真・恋姫†夢想 とある家族の出会い 「姜維編」 〜結びの金木犀〜
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 とある家族の出会い物語 〜 結びの金木犀 〜

 

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 荀ケ、字を文若。後漢末に活躍した人物。荀家八龍と称されたうちの一人、荀?をその親に持ち、始め袁紹本初に仕え、その後、曹操孟徳に仕えた。その時曹操からは、我が子房(前漢の立役者の一人である張良のこと)が来たと、諸手を挙げて喜ばれたという。

 その後は曹操の期待に良く応え、董卓の自滅を予見し、曹操が留守の間の?州を守り通し、苦境にあった皇帝の奉戴を進言し、また、郭嘉奉孝といった数々の名士英才も推挙した。その後も袁紹との間で起こった官渡の戦いや、南下政策における荊州侵攻など、数々の面で大いに曹操を援けたが、そんな荀ケに待ち受けていたのは、その曹操によって齎された最期だった。

 西暦の二百十二年。

 後漢の建安十七年に、曹操がその爵位を進めて国公になろうとした時、荀ケは頑なにこれを諌めた。

 

 『公(曹操)が兵を起こしたのは、本来朝廷を救い、 国家を安定させるためである。それ故、朝廷への真心からの忠誠を保持し、偽りのない謙譲さを守り通してきたのだ。君子は人を愛する場合にけして利益を用いないもの。そのような事をするのは宜しくありません』

 

 そう言って、曹操の慢心を諌めた荀ケであったが、悲しいことに、彼へと曹操から送られたのは侘びの言葉ではなく、中身の入っていない、『空の器』、であった。

 荀ケはそれを見た途端、主君のその意図する所を瞬時に悟った。自らはもう、主君にとって用済みになったのだと、そう彼は解釈し、そして失意のうちに自ら毒を煽って死んだ。

 そうして、世に王佐の才と呼ばれた天才、荀ケ文若は、不遇なる最期をもってその生涯を閉じたのだった。

 

 「……というのが、正史に伝わる荀ケの大まかな人生、と。……なんだか救われんなあ……」

 

 ぎし、と。リクライニングシートの背もたれにその体を預け、俺は小さく嘆息する。

 

 「((狡兎|こうと))死して((走狗烹|そうくに))らる、だったか。悲しいもんだよなあ、主君より才の高い部下ってのも。でもまあ」

 

 再び、目の前の四十インチモニターへとその視線を転じつつ、俺は手元のキーボードをカタカタと打ち、そこに別の画面を映し出させる。

 

 「……“同じ荀ケ”でも、こっちでは絶対、さっきみたいな末路にはならないよなあ」

 

 苦笑しながら、そう呟いた俺の目に入っているのは、モニターに映し出された“とある外史”の光景。金髪カールの少女と、その少女に跪く、猫耳付フードを被った少女。皆さんご存知、『恋姫†無双』世界における、曹操こと華琳と荀ケこと桂花、である。

 ちなみに現在のシチュエーションはというと、なにやら大失敗した桂花に対し、華琳が嬉々としてオシオキをしてるようで、精密に描写すると十八禁になってしまう光景が繰り広げられております。

 

 「うわ、あんなことまでするか……っ!さすがはどSな華琳さま!そこに痺れる憧れるぅ!」

 「……なに真昼間から下らんことを」

 「お?ああ、なんだ((雲|ゆん))か。なんか用か?」

 

 ちょっとばかしリビドーが溢れて、思わずそんなことを口走った俺の背中に声をかけてきたのは、白い半そでTシャツにジーパンという、とってもラフな格好をした、紫紺の色の髪の女性。

 

 『((狭乃雲|はざまのゆん))』

   

 その元の名を、華雄、という、元々恋姫世界のとある外史に生を受け、そしてとある争乱の際に生命を落とし、その後、何の気まぐれか((意思|ウィル))によって管理者へと再誕した人物。まあその時の詳しい話は、少し前に発表した((報告書|ss))の方を見てもらうとして。

