BIOHAZARD ~WITCHES HUNT ~ chapter2 〜契約〜
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ダストシューターから地下へと逃げ込んだミーナと謎の傭兵 ジェイクがたどり着いたのは古びた下水処理施設であった。

もう使われなくなってから何年も経っているらしく、巨大なスクリューやそれを稼働させるための装置や水を送る為のパイプは錆と埃、蜘蛛の巣に塗れてボロボロである。

幸いにも灯りは、小さな電灯がひとつだけだが灯っていた為、視界の確保には問題なかった。

すると施設の端に外へと続く階段があるのを見つけ、2人はそこを使って外へと逃げる事とした。

 

「ヤツらは“ジュアヴォ”…反政府軍のB.O.Wよ」

 

階段を登り、狭い通路の中を進みながらミーナはジェイクに先程のクリーチャー達の事を説明する。

 

「BSAAの連中がわんさか来てたのは、そういうわけか…」

 

ジェイクは相変わらず落ち着いた口調で呟くと、ミーナに質問する。

 

「んで、そんな化け物だらけのこの国になんでアンタは来たんだ? まさかクリスマス休暇使ってのバカンス…なんてわけないよな」

 

「まさか。 人を探しているのよ。この際だから貴方にも事情を説明しておいた方がよさそうね」

 

2人は話しながら、地上階へと出てくると、突然天井に空けられた大きな穴から一機の武装ヘリが飛んでいくのが見えた。

さらに通路の奥にある鉄格子の填められた窓の外からは、ジュアヴォ化した反政府軍の傭兵とBSAAの部隊との激しい戦闘の様子が見えた。

お互いに、押しつ押されつの一進一退を繰り返している様子であった。

 

「あのドアから外に出られそうね」

 

ミーナは通路の奥にある鉄製のドアを見つけ、PPKを構えながら、注意深くドアを開いた。

すると、外ではやはり反政府軍とBSAAの銃撃戦が展開されており、こちらの状況は反政府側が若干不利の様子であった。

何故なのかとミーナが疑問に思っていると、すぐにその理由は理解できた。

 

先程、上空を飛来していたBSAAの武装ヘリから機銃手が次々とキャビンに設置された固定機銃を撃って、反政府側のジュアヴォ達を掃射していたのだった。

ジュアヴォ達の中には何人か抵抗を試みる者もいたが、それらは瞬く間に弾丸の雨の洗礼を浴びて灰になるのだった。

すると、ヘリの機銃手はミーナとジェイクの姿を確認したのか、今度は彼らに向けて機銃を放ってきた。

 

「くそったれBSAA! 撃ってきやがった!!」

 

「貴方の仲間は皆、ジュアヴォになってしまってるの。 その格好なら狙われて当然だわ」

 

舌打ち混じりで悪態をつくジェイクに対し、ミーナは冷静にこの原因について解析する。

 

「フッ…アンタのその格好も違う意味で狙われてそうだがな」

 

「冗談言ってる場合?! 早くここを抜けるわよ!」

 

ミーナの“ズボン”を見ながらジョークを言う余裕を欠かさないジェイクにミーナは若干顔を赤くしながら、誤魔化すように促す。

2人は銃弾の雨をくぐり抜けながら、2人は細い農道を降りていき、近くにあった小屋の中へと逃げ込んだ。

すると、小屋の中からは裏手に広がる庭の様子が把握でき、そこにヘリへの反撃としてロケット砲 RPG-7やRPDを構えた2人のジュアヴォ達が上空に向けてそれらを激しく撃ち放っていた。

 

「地獄のはじまりか…」

 

ジェイクは腰のホルスターからポピュラーな自動拳銃 ベレッタ92のライセンスモデルであるタウルスPT92を引き抜きながら、皮肉っぽく笑みをこぼすと、容赦なく外にいるジュアヴォ達に向けて撃った。

