魔法捜査官ほむら×モバイル 夢の中で受信した、ような…
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「さよなら、ゼロワン」

 

 

 

 

 消える、消える

 消えて行く

 俺の

 私の

 メモリーが

 自我が

 魂が

 俺自身が

 ばらばらに散って

 食われて行く

 

 

 

 ケイタ

 網島ケイタ

 

 俺の、最後のバディ

 

 お前は俺を救ってくれた

 お前は俺の標になってくれた

 

 俺は、最後にお前を守れてよかった

 お前の存在が、俺の涙を止めてくれた

 

 

 

 俺を使って間明が何かをしても

 お前とセブンならきっと何とかなるだろう

 

 

 

 ここで俺が消えても

 

 お前がこれからも生きていてくれるなら

 

 俺がバディの未来を繋げられたのなら

 

 俺が生まれた価値はあったんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが

 

 もし叶う事なら

 

 俺も

 

 バディと

 

 

 

 もっと

 

 

 

 もっと

 

 

 

 

“――――――”

 

 

 

 

 

 

 お前h・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

 ゼロワンのデータがジーンに取り込まれた数時間後

 町にあふれたジーンの全てがアクティブフォームに変形し終えたのとほぼ同時刻

 

 

 とある局の放送番組の音声が数秒だけ“ピーポーペーパー”と言う音に変わる不具合が生じたが、動いて喋るジーンに殆どの人間の意識が釘付けになっていた為、ごく一部のテレビ関係者を除き、その現象を知る物は殆どいなかったと言う。

 

 

 その数少ない者の中には、以前の大規模ウイルス事件と結びつけて情報をネットにおアップした者もいたのだが、直後に更に大きな事件が起こったため、その陰に隠れる形で話題になる事も無く、ほどなく忘れ去られていった。

 

 

 

 

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 その光景はまさに惨状だった

 

 崩れた建物、砕けた道路

 

 多くの人が住んでいたはずの町が今は見るも無残な姿に変わり果て、不吉な曇天の空には瓦礫やビルの残骸が浮かんでいる。

 

 

 まるで破滅の前兆の様なその光景の中で、二つの存在が相対していた。

 

 

 一つは巨大な歯車から逆さ吊りになって浮かぶ巨大な人形の様な怪物

 もう一つは白と紫の少女

 

 

 巨大な怪物に挑む少女の姿は、台風に挑む小鳥の様に頼りないが、少女は臆する事無く怪物へと挑みかかる。

 

 だが少女が怪物を射程に捕らえるより先に、不意を衝いて叩きつけられるへし折られたビルの残骸。認識してから回避するには巨大に過ぎるそれを受けた少女は、質量に負けてそのまま後方のビルへと押し込まれてしまった。

 

「っ!」

 

 そしてビルにぶつかる直前になんとか抜け出して押しつぶされるのだけは避ける少女だったが、そこへ今度は怪物の口から放たれた炎の様な光線が迫る。

 それを一発、二発と光線を躱すも、その直後に迫っていた三発目が遂に少女を捉えた。

 少女は咄嗟に左腕の盾と紫色の光で凌ごうとするが、わずか数秒拮抗する事しか出来ずに吹き飛ばされてしまう。

 

 

 瓦礫へ叩きつけられた少女へと更に次々と攻撃が撃ち込まれる。

 力の差は歴然かつ絶望的

 少女は致命傷を受けないようにするだけで精いっぱいで、そのささやかな抵抗すら、あとどれだけ持つのか分からなかった。

 

 

 

 

 

「ひどい…」

 

 目の前で繰り広げられる少女の華奢な体が圧倒的な暴力に晒される光景に、鹿目まどかは思わず声を上げていた。

 

「仕方ないよ。彼女一人では荷が重すぎた。でも、彼女も覚悟の上だろう」

「そんな、あんまりだよ! こんなのってないよ!」

 

