真・恋姫?無双外伝 〜〜受け継ぐ者たち〜〜 第十七話 『銀髪の盗賊狩り』
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第17話  〜〜銀髪の盗賊狩り〜〜

 

 

――――蜀・成都の城、執務室

 

 魏との初めての決戦から、今日で三日が経った。

 あの後城に戻った俺たちは、今回の戦いで得た情報を再確認した。

 

 まず第一に、恐らく今回の戦いで魏に対してそれほどの被害は出せていないだろうということ。

 そして第二に、今のまま魏とまともに戦っても勝てないだろう・・・・ということだ。

 

 あの戦いで、魏は全力を出すどころか将軍全員すらそろってはいなかった。

 そんな状況で、途中で撤退したとはいえ俺たちは全力で戦って圧倒できなかった。

 こんな状態のまま全力の魏と戦えばどうなるか・・・・それは俺でも分かる。

 

 それは、まず間違いなく他の皆も感じているだろう。

 戦いから戻った皆の顔は、どこか暗い影を落としているように見えたから。

 

 けれど、落ち込んでばかりもいられない。

 勝てないと分かっているなら、勝てる方法を考えるしかない。

 

 幸い、俺たちには呉との条約もある。

 二国で力を合わせれば、必ず何か魏に勝てる方法があるはずだ。

 

愛梨 :「・・・・・兄上、どうかなさいましたか?」

 

章刀 :「え? ああ、いや、なんでもないよ」

 

 ふと名前を呼ばれて顔を上げると、机の向かいに座っている愛梨が不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 

 ・・・・今の、声には出して無かったよな、俺

 

 俺は今、城の執務室でいつもの様に政務に追われている。

 魏との次の決戦が迫っているこんな時でも、仕事は待ってはくれない。

 

 唯一の助けと言えば、今日は手が空いているという愛梨がこうして政務を手伝ってくれてい

る事。

 麗々や煌々ほどではないが、愛梨もテキパキ仕事をこなしてくれるので俺としては大助かりだ。

 

愛梨 :「何やらお疲れの様子ですが、少し休憩にしましょうか?」

 

章刀 :「いや、本当になんでもないから。 大丈夫だよ」

 

愛梨 :「まぁそう言わずに。 今日はそれほど急ぎの書類もありませんし、お茶でも淹れましょう。 待っていてください」

 

 そう言って、愛梨は席を立つと棚にある茶器をとりだし始めた。

 本当に疲れてはいないんだけど・・・・まぁ、せっかく愛梨がこう言ってくれてるんだしいいか。

 

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 俺は筆をおいて、椅子の背にもたれかかった。

 

 ま、今どうこう考えたって仕方無いよな。

 仕事の時は仕事に集中しないと。

 

 ・・・・・そういえば、魏との戦いでもう一つ気になった事がある。

 それは、曹仁が晴に行った言葉。

 

 ―――――“銀髪の盗賊狩り”

 

 あの言葉を聞いた時、晴は明らかに動揺していた。

 あの後はいつも通りの晴に戻ってたけど、あれはいったい何だったんだろう。  

 

 ・・・・もしかしたら、愛梨なら何か知ってるかな?

 

愛梨 :「さぁ、兄上。 お茶が入りましたよ」

 

 席に戻っていた愛梨が、手際よくお茶を入れて俺の前に置いてくれた。

 

章刀 :「ああ、ありがとう。 ズズ・・・・・・」

 

 湯気の立つ湯のみを手に取り、口に運ぶ。

 一口飲んだそれを机に置いて、俺は思い切って愛梨に疑問をぶつけてみることにした。

 

章刀 :「・・・・なぁ、愛梨」

 

愛梨 :「はい?」

 

章刀 :「“銀髪の盗賊狩り”・・・・・って知ってるか?」

 

愛梨 :「っ・・・・!?」

 

 愛梨が知っているかも、と言う俺の予想はどうやら当たっていたらしい。

 その言葉を聞いた愛梨は、少し驚いたように目を丸くした。

 

愛梨 :「・・・どこでそれを?」

 

章刀 :「魏と戦った時、曹仁って子が晴をそう呼んだんだ」

 

愛梨 :「そうですか・・・・魏でその名を知っている者がいるとは・・・・」

 

 愛梨は顔を落とし、お茶の水面に映った自分の顔を見つめているようだった。

 確かあの時、晴も似たような事を言っていた気がする。

 

