真・恋姫†夢想 とある家族の出会い 『転の幕』
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 『転』の幕 『それは避けえぬ((運命|ストーリー))、なの』

 

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  陛下たちと茶会をしたその日の夜。明日には宮中に、すべての黒幕であるはずの王允その人を呼び出しそして詰問することで、今行われている反董卓連合の戦い、それも含めたすべてに決着をつけることになるであろう、と。そう劉弁陛下から聞かされた俺は、少しばかり寝付けずに夜の中庭を散歩していた。

 理由は興奮。

 歴史上では愚者として記録に残り、董卓によって母親ともども表舞台から消し去られた、少帝こと十三代皇帝劉弁。ところがところが、この外史における彼は間違いなく聡明な名君であり、真剣に世を、民の苦渋を憂う、まさに皇帝としてふさわしい人物だった。逆に、成人してからはともかく、幼い頃はこちらの方が聡明な名君の器であるとして董卓に担がれることになった、後の献帝こと劉協は、脳に生まれつきの病による障害を持つ、皇帝として人の上に立つことはおろか、日々の生活も誰かの援けがなれば出来ないという、そんな状態の人物だった。

 歴史は常に捏造された過去をはらむ。

 正直いえば、はっきりと過去のことを断定できるのは、せいぜい十数年単位までしか不可能だと、俺は思っている。もちろん、明確な、信用の深く置ける資料もたまにはある。けれど、哀しいかな時代の支配者というのは常に、己にとって都合の良いことしか後世に残さないものだ。

 だから、歴史の真実の姿を本気で確定するのであれば、タイムマシンでも使ってその時代に直接赴くしか、その手段は皆無といって良いだろう。

 外史。それは厳密には、真実のというか、本当の正史の過去ではない。あくまで、人の想念を媒体にして具現化した、過去の史実を基にして創られた世界でしかない。けれど、それでも、こうして歴史の重要な分岐点となるであろう舞台に、俺は今直接、ああもちろん今のこの体も作り物なんだけど、けどそれでも、この意識は俺自身のものに違いはないのだからあえて直接と言わせてもらうが、直接、事態を己で体感できる。それによる興奮で、今の俺は超テンションMAX状態だったりするのだ。

 

 「……眠気、ちっともさして来そうに無いなあ……どうしたもんだか。って、あれは」

 

 それは、昼間、みんなと茶会をした東屋。もうすっかり闇の帳の落ちたこの時刻に、俺以外の人影がぽつんと座っているのが見て取れた。

 

 「か、いや、北郷殿?こんな時間にどうされたので?」

 

 そう、それは一刀、だった。何かをしているわけではない。本当に、ただ、一人でぽつんと、東屋の椅子に座り、満点の星の輝く夜空を眺めていた。

 

 「?徳さん……でしたっけ?いや、なんか寝付けないんで散歩に来ただけなんですよ。貴方は?」

 「なんだ、ご同輩でしたか。……すこし、ご一緒しても?」

 「ええ、どうぞ」

 

 そうしてしばらく、俺は一刀と色々話をした。天の、正史の世界でのこと。この世界に来てからのこと。月や詠たちと出会ったときの、そのとんでもないギャップに驚いたことや、劉協に気に入られ、そのそばにほぼ常に張り付いていないと、泣き出して手に負えないこととか、その様を見た劉弁に申し訳なさそうな顔を向けられ、一刀はそれに黙って微笑み返すという、そんな感じの日常を送っていること、などなど。

 こうして実際のところ対峙してみると、今目の前に居る、この物語の主人公となっている北郷一刀という人間は、ありていに言ってしまえば、どこにでも居る普通の人間、だった。

 この体のように武に秀でているわけでもない。賢者と言われる人種のように知恵に秀でているわけでもない。知識と発想。それだけが、この時代の人間との些細な差異だというだけの、ごくありふれた、どこにでも居るような青年。 

 そして結論付けた、大多数の外史において一刀が男女問わず、人に好かれる理由。それは、彼自身の柔和な人となりに加え、やはり、この時代の人間とは、感性や物事に対する考え方が違う、その一言に尽きるだろう。

 この外史において、身体能力や知恵に優れた、常人の域を大きく超えた存在と言うのは、そのほとんどが女性である。それゆえに、外史の住人たちはおのずと、武将や軍師といった立場にある彼女らのことを、ほぼ女性として扱うことが無いのだ。女尊男卑というわけではけしてないが、無意識に、誰も彼もが彼女らとは一線を画してしまうのである。

