乱世を歩む武人〜第四十ニ話〜
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桂枝

「全く休んだ気がしないのだが・・・まぁいいか。」

 

ここ数日、寝台の上にいただけなのに何故か死線すら彷徨っていたようなそんな気にすらなってくる。

 

それでも一応約束の7日間が過ぎたので私は寝台から起き上がった。

 

桂枝

「っと。流石に色々と厳しいな。」

 

ふらつく身体を何とか押さえて私は杖を手にとる。

 

体の傷はほとんど回復した。右足は未だ完治とはいかず一週間寝たきりだったので身体は思うようには動かないが・・・まぁ他は戦闘にならなければ問題は無いだろう。

 

とりあえず政務を行う程度は可能だと判断したため、私は執務室へと足を運ぶ事に決める。その時・・・

 

一刀

「おっす桂枝。数日ぶりだけど具合はどう・・・何をしているんだ?お前は。」

 

出会い頭に呆れた顔をする北郷の姿があった。

 

 

 

 

 

桂枝

「何を・・・とは?」

 

一刀

「そのままの意味だよ。俺には桂枝がまだ足取りもおぼつかないような身体で仕事に向かおうとしているようにしか見えないのだけれど?」

 

まるで問い詰めるような声で北郷はそう訪ねてくる。なので私も・・・

 

桂枝

「ああ。約束の7日も過ぎたし・・・流石に調練には参加できんが頭は動くからな。文官業務だけでも続ける。」

 

淡々とそう答えることにした。

 

一刀

「そのふらついてる体で・・・か。はぁ。こりゃ華琳の提案も間違ってはないのかな・・・」

 

桂枝

「???」

 

後半何を言ったのかはわからなかったが・・・表情からしてあまり私にとっていいものではなさそうだ。

 

この次の言葉を吐く北郷の表情が・・・

 

一刀

「とりあえず桂枝。これから軍議を開くからそれに出席するように。

 

ーーー桂枝のこれからの処遇を決めるってさ。」

 

まるで「ご愁傷様」とでも言いたそうな表情をしていたのだから。

 

 

 

 

 

 

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〜数刻後〜

 

 

王の間は静まり返っていた。

 

玉座を向かい側に見るは曹魏に仕えし武将たち。

 

玉座の横に静かに立つのは曹魏の誇る軍師と天の御遣い北郷一刀。

 

そして玉座に鎮座する我らが主人、華琳さまであり・・・

 

華琳

「さて何故呼ばれたのかは・・・わかっているのよね?桂枝。」

 

桂枝

「はっ。私の此度の処罰についてだと思っております。」

 

正面で膝をついているのが私、荀公達であった。

 

 

 

季衣

「ちょっと待ってください!桂枝兄ちゃんが罰ってどういうことですか!?」

 

流琉

「そうですよっ!桂枝兄様が一体何をしたっていうんですか!?」

 

処罰といった途端に二人が声を荒げて乗り出してきた。・・・聞いていなかったのか?

 

春蘭

「落ち着け二人共、華琳さまの御前だぞ。」

 

季衣

「春蘭さま!なんで桂枝兄ちゃんが罰を受けなければいけなんですか!?」

 

春蘭

「それはだな・・・桂枝が命令違反を犯したからだ。」

 

流琉

「命令違反・・・?何かの間違いですっ!あの真面目な桂枝兄様がそんなことするわけありません!そうですよね、秋蘭さま?」

 

真面目・・・か。そう受け取ってもらい擁護してくれることは嬉しく思う。しかし・・・

 

秋蘭

「悪いが流琉・・・あやつは確かに命令違反を犯しているのだ。

 

ーーーーこの前の戦いの時にな。」

 

だからこそ実際にしている身としては心に響くというものだ。

 

季衣

「この前の戦いでって・・あの劉備が攻めてきた時のことですか?

