Masked Rider in Nanoha 四十五話 その日、機動六課 後編
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「シャッハさん! 相手の糸には毒が混ざってますから気をつけて!」

「了解ですっ!」

 

 なのはの声に応じるようにシャッハはアハトの吐く糸をかわして接近する。ここは地上本部は会議室前の廊下。そこでなのはとはやてはシャッハと共にアハトと戦っていた。会議へ出ていたはやてはともかく何故ここになのはがいるのか。それは彼女が一番注目されているだろう会議室が狙われる事を危惧して向かっていたためだ。

 そうして少しした途端爆発音がしたのを受け、なのははフェイトと連絡し合った。結果、彼女は外の方へ向かい、なのはは内部を引き受ける事になった。六課の者ははやてとシグナムが会場にいる事を考え、出来るだけ内部戦力を増やしておこうとしたのだ。

 

 爆発音がした場所は地下の動力炉。そこには既にクウガが向かったのをフェイトからなのはやはやては聞いている。それ故目の前の相手に集中していた。

 

 廊下前で戦うなのはとシャッハ。それを後方で支えるのはツヴァイとユニゾンしたはやてだ。その後ろにはカリムの姿もあった。そう彼女は出席者の一人。その護衛としてシャッハも同行していた。それもあって即席ではあるがチームが組めていたのだ。

 怪人を初めて見た他の局員達はやはり怯えや恐れを見せていたが、はやてが越権行為と思いつつ周囲の警戒と防衛へ集中させている。ただレジアスは違った。彼は怪人が襲撃がしてきたのと同時に何かを決意した表情で先程から何かを準備していたのだ。

 

「カリム、頼みがある!」

「貴方達のリミッター解除ね」

「せや! わたしの代わりになのはちゃん達のもお願いっ!」

 

 カリムが告げたリミッターとは、はやてを始めとする隊長陣五人の魔力量を制限している処置だ。しかし部隊長であるはやてのそれを解除出来るのは後見人のカリムとクロノだけ。しかも隊長陣の解除ははやてにも出来るのだが、それはロングアーチが受け付けなければならない。つまり六課との通信が出来ない以上彼女には不可能なのだ。

 この状況に至り、制限を受けたままでは厳しいとはやては判断。自身を含めた全員に全力を出させて欲しいと訴えた。カリムもそれを理解したのだろう。すぐさま解除の手続きを始めるべく動き出す。はやてはその間もアハトの吐く糸を凍らせ、反射攻撃を阻止していた。既にある程度情報を得た相手だった事もあり、なのはもレイストームを放つ手足を重点的に狙っている。

 

「唸れ、ヴィンデルシャフト!」

 

 シャッハはヴィンデルシャフトを振り上げ、アハトの手足を打ち砕こうと迫った。だが、それを阻止しようとレイストームを放つアハト。その瞬間シャッハの姿が消えた。それを見たアハトが忌々しげに舌打ちする。そして、すぐに後方へ視線を向けてレイストームを放とうとした。

 これまでも彼女の移動魔法で似たような光景を見てきたからだ。だが、それを易々とさせる程シャッハと共に戦う存在は甘くない。閃光を放とうとするアハトへなのはの魔法が襲い掛かったのだ。

 

「シュートっ!!」

 

 アクセルシューターがアハトの手足を襲う。それはその部分を破壊する事は出来ないものの攻撃の射線を変える事に成功する。

 

「くっ! 小癪な!」

「それほどでもないよ!」

 

 アハトが苛立ちを込めた声を放つとなのはへレイストームを撃とうとするが、それを待っていたかのように手足の一本が砕かれた。それにアハトの呻き声が上がる。シャッハはそれを聞きながら再びなのはの前へ戻ってきた。

 

「お見事です、なのはさん」

「いえ、シャッハさんがいてくれればですから」

「くそっ! 人間の分際でぇ!」

 

 シャッハの得意魔法は移動系。彼女はそれを活かしアハトへ攻撃していた。セインのディープダイバーと肩を並べる事が出来るそれは予想以上に有効だったのだ。

 アハトとしては六課の前線メンバーでもないシャッハのデータなどあるはずもなく、その力には驚くしかない。更にこれまで前線へ立った事のないはやての魔法についても情報がなかった事もあり、完全に予想を覆されていたのだ。

 

 そう今回の襲撃で邪眼側の誤算は一つ。それは彼らが得たデータは穴があった事。六課隊長陣のリミッター解除時のデータもなければ、シャッハやゼスト達などのデータもない。彼らは重きを仮面ライダーに置きすぎたためにそれ以外の者達への警戒を怠ったのだ。そしてそれは仮面ライダーが戦ってきた組織に共通した驕り。彼らを支える者達のデータ。それこそが本当は一番必要としなければならないものなのだから。

 

「さ、残りの手足も砕いていきましょう!」

「はい!」

 

 ライダーがいなくても何とか出来る。そう自信を深めた二人。だが、そこへ嫌な笑い声が聞こえてきた。そう彼女達が思ったのには理由がある。なのはは声に聞き覚えがあったため。シャッハはその声の雰囲気に嫌悪感を感じたためだ。

 そこに現れたのは蠍の怪人、ツバイだった。その姿に警戒を強めるなのは達。するとツバイはなのはを見て嘲笑うように高笑いを続けた。それに誰もが眉を顰める。アハトさえ怪訝な雰囲気を隠さない。

 

「……何がおかしいんだツバイ。正直、僕も苛立つんだけど」

「だって笑えるんだもの。愛してるとか言っていたのに、その相手が大変な事になっていてもこうして平然としていられるんだから」

 

 そのツバイの言葉になのはだけが反応した。視線を向けられただけではない。愛してるとの言葉を言う相手がいるのは自分だと思ったからだ。そんな風になのはが考えたのを悟ったのかツバイが不気味に笑みを見せた。

 

「あら……もしかして知らないの? 昨夜、私があの眼鏡男と戦った事を」

「っ!? ユーノ君の事?!」

「ええ。私の爪が掠ったから、今頃大変でしょうねぇ。何せ、私の爪からは……ククッ」

「そうか。傷口から毒が入ったはずだ。じゃ、もって数日か」

 

 ツバイの言いたい事を理解したアハトの言葉になのはは愕然となった。その体から力が抜けそうになり、意識が真っ白になっていく。生まれて初めて感じる程の絶望が彼女へ押し寄せたのだ。

 最愛の男性が残り数日で死んでしまう。今まで感じた事のない程の喪失感がなのはの不屈の心へひびを入れていく。それは愛が人へ与える弱さ。誰かを愛すると人は強くも弱くもなる。その言葉をなのはは実感していた。

 

 崩れ落ちそうな程脆さを露呈したなのはを眺め、ツバイは満足そうに嗤う。六課の柱であるなのは達の心に絶望を与える。それが彼女の狙いだった。そこでその材料を探るために選んだのが無限書庫。そしてツバイは得たのだ。エースオブエースと呼ばれるなのはの唯一にして最大の弱点を。

 それはユーノとの関係。毎晩言葉を交わし、愛を育んでいる事を利用して絶望をと思っていたのだ。それが今、最悪のタイミングで効果を発揮しようとしていた。管理局で知らぬ者はいないなのはが見せる脆さ。それに後方支援をしていた局員達がざわつき始める。

 

「そんな……ユーノ君が……」

「傍についてなくていいの? もう会えなくなるかもしれないのに」

「しかも最後には骨さえ残らず消えるんだ。まぁ、でも行かせる気はないよ」

 

 ツバイの言葉に無意識で走り出そうとしたなのはへアハトが告げた言葉が突き刺さる。その様子を見たシャッハは無理もないと思い、彼女から視線を外してヴィンデルシャフトを構えた。はやてもシャッハを援護するべく表情を凛々しくすると、動きを止めたままのなのはへ怒鳴り声を上げた。

 

「なのはちゃんっ! 気をしっかり持って!」

「はやてちゃん……」

「ユーノ君が心配なんは分かる! でも、今行ってどうなるんや!!」

 

 はやての言葉になのはは反論しようとしたが、その眼差しを見てある事を思い出して言葉を失う。はやてはかつて家族と思っていた翔一と突然引き離され、五年以上にも渡って会えずにいた。何とか再会を果たせたとは言え、もしかすればそのまま二度と会えなかった可能性さえあった事を。

 今なのはが抱いている想い。それに近い物さえ抱く事が出来ないまま翔一と別れたはやて。そんな彼女がした事は翔一を捜してあちこちへ行くのではなく、ひたすら再会を信じて待ち続ける事だった。

 

(はやてちゃんだって、あの時こんな気持ちだったんだ。でも……私は……)

 

 はやてと自分の状況の違いを思い出し、なのはは俯いた。そう、今のなのはとはやてには決定的な違いがある。だからこそなのはは一刻も早くユーノへ会いに行きたかったのだ。

 

「でもね、はやてちゃん……。ユーノ君は、ユーノ君はね、死んじゃうかもしれないんだよ?」

「っ!?」

「今も苦しんで、私の事を呼んでくれてるかもしれない。会いたいって……」

 

 なのはの涙ながらの答えにはやては表情を驚きに変えた。そこにはエースオブエースはいなかった。そこには、ただ恋人を思い弱気になっている一人の女性がいるだけだった。そんななのはに見切りをつけたようにはやては視線を外す。だが、最後にこう告げた。

 

―――なら、さっさとこいつら片付けよか。そしたら、なのはちゃんは会いに行ってええから。

―――…………うん。ありがとう、はやてちゃん。

 

 涙ながらに微笑み、なのはは心からの感謝を告げる。それにはやては何も返す事無く二体の怪人を睨みつけるだけ。指揮官としてこの後待っているだろう邪眼との戦いを考えれば、当然なのはを離脱させる訳にはいかない。

 それでも、はやては組織としてではなく個人としての感情を優先した。それにカリムが小さくため息を吐くが、その表情は彼女の心境へ理解を示すように苦笑している。シャッハもそんなやり取りを聞きながらどこか楽しそうな笑みを浮かべた。しかしそれもすぐにそれを消してアハト達へ向かっていく。

 

 はやてはその動きを援護するように魔法を放つ。ただ怪人が増えた事を受け、現在の戦場である狭い廊下からどうにか外へ連れ出せないかと考えていた。怪人が連携を取る前に分断しなければならないと悟っているのだ。

 一方、なのはは先程よりも鋭い動きを見せていた。だが当然のように戦況は良くはならない。ツバイが増えた事でシャッハに掛かる負担が大きくなり、先程までとは違って攻撃を行なう事が出来なくなったのだ。そこへ折よく状況を打開するための手段が発動した。

 

「オールリミッター解除。リリースタイム、六時間」

 

 カリムの声と同時にはやてとなのはが動いた。なのははフラッシュム?ブを使って二体の背後へ。その動きに合わせ、シャッハが正面から二体へ襲い掛かる。はやては周囲へ大声で謝りを入れながら廊下の壁を吹き飛ばそうと魔法を放った。

 

「ちょう壊しますけど堪忍してください!」

”行きますよっ!”

