ぬこの魔法生活 第40話
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 ◆ 第40話 看板ぬこと新人バイトさん ◆

 

 

 8月も中盤を迎えてしまった今日この頃。

 ただいまぬこはご主人のひざの上でご飯を食べています。

 

「はい、みぃ君」

「にゃ(ありがとうございます、ご主人)」

 

 ひゃっはー! 新鮮なお魚だー!

 朝から魚が食べれる事のすばらしさと言ったら、ぬこの残念な語彙では伝えきれないですよ。

 しかも、ご主人のひざの上であーんってしてもらってるんですよ、ぬこは! 幸せすぎる……!

 これでさっきから、ぬこに突き刺さってる殺意の波動がなかったら完璧なんですけどねー。

 

 ふっふっふ、ご主人手ずから食べさせてもらうシーンを見せつけられてシスコン的にはどんな気持ちですか? NDK? NDK?

 

「………(バキィッ!)」

 

 横の方から、破砕音。恭也さんの手の中で叩き折られた箸。

 やばい。煽りすぎました……? 口にも念話にも出してないのに!

 

「……おっと、箸が折れてしまった。気を付けないとな?」

 

 こちらをじっと見ながら、そんな事を仰る恭也さん。

 ……それはアレですか。ぬこがその有様になってしまうと言うことですか?

 ま、マジで震えてきやがった……怖いです……!

 

「どうしたのみぃ君? 急に震え出しちゃって……」

「あはは、恭ちゃんがさっきから怖い目で見てるからじゃない?」

「みゃあ」

 

 その通りです!

 もう、どうにかしてよね、このシスコン!

 

「もうっ、お兄ちゃん!」

「……ふ、ふんっ、なんと言われようが俺はやめない!」

 

 ぬこをかばって恭也さんを叱るご主人。

 でも、ご主人が手を出さなくても問題はないのであるよ。

 

「それはそうとして、恭也? 料理を作った私の目の前で箸を折るだなんて……覚悟はできてるの?」

「そうだぞ! いくらみぃが羨ましかろうとも! 母さんのご飯を冒涜するようなマネを……許さん! 母さんの説教の後で徹底的にしごいてやるからな。覚悟して置けよ」

「グッ、よもやこの俺が見誤るとは……! これで勝ったと思うなよ……?」

「にゃ(もう勝負ついてるから)」

「さて、恭也? 廊下に来なさい」

「あぁ……」

「恭ちゃん 南無〜」

(ご主人ご主人。ご飯が冷めちゃいますよ?)

「あ、ごめんねみぃ君。はい、あ〜ん」

 

 あ〜んです。うまうま。

 計画通り (ニヤリ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わり翠屋。

 

 今日はご主人が午前中からお昼にかけて塾なので、ぬこは大人しく看板ぬこやってます。

 そうそう、最近は我等が翠屋のお客さんの幅が広がったのです。

 どちらかと言うと、女性や(忌々しい事に)カップルのお客が多かった翠屋なのですが、ここのところ男性客も急増しているのです。

 まぁ、新しいバイトさんのおかげですよね。

 

(ありがたや、ありがたや)

「……なぜ、いきなり私に向かって拝む」

(いや、シグナムさんが翠屋の商売繁盛に貢献してるんで、ご利益でもあるんじゃないかと)

「私は何もしていない。とりあえずやめろ」

(はーい)

 

 ぬこの隣には、胸元に大きな赤いリボンがついてる白黒のエプロンドレス、それに頭にカチューシャみたいな……ヘッドドレスだっけ? まぁ、所謂メイド服を着ているシグナムさん。

 とりあえず誤解の無い様に言っておくが、翠屋はメイド喫茶ではない。他のバイトさん達は普通の従業員服である。

 ちなみにこのシグナムさんの格好、毎週異なっていたりする。

 先週は女物のバーテンダー風の服装。ぬこは次辺り巫女服じゃないかと踏んでいる……巫女服+クールビズ=腋巫女?

 

「それにしても、今週はこのような格好か……どうして桃子さんは私にだけこのような姿を……」

(似合ってますよ?)

 

 肩を落としながら嘆いているシグナムさんに、事実をありのままに伝えてみる。

 

「な、何を言うのだ! 烈火の将たる私が、このような、ひ、ヒラヒラな……!」

(まぁまぁ、何だかんだ言いつつ毎週着てるじゃないですか。結構楽しみにしてるんじゃないんですか?)

「な、なぁッ!? き、気に入ってなど……っ!」

 

 口ではこう言ってるけどぬこは知っている。

 先ほど、鏡の前でスカートの端を持ち、くるっと回っていた事を……!

 後ではやて嬢に事細かに教えようと思ってます。

 

(ほらほら、お客さんが来ますよ?)

「い、いらっしゃいませ……! 何名様でしょうか?」

 

 ……すばらしい接客だすばらしい。

 以前の面接を断られまくっていた頃のシグナムさんとは見違えるようだ。

 お母様の熱血指導の賜物ですな、うん。どんな指導だったかだって……?