 そんなところに、一刀のような、正史世界での通常の考え方を、女性と言うのは元来か弱い、それで居て芯のとても強い存在である事を知る人間が現れ、普段どおりに接すればどうなるか。……惹かれない人間のほうが稀有であろう。

 

 「……なあ、北郷殿?」

 「なんです?」

 「……北郷殿にとって、董卓軍…いや、この世界の武将や軍師たちは、彼女らはどういう風に映っている?」

 「……そう、ですね……最初は、俺の知ってる歴史上の人物と性別が違ったりして、正直と惑いましたけど、でも」

 「でも?」

 「ただ、“それだけのこと”、でしたね。月も、詠も、霞も、恋も、ねねも、華雄さんも、劉弁陛下も劉協殿下も、みんな、普通の人間だった。時折愛らしい一面も見せる、素敵な女性たちばかりですよ。あ、陛下だけは男性だけど」

 「はは、そうだな」

 

 ……そういう感性。誰も彼もを平等に扱える思考をした正史の人間としての彼だからこそ、老若男女問わず、惹かれるんだろうな。

 

 「……ところで北郷殿?さっきお前さん、協殿下はお前さんがそばに居ないとぐずって仕方ないとか何とか言っていたよな?」

 「一刀、で構いませんよ。ええ、確かにそう言いましたけど?」

 「……就寝中も、か?」

 「ええ……あ、でも、今日は珍しく、俺が床から離れてもぐずらなかったな。すやすや静かに、寝息を立てていたっけ」

 「……」

 

 なんだろう。

 何か。

 今、俺の頭、いや、心によぎった、嫌な感覚は……【ゾクッ!】

 

 「ッッッ!」

 「?徳さん?あの、どうかしまし」

 「まさか今のは……戦気?しかもこれは……後宮の方……ッ!」

 「え」

 

 《うおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!》

 

 「な、なんだ今の声!?」

 「一刀!すぐにみんなを叩き起こせ!後宮に何者かが押し入ってる!それも結構な数がだ!!」

 「え?え?え?な、何でそんなこと」

 「俺は戦場に昇る独特の空気、戦気を感じられる体質なんだよ!それが後宮の方でかなりの激しさで立ち昇ってる!!いいから早く行け!このままだと陛下と殿下が危険だ!」

 「わ、分かった!」

 

 俺にそう促された一刀が、足早に城中へと駆け出していく。そしてそれを見送りながら、俺は俺で後宮へと繋がる道へと一目散に駆け出し、禁門を目指す。

 いったいどこの誰が、こんな夜分に宮中に、しかも禁門の内側、後宮に兵を……って、一人しか居ないか!どうやって察したかは知らないが、おそらくは王允その人が、自らが誅滅させられるその前に、先手を打って行動に出た。そんなところだろう。

 けど。

 

 「……詠の話じゃ、事は相当内密に進めていたはずなのに、どうして露見したんだ……?誰か内通者でも居るって言うのか……?」

 

 その答え。それを俺は、もうこのすぐ後に知る。それも、誰もがまさかと、その目と耳を疑う、とんでもない事実とともに。

 

 

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 「この逆賊どもめらが!ここを宮中、禁門の内と知っての狼藉か!」

 

 禁門を封鎖していた禁軍の兵を問答もそこそこにぶっ飛ばし、後宮に辿り着いた俺がそこで見たものは、宮殿の入り口に、護衛の王?さんに守られる格好で立ち、一人の老人と相対する劉弁陛下、だった。おそらく、あの老人が漢の司徒、王允子師、その人なのだろう。数十人の禁軍兵らしき男たちを引き連れ、主君であるはずの陛下に刃を向け、憎悪に凝り固まった顔で彼のことを睨み付けていた。

 しかし、何かがおかしい。

 憎悪で狂気に染まっている王允のことではない。その彼に付き従っている、兵士たちの方が、だ。……まったくと言っていいほどに、その彼らから生気を感じないのだ。人形。そう表現するのがぴったりなほど、兵士たちは無言無表情でただそこに居るのだ。

 とっさに、俺はその場に飛び出さず、物陰に息を潜めて様子を伺うことにした。このまま下手に飛び出しては、色々と危険だ。そう、勘が働いたからだ。

 

