裏庭物語 第4箱
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第4箱「デビルやべー!!」

 

『人吉善吉庶務職就任インタビュー・前編』

 

今回の語り部:((杵築|きつき)) ((樹|いつき))

 

 

 

 おう。杵築 樹だ。

 

 紆余曲折あり、報道部に入部することになった。

 俺は高校では決して部活に絶入らないと固く固く決心していたというのに、結局一日で勧誘から入部までを流れるようにこなしてしまうとは、なんともまあ無様である。

 

 大人しい内牧さん。

 大人っぽい開聞部長。

 俺は彼女たちの見事なまでのコンビプレイを見事なまでに喰らったのだった。

 

 だがしかし、写真撮影係(カメラマン)である俺の仕事は、大きなものはわずか2つだけだった。

 

 @、学園内のスクープ写真を撮ること。

 

 つまりカメラ片手に学園中をぷらぷらと散歩し、記事になりそうなものの写真を撮るというものだ。

 

 A、たまに行われる、予約または突撃インタビューで、報道写真を撮ること。

 

 要は……そのまんまだ。インタビュイー(インタビューされる側)の、箱庭新聞掲載用の写真を撮る。

 

 報道部部室のあの忙しそうな空気から勘違いしていたが(開聞部長は優雅だったが)、俺の仕事に話を限れば、楽で楽しそうな部活動である。

 

 そして俺は今、報道部写真撮影係(カメラマン)としての初仕事を迎えようとしていた――――。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「僕、黒神さんにサインお願いしちゃおっかな〜? 将来黒神グループを継ぐらしいから、きっと価値上がるよね〜」

 

「私も貰おっと! 人吉くんからももーらお♪」

 

「? なんで人吉のサインなんか欲しいんだ?」

 

「もし将来人吉くんが生徒会長にでもなったら、すんごい価値が上がるのよ」

 

「は? 人吉が生徒会長になんかなるわけないじゃん! はははー」

 

「そうそう。あの黒神ちゃんが転校でもしない限りあり得ないんじゃね?」

 

 これらの会話の声は、俺が所属することとなった報道部B班の方達のものである。

 

 皆でワイワイガヤガヤ話しながら、インタビューのための機材を抱えつつ、生徒会室へと向かっている。

 

 そう! 俺の報道部員としての初仕事――それは、新たに庶務に就任した一年一組 人吉 善吉に行われる、庶務職就任インタビューの写真撮影係というものだった。

 

「皆さん、サインをお願いするのはインタビューが終わった後、しかもめだかさんと善吉さんが了承してくれたときだけよ。いーですね!?」

 

「「「はーい!!」」」

 

 開聞部長が幼稚園の先生のような((口調|ノリ))で言うと、皆も幼稚園児のような((口調|ノリ))で返した。

 

 今回の((任務|インタビュー))を行うのはB班だが、部長はどの班のインタビューでも同行するのがしきたりだ。

 

 ちなみに内牧さんも同じB班なのだが……なぜかいない。まあどうせどこかでドジって足止め喰らっているのだろう。

 

 それにしても、意外に開聞部長、意外にリーダーシップあったんだな。意外だ。内牧さん以外の部員も彼女の言うことを聞くなんてとても意外で、そして意外である。

 

「……樹さん。意外意外とうるさいわよ?」

 

「((地の文|モノローグ))を読まないでください」

 

「そんなもの読んでないわ。顔に書いてあっただけよ」

 

「大差ありません」

 

 そんな冗談を言っていると、生徒会室へと続く廊下へ差し掛かった。

 

 そこへ、

 

「す、すみませーん! 贈れましたぁーごめんなさーいっ!」

 

 パタパタと足音を鳴らして、((内牧|うちのまき))さんがこちらへ駆けてきた。

 よっぽど焦っていたのだろうか、「おくれました」の漢字が間違えている。『誤植』だ。

 

「えっと、贈れた事情をせつめきゃっ!?」

 

 バタン、と。

 転けた。転んだ。

 同時に、持っていた紙束を床にぶちまける。

 