 それから後、俺預かりになった彼女に訓練やら教育やらを施しているうち、すっかり惚れ込んでしまった俺のほうから彼女にプロポーズ。今ではこの俺、外史の管理者の一端に席を置く『狭乃狼』の、まあ改めて言うとちっとばかし照れるが、嫁、になっているわけだ。

 

 「例の調整中の((素体|マテリアル))、それのバイオグラフが安定してきたんでな。最後の調整をお前に見てもらおうと思って呼びに来たんだ。……まさか真昼間から覗き見をしてるとは思わんかったが(ジロリ)」

 「う。いや、まあ、なんだ。あー、けどそっか。アレ、やっと安定してきたか。……ホムンクルスなんざ初めて創ったんで不安だったが、どうにか完成しそうかね」

 「ああ。……お前と私の遺伝子から生み出されたホムンクルス。その一人目。後は、あの体に適合する魂が見つかると良いんだがな」

 「そうだな。……普通に子供を作ることは出来ん俺たちの、それでも正真正銘の、本当の子供だ。それと、魂で俺と直接繋がることで娘になった輝里や命とは違うけど、それでも、あいつらにとっても妹になる子だし。……あ、そのあいつらは?」

 「輝里なら今冬に行われる即売会とやらの準備で、ここ何日か部屋に缶詰状態だよ。命は今日はコスパとやらの日だそうで、朝早くから出かけているぞ」

 「……さよけ」

 

 まあ輝里の腐趣味は元より承知だが、命がまさかのレイヤーとはなあ。……そういや最初に会った外史でも、男装なんかしてたっけ。趣味と実益を兼ねていたわけだ。うん、今更ながら納得。

 

 「そういうことなら、しゃああんめえ。ほんとならあいつらにも妹、今日、初お披露目したかったんだが、またの機会にするかね。じゃ、ラボに行くか」

 「分かった。ああそうだ、狼。……その映像の記録、ちゃんと消しておけよ?」

 「……ちぇ」

 

 とまあ。この日はそんな感じで、何時も通りに時は過ぎ、新しい娘の体の調整も無事終了。後は、この体に見合った、この体とバイオリズムや波長の合う魂の選定をして、融合、固着させるだけと。あ、そだ。

 

 「……名前、今の内に考えておかんと、な。目が覚めたときに、あの子を呼ぶのに名無しのままじゃ、感動が台無しになりかねん」

 「……お前のその発言が、全部台無しの気がするがな」

 

 雲のそんなツッコミに、俺はなははと笑って返し、彼女がその俺に呆れつつも笑顔をこぼす。そんな、何事も起きない、平和な日の光景。

 けど。

 俺は、見つけてしまった。

 それから数日後、その、新しい娘の新しい魂となる、その候補を探す為に、いくつかの外史を観測しているそのときに。

 その外史を、俺は、見つけてしまったんだ……。

 

 

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 「……これは」

 「珍しい外史、ね。一刀が、天の御遣いとしてキーパーソンになる彼が、何処の勢力にも全く属していない、ううん、その存在すらして居ない外史なんて」

 「それどころか、この外史はほぼ、ここまで正史通りの流れを辿っておるの。稟、郭奉孝も史実の通り、病で既に没しておるし」

 「……あの月様が、史実どおりの暴君董卓となっておられようとは……!しかも恋も、呂布もまた史実通りの……」

 

 外史の挟間にある俺専用の観測空間、通称『ユグドラシル』内の、通常の生活空間として創成した館、『ヴァルハラ』内。その一階リビングの中央に設置されたモニターに、俺達は今、完全に釘付けになっていた。

 例の((素体|マテリアル))に適合しそうな魂、それを選定するために様々な外史を検索、観測していた俺は、ある時一つの外史に意識を奪われた。そこは、確かに恋姫の世界から派生した、全ての登場人物が女性となっている三国志、その世界だったのだが、その外史には、恋姫世界には必要不可欠なはずの天の御遣いが、何処にも、存在していなかったのだ。