 「逆賊とは異なことを。臣は漢の臣として、忠実に従っております。世を不逞に乱す愚帝に天誅を下し、漢の世に相応しき真の王者を奉戴して」

 「愚帝……朕を愚帝と申すか、王允」

 「地上の天たる皇帝という身にありながら、その己を民草などより下においた政をする、そのような皇帝としての尊厳を忘れた者を愚帝と呼ばず、なんと呼べばよろしいか?」

 

 皇帝とは天上が地に遣わした、天の代弁者、いや、天そのもの、大いなる日輪なのである。地、すなわち民をはるか高みよりその威光を持って照らすこと。それが皇帝という名の日輪のあるべき姿であると、王允を始めとするほとんどの宮中に仕える官吏たちは、そう考えているのである。その日輪が自ら地に降り、有象無象の民草如きと同列、否、下位に己を置いての政をするなどということは、彼らからすれば皇帝の、朝廷の尊厳を文字通り地に落とす行為に他ならなかったのであろう。

 

 「皇帝であれ諸侯であれ、おぬしら官吏であれ、民なくして生きることなど出来ぬ、朕はこれまで、再三にわたりお主らにそう説いて来たはず。民があればこそ食も衣も住も満たすことが出来る、それが為政者の真実だとな。……それがどうしても、そなたらには理解出来なんだのだな」

 

 心底から哀しそうに。劉弁陛下はそう、王允に対して小さな声を漏らす。そして、その意外にも過ぎる人物が、その姿を公の場に現したのだ。

 

 「……理解出来ないのは兄上、いえ、“姉上”の方でしょう?」

 「な……に?」

 「協……殿、下?」

  

 なんだこれ。

 なんで?なんで、ここで協殿下が出てくるわけ?しかも。

 

 「……協、そなたが何故ここに……?いや、それより、そなた」

 「病はどうした?そう仰りたいのでしょ?姉上様。……あれが実は全部お芝居でした、そう言ったら、信じていただけますかしら?」

 「芝居……?いやまて。いつだかの医者も確かに言っておったではないか!そなたの病は」

 「ええ、“あの時は”。……でもね、姉上様?私はこうして、治っておりますわ。それも十年も前から。“于吉”老師のおかげで」

 

 ……は?于吉?于吉って、あの、于吉、ですか?眼鏡で真性のホモの?奴が……この外史に絡んでいた……と?

 

 「……本当に苦労したわ。周りの目を誤魔化すために、十年も童子のままのふりを続けるのは。彼から授かったこの銅鏡が無ければ、己に自己暗示をかけるこの秘術が無ければ、とっくに芝居は破綻していたでしょうね」

 「……何故じゃ」

 「ん?」

 「何故、何故そうまでして、朕を、皆をたばかる必要があったと言うのだ!?治っておるなら何も」

 「……本当に、やっぱり、姉上様は愚者ですわね。そんなことだから、あの董卓などという小娘にほだされ、皇帝は民の小間使い、なんていう愚にもつかない考えに至るのですね」

 「そうであろうが!皇帝とはいえ一人の人間よ。支えてくれる民がおらねば、生きていくことなど出来はせぬ!食を自ら作れるか?!糸を自ら織れるか?!家を自ら建てられるか?!すべてを生み出すは皇帝ではない、地の恩恵を受ける民じゃ!それぐらい童でも分かろうが!」

 

 そうだ。どんな立場に居る人間だろうが、それを生み出すことの出来るものが大勢居るからこそ、生きてその立場に居られるんだ。それぐらい、普通の常識を持っていれば誰でも分かること……のはずだ。

 

 「……だから愚にもつかぬ、と申し上げています。いくら民がそうしてものを生み出そうとも、それを使うものが居らねばすべては無用の長物。それを有用に利用し、民草に次なるものをまた生み出す気にさせる。そう、活力と言うものを与えてやる者があったればこそ、民草はまた次なるものを生み出そうとするのです。そしてそれこそが皇帝の、民草という目先の利かぬモノどもを導いてやる者のすべき事です」

 「夢……おぬしは、誰にそのような考えを……」

 「わが母王氏、そしてそこな王允。そして于吉老師。三方に教わった、神によって選ばれし皇帝の、皇帝たりうるあり方ですわ」

 

 ……なんてこったい。これは帝王学、なんていいものじゃない。もちろんその国の状態とか色々大前提もあるが、独裁政治もけして悪い事とは思ってないのが俺だけど、これじゃあただの選民思想じゃないかよ。