章刀 :「なぁ、いったい何なんだ? “銀髪の盗賊狩り”って」

 

愛梨 :「・・・・・そうですね。 兄上には、話しておいた方がいいかもしれません」

 

 愛梨は顔を上げると、少し考えた後、険しい表情で俺を見つめて言った。

 

愛梨 :「“銀髪の盗賊狩り”とは、晴の昔の通り名です」

 

章刀 :「昔の・・・・呼び名?」

 

愛梨 :「はい。 もう何年前になりますか・・・・・兄上と父上が姿を消した数年後のことです」

 

 愛梨は、どこか遠くを見る様な目で、ゆっくりと話し始めた――――――――――――――

 

 

 

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――◆――

 

 

――――――――数年前。

 

 雨の降るある日のこと。

 

 ここは蜀の外れ。

 土色の荒野の中を、二頭の馬の背に乗って二人の武人が駆けていた。

 

 “バシャバシャ”と、雨でぬかるんだ地面を馬ひずめえぐり、その度に泥が跳ねていく。

 

 先を行くのは艶やかな黒髪雨に濡らし、片手には青龍刀を携えた女性。

 その後ろを追うのは、少し短髪だが彼女に似た美しい黒髪の、まだ幼さの残る少女だった。

 

 まだ幼い日の愛梨と、その母の愛紗こと関雲長である。

 

愛紗 :「愛梨、遅れているぞ!」

 

愛梨 :「はい! すいません母上」

 

 先を行く愛紗に叱咤され、愛梨は必死に手綱を振るう。

 

 この日、二人はある任務の為に目的地へと向かう途中だった。

 

 その任務とは、最近蜀の国内で噂になっている“銀髪の盗賊狩り”の討伐。

 

 話によると、この数カ月だけでも既に十件以上、盗賊の一団だけを狙って襲撃しその全員を殺害するという事件が起きていた。

 しかも信じられない事に、その犯人はったった一人・・・・・それも、美しい銀髪の女だと言う。

 

 その真偽は定かではないが、盗賊が次々と襲撃されているのは事実だった。

 

 たとえ盗賊とはいえ、むやみに人を殺める行為をみすみす見逃すわけにはいかない。

 そこで、その盗賊狩りを討伐するべくこの親子が選ばれたのだった。

 

愛紗 :「どうした愛梨、緊張しているのか?」

 

愛梨 :「はい、少なからず・・・・・」

 

 母の問いかけに、愛梨は少し口ごもりながら答えた。

 

 愛梨はまだまだ発展途上。

 いまだに、一人で軍を率いた事は無い。

 

 だからこうして、母に同行しては経験を積んでいるのだが、まだその表情は硬かった。

 

愛紗 :「そう心配するな。 危なくなれば私が助ける」

 

愛梨 :「それには及びません! 私だって、もう立派な武人です!」

 

 母の言葉に、愛梨は少し眉をつり上げて反論した。

 しかしそんな愛梨を見て、愛紗は少し意地わるい笑みを浮かべる

 

愛紗 :「ほぅ・・・・。 以前、野盗討伐の時に遅れを取ったのはどこの誰だったか・・・・」

 

愛梨 :「あ、あれは・・・・・そうです、目に砂埃が入ったんです!」

 

 なんだか言いながら恥ずかしくなり、愛梨は顔を赤くする。

 武神の血を引く彼女でも、この辺りは少し歳相応の少女の様だ。

 

愛紗 :「ははは、分かったからそう怒るな。 さぁ、これ以上雨がひどくなる前に急ぐとしよう」

 

愛梨 :「うぅ・・・・・・はい」

 

 可笑しそうに笑いながらそう言う愛紗。

 なんだかはぐらかされた気がするが、これ以上反論しても空しくなりそうで、愛梨は渋々頷いた。

 

 自分はまだまだ、母には敵わない。

 前を走る背中を見つめてそんな事を想いながら、愛梨は母の後を追った。

 

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――◆――

 

 約半日をかけて、二人は目的の場所へとたどり着いた。

 そこは周りを大小様々な岩山に囲まれた地帯で、その中でもひときわ大きな岩山にぽっかりと開いた洞穴。

 情報によると、そこが盗賊のアジトだという事だった。

 

 結論から言うと、その情報は確かだった。

 

 だが・・・・・・

 

愛梨 :「っ!?・・・・・」

 

愛紗 :「これは・・・・・・っ」

 

