裏庭物語 第7箱 |
第7箱「俺の実験動物に」
『異常な遭遇・前編』
今回の語り部:((杵築|きつき)) ((樹|いつき))
異常。
通常と異なると書いて、
異常。
この日、語り部は数々の異常と遭遇することとなる。
異常な場面とも。
異常な人物とも。
異常な事柄とも。
しかしこの学園では、そんな異常こそが通常の日常だということを、
箱庭学園の普通ないち生徒であり、同時にこの物語の置物主人公でもある彼、
杵築 樹は、
まだ知るよしもない――。
◇◆◇◆◇◆
おう。杵築 樹だ。
生徒会にあの阿久根 高貴先輩が入った。書記職だそうだ。早速報道部C班の方たちが書記職就任インタビューに行っていた。
俺はB班だから同行してないのだが、寄田と共に生徒会室に遊びに行ったときに会った。
久々に見たのだが、中学時代の『破壊臣』はどこへやら、といった感じだった。柔道部元部長にして柔道界の『反則王』――鍋島 猫美に、残っていた牙を全て抜かれたという噂は本当だったようだ。
まあ人吉とネチネチ小競り合うところは何一つ変わってなかったが……。
それじゃあ早速内容へ。
俺の報道部((写真撮影係|カメラマン))としての仕事・その@、『スクープ写真を撮ること』。
それに則り、俺は今一人で、おばあちゃんから譲ってもらった一眼レフカメラを片手に学園内を((散策|たんけん))していた。
「うーん……。飛びっきりのスクープ写真撮って開聞部長を驚かせたいからな……。普段行かない時計塔の辺りとか行ってみるか!」
と言うわけで来てみた。
「なんかとびっきりの((面白いこと|スクープ))起きねーかなぁ」
ヒュ―…―――………
「ん?」
何の音だろうか。
言ったそばから何かの音がし出した。
次第に音は大きくなっていき……。
「っ!?」
突然、目の前に何かが落下した!
速すぎてそれが何かは確認できなかったが、直後に物凄い落下音を響かせ轟かせ、地面が僅かに振動し、凄まじい砂埃が舞い上がって辺り一面を覆ったので、それなりに質量があるものであることは理解できた。
咄嗟に腕で顔を覆ったので、目に砂埃が入ることは回避できたようだ。
砂埃が収まり、上から降ってきたものの落下地点へ駆け寄ってみて、俺は更に驚くことになる。
なんとそこには、『人間』がいたのだ!
ツーサイドアップという髪型やスカートですぐに女子と分かった。
「お、おい! 大丈夫か!? おーい!!」
「………………………」
抱き起こして何度も呼び掛けるが返事はなく、頬をべちべち叩いても何の反応もない。
目は閉じたまま、手足はだらりと力ない。
しかも頭から大量出血……と思ったが、この赤色は髪の色のようだ。
着ている制服はボロボロでズタズタ。
まさか、時計塔の屋上から落下したのか? この損傷具合、恐らくそうだろう。
時計塔は地上十三階! そこから落ちたのなら、残念だがまず助からない。
すると突然、再び何かが背後に落下した!
先ほどと全く同じ轟音、地揺れ、砂埃。
まさかまた人間かだろうか!? 頼む、人間じゃありませんように!
俺のそんな願いもむなしく、砂埃の中からは人の声が聞こえてきた。
「……あーあ、結局間に合わなかったね。飛び降り損だったかな」
「まーそー言うなよ古賀ちゃん。エレベーターで降りる時間を短縮できたし、ほら、スリルだって味わえたしよー」
「そうだねー☆ ((勝本|かつもと))先輩も死ぬ前にスリル味わえてきっとあの世で喜んでるよね。……いや待てよ、私たちと同じ((異常者|アブノーマル))なんだし、時計塔屋上から落下したくらいじゃ死なないかな? どう思う名瀬ちゃん?」
「そうだなー。古賀ちゃんみたいに異常な『回復力』と『異常駆動』を持ってないにしろ、勝本先輩は勝本先輩で違う((異常性|アブノーマル))を持ってやがるからなー。
そう! まさしく今俺と古賀ちゃんが古賀ちゃんのために研究してる『((体力|スタミナ))』に関する異常性をよー。だから恐らく死んでることはねーんじゃねーの?」
砂埃の中から声が二人分聞こえてくるのだが、しかし! 時計塔から地上まで落下したのなら、今俺が抱き起こしているこの娘みたいに、意識を失うくらい損傷を負ってないとおかしいだろ。どうなってるんだ?