 傍らの白い小動物のどこか乾いた言葉に、まどかは反発する。

 その嘆きと反発の感情が目の前の小動物に対する物なのか、この状況に対する物なのか、或いは何もできない自分へ向けた物なのか

 まどか自身にも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ん……ぁ」

 

 どうやら、一瞬意識を失っていたらしい。

 瓦礫から身を起こす少女は、朦朧とする意識に鞭を打ちながら視線を脇に巡らせる。

 ぼやけた視界が像を結ぶと、そこに居たのは自分を見上げる誰よりも大事な友達と、彼女の顔を横から無表情で眺めている白い小動物

 

「!」

 

 それを見た瞬間、少女は自分が戦いに居る事も忘れて叫んでいた。

 

 

「まどか…そいつの言葉に耳を貸しちゃダメぇぇ―――!!」

 

 

 しかし、いくら声を張り上げても、少女の声はまどかには届かない。

 

 

「諦めたらそれまでだ……。でも、君なら運命を変えられる。

 避けようのない滅びも、嘆きも、全て君が覆せばいい。

 その為の力が、君には備わっているんだから!」

 

 まるで励ます様に、湛える様に

 悪意の欠片もなく、小動物は言葉を紡ぐ。

 耳触りの良い明るいその言葉は、重く沈んで行くまどかの胸へとするりと入り込み、その心に希望の炎を灯した。

 

「―――本当なの?」

 

 だから、鹿目まどかは、その裏に潜む空虚に気付かない。

 

 

―――――騙されないで! そいつの思う壺よ!!

 

 

 そして、力を失い、奈落へ堕ちながらも彼女を想う、少女の願いの叫びにも

 

「私なんかでも、本当に何か出来るの? こんな結末を変えられるの?」

 

 縋る様な問いに返ってきたのは、朗らかな声の肯定。

 

「もちろんさ! だから僕と契約して、魔法少女になってよ!」

 

 紫の少女が闇の中へ消えて行く中、小動物の言葉にまどかは数秒の逡巡を経て顔を上げる。

 その目には、強い決意の光が宿っていた。

 

 

 そして――――

 

 

 

 

「だめぇぇぇ――――――!!!」

 

 

 

 

 見下ろす/見上げる少女の視界を桃色の光が染め上げる。

 

(“また”、守れなかった…)

 

 あれは世界を救い、そして滅ぼす光。

 

 あの光の中で力に変わったまどかの希望は、きっとあの絶望の怪物を打ち倒すだろう。

 

 そしてその希望はそのまま更に深い絶望に入れ替わり、あの子ごと世界を呑み込むのだ。

 

 もう何度も見てきた光景。

 

 また一つ少女の心に積み重なった絶望の欠片は、もう誰も頼らないと決めたはずのその心に僅かな罅を入れる。

 

 また、届かないの?

 私じゃ及ばないの?

 もしそうなら、私じゃ無理ならば

 神様でも悪魔でも構わない

 己の全てと引き換えにしても良いから

 

 

 

―――――誰でも良いからあの子を助けてよ

 

 

 

 そんな声なき叫びが少女の心の罅から漏れ出した、その時…

 

 

 

『それがお前の望みか』

 

 

 

――――――――世界が凍り付いた

 

 

 

「何が……起きたの…」

 

 まどかも、小動物も、雲も、歯車の怪物も、全てが凍り付いた様に止まっている。

 その中で、紫の少女だけが動いていた。

 いや、動く事は出来ても、重力に引かれて落ちていたはずの体は空間に縫いとめられたかのようにその場で止まっていたのだから、ある意味彼女も止まっているとも言える。

 彼女は自分以外の時間を止める力を持っていたが、彼女自身に力を使った覚えはない。

 第一、時間を止めようにももう“時間切れ”だ。

 

 それは明らかに彼女の力とは違う何かが働いている証。

 

 何が起きているのか、この現象の正体を看破しようと少女が必死に思考を巡らせていると

 

 

 