 ……もう、見てるのはこれが限度、か。どうあがいたところで、両者が歩み寄れる点は無い。一触触発のこの状況、打破する為には……やるしか、ない。

 

 

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 結局、俺に出来た事は一つだけ。その場に躍り出て、生気の全く感じられない禁軍兵たちを根こそぎぶっ飛ばし、その流れで王允のジジイをたたっ斬って、陛下の身柄の安全を確保することだけ。けど、于吉の名が出た時点で、兵たちに生気の感じられないその理由、それに気付くべきだった。

 

 于吉。

 俺と同様、管理者の席にその身を置くアイツは、数ある術の中でも操作系、つまり何がしかを操る事に長けている。大気の屈折率を変えて姿を見えなくしたり、別の姿に見えるようにしたりなんてことはお茶の子さいさい。ヒトガタ、つまりは意思を持たない人形を無数に生み出し手駒とするのも、アイツの得意技の一つだ。

 そう。ヒトガタ、だったんだ。

 王允が率いていた兵士は、于吉が彼に与えたのであろうヒトガタが、禁軍兵の姿をとっていたモノだった。本来、俺達管理者にかかれば、ヒトガタ程度は眼前の紙切れ以下に過ぎない。けど、今のこの体は、外史世界に降り立つために調整して作った、外史の住人と同程度以上には力の発揮できない身体でしかない。

 それゆえに、死ぬ事も無く、呪の消されない限り動くヒトガタに、さすがの俺も苦戦せざるを得なく。応援に駆けつけてくれた華雄と一緒に暫くは抵抗をしたんだが、結局、勝つことは出来なかった。王允にも結局、手が出せないままだったし、な。

 

 そしてその結果。

 

 「……都が……洛陽が、燃えている……」

 

 西の方角、つい今しがた逃げてきたそちらを見やると、天をも焦がさんばかりの勢いでもって上がった紅蓮の柱が、真夜中にも関らず昼間のような明るさを齎していた。

 

 「……まさか、都に火をつけるなんて……叔父上……一体、どうしてしまわれたのですか……」

 「王?さん……」

 「……あれはもはや、正気の目をしておらなんだ……夢、協同様、狂気に包まれた何かに、心を完全に蝕まれているようじゃった……ぐっ」

 『陛下?!』

 

 話をして居るその最中、突然に劉弁陛下がその場にうずくまる。見れば、背中に大きな傷が一筋、袈裟懸けに彼女の衣服を裂き、赤い染みをその破れた衣服から滲み、いや、溢れ出させていた。

 

 「酷い怪我じゃないですか!なんで黙っていたんです!」

 「……言うたところで、それが原因で、皆、逃げられなくなるだけだったろう?」

 「そんなこと」

 「朕の怪我を何処かで治療しようとなれば、必ず足を止めねばならんしの。……まさか、担いで逃げながら治療、と言うわけにもいくまい?う、ぐ……っ!」

 「ならせめて応急処置だけでも……失礼します!」

 「ほ、?徳?!まて、暫時待て!治療は彦雲か華雄に……っ!」

 

 何故だかとっても慌てふためく劉弁陛下だったけど、どうも俺って奴は、何か一つに集中してると周りの声が耳に入らなくなるらしく。彼の制止も聞かず、そして王?さんの静止も間に合わず、彼の着る衣服を無礼を承知で無理矢理引き剥がした。

 ……そう、はがしちゃったんだよ、これが。うん。

 

 「……さら……し……?たに……ま?……え?え?うそ」

 「こ、この無礼者の恥しらっ……あぐっ……!」

 「お、女の子、だったんですか、陛下……?」

 

 あ。そういやさっき、協殿下が陛下の事、姉上って呼んでいたっけ。いや、あまりな状況にすっかり気がつかなかった。

 と、その時。

 

 《がさがさっ》

 

 『っ?!』

 

 今、俺達は都から少し離れた場所の森の中に、その身を隠しているわけなんだが、突然、木のこすれる音が俺達のすぐ傍から聞こえた。とっさに身構えた俺と華雄、そして王?さん。そしてそこから姿を現したのは。

 

 「……あれ?もしかして、?徳さんに華雄さん、ですか?」

 「……徐庶さん?」

 