 天の御遣いとはすなわち、恋姫外史における無限の変革と可能性を指し示し、そして促す役目を与えらた役者、すなわち、【主人公】、のことである。恋姫外史の場合、往々にしてその役を務めるのは、現代社会で暮らしていた、いたって普通な青年としての、北郷一刀という人物である。ただし、少数派ではあるが、その彼以外の人物が主人公を務める外史もあるが、それは全体の1〜2割程度の数しかないので、この場においては、天の御遣い=北郷一刀として話を進める。

 

 「……しかし一番不思議なのは、だ」

 「不思議なのは?」

 「……外史内の連中ってのはほんと、歳食っても見た目変わらないよなあ。……羨ましい」

 「あのね。今はそこが問題じゃあないでしょ。ほら、物語の方、どんどん進んじゃってるわよ、父さん」

 「おっと、いけね。……あ、赤壁だ」

 

 ツインテールにした黒髪を揺らす少女、俺と魂での繋がりを持つことによって、新しい生命としての存在を謳歌することになった、かつて徐庶元直と呼ばれた彼女、輝里のツッコミで、俺は再び視線をモニターへと戻す。

 そこに映し出されたのは、長江を挟んで対峙する、曹操率いる魏軍と、劉備軍(まだ蜀には入っていない)と孫権の呉の同盟軍が戦う、いわゆる赤壁の戦いのシーン、だった。

 

 「……何の介入も無い以上、戦は魏の敗北で終る、か。そして孟徳は雲長に見逃され、急死に一生を得る、と」

 「本当に、史実どおりに進んでるな、この外史。……あ、桂花」

 「ふむ。どうやら文若も正史の通り、この時期、病に臥せっておるようじゃな」

 「……赤壁あたりで、病に臥せる桂花、いや、荀ケか。……となると」

 

 輝里同様、俺と魂で繋がることで、今ここに存在し続けている、もう一人の俺の娘、かつては劉弁として、とある外史の皇帝だった命が、モニター上、床に臥している桂花の姿の映し出されているのを見て、そう一人ごつ。

 そして俺は、そこで気付く。

 先日何気無しに見た、正史の荀ケ文若の、その生涯を綴った記録映像と、今、モニターに映し出されている、桂花としての荀ケ文若が、今まさに、最後の重なりの時を迎えようとしていることに。

 

 「……牙。今から管理者権限第二項、及び第三項の使用申請と承認、時間はどれ位かかる?」

 『……第二項、か?ならばそうだな……三十秒ほどあればいいだろう』

 「三十秒か……外史の中なら一日ちょいって所か。よし、直ぐに申請を出してくれ」

 『……承知……』

 

 牙。それは俺の左腕に装着された、もう一人の俺と言っていいだろう、狼の頭部を象った、自立人格式手甲型半生体生機融合デバイスだ。俺の力の大半を、普段その内部に封印してあり、必要に応じ、彼を通して使うよう、おれは普段心がけている。何のためかって?まあ、修行の一貫って事にしといてくれ。話すと長くなるからな。

 

 「狼?管理者権限の第二項と第三項いえば」

 「ん?あ、ああ。……甲級管理者権限第二項、指定外史への一時的な強制介入権だ」

 「それじゃあ?」

 「ああ。……このまま行けば確実に、あの世界の桂花は、史実通りの死を迎えてしまう。あんな最期、こっちの荀ケ、桂花には似つかわしくないからな。だから何とか阻止を」

 「あ!桂花ちゃんがベッドの上で何か箱を持ってる!」

 「中身は……やはり、空、か。……荀ケの奴、顔が狂喜から絶望に……。あれでは今にも……」

 「あ、何か包みを取り出してるっ!」

 

 ふらふらと。モニターの中の桂花はおぼつかない足取りで、ベッドから降りて近くの小さな棚へと歩いて行く。そしてそこから小さな包みを、どう見ても“薬”の入ったそれにしか見えないモノを、その手に握り締めていた。

 