『るるるー……るるるー…るるー……』

 

 

 

 止まっているはずの世界で唐突に、歌が響いた。

 

「!?」

 

 世界が止まる直前に聞いた言葉と同じ声。

 すぐ傍から聞こえたその声にほむらは辺りを見回すが、それらしい人物はいない。

 それ以前にビルの隙間に落ちている真っ最中の今のほむらに声を掛けられる生きた人間がこの場に居る訳がない、はずだった。

 

「……え?」

 

 だが少女の目の前のビル、その割れたの向こうの暗闇に、ぽつりと点る、光。

 その光は瞬く間に周りに伝播して行き、ビルのフロアを照らし出す。

 

(パソコン?)

 

 照らし出されたのは、オフィスだったと思しき部屋。

 光の正体は、そのフロアに置かれた全てのパソコンのモニターだった。

 散乱したオフィスの中、机の上に置かれている物や床の上に落ちている物、それら全てのパソコンが、壊れかけている物まで例外なくそのモニターを点灯させていた。

 その無数のパソコンのモニターは最初は灰色に光るだけだったが、直にザザザと音を立てて砂嵐の様に映像を乱れさせながら、何かを映しはじめる。

 

「これは一体…」

 

 固唾をのむ少女の前で、モニターの砂嵐はだんだんと収まって行った。

 やがて映像の乱れが完全に収まった時、そのモニター達が映し出していたのは、正三角形が組み合わさった、ツリ目の様な一対の菱形。

 否、ツリ目の様な……ではなく、まさしく“目”だった。

 無数のモニターと同じだけの無数の双眸が、真っ直ぐほむらを見つめていたのだ。

 

「なん…なの、これは? こんなの、私は知らない!」

 

 混乱する少女へと、先程の歌と同じ、低い男の声が語りかけてくる。

 

 

 

 

『暁美ほむら、お前の心を受信した』

 

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、止まっていた世界が砕け散り、ほむらの意識も闇に閉ざされた。

 

 

 

 

 

………………………

…………………

……………

…………

………

……

 

▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

「今のは……」

 

 

 

 瞼を開けて最初に目に映ったのは白い空間。

 クッションから身を起こせば更に映る巨大な歯車や浮かぶ絵画と言った非現実的な光景が、この場所がほむら自身の部屋だと言う事を示してくれる。

 ついでに近くの机の上にはあちこちに書き込みやピンのある大きな地図が広げられていた。

 どうやら新たな時間軸での行動計画を立てている最中に眠り込んでいたらしい。

 それでも机に突っ伏しているのではなくクッションで寝ていたのは、寝落ちしたのではなく仮眠のつもりで眠り込んでしまったのか…

 根を詰め過ぎていたのか、眠る直前の記憶がぼんやりしていてどちらだったのか自分でもよく思い出せなかった。

 

 時計を見てみれば、もうすぐ学校に行く時間になっている。

 思いの外長く眠っていたようだ。

 

 とにかくこうして眠りから覚めたと言う事は、今見た光景は

 

(夢……だったのかしら。だとしても最後のは一体…)

 

 夢と言う物は、基本的に本人の記憶や願望、想像から形作られる。

 さっきの夢の内容は、途中までは確かに何度か前のワルプルギスの夜との戦いの記憶だった。

 しかし最後のパソコンの中から見つめてくる目や声には全く心当たりがない。

 それに夢にしてはその光景がやけにはっきりと脳裏に焼き付いていた。

 ワルプルギスの夜との戦いなどの部分は早くも曖昧になりつつあるのに、である。

 

 普通なら気のせい、で済ませても良いのかもしれないが、生憎と――もしくは幸いにして――今いる状況も、ここにいる自分自身も普通ではない。

 

「これは、何かの前触れ?」

 

 根拠はないが、何となくそう思った。

 確かに魔法少女なら一般人には分からない何かを感じ取れるかもしれない。

 実際、今まで巡ってきた時間軸の中には未来を見通す力を持った魔法少女もいた。

 