 ツインテールをぴこぴこ揺らす、青い瞳のその少女。何で彼女、こんなとこに居るの?が、俺と華雄の素直な感想。荊州は水鏡塾に向かった筈の徐庶が、ひょっこりその顔を出したのだった。

 

 そしてそれから二時間ほど経った後。

 

 「……はい、これでよし、と。血は止めましたけど、まだまだ予断の許さない状態であることには違いありませんから、早い所専門の医者に診せた方がいいですよ」

 「ああ、ありがとう、徐庶さん」

 

 背中の傷の治療が終わり、徐庶が処方したと言う睡眠薬が効いているのか、すやすやと寝息を立てる劉弁陛下をほっとしながら見つつ、俺は徐庶に改めて礼を言った。なお、今室内に居るのは俺と彼女、そして眠っている陛下のみ。華雄は主公が心配だからと言って一人洛陽へと戻り、王?さんは王?さんで、何時の間にやらその姿を消してしまっていた。

 

 「けど、吃驚したよ。まさか君が未だに長安に留まっていて、しかもあんなところに出てくるなんてさ」

 「私の方こそ吃驚ですよ。荊州に行こうとして途中でがけ崩れに巻き込まれて、怪我こそ大した事無かったけど長安に戻るのを余儀なくされて。でもって養生がてら釣りに行こうとしたら、女の子をひん剥いてる真っ最中の?徳さんに出くわして」

 「……その言い方は語弊を招くから止めて下さい……」

 「あはは、分かってますって。彼女の治療、しようとしていただけですよね?……けど、この人何者なんですか?着ている物はとっても上等だし、何よりこの」

 

 龍の刺繍の服なんて、普通なら不敬罪ものですよ? 

 と、そういう彼女の顔は凄く真剣で。真っ直ぐ俺を見つめるそのコバルトブルーの瞳が、嘘やごまかしは通じませんよ?と、そう言っているように見えた。

 ま、仕方が無いか。結果的に匿ってもらう形になってしまったし、ほんとのことを話して、これからどうするか、彼女自身に決めてもらうしかないか。関らず、俺たちなんかほっといて、どっか行ってくれることを選ぶなら、彼女のためにもその方がいいだろうし。

 

 

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 「皇帝陛下……」

 「そう。漢の十三代、今はもうおそらく、既に亡き者とされてしまってしまっていて、少帝とでも((諡|おくりな))されているだろう、劉弁陛下だ」

 「……そういうこと。東の空が異様に明るいのは、都が、洛陽が燃えている炎の灯り、だったんですね」

 

 たったそれだけのわずかな情報。なのに、彼女はそれだけで全てを悟ったようだった。流石、徐庶元直の名は伊達じゃないな。

 

 「……で?これからどうするんです?都に戻って逆賊を討つとでも?」

 「……彼女の、陛下の考え次第……かな?」

 

 まさかこんな展開になるなんて予想だにすらしてなかったし、俺にはこの窮地を乗り切れるような頭もないからな。出来る事なら、このままどっか、人目に付かない山奥にでも身を潜めたいところだけど。……この、子供みたいな幼い顔で眠ってる少女は、多分聞かないだろうな。

 

 「……さて。先ずはその前に、ちょっと行ってくるとしますか」

 「え?行くって……どこにですか?」

 「都」

 「何しに?」

 「無茶が専売特許の猪さんを助けに、ね。申し訳ないけど、陛下のこと、暫く見ててもらっていいかい、徐庶さん」

 「……はあ〜、しょうがないですね、もう。こうなったら乗りかかった船です。あ、それと」

 「ん?」

 「((輝里|かがり))です。今後はそう呼んで下さい」

 

 ……もしかして、真名、ですか?……良いのかな?

 

 「相手に対する信用の証として、真名ほど相応しいものは無いでしょう?そちらが事情を打ち明けてくれた、その信頼に応えるにはこれ一番ですからね」

 「……分かった。なら、俺の事も狼、そう呼んでくれ」

 「ロウ、ですね。……あー、でも……」

 「ん?なにか問題が?」

 「あ、いえ、そうでなく。……なんか、貴方を見てると、死んだ父と面影がダブって見えてしまうもので……全然似てないのに、なんだか変ですけどね。なので、その、真名で呼ぶのがどうも違和感みたいなのが」

 「……なら別に、父さんって呼んでも構わんぜ?多分、年齢的にはそれぐらい離れてる筈だ」

 