撃った弾丸は、ジュアヴォ達のそれぞれ頭部に命中し、ジュアヴォ達は即死し、瞬く間に灰と化した。

すると、庭にはもう一体ジュアヴォがいたらしく、仲間が撃ち殺されたのを見て、即座に手に持ったAB-50をジェイクに向けて連射してくる。

だが、それよりも早くジュアヴォの動きに反応したミーナが、ジュアヴォにPPKを撃ちこみ、ジュアヴォの攻撃を阻止すると同時に、ジュアヴォを絶命させた。

 

2人は他にジュアヴォの姿がないか確認しつつ、中庭へと出ると、辺りには大勢のジュアヴォ達がロケット砲や重機関銃で上空にいるヘリ目掛けて次々と反撃に投じていたが、幸いにもそれぞれヘリへの攻撃に集中するあまりミーナ達の存在に気がついていなかった。

 

「今のうちよ!」

 

ミーナが合図すると同時に、ジェイクは彼女に続き極力ジュアヴォ達に見つからないように気をつけながら、複雑に入り組んだ字道の中を突き進んでいく。

だがその時、上空を旋回するヘリから今度はミサイルによる攻撃が、地上にいるジュアヴォ達に向けて放たれ、辺りは激しい衝撃、熱風に包まれた。

すると、ジュアヴォ達も必死に逃げ回りながら反抗の銃撃をより激しくさせ、辺りは凄まじい爆音が響き渡った。

 

「クソが…ここら辺はもう無茶苦茶だな」

 

「上手く避けていくしかないわね」

 

2人はそう話しながら爆発の中を突き進んでいくが、とある廃屋の屋根に差し掛かった時、運悪く発射されたミサイルが廃屋を破壊し、2人の足場を崩した。

 

「きゃあ!」

 

「くっ!」

 

2人は瓦礫と共に廃屋へと落下し、床に倒れるミーナ。

一方ジェイクはこういう事には慣れているのか、上手く着地すると直ぐに立ち上がった。

 

「なにやってるんだ?」

 

床に倒れたミーナを見て、呆れたように呟くジェイク。

すると、ミーナは意地を張るかのように立ち上がって足についた砂埃を払いながらそう答えた。

 

「心配しないで。少し転んだだけよ」

 

(別に心配はしてねぇけどな…)

 

そう言いたくなりながらも、別に口に出して言う事でもないと考えたジェイクはその思いは自分の胸の内にだけ留めておく事にした。

外は相変わらず、ヘリからの激しいミサイル攻撃が続いていた。

ミーナ達はなんとかその隙を見つけて、廃屋の窓から飛び出すと、全速力で再び駆け出した。

 

外には何人かのジュアヴォの姿があったが、まともに相手にしている暇はないと判断した2人は無視して、彼らを避けるようにしてその先へと進んでいった。

 

「ミューラーさん! あそこの小屋なら少しはミサイルの攻撃を防げるんじゃないかしら?」

 

「なるほど、そいつは名案だな」

 

そう言ってミーナが指を指したのは他の掘っ立て小屋みたいな農家とは違ってコンクリート出できたシェルターらしき建物であった。

2人は大急ぎで建物の入り口まで駆け寄ると、ガッチリと閉じられた鉄製のドアに目掛けて、同時に蹴りを放つ。

ネジ曲がったドアが押し倒され、中へと入った2人は銃を構える事を忘れずに、建物の安全を確認する。

すると建物は既に廃棄されたのか無人の状態であり、ミーナ達の入ったドアとは反対側にあるドアは半開きになって外から吹き付ける風によってキィ、キィと音を立てながら開いたり閉じたりと繰り返していた。

追手が来ない事を確認し、ようやく束の間の安全を確保した2人は、状況確認も兼ねてここで休憩する事にした。

だがここは戦場の真っ只中、いつどこから攻撃が飛んでくるかわからない為、この間も2人は決して気を抜く事なく周囲を警戒した。

 

「それで、さっきの話の続きはどうなんだよ?」

 

「えっ?」

 