 しかしパソコンのモニターと言い、最後に言っていた“受信”と言う言葉と言い、夢に出てきた要素は、感覚的に考えて魔法関係の事柄からは些か外れている様にも感じられる。

 

 ……まぁ、近代兵器をメインウェポンにしている自分が言えた口ではないのかも知れないが。

 

(……考えても仕方がないわね)

 

 そうだ。こんな問答に意味はない。

 

 今更こんな曖昧な変化に希望を見出すほど、自分の選んだ戦いは生ぬるい道ではない。

 何が起ころうと今までどおりにするだけ。

 あらゆる物を利用して鹿目まどかが救われる未来を掴みとる。

 もし今までの時間軸になかった何かが起こるのならば、それも利用して

 それでも駄目ならまた“繰り返す”

 

(何も変わらない、まどかの未来に近づくために今まで通り手を尽くすだけよ)

 

 そう改めて心に刻み直して、ほむらは登校の準備をするためにクッションから立ち上がった。

 

 

 

 

 

 それでも、これから起こるかも知れない変化に、微かな希望を残しながら

 

 

 

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 近代的な建築物が建ち並ぶ見滝原町

 近年になって急速に開発が進みだしたこの地方都市には、建設途中でまだ骨組みのままなビルも多い。

 

「……」

 

 そんなとある未完成ビルのむき出しの鉄骨の上に、一匹の白い小動物がいた。

 鉄骨に鎮座しながらフカフカの尻尾をゆらゆらと振っているその小動物は、今はその視線を月が浮かぶ夜空へと向けている。

 だがその目は星や月を見ている訳ではない。

 彼(彼女?)の感覚が捉えているのは、もっと別の物だった。

 

「――珍しい物が来たね。この星の文明のネットワークにでも惹かれたのかな。

 やれやれ、あんまり大きな被害を出されても困るんだけどな。人口が減ればそれだけ回収ペースが遅れるって言うのに」

 

 夜空の向こうの“それ”を見上げながら、小動物は呟く。

 まるで呆れか憂鬱を含んでいる様なその声には、その実何の感情も籠っていなかった。

 見えた物が珍しいのも、それが不都合な要素になるだろうと言うのも、単なる事実と予測以上の物では無い。

 ただその事に何か感情が伴うわけではないと言うだけ。

 

 人間と接触する事が役目であるその小動物にとって、人間の様な『感情表現』は目的を達成しやすくする為に学習・習得した((慣習|モーションパターン))に過ぎなかった。

 

 それでも周囲に誰もいないのにわざわざ言葉を発しているのは、見ている物に語りかけているのか、それとも単に小動物がそういう性質だからなのか。

 

「まぁ、ボクとしては出来るだけ早めにこの星から出て行ってくれる事を願……ねが、ねがねがねねがががががががががga#%く-\!?<N_{$~|!?」

 

 何処か他人事のように話し続けていた小動物だったが、その言葉は途中から意味を成さない音の羅列へと変化する。

 

 言葉だけではない。

 それに加えて赤い宝石の様な目も激しく点滅させながら小柄な体をガクガクと痙攣させているその様子は、さながら異常なコマンドを捻じ込まれて壊れた機械の様だった。

 

「$8m~∴?_ah ≪ピ≫ &#(n◇ol&’m9 ≪ポ≫ j!”#j0「qc=+*O ≪ペ≫ ◎<I6 3t」gv……」

 

 やがて声に電子音の様な異質な音が混じり始め、痙攣も一際大きくなった中、突然その動きが止まる。

 そしてそのまま数秒ほど硬直した小動物は、最後にもう一度びくりと震え

 

「≪パ≫」

 

 その一文字を発すると目から光が失い、その場にぱたりと倒れこんでしまった。

 

 

 幸い太い鉄骨の上だったため、その躰が地面に叩きつけられる事は無かったが。

 