 

秋蘭

「ああ。あの時の桂枝には本城での待機命令がでていてな。大きな理由は過労で倒れていたから・・・というのがあるのだがもうひとつ。

 

あの命令には万が一の際には本城を死守しろという意味も込められていたんだ。」

 

そう、あの時私が勝手に洗浄に出たことにより、本城には総指揮をとれるものが一人もいない状況に陥ってしまっていたのだ。

 

私がいたからどうにかなるか、と言われれば疑問だが・・・それでも任されたことだ。それを無視した以上、国としては見過ごすわけにはいかないだろう。

 

流琉

「そんな・・・たった一人でアレだけ頑張って・・・あんなにボロボロになったそれなのに罰を受けなくてはいけないだなんて・・・」

 

季衣

「春蘭さまっ!ボクがご飯がなくなってもいいですから・・・桂枝兄ちゃんを助けて上げてくださいっ!」

 

目に涙まで浮かべて二人は私のことをかばおうとしてくれた。

 

春蘭

「いや、しかしだなぁ・・・」

 

秋蘭

「むぅ・・・」

 

その真摯な瞳にさすがの二人もたじろうでしまう。

 

華琳

「ふふっ。聞いたかしら?桂枝。あの子から「ご飯がなくなってもいい」とまで言われているわよ?」

 

桂枝

「ええ。全く・・・随分と慕ってくれていようようで嬉しい限りですよ。」

 

まぁ・・・だからこそ。そこまで慕われているからこそ。

 

桂枝

「季衣、流琉。ありがとう。お前たちの気持ちは嬉しいが・・・私は納得している。これ以上二人を困らせるな。」

 

私が止めなくてはいけないのだろう。

 

 

季衣・流琉

「「桂枝兄ちゃん(兄様)・・・」」

 

桂枝

「あの時の私は違反だとわかっていて戦場に向かった。しかも個人的な理由でだ。

 

わがままを国で通した以上それ相応の報いは受けないとな。」

 

信賞必罰。例え誰であろうともこういう時にけじめを付けなくては国というものは成立しないのだから。

 

桂枝

「大丈夫だよ。別に処刑されるほど重い罪ってわけでもないんだ。ちゃんと罰を受けて・・・そしたらまた一緒に飯でも食べよう。」

 

できるだけ気負い何言ったのが功を奏したのか

 

季衣・流琉

「「・・・うん(はい)」」

 

二人はしぶしぶとだが元の位置へと戻っていった。これでいい。これ以上ごねてあの二人にまで罪を向かわせるわけには行かないのだから。

 

自分の不手際くらい自分で背負わなければいけないだろう。

 

一刀

「なぁ・・・あれって完全に」

 

「ええ、自身の功績は考慮してないですね。じゃなければ開口一番「処罰は何だ?」とは普通言いませんよ。」

 

「きっと桂枝さんの中では全部「自分が勝手にやったこと」なんでしょうねー。・・・華琳さまをかばったとか、武将を相手にして死にかけたとかその辺も含めて。」

 

桂花

「まぁ・・・だからこそ今回の処遇は桂枝にとってもいい薬になるはずよ。」

 

何やらあちらがわではヒソヒソと話しているが・・・きっとささいなことなのだろう。

 

華琳

「・・・もういいかしら?」

 

今までの事態を静観していた主人が口を開く。

 

桂枝

「ええ、おまたせいたしました。では・・・お願いします。」

 

 

改めて私は深く頭を垂れ、主人の宣言を待つ体勢に入った。

 

その姿をみて主人は軽く頷く。そして大きく息を吸って・・・

 

華琳

「荀公達。あなたには命令違反の罰として2ヶ月間、桂花の補佐役から外れてもらうわ。」

澄んだ声で高らかに宣言した。

 

桂枝

「・・・はっ」

わかってはいたが・・・2ヶ月。随分と長くとられたものだ。

ちらりと姉をみやる。苦い顔をしているが驚いた様子はなく、姉はそれを事前に聞かされていたようだ。

今、足の怪我があるため武官として働けない以上。補佐の仕事が無いということはただの文官にまで落とされるということだろう。

 

まぁ仕方ない。筆頭軍師補佐からただの文官に落とされ2月働く・・・随分軽いものだと判断できる。

 

だが・・・さすがは主人といったところか。姉の手伝いができないことが私への最大の罰だということをよく理解している。

 