 何もないところで転けるとは彼女らしい、とか言いながら、皆で紙集めを手伝った。

 

「……いてて……」

 

「…………。薪さん、遅れた事情と何もないところで転けた理由は後で聞くわ。それより今は、遅れた罰として、生徒会執行部の方達にワタシ達が来たことと、よければ15分後くらいからインタビューを開始することを伝えてきてくれないかしら」

 

 呆れ顔で部長は言う。

 

「あ、樹さんも一緒に行ってくださる? 薪さんだけじゃ不安だし。ワタシ達は((廊下|ここ))で機材を準備してるわ。準備が終われば、ワタシも行くから。

 大きな声で挨拶するのよ!」

 

「……ふ、ふぁ〜い……」

 

 部長からの課題を聞いた内牧さんは、情けない返事をすると、真っ赤になりながら立ち上がった。

 

「あっ……こんにちは杵築くん……。恥ずかしいところ見られちゃったね……」

 

 いつものことだろう。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「杵築くん、まずは私一人に行かせてくれない……? 最近部長に迷惑かけっぱなしだから……私もやればできるんだぞって部長を見返したいの」

 

 内牧さんは、二人で生徒会室へ向かっている今になって、そんなことを言い出した。もう遅い。

 

 生徒会室の扉の前に着いた。

 

「杵築くんはそこで待ってて」と言ったあと、「……私はできる……!」などとぶつぶつ言いつつ扉に手をかけた。

 

 それからの内牧さんの一連の動作は、本人には悪いのだが、大変面白く感じられた。

 

1、「し、失礼しまぁ〜す……!」と言いながらガラガラと扉を開ける。

2、中の様子を見る。

3、「っ!!」と驚く。

4、目を一杯に開け、口もポカンと開く。

5、手足をぷるぷると振るわせる。

6、若干後退る。

7、顔を耳まで真っ赤に上気させる。

8、「あぅ……」と意味不明な言葉を発する。

9、ゆっくりと目を瞑る。

10、「……お、お邪魔しました……」とボソリと言う。

11、申し訳なさそうに両手でカラカラと丁寧に扉を閉める。

12、その場にペタンと崩れ落ちるように座りこむ。

13、爆発するのではないかと思うほどに赤くなった顔のまま、熱に魘されている子供のようにボーッとしている。

 

 すると生徒会室の内側から「誤解だあああああ!!!」と、人吉の声が聞こえてきた。

 

 俺の位置からでは生徒会室の中の様子は見えなかったが、まあ内牧さんが何を見たのか何となく予想がついた。

 

 おそらく中には、人吉と裸の黒神がいたのだろう。黒神は、幼馴染みの人吉に対しては特に恥じらいの概念を持たないため、しょっちゅうそんな状況が出来上がる。

 

「おーい? 大丈夫か〜?」

 

「…………………………。」

 

 内牧さんの目の前で手をぶんぶんと振るが、何の反応もない。相変わらず赤い顔でボーッとしている。

 

 俺は、もしかしたら別のことが中で起こっていたのではないかと思い(中で誰かが死んでいたとか)、急いで扉を開けようと扉に手をかけたのだが、その手は突如として内牧さんの手により握られ、扉を開けることを拒まれた。

 

「……ダ、ダメだよ杵築くん……! 二人の邪魔したりしたら……!」

 

 あ、どうも最初の予想の方が合っていたらしい。

 

 すると突然、凄まじい勢いで目の前の生徒会室の扉が開き、焦りと冷や汗で満ちた顔の人吉が姿を現した。

 

「あー良かった! 走って逃げたりしてなくて! 取り敢えず落ち着いて聞いてくれ、今の光景は誤解だ!!」

 

 人吉が必死の形相で、内牧さんの誤解を解こうとしている。

 

 だが、内牧さんは『誤り』と『謝り』の天才。そう簡単に『誤解』が解けるはずもなく――

 

「……いえっ、こちらこそごめんなさいっ! ……『とっても大事なコト』してる最中に、不用心にノックもせず……扉を開けてしまって……。本当にごめんなさい!!」

 