 洞穴の奥深く・・・・今まで盗賊のアジトだった場所にたどり着いた二人は、そこに広がる光景に唖然とした。

 

 土色のはずの地面は、その大部分がまだ新しい血で赤く染まり、岩壁のところどころにも血しぶきが飛んでいる。

 そしてその血だまりの中には、ここをアジトにしていたらしい盗賊と思われる男たちが何人も無惨に横たわっていた。

 

 その手には思い思いに武器が握られており、抵抗したものの空しく返り討ちにあったらしい事を物語っている。

 

愛紗 :「遅かったか・・・・・・」

 

 洞穴の中を一通り見渡し、悔しそうに歯噛みする愛紗。

 そしてその視線は、自然とある一点へと移った。

 

 それは洞穴の中に無数に横たわる屍の中、その中心にたったひとりだけ立っている人影。

 その人影は血だまりの中にぽつんとひとり、血のりのついた刀を片手に立ちつくす。

 

 その場にはあまりにも不似合いな、絹の様な綺麗な銀髪。

 その銀髪を鮮血で赤く、赤く染めた・・・・小柄な少女だった。

 

少女 :「・・・・・・そこにいるのは、誰?」

 

愛梨 :「っ・・・・・」

 

 突然の来訪者に特に驚く様子も無く、少女は愛紗と愛梨の方へと顔を向けた。

 その瞳は少女の銀髪によく映える青色で・・・・しかし、とても暗く冷たい色だった。

 

 

 

愛梨 :「お前が、“銀髪の盗賊狩り”か?」

 

少女 :「・・・・・さぁ? そんな名前のヤツは知らない」

 

 愛梨の問いかけに、少女はまるで感情のこもっていない声で答えた。

 

愛梨 :「ならば質問を変えよう。 ここに倒れている盗賊たちは、お前が殺したのか?」

 

少女 :「そうだけど、だったらなに? ・・・・邪魔するなら、あんた達も殺すけど」

 

 そう言うと少女は刀についた血をピッっと払い、その切っ先を二人の方へと向けた。

 その表情には一切の迷いも、戸惑いも見えない。

 

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愛梨 :「上等だ、“銀髪の盗賊狩り”。 貴様は、この関安国が相手になってやる!」

 

愛梨 :「待て! 愛梨」

 

愛梨 :「っ!? 母上・・・・?」

 

 先陣を切ろうとした愛梨だったが、行く手を愛紗の手に阻まれ立ち止まる。

 愛梨はその意図が理解できず、愛紗の顔を覗き込んだ。

 

愛紗 :「お前は下がっていろ。 こいつは、私がやる」

 

愛梨 :「そんな! 私だって戦えます! その為に母上についてきたんですよ!?」

 

愛紗 :「お前の力を信用していない訳ではない。 だが、こいつは少々危険な気配がする。

    ここは母に任せてくれないか?」

 

愛梨 :「・・・・・わかりました」

 

 いまだに納得のいかない様子の愛梨だったが、愛紗に諭されしぶしぶと言った様子で後ろへ下がった。

 

 今まで母は、理由も無く自分を戦場から遠ざけた事は無い。

 今回も母にはなにか考えがあっての事だろうと、そう思えたのだ。

 

 そしてそれは、実際その通りだった。

 愛紗は、愛梨を目の前の少女と戦わせるのは危険だと、そう思ったのだ。

 

 それは、愛梨が未熟だからではない。

 親のひいき目に見ても、愛梨は既に十分な力を付けている。

 まだ任せた事は無いが、将として一軍を率いれる程度の実力はあるはずだ。

 目の前の少女と比較しても、恐らく実力にほとんど差は無いだろう。

 

 しかしそれでも愛梨を下がらせたのは、少女の“目”を見たからだった。

 

 この少女の目は、既に人を殺す事になんの躊躇いも持っていない目。

 それは殺す覚悟があるとかではなく、ただ単に人を殺す事を“なんとも思っていない目”だ。

 

 そして同時に、彼女は自分自身の命にも執着が無い。

 何十、何百という盗賊を殺しながら、その戦いの中でいつ自分が死のうとも構わない。

 そういう目をしていた。

 

 今まで幾多もの戦場を経験してきた武神・関雲長。

 その膨大な経験の中で、似たような目をした相手に何度か会った事がある。

 そしてその目をした相手は、例外無く手強かった事を愛紗は覚えていた。

 

 自分の娘とこの少女・・・・・おそらくほとんど歳の変わらぬ二人だが、命を賭ける事に関しては天と地ほどに差があるだろう。

 

 だから愛紗は、愛梨をこの少女と戦わせたくはなかった。

 

愛紗 :「そう言う訳だ。 お前の相手は、この関雲長が引き受けよう」

 

少女 :「別にどっちでもいいよ。 どうせ、二人とも死ぬんだから」

 

 そう言うと少女は刀を手にした腕をダラリと降ろし、そのまま愛紗をめがけて

 走り出した―――――――――――――――――――――

 

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――◇――

 

 

――――――“ギイィィン!!”