 

 壁へ向かって放たれるフレースヴェルグが轟音を立てて大きな穴を作る。それに呼応するようになのはがディバインバスターでツバイを穴へと吹き飛ばした。そして、それを追うように彼女はそのまま外へ向かったのを見てはやても後を追おうとして―――ある事を心配してシャッハへ念話を送る。

 

【一人でも大丈夫です?】

【心配いりません。足止めぐらいならば出来ます!】

 

 その力強い答えにはやては感謝を返し、なのはを追って外へ出た。シャッハはそれを見送る事もなくアハトとの戦闘に集中する。はやてがいなくなったため、相手の糸攻撃を防ぐ手立てがないからだ。

 それでもここに残ったのは接近戦が得意ではないアハトを相手する方がマシと思ったから。故にシャッハは奮戦していた。しかし、その糸の網を使った反射攻撃をアハトが始めると形勢が不利になっていく。

 

 見かねた他の局員達が援護しようとするのだが、ある者は怪人の力と姿に恐怖し碌に動けず、またある者は自分達では力になれないと感じて悔しがっていた。カリムは少しでもシャッハの負担を減らそうと動けぬ者達へ避難を呼びかけていた。

 

「くっ……聞いてはいましたが、厄介ですね」

 

 反射されるとレイストームの速度や威力が上昇する。しかも、その糸はちょっとやそっとでは排除出来ない。なのはやはやてから聞いていた情報通りの厄介さ。それをその身で痛感しながら、シャッハがどうするかと考え始めた瞬間、その場に何かの音声が響き渡った。

 

”SOWRD VENT”

 

「みなしゃがめっ!」

 

 そして廊下にひしめく者達へ指示を出すと何者かがアハトへ剣を投げつけたのだ。シャッハはそれが自分を援護するための行動と判断し、誰がしたのかを確認する事無く即座に動く。だが、カリムとオーリスや他の局員達は揃って視線を後方へと向けていた。アハトも向かってきた剣を避けてその相手を確認するや軽い驚きの声を出す。

 何故ならば、その相手はバリアジャケットではない格好だったのだ。仮面ライダーに近い印象を与える黒のボディースーツ。腰にはベルトがあり、中央にはブランク体のバックル。上半身を守るように装着されているプロテクター。腕には、龍騎と同じようなバイザーがある。そして何よりも特徴的なのはその顔。

 

「ドクロの仮面、だと……? 貴様、何者だ」

「何者でもいいだろう。一つ言えるのは、人間の味方で怪人の敵。それだけだ」

 

 アハトの声にそう答える髑髏男。それが彼―――レジアスの気持ちを表していた。戦闘機人という違法行為に手を出した事。それだけではない数々の汚い裏の所業はどこかで犠牲を生んだ。ならば、自分は贖罪しなければならない。そう思った故の髑髏。亡き者達を弔い、自らも死人となって戦うとの意思表示なのだから。

 

 思わぬ援軍の登場に戸惑うアハトの姿を見て髑髏男は走り出す。拳を握り締め、その速度を加えたままアハトへ向かって繰り出した。その意外な速さにアハトは回避が遅れる。ただの人間が出せる速度ではなかったのだ。

 更にその拳の威力もアハトの想像を超えていた。ただの人間には出せない程の破壊力がその場から五メートルも怪人を飛ばす。それにアハトだけでなく周囲も言葉を失った。中でも彼の正体をいち早く悟ったカリムとオーリスは余計に言葉がない。その髑髏男がアハトへ告げた内容がある者達を連想させたために。

 

(レジアス中将……もしや貴方は……)

(父さん、やはり貴方も……)

 

 仮面ライダーを知る二人だからこそ、髑髏男が言い切った言葉はそれを彷彿とさせた。人類の味方。そして怪人の敵。それは仮面ライダーの在り方だったからだ。多くの局員達が見守る中、髑髏男とシャッハは共に協力しアハトを追い詰め始めていた。

 アハトが吐き出す糸。それを髑髏男が手にした盾で展開を阻止するとシャッハが魔法を駆使してアハトを翻弄する。相手が二人になり、尚且つ両者が接近戦タイプだった事もあってかアハトは狙いを絞れなくなっていた。

 

 そこを突いてシャッハが、髑髏男が攻撃を加えていく。その一撃一撃は小さなものかもしれない。だが、それがいくつも積み重なっていく事でやがては大きなダメージとなっていく。

 

「くそっ! ちょこまかと……」

「また背後ががら空きですよ!」

「させるかっ! っ?! いない!?」

「儂を忘れるなっ!」

「しまっ」

 

 背後を取ってアハトの注意を引き付けたシャッハ。それは髑髏男のための陽動。アハトが攻撃しようとした時には既にその姿はなく、代わりに髑髏男の飛び蹴りがその体を襲ったのだ。その衝撃にアハトは廊下を転がるも立ち上がるのが遅い。それに彼は手応えを感じて小さく頷いた。

 弱ってきていると悟ったのだ。なのは達との戦いで受けたダメージ。そこへ更に自分やシャッハで与えてきたダメージが重なってアハトを追い詰めたと。すると、彼へ何かが飛んできた。それを反射的に受け取る髑髏男。それは最初に投げ放った剣だった。

 

「これは……」

「あった方が良いかと思いまして」

「そうか。心遣いに感謝する。なら奴へとどめを刺すとするぞっ!」

「承知しましたっ1」

「図に乗るな。人間風情がぁぁぁっ!!」

 

 怒りに身を任せるようにアハトが立ち上がると同時にレイストームを放つ。それを見たシャッハは移動魔法で回避して後方へと回り込む。だが髑髏男は自身の後ろにいる局員へ当たる事を察しその場で手にした盾を構えて閃光を防いだ。

 しかし、既に毒による腐食で強度を失いつつあったそれは徐々に溶け始めている。もうもたないかと髑髏男が思った瞬間、彼の盾が完全に消えたのだ。阻む物が無くなった閃光はそのまま髑髏男を襲う。

 

 だが、それは予想だにしない者達によって阻止された。彼の体を守るように幾多もの魔力光が盾を作り出していたのだ。

 

「レジアス中将、ご無事ですかっ!」

「例え戦う力はなくても守る事は出来ます!」

「今の内に体勢を立て直してくださいっ!」

 

 後ろで守られるしかなかった局員達の中にいた魔導師達がプロテクションを展開していた。当然カリムもその中にいる。彼女達の姿を見たレジアスはしばし呆然となるものの、我に返ると同時に一枚のベントカードをバックルから取り出した。

 それは龍騎で言うファイナルベント。ジェイルが苦労の末に作り出した擬似的ファイナルベントだ。改良前にはなかった物であり、レジアスの怪人を倒せる力をとの希望を叶えるべく生み出された力だった。

 

 その描かれたマークは”M”と”R”を組み合わせたマーク。仮面ライダーを意味するそれは、偶然にもライダーの父とも言える立花藤衛兵が描いた物に酷似していた。それをバイザーに挿入し髑髏男は息を吸う。

 

”FINAL VENT”

 

 その脳裏に浮かぶのは、今まで出会ってきた者達の顔。そして遠き日の愛する妻と娘の笑顔だ。それを守りたいとの気持ちを込めるように彼は剣を握る手へ力を込める。いや、それだけではない。

 魔力が無い者達を代表し、更には戦う力無き者達に代わりその牙となるための覚悟と、怪人に恐怖するだろう全ての人々の怒りと悲しみを振り払う決意もそこへ込めて彼は構える。

 するとその剣へ魔力の輝きが宿っていく。周囲の魔力を体の一部に集め、攻撃力を増させて放つ事。それが髑髏男のファイナルベントなのだ。剣の変化にアハトが注意を向けたのを察し、シャッハも動いた。彼女は背後から手にしたデバイスを唸らせて渾身の力を込め叫ぶ。

 

「烈風っ! 一迅っ!!」

 

 排出されるカートリッジ。振り下ろされるヴィンデルシャフト。それは完全にアハトを捉え、その体勢を崩してレイストームを停止させる。それを好機とばかりに髑髏男は走り出す。アハト目掛けて走り、その勢いのまま床を蹴った。そして剣を振り上げて彼は吼える。

 

―――怪物め! 人間を舐めるなぁ!!

 

 思い切り振り抜いたその一撃はアハトへ見事に炸裂しその体を後方へと吹き飛ばした。凛々しく構えるシャッハの隣へ着地する髑髏男。彼らの雰囲気はまだ闘志に満ちている。二人はそのまま倒れているアハトへ視線を向けると小さく頷き合った。

 

「く、くそ……まだ僕は負けていないぞ」

「ならばこれでっ!」

「終わりだっ!」

 

 辛うじてアハトはその場にゆっくりと立ち上がる。だが、そんな彼へシャッハと髑髏男が迫った。繰り出される剣と棍による一撃。それが本当にとどめだった。戦闘でのダメージによる内部ダメージと髑髏男の剣から体内へ叩き込まれた魔力エネルギー。そこを剣と棍が貫き、決壊寸前だったアハトの最後を演出した。

 

「僕が負ける? ただの人間如きに? ハハッ……そんなの認めないぞぉぉぉぉぉっ!」

 

 爆発するのを見越して距離を取る二人。それを見届けながら断末魔を残してアハトは爆発する。その散り際や遺言に対し髑髏男は一人自嘲気味に呟いた。

 

―――儂の望んでいた戦闘機人はこういうものだったのかもしれんな……

 

 

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 会議室前での戦いにツバイが加わろうとしていた頃、クウガは一人動力炉で邪眼と戦っていた。誰もいない孤立無援の状況で彼は奮戦していたのだ。

 

「ぐぅ!」

 

 邪眼の豪腕がクウガの体を捉えて空中へ叩き上げる。それでも彼は何とか体勢を立て直すと着地した瞬間距離を取った。すると先程まで居た位置に電撃が放たれる。それを見て安堵しながらクウガは周囲を軽く見渡した。

 

(駄目だ。武器に出来そうな物がない……)

 

 そこにあるのは瓦礫ばかり。地下駐車場に置いてきたビートチェイサーまで戻ればタイタンソードが確保出来るがそれは厳しいために。邪眼を引き連れてそこまで戻る事は構わないのだが、もしそこに一般局員がいたら。そういう厄介な事になる可能性がある以上、クウガにその選択肢はない。他者を巻き込む事を彼は一番嫌う。故に、この場所で戦い続ける事を選んでいるのだから。