「だから、人を探してるんだろ? そんでもって俺にも事情説明して聞きたい事あるって言ってたじゃねぇか」

 

「あっ、そうね。 さっきは直後に攻撃がきたから話せてなかったわね」

 

そう言うとミーナは改めて自分がこのイドニアへとやってきた理由を説明すると同時に、ここ3ヶ月間の間でイドニア領内で発生している連続ウィッチ失踪事件に関する情報を説明した。

 

「行方不明になったウィッチは36人。 現在までのその全員の生死や居所、それらに関する手がかりは何も掴めていないわ」

 

ミーナは説明しながら、片手に持った携帯端末から投影したホログラムの映像に行方不明となっているウィッチ達の顔写真とプロフィールを順に見せていった。

 

「そして…3週間前に私達ストライクウィッチーズからも失踪者が出てしまったの…」

 

ミーナは重苦しそうな表情を浮かべながら、最後に美緒の顔写真とプロフィールを表示してジェイクに見せる。

 

「坂本美緒…ストライクウィッチーズの事実上のNo2で、私より先にこのイドニアへウィッチ失踪事件の調査に訪れていたのだけど…B.O.Wに襲われたという情報を最後に他のウィッチ達同様に行方がわがらなくなってしまったのよ…」

 

ミーナは説明しながら、口調を徐々に暗くしていく。

まだ、美緒に対する後悔と罪悪感に打ちしびがれているのだろう。

だがその時、美緒の顔写真を見たジェイクが眉を顰めながら思いもよらぬ事を言い出す。

 

「あれ? この女…最近見かけた事があるぞ」

 

「えっ!?」

 

ジェイクの口走った衝撃的な事実に驚くミーナ。

すると突然、まるで人が変わったように興奮した様子で、ジェイクに向かって激しく詰め寄り出した。

 

「どこで!? 一体どこで見たの!? 確かにこの女性だったの!? ねぇ! ねぇ! ねぇ!!」

 

ミーナのいきなりの変わり様に流石のジェイクも戸惑いを隠せない。

 

「ちょ…ちょっと待て! 興奮しすぎだ! ちょっと落ち着けよ!」

 

怯みながら、ミーナを宥めると、ジェイクは事の詳細を説明し始めた。

 

ジェイクによると、それは今から4、5日前の事。

食料が枯渇し、飢えと乾きに苦しんでいたジェイクの部隊に『物資援助』と称した謎の一団がやってきたそうだ。

そして、その一団を率いていたのは赤いマフラーに水色のコート風の服をまとった謎の東洋人の女だった。

彼女はどこぞの一大組織にでも所属しているのか、高級な純正品の軍用食を大量に持ち込んだだけでなく、それらを運ぶために最新式のヘリコプターである『V-22 オプスレイ』を二機も運用していた。

そして、そのオプスレイの内の一機に物資の食料を取りに入った際、キャビンの奥に謎の拘束器具らしきカプセルがあり、その中に美緒らしき女性が眠らされていたそうだ。

ジェイクはカプセルをもっとよく調べようとしたが、その一団の見張りの一人に見つかった事でそれ以上の模索は出来なかったそうだ。

 

「そんでもって昨日の夜にまたその例の東洋人の姉ちゃんが急にやってきて、俺達にあの得体のしれない“栄養剤”を配ったわけだ。 あの姉ちゃん何かあると思ってたが、ウィッチの誘拐魔だったとはな」

 

「その東洋人の女は今どこに?」

 

「さあな。でも確か傭兵仲間が言っていた話だと、ここから北へ進んで街を2つ超えた先に広がってる山岳地帯に、ベースキャンプを持ってるって噂だ」

 

「山岳地帯!? 美緒が消息を絶ったのも確か山岳地帯だったわ!」

 