 

 

少女 :「ぐぅ・・・・っ!!」

 

 吹き飛ばされ、地面に倒れこむ銀髪の少女。

 その身体のところどころには、さきほどまで無かったはずの擦り傷や青あざができていた。

 

 少女と愛紗の戦いが始まってから、もうどれほど経っただろうか・・・・・。

 

 少女が愛紗に斬りかかっては、数合打ち合って弾き飛ばされる。

 まるでリピートの様に、同じ様な光景が何度も何度も繰り返されていた。

 

愛紗 :「・・・・まだやるのか?」

 

 青龍刀を構えたまま、鋭い視線で傷だらけの少女を見下ろす愛紗。

 

 結果から言えば、少女の実力は相当なものだったと言える。

 実際、戦っている愛紗自身少し驚いた程だった。

 

 しかし、まだまだ発展途上の幼い少女。

 武神・関羽との実力の差は言うに及ばず、圧倒的な展開となった。

 

 それを傍らで見ていた愛梨も、予想以上の一方的な展開に驚きつつ、再度母の強さを実感していた。

 きっと今の自分が母と戦ったとしても、同じ結果になるだろう・・・・と。

 

少女 :「くぅ・・・・・やあぁぁ゛――――っ!!」

 

 刀を支えに立ちあがり、すぐさま愛紗に飛びかかる少女。

 

愛紗 :「甘いっ!!」

 

 “ガギン!!”

 

少女 :「あう゛っ!!」

 

 しかし今度は数合も打ち合うどころか、たったの一撃で愛紗に返り討ちにあう。

 もはや少女には、満足に戦う体力など残っていなかった。

 

 愛紗もそれを悟り、構えていた青龍刀を降ろす。

 

愛紗 :「もうよせ。 お前は強い・・・・なら、私との力の差が分からぬわけではあるまい。

    今のお前では、私には勝てんよ」

 

少女 :「・・・・・・・・・っ」

 

 膝をつきながらも、悔しそうに愛紗を睨みつける少女。

 

しかし次の瞬間、少女は手にしていた刀を捨て、その場に力無く座り込んでしまった。

そして下を向き、小さな肩を少し震わせた。

 

少女 :「・・・・・・はは。 もう、いいや」

 

愛紗 :「・・・・?」

 

少女 :「もう、疲れちゃった。 ・・・・だから、殺していいよ」

 

愛紗 :「何・・・?」

 

 突然少女の口から放たれた言葉に、愛紗は眉根を寄せる。

 同時に、先ほどまで少女が纏っていた強烈な殺気も感じなくなっていた。

 

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少女 :「どのみち、もう生きてる事に興味も無いし、盗賊狩りも正直どうでもいい。 

    だからいいよ、盗賊に殺されるくらいならあんたに殺された方が・・・・」

 

 まるで今の自分自身を嗤うかのように、少女の声には呆れにも似た微笑が混ざっていた。

 外の雨音すら聞こえない静かな洞穴の中には、ただ少女の細い声が聞こえるだけ。

 

愛紗 :「・・・・・いいだろう」

 

 少女の言葉に静かに頷くと、愛紗はゆっくりと少女の傍へと歩み寄った。

 そしていまだに座り込んだままの少女の前へ立つと、手にした青龍刀の切っ先を突き付けた。

 

愛紗 :「お前・・・・名は?」

 

少女 :「・・・・周倉。 字と真名は、忘れた」

 

愛紗 :「そうか、ならば・・・・・」

 

 言いながら、付きつけた青龍刀を一度振り上げる。

 

少女 :「・・・・・・・・・・・・」

 

 これでやっと終われる・・・・・。

 そんな思いからか、少女の顔には安堵の表情が浮かんでいるように見えた。

 

 

 

 しかし・・・・・・・。

 

 

 

少女 :「・・・・・・え?」

 