 「牙!承認はまだか?!」

 『……来たぞ。時間限定、だが』

 「権限の発動限界時間は?!」

 『外史時間で60秒だ』

 「短いなおいっ!ええい、ままよ!」

 

 しゅんっ!と。俺はその場から慌てて、件の外史へと緊急跳躍をする。跳ぶ瞬間、モニターの中の桂花が、苦悶と悲痛に満ち満ちた表情で、開いた薬包みを自らの口元へと運ぶ姿が、一瞬だけ、俺の目には映っていたのだった……。

 

 

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 「……遅かった、か……っ!」

 

 冷たくなり、最早、何も物言わぬ、言うことの叶わなくなったその少女の身体を、俺は怒りに震えるこの二本の腕で抱きかかえて居た。その死に顔は、まさに、苦悶と悲痛に染まり、そして、その身体からは今まさに、少女の魂が抜け出ていこうとしている。

 だが、その魂は、酷く色褪せた、今にも崩れて消え去りそうなほどに、その輝きを無くしていた。

 

 「……これは……まずい、な。怒り、悲しみ、そういった負の感情が、魂そのものの存在力、それを上回りすぎてる。……こんな状態の魂なんざ、管理者になって魂が見えるようになって、始めてみたぞ……。桂花……そこまで、悔しいのか……そこまで、悲しいのか……自分の存在自体が許せない、それほど思いつめるまで……くっ」

 

 史実の荀ケと、外史の桂花とでは、決定的に違う部分が一つある。勿論、性別のことじゃあない。それは、華琳……曹操に対する思い入れの強さ、だ。

 ただ主君として敬愛していたであろう史実の荀ケとは違い、外史の桂花は、女として、人間として、心底から華琳に惚れ込んでいた。熱い情愛を互いに交わす、それほどまでに。だからこそ。

 

 「……だからこそ、その華琳に捨てられた、そう知ってしまったショックは……俺なんかじゃ、到底計り知れないんだろうな……それはともかく、このままじゃあまずいな。存在力はどんどん削られていってるし、かといって輝里や命と同じように、このままただ魂で繋がっただけじゃあ」

 

 華琳に捨てられたその記憶が、彼女の人格まで壊してしまいかねない。

 

 「いっそ別人にでもなれれば……いや、待てよ?……記憶のほとんどを、個を保てる程度以外の記憶を削って、別の、新しい魂と融合させれば……そうだ、確か……っ!」

 

 俺は、ある一つの、この、桂花の魂を無事に、安全に存在させ続けられる、その小さな可能性に気がつき、すぐさま、彼女の“魂と身体”を持って、その外史を後にした。……後から部屋にやって来た華琳が、桂花の姿が何処にも見当たらなくなっていて、ただ、当人の血痕と思しきそれが残されているのを見、愕然としていたことなど、露とも知らぬままに。

 

 そして。

 

 「……父さん、何してるんだろ?桂花の身体と魂をもってすぐ帰ってきたと思ったら」

 「ラボに篭ったまま、一向に出てくる気配が無いの……あれからもう、三月にもなるというのに」

 「出て来たのは一度きり、か。ヘルヘイムになにやら取りに行ったようだったが、結局、何をとってきたのかも分からなかったしな」

 「……そういえばさ、ヘルヘイム、って、どんなとこなの?わたし、一度も入ったこと無いんだけど」

 「妾もどんな所か、前に一度親父殿に聞いたが、笑って誤魔化されたしの。そんなに大した所でもないから気にするな、とな」

 「かゆ…じゃない、雲さんは何か知ってるんですか?」

 「……私も、あの場所については良く知らんのだ。アイツの秘密の特訓場所だ、と言う以外は」

 

 彼女らがそんな会話を外でしているとは露知らず、俺はただ一人、自分の専用ラボに篭り、黙々とその作業を進めていた。目の前には、一つの強化ガラス製ポッドがあり、その中はある特殊な洋液が満たされていて、中には一糸纏わぬ姿でいる一人の少女の姿がある。

 