 

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「―――――」

 

 

 

 強烈な違和感の中で、ゼロワンは意識を取り戻した。

 

 

 

 

 基本的に高性能情報端末であるフォンブレイバーに、寝惚けと言う物は存在しない。

 すぐさま自分が『フォンブレイバー01』と定義される存在である事を再認識すると、メモリーや稼働に必要なプログラムにバグや矛盾が無いかをチェックしていく。

 

「―――」

 

 合わせて一秒程度の行程が全て異常なく完了すると、今度こそゼロワンの再起動が完了した。

 視界が開け、地上から闇を照らす町の光と周囲の鉄骨が、ゼロワンに自分が建設中ビルの骨組みで横たわっている事を認識させる。

 

「ここは…どこだ」

 

 起き上がりながら、ゼロワンは疑問の声を洩らしていた。

 

 何故こんな場所に倒れているのか、全く心当たりがない。

 思い出せる限りでは、自分はあの倉庫でジーンの襲撃を退けた後に網島ケイタと別れ、そこでボディが限界に来て機能を停止したはずだ。

 その時の居たのも、ジーンと戦った倉庫の近くのゴミ捨て場だった。

 それが何故工事現場のビルの上で目覚める事になるのか。

 そもそも何故自分は目覚める事が出来たのか。あの後アンダーアンカーに回収されて修理されたのだと言うのなら、わざわざこんな場所に放り出される理由は無い……はず。

 

「……今は理由より場所を確認する方が先か」

 

 浮かんだ不安を振り払う様に言いながら、現在地を検索する為ネットワークにアクセスを試みるが

 

「? エライザに繋がらないだと?」

 

 すぐに帰ってきた異常な反応に、ゼロワンは疑問の声を上げた。

 

 ((ELIZA|エライザ))はアンカー製モバイル端末の通信を統括するサーバーだ。

 その法則はアンダーアンカーのフォンブレイバーも例外ではなく、ELIZAが無ければ通話やメール、ネットへのアクセスも出来ず、その他一部の機能にも制限がついてしまう。

 

 一応、ゼロワン自身がアンダーアンカーと敵対していた際に、エライザから身を隠すために別種の端末を介するなどの手段でカバーしていたと言う前例もあるので、絶対的に必須と言う訳ではないのだが、それでも繋ごうとして繋がらないのは異常と言う他ない。

 

(まさかアンカーに何かあったのか? …違う、これは――)

 

 一瞬、ハッカーなどに制圧された可能性が浮かんだが、それにしては手応えが妙だった。

 普通のネットワークアクセスではまず感じないだろう、意志を持った情報端末であるフォンブレイバーでしか分からないおかしさ。

 

 アクセスを拒否されたのでも、情報を攪乱されて見つけられないのでも、破壊や削除をされて消えてしまったのでもない。

 まるで“初めから存在自体が無い”かのように、手応えが無い。

 フォンブレイバーとして多くのネットワーク事件に防衛側・侵略側、両方の立場で何度も関わってきたゼロワンをしても、他に形容のしようがなかった。

 

「(エライザが存在しないだと。まさかそんなはずは) ……っ!?」

 

 確証を得るためもう一度アクセスを試みようとゼロワン。

 しかしその瞬間彼の頭脳に逆流してきた多くの情報に試行を中断させられた。

 否、情報の逆流ではない。

 

「ウィルス……いや、クラッキングか」

 

 それはゼロワンへと入り込もうとしているのは無秩序な情報の奔流ではなく、明確な目的を伴った干渉。

 何者かがゼロワンのメモリや思考プログラムを侵略し、書き換えようとしている。

 

 より正確に言うなら上位権限保持者から下位者へ向けた強制命令に近かったが、それがゼロワンのデータを書き換えようとしており、ゼロワン自身にそれに従う意志も筋合いも無い以上彼にとってはクラッキングと変わらなかった。

 