 次の瞬間少女の目の前に映ったのは刃では無く、何も握られていない愛紗の掌だった。

 何事かと顔を上げた少女に対して、愛紗は優しく微笑み・・・・

 

愛紗 :「ならば、私が名前をやろう」

 

少女 :「・・・・・何、言ってんの? 私を殺すんでしょ?」

 

 愛紗の行動の意味が分からず、混乱した様子の少女。

 しかし愛紗は、浮かべた笑みを崩さなかった。

 

愛紗 :「殺すものか。 お前は、今日から生まれ変わるのだ」

 

少女 :「・・・・意味分かんないよ。 だって私は・・・・・」

 

少女は眉をひそめ、驚きと混乱が混じったような複雑な表情を浮かべた。

 

愛紗 :「お前のこれまでの人生は、恐らく多くの悲しみに満ちていた事だろう。

    だが世界には、その何倍も素敵な事だってたくさんある。

    お前は、これからの人生でそれを知って行くのだ。

    ・・・・・・私の、娘としてな」

 

少女 :「っ!? 娘・・・・・・? 私が・・・・・・?」

 

愛梨 :「母上っ!?」

 

 突然の愛紗の申し出に、さすがに愛梨もこの展開は予想していなかっただけに驚きの声を上げる。

 しかし少女は少しの間の後、急に表情を険しくして愛紗の手を振り払った。

 

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少女 :「ふざけないでっ!!

    私が今まで何人こうやって殺してきたのかも知らないくせにっ!!

    私には、このまま生きる資格なんて無いんだよっ!!」

 

 

 

 “パン――――ッ!!

 

 

 

少女 :「っ・・・・・・・!?」

 

 洞穴の中に、乾いた音が響き渡った。

 

 同時に血とは違う赤色に染まる少女の頬。

 遅れて来た痛みのおかげで、自分が今頬を叩かれたのだと理解した。

 

愛梨 :「甘えるなっ!! 生きる資格だと? 

    そう思うのなら、こんな真似をする前に一人で勝手に死ねばよかったのだ!!

    それを盗賊とはいえ何人もの命を奪っておいて、疲れたから殺してくれなどと・・・・

    子供の我がままにしても度が過ぎるぞっ!!」

 

少女 :「っ・・・・・・」

 

愛梨 :「自分がやった事が死ぬほど罪深いと思うなら、その罪と向き合える程強くなれ!!

    強くなって、お前が奪った数よりたくさんの命を救って見せろ!!」

 

少女 :「命を・・・・・救う・・・・・?」

 

 考えた事も無かった。

 

 ある事をきっかけに盗賊を恨み、ただ盗賊を殺す事だけを考えて生きて来た。

 

 命を奪う事だけを考えて生きて来た。

 

 だから、少女にとっては初めての経験だった。

 こんな風に、他人から命の考え方を説かれたのは。

 

 固まったままの少女の前に、愛紗はもう一度先ほどの様に手を差し出した。

 

愛紗 :「もしお前がこの手を拒み、このままここで果てるというならそれもよかろう。

    ただし、私は一切手を下さない。

    だが、もしお前がこの手をとってくれるのなら、私はお前の幸福の為に全力を尽くす」

 

少女 :「・・・・・・・・・・・」

 

 少女は、言葉を失っていた。

 今自分に手を差し出している女性の瞳が、ただ本当に澄んでいて、真っ直ぐに自分を見つめていたから。

 

愛紗 :「さぁ、答えを聞かせてくれ。 ・・・・・周倉」

 

少女 :「・・・・・・・・・・・・・・」

 

 しばらくの間の後、少女の手がピクリと動いた。

 

 まるで、この選択が正しいのかを確かめながらというように。

 ゆっくりと、本当にゆっくりと、少女は手を伸ばした。

 

 そして血に汚れてしまった手だけれど、その小さな手は確かに、差しのべられた手を取った。

 

 それを見届けると、愛紗はその小さな手の上に更に自分の手を重ね、もう一度優しく笑った。

 

愛紗 :「さぁ、帰ろう。 私たちの家に」

 

 

少女 :「・・・・・・・・・・うん」

 

 こと時少女の目には、愛紗の顔がぼやけて見えていた。

 

 いつの間にか、少女の瞳からは大粒の涙がこぼれていたから――――――

 

 

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――――その後、少女・周倉をつれて洞穴を出た愛紗と愛梨。

 外へ出るなり空を見上げて、愛紗が言った。

 

