恋姫無双 槍兵の力を持ちし者が行く 22話
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―side 三人称

 

 日が昇り始めた頃、城外の訓練場では教官の罵声をBGMに新兵達の訓練が行われていた。

 

 「いいな!ここは地獄だ!だが、貴様等はここが地獄だということに感謝しろ!多くの兵にとって戦場は地獄だ!

 だが、貴様等はそうとは感じん!何故か?

 それは俺達が此処で貴様等に地獄を体験させてやってるからだ!

 嬉しいだろ!嬉しかったら返事をしろ!」

 

 「「「はい」」」

 

 「声が小さい!」

 

 「「「はいっ!」」」

 

 「やれば出来るじゃないか!ようし、重装で走り込みを命じてやろう!

 嬉しいだろ!」

 

 「「「はいっ!」」」

 

 「なら、行け!もたもたするな!時間も敵も待たんぞ!」

 

 その罵声に押され、悲鳴を上げながら新兵達は走りだす。

 そしてこのような訓練はこの教官だけが行っているわけではなく、回りでも同じ光景が展開されていた。

 因みに教官を担当している彼らは正規の兵ではない。一人の将の私兵である。

 理由は人手が足りないのもあるが、その教育がより屈強な兵が育ち易いというのもある。

 

 ……後に、この訓練を受けた兵はこう語る。

 

 「まるで、昔、自分達が受けた地獄の苦しみを共有しろ。と言っているようだった」と。

 

 

 

― side 凪

 

 朝から私達は訓練を受ける為に訓練場に来たわけだが、そこには……

 

 「オラオラ!チンタラ走ってんじゃねーぞ。この〇〇野郎!」

 

 「なに?死にそうだ?

 なら今死ね!戦場で死ぬのは痛いからな。とっとと死ねよ、楽に死ねるぞ。で、どうする?この根性なし!悔しいか?

 悔しかったら必死に体動かして、俺を驚かしてみろ!」

 

 「テメエらに人権なんかあると思うなよ!

 半人前に人権なんざねぇんだよ!人権が欲しかったらとっとと一人前になりやがれ!」

 

 ……地獄があった。

 

 私もそれなりに村で特訓はしてきた。

 賊と戦うために、必死で鍛練をし続けた。

 自分の五体のみで戦いぬくために人一倍努力をした。

 気を使いこなす為に無茶もした。

 

 そんな私でも、目の前で繰り広げられているのを見ると今までやってきたことも遊びに思えてしまう。

 

 一見無茶を強いるように見えて、限界をギリギリ見極めている。

 休ませる時はしっかり休ませ、またしごく。

 出来る限りの無駄を省き、短期間で、より優秀な兵を育てる為に作り出された方法なのだろう。

 そんなことを考えつつ、隣を見やる。

 

 「アカン、ウチは戦う前に死ぬかもしれん。

 いやや!ウチはまだ死ぬわけにはいかんのや!全自動絡繰人形を完成させるという野望(夢)を実現させるまでは……」

 

 「うー、凪ちゃんはともかく沙和達にあんな特訓はたえられないのー」

 

 そう言いつつ、頭を抱えている沙和と真桜。

 それは仕方がない

 努力していた私ですら尻込みする程だ。幼なじみだ。この二人の反応は予想通りなんだが……

 

 「おう、三人とも早いな」

 

 そうこの場にそぐわない軽い口調で紅い槍を肩に掛けながら此方に向かってくる一人の人物がいた。

 蒼さん(様付けで呼んだら、さん付けにしてくれと頼まれたので)、かつて華琳様と共に歩んでいたが、一時期抜け、そして私達と同じ時期に戻って来た人物。そして……

 

 「隊長ー、ウチらもあんな訓練すんの?」

 

 「沙和達はこの後、隊長と警備隊の仕事もあるし、軽めに上がるべきだと思うのー」

 

 「……まあ、まずその隊長って呼び方は……」

 

 「「「駄目ですか?(なん?)(なの?)」」」

 

 「あー、分かった。俺が慣れる」

 

 私達が所属する警備隊の隊長を務める人だ。

 因みに、私もいきなりさん付けで呼ぶのは恐れ多いので、公の場では隊長と呼ばせて貰っている。

 

 「で、まあ、訓練の話だが……」

 

 と、隊長が話をもとに戻す。私達はその先に続く言葉に覚悟した。

 

 「……あんな訓練はしない」

 

 その言葉に安堵の息を吐く、友人二人、だが私は吐けなかった。

 何故なら、ちょっと見るだけなら隊長の表情は安心させるために笑っているように見えるが、よく見ると笑っているのではなく、嗤っているのだ。

 まるで、新しい獲物を見つけたような……

 

 「幹部候補の君たちに、こんな『楽』な訓練を課すわけないじゃないか」

 

 予想通り、笑顔で地獄を宣告された。

 

 「ちょ、待ちいな。あれでもキツそうやのに、それが『楽』って……」

 

 「大丈夫だ、朝『は』軽く体動かすだけだからな」

 

 「朝『は』って、他が怖いのー!」

 

 「まあ、予定は朝は軽めに、終わったら警備隊の仕事をやっていって、仕事後に本格的にしごく感じでやるから」

 

 お前ら、幹部が楽だと思うなよ?と続ける。

 それを聞いて絶望を体全体で表している二人を尻目に、回りから注がれている視線に意識を向けると、あの新兵に罵声を発していた教官達が、同情や哀れみの視線を送っていた。

 それにはすぐに合点がいく、彼らは紅蓮団、つまりは隊長の私兵、彼らも隊長から訓練(しごき)を受けたのだろう。

 正直に言わせてもらうとと躊躇う、だが、この訓練を乗り越えた時、私達はより強くなっているのだろう。

 なら、この訓練を乗り切り、華琳様が目指す理想を実現出来るだけの力を手に入れよう。

 私はそう覚悟を決め、いやがる二人を引きずる隊長の後を追った。

 

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続けて、二つ目
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