 劣らないわけがない。

 

 だって、私のパートナーだよ。そこら辺の攻略組みなんかに負けるわけないじゃん。

 

 キリト君よりレベルが高いのなんて、私とヒースだけじゃないかな。

 

「そうか……手前、たしか《ビーター》だろ!」

 

 ビーターとは、《ベータテスター》に、ズルする奴を指す《チーター》を掛け合わせた、キリト君により生まれたSAO独特の蔑称だ。

 

「ああ、そうだ」

 

 ああ、そういえばキリト君、そう呼ばれるの嫌いだったな。

 

「アスナ様、こいつら自分さえ良きゃいい連中ですよ!こんな奴と関わるとろくなことがないん!」

 

 私もそうなんだけどね。

 

 まあ、私は自分さえ良きゃいいなんて思ってないけど。

 

 というか、いつの間にこんなに野次馬が集まったの?

 

 そんなことを考えてると、アスナが興奮の度合いを増すばかりのクランデバル(絶対違うな)に、

 

「ともかく今日はここで帰りなさい。副団長として命令します」

 

 とそっけない言葉を投げかけて、左手でキリト君のコートの後ろのベルトを掴み、そのままゲート広場に向けて引っ張っていく。

 

 私とファリアはそれについていった。

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