インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#85
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一組は、やっぱり戦場だった。

 

「三番テーブル、ケーキセット二つ。ショートとチーズケーキだ!」

 

「四番テーブルのチーズケーキと紅茶のセット、まだ!?」

 

「ショートとフルーツタルト、紅茶二つのセット上がったよ!」

 

「八番に昨日配った整理券持ちが二人!ガトーショコラと紅茶のセット出して!」

 

「紅茶のポット、用意出来ましたわ。」

 

((客席|フロア))と壁一枚挟んだ厨房スペースではパティシエ姿の調理担当たちが注文片手に駆け込んでくるメイド&執事たちに急かされながら動き回っていた。

 

二枚看板であった一夏と箒が欠員している状態での盛況は彼女らを追い詰めに追い詰めて悲鳴を上げさせていた。

…うれしい悲鳴、と言うべきなのであろうが……

 

「ふぇぇん!忙しくて目が回るよ〜!」

 

「あわわわわわわ、」

 

「篠ノ之執事長、戻ってきてー!」

「織斑メイド長、助けてくださいぃー!」

 

最早、上がるのは悲鳴では無く助けを求める懇願の声であった。

昨日は一夏と箒の二人が中心になってこれ以上の混雑状況を捌けていただけにその存在の大きさが改めて浮き彫りになる。

 

「………そういえば、本音は?」

 

「あれ、居ない…静寐、知ってる?」

 

「本音も生徒会役員だから、そっちじゃないかな?」

 

「え!?」

 

その驚きの声は一組に生徒会役員が三人も居る事に対してなのか、あのマイペースの権化『布仏本音』が生徒会役員である事に対してなのかは判らない。

 

何せ追求するヒマも確認するヒマも無いのだから。

 

 

「一組のメイド&執事の御奉仕喫茶、最後尾はこちらでーす!」

 

「予想待ち時間は三十分程度でーす。」

廊下からはそんな誘導整理に当たるクラスメイト達の声と「祭り」特有のざわめきが聞こえて来ていた。

 

今日はIS学園の文化祭――招待客の来る公開日である。

現在時刻は十一時。

まだまだ始まったばかりだ。

 

 * * *

[Side:   ]

IS学園、正門付近。

 

「うわぁぁ…!」

 

「これが、IS学園…」

 

「噂には聞いていたが、ここまで凄いとは…」

 

そこにはナニカに圧倒された三人組が居た。

言うまでもなく………

 

という訳には行かないので言うと弾&蘭の五反田兄妹と御手洗数馬の三人――要は一夏と鈴の中学時代の友人ズである。

 

「あ、ISだ!なんだろ、打鉄かな、ラファールかな、それとも誰かの専用機!?」

「なんでメイドが……通ってる誰かの付き人か?」

「あっちには見るからに『軍人』って感じの人も居るぜ。眼帯つけてるけど…何処の人だ?」

 

日本に在りながら日本でない、そんな学園に驚きの連続を繰り返している間に傍からは、

 

「あそこの男子、誰かの彼氏かな?」

 

「隣のあの子は…あっちの子の彼女?妹?大穴でちっちゃい姉?」

 

「誰か声かけに行ったら?」

 

「でも抜け駆けは無しよ。」

 

なんて言われているのだが、幸か不幸か三人には届いていなかった。

 

 

 

と、そうこうしているうちに順番が回って来る。

何の順番か?

当然、学園への入場の順番である。

 

「はい、招待券を確認させて貰います。」

 

長めの髪を後頭部で結い、前髪をカチューシャで上げた眼鏡の―堅物そうなのにどこか柔らかい感じのする女子生徒に促されて三人はそれぞれに届けられたチケットを差し出す。

 

「招待者は…鳳さんに織斑くんと篠ノ之さんね。」

 

「ええと、知ってるんですか?」

なんか黙ってしまった男衆に代わり蘭が訊ねる。

 

「まあ、あの七人組はイロイロと有名ですから。この学園の生徒なら知らない人の方が少ないでしょうね。」

 

「ほぇ…七人?」

 

つい妙な声を洩らしてしまった蘭。

弾と数馬は相変わらず、奇妙な沈黙を保ったままだ。

 

「はい、チケットはお返しします。こちらがパンフレットです。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「楽しんで行ってね。」

 

「は、はい!お兄、数馬さん、行くよ!」

 

「イイナ、IS学園―――ぬをっ!?」

「ソウダナ――――――おわっ!?」

 

突然引っ張られた二人は訳も判らずにゲートから引き剥がされる。

その様子を受け付けの女子生徒…布仏虚は微笑ましいとばかりに笑顔で眺めていた。

 

「では、次の方。どうぞ。」

 

 * * *

 

「三人とも、お待たせ。」

 

一行が入場して数分後、入場ゲート付近で待っていると鈴が現れた。

 

「あ、鈴さん。」

 

「久しぶりだな。」

 

「元気してたか?」

 

「久しぶり…って言っても夏休み以来だから一ヶ月ぶりくらいかしらね。」

 

それぞれの挨拶に笑顔で返す鈴。

 

「そういや、一夏のヤローは?」

 

「一夏なら生徒会の仕事があって手が離せないって。――ま、外で立ち話もなんだから入りましょ。簡単に案内するわよ。」

 

弾の呼び方になんとなく何を言いたいのかが分かった鈴は軽く溜息をつく。

 

「鈴さんはクラスの方大丈夫なんですか?」

 

「ま、一回りする位ならね。」

 

三人を先導し歩きはじめる鈴。

弾、蘭、数馬の三人は物珍しそうに周囲を見ながらそのあとをついていく。

 

一行が校舎に入るとほぼ同時、ほんのわずかに陽が陰った。

 

 * * *

 

一組の悲鳴と鈴の弾たちとの合流とほぼ同刻………

 

「織斑くん、アリーナの会場設営の最終確認、行ってきて!」

 

「第一アリーナですよね。チェック表、貰って行きます!」

 

「宜しく。終わったらそっちでそのままピット待機。チェック完了と待機場所はプライベートチャンネルでもいいから一報よろしく!」

 

「了解!」

 

 

生徒会も、かなり多忙でいろんなところを駆け回っていた。

 

なお、虚は受付に、本音と簪は校内の巡回、箒は対応に追われる楯無の補助に動いていて、今から動く一夏もついさっき入場整理の上空支援と警備から引き揚げてきたところである。

 

まさに『休む間もなく』とはこういう状況を指すのだろう。

 

生徒会以上に、羽目を外す生徒の鎮圧に回る空や麻耶の方が多忙かつ大変なのだが…

 

「うっし、行くか。」

 

『IS学園 生徒会執行部』の腕章を確認してから一夏は駆け出す。

 

その頭上に広がる青い空と温かな陽の光。

 

それが少し陰った事が、気がかりだった。

説明
#85:文化祭 二日目 その二



文化祭とかなんだかんだがようやく終わりましたので、更新再開です。

―――ただ、ほぼ原作無視が始まるので相変わらず遅いと思いますが…
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