?なんとなく 壊れている自分 Vol.3?
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2013.04.09

「T字路劇場」

 

古めかしくて胡散臭い

周囲を見渡す事すらままならない

そんな薄暗い空間と

周囲に赤いビロードのカーテンが下がる中

私はそこにある丸椅子に腰かける

 

隣に誰かいたかな?

誰かいる筈なんだけれど

隣にいるのが誰なのか

それも分からないくらいに

その空間は薄暗かった

 

暗闇に眼が慣れて来ると

物凄く広い劇場の中に

客席を突っ切るように

ステージから伸びるように

出入り口側からも伸びるように

…ちょうどT字路になるように…

線路が伸びているのが見えた

 

その三方向から

機関車やら電車やらが走ってくる

不思議と無音で

でも圧倒的な存在感のあるその塊は

当然のように 出会い頭に衝突した

 

物凄い火花と煙を上げながらも

不思議と音は一切無かった

まあ当然よね

劇場だもんね

お釈迦だもんねと

私は自分を納得させながら

そうして始まった劇をずっと見てた

 

オープニングの電車の衝突が衝撃的すぎて

肝心の劇の内容は覚えていない

相変わらず薄暗い劇場の中で

友達とケンカしたり

洗濯物がたなびいていたり

そうした“日常の革命”を描いたものだと

漠然と理解はしたけれど

 

ずっと劇場の中で

ずっと座っていただけなのに

何だか足は

歩き続けて来たようにだるい

 

歩いてはT字路に差し掛かり

脈絡も無く左右にどちらに行くかの選択を迫られ

そうした事を何度も繰り返し

結局気が付くと最初の地点

…この劇場のこの席…に

戻されたかような

疲弊感だけが残ってる

 

気が付くと

オープニングで壊れた電車は

数百年放置してたかのように朽ち果て

ただでさえ古めかしかった劇場は

完全に廃屋と化していた

 

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2013.04.02

「コンパクトオフィス」

 

灰色の箱

灰色の箱の中

多分ここはコンクリート製のビルの中だ

 

世の中の流れは合理化よ

無駄な物は一切排除するの

いらないものは削ぎ落し

洗練されてシャープな環境を作るのよ

 

そんな触れ込みの中

合理化を目指しに目指し

突き進んだ結果

不合理な程に この空間はコンパクトになってしまった

 

机の引き出しを開けると

そこには何故か布団乾燥機

引き出しに入るなんて確かにコンパクトだけれど

小さすぎて

肝心の布団を乾かすのには 役に立ちそうにない

 

整理の為に用意された箱

しかし箱が多すぎて

どこに何をしまっているのか

もはや誰にも分からない

 

大量に壁に配置されたスイッチは

何を意味するのか

分かる者は 既に 誰もいない

 

建物の外に出ると

車にひかれたのか 犬が一匹悶えていた

私は慌てて犬を抱えて

目の前にあった動物病院に飛び込んだ

 

筈 だった

 

でも そこには誰もいなかった

先ほどいたコンパクトオフィスのように

合理化されすぎて役に立たない機械が並んでいるだけだった

 

省エネすぎて電源が入らないコピー機

小さすぎてボタンが押せない電話

こんなものはいらないのに

こんなものしか無いなんて

この命を救う術を 私は求めているのに

 

『世の中の流れは合理化よ

無駄な物は一切排除するの

いらないものは削ぎ落し

洗練されてシャープな環境を作るのよ』

 

頭の中に突如繰り返される宣伝文句

 

そうか……

このオフィス街 いや この世界に

人の気配が全くしないのは……

 

無駄を排除した結果なのね

 

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2013.3.13

「親しい友人」

 

私は“彼女”と逃げ続けた

何も設営されていない 真っ暗なイベント会場を

黒い布で覆われた映画館の細い通路を

訳も分からずに

私 と “彼女”は逃げ続けた

 

“彼女”は一体何者なのだろう?

どこで出会い どうして一緒に逃げる事になったのだろう?

 

声が聞いた事があるような気がした

どこかで見た顔のような気がした

何故か「親しい人」だと思った

 

しかし私の隣にいる“彼女”は無色透明で

強いて言えば 顔に当る部分だけ

ボンヤリと青白く光っていた

 

ガラス張りの美しいオフィスビルのホールを

その上にかかる渡り廊下を

私と“彼女”は必死で走りぬけた

 

私は一体何から逃げているの?

“彼女”は一体誰なの?

どこに向かう気なの?

敵は誰なの?

何なの?

一体何なの?

 

ただ一つだけ…

「誰にも見つかってはいけない」

そんな気持ちだけが私を突き動かしていた

 

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2013.2.18

「オーバルトラック」

 

私は走り続けていた

車に乗ってゆっくりと

セピア色に鈍く輝く背景を眺めながら

ゆっくり車で走っていた

 

旅客機の客席の間とか

駐車場の通路とか

アーケード街とか

ショッピングモールの間は

吹き抜けになった空中を走っていたような気がする

 

けれど

景色は変われと

どこまで行けど

どこにも行けない気がするの

 

旅客機の客席の間とか

駐車場の通路とか

アーケード街とか

ショッピングモールの間とか

もう何度も通過してるように思うの

 

私はどこかに行きたいの

ここじゃないどこかに行きたいの

私はここから抜け出したいの

別の所に逃げたいの

 

けれども 行けども行けども同じ事の繰り返し

このアーケードに たなびいてる旗 もう何度も見てる

セピア色に古ぼけてる

 

私は車で走っていた

どこかに逃れたくて走っていた

でもここは きっと

レース場のオーバルトラックと一緒で

 

どれだけ走っても 結局最初に戻されるのね

 

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2013.2.5

「妹の誕生日」

 

僕の集落は岩場にあった

岩場に穴を掘り そこに家を建てて暮らしていた

僕はそれを村外れの木の上に乗って

眺めているのが好きだった

 

ある日から 岩場に水が流れるようになった

最初は本当に小さな雫がぽたぽたと

日が立つにつれ 細い小川になり 太い川になり

村全体が滝の裏側に覆われるような状態になった

 

そのうち村は水の底に沈んでしまう

僕は大人たちにそれを知らせたけれど

大人たちは笑って言うんだ

そんな事がある訳無いじゃないか と

 

所が ある日突然それはやって来た

明るい空 雲ひとつない晴天

なのに大量の水が押し寄せ

あっと言う間に 村は湖の底に沈んだ

 

僕はやっとの思いで湖面から顔を出す

他の人たちはどうなったのか

僕以外の人間が浮かんでいないので分からない

 

空を見上げると

巨大な黒い鳥が七羽 こちらに向かって滑空している

僕はそれを

助けに来た神様だと思って手をあげるけれど

その神様は僕を助けに来た訳じゃなく

人間にトドメを差す為にやって来たのだ

 

禍々しい黒い鳥達は 僕を水面に沈めようと襲ってくる

僕は必死に手を上げる

 

「待ってくれよ 今日は妹の誕生日なんだ」

僕は何故か その台詞を繰り返す

 

今日は妹の誕生日なんだ

今日は妹の誕生日なんだ

 

どうしてその台詞なのか

どうしてその台詞だけなのか

僕にもよく分からない

ただ

僕は

生きていくのに必死で

理由なんかどうでも良かったに違いない

 

今日は妹の誕生日なんだ

 

でも……

 

僕に妹なんかいたっけかな……?

 

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2013.01.22

「いっそ壊れてしまえばいい」

 

あいつの首を締めてやろうか?

何も分かってくれない

あいつの首を締めてやろうか?

 

八方手は尽くした

話せる事は全て話した

持ち得る全ての知識を使って

話せる事は全て話した

 

しかし

全てを伝えるには

言葉と言うのは

余りにも不自由だった

 

端々の感情を埋める言葉が

どう足掻いても私には分からなかった

ただひたすら涙ぐみ

立ち尽くし

相手を睨む事しか出来なかった

 

どうして分かってくれないの?

どうして分かってくれないの?

どうして分かってくれないの?

どうして分かってくれないの?

 

これだけ手を尽くしたのに

これだけ沢山話したのに

身振り手振りを交えたのに

 

あいつの首を締めてやろうか?

何も分かってくれない

あいつの首を締めてやろうか?

 

殴り倒して蹴飛ばして

いっそ何度も踏みつけて

何も分かってくれないあなたを

いっそ消してしまおうか?

 

何で分かってくれないの?

何で分かってくれないの?

何で分かってくれないの?

何で分かってくれないの?

 

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2013.01.17

「アイスクリーム泥棒」

 

夜中にアイスクリームが盗まれたの

薄暗い夜の街

そこに佇む高層ビルの1階にある

アイスクリーム屋さんに泥棒が入ったの

 

でも 店員さん達は誰も気付かないの

3人もいるのに 泥棒に入られた事にも

品物を盗まれた事も気付かずに

ずっと営業を続けているの

 

私はその事を話したけれど

店員さんは聞く耳を持ってくれないの

お客さんは誰もいないのに

何故か忙しそうにショーケースの前でワタワタしてる

 

仕方が無いから 私は車に乗って

その犯人を追いかけようとしたの

けれど 走れど走れど同じ道

似たような景色をぐるぐるぐるぐる廻るだけ

 

ああ またこのアイス屋さんの前に出てしまった

アイスを盗んだ泥棒さんは どこに行ったのかしら?

 

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2013.01.08

「その名は空虚」

 

広大な公園

前方にある小さなステージの脇を

借りた自転車をこぎながら進んでいく

秋空の下 紅葉する木々 舞い散る枯葉

極めて普通の 日常の光景

 

ステージの脇から小道を進み

緩やかな坂道を登る

そして坂の上から見下ろした一見の店

まっ白い屋根 まっ白い柱

でも壁と呼べるものは無く

店の中が ここからでも見渡せる

 

店では お水を売っていた

健康にいいとか 天然水だとか

そんな理由ではなくて

 

「飲めばみんな家族になれる」

 

そんな触れ込みだったみたい

 

でもお客さんは誰もいないし

店の人も何かしている様子は無い

ただ立ち尽くし 固まっているかのよう

そんな事に私は違和感も持たず

 

「水を飲んだだけで家族になんか なれっこないのにね」

 

そう思うだけだった

 

そう 水を飲んだだけで家族になれるなんて嘘っぽいわ

このお店の作りも 店の人も

私が通ってきたこの道も この自転車も

あの広大な公園の白いステージも

すれ違った人々も 紅葉した木々も

 

何もかも全てが

嘘っぽい

本物じゃない

この世のものじゃない

 

じゃあ 本物はどこに行ったのかしら?

 

そもそも “本物”って…何?

 

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2012.12.18

「二匹の蛇が」

 

暗闇の中…

私の胸の中で

二匹の蛇が踊っている…

 

目を見張るような鮮やかな青と

目を見張るような鮮やかな赤と

 

二匹の蛇が 絡み合うように踊っている

 

絡み合う二匹が一つの塊のように映るも

決して混ざり合う事も無く

鮮やかな青と鮮やかな赤が

チカチカと瞬いて見える

 

蛇のように細い体…

でも本当に彼らは蛇なのかしら?

 

頭と呼べる部分も無く

尾と呼べる部分も無い

 

2本の紐が絡み合い

1つの球体のように織りなしているそれは

果たして蛇と呼べるものかしら?

 

暗闇の中に横たわる私

その胸の中にあったはずの二匹の蛇は

暗闇で境目が無くなった私の身体からいつの間にか抜け出し

私の上で舞い踊り始めた

 

目を見張るような鮮やかな青と

目を見張るような鮮やかな赤…

 

空間で拡張を続けていくそれを 私はぼんやりと眺めていた

 

…彼らは本当に蛇なのかしら…?

 

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2012.11.23

「……普通……?」

 

お友達と銭湯に行ったの

 

その銭湯は入り口入ってすぐが洗い場で

その奥に湯船があったんだけれど

お友達は服も脱がないで

その湯船の中にザブンと入って

目を白黒させてる私に向かって言うの

 

「どうしたの?これが普通でしょ?」って

 

でも 他に入ってた1人のお客さんは

(どう見ても男性なのだけれど ここは混浴なのかしら?)

普通に 服も着ない裸の状態で湯船に浸かっていたから

どこかに服を脱ぐ場所はあるんだなと見渡して

湯船の脇にある扉を開けたら

がらんどうの脱衣場が広がってた

 

私はそこで服を脱いで

普通に 裸になってから

湯船に浸かって お友達の側に行ったの

 

そして言ってみたの

あそこにいる男性客も 私も

お風呂に入る時は服は脱ぐわよ?って

 

そしたら彼女はこう言ったの

「どうしたの?それも普通じゃないの?」って

 

……

私には 彼女の言う「普通」が何なのか

…理解出来ないわ…

説明
夢で見た事や思いついた文字を羅列している詩集…と言うより散文集です。前の詩集に10編書いたので次の巻に移動してみました。
新しい詩をトップに、以下、下に行くにつれて古い詩になるように並べ替えてます

◇超短編集のみ、ブログにて展開しています→ http://blog.livedoor.jp/gaeni/archives/cat_1213008.html
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