 「……よし。身体の“融合”はこれで良い。後は、ヘルヘイムから回収してきたこれと、桂花のこれを、と」

 

 計器の示すバーが完全なグリーンで落ち着いたのを確認した俺は、今度は別の装置の前に移動する。そこにあるのは、一つの壷。一見、何の変哲も無いように見える、人間の子供位の大きさのそれは、医療に詳しい人間が見たら、人間の、とある器官に酷似しているのに気がつくだろう。

 生命が生命を生むと言う、神秘を可能とする、その器官。

 そう、それは、『子宮』。ただし。

 

 「クライン・イデオムの安定稼動確認……二つの魂魄も安定状態を維持……。よし。ふー、これで後は、時間が過ぎるのを待つだけ、と。……クラインの壷、か。こんなもん、現実に造れるのは((観測空間|ここ))の中だけだよなあ。現実世界じゃあ、こんな矛盾した物体、造りようが無いかんな」

 

 

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 クラインの壷。

 という物を、皆さんご存知だろうか?主に位相幾何学で扱われる、境界も表裏の区別も持たない2次元上の曲面の一種で、3次元空間では通常の方法での埋め込みは不可能だが、射影して強引に埋め込むと、自己交差する3次元空間内の曲面になる。

 その形を壺になぞらえたものが、一般にクラインの壷、と呼ばれるそれである。

 

 「この中はある種、無限空間になってるからな。出口の無いこの人工子宮の中、二つの魂は延々と混じりあい、やがて、一つの魂魄として融合、定着する……筈なんだがな。理論上は」

 

 あの外史から持ち帰…いや、連れ帰ってきた、桂花の身体と魂。身体のほうは、例のホムンクルス素体と共に、素粒子段階まで分解・再結合させることで、一つの新しい生命として融合させた。こちらの方は、技術的な不安要素は全く無かった。

 しかし問題は、魂の方だ。

 あのままだと、桂花の魂は激しい自己嫌悪と自己否定によって、自己崩壊を引き起こしてしまいかねなかった。だから、俺は一つの方法を試してみることにした。それは、『魂魄』と『魂魄』の融合、だ。

 俺がユグドラシル内に創成した世界の中に、通常は他の一切合切を立ち入り禁止にしている、ヘルヘイム、という所がある。この場所、表向きには俺専用の特別訓練専用の場所としてあるヘルヘイムだが、実はここ、肉体を持った状態では決して存在できない、魂そのもの、意識そのもので無いと、その存在すら出来なくなる、唯一精神界なのだ。

 そして、そこの主な役目は、おれ自身の精神と魂を直接鍛えるためというのと、そしてもう一つ、人工魂魄の精製所でもある。

 

 「……ヴァルキュリアーズ創生の為にと創ったあれが、まさかこんな形で“二度目”の使用機会が来るとはなあ……No((W|クアトゥル))候補、かあ……どんな性格になるかねえ、あれと桂花の魂が融合したら。……ああ、そういや、No((V|トレース))もそろそろ成熟する頃かな?」

 

 ふと。手の空いて思考に重きを置けるようになった俺は、ふと、随分前にヘルヘイムから回収した、もう一つの人工魂魄の事を思い出した。

 

 「あれは確か、あっちの『ゆりかご』に……ああ、まだ、か。もう一寸時間、かかるかね、こりゃ」

 

 ちなみにゆりかごってのは、さっきのクライン・イデオムから取り出した魂魄を、安定状態に落ち着くまでゆっくりと寝かしておくための、文字通り、あかんぼのための揺りかごに近い。ただ。

 

 「……こっちは最初の被検体だったからなあ。ホントに手探りで、じっくりやったもんだから、まだまだ不安定なままだな。……妹の方が、姉貴より先に、目が覚める事になりそうだな。な、『蒔』」

 

 刹那。揺りかごが俺の言葉に反応し、うっすらと発光した。揺りかごの中に居ても、俺の声はもう、十分に聞こえているはずだから、それは何の不思議も無い。うん、無事に自我が形成されてるっぽいな。

 