 

「一人では我には勝てんぞ」

「そんな事ない。俺だって、クウガだって……仮面ライダーだから!」

 

 そう言ってクウガは構える。武器がないとしても諦めないと。仮面ライダーとの名。それを名乗るだけで不思議な力が湧いてくるのだ。自分以外の勇気ある者達。それが共にいてくれるような感覚を感じるのだから。

 そんな事を思いながらクウガは邪眼へ向かっていく。もう能力を隠す必要はない。いや、逆に言えばもうそんな余裕はない。自分の全能力を使い、凄まじき戦士にならずに邪眼を倒す。それが今のクウガの決意なのだ。

 

 邪眼がその腕を振り下ろす。それを見てクウガは横に跳んだ。だが、それを叩き落すように邪眼が腕を動かす。しかし、それは空振りに終わった。

 

「何ぃ!?」

 

 クウガの体の色が青に変わったため、その跳躍力が変化していたのだ。初めて見るその姿に驚きを浮かべる邪眼を余所に、クウガはそこから再び地を蹴ってその頭上へ跳び上がる。そして、そこから紫へ変化して蹴りの姿勢を取った。

 そこへ邪眼が電撃を放って迎撃を試みるも、それは紫の鎧に緩和され姿勢を崩し切る事は出来ない。そのまま邪眼を蹴り飛ばすクウガ。その威力に邪眼が軽く後方へ下がる。

 

 クウガはそれに小さく頷くと共に赤へ戻った。それはRXの変化を利用しての攻撃を思い出してのもの。それは思ったよりも有効だと確信していたのだ。しかし、やはり決定打に欠けるとも感じていた。

 せめてどんな色のでも構わないので武器が欲しいと考えるクウガ。すると、何かを思い出して視線を瓦礫へとやった。使えるかもしれないと考え、彼はそれへ近付き手に取ると体の色を紫へ変える。

 

 丁度邪眼がそこへ電撃を放つがクウガはその攻撃を鎧で受け流して瓦礫をその手で砕き始めた。

 

「無意味な事を……」

 

 石礫をしてくるとでも考えたのか邪眼は馬鹿にするように呟く。だが、クウガはそれに構わずに砕いた瓦礫を更に砕いていく。それを見た邪眼は嫌な予感がしたのか動き出した。クウガはそれに気付き、急ぎ目で瓦礫から作った物を握り締めた。

 それは急ごしらえの石器。いや、石で出来た刃だ。そう、クウガが思い出したのは武器を使う未確認の事。彼らは小さな装飾品を武器にしていた。つまり、どんな大きさでも武器に出来る要素さえあればいいのだと気付いたのだ。

 

「おりゃ!」

「ぬぅ!」

 

 手にした刃はタイタンソードへ変化し、クウガを攻撃しようと迫っていた邪眼を牽制した。更にクウガは一気呵成に攻めるべく金の力を解放した。銀がメインだった鎧が紫色に染まり、その力強さを増させるのを見て邪眼が驚きを浮かべた。

 ライジングタイタンとなったクウガはそんな邪眼へ斬りかかった。ライジングタイタンソードはその間合いが変化している。それだけではなく攻撃力も増加しているため、タイタンソードと同じ感覚でいた邪眼へ軽い動揺を与える事になった。

 

 斬りつけられた場所に封印を意味する文字が浮かんでは消える。だが、その都度邪眼が苦しんでいるのを見てクウガは金の力なら倒せる事を確信した。しかしここではとどめを刺す事が出来ないとも気付いていた。あの無人世界での戦いで最後に邪眼が起こした爆発。それに近い爆発を起こすとも限らないために。ここは地上本部の動力炉。それに誘爆でもしたらどうなるか分からないのだから。

 

(せめて外に出れば何とか出来るかもしれない。ダメージを与えながら被害の少ない場所を探さないと……)

 

 それでも弱らせる事は必要だと思い、クウガはそのまま邪眼を攻撃しつつゆっくりとではあるが戦場を変えるべく戦う。その頃、クウガがツェーンを狙撃した高層ビル屋上で雷光が煌いていた。フェイトがツェーンと一人で戦っていたのだ。フェイトの魔法を物ともせず、ツェーンは背中の砲身から拡散弾のようなエネルギー弾を発射した。彼女はそれを回避しつつプラズマランサーをお返しに放つ。

 

―――こっちは俺が引き受けるからフェイトちゃんにはビルにいるカメ怪人をお願いしたいんだ。

―――カメ怪人……っ! じゃ、最初の砲撃はやっぱり!

―――うん、一応俺が射撃で砲身を壊したけど再生するだろうからね。

―――分かりました。砲撃させないように頑張ってみます。

 

 最初は爆発音が聞こえた場所へ向かっていたフェイトだったが、ビートチェイサーで搬入口からやってきたクウガと出会った事で現状へと至っている。

 その後、急いで外へ出た彼女がツェーンのいるビルへ到着した時には、クウガが懸念した通り砲身の修復が終わりかけていた。再び地上本部へ砲撃を仕掛けようとしているのを把握し、フェイトはそれを阻止するため速攻でザンバーを使って砲身にダメージを与えたのだが、それでは長距離砲撃を不可にしただけで砲撃自体は可能だったのだ。

 

「あいつを倒すのは、今の私じゃ厳しいね……」

”ですが、不可能ではありません”

「クスッ……ありがとう、バルディッシュ」

 

 長年の相棒からの断言にフェイトは微笑みを浮かべて答える。だが、すぐに表情を引き締めて視線をツェーンへ向けた。砲身を彼女へ向け攻撃を続けるツェーン。以前は温度差を利用した構造崩壊に加えて龍騎のファイナルベントで撃破した事をフェイトも知っている。それから考え、彼女は自分一人では背面の甲羅を突破するのは不可能だと結論付けた。

 唯一撃破の可能性があるとすれば、正面のまだ強度的に弱い部分。そこを狙うしかないだろうと考えてフェイトは動く。そんな彼女をツェーンの砲撃が容赦なく襲った。

 

「落ちろっ!」

「っ! 当たる訳にはっ!」

”ソニックフォーム”

 

 今必要なのは自身の自慢である速度。そう判断したフェイトの意を酌んでバルディッシュがバリアジャケットを変化させる。防御力を下げる事で速度を上げるフェイトの決戦用の姿。それがこのソニックフォーム。

 だが、それは無人世界での邪眼との戦いで見せた姿とは異なっていた。その時よりも更に防御力を下げ、更なる速度を出す事に特化した”真ソニックフォーム”なのだ。

 

 フェイトは砲撃をかわしながらツェーンの隙を探す。しかし砲撃は絶え間なく続き彼女の反撃を許さない。何とか隙を見つけフェイトが攻撃しようと試みるも、そうなるとツェーンは背中を向ける。それに表情を歪めながら彼女は再び距離を取るしかない。

 そんな事を続けていると、ふと力が湧くような感覚をフェイトは感じた。それがリミッター解除だと察した彼女はバルディッシュを握る手に力を込める。反撃の時は来た。そう自分へ言い聞かせるように。

 

「今なら全力のザンバーが撃てる!」

 

 意を決してフェイトは動いた。ツェーンの砲撃を正面から避けながらの吶喊。少しでも掠ればそこまでの行動にツェーンは微かに疑問符を浮かべるが、好機とばかりにフェイトを迎撃した。威力よりも範囲や弾数を意識したそれを、フェイトは最低限の挙動で避けていく。

 そしてザンバーを突き出すように構えた瞬間、その体が雷光となった。ソニックムーブを使い加速したのだ。ツェーンがそれに目を見開く。その次の瞬間には、ツェーンの腹部をザンバーが貫いて―――はいなかった。

 

「くっ……通らない!」

「残念だったね。これで終わりだ」

 

 フェイト向かって砲身を向けるツェーン。それを見た時、彼女にある考えが浮かぶ。それが有効か否かを考える前にフェイトは動いた。砲撃を引き付け、土壇場でかわして上へ飛ぶ。だが彼女の攻撃力では自分を倒せないと踏んだツェーンはそれに余裕を見せていた。

 フェイトはそれに内心感謝し、手にしたザンバーを迷う事無く砲身へと突き入れる。そこで攻撃すれば両者共にただでは済まない。それを理解しツェーンはフェイトへ問いかけようとした。

 

「何を……」

 

 だが、それが言い終わる事は無かった。フェイトはツェーンの疑問に言葉ではなく行動で答えた。

 

「トライデントッ! スマッシャー!!」

 

 ザンバーを通して流れる三対の電撃。それは砲身を通してツェーンの体へ流れる。そう、体の中へ。硬い甲羅を貫く事が出来ないのなら最初から甲羅に覆われていない部分を使えばいい。そうフェイトは思いついたのだ。

 最初にザンバーで砲身を攻撃した際一切威力が軽減されていなかった事。それを思い出したフェイトは砲身からなら自分の攻撃を直接叩き込めるのではないかと考えたのだ。その目論見は当たり、ツェーンは体の内部を駆け巡る電流に動けないでいた。

 

「お、おのれ……」

「バルディッシュ!」

”ロード、カートリッジ”

 

 このままでは自分が負けると判断したツェーンは、せめてフェイトと共倒れになろうと砲撃を行なおうとする。それに気付いたフェイトが呼びかけた意味を理解し、バルディッシュはカートリッジを排出した。その数、二本。

 そして、それを確認するやフェイトは手にしたザンバーを振り上げながら力強く叫ぶ。砲身の上の部分を切り裂いてツェーンの悲鳴を耳にしつつも凛々しく告げた。とどめの一撃をとの想いと共に。

 

「プラズマ! ザンバァァァァァッ!!」

 

 再度同じ場所へ叩き付けられる一撃。それは砲身を完全に破壊しながらツェーンを襲う。その電撃と斬撃は内部からツェーンの崩壊を促していく。しかも、フェイトを狙って放とうとしていたエネルギーもそれに影響され、ツェーンは屋上から軽く吹き飛ばされながら空中で爆発四散した。

 それを見届けてフェイトはすぐさま動き出す。目指すは六課隊舎。そう、彼女からは見えたのだ。隊舎付近から上がる煙が。地上本部はRXとクウガに多くの六課メンバーがいる。ならば、自分は速度を活かして隊舎の救援に向かおうと考えたのだ。

 

(待ってて、みんな。ここは頼みましたからね、RX!)