これでミーナは確信した。

美緒は生きている。そして、少なくとも彼女の失踪にはその東洋人の女なる人物が関連していると…

しかも、その女は反政府軍の傭兵達にジュアヴォへと変貌する“栄養剤”を配布している。

確かな証拠はないが、恐らく彼女はこの災厄に関わりのあるバイオテロリストであろう。

 

「ミューラーさん。 私をその女が拠点にしている山岳地帯まで案内してくれないかしら?」

 

ミーナは思い切ってジェイクに対してそう懇願した。

最早、反政府軍云々、傭兵云々などと言ってる猶予はない。

他に情報を知っているであろう反政府軍の関係者は皆、一様にジュアヴォと化した今、ミーナが美緒の下へとたどり着く為の手がかりを知っているのは目の前にいるこのジェイクだけだ。

 

「お願いミューラーさん。私に力を貸して」

 

一方、ジェイクは腕を組んで目を閉じたまま彼女の呼びかけに反応しない。

何やら考えこむようにして、ミーナの前を行ったり来たりする。

やはり無理なのかとミーナが不安になりかけた時、ジェイクの口が動いた。

 

「最初に条件だけ言っとく…」

 

ジェイクは目を開きながら淡々とミーナに向けて話し始めた。

 

「報酬は300万ドルだ。現金払いの値引きなし。 ちなみにB.O.W退治は別料金。1体につき1000ドル。勿論、護衛の報酬 2000ドルもきっちり別で貰うからな」

 

「えっ…それじゃあ…?」

 

「俺を雇いたいんだろ? だったら報酬の話から始めるのは当然だろうが?」

 

ジェイクは指を指しながら軽々と語る。

 

「それで山岳地帯までエスコートしてやる。 それ以降の仕事はまた別料金となるぜ。いいな」

 

ジェイクの言葉に目を瞬せていたミーナだったが、やがて笑みを浮かべて頷く。

 

「分かりました。 報酬の件はなんとか上に掛け合ってみます。 よろしくお願いしますミューラーさん」

 

正式な契約という事で凛とした表情と言葉遣いで話すミーナの言葉にジェイクは眉間に指を当てながら、苦い表情を浮かべた。

 

「おい、その“ミューラーさん”って呼び方なんとかしてくれねぇか? なんていうかその…慣れてねえんだよ。『さん』付けで呼ばれるのは」

 

「えっ? それじゃあ、なんて呼べば…?」

 

困惑した様子のミーナに対し、ジェイクは頭を掻きながら告げた。

 

「ジェイクでいい。とにかく“さん”は付けるな。いいな」

 

 

ジェイクとミーナが契約を交わした頃…

“それ”は、静かに動き始めた。崩れ落ちた地下道の中をゆっくりと歩き、突き進んでいた。

片腕に装着された機械の腕をカタカタと音を立たせながら“それ”は、静かにその時を待っていた。

主より指名された“標的”と遭遇する時を…

 

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2人は巨大なクレバスの断崖絶壁に築かれた施設の近くへとやってきていた。

崖のギリギリに建てられたその施設へ向かうには、廃材や突出た岩肌などで構成された即席の一本道が唯一の道であり、その所々…特に木の板などが無造作に置かれただけの場所などは真下に広がる底が把握できないほどに深い渓谷から吹き上げてくる冷たい風に煽られ、揺れていた。

言うまでもないが落ちれば一発であの世行きである。

ミーナとジェイクは慎重に、一本道をできるだけ壁側の方を進みながら、施設へと向かっていた。

 

「待て」

 

その時、ジェイクが片手を挙げて手信号で止まるように伝え、ミーナは彼に続いてその場に立ち止まった。

 

「隠れろ。 パトロールだ」

 

すぐにジェイクは挙げた手を左右に振り、一本道の壁側にできていた窪みの中に隠れた。

ミーナもその後ろにある窪みに身を潜めた。

 

「進路上に3人お待ちかねだぜ。 この細道だと、さすがにやるしかねぇよな?」

 