華琳

「ふふっ。随分とつらそうな顔をしているけど・・・まだ終わっていないわよ?桂枝。

ーーーー次は私の隊の手助けをし被害を減らし、なおかつ援軍が来るその時までたった一人で持ちこたえたことに対する賞与を与えるのだから。」

桂枝

「・・・賞与?」

華琳

「ええ、そうよ。桂枝、これはアナタに対する魏王である私からのお礼という事にもなるわ。・・・意味はわかるわね?」

王からの礼を断るということは相手に対する無礼にもつながる。すなわち主人は「大度を示せ」とそう言っていると判断した。

桂枝

「・・・分かりました。そういうことでしたら。」

そこまで言われては断るわけにはいかない。何をもらうことになるのかは分からないが甘んじて受けるしかないだろう。

この時私は下をむいたままだったためわからなかったが、後に聞くところによると主人はとても楽しそうな表情をしていたという。

そして・・・そのとても楽しそうな表情をした主人は高らかにこう宣言した。

華琳

「荀公達っ!これより二ヶ月間。あなたにはこの曹孟徳の補佐を命じる!」

桂枝

「はっ!謹んでお受けし・・・

・・・・・・・・・・・・・・・はいっ?」

何が来ても同じ返事だろうと用意していた言葉を発していた私の思考は、その宣言を聞いて1秒で固まった。

 

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〜一刀side〜

 

一刀

(あー。驚いてる驚いてる。)

 

目を丸くしている桂枝という珍しい姿がそこにはあった。

 

仕方ないだろう。俺達もそれを聞いた時には随分と驚いたものだ。まぁ理由と実力から言えば納得できるものではあったのだが。

 

華琳

「どうしたのかしら?目を丸くしているようだけれど。」

 

桂枝

「・・・申し訳ありませんがもう一度言っていただけますか?どうも呆けていたようでありえない言葉が聞こえてきたようでして」

 

しかし当の本人は全くもって理解できないという雰囲気を出していた。

 

華琳

「何度でも言いましょう。桂枝。これから最低二ヶ月間。あなたは私の補佐をするのよ。」

 

桂枝

「・・・理由をお聞かせ願えますでしょうか?」

 

 

物言いや言動から冗談の類ではないと判断したのだろう。難しい顔をしている。

 

華琳

「とりあえず・・・桂枝。これを見てご覧なさい。」

 

そう言って華琳は桂枝の目の前に一冊の書簡を投げ出す。桂枝はそれを手に取り読みだして・・・

 

桂枝

「・・・これはもしや」

 

驚愕の表情を浮かべた。

 

華琳

「気づいたようね。そう、それはあなたが今まで「その責任者の名義」で手伝ってきた書簡の目録よ。」

 

調べあげるのに随分と苦労したわ。と華琳は皮肉を込めたような顔で薄く笑った。

 

そう、これはあの華琳ですら今まで桂枝の功績に気づかなかった理由。

 

この男は自分の手伝った他の人の仕事に対して自分がやったという痕跡を残そうとしないのだ。

 

代表的な所で言うならば張遼隊のところだろう。事実上全ての書類を桂枝一人でやっているというのにそこに桂枝の名前は存在しない。

 

最後のハンコを霞が押すことによりそれらのほぼ全てを霞がやり遂げたことになっていた。

 

まぁ張遼隊はそれでもまだいい。皆、桂枝が大抵の仕事を片付けていることは知っているためそこまで問題にならない。

 

しかし他の部隊を含めたこの国の半分の書類でそれをやったらどうなるか?言わずもがなである。

 

そこまでやっていたら普通他に影響がでるのでは・・・?と思うかもしれないがそこは桂枝。きっちりと別に自分がやった部分の仕事をまとめた報告書を添えてあり桂枝がどう対応したかが一目でわかるように工夫がなされているため他の仕事への影響は皆無だ。

 

ご丁寧に筆跡まで揃えてあり見分けるのは非常に困難だったため皆の証言をもとに何とか完成させたのがあの書簡だった。

 

華琳

「随分とやってくれたようね。何故こんな回りくどいことをしたのかしら?」

 

華琳もこれを見た時には随分と驚いていたものだ。何しろこの魏は基本的に全員が「華琳LOVE」を原動力として動いている連中。

 

姉の桂花を筆頭として我こそはと自分の功績を褒めて貰いたい連中ばかりの集団だ。まさか自分の功績を隠すような奴がいるとは思わなかったのだろう。

 

桂枝

「・・・もとより自分のやっていることなど微々たるもの。わざわざ言いまわるものでもないかと。」

 

目立たず、自身のそんな桂枝の在り方は人によっては素晴らしいと、謙虚で慎みがあると賞賛するのかもしれない。けれど・・・

 

華琳

「そうね。たしかに他のものでも出来る仕事だし桂枝はそれでいいのかもしれないけれど・・・私は許さないわよ。」

 