 

 

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 スターズやライトニングが怪人と戦っているように、ゼスト達と共にいたトーレとセッテも二体の怪人を相手にしていた。自分達の方へ向かってきたトイやマリアージュを片付けながら空から強襲してきたドライ達を迎撃していたのだ。

 そこには今まで戦った事のない相手もいた。それを見たゼスト隊がドライを引き受けてくれたので、二人はそちらへ集中出来たため何とか対処出来ていた。向かってくる羽を避けるトーレとブレードで弾くセッテ。二人は揃って視線を同じ方向へ向けていた。

 

「やはり空戦タイプだったな」

「ええ」

 

 トーレとセッテが相手にしているのは黒髪のセッテ???ズィーベンだ。既に正体を表していてその姿はコンドル。スローターアームズを利用しアインスと同様の効果を持つ羽を自由に操るため、二人は苦戦を強いられていた。

 そう、トーレの腕にはその羽が一つ刺さっている。そこから流れる血が止まらなかった事から彼女は羽の効果を理解し、これ以上当たる訳にはいかないと回避しているため中々踏み込む事が出来ないでいたのだ。

 

 セッテがISを駆使し何とか対抗しているもののやはり有効打にはなり得ず、トーレはブーメランブレードが作った羽の穴を突いてズィーベンへ攻撃を仕掛けていた。だが、すぐに羽を放たれるために踏み込む事が厳しい。

 それでも二人は諦める事なく戦い続けていた。その近くではゼスト隊がドライを相手に奮戦している。それが二人の背中を支えていた。その戦況は徐々にではあるがゼスト達が押している。故にこのまま押さえ続ければ必ず援軍として彼らが来てくれると信じていたのだ。

 

「気に入らないな、その顔は。創世王様に盾突くだけで飽き足らず、そのお命まで取ろうと言うのか?」

「ふん、当然だ。奴は私達のラボを奪ったのだからな」

「それに気に入らないのは私の方だ。私のコピーでありながら異形となる事へ嫌悪感や恐怖感を欠片として持たないとは。恥を知れ」

「馬鹿な事を。この姿にどうしてそんな事を思う? これは素晴らしいぞ。創世王様が与えてくださった強い力だ」

 

 歓喜に震えるような声を発するズィーベンにトーレとセッテの眼差しが鋭さを増す。力を得る事に貪欲であり、尚且つそれを振る事へ何の躊躇いも抱かぬ事。それは今の二人にとって聞くに堪えない言葉だった。故に告げる。己が信念と心情を。目の前のもう一人のセッテへ、有り得たかもしれないもう一つの可能性へ。

 

―――そんなものは強さではない。今のお前はただの化け物だ。

 

 揃って告げた言葉。それがズィーベンの神経を刺激する。再び始まる空中戦。そうやってトーレとセッテが善戦する横では、ゼスト達がドライ相手に接戦を繰り広げていた。

 

 ゼストとクイントは前衛としてドライの高速機動に翻弄されつつも痛手を負う事無く戦い続けていた。メガーヌはガリューを召喚して己が護衛として自身はゼスト達の援護をしている。他の隊員達は残ったトイやマリアージュの撃破を行っていたのだ。

 

「ちっ! ……まだ速いな」

「あ〜もう! すばしっこいわね!」

「でも最初に比べれば見えるぐらいにはなりました。次が勝負です」

 

 前もって聞いていた怪人のデータを基に対抗策を練ってはいたのだが、実際戦ってみると当然だが中々思ったようにはいかない。それでも、少しずつその動きの要となっている羽へダメージを与えてはいた。その方法はある意味で彼らだからこそ出来るものだった。

 

「くっ……またか!」

 

 ドライの口から忌々しげな声が漏れる。その理由こそ羽を攻撃している方法だ。それは設置型のバインド。少しでも動きを鈍らせたり止めたりするためのそれ。メガーヌがしている援護とはそれの設置だった。

 ゼストとクイントの動きを熟知している彼女だからこそ的確に二人の死角へ設置出来る。ドライもそれを理解しているのだが、死角以外からの攻撃をしても二人へ痛手を負わせる事が出来ないためそうせざるを得なかったのだ。

 

 バインドに絡まり、動きを僅かにだが止めてしまうドライ。それを見て駆け抜けていくようにクイントが羽へリボルバーシュートを叩き込む。だが、それが直撃する前にドライがバインドを無理矢理破壊し脱出した。

 しかし、打ち出された魔法が風に刃のような威力を持たせドライの羽を傷付ける。そう、逃げられる事を見越してのリボルバーシュート。これを繰り返し、少しずつではあるがドライの機動を鈍らせる。これがゼスト達が考えたドライ攻略法だった。

 

「そこだ!」

「行って、ガリュー!」

 

 そして遂にその動きがゼスト達にも完全に捉えられる程度にまで鈍った。それを見たゼストが動き、メガーヌがそれに続くようにガリューへ指示を出す。それに呼応してガリューがゼストの援護へ動き出したのに合わせ、クイントが両手のリボルバーナックルを構えて再びウイングロードを疾走する。

 

「メガーヌ、後よろしく!」

「分かったわ!」

 

 クイントの言葉に返事を返し、メガーヌは転送魔法を準備し始めた。その転送相手はクイントでもなければゼストやガリューでもない。その相手とは敵対しているドライだった。

 

「調子に乗るなっ!」

 

 ゼストを迎え撃とうとするドライの視界に映る景色が突然変わる。先程はゼストが見えていたにも関らず、一瞬後には自分へ向かってくるクイントが見えたのだ。何が起こったのか理解出来ず戸惑うドライ。

 その体へメガーヌが転送魔法を使って前後を入れ替えたのだ。それをドライが理解すると同時にゼストの攻撃が炸裂した。彼が片方の羽を綺麗に斬り落とし、駄目押しとばかりにガリューがもう片方を引き千切る。

 

 それに苦悶の表情を浮かべるドライへゼストはフルドライブを発動しクイントのいる方向へ弾き飛ばす。それを待っていたのかのようにカートリッジを二本ずつ排出させる二つのリボルバーナックル。クイントはそれをドライ目掛けて力強く突き出した。

 

「リボルバーインパクトっ!!」

 

 声と共にドライの腹部を激しく強打するクイント。更に素早く相手の体を蹴り落とした。すると、凄まじい音と共に地面へ激突するドライ目掛けて彼女がウイングロードから飛び降り、蹴りの姿勢のまま着地したのだ。

 その痛みにドライが声にならない声を出す。それを見たメガーヌは再びドライへ転送魔法を使用した。それは上空で待ち構えるゼストの真上へとその体を移す。今度は思い通りにさせないと反撃を試みようとするドライだったが、その体をガリューがすかさず羽交い絞めにした。

 

「おのれっ! 放せぇ!」

 

 必死にもがくドライだが蓄積されたダメージ故かその力は弱い。そうこうしている間にもゼスト達はとどめを刺すべく準備を始めていた。

 

 バインドの準備を始めるメガーヌと二度目のフルドライブを仕掛けるべく構えるゼスト。クイントは彼の逆方向へと回り込んで視線をドライへ合わせた。するとガリューがメガーヌの意図を読み、絶妙なタイミングでドライから離れるとそこを見計らったバインドが拘束に成功。

 それを合図にクイントが動き出したのを見てゼストもフルドライブを使用した。背後からリボルバーナックルを突き出すクイントと、前方から凄まじい勢いで迫るゼスト。その挟み撃ちを喰らい、ドライは絶叫を上げた。ゼストの槍とクイントの拳がその体を貫いたのだ。

 

「な、何故だ……? 何故こうもいいように」

「貴様らは自分の力を過信し過ぎている」

「あなたは少しでも相手に負けない努力をした? 私達はした。それが勝負を分けたのよ」

 

 二人はそう告げると同時にドライの体から離れた。そして空中から地上へ落下するドライへは目もくれず、ゼスト達はそのままトーレ達の援護へと向かうとズィーベンを睨みつける。次はお前だとその眼差しで告げるように。

 一方、怪人に襲撃されていないでも奮戦している者がいた。それはヴァルキリー0と呼称されるギンガだった。彼女は一人六課の者達から離れた場所でトイやマリアージュ相手に戦っていたのだ。そう、父親率いる108の者達と共に。

 

「こっちも片付いた! ギンガ、お前はもう戻れ!」

「お言葉は嬉しいですが遠慮させてもらいます! まだマリアージュが残っていますので!」

 

 ゲンヤの言葉にそう返すとギンガはブリッツキャリバーを加速させマリアージュへと向かっていく。現在、彼女は一人従来の所属である108隊と協力し、苦戦する他の陸士隊を助けながら地上本部を襲うトイやマリアージュと戦っていたのだ。

 

 その理由は色々ある。父親のゲンヤが心配だった事や同僚で先輩のラッド・カルタスが気になったのもある。何よりも自分の本来いるべき部隊を守りたかったのだ。

 そのため、ギンガは光太郎達に許可をもらってそうしていた。そしてそうして良かったと今のギンガは心から思っている。トイ相手には善戦していた108だったが、マリアージュがそこへ加わると途端に苦戦し始めたのだ。

 

 だが、ギンガがいた事でそれもすぐに立て直す事が出来た。彼女はAMF影響下でも無関係の戦闘機人モードを使いマリアージュを率先して撃破。トイの相手を周囲へ任せて戦い続けたのだ。

 正直この後でAMF下でも魔法が使える事を誰に指摘されると思っていた。それが原因で自分の体の事を話す事になるかもしれないとも。だが、ギンガはそれでもいいと判断した。それで誰かを守れるのなら、この体が誰かの笑顔を守れるのならと。

 

(私も気高く生きる! 人の心は、魂は……決して無くさないから!)

 

 絶体絶命の危機から自分を助け出してくれた仮面ライダー。そんな彼から教えられた事実。それがギンガの心を強くしていた。例え機械と同じだと言われても、心は人だと言えるようにしよう。胸を張って自分は人間だと思えるように。その想いが宿った拳が勢いよくマリアージュへと放たれた。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 眼前のマリアージュを殴り飛ばし、ギンガは残るマリアージュ達へ睨みを利かせるように吼えた。

 

―――かかって来なさい! 心を持たない貴方達には、私は絶対負けないっ!

 

 そこには、どこかで”普通”に憧れていたギンガ・ナカジマはいなかった。そこにいるのは、”普通”でないからこそ出来る事があると知った一人の人間がいるだけだった。

 

 

-4ページ-

「そこよ!」

「おっと! そうはいかんで!」

”ですっ!”

 

 ツバイの尾の攻撃を回避し即座にその場を離れるはやて。同時に尾から落ちた毒が地面を溶かすのを見た彼女は氷結魔法でそこを凍らせる。それにツバイが悔しげに表情を歪めるもはやてを追撃しようとはしない。なのはの砲撃がツバイのいた場所をなぎ払ったからだ。

 その砲撃をツバイはかわせず腕を組んで耐える。先程から遠距離主体の二人を相手にツバイは防戦一方だった。ドゥーエの事を知っている二人はツバイの爪の基がピアッシングネイルだとすぐに気付いた事もあり、ユーノが陥ったような事にはならなかったのだ。

 

「少し派手に行くよ! エクセリオンバスタァァァァ!!」

「くっ!」

「そこや!」

”フリジットダガーです!”

 

 追撃として放たれたなのはの砲撃を嫌がり、ツバイがその場を離れるとそれを見越していたはやてがツヴァイと共に魔法を放つ。その氷結魔法がツバイを直撃した。それは、相手を凍りつかせる短剣。その数、約三十。それが当たった場所を少しではあるが凍りつかせていく。

 無論、はやて達はそれで倒せるとは思っていない。だが多少なりでも動きを止める事が出来れば良かったのだ。それで大技を準備出来る時間を稼ぐ事が狙い故に。その証拠にはやては既に次の魔法の詠唱を開始していた。なのはも彼女の援護をするべく砲撃魔法のチャージを始める。

 

「レイジングハート!」

”チャージ開始”

 

 そんな時、凍結で動きを鈍止めていたツバイが突然叫ぶと周囲の凍った部分の氷を吹き飛ばした。それに驚く二人へツバイは即座に爪を伸ばし、チャージしているなのはを攻撃する。その狙いはただ一つだった。

 

「あの男と同じようにこれで死になさい!」

 

 ユーノと同じ方法で殺そうとするツバイ。その言葉を聞いてもチャージを開始していたなのはは動く事が出来なかった。これで死んでしまう。そんな思いがなのはの脳裏に一瞬よぎる。それでも彼女は目を閉じる事無く迫ってくる爪を睨みつけた。するとその時思わぬ事が起こったのだ。

 

”ブレイズキャノン”

 

 響き渡る女性のようなデバイス音声。それと同時に青い魔力光が毒の爪を弾き飛ばす。それに大きく驚くなのは達。ツバイはその攻撃に警戒をしたのか多少距離を取り、視線を攻撃が向かってきた方向へ向けていた。そこにいたのは色が抜け落ちたような龍騎だった。

 

「そうか……貴様がユーノを襲った怪人か」

 

 彼はそう告げるとその手を握り締める。そしてなのはとはやてもツバイの爪を弾いたのがクロノの得意とする魔法だった事に気付き、その相手が誰かを理解し視線を向ける。彼はその手にS2Uを所持していた。

 そう、旧バトルジャケットを纏っているのはクロノだとそこで二人は確信した。何故、どうして。そんな疑問が浮かぶも今はそれよりも頼もしい援軍が現れた事に対しての喜びが上回った。

 

「「クロノ君っ!」」

「加勢するぞ二人共。後、こいつだけは絶対ここで倒すからな」

 

 そう言ってクロノはS2Uを待機状態へ戻すと一枚のベントカードを取り出してバイザーへ入れる。

 

”GUARD VENT”

 

 出現した盾を手にしクロノは走る。更にもう一枚ベントカードを使い空いている手に剣を持った。なのはとはやてはそれを見つめながら再びツバイを倒すべく魔法の準備へ戻った。ツバイの爪や尾を盾で防ぐクロノ。だが、その毒が盾を少しずつ腐食させていく。それでも彼は恐れる事なく戦う。

 あの時、自分が少しでも早くユーノの元に行っていればあの光景は阻止出来た。その後悔がクロノを突き動かしていた。怒りと悲しみ、そして親友への想いが少しずつツバイを追い詰めていく。途中からは腐食した剣を捨てS2Uへと持ち替えて。

 

「ちっ! あの男といい、貴様といい、どうしてこうも雑魚の分際でぇ!」

「黙れ! 僕はともかくあいつの事を雑魚とは言わせない! あいつは、自分の力だけでお前を撃退した勇者だ!」

 

 毒を盾で防ぎ、魔法を的確に使いながらクロノはツバイをある位置まで誘導していた。それに気付かずツバイは反撃しながら彼の思惑通りに動いていく。そしてツバイがある位置へ到着した瞬間、なのはとはやてが頷いた。

 それを見る事なくクロノは盾を投げ放つと即座にバインドを施す。それはチェーンバインド。ユーノの得意魔法だったそれをクロノは敢えて選んだ。目の前の怪人へ一人挑んだ親友への想いを込めて。好んで使う魔法ではないそれをクロノが迷う事無く選択したのはそういう事だ。

 

 その魔力の鎖で身動きが取れなくなるツバイからクロノは距離を取り、S2Uを構えて視線を微かに動かす。そこには彼の予想通りの光景が広がっていた。

 

「響け! 終焉の笛っ!」

”特大のいきますよ〜っ!”

 

 はやての声と共にシュベルトクロイツという杖が高々と掲げられる。なのはもそれに合わせてレイジングハートの照準を動かした。二人が狙うは勿論ツバイ。その後方には広い水平線が見えるだけ。そう、クロノは二人が大威力魔法を心置きなく使える場所までツバイを誘導しつつ戦っていたのだ。

 

「ディバイン……バスターっ!!」

「ラグナロクっ!!」

”ラグナロクっ!!”

「スティンガーブレイド! エクスキューションシフトっ!!」

 

 三色の攻撃が絡み合うようにツバイを直撃する。それに抗えるはずもなくツバイは断末魔さえ上げる事が出来ないまま消滅した。その魔法の余波は水平線へと消えていき、辺りへ静けさが戻る。終わったとはやてが安堵した時にはなのはがクロノへ駆け寄っていた。

 

「クロノ君、ユーノ君はどうなってるのっ!?」

 

 その言葉にクロノはバトルジャケットを外すと懐から小箱を取り出し彼女へ手渡した。ユーノからの頼まれ物だと告げて。それだけでなのはは何かを察して小箱を開ける。そこには彼女の予想通り指輪があった。

 

「ユーノ君……っ!」

「それは婚約指輪だそうだ。だから……本番用はあいつ自身が渡すらしい」

「えっ……」

 

 その言葉になのはは無意識に顔を上げた。その意味が一つしかなかったために。クロノはそれを肯定するように頷き告げる。最後にはサムズアップさえ見せたから間違いないと。その瞬間、なのはの両目から涙が溢れ出した。

 ユーノの名を呟きながら彼女は涙を止める事が出来ない。なのははそのまま小箱ごと指輪を抱き締めるのみだ。クロノは居辛そうにしているはやてへここは自分に任せてくれと念話で告げる。それにはやては感謝し即座に飛び立った。その背を少しだけ見送り、クロノはなのはへ優しく声を掛ける。

 

「ユーノがいる場所へ案内しよう。立てるな?」

「……うん」

 

 こうしてなのははクロノと共に戦場を後にする。その一方ではやては愛する家族達を助けるために動いていた。なのはの気持ちを理解して痛む胸を押さえながら、彼女は仲間達の元へ向かうために急ぐ。

 

(なのはちゃん、わたしは信じとるよ。必ずラボでの邪眼との決戦までに戻ってくるって。やから、今は行ってええから。ユーノ君によろしくな)

 

 きっと他の者達も事情を聞けば分かってくれるだろう。例え、自分の判断が指揮官失格だったとしても構わない。はやてはそう思って表情を凛々しくする。と、その視界の隅に映った物が彼女の顔を驚きに変えた。六課隊舎のある方から煙が上がっているためだ。

 それでもはやてがしたのは現状把握に努めながらヴィータ達と合流する事だった。カリムから聞かされる現状に思考を巡らせ、どうするべきかと考えをまとめようとした彼女はある光景に意識を奪われる。

 

「クウガが邪眼を一体相手に戦ってる。なら、残りは隊舎か? それとも……」

”はやてちゃん、今はクウガの援護です!”

 

 はやての疑問へツヴァイはそう返して行動を促す。それに彼女も意識を切り替え、クウガへ接近しつつ援護射撃を開始する。嫌な予感がするとどこかで不安に思いながら……

 

 

-5ページ-

 地上本部での戦いが激しさを増し始めた頃、隊舎前の戦いも激しさを増していた。トイとマリアージュを片付けた事により、ディエチがディードの援護へ行き、シャマルがザフィーラの援護へ向かったのだ。

 ドゥーエはウーノの傍で護衛と並行し周囲へ目を光らせている。フィーアは未だにザフィーラの作った戦場から抜け出していない。ツヴェルフはディードとオットーの連携の前に中々攻め切る事が出来ないでいた。全体的に見れば状況は五分。

 

 しかし、そんな戦況にも関わらずウーノとドゥーエは細々とした部分でどうしても納得いかない事があると思っていた。

 

「絶対ゼクスは来ると思ってたのよ」

「ええ。あれ程強襲や奇襲に長けたISはないものね。でも……」

「そう、何故かいない。フィーアは予想通りだったし、知らない怪人を送り込んでくる事も予想内だったのに」

「後気掛かりなのは邪眼の数が予想より少ない事か。一番予想通りであって欲しいところが違うってのは嫌な感じ」

 

 二人はそう言い合ってやや黙った。そして揃って視線を一瞬だけ隊舎へ向けた。同じ予測を出したと感じてすぐにウーノがロングアーチへある事を伝えて備えを頼む。ドゥーエは彼女の言葉を聞きながらある者達を心配していた。

 サバイブとのユニゾンは使わないと真司が決めたものの、いざと言う時のためにと龍騎へついていった融合騎アギト。邪眼を一人で倒すために出し惜しみはしないと言っていた仮面ライダーアギト。たった一人でも邪眼をもう一度倒してみせると決意した龍騎の三人を。

 

 彼らは、今隊舎から多少離れた場所で激戦を繰り広げていた。それを映したモニターをウーノは横目で見ながらもメインである怪人戦への注意を怠らない。そう、一番突破されてはいけないのは自分達が守る場所だと理解しているのだから。

 

「ディードっ!」

「そこです!」

 

 レイストームで動きが微かに止まった瞬間を突いてディードがツヴェルフの体を斬りつけた。それは小さな傷を作るも怪人の再生力がすぐに治してしまう。それでもツヴェルフは我慢の限界とばかいrに表情を変えて呟いた。

 

「そうですか。そんなに死にたいのですね。もうどうなっても知りませんよ」

「……ディード、ディエチ、来るよ」

「ええ……」

「了解。ここからが本番だね」

 

 相手の威圧するかのような言葉にも三人は少しも恐れる事無く表情を引き締めていた。未知の怪人を相手にする事自体はもう何度か経験済み。ならば、今彼女達が恐れるのは相手の正体ではなく不安や恐れなどで本来の力を出せなくなる事だ。

 故に三人は構える。三人での連携も出来ない訳ではない。怪人を倒す事は出来ないかもしれないが撃退は出来る自信が三人にはあった。三人は相手を倒す事ではなく隊舎と自分達を守る事に重きを置いているのだから。

 

 そんな三人の前でツヴェルフはその姿を変えていく。それは蜂。しかもスズメバチだ。耳障りな羽音が響く。先程まで持っていた双剣が両手に融合され、その剣先からは何かの液体が滴っている。それが地面へ落下した途端そこへ小さな穴を開けた。

 

「毒、だね」

「気をつけましょう。腐食するかもしれませんし」

「あたしは援護に徹するから、二人は思う存分戦って!」

「「了解!」」

 

 オットーとディードの返事に応えるようにディエチはツヴェルフ向かって砲撃開始。散弾状のエネルギー弾をツヴェルフが危なげなくかわすもそこへレイストームが放たれる。咄嗟に両手の剣で防いだツヴェルフはあろう事かその閃光を双剣で切り裂いたのだ。

 その光景に息を呑むオットーへツヴェルフは臀部を向けると針を発射する。だがそれを即座にディードが叩き落し、そのままツヴェルフへと迫った。その加速力に驚く彼女の背後を取り、その双剣がその首を落とさんと振り下ろされる。

 

「ディード!」

「チッ!」

 

 だがディエチが放った砲撃が間一髪ツヴェルフを捉えてその攻撃を阻止する。その間にディードは一旦距離を取って小さく安堵の息を吐いた。

 

【ディード、迂闊に接近しちゃ駄目だ。あいつもドライと同じで羽を使って瞬間加速を制御している】

【みたいね。じゃあ、出来るだけ羽を狙ってみる】

 

 オットーからの念話にそう答え、ディードは再び動き出す。その背を見守りながらオットーはディエチの砲撃の隙を補うようにレイストームを使い、その援護を受けてディードはツヴェルフへ立ち向かう。

 

 一方、フィーアを相手にしているザフィーラとシャマルはそのISと特殊能力に手を焼いていた。シャマルはザフィーラが作った戦場の外から支援をする形で戦いを支えているのだが、攻撃魔法を使えない彼女では幻影や分身を?き消す事が出来ないのだ。

 

「テオラァァァァ!!」

「残念。それは幻影よ」

 

 ザフィーラの渾身の一撃を受けて幻影が消える。そこを狙って動く分身達。だが、その動きをすかさず緑の魔力光が止めた。シャマルのバインドだ。それが分身達を見事にその場へ拘束している。

 

【ザフィーラ、今の内よ!】

【すまん。助かる】

 

 シャマルが作った時間を使い、ザフィーラは即座にその場から離れて身構える。その眼差しを鋭く動かし彼は周囲を警戒していた。実は、先程から二人はフィーア本体に一度として攻撃を加える事が出来ないでいたのだ。幻影と分身に周囲との同化というフィーアの能力。それにザフィーラとシャマルは有効な手段を持たないためだ。

 それでも隊舎へ侵入させないために二人は奮戦していた。防衛に徹する事で時間を稼ぎ、邪眼と戦っているアギトか龍騎のどちらかでも戻ってくれば一気に形勢逆転出来るからだ。なので、二人に焦りはない。今は守る事が勝利と知っているのだから。

 

 ザフィーラは幻影と分身に気を配りながら姿を消したフィーアの位置を探る。そう、ザフィーラは守護獣。その嗅覚を使い、フィーアのいる位置を特定出来ないまでも接近を悟る事が出来ていたのだ。

 そのため、むしろ焦りがあるのはフィーアの方ともいえる。ザフィーラの作った戦場から出る事も出来ず、接近は悟られて攻撃も防がれる。加えて分身達も有効打を与える事が出来ないまま。極めつけにツヴェルフの方も状況を好転させる事が出来ないときていた。

 

(仕方ないわね。アレは私としてはあまり使いたくないのだけど……)

 

 このままでは自分が邪眼に見捨てられるかもしれない。そう思ったフィーアはある攻撃を使う事にした。それはフィーアの美意識でもあまり好ましくない攻撃法。

 

「……っ!?」

「どういう事?!」

 

 何か嫌な予感を感じ、ザフィーラはその場から離れた。するとその腕を何かが掠り傷を作る。彼は感じる痛みに表情を微かに歪め、それを見ていたシャマルは驚きを隠せない。何が起きたのかが理解出来なかったのだ。しかしザフィーラはそれだけで何かを理解したのか納得するように息を吐いた。

 

【厄介だな。奴め、舌を使いだしたらしい】

【舌……? あっ! それって】

【ああ、カメレオン特有の獲物の捕らえ方だ。どうやらそこまで追い詰められたようだ】

 

 ザフィーラの言葉にシャマルが警戒心を強めた。今までそれを使ってこなかった事を思い出し、フィーアの心境を悟ったからだ。つまり本気になっている。それは裏を返せばなりふり構わず攻撃してくるだろうという事だ。

 シャマルはそう考えると同時に周囲の状況を見た。フィーアと戦う自分達にツヴェルフと戦うオットー達三人。そしてデータ取りをしているウーノの護衛をしているドゥーエは下手に動けないためにやや悔しそうだ。

 

 それぞれ精一杯の努力はしているものの状況を変える事が出来ない。せめて何かキッカケを作らねば。そう考えたシャマルの脳裏に浮かぶのは今は沈黙している頼もしい仲間達だった。

 

(こうなったら……頼ってみるしかないかも)

 

 決断するやシャマルはある場所へモニターを出現させる。そこに映し出された者達の代表格へ彼女は叫んだ。

 

「アクロバッター、貴方達の手を貸して!」

 

 その声に反応しアクロバッターが動き出す。RXからの許可も即座にもらったのだ。更に彼はゴウラムとライドロンへも呼びかける。こうして格納庫から頼もしい援軍が姿を見せた。

 アクロバッターはゴウラムと共にオットー達へ加勢し、ライドロンはザフィーラ達へ加勢するべく向かっていく。それを見て慌てたのは二体の怪人だ。ライダーがいないにも関らず自分達へ向かってくるライダーマシンに驚きを見せたのだ。

 

「なっ!?」

「無人で動いている?!」

 

 ディードと切り結んでいたツヴェルフへ突進するアクロバッター。ツヴェルフはそれを回避しようとするも、そこを狙って放たれたディエチの砲撃に直撃して地面に落下した。更に駄目押しとばかりにオットーがレイストームを叩き込むと、ディードがその隙を逃さず羽をツインブレイズで切り裂いていく。

 その間にゴウラムがアクロバッターへと融合。アクロゴウラムとなった彼は三人の中で一番身軽なディードへ声を掛けた。怪人戦をBLACKやRXと共に潜り抜けてきた彼だからこそ分かったのだ。今が勝利を掴む時だと。

 

「ノレ、ディード」

「え? ……っ! 分かりました!」

 

 少しの間を置いてその申し出が何を意図してかを理解し、ディードはアクロゴウラムに乗った。だがそれは跨るのではなくシート部分に文字通り乗ったのだ。そして走り出すアクロゴウラム。ディエチとオットーはその先を見て狙いを理解したのか構えた。

 フラフラと立ち上がるツヴェルフへアクロゴウラムが本来よりも速度をかなり抑えて突撃する。その直前、ディードがシートから跳んだ。アクロゴウラムの突撃を受け宙へ舞うツヴェルフ。そこにディードが待ち構えていた。

 

「IS、ツインブレイズっ!!」

 

 双剣が煌きツヴェルフを斬って傷を刻む。そこへ狙ったように二色の閃光が華を添えた。レイストームとへヴィバレルの光と突撃で受けた封印エネルギーが作用し怪人の最後を飾る。それを見届けた彼女達は一度だけ嬉しそうに頷くも即座に動き出した。ディエチは援護の指示を受けるためにウーノ達の傍へ、オットーとディードは邪眼相手に苦戦しているだろうライダーの元へと。

 

 そうやってツヴェルフが散る少し前、ライダーマシンの援軍を得たシャマルがライドロンへ頼んだのはそのライトを最大にしてザフィーラ達を照らす事だった。RXが二度に渡って実証した事を思い出しての指示なのだが、効果がないかもしれないとどこかで思ってもいた。それでもやらないよりはマシだと考えた彼女はライドロンに一縷の望みを託した。

 

 案の定効果はなかったものの、その光量に一瞬だけ分身達が怯んだ。それを好機と見たザフィーラが分身達を魔法で一掃する。この戦場を作った鋼の軛と呼ばれる魔法だ。地面から突き出した棘が分身達を貫き、あるいは鞭のように切り払っていく。それで苦しむ分身達へは目もくれず、ザフィーラはシャマルへ礼を告げた。

 

「さすがだなシャマル。おかげで邪魔者は片付ける事が出来た」

「いいのよ。これで残るは……」

 

 姿の見えないフィーアへ告げるようにシャマルは言葉を発した。それにザフィーラも頷き、周囲への警戒を強める。すると、ライドロンがシャマルを守るようにその車体を動かした。直後、ライドロンの車体に火花が散る。それを見た二人に動揺が走るが、何とか心を落ち着けると同時に状況を把握したのは歴戦の騎士達故だ。

 シャマルは悪いと思いつつもライドロンの影に隠れ、ザフィーラは自身の作った戦場から出る。フィーアが既にそっから抜け出ていると理解しているのだ。しかしそのタイミングがいつかまでは分かっていない。

 

「奴め……いつの間に出たのだ?」

「きっとライトを使った時よ。どこかを砕き、そこをISで誤魔化したんだわ。私も貴方もライトを使った瞬間は視線を分身達に向けてたもの」

「そういう事。中々鋭いじゃない」

 

 ザフィーラの呟きに答えたシャマルの言葉。それを聞いてフィーアは感心したように、だがどこか上からの言い方を返した。それに二人は頷き合うとシャマルがライドロンの中へ乗り込んだ。ザフィーラはそれを守るように立ち、嗅覚を頼りにフィーアの居場所を突き止めようとする。

 内心ではフィーアを閉じ込めたいと考えていたが、それはもう叶わない事を察しているのだ。それと共にある推測を彼は浮かべていた。フィーアがこのまま隊舎に侵入する事も出来ないだろうというものだ。

 

(奴はやたらとプライドが高い。いいようにやられたままでは終われんはず。つまり、私達を倒すまでは隊舎へは行かないだろう)

 

 それではフィーアがザフィーラ達から逃げ出すと捉えられても仕方ないからだ。他ならぬ自身がそう考えるはず。そう結論付けたザフィーラは念のために周囲へこう告げた。

 

「こちらに何とか一矢報いたようだが、所詮それだけだ。お前では我らを足止めする事しか出来ん。姿を消す事しか能の無いお前には、な」

 

 その声に返事はない。だが、ザフィーラは直感で感じ取っていた。フィーアが今の言葉で怒りを覚えたと。漂う殺気が強くなったのだ。これで最低限の目的は達成出来るかと思い、ザフィーラは不敵に笑みを浮かべた。それさえも相手に対する挑発とするために。

 

 それに殺気が殺意へ変わったのを受け、ザフィーラは目論見が上手くいったと内心で安堵する。そして意識を切り替えるように息を吐いて呟く。守るか、と。自分らしからぬ振る舞いもここまで。後は守護獣の名に相応しくあろう。彼はそう思って悠然と構える。姿の見えない敵相手に毅然としたままで。

 

 

-6ページ-

「くそっ! これで……どうだ!」

 

 龍騎が手にしたドラグクローを強く前へ突き出す。ドラゴンストライクだ。それを受けても邪眼は多少後ずさるだけ。それに龍騎は舌打ちをしたくなる気持ちを抑え、諦めずに一枚のベントカードを取り出す。それは龍騎のマークが入ったカード。

 

”FINAL VENT”

 

 龍騎はサバイブを安易に使うのではなく通常の姿のままで邪眼を相手にしていた。それは何も考えなしの行動ではない。サバイブになるとカードが増えたり、あった物が無くなる事から龍騎はある推測を立てた。サバイブになるとそれまで使ったカードとは別物になるのではないかと。

 故に彼はこの姿のままでファイナルベントを使い邪眼を弱らせる事にしたのだ。あのラボからの脱出戦ではサバイブでのファイナル二連発で撃破出来た相手。それを考えれば、龍騎としては少しでもベントカードを有効に活用するしかないと思ったのだ。

 

「はあぁぁぁぁ……」

 

 龍騎の周囲を巻きつくように動くドラグレッダー。そして、腰を深く落とし龍騎は跳ぶ。空中で一回転し捻りを加えながら落下していく龍騎。

 

「ライダーキックッ!!」

 

 願わくばこれで終われ。そんな思いを込めた蹴りが邪眼へ炸裂する。それに邪眼は地面を滑るように飛ばされた。着地しそれを見つめる龍騎。しかし、その手には既にサバイブのカードが握られている。彼はどこかで察しているのだ。これで終わらないと。

 それを裏付けるように邪眼は膝を地面につけるも悠然と立ち上がる。それはドラゴンライダーキックが必殺ではなくなった瞬間だった。それでも龍騎はうろたえる事無くサバイブのカードをかざし、ドラグバイザーを変化させる。

 

”SURVIVE”

 

「こっからだ……」

 

 サバイブし龍騎は出し惜しみはしないとばかりにシュートベントを使う。ドラグランザーが邪眼向かって火球を放つもそれを物ともせず、邪眼は龍騎向かって迫り来る。それを見た龍騎はソードベントを使って切れ味を増した状態で迎え撃つ。

 

「真司ぃ……アタシ、信じてるからな」

 

 アギトはその様子を離れた場所から見つめる事しか出来ない。龍騎から危なくなるまで隠れていろと言われたためだ。アギトは万が一の切り札。それが邪眼にやられては意味がないとの理由に彼女は渋々ながら納得したのだから。

 邪眼と戦う龍騎を見つめ、アギトは拳を握り締める。光太郎から聞いて知った仮面ライダーの本質を思い出し、彼女は龍騎の勝利を信じた。闇に抗い、それに打ち勝つ存在。加えて龍騎は炎の化身でもあるのだと。

 

「貴様のデータはもう十分だ。ここで死ね、龍騎!」

「言ってろ! データデータって、そんなもんで全て分かれば苦労しないんだよっ!」

 

 邪眼の電撃を喰らいながらも龍騎はそう啖呵を切る。そこへ更に電撃が放たれるも、それを素早く回避して彼は立ち上がった。そしてその脳裏に浮かんだ逆転の秘策を試すべく龍騎はベントカードを取り出す。

 それは言うまでも無くファイナルベント。ここで勝負を決める。そんな思いがそこに込められている。それを見て邪眼は構えた。一度は防いだ事実があるドラゴンファイヤーストーム。だからだろう。邪眼には焦りはない。

 

”FINAL VENT”

 

 それでも龍騎は迷う事無くそれを使う。バイクへ変形したドラグランザーに跨り、龍騎は邪眼目指して走り出した。それと同時に一枚のカードを手にして彼は邪眼を見据える。

 ウィリー状態で火球を放つドラグランザー。その火球に耐えながらも邪眼は突進を受け止めようと待ち構えていた。やがてその距離が縮まっていき、五メートルも無くなった瞬間だった。周囲にあの音声が響いたのは。

 

”STRENGE VENT”

 

「うおぉぉぉぉ!」

「何だとっ?!」

 

 音声と同時に龍騎が跳び上がった。ドラグランザーと共に。それは邪眼の知らない攻撃。そしてそれは龍騎の賭け。ストレンジベントは状況に応じて変化する特殊なカード。それはサバイブのファイナルベント中に使えばある物へ変化してくれるのではないか。そんな博打から生まれた一度限りの夢の連携技。

 

 龍騎の背後へドラグランザーが回り込む。それを察して龍騎が回転しながら蹴りの姿勢を取った瞬間、ドラグランザーは火球を放った。その勢いを受けて突撃する龍騎。そう、ドラゴンライダーキックだ。いや、厳密に言えばそれは本来のものとは違うだろう。

 だが、その光景はその名前に相応しいものだった。龍の火炎を背に受け、騎士は猛然と邪眼へと向かっていく。文字通り、邪悪を許さぬ烈火となって目の前の闇を焼き尽くさんとするかの如く。

 

「ライダァァァァキィィィックッ!!」

 

 必殺の言霊を込められた蹴りが邪眼を大きく吹き飛ばす。その強烈な威力に邪眼が地面へ強く叩き付けられた。龍騎は着地したまま黙ってそれを見つめ続ける。もう手札は出し尽くしたからではない。感じたのだ。この上ない手応えを。暫し流れる沈黙。すると、邪眼が静かに起き上がった。それでも龍騎は慌てる事無く見つめ続ける。

 

「これで……これで勝ったと思うな、仮面ライダー」

「……思う訳ないだろ。まだ、俺はラボを……ジェイルさん家を取り返してないんだから」

「そうだ。そこを貴様らの墓場にしてやる! ゆりかごこそ、貴様らの墓場だぁぁぁぁ!!」

 

 そう言い残し邪眼はその場で爆発した。それに龍騎とアギトは揃って疑問を抱く。ゆりかご自体は確かにラボにある。だが、そこが墓場になる事はないはずなのだ。ジェイルの研究施設のほとんどはゆりかごとは別の場所なのだから。

 龍騎は一度変身を解除して動き出す。アギトは彼の勝利を告げるために隊舎へ向かい、真司はもう一体の邪眼のいる場所を探すために。そこで戦うアギトを援護しようと考えて彼は走る。その彼が助けようとしているライダーもまた邪眼を倒そうとしていた。

 

 龍騎とは別の場所で邪眼と戦うアギトは既に相手を追い詰め始めていた。トリニティフォームを使い邪眼に少しずつだが確実にダメージを与えていたのだ。

 三つのフォームの力を合わせ持つトリニティフォームの能力は既にアギトの力を知っていた邪眼を驚かせていた。フレイムセイバーとストームハルバートを手にし、アギトは電撃を切り払いながら邪眼に攻撃を加えていたのだから。

 

「ま、まさかこれほどとは……」

「ここまでだ、邪眼!」

 

 アギトは邪眼へとどめを刺そうと両手の武器を構えた。それに邪眼は両手から電撃を放つ事で対抗しようとする。それを武器を交差させる事で防御するアギト。彼はその威力に軽く後退するもすぐに体勢を立て直し、邪眼向かって走り出す。

 炎と風がその手にする武器へ宿っていき、それを感じながらアギトは邪眼へ向かって迫る。向かって来るアギトを電撃で迎撃する邪眼だが、それを彼は燃える竜巻を巻き起こして防いだ。しかもその竜巻は邪眼へと襲い掛かる。

 

「何だと!?」

 

 直撃する訳にはいかないと跳び上がって回避する邪眼だったが、その眼前にはアギトがいた。

 

「はあっ!」

「ぐおっ!」

 

 動揺する邪眼に叩き込まれるファイヤーストームアタック。その威力に邪眼が大きく吹き飛ばされる。そして地面に激突した後三回程転がった。アギトはそれを見ながら着地すると両手の武器を地面へ突き刺し構えた。

 その瞬間、その頭部の角が展開する。アギトの足元に出現する彼の紋章。それは両足へと収束していく。その力を感じ取り、アギトはその場から大きく跳び上がった。丁度その時、邪眼が勢いを殺して何とか立ち上がった。

 

 そんな邪眼が見たもの。それは、自分へ蹴りを放つアギトの姿だった。それはライダーシュートという必殺技。弱った邪眼を完全に倒す決め技となった。

 

「ライダァァァキックっ!!」

「ぐふっ……あ、アギト……その力、やはり光の力か」

 

 意味深な言葉を残し倒れる邪眼。その体はアギトの角が元通りに戻ったと同時に爆発四散する。その爆音を聞きながら彼は光の力という言葉を思い出してふと自分のベルトへ目をやった。自分が変身する際の光。あれをかつて発電所で出会った仮面ライダー達は持っていた。その事を思い出したアギトは一つの推測を立てた。

 

(もしかして、俺の世界の仮面ライダーはみんなアギトの力を持ってたんじゃ? だから怪人達が強化されても戦い続ける事が出来たのかもしれない)

 

 自分がいくつもの姿に変化出来た事を思い出し、アギトはそう考えた。一号を始めとした歴代ライダー。性能では劣るはずの彼らが何故最新鋭の怪人達を相手に勝利出来たのか。その影には、アギトの力がどこかで作用していたのではと。

 進化を促すアギトの力。それが改造人間となった仮面ライダー達にも少なからず影響した。それをアギトはどこかで感じたのかもしれない。もしくは、あまり関りのない自分と歴代ライダー達との繋がりをそこに欲したのかもしれない。

 

 アギトは自分の拳を静かに握り締めると、何かを決意するかのように小さく頷き走り出す。目指すは隊舎前の仲間達。彼らへ自分の勝利と健在を示すためにアギトは急ぐのだった。

 

 

-7ページ-

「トゥア!」

 

 大地を蹴って跳び上がるRX。邪眼の放つ電撃を飛び越え、着地した瞬間にその姿を変える。既に勝負の決着も近いと感じたのだ。そのために邪眼の電撃への対策を試してみよう。そう考えた彼は隠していた力の一つを解放する。