ジェイクの言うとおり、一本道の前方には突撃銃を装備したジュアヴォが3人、それぞれ数十メートル間隔で間を空けて一本道の上を警邏していた。

極力戦闘は避けたいところであるが、かといって他に迂回路もないこの状況の上では、ミーナ達に与えられた選択肢はひとつだった。

 

「そうね。 他に手はないわ」

 

2人の意志が一致した事を確認し、一番近くにいるジュアヴォが近づいてくるのを待った。

 

「ミーナ。 こいつを使え」

 

するとジェイクは突然、懐から取り出したスタンロッドをミーナに手渡した。

 

「スタンロッド? どうしたのこれ?」

 

「さっき病院から脱出する時に倒した野郎が持ってた物を頂戴しておいた。 アンタは俺と違って格闘はあまり得意じゃないみたいだから役に立つぜ」

 

ジェイクによるとそれは反政府軍内で制式採用(最も反政府軍自体、傭兵やゲリラなどのならず者の寄せ集めで、制式などという概念は、あって無いようなものであるが)されている強力な15mAの電流を放つオランダ製の軍用品らしい。

ナイフと並びサイドアームとして重宝されており、白兵戦の達人が使用すれば武器を持った敵兵も撃退出来るほどだそうだ。

 

「来たぞ。3、2、1で俺が出て奴の隙を作る。その間にお前がソイツを使って奴を一発で仕留めろ。OK?」

 

「わかったわ」

 

ミーナにそう指示するとジェイクは左手の指を三本立てた。

ジュアヴォが近づいてくると共に薬指から倒していき、最後に残った人差し指が倒れた瞬間、ジェイクは窪みから飛び出し、ジュアヴォの前に立ちはだかった。

 

「よお、景気良さそうじゃねぇか」

 

「!? Погоди ко ?е!?(誰だ!?)」

 

手のひらを上にして指を立てるように動かしながら挑発するジェイクを見て、ジュアヴォの多眼が驚愕の色を浮かべ、手にした突撃銃の引き金が引かれる前に、ミーナがスタンロッドを構えて身を踊りだし、露出した首筋に目掛けて電流の走ったロッドを振り下ろした。

「ゲッ」と短い悲鳴を上げ、男の全身に電流が流れ、身体を大きく痙攣させながら狭い道から崖下に転落していった。すでに気絶していた為、落下していく際に断末魔の叫びを上げる事もなかった。

 

「ヒュ〜。 なかなか手際いいな」

 

「まぁ、ブランクがあるとはいえこれでも元ドイツの諜報部員ですもの」

 

ジェイクが口笛を吹いて感心するとミーナはウィンクをしながら応えるのだった。

 

その後、同様の手段で、他のジュアヴォ達を倒していったミーナとジェイクは施設へとたどり着く事ができた。

どうやら元はイドニア政府軍が所有していた通信施設だったらしく、中には無線機や監視カメラ用のモニターなどの機材が多数残されていた。

しかし、反政府軍の手に落ちる際に破壊されたのか、そのすべてが再起不能な程に破壊されており、それも破壊されてから相当な年数が経っているのか数センチほど積み溜まった埃の上に露が付着してそのまま固まり霜のようになっていた。

 

「駄目だ。どれもお釈迦になってやがる」

 

「こっちもダメね。 別の場所を探しましょう」

 

ここにはあまり手がかりになりそうなものはないと判断した2人は、施設の探索を諦めて先へ進む事にした。

 

施設の奥からは吊り橋を隔てて、鉄製のドアがある崖を繰り抜いたようなトンネルへと続いていた。

2人がドアを蹴り破ってトンネルをくぐり抜けると、そこは渓谷の頂上近くであり、麓の街とそこから北の山へと続く巨大な鉄橋が一望できる。

その街はBSAAと反政府軍との激戦の最中であり、あちこちから黒煙が上がり、砲撃や爆音が聞こえてくる。

 

「あそこが例の姉ちゃんの塒がある山までに通る街のひとつだ。 そんでもってあの橋を渡りトンネルひとつ過ぎれば、もう一つの街にたどり着く」

 