愛紗 :「・・・・雨が止んだか」

 

愛梨 :「そうですね」

 

 いつの間にやら降り続いていた雨はすっかり止んでいて、雲の晴れ間からは太陽が顔を出し始めていた。

 

愛紗 :「やはり空は晴れた方がいい。 ・・・・・そうだ、周倉」

 

周倉 :「?・・・・・・・」

 

 空を見上げていた愛紗が、何かを思いついたように周倉の方を見た。

 まだ名を呼ばれるのに慣れない事もあり、周倉は少し戸惑いながらも首をかしげる。

 

愛紗 :「お前の真名だが・・・・・晴(はる)、というのはどうだ?」

 

周倉 :「晴・・・・・?」

 

愛紗 :「そう。 晴れた空は、見る者の心まで晴らしてくれる。

    お前もこの空の様に、たくさんの人の心に青天を与えられるような、そんな人間になれるように・・・・・」

 

愛梨 :「母上、真名をそんな簡単に決めて良いのですか?」

 

 満足そうに言う愛紗のとなりで、愛梨が少し呆れたような声で言った。

 

愛紗 :「良いではないか。 なぁ、晴?」

 

周倉 :「晴・・・・・・・、晴・・・・・・」

 

 だが二人のやりとりをよそに、周倉は今付けられてばかりの名を繰り返し呟いていた。

 そして何度か呟くと、今度は満足そうにうなずいて小さく笑った。

 

周倉 :「晴・・・・・・・、うん! 晴がいい!」

 

愛紗 :「はは、そうか」

 

愛梨 :「まぁ、本人が気にいったのなら良いですが・・・・・」

 

 ほんの少しではあるけれど、初めて笑顔を見せた晴。

 それがなんだか嬉しくて、愛紗と愛梨の顔にも自然と笑みがこぼれていた。

 

 

 雨上がりの晴々とした空の下。

 

 その空と同じ名前をもらった少女の瞳は、まるでそれに透かしたガラス玉の様に、綺麗に青々と輝いていた――――――――――――――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

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――◆――

 

 

愛梨 :「・・・・それが、晴との最初の出会いです」

 

章刀 :「そんな事が・・・・」

 

 愛梨の話を聞きながら、俺は思わず険しい表情になってしまっていた。

 

 とにかく、なんだか口の中が乾いた気がして、愛梨が入れてくれたお茶を一気に飲み干した。

 話を聞いている内に大分冷めてしまったが、少し落ちついた気がする。

 

章刀 :「なぁ愛梨。 晴が盗賊狩りを始めたきっかけって・・・・・」

 

 俺がその先を口にする前に、愛梨は静かに首を横に振った。

 

愛梨 :「今の話しより以前、晴が何をしていたのか、どうしてそうなったのか・・・・・・

    それは私も、姉妹の誰も知りません。

    恐らく晴が自分の過去を話したのは、母上にだけでしょう」

 

章刀 :「そっか・・・・・・」

 

 愛梨たちにも隠しておきたいほど、晴の過去には何か悲惨な出来事があったのだろうか。

 きっとそれは、俺が詮索すべきじゃないんだろうけど・・・・・・。

 

愛梨 :「今思えば、あの子もあの頃から随分変わりました。

    冗談を言ったり、普通に笑ったり・・・・・出会ったころでは考えられない事です」

 

章刀 :「愛梨・・・・・」

 

 そういう愛梨の顔はなんだか嬉しそうで。

 

 そっか・・・・・。

 今の晴しか知らない俺からしてみれば、愛梨の話しに出て来た昔の晴の方が想像できないけど。

 愛梨たちにとっては、今の晴は相当変わったように見えるんだろう。

 それも、間違いなく良い方向に。

 

愛梨 :「あの、兄上・・・・・」

 

章刀 :「ん?」

 

愛梨 :「どうか今の話を聞いた後でも、晴には今まで通りに接してやってください。

    あの子は、見かけによらず人の心に敏感ですから」

 

章刀 :「心配しないでいいよ。

    昔がどんな風だって、俺が知ってる晴は今の晴だからな」

 

愛梨 :「・・・・・それでこそ兄上です」

 

 そう言って、愛梨はニッコリと笑ってくれた。

 

 別に特別な事じゃない。

 確かに、晴の過去をしって何も思わないかと言われればそうじゃない。

 

 けど、今晴は俺たちの家族としてこの城で暮らしている。

 それは、まぎれも無い事実なんだから。

 

愛梨 :「おっと、話していたら大分時間が過ぎてしまいましたね。 

    さぁ、兄上。 一気に仕事を片付けましょう!」

 

章刀 :「えぇ、いきなり!? もうちょっと休憩しても・・・・・」

 

愛梨 :「ダメです! 何事もメリハリが大事ですからね!