「いやっ、だからそれが誤解なんだって! ほらっ……めだかちゃんにはちょっとばかり露出狂のケがあるだろ!? ……って知るわけねーか!」

 

「……ううん、人吉君くんと黒神さんは『ソーユーコト』ができる仲なんだってことは、ちゃんと分かってるから……。なんにも誤解してないから、安心して……」

 

「だから違っ!! あと括弧つけて強調すんのやめて!」

 

「……生徒会室で『スル』のは……少しどうかとも思うけど……でも二人は愛し合いすぎて、お互いにお互いしか見えてなかったんだよね……。でも心配しないで……! 私が報道部員として、学園のみんなに

 

『人吉君くんと黒神さんは、放課後に、生徒会室で、たった二人きりで、見る方が恥ずかしくなるようなアンナコトを、していなかったよ。』

 

 ……って言い回ってあげるから!!」

 

「……デビルやべー!! この女子全く話が通じない!?」

 

 うむ。うむうむ。さすがはその道のプロ、内牧さんである。

 人吉の“誤解を解こうとする努力”を、全て自分の“誤力(エネルギー)”に変えてしまった。

 しかし最も注目すべき点は、彼女はあくまで『素』であることだ。

 

 『ボケ』ではなく『素』――。

 

「あぁ杵築じゃん! お前報道部に入ったのか? ……って雑談してる場合じゃなかった!

 おい杵築! 頼む、腕組んで一人で納得してないで、お前もこの女子の誤解解くの協力してくれ! 俺のこれからの学園生活が懸かってるんだよ!」

 

 内牧さんの隣にいた俺を見付ける人吉。

 懇願する人吉。

 取り乱す人吉。

 

「内牧さんの誤解を解く? それは五階から五回飛び降りるくらいキツいんだ。だから無茶言うなよ“お人吉”。『無いお茶』はどうやっても飲めない」

 

「だああふざけてる場合じゃねーから!」

 

「……御幸せにな」

 

「杵築まで!?」

 

 正直、内牧さんの誤解を解くくらいなら、内牧さんに迎合した方が身のためだ。

 

 と、ここで。

 

「善吉。気にすることはない。人にどう思われようが、私達は私達だ」

 

「めだかさん、善吉さん、どうなさったの? まさか、うちの薪さんと樹さんが何か失礼しちゃったかしら?」

 

 生徒会執行部専用制服を着終わった黒神と、人吉の大声を聞きつけ駆けつけた開聞部長の参集により、俺らのやり取りは終わった。

 

 

 

 それにしても、「うちの薪さん」って、聞くだけじゃ「内牧さん」と区別つかない。

 

 紛らわしい。

 

 

 

〜おまけ〜

 

善吉「なんだあの内牧とかいう女子! 確かに何を言われても何を思われても仕方ない状況を見られてしまったとはいえ、それでも思い込み激しすぎだろ甚だしい! 妄想暴走もいいところだ!」

 

めだか「善吉、人を妄想者呼ばわりするでない」

 

善吉「いやめだかちゃんは露出狂呼ばわりだからな!? そもそも今回のこれも、めだかちゃんが下着姿で抱き着いてきたのをタイミング悪く見られたのが原因だからな!?

 いやそれにしてもマジやべーよあいつ! こっちの言うこと全然伝わんないし! 誤解を解くのに確かに五階から五回飛び降りるくらいキツかったわ!

 

 もうあんな感じの女子の相手はごめんだぜ!!!」

 

 

 

 

 

 しかしこのしばらく後。

 某会計から『友達になりたいから』という理由でキスを迫られたり、

 某過負荷から見開きいっぱいの怒濤の長台詞を聞かされた後足の甲に包丁を刺され襲われたり、

 某候補生から超電波攻撃を浴びせられたりするのだが……

 そんなことは現時点での善吉は知るよしもない。

 

 

 

 

説明
原作キャラと原作には出てこない箱庭生たちによるスピンアウト風物語。

にじファンから転載しました。
駄文ですがよろしくです。
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