 大体にして、フォンブレイバーに対する強制操作などモバイルフォームへ変形させるバディからの『リトラクトフォーム』か手動での電源操作以外に存在しない。

 通常はコード入力で操作されるアクティブフォームへの変形すら、緊急時には単独で実行が可能だ。制限回路が外されているゼロワンならなおさらである。

 この命令の様な、行動その物を操作しようとするコマンドなど、不正なクラッキング以外の何物でもない。

 

 刹那にそう断じたゼロワンはすぐさま防壁を強化、干渉を受けたデータの修復と解析を行いつつ、対応したファイアーウォールとカウンタープログラムを構築する。

 

 だが、その解析の最中、ゼロワンは送り込まれていたデータの中に謎の情報が混じっている事に気づいた。

 

「インキュベーター……ソウルジェム……グリーフシード…?」

 

 試しにいくつか引き出してみるが、殆どのデータが防壁で弾かれている為、断片的にいくつかの固有名詞らしき単語が読み取れるのみ。

 それらが何を意味しているのかまでは分からない。

 しかしこの情報が送られてきている理由は理解できる。

 恐らくクラッキングの主は、ゼロワンを目的の為に動く都合のいい端末に仕立て上げるつもりなのだろう。これらの情報はその為に埋め込む基準や前提のキーワードと言った所か。

 なら、それを読み取れれば相手の目的も理解できるかもしれない。

 或いはこの何者かが、自分がこんな場所に放置された理由にも関連している可能性もある。

 

「いいだろう。お前の目的を、受信してやる」

 

 不敵に呟いて、ゼロワンはクラッキングを弾いている防壁を少しだけ緩めた。

 意図的に開けられた穴からは当然クラッキングのコードが入り込んでくるが、それが自身に影響を及ぼすより早く逆算・翻訳し、片っ端から無害な参照データに変換しては余剰の記憶領域に放り込んでいく。

 

 お互いを書き換え続けるそのやり取りは最早真っ向からのクラッキング合戦の様相を呈していたが、戦況はゼロワンの方に大きく傾いていた。

 データを変換するだけでなく、変換された参照データを比較してダブった情報を選り抜き、削除する余裕すらある。

 

 ただクラッキングを跳ね除けるだけならともかく、((アナライザーやメディック|ブーストフォン))や((クロノ|アクセルデバイス))を着身しないままここまでの処理能力を発揮できている自分にゼロワンは些かの疑問を感じてはいたが、出来ていて困る事では無いと割り切って処理を続けていった。

 

 

 

 

 

「………ここまでの様だな」

 

 やがて手に入る情報が重複した物ばかりになると、これ以上の情報戦は無意味と判断。

 このクラッキングを自動的にシャットアウトする様に構成したファイアーフォールを完全に展開し、回線を封鎖した。

 

「フ…終わったか」

 

 処理の手を止めても干渉が完全に防がれているのを確認して人心地着く。

 同時に、ゼロワンの全身にドッと『疲れ』の様な物が湧いてきた。

 その疲れに対し、余裕は在ったとはいえ高速演算を続けた事で流石にバッテリーを消耗したのかと解釈するゼロワン。

 

 そして、何となく汗を拭う仕草をしようと片腕を持ち上げた彼の視界に入ってきたのは、いつものディストーションブラックの機械の腕……ではなく

 白くて丸っこい猫の様な前足(しかも短い)だった。

 

「―――は?」

 

 予想外の事態にゼロワンは一瞬凍り付き、更に一拍置いて今度は驚愕の声を上げた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 慌ててあちこち触って体の形を確かめるゼロワン。

 

 執拗なボディタッチの結果理解できたのは、この体が猫の様な胴体とその胴体に釣り合うにはやや大きめな頭部を持ち、猫の様な耳から頭部側面に垂れた何かやふさふさの大きな尻尾をはやしていると言う事で、その形状はゼロワンの知識の中のどの動物にも当てはまらない。

 

(ペットボットにでも組み込まれたのか!?)