「戦闘が激しいわね。 上手くくぐり抜けれたらいいんだけど…」

 

ミーナは不安げに語りながら、双眼鏡を取り出して街や橋の様子を伺う。

ミーナの持つ双眼鏡の小さな視界の中には、反政府側のジュアヴォ達の銃撃に煽られ、バリケードや装甲車の裏に隠れて必死に耐えているBSAA隊員の姿があった。

続いて橋の上に視界を合わせてみるが、やはりそこも似たような戦況であった。

 

「BSAA…苦戦してるわね」

 

「あの橋を攻めんのは無謀だぜ。 あそこは切り札の戦車が陣取ってた筈だ。 橋の上のBSAAはお終いだな。 間もなく全員棺桶の中だ」

 

先程BSAAに誤爆されたジェイクは、そう皮肉を込めて意図返しの毒舌を吐く。

だが、即座にミーナは彼の言葉に対し毅然と反論する。

 

「そんな事ないわ。 BSAAはそう簡単に負けるわけない。 彼らは私達ウィッチと同じ、強い信念を持っているもの」

 

「信念…ねぇ」

 

ジェイクはいまいちしっくり来ないのか、眉を顰めながら首をかしげるのだった。

 

それから、2人は山を繰り抜いて造ったような要塞もどきの施設を進み、麓の街へと向かって行った。

2人が次に目指していたのは要塞もどき施設から降りた直ぐ先にある反政府軍が軍事拠点としている廃工場である。

ジェイクの話によれば、そこは反政府軍が使うテクニカル(即席戦闘用車両)の製造工場であるらしく工場の周辺には何十台ものトラック、4WD、そして軍用車両が止まっていた。

施設内の空き地には兵舎代わりのテントが無数に張られ、簡易物資集積所らしきコンテナを荷台に搭載したトラックが何台も停まっている。

 

細い山道を通り、廃工場の裏手へと続く小さなゲートにたどり着いたミーナとジェイク。

流石に重要な拠点のひとつとあってその防御体制は完璧だった。

施設の壁の上には高圧電流の流れている金網が張られ、ところどころ穴の空いている部分には廃車が何台も積み重ねられて塞がれていた。

 

「できればゲート以外の潜入ルートを使いたかったけど…流石に無理そうね」

 

ミーナが抜かりのない廃工場の防御体制を確認しながら呟く。

するとジェイクも「やれやれ」と首を横に振り、ゲートのドアに足をかける。

 

「いいか。 ドアを破ったら一気に乗り込むぞ」

 

「えぇ」

 

「3…2…1…GO!」

 

ジェイクの声に合わせて2人は同時にドアを蹴り破った。

すると、床に倒れて大きな金属音が施設内に響き渡り、その音が止まない間に施設内の様々な入り口という入り口からジュアヴォ達が銃を手に慌ただしく出てきた。

 

「で? こいつらとはやるのか?」

 

「数が、多すぎるわ…逃げるわよ! 早く!」

 

ミーナはジェイクを促しながら、全速力で敵のいない入り口を探して走りだした。

次の瞬間一斉射撃の銃声が施設内に響き、それより一瞬早くミーナやジェイクの足下で弾着の土埃が次々舞った。

 

「チィッ! 久々に大金が入る仕事だってのに、さっきまで同業者だった連中に邪魔されてたまるかよ!」

 

「こっちよジェイク! 早く!」

 

ジェイクが悪態をつきながら走っていると、ミーナはジェイクの名を叫び、工場の西側にある大きな門型のゲートに向かって走り続けた。

幸いにもそのゲートはあまり使われていないのか見張りが一人もいなかったのだ。

ジェイクは必死に彼女に続き、なんとかゲートのところにたどり着くと、すかさずゲートを開いて、飛び込むようにして建物の中に入った。

 

 