 ヌコハ何モ見テナイヨ? ただ、シグナムさんが終始涙目だったとだけ言っておく。

 

 とまぁ、そんな瀟洒なシグナムさんを一目見ようと主に男達が。また、シグナムさんの事を「お姉さま!!」なんて呼ぶ女の子達も足繁く通っているのである。

 おや、またいつものシグナムさん目当ての奴等が……

 

「おいっ、今日のシグナムさんメイド服だぞッ(小声)」

「あぁ、やべぇ……巨乳+クール+メイドとか。組み合わせが凶悪すぎるだろ……!(小声)」

「………40点だな」

「? いつもシグナムさんシグナムさん言ってるお前にしては辛口だな……?(小声)」

「ハッ、メイド服にロングスカートなどッ! 認めんッ! 俺は絶対にミニスカート以外は認めんぞッ!!(大声)」

 

 ……毎度のことながらうるさい奴等である。あと、最後の奴の意見は認めない。

 メイド服=ロングスカートと相場は決まっているんです。あとお前等、後ろ後ろー。

 

「お客様? 店の前で騒ぐのはいただけませんね?」 ゴゴゴゴゴ……ッ!!

『ヒィッ!? スイマセンでしたーーーッ!!?』

 

 さすがお母様である。あまりの笑顔の|威圧《プレッシャー》に男達は即座にジャンピング土下座。

 そして、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。これもここ最近よく見る光景である。

 他にもシグナムさんに目を奪われた彼氏が、彼女さんにぶっ飛ばされるのもよくあることだったりする。

 内心、ざまぁ! とか、思ってないですよ?

 

「ふぅ、まったくあの子達ったら、謝るだけ謝ってウチの商品買っていかないんだから……」

 

 まぁ、店に入る以前の問題ですからねー。

 いっそのこと路上販売とかすると良いかもですね。

 

「でも、それで逆に店内に入りづらくなっちゃうのも困るのよねー」

 

 あ、それもそうですね。

 まぁ、あいつ等もそろそろ懲りて店内でなんか注文しますよ、たぶん。

 

「そうね。それじゃあ引き続きよろしくね?」

 

 了解です。

 あともうツッコミませんよ、ぬこは。

 そう思っていたぬこに念話が飛んできた。

 

(みぃ、今桃子さんと……)

(気のせいです)

(いや、しかしだな……)

(気のせいったら、気のせいなのです)

(……そうか)

 

 ノーモア ツッコミ

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後3時過ぎになり、だんだん客足が増えてきた頃。

 ご主人達がやって来た。

 

「いらっしゃい、ませ……」

「5名様やー」

 

 シグナムさんの機能が停止した!

 

「あら、いらっしゃい。外でもいいかしら? お客様がいっぱいなのよ」

「あ、うん。大丈夫だよ」

「うわぁー! シグナムめっちゃ似合う!」

「先週みたいなカッコいいシグナムさんも良いけど、こっちの格好も素敵ですね」

「〜〜〜ッ(笑っちゃダメっ、堪えるのよシャマル……!)」

「……い、今お席をご用意いたしますので、少々お待ちください……うぅ……」  

「はやて……シグナムさん涙目なんだけど」

 

 塾帰りのご主人達とはやて嬢+シャマルさんがやってきた。

 つまり、シグナムさんの寿命が羞恥心でマッハなのである。

 

「やっぱシグナムも普段からこういう可愛い服も着んとなぁ。こう、ヒラヒラでフリフリの」

「というか、桃子さんってどっからこんな服仕入れてんのよ……」

「にゃはは……」

 

 などとアリサ嬢が話してるけども、それはぬこたちにも分からなかったりする。

 もしかしたら、寺に住んでるエルフ耳の魔女っ娘若奥様と知り合いなのかもしれない……まぁ、冗談ですけど。

 とはいえ、アリサ嬢やすずか嬢は他人のこと言えないと思いますよ。家でメイドや執事を侍らせてるのに。

 

 そんな事を考えてる間に、シグナムさんが席の準備を終わらせたようなので、ご主人達が席に着く。

 ちなみに、ちゃんと日差しが当たらないようにパラソルも広げてある。

 割と、涼しげな風も吹いてるから外でも大丈夫だろう。

 そういえば例の件はどうなったんだろうか? シャマルさんに聞いてみる事に。

 

(シャマルさん、シャマルさん)

(――のままじゃ……の存在感が……やっぱり獣耳? ……フォーク)

(あの、シャマルさーん? 大丈夫ですかー?)

(は、はい! 大丈夫ですっ! 獣耳でも何でも着けますッ!?)

(……個人的に興味があるけど落ち着いてー)

(はっ!? みぃさん?! な、何ですか? 私は別にシグナムが羨ましいとか、着々と存在感が薄くなってきてる事を気になんてしてませんからねッ!?) 

(……あー、うん。そうですね!)