 

 発注する人間次第でデザインはどうとでもなるペットボットならば、既存の動物の姿形に当てはまらない事に説明は着く。

 その電子頭脳として自分のラムダチップを載せるのも、可能と言えば可能かもしれない。

 

 だが目覚めた時から感じていた違和感……肌を撫でる風の感触や、鉄骨の冷たさと言った、機械であるゼロワンが今まで感じた事のない刺激は、このボディが(恐らく)生身の生き物である事を示していた。

 だが生き物にしては今の様な外部からの干渉を受け付けたり、それに対抗する情報戦能力を使えたりと不明瞭な点もある。

 簡単にまとめるなら、今ゼロワンが使っているこの体は、他者――上位意志からの操作を受け付けて動く端末としての性質を持った生物と言う事になる。

 

 そんな生物が居るのかと言いたくなるが、実際に居るのだからどうしようもない。

 しかしそんな生物に、クラッキングではなくゼロワンの意志その物が入ってしまっている事の説明はつかないままだ。

 

 だが、何より彼の頭脳を悩ませているのは…

 

 

 

「くっ、ポーズがキマらん…っ」

 

 何かのマスコットの様なこの小動物の姿では、可愛さを表現する事は出来てもカッコよさを演出する事は難しい。むしろカッコいいポーズを取ろうとすればするほど、滑稽さが増すばかりだろう。

 しかしニヒルでカッコつけな所のあるゼロワンにとって、格好がつくかどうかはとても重要な問題でなのである。

 

 

 自己解析や今手に入れた参照データを調べる前にまずそんな発想が出てくるあたり、ゼロワンも大分混乱しているのかも知れないが。

 素でこうなっている訳ではない、筈である……多分

 

 

 そんなこんなであーでもないこーでもないと色々ポーズを変えている内に、いつもと手足の勝手が違うせいか、うっかり片足を鉄骨から踏み外してしまった。

 

「お…うおぉっッ!!? ――て、手がっ!?」

 

 間一髪鉄骨にしがみつくが、慣れない前足では思うように指が引っかけられない。

 一分ほどよじ登ろうと奮闘した後、逆に落ちそうになった所で一段下の鉄骨に降りる事で何とか事なきを得た。

 

 そして着地と同時に手と膝をついて荒い息をつくゼロワン

 

 

「っはぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………もう少し足場の安定した場所に移動するか」

 

 

 よく分からない体に入っている状態でこんな場所に居ては、いつまた落ちるか分かった物では無い。

 ポーズの事も取り敢えず一旦置いておこうと決めたゼロワンは、鉄骨を使って今度は落ちないように慎重にビルから降りて行く。

 

 そしてたっぷり時間をかけて何とか地面にまで辿り着くと、二足歩行で歩き出そうとして、失敗。

 

「……」

 

 頭から思い切り転んでしまったゼロワンは、今の体が二本足で歩くように出来ていない事をまたたっぷり時間をかけて呑み込むと、大人しく四本足で歩き始める。

 

 

 

「………………るるるー……るるるー…るるー……」

 

 

 歩いている内に落ち着いてきたのか、彼の口からはいつしか鼻歌が漏れ始め、その姿はやがて夜の暗闇の中に消えて行った。

説明
『ケータイ→たくさんある ピポペパ→宇宙 たくさん+宇宙=QB』そんな頭が湧いたとしか思えない理論で何か勢いのまま書き殴った勢いだけの文字の羅列。
一応別の所でも別名義で投稿した物です
あと一個くらいここにも投稿してみたいと言う浅はかな考えも有ったり無かったり。
あと続きません。多分続きません。
色々設定を考えたり、何でこんな事になってるのか、何でこんな事が出来てるのかの理由やら理論やらも無い頭なりに考えてあったりしますが続かない予定
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魔法少女まどか★マギカ ケータイ捜査官7 暁美ほむら ゼロワン 説明不足 

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