建物の中は薄暗い地下道のような廊下が延々と続いた無機質なものであり、途中でT字路に別れ、それぞれ果ての見えない程に遠くまで繋がっていた。

 

「で? 次はどっちだ?」

 

ジェイクがミーナに問いかけたその時だった。

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

「「!?」」

 

突然、廊下に響き渡る謎の悲鳴。

遠くから聞こえてくるその絶叫は、その声質から恐らく断末魔の叫びであろう。

思わず、それぞれに銃を身構えるミーナとジェイク。

 

「今の…何?」

 

「さあな。俺ら以外にここでドンパチやらかしてる野郎でもいるのかね?」

 

ジェイクがそう言いながらも辺りを警戒していると、悲鳴が聞こえた方向の廊下の奥から複数の足音が聞こえてきた。

振り返ってみると、そこには数人のジュアヴォが駆けつけてAK-74やAB-50を構えたかと思うと、フルオートでジェイク達に向けて放ってきた。

 

「チィッ!」

 

ジェイクは舌打ちしながら近くに置かれていた大きなタルを引き倒すとその後ろに隠れてPT92を構えた。

ミーナも彼の横に立ち、PPKをジュアヴォ達に向けて発射する。

我武者羅に弾丸をばら撒くだけのジュアヴォ達に対し、ジェイクとミーナはジュアヴォ一人一人の急所に向けて照準を合わせ、発砲する。

すると何体かのジュアヴォは倒れるも、その後ろから次々と増援のジュアヴォ達が駆けつけてきて、結局その数は落とせていない。

 

「行きましょう! キリが無いわ!」

 

「くそっ!」

 

また、一体のジュアヴォを倒したのを確認しながらミーナはジェイクに撤退を促し、2人は廊下の反対側に向かって駆け出した。

だが2人はこの時気が付かなかった。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!」

 

ジュアヴォ達の銃撃音の中に混じって、廊下の奥から人間のものとは思えない咆哮が聞こえてきた事に…

 

 

「「はぁ! はぁ! はぁ!」」

 

やがて、2人は廊下の果てにある出口へとたどり着いた。

見るとそこは用水路だったらしく、出口から先は足の臑の下辺りまでの微弱な高さながら水が張ってあった。

 

「По(当たり)!」

 

息を切らし、照りつける陽の光に思わず顔を隠しながらも、外に出られた事に喜ぶジェイク。

 

「急いで! 追手が来るわ!」

 

ミーナはそう促し、先に進もうとした。

だがその瞬間…

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

「うおあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

さっきまで通ってきた通路の中からジュアヴォ達の悲鳴と…

 

「グルオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

謎の咆哮が聞こえてきたかと思うと、ジュアヴォの1体が弾き飛ばされるようにして、ジェイクやミーナの前に転がりでてきた。

すかさずジュアヴォに向けて拳銃を構える2人。一方、ジュアヴォは今の一撃がかなり効いたのか、なかなか立ち上がる事ができないでいた。

ジェイクはチャンスと思い、余裕の笑みを浮かべながらPT92の引き金に指をかけようとした。

しかし、暗闇に包まれた通路の中から、ゆっくりと歩み出てきた “それ”を見て、思わず攻撃の手を止めてしまった。

その隣ではミーナもまた、唖然とした表情で“それ”を目の当たりにする。

 

巨大な身体に、鉄製のマスクを付けた醜く歪んだ顔…

白く、乱れた髪に、青白い肌…

そして右腕に取り付けられた機械のアタッチメント…

 

「し…新型のB.O.W…?!」

 

冷や汗を浮かべながらミーナは思わず“それ”を指し示す単語を口にした。

説明
唯一人ジュアヴォ化しなかった傭兵 ジェイクと行動を共にする事になったミーナ…2人は激戦の続く戦場を駆け抜ける事となるが…
今回は本家『6』でも散々ジェイクを苦しめた“アイツ”が登場します。
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ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ ジェイク・ミューラー ストライクウィッチーズ バイオハザード6 BIOHAZARD 

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