(そ、それより何かありましたか?)

(いや、結局はやて嬢の容態はどうだったのかなって思いまして……)

 

 自爆キャラとしてキャラ立ちし始めてます、と言おうかと思いましたが、可哀想なので全力でスルーする事にして本題に入る。

 

(あ、はい。昨日、病院で石田先生に見てもらったんですけど、やっぱり6月辺りから麻痺の進行が少しずつだけど早くなって来てるみたいなの。今すぐにどうこうなるって事はないらしいんだけど……)

(むむ、という事はやっぱり蒐集を始めた方がいいみたいですね。ただでさえ最初は様子を見ながら蒐集しなきゃいけないですし……)

(そうね。シグナムたちとも話したんだけど、今週末からでも始めたいと思うんだけど、どうかしら?)

(そうですね。ご主人も学校が始まってしまうと休日以外は時間が取り辛いですしね。ぬことユーノは別ですけど)

 

 ご主人の夏休みも今週いっぱいで終わっちゃいますからね。

 なんなら、もう少し早くから動ければよかったです。

 

(それじゃ、今週末から蒐集を始めるという事でいいのね?)

(はい。あ、それと蒐集の時ってはやて嬢はどうするんですか?)

(それは、私たちの誰かとお留守番しててもらうのが一番だけど……どうして?)

(いや、最初は一緒に連れていったほうがいいんじゃないかなって。蒐集した時にどんな影響があるかもすぐ調べれるし。何かあったときも対処のしようもあるかなと思ってですね)

(それもそうね、比較的危険度の少ない次元世界を選べば問題もなさそうだし……そうしましょうか)

 

 などと話しているうちに、シグナムさんが飲み物とシュークリームが運んできたようだ。

 

「ご注文は以上でしょうか?」

「あ、追加注文してもええ?」

「はい、大丈夫です」

「シグナムのスマイルちょーだい?」

「………くっ」

「んー? どーしたん、シグナム?(にやにや)」

 

 はやて嬢ェ……いくらなんでも鬼畜過ぎるでしょう?

 シグナムさんが冷や汗たらしてますよ。ご主人達もご主人達で微妙にニヤニヤしてるし……。

 これはヒドイ……まさに四面楚歌。敵ばっかりですね。

 助けて欲しそうな目で見てこられても、ぬこにはどうにもできないですぜ。

 どちらかと言えば、ぬこもご主人達サイドだしね。

 

「わ、分かりました…っ……これでいかがですか?」

「引きつってるわよ、シグナム」

「………」

 

 シャマルさんの指摘に、再び微笑もうとするシグナムさんだが……

 

「あの、それじゃどちらかと言うと……その」

「にこって言うより、ニヤって感じね」

「あ、アリサちゃん! そんなにはっきり言っちゃダメだよぅ……」

 

 すずか嬢、それとどめですよ。

 でも、これでもだいぶマシになった方なんですよ?

 最初の頃なんて、完全に相手を威嚇する感じでしたからね。

 笑うという行為は本来、獣が獲物に牙を剥く事に由来してる……つまり、そういうことなのです。

 

「くっ……」

「むぅ、シグナム……帰ったらスマイルの練習な!」 

「はい……」

(スマイルの練習ってなんぞ……?)

(いや、両手の人差し指で口元を上げてやなぁ)

(銀ですね、分かります)

 

 などとバカな事を話しながらお茶の時間は過ぎていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 今回の後日談。

 

 はやて嬢にシグナムさんのメイド服を着た時の事を話したところ。

 顔を真っ赤にしたシグナムさんにレヴァンティンで斬りかかられ、ぬこは海鳴中を逃げ回る羽目になったのであった。

  

 

 

 

 

 

 ◆ あとがき ◆

 読了感謝です。

 気が付けば、今月一つしか更新してなくて焦る。リアルェ……

 まあ、ともかくぬこ達の日常は変わらずこんな感じで、楽しくやっております。

 でも、そろそろ蒐集に向けて動き出す予感。

 では、誤字脱字などありましたら、ご報告いただけるとありがたいです。

 

 

説明
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コメント
>聖なる夜天さん 桃子さんの読心術はもはや誰の追随も許さないのです。……ミニ四駆の話をされても、その、困るんですけどもw微妙に世代が違うのよ(pluet)
>不知火 観珪さん シグナムねーさんが顔真っ赤にしてるって、何か、こう、いいと思わないか……? ウチの恭也さんは主人公やってたとは思えないほどのダメッぷり。どうしてこうなった(pluet)
桃子さんの読解力は安定してるな。真面目な人ほどからかいたくなるのはわかるけどねw ニコ生でレッツ&ゴー観てシャイニングスコーピオンを買ってしまった……当時はマグナムが一番好きだった。後にソニックも好きになったけど。(聖なる夜天)
その後、ぬこを見たものはいなかった…… シグナムねーさんを怒らせちゃダメっすよ、ぬこくん それにしても恭也ェ……ww(神余 雛)
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