そして、砂埃が収まって俺の目に入ってきたのは、二人の女子生徒だった。ニット帽の女子が覆面ナイフの女子をお姫様抱っこしている。ニット帽の方は靴だけボロボロだが体は無傷で、覆面ナイフの方は地面と接触してないからか完璧に無傷だった。
「……あれー? 名瀬ちゃん名瀬ちゃん、なんか知らない男子がいるよ? 誰あれ? 名瀬ちゃんの知り合い?」
「……さあ? 俺は知らねーぜ古賀ちゃん。たまたま通りかかった((普通|ノーマル))の生徒ってところだろ」
名瀬ちゃんと呼ばれた覆面ナイフの女子が、古賀ちゃんと呼ばれたニット帽の女子の腕から降りつつ答える。
見るからに異常な二人組だ。「名瀬」の方は、手先足先まで全てを覆う紺の全身アンダーウェアを箱庭学園女子制服の下に着ている服装。顔は口元と左目以外を包帯で覆い隠し、右目の少し上辺りにナイフが刺さっている。
「古賀」の方は、箱庭の制服すら着ていない。露出度の高い服にニット帽、球形のアクセサリー(紙どめ?)を着けている。
「おーい、そこのお前! 悪いことは言わねー、今すぐ失せろ。そいつのようになりたくなかったらな」
と言いながら、覆面ナイフの子が注射器を右手でくるくる回しながら近づいてきた。
……怪しい。
「……まだ息はあるにしても、この娘は致命傷を負っている。きみたちはこの娘を病院へ連れて行ってはくれないんでしょ?」
無意味な質問。
答えはNOと分かっている。
もしここにインタビュアーの開聞部長がいれば、きっと怒られただろう。
「まーそーだな。病院には連れていかねえ」
やっぱり。
人は見た目に寄るもんだな。
「だけど俺はそいつを助けねーとは言ってねー。俺のラボに運び込んでちゃんと治療すると、俺のセーラーブラウスに誓って約束するからよ。だから失せな」
ラボ……。
余計に怪しい。
「……ラボとやらで治療したあと、この娘をどうするおつもりで?」
「……そいつの『((持久性|アブノーマル))』を解明する。そして((持久性|それ))を古賀ちゃんに適用する。そうなれば古賀ちゃんの全力で動ける時間は恐らく今の5倍はくだらねー。つまりそいつはメチャクチャ大事な異常者(サンプル)なんだよ。今の発言に嘘偽りは一切ねーが、これで満足か?」
サンプル……。
尚更怪しい。
「……ダメ。去れない。きみたち怪し過ぎ。俺が直接病院に運び込む」
「あー? ((普通|ノーマル))が((異常|おれたち))に逆らおうってのか? いい度胸じゃねーか。ちゅーしたくなるな。
んじゃ、特別に、
俺の((実験動物|コレクション))にしてやるよ!!!」
刹那。
酷く低い声を発しながら、右手に持っていた注射器を刹那で俺の眼球のギリギリ前に持ってきた。
「………っ!!」
その声と注射器ももちろん怖かったが、最悪に怖かったのは包帯から覗く左目。
死んでいるような目――いや、これは逆に『生きているような目』と言うべきか(生きているような=実際は死んでいる)。
死体を見る死体のような、目線を合わせるだけで凍え凍てつき凍死しそうな、そんな冷たく寒い冷酷な目。
残酷な光景を。
凄惨な惨劇を。
残虐な地獄を見てきた目。
不幸を追い求め不幸を貪り喰うようなその目こそが、その女子生徒の最も怖い点だった……。
どうしたらいいものか。
怖くて身動ぎ一つできない。
口の中が乾いてくる。
大声で助けを呼ぶべきか?
いや、大声を出そうとした瞬間、注射器の注射針が俺の眼球を貫きそうだ。
何をすることをも許されない。
そんな絶体絶命の状況。
と、ここで転機が訪れる。
「名瀬ちゃん! 雲仙くんがこっち向かってる!」
急にニット帽がどこかを指差して叫んだ。
「……チィ! 見つかる前に引くぞ古賀ちゃん!!」
「了解!」
俺に注射針を向けていた包帯ナイフはニット帽に掴まれ、どこかへ一瞬にして去っていった。
助かった!
「……ふぅ〜。なんか知らんが命拾いしたな。
……ん? ちょっと待てよ? “雲仙くん”?」
喜びも束の間。
気づいたときにはもう遅く。
ドォン!!
行く手を“爆発”で阻まれた。
驚いてその場に固まってしまう。
「オイ、そこのニイチャン。テメーなに二回もデッケエ騒音鳴らしといてそのままトンズラしよーとしてんの? 風紀乱したら罰を受けるのは当たり前だろボケ!」
声のした方向を向くと、そこには箱庭生で最も敵に回してはいけない生徒がいた――。
風紀委員長・雲仙 冥利。
通称『モンスターチャイルド』。
10歳なのに飛び級で二年に所属している天才中の天才中の天才、例外中の例外中の例外、異常中の異常中の異常。言うまでもなく十三組に所属していて、黒神と同じく数少ない登校者。知名度――というか悪名が高いこの((正義|ひと))は、普通の生徒でも知っている人は知っている。
なんなんだ一体。
なんで今日はこんなに((異常|へん))な人にばっかり出会うんだろうか。
時計塔が原因か?