 「……さて、と。桂花の方が落ち着くまで、少し寝ておくか。……流石に、三ヶ月不眠不休はキツイ。……寝ながら、夢の中で、新しい娘の名前、考えて置くか……おやすみ、二人とも……」

 

 

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 それから二ヵ月後。

 

 

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 「というわけで、さ、自己紹介しな」

 「きゃ。……う、うん」

 

 雲、輝里、命の三人が居並ぶその前に、俺は彼女の背中をぽんと軽く押し、一歩だけ前に進ませて、自分の名を名乗るよう促す。

 

 「え、えと。その、は、“始めまして”、お母様、お姉様方。ヴァルキュリアーズ、No((W|クアトゥル))、『((南|ミナミ))・スクルド・((結|ユイ))』、です」

 「ほへ〜……なんだか照れちゃうなあ、お姉様、だなんて」

 「お姉様、か。……なんだか懐かしい響きだの」

 「……まさか私が、お母様、などと呼ばれる日が来ようとは、な。……よろしくな、結」

 「は、はい!こちらこそ!」

 

 おーおー、緊張しとるなあ。思いっきり言葉遣いが標準語になってやんの。

 ジーンズ生地のジャンパーに、同じ生地の短パンを穿いた彼女、結が照れくさそうに、新しい家族の前に始めて出た事で頬を赤らめるのを、俺はこみ上げる笑いを殺しつつ見ながら、彼女の頭を撫でつつ声をかける。

 

 「結。もっとリラックスしな。……言葉が固いぞ?」

 「う、うん。せや、ね……ありがとな、おとはん」

 「ほへ?関西弁?」

 「これがこいつの普段の言葉遣いなんだよ。ま、緊張したりすると標準語になるけどな」

 

 わいわいと。漸く気のほぐれたらしい結の奴が、姉二人とあれこれ話し始める。そんな光景を微笑ましく見ていた俺の傍に、何時の間にか雲が近寄ってきていて、こっそりこんなことを耳打ちし始めた。

 

 「……狼」

 「ん?」 

 「彼女は……結は、“桂花”としての記憶は」

 「いくらかは持ってるよ。荀ケ、字を文若だった頃、華琳に仕えていた事とか、外史に居た時の家族のこととか、根っからの男嫌いだったこととか、な」

 

 ま、普段は意識の奥の底の底に沈んでて、めったに表面には出てこないけど。

 

 「その荀ケとしての記憶……特にその、なんだ」

 「……最期のことか?……流石に消してあるよ。でないと、我と個を保てなかったからな。融合も、おそらく上手くはいかなかったろうし」

 「融合?」

 「……その内、機会があったら、教えるよ。どうやって、今のアイツを形成させることが出来たのかとか、ヘルヘイムのことも、な」

 「……分かった。で、だ。結はもう、大丈夫、なんだな?」

 「ああ。精神も安定してるし、真名っていう魂魄の形を固定するモノも着けたし、大丈夫さ」

 

 そういう意味では、恋姫の真名設定には感謝だな。魂の本質を示すものである真名。あれがあったればこそ、二つの魂を繋げたんだし。

 そう。

 その真名の示すとおり、今の彼女を今の彼女として、あの真名が((結|つな))いでいるんだからな。

 

 「よっし!それじゃあみんな!これから新しい家族の誕生を祝って、大宴会と洒落込むぞ!」

 「ほんとっ!?」

 「おう!男に二言はない!酒でも菓子でもなんでも、好きなもの食っていいぞ!飲んでいいぞ!今日は無礼講だ!」

 『やったーっ!!』

 

 で。始まった大宴会。それで、俺はすっごい、後悔の念にかられる事になったんだが、まあ、なんだ。……思い返したくない記憶って、誰にでもあるものってえ事で。

 その時の事は、二度と思い出したくありません。じゃ、そゆ事で。

 

 『きゃははははーっ!こおらあ〜!そこの三流もの書き〜っ!もっとつまみもってこーいっ!』

 

 ……orz

 

 