華琳はその在り方を許さなかった。

 

華琳

「この私の下にいる優秀な人材が正当な評価を受けず。私がその才を測りきれていないなんていうことが許されるわけがないじゃない。だから私はあなたを自分の手元においてその才をきっちりと見極めることにしたのよ。」

 

誰よりも人の才を愛する華琳だ。それを隠そうとする桂枝も、それに気づけなかった自分も許せなかったのだろう。

 

桂枝

「せっかくのご提案なのですが辞退させて・・・」

 

まぁ当然桂枝としては辞退を申し出てくるだろう。そんなことはわかっているだからこその・・・

 

華琳

「まさか・・・辞退するなんで言わないでしょうね?さっき言ったでしょう。これはあなたに対する「お礼」なのよ。光栄でしょう?何せ私が直々にその才を存分に発揮する場を与えてあげているんだから。」

 

「お礼」という縛りだ。ああ言われて断ろうものなら大度を示さなかった桂枝にも受け取られなかった華琳の名誉にも傷がつく。

 

華琳

「皆も文句はないわね?異議があるならここでいいなさい。なければそのまま決定よ」

 

桂花

「軍師三名。全員賛同いたします。・・・桂枝。ちょうどいいからアンタはその自分に対する過小評価を少しは改めて来なさい。」

 

桂枝

「姉貴・・・」

 

秋蘭

「軍部側も異論はない。姉者も構わないよな?」

 

春蘭

「ああ。北郷だったらこの場で首を跳ねると言いたいところだが・・・桂枝ならいいだろう。」

 

非常にツッコミたいところだが・・・まぁいいだろう。あの二人がOKを出した以上他に反論する奴もいまい。

 

季衣

「ねぇ流琉。結局桂枝兄ちゃんはどうなるの?」

 

流琉

「桂花さん達のお手伝いの代わりに二ヶ月の間華琳さまのお世話役になるんだって。私達親衛隊との関わりももっと増えるかもしれないよ!」

 

季衣

「本当っ!!そういうことなら任せてよ桂枝兄ちゃん!足の怪我が治るまではボク達が華琳さまも桂枝兄ちゃんも絶対に守るからね!」

 

季衣や流流の瞳にも期待の光が宿ってしまった。こうなってはもう誰であろうと・・・ましてやあのお人好しが期待を裏切るはずもなく・・・

 

 

桂枝

「・・・不詳、この荀攸。全力を持ってその任に当たらせて頂きます。」

 

頭をたれて申し出を受け入れた。

 

 

 

 

 

こうして桂枝の二ヶ月間に渡る新たな生活がスタートしたのである。

 

 

 

 

 

 

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あとがき

 

書く時間がなかったというのもありますが・・・全然文章がまとまりませんでした。非常に申し訳ないです。

 

今回で一応50話ということになるのでIF孫呉ルートの短編作ろうと思ったら人間関係全部出すだけで5話くらい行くだろうなぁと断念したりといろいろアリましたが気にしない方向で行きましょう。

 

というわけで次回は華琳の元で働く桂枝の話になります。例によって頭の中では出来上がってるのですが文章にする能力が異様に落ちているのでまた二週間くらいかかるかもしれません。

 

どうか気長にお待ちくださいますようお願いいたします。

説明
二週間・・・随分とかかってしまいました。
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コメント
グリセルブランド さん 桂枝「一人の補佐くらいやってやるよ(震え声)」  不知火 観珪 さん ええ、おそらく量とは別の意味で苦労しそうですよ^^ アルヤ さん 車椅子・・・木製で作れるんですかね? アドニスさん そういうのはきっとはわわとあわわが書いてくれるでしょう^^;(RIN)
これ、ノーマルカップリングになるよね?大丈夫だよね?一刀とくっついたりしないよね?いいか、絶対だぞ!アブノーマルにはするなよ!絶対にするなよ!(アドニス)
そしてふらついてる桂枝のために一刀は車椅子を作ってやるんだよな(妄想)(アルヤ)
桂枝くんも普段の自分の態度がこんな形で裏目(実際は表目?)に出るとは思わなかったでしょうね……華琳さまのお手伝いとは、いやはや苦労しそうですな(神余 雛)
華琳 「おはようからおやすみまで私を補佐するのよ、おぅ早くしなさいよ(せっかち)」  桂枝くんは心労で再び倒れて終了(グリセルブランド)
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