もう二度と近寄りたくないな!
「……え〜っと雲仙先輩、一回目の騒音はこの娘が屋上からここへ落下した音です。俺はたまたま居合わせただけです」
正直に話す。
事情とか聞いてくれない人らしいが、何も言わないで半殺しにあうよりはましだろう。
「……あ゛? じゃあ二回目の騒音はなんだよ?」
睨みつけてくる。10歳とは思えないほどの迫力だ。
「……そこの二つ目のクレーターの場所に、誰かがこの娘と同じく屋上から落下したんです。でもその人は地面に着地した直後にいなくなりました。俺は姿を見てません」
これは嘘だ。
でもこうするしかない。
『あの二人組』を明確にしたら、雲仙先輩は確実にあいつらを粛清するだろうから、今度は俺があいつらから復讐されるだろう。
次は((実験動物|コレクション))じゃきっと済まない……。
「じゃあテメーら二人のうち取り締まらなきゃならねーのはその女だけでいいんだな。おいテメー、ソイツをこっちへ寄越しな」
…………。
覆面ナイフの時と全く同じ状況になってしまった。どんだけ需要あるんだよこの娘!
「雲仙先輩、あなた校則違反してない生徒には手を出さないって聞きました。この娘は屋上から何者かにつき落とされただけで校則は違反していません。よって落下時の騒音の罪はその『何者か』にあると言えます。この娘は無実です」
俺は賭けに出た。
これがもし通らなければ、俺はこの少女を病院に連れていくことは、つまり救うことは不可能になる。
一世一代の、末代まで懸けた賭けだ。
「……ケケケ! なんだよ、つまんねーの」
言いながら去っていく雲仙先輩。
おお!
今度こそ命拾いをした。
この娘も、俺も。
「あっ、この娘を早く病院へ運ばないと!」
ぐったりと動かないその女子をおんぶして小走りする。
さっきの「名瀬」が言うにはまだこの娘は生きてるようだ。しかし急がないと手遅れになることには変わりないだろう。
「あ、救急車の手配しないといけなかった」
その娘を下ろし携帯を取り出す。
と同時に、唐突に何者かから声をかけられた。
「ん!? おい! 杵築クン、なんだその娘は! ボロボロじゃないか!」
見上げた先にいたのは――生徒会執行部役員服に、緑の『書記』の腕章。長く柔らかい金髪が風に靡く。
「阿久根先輩!!」
良かった。
また((異常|へん))な人かと思った……。
自然と溜め息が出る。
「おい! きみ、名前は!?」
阿久根先輩が駆け寄り、その娘に名前を聞いた。
「無駄ですよ阿久根先輩。彼女今気を失ってますから」
「……か…つ…もと………あき…ら……」
「かつもとあきらさん、だね? 分かった」
喋った。
いつの間に意識を取り戻していたのだろうか。さっぱり気がつかなかった。
だがまだ目は閉じたまま、生気は感じられない。
「杵築クン、事情はあとで聞く。今はとにかく急いで保健室の赤さんのところへ運び込むぞ!」
「阿久根先輩、病院へ真っ直ぐ運んだ方が良いのでは?」
「いや、なんにしてもまず赤さんのところだ! かつもとさんがあとどれくらい持つか分からない以上、救急車がここに来て彼女を乗せて病院に着くまでの時間が惜しい! 応急処置だけでもするべきだ!」
「なるほど……」
ここは素直に、怪我の治療とかに詳しいであろう体育系((特待生(チームトクタイ))に従った方が良さそうだ。
俺は阿久根先輩と二人でかつもとさんを担ぎ上げ、ダッシュで第壱保健室へ向かった。
〜おまけ〜
夭歌「……ちくしょう! せっかく古賀ちゃんの全力駆動時間を伸ばすためのいいサンプルだったってのによー」
いたみ「まあ仕方ないんじゃない? 雲仙くんとのバトルを避けるのが最善の選択だったし、『十三組の十三人』以外の十三組生を頼ってちゃ理事会から非難を浴びそうだしねー」
夭歌「でもよー古賀ちゃん、今のままじゃ全力で動けるのはカップ麺と同じ時間だぜ?」
いたみ「……。
(確かにカップ麺と同格なんてイヤだ!)」
説明 | ||
原作キャラと原作には出てこない箱庭生たちによるスピンアウト風物語。 にじファンから転載しました。 駄文ですがよろしくです。 |
||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
415 | 411 | 0 |
タグ | ||
めだかボックス オリキャラ オリ主 スキル 二次創作 | ||
笈月忠志さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |