踊る双月5
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「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 五つの力を司るペンタゴン。我が運命に共に立つ使い魔を召還せよ!」

最後の一度と許された挑戦でついに召喚のゲートは展開された。

先ほどまでの失敗の連続が嘘のようだ。

これにルイズは漸く安堵する。

しかし気を抜くのは早かった。

ゲートから現れた存在は彼らの意表をついた。

それは使用人のお仕着せの16-7歳の少年に見えた。

台所の片付けをしていたのか両手にはそれぞれ濡れた皿とふきんを持っている。

どう見てもどこかの屋敷の奉公人だ。

「アンタ誰?」

呼び出したルイズが思わず不審げな言葉を発する。

使い魔召喚では普通、人間を呼び出したりはしない。

「え、えっと、平賀才人。遠野家の使用人をやっています……

 って、あんたらこそ何だ? 今、俺を強制召喚しなかったか?」

 才人は戸惑いながら答える。

「そうです。あなたはミス・ヴァリエールに使い魔として召喚されました」

監督役のコルベールがそれに答える。

「そんなコルベール先生! 平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」

驚いて詰め寄るルイズにコルベールは指摘する。

「退学のほうがよいのかね?」

「うぐぅ……」

一言もないルイズ。

「俺が使い魔? 勝手に召喚しといてふざけた事いうなよ。

 つーか((俺 | 死徒))を召喚って、なんちゅう無茶苦茶な」

二人のやり取りを聞いて文句をいいつつ、あきれた様な物言いをする才人。

「立場を弁えなさい平民。貴族の会話に割って入るとは無礼ね」

そんな才人を鋭く制するルイズ。

しかし才人は怯むことなく言い返す。

「俺の国では貴族制度は昔に廃止されてるから平民呼ばわりされる謂れは無いよ。

 あんたらの国で貴族制がまだ残ってたとしても俺はこの国の人間じゃないし、

 自ら望んで来たわけでもない。雇い主でもないから従う理由もない。

 それどころか召喚という名目で人をいきなり誘拐して奴隷にしようとする奴と、

 その共犯に、ちょっとばかり思い知らせてやってもいいんじゃないかな?」

そして殺気を当てる。

才人は死徒としての格は低いが、充分訓練され死線も潜っている。

そんな存在に殺気を当てられたルイズ達はそれぞれ反応する。

ルイズや周りに残っていた生徒や使い魔達の大方は初めての経験に立ち竦む。

修羅場の経験があるタバサは瞬時に戦闘者と化す。

元軍人のコルベールも戦闘者と化しルイズを守る立ち位置を確保する。

そして、一時は竦んだものの、ルイズは負けじと平然を装って問いかける。

「ヒラガサイトといったかしら。それでは貴方はどうしたいの?

 ここで暴れても何の益もないわよ。中々の実力を持っているようだけど……

 これだけの数のメイジを相手に何とかできるかどうかくらい判るでしょう?」

ルイズの言葉に十人以上の生徒が杖を構える。

別にルイズに義理がある訳ではないが貴族を軽く見られた事への反発からの行動だ。 

「それに、その見慣れない風貌。あなたは随分と遠くから呼び出されたようね。

 この場を切り抜けたとしても、どうするの。未知の土地で行き倒れるだけよ。

 加えて、ここにいる人間は少なからず権力と縁がある。

 あなたは追われる身となる。愉快なことにはならないでしょうね。

 ここはひとまず契約を交わし学院に落ち着いてから身の振り方を考えてはどう?

 使い魔となれば少なくとも衣食住の保障はするわよ」

不幸な未来図を示した上で説得を試みる。

「勝てないなら逃げればいい。

 お前さん達のスピードとスタミナじゃ追いつけないさ。

 そこの竜は速そうだが、一人や二人ぐらいならどうにでもなる。

 野外の活動は別に苦にはならんし、野の獣どももあんたらより弱いだろ。

 それに貴族なんてものがいる以上、その生活を支える平民が必ず近くにいる。

 いずれ大きな町でも見つけてそこに潜り込むさ。

 そうすれば戦闘力と権力では闇に潜んだ((俺 | 死徒))を見つけ出すことはできねえよ」

才人は即答する。

死徒化の後の逃走と遠野家での生活では戦闘以外にも、

裏社会との接触や野外活動を含む様々な経験を積んでいる。

そこに虚勢はない。

「……なら何を望むのです。ヒラガサイト」

才人を見据え問いかけるコルベール。

「当然、元いた場所への送還だ。他に何がある。俺を家族の元に戻せ。

 あんたらには使い魔を召喚して従属させる事は重要らしいが俺には関係ない」

「無理よ。召喚呪文はあっても送還の呪文はないわ。

 使い魔召喚はメイジの一生のパートナーを決めるもの。送り返す理由がないもの」

「そうか。ならあんた達には用はないな」

言い切るルイズを見て逃走しようと身じろぎする才人。

「話は最後まで聞きなさいな。

 送還呪文がない、というのはあくまで必要がないから知られていないと言う意味よ。

 実在する可能性がないということではないわ」

言葉を重ねるルイズ。

「……何が言いたい?」

警戒するように問い返す才人。

「ここは魔法学院よ。

 図書館はじめ魔法に関する手がかりは他のどこよりも多いわ。

 暴れるのも逃げるのも勝手だけど……大人しく従った方が機会は多くならないかしら。

 ああ、ついでに言うと私の姉様は魔法を研究するアカデミーに勤めているの。

 人間の使い魔には興味を持つかもしれないわね」

努めて平然と言うルイズ。

内心では逃げられれば後はないと冷や汗をかいているが。

あと、実際は人間ではなく((吸血鬼 |死徒))だが今ルイズに知り様がない。

ルイズの言い様は才人の要求がわかったので餌をぶら下げただけ。

ルイズには図書閲覧を許可する権限もアカデミーの研究内容に干渉する影響力もない。

何も具体的に約束したわけではない、空手形も同然だ。

「あるかも知れない。で、俺を縛ろうというのか? 少しいい加減じゃないか?」

そのあたりは才人も判っているようだ。

「そうね。でも現状では次善ではあると思うけど。

 まあ人間を普通の動物の使い魔扱いというのは確かに問題かもしれなから、

 私があなたを雇うということでどうかしら。

 あなたはどこかの奉公人のようだから、私の身の回りの世話をする召使い扱いで」

才人の言葉を認めつつ集まる視線を意識しながら続けるルイズ。

あくまで主従関係を結ぶ形で体面を守りつつ相手の妥協を引出す提案をもちかける。

少し落着いて考えれば才人にとってもこの話は最善ではないが悪くもない。

奴隷ではなく召使いとするといっているので遠野家での立場とあまり変わらない。

詳細を詰める余地があるとはいえ帰還の手がかりを探すとも言っている。

そしてなにより逃亡生活は御免だった。

死徒化してから1年間に命をかけた逃亡の経験があるので追跡を振切るのは可能。

しかし、あの孤独と絶望の再現はできれば避けたい。

突然の召喚と従属の強制に反発し強気に出た才人だが、それが偽らざる本心だった。

「……条件しだいだな」

才人は折れることにした。

 

結局、才人はヴァリエール家の奉公人として雇われた。

ルイズ付として学院に出向し、使い魔兼学院の召使いとして働く。

こうしてルイズは使い魔を得、平賀才人はハルケギニアでの居場所を得る事という形で、

一応の決着がついた。

 

 

あと召喚から才人がずっと両手に持っていた皿とふきんは、

異国の珍品として綺麗にした後ヴァリエール家に献上された。

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召喚と人事異動の顛末
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