    頑張って日暮れまでには終わらせますよっ!」

 

章刀 :「トホホ・・・・・」

 

 どうやら、愛梨のやる気スイッチが入ってしまった様だ。

 

 こうなったら仕方無い。

 今日の分の仕事が終わるまで、このまま机にかじりついているしかなさそうだ・・・・・。

 

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――◆――

 

 

――――その頃、晴は・・・・・

 

晴  :「モグモグ・・・・・・・」

 

 今日は非番だった為、街の飯店で食事をとっていた。

 テーブルの上には、そこそこの品数の料理が並べられている。

 

晴  :「ゴクン・・・・・。 うん、やはりこの店はいい仕事をしている」

 

 料理を飲み込んで、一人納得したように頷く。

 

 暇な時はほとんど昼寝をしている彼女だが、最近はこうして一人で街に出て美味しいものを食べて回る事も多くなっていた。

 きっかけは以前章刀と街へ出かけて食事をした事なのだが、それは章刀には言っていない。

 

 ・・・・というか、正直自分自身気づいていなかった。

 

晴  :「店主、麻婆豆腐を追加だ。 あと、白ご飯も頼む」

 

店主 :「へい! ありがとうございます!」

 

 店主が、注文に元気よく答えてくれる。

 この店にも既に何度か来ているので、店主とも顔なじみになっていた。

 

店主 :「へい、お待ち!」

 

晴  :「ありがとう」

 

 店主が手際よく調理して、麻婆豆腐と白ご飯を運んできてくれた。

 

晴  :「やはり、締めはこれにかぎるな」

 

  ちなみに、この麻婆豆腐と白ご飯のセットも以前章刀に薦められて、食べてみたら病みつきになってしまったものだ。

 

 麻婆豆腐をひとすくいご飯に載せ、それをそのまま口に運ぼうとしたその時だった・・・・

 

???:「よう、ねーちゃん。 いい喰いっぷりだな」

 

晴  :「ん?」

 

 突然隣から声をかけられ、口に運ぶ途中だったレンゲを止める。

 

 見ると、そこには頭巾をかぶっていて顔は見えないが体格のよさそうな男が立っていた。

 

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晴  :「・・・・・ボクに何か用かい?」

 

男  :「いや、用って程じゃないんだが・・・・ここ、座っていいか?」

 

 そう言いながら、男は晴の向かいの席を指さした。

 

晴  :「見たところ、他にも席は空いているようだが・・・・・・」

 

 周りの席を見渡しながらそう言う晴。

 別段嫌な訳ではないが、男の行動が理解できずに眉をひそめた。

 

 だが晴の反応などお構いなしに、男は向かいの席にドカッと腰を下ろした。

 

男  :「へへ、まぁそう言うなって。 俺とお前の仲だろ、銀公(ぎんこう)?」

 

晴  :「っ!? お前は・・・・・・っ!」

 

 男の言葉を聞いた瞬間、晴の表情が凍りついた。

 曹仁に“銀髪の盗賊狩り”と呼ばれた時とは比べ物にならないくらい、動揺を隠す事が出来なかった。

 

男  :「ハハッ! やっと気づいたかよ・・・・・」

 

 そう言いながら、男は被っていた頭巾を外した。

 

晴  :「・・・・・・どうして、お前がここにいる?」

 

 男の顔を見た瞬間予感が確信に変わり、晴の表情はさらに険しくなる。

 そこには、驚きを通り越して恐怖の色さえ浮かんでいた。

 

 頭巾を外した男の左目には、失明するには十分すぎる大きな刀傷。

 そして残った右目は、まるで鷹の様に鋭く、晴の顔を捉えていた。

 

男  :「よぉ。 久しぶりだなぁ・・・・・・銀公」

 

晴  :「・・・・・・・海燕(かいえん)・・・・・・・・っ!!」

 

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 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

説明
約ひと月空いてしまいましたが、久々の小説投稿です。

絵ばっかり練習しててこっちはすっかりサボってました・・・・汗
その割には別に絵は上手くならない・・・・泣
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