 まああくまでリアル年齢の話ですけどね。

 

 「……ま、慣れたらってことで。では、気をつけて……((義父|とう))さん」

 「ふっ。……あいよ」

 

 ……義父さん、ねえ。……なんか、へんな気分だな、こそばゆいような、なんか嬉しいような、そんな感じ。さてそれじゃあ気を取り直して、華雄の助太刀に行くとしますかね!……間に合ってくれればいいけど。

 

 そして場面は、紅蓮の炎に包まれる都、洛陽の街のその近郊。水関、そして、虎牢関をも抜いた、反董卓連合の軍勢と、都へとかろうじて逃れた董卓軍が相対する中、その戦いは繰り広げられていた。

 

 「おおおおおおおっ!」

 「はああああああっ!」

 

 巨大な戦斧と研ぎ澄まされた剣。それらが十合、二十合と何度もぶつかり合い、激しく火花を撒き散らす。

 

 「ふんっ!やはりやるな、孫策!?徳の奴に一撃で吹き飛ばされたときは、所詮その程度のものかと思ったものだが」

 「?徳?ああ、あの水関に突然出てきた変な奴?」

 「ああ、その変な奴だ。……しかしやはり、あの虎の子だけある。素晴らしい武の持ち主だ。……私の、最後の舞台の相手に、これほど相応しいものはおらん!」

 「あら?もう最期だって覚悟、出来ちゃってるんだ。……なら、そろそろ逝かせてあげる!」

 

 緊張が張り詰める。華雄と孫策。互いに、最期の一撃を相手に振るうため、全神経をその手に集中させる。そして。

 

 「おおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!」

 「はああああああああああああああっっっっ!!」

 

 一瞬の交錯の後。

 

 「……ぐは……月さま……申し訳……ありません……みな……ほう、とく……先に……逝く……ぞ……」

 「……董卓軍が将、華雄!孫伯符が討ち取ったあーーーーっ!!」

 

 大地に倒れこむ華雄の姿を一瞥した後、孫策は高らかに己が愛剣、南海覇王を掲げてそう宣言をする。これで、最後まで残っていた董卓軍だった軍は、事実上完全に全滅した。張遼は既に水関にて囚われ、曹操軍に降り。呂布と陳宮もまた劉備軍に捕縛されて、その軍門に降ってしまっていたから。

 ……つまり、反董卓連合の戦いは、これでほぼ終結した。俺は結局、間に合わなかった。そうだ。間に合わなかったんだ。華雄が死ぬ所。それを、遠目に捉える事ができた。ただ、それだけだったんだ。

 月と詠がどうなったかも、まだ分からない。このままなら、おそらく、劉備軍に拾われて、名を捨て、生き続けてくれはするはず……だ。

 けど。

 それでも。

 

 「……納得……出来るもの……かよ……っ!」

 

 背に背負った狼牙王に、おれがそう呟きながら手をかけたその時、背後に、一つの気配が現れた。それは。

 

 「……王?……さん?」

 「ええ、私よ、?徳さん。……いえ、甲級管理者、第132の席、挟乃狼さん?」

 「な!なんで貴女がそれを……っ!?」

 「あ、そうね。こっちの姿は、あなた達には縁があまり無かったものね。普段、本局じゃあこっちで居る事が多いものね」

 

 ぽんっ!と。そんな音と供に白い煙に、王?さんの身体が包まれたかと思いきや、次にそこに立っていたのは。

 

 「っはっああああああい!みんなのあいどる、らぶり〜貂蝉ちゃんよおおおおおんっ!ぶるあああああっ!」

 「でたーーーーーーーっ!」

 

 ええ、そうですね。彼女が王允の姪、って時点で、これにも気が付くべきでしたね。そりゃまあ今でこそは、ね?もうこいつら漢女の姿にも慣れたし、人格だけ見ればいいヤツラなんで、前ほど嫌悪感というか拒絶感は出ないし、つかむしろ共感できる呑み友達?な感覚がしているもんだから、人間って何でも慣れるもんなんだなあ、と、つくづく思う俺だったりしてるわけだが。

 でもまあこの頃はまだ、見た目イメージの方がどうしても先に来ちゃってたわけで。おもわずスキンヘッドのビキニマッチョが現れたのに反応して、大絶叫しちゃいました。

 

 

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 ……………………………………………

 

 

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 「……なんだ、これ……は」

 「嘘……一体何が起きてるっていうの……?!」

 

 あの後。貂蝉の姿を見て大絶叫を上げたせいか何なのか、冷静さを取り戻すことの出来た俺は、連合軍が洛陽に消火作業のために入ったのを確認した後、雪蓮こと孫策の手で絶命した華雄の遺体の傍に歩み寄った。せめて、弔いだけでもきちんとしておいて上げたい、そう思ったからだ。

 ところが、俺たちが彼女の遺体を抱え上げようとしたその途端、華雄の体がぼんやりと光りだしたかと思えば、ついさっきまで土気色をしていた彼女の顔に、みるみる生気が戻って来始めたんだよ。一体、彼女に何が起こってるって言うんだ?

 

 『……管理者、乙級五の席、貂蝉。同、甲級132の席、狭乃狼。我の、我らの声が届いていようか?』

 「っ!その声、((意思|ウィル))、か?」

 

 それは紛れも無く、すべての世界の意思の集合体にして代弁者たる者にして、俺たち管理者を管理者として選んだ存在、ウィルの声、だった。それが、意識の無い華雄の口を通して、唐突に俺たちに語りかけてきた。

 

 『左様。我、我らはウィルと呼ばれる存在。汝らに告ぐ。この者、良き“素質”を持つ事、我、我らは認めり。よって、我、我らがこの者の体と魂、預かるものなり』

 「……うっそ。まさかウィル、アナタ、華雄ちゃんを管理者にする気?」

 『是。時は少々かかろうが、肉体と魂を再構築した後、狭乃狼、この者、そなたの預かりとして、そなたの観測室へと送るゆえに、委細承知するよう』

 「って、え?!いや、んなこといきなり言われたって……あ!」

 

 俺たちがそれに答える間も無く、ウィルの一方的な宣言が終わると同時に、華雄の体が光の粒となって行き、そしてそのままはるか天へと一瞬にして飛び去っていった。

 

 「……何がどうなってるんだ、これ」

 「……私に聞かれても困るわよ……」

 『もう一つ伝えおく』

 「うおっ?!」

 

 今度は俺の頭の中に直接、ウィルのその老若男女の入り混じった声が響く。

 

 『長安にて、乙級管理者八の席、于吉。予定調和に無き事を為さんとしている。アレを止め、罰することを望む。手段は問わず、また、その結果起きた如何なることも、汝らの裁量に任せる』

 

 ……と。言いたいだけ言って、それきり聞こえなくウィルの声。……相変わらず勝手だな、んとに。けどまあ。

 

 「于吉のアホが何かしでかそうとしてるってんなら、それを止めるのに是非も無い。貂蝉、お前は?」

 「もおちろん一緒に行くわよ。事によると、白ちゃんにも何かしら影響があるかもだし、ね」

 「……白ちゃんって、もしかして、劉弁陛下のことか?」

 「そうよん。あの子の字、白亜をもじったの。可愛い呼び方でしょ?」

 

 ……史実の劉弁に字ってあったっけ……?まあ、外史でその辺を気にしたら負け、か。

 

 「じゃ、とっとと長安に行きますか。あのアホが何をする気かは知らんが、どうせろくでも無いことに決まってやがるし」

 「(ぽんっ!)では、参るとしましょう、令明殿」

 「……」 

 「?あの、何か?」

 「……いや、なんでもない。ああ、それから俺の事はいつもどおり、狼で構わん」

 「なら、私も貂蝉、と。さ、逝きましょう、狼!ぶるああああああっっっ!!」

 

 お願いですからその姿でその叫びは止めてください……なんか色々台無しですから……。例の咆哮を上げながら、西を目指して一気に駆け出す乙女モード貂蝉のその跡を追いつつ、そんな風に心底から思っていた、この時の俺。

 そして、それから一時間ほど経った後。前漢の都であった長安に戻った俺たちが見たものは。

  

 「……白、ちゃん……?!」

 「輝里……っ!」

 

 人気の完全に無くなった街中の、その中央にそびえる一本の柱に縛られ、ぐったりとしている輝里と劉弁陛下。そして、それらを取り囲む無数のヒトガタと、二人の前に立って厭らしい笑みを浮かべる、眼鏡のオールバックホモ、于吉の姿だった……。

 

 〜結の幕に続く〜

 

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 さて、うちの家族の出会い物語り、転の幕のお届でした。

 