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 えんど

 

 

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 というわけで。

 

 今回はうちの姜維こと、結が誕生する、その経緯を書かせていただきました。

 

 そして、彼女の真名、あれの字を由から結に変えました。

 

 字が違っても、ゆい、という発音が変わらなければ、真名としての意味、それほど変わらないはずだと、僕はそう思ってます。実際、輝里も一度、字を変えてますからね。

 

 ちなみに、元は『篝里』←この字を使ってました。

 

 桂花から結へと生まれ変わる、その行程、作者なりに色々捻って捏造しまくりました。ちょっと強引感強すぎでしょうが、そこはみなさまの広いお心で見逃してやってくださいw

 

 あと、作中で蒔のこともちらっと書きました。伏線?ナニソレ美味しいの?(おいw

 

 まあ、彼女のこともその内、こうして形にしておきたいとは思ってます。出来れば、娘’s全員分、時間かかっても書きたいですね。

 

 では今回はこの辺で。

 

 あ、異史・北朝伝に出てくる結も、名前を順次、こちらのものに変えていきますので、ご了承くださいね。

 

 それでは再見〜!ですwww

 

説明
はい。

うちの家族の出会い物語り、満を持して、姜維編をお届けです。

色々微鬱な展開も含みますので、閲覧の際にはくれぐれもご承知を。

では
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コメント
一丸<NoW候補のほうはもちろん、自我の形成前だよ。自我はゆりかご内で初めて生成されていくから。だから結の自我の根本は桂花、そういっていいと思う。・・・鬼ツンではなくなってるけどね(おw(狭乃 狼)
mokitiさん<おっしゃるとおりでした・・・orz (狭乃 狼)
RevolutionT1115さん<横山三国志を恋姫キャラに置き換えて読んでみるといいかも(えw 管理者権限は第十項まであります。各項に多くて二条。そんなとこですw(狭乃 狼)
不知火観珪さん<式はまだ挙げてないもんでwそれに挙げたとしてもこっ恥ずかしいですしww 管理者権限については、↓にもしたけど近々まとめたのを挙げる予定ですw(狭乃 狼)
丈二<ショトメで送るのも構わんが、まだ前部の項をまとめ切れてるわけじゃあないんで、近いうちに投稿する予定の、“管理者”華雄の勉強話会にそれらを乗せるから、それまで待っててくれいw(狭乃 狼)
桂花を助けるためとはいえ、NoW(クアトゥル)候補と桂花との融合か〜〜〜桂花の了承は状況からしょうがないとしても、クアトゥル候補の魂は自我を持つ前の融合であってほしいなあ〜〜でないと、クアトゥル候補がかわいそう。もちろん、娘達を大事にしている狼さんのことです。信じてますよwwではでは、次の作品を楽しみに待ってます。(一丸)
飲んだくれ共に『無礼講』は禁句です…つまみを半泣き状態で作り続けてる狼さんの耳には聞こえていないようだ。(mokiti1976-2010)
恋姫キャラたちで史実通りか・・・・・・・いろいろ想像できないものが;;管理人権限は第何項何条まであるのか気になったw(RevolutionT1115)
華雄ねえさんとの結婚式に呼んでもらってないのですが……orz いやさ、この管理者権限等々は奥が深いですな! いろいろと参考にしたいところですが、あいにくと手にあまりすぎる……(神余 雛)
俺ぁここの某漫画のおかげで暴君月が想像できてしまうわけだがwww  狼、その管理者の権限、詳しく設定をショトメかなんかで教えてくれんか?(峠崎丈二)
真山修史さん<蒼天公路みたいな感じ・・・じゃないかと(えw(狭乃 狼)
暴君な月か・・・想像できないなぁ〜(真山 修史)
グリセルブランドさん<恋姫世界ならそのくらいでしょうねwww(狭乃 狼)
月 「へぅ、そのお菓子も頂戴(強欲)」  恋 「・・・(涙目)」  恋は暴君月にお菓子を取り上げられて終了(グリセルブランド)
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