 ・・・・・・華雄の死ぬシーン、やっぱり書いてて気分のいいものじゃあ無かったです。

 

 けど、こうしてこの外史において一度死を迎えたからこそ、ウィルによって選定の機を得る事になったわけですから、仕方の無い事だったんですけどね。

 

 そして輝里と命については、結末を次回、結の幕にまわす事にしました。このまま続けてこの回に盛り込んだら、確実に二万字オーバー確定ですし、起承転結の流れからも、真のクライマックスはやはり最終話だろう、と。そう思い至った次第です。

 

 ではまた次回、最終幕、結の幕にて、お会いしましょう。

 

 再見〜w

 

 

説明
自己満乙、です、ハイwww

というわけで、うちの家族の出会いを描くss、第三話にてございます。

例によって長いですが、少々お付き合いのほどを。

であ
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コメント
たこむきちさん<うみねこ見てないのでそっちのウィルは知りませんwww(狭乃 狼)
M.N.F. さん<初見ドモ<(^ヮ^)>(狭乃 狼)
| 壁 |д・)見たい…けど見たくない…このジレンマ…ウィルというとどうしてもうみねこを連想してしまいますね(たこきむち@ちぇりおの伝道師)
初見<(?ヮ?)>(M.N.F.)
一丸<長男?・・・義理の息子ってのはまあ認めるとしても、君の場合は三男になるよ?何しろいちお、生物上は男も、居るには居るからねw(狭乃 狼)
あっ、確かに文章がおかしいww逆になってるww御指摘ありがとうございます?(こんな事いうのなんかおかしいなあ〜)そして、義妹(命との関係に進展がないので、私は狼さんの義理の息子(長男)のはずww)にO☆HA☆NA☆SHIされる〜〜〜にげろ〜〜〜タブン無駄だけど〜〜〜〜ε=ε=ε=ε=ヾ(;◎_◎)ノ ヤバヤバ (一丸)
summonさん<アイツは基本、そう言う役回りなんですよ、ほとんどの外史においては、ねw一刀は勿論あの二人と一緒にいますよ。何処かの陣営に、ねw(狭乃 狼)
一丸<こらこら、輝里をおまけ扱いしないように。後でOHANASHIされても知らんぞ?w 協殿下云々に関しては、順序が逆やね。医者の診た後に眼鏡ホモが治した、だね。(狭乃 狼)
mokitiさん<それもまた、結の幕にて明らかにw(狭乃 狼)
劉邦さん<何故に棒読み?www(狭乃 狼)
不知火 観珪さん<認められないけど納得はいくもの。たぶん、そんな感じだと思いますよw(狭乃 狼)
乱<眼鏡の目的は基本、二つしかないです。左慈に褒めてもらう事と、そして・・・後は秘密w(狭乃 狼)
グリセルブランドさん<それは左慈限定のことでは(えwww(狭乃 狼)
丈二<ウィル曰く、管理者の候補としての資格は幾つかあるそうで。内一つでも満たせば管理者になるのは、正史の人間でなくても可能・・・らしい。詳細はまあ、これが終った後にでもちょい、外伝でも書きついでに書いてみようかね?w(狭乃 狼)
于吉が暗躍していたんですね…どこに行っても邪魔ばっかりだなぁ。そういえば、一刀さんはどうなったんでしょう?(summon)
命ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!あと、おまけで輝里ーーー!!・・・劉協がゴットヴェイドーの医者(華佗 かな?)にみてもらったのに、騙すことが出来たのは、于吉が診た後に直したからだったんですね・・・さて、結の悲しいけれど、救いのあるであろう結末を楽しみに待ってます。(一丸)
于吉の真意は何なのだろうかと気になりますが、続きに期待してお待ち申し上げます。(mokiti1976-2010)
良かった〜、雪蓮無事だったんだwww。(棒読み)(劉邦柾棟)
外史の管理者ゆえの主張というものが于吉にはあるんでしょうが、なにやら認められたものではなさそうな予感……(神余 雛)
次回、遂に結の幕。一体、于吉の目的は?次回も期待して待ってます。(乱)
ホモの魔の手からは絶対に逃れられない!?(緊迫感)(グリセルブランド)
ま、こうなるよな……概ね想像はついてたが。しかし管理者候補は外史の人間でも対象なのか。一遍、狼には管理者やら意思やらの設定を訊いてみたいもんだが……(峠崎丈二)
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