 不思議な光がその体を包み、消えた時には機械の体を持つロボライダーがそこにいた。攻撃力と防御力に優れ、生半可な物理攻撃は悉く無効化するメタルライダーだ。その変化に邪眼が興味深そうな反応を見せる。

 

「ほう、貴様もクウガのような事が出来るのか」

「ボルティックシューター!」

 

 その言葉に答える気は無いとばかりに、ロボライダーは出現させたボルティックシューターで攻撃を開始する。それを電撃で対抗する邪眼。しかし連射能力で勝るロボライダーがそれに撃ち勝つ。ボルティックシューターを喰らい後退する邪眼へロボライダーは容赦なく追撃を加える。

 それでも邪眼も連射の合間を狙って電撃を放ちロボライダーへダメージを与えた。それに負けじとロボライダーも反撃する。しかし、このままでは耐久力的に邪眼が若干有利だろうと考えたロボライダーは、地面にボルティックシューターを発射して煙幕を張った。

 

「目晦ましか? 小癪な真似をしおって」

「今だっ!」

 

 RXへと戻り、彼は力強く地を蹴った。全感覚に神経を集中し、邪眼の位置を特定した彼はその両足で蹴りを叩き込む。更に蹴りを邪眼へ炸裂させた反動を利用しRXはもう一度空へと舞い上がる。そしてそこからもう一度蹴りの体勢に入った。それは彼が先輩ライダーから聞いた技の一つ。敵を蹴りつけた反動を利用して再度必殺の蹴りを放つもの。その名もライダー反転キック。

 

「RX! 反転キックッ!!」

 

 その威力は単純に通常のRXキックの二倍。しかも彼は同じ場所へ叩き込んだ。それは連続ライダーキックと呼ばれる技の複合。よってその威力はただの反転キックを超えていた。その威力に邪眼も堪らず大きく後ずさる。

 それを見てRXはとどめを刺すべくベルトへ手を回した。それに呼応するように現れる光の杖。リボルケインを手にし、RXは三度宙へと舞い上がる。そして先程のキックのダメージが抜け切らない邪眼へ手にしたリボルケインを突き刺したのだ。

 

「こ、この力……やはり貴様もか、世紀王!」

「何の事だ!?」

「光の力、それを貴様は取り込んだのだ」

「光の力……? そうかっ! アギトの光の事か!」

 

 RXは邪眼の告げた言葉からある結論に辿り着き、納得した。それがもしかすると自分の体の変化に大きく影響したかもしれないと思いながらRXはリボルケインを強く押し込んでいく。

 この戦いを切り抜けた後待っているだろう最終決戦。それを前に五代と翔一に話す事が出来た。そう考えながらRXは邪眼からリボルケインを引き抜くとその場にRXと署名するように手を動かす。邪眼はその場にゆっくりと倒れながら火花を散らし地面につくと同時に爆発した。

 

(RXへの変化……BLACKの原型……もしかしたら、俺はクウガとアギトに大きく関係しているのかもしれない……)

 

 そんな事を思いつつRXはその場から走り去る。まだ怪人と戦っている者達がいるからだ。それを助け守る。それが仮面ライダーの使命。そう、故に彼は戦う。受け継いだ正義の戦士の称号に恥じぬために。

 

 一方、邪眼と戦うクウガははやてという援軍を得ていよいよ戦いの大詰めを迎えようとしていた。

 

「結界展開完了です。思いっきしやったってください!」

「うん、じゃあはやてちゃんは他のみんなを!」

「そうしたいんですけど、実はわたし、結界魔法得意やないんです」

”なので、離れると維持が難しいですよ!”

 

 地上本部周辺で邪眼と戦うクウガ。彼は何とか外へ追い出す事に成功したのだが、撃破するための場所を中々見つける事が出来なかった。そこへはやてが合流した事により、クウガは念のために結界魔法を使ってもらう事を提案。

 それにはやても呼応し、かつてユーノから蒐集した結界魔法を展開した。だが、それはあくまで使えるだけ。ユーノ程の精度はないため、はやてはその場を離れる訳にはいかなかったのだ。それを理解しクウガは若干戸惑うも、そこを狙って邪眼が電撃を放つ。

 

「そこだ!」

「させないっ!」

 

 はやてを狙って放たれた電撃。それを庇って紫の鎧へ直撃を受けるクウガ。金の力で底上げされた防御力は少しも怯ませる事無く彼を守る。その頼もしさにはやてとツヴァイは勇気をもらい、結界維持へ意識を向ける。

 クウガは、はやての言葉から邪眼を早く片付けようと動き出した。結界維持を続けるはやての負担を考え、更に他の場所で戦う仲間達の援護に向かうために。故に彼は手にしたライジングタイタンソードを下げ悠然と動き出す。

 

 それを見た邪眼はかつての記憶を呼び覚ました。クウガがアギトと二人で電撃を物ともせず進んできたあの光景を。

 

「ぬぅぅぅ! 仮面ライダーめっ!」

 

 あの時と同じにはならない。そんな気持ちで電撃を放つ邪眼。それを受けてもクウガは歩みを一瞬も止めない。あのガドルとの戦いから金の力を常時発動出来る今、彼を止める事は難しい。それは邪眼も例外ではなくその焦りと恐れを増加させていく。そして、その距離がクウガの間合いへなった瞬間、彼が動いた。

 

「おりゃあぁぁぁ!」

 

 繰り出されるライジングカラミティタイタン。紫の金のクウガの必殺技が邪眼に炸裂する。だが、クウガはそれだけでは終わらない。すぐに剣を引き抜き、邪眼を殴り飛ばすと姿を変える。それは青。即座に金の力を発動しライジングドラゴンとなったクウガはその跳躍力で後ろへ下がる。

 はやての隣へ降り立ったクウガは、ライジングタイタンソードから変化したライジングドラゴンロッドを振り回すと凛々しく構えた。それだけではやては何かを察し小さく頷く。それを合図にしたのかクウガは再び空へと跳び上がった。その驚異的な跳躍力が立ち上がった邪眼の頭上まで彼の体を運んだ。

 

「うおりゃあっ!!」

 

 叩き込まれるライジングスプラッシュドラゴン。青の金のクウガの必殺技だ。その一撃が先程の攻撃による封印エネルギーに苦しむ邪眼へ追い撃ちをかけた。邪眼はそれを受けて尚、捕らえたとばかりにロッドを掴む。だが、クウガはロッドを掴む手をしっかり握り締めると脇に抱えるように持ち直し、邪眼を持ち上げるように動かした。

 そのまま回転しながらクウガはそこから見える海原目掛けて邪眼を放り投げた。その回転の勢いに負けたのか邪眼の手が離れて海原へと飛んでいく。その体には金の力で強化された二つの封印エネルギーがしっかりと刻まれている。そこからひびを生じさせながら邪眼は叫んだ。

 

―――次は負けんぞぉぉぉぉ!!

 

 その声がキッカケのように爆発する邪眼。その爆発はクウガが思ったよりも小さかったものの動力炉で起きていれば被害は大きかっただろうと思わせるぐらいではあった。クウガは金の力を消し、手にしたドラゴンロッドを地面へ着けると息を吐く。

 それに軽い笑みを浮かべながらはやては結界を解いた。色を戻していく景色の中、クウガは思う。邪眼の告げた次。それが本当に自分達が考えている状況だろうかと。それでもクウガは走る。はやてと共に仲間達目指して。まだ怪人が残っているかもしれないと考えて……

 

 

-8ページ-

 モニターに映る隊舎前の戦況が六課に有利になり始めた辺りから課員達の不安が消えた。更にそこへ二人の仮面ライダーも現れた瞬間、歓声が沸き起こる。残る怪人はフィーアのみという事もあり、ウーノ達が若干安堵の表情を浮かべているのを見たヴィヴィオとイクスは両手を握り、既に勝利ムードを漂わせている。

 同じようにその場にいる誰もが勝利を確信していた。いや、ある二人の人物だけはそうではなかった。その二名だけは浮かれる周囲とは違い、何かを警戒するようにしながらその光景を見つめていた。

 

「イクス、これでもう大丈夫だね!」

「はい!」

 

 最初こそ初めて見る邪眼や怪人の姿に恐怖した二人だったが、それを相手にしても勝利して戻って来た仮面ライダーの姿や六課メンバーの活躍に揃って強い希望と勇気を貰っていた。二人の視線の先にあるモニターではアギトがフレイムフォームへ変わってフィーアの気配を探っている。

 もう勝利は目前だ。そんな風に思い、ヴィヴィオとイクスは互いに手を繋いでモニターを注視していた。そんな二人を抱き抱えているリインにも微笑みが浮かぶ。だが、次の瞬間少女達を抱き締めていた感覚が消える。

 

「「えっ……?」」

 

 それに二人は何かあったのかと思って後ろを振り返った。だが、そこには優しいリインではなく不気味な怪人がいた。その後方には弾き飛ばされたのかリインが倒れている。それを見た二人は駆け寄ろうとしてその動きを止めた。ゼクスがその腕を二人の前へ向けたからだ。

 

「おっと、行かせないよ」

「あ……あ……」

「っ……どいてください」

 

 怯えるヴィヴィオを庇うようにイクスは前に立って毅然と告げた。しかし、その足はどこか震えている。戦乱の時代に生まれた彼女ではあるが、当然今までその眼前に敵が攻めてきた事はない。つまり今回のように恐ろしい状況になった経験はないのだ。

 それでもイクスはヴィヴィオのために勇気を振り絞った。仮にも王と呼ばれただけではない。自分を友人と思ってくれている少女を、ヴィヴィオを守りたかったのだ。初めて得た友人を守りたいとの強い想いがその小さな体に大きな勇気を与えていたのだから。。

 

「どいてくださいねぇ……嫌だと言ったら?」

「ならば……無理矢理通ります!」

 

 凛と告げるイクスの声にヴィヴィオは不思議と心が熱くなっていく。自分とそこまで歳が変わらないだろうイクス。それが毅然と怪人へ言い放つ言葉の力強さに。

 

「イクス……」

(そうだ。ママも五代さんも言ってた。どんな時でも笑顔でいられるようにって頑張るのが、本当の強さなんだって!)

 

 自分に影響を与えてくれた二人の人物の言葉と笑顔。それを思い出しヴィヴィオは意を決して頷いた。そこへ突然念話が聞こえる。それに驚くヴィヴィオだったが、その相手の優しい声に落ち着いて小さく頷いた。同じようにイクスにもヴィヴィオと同じ内容が念話で告げられていた。その相手の力強い言葉に彼女は勇気付けられながら信じていると言葉を返す。

 

「……まぁ、創世王様は最悪死んでいても構わないって仰ってたし……」

 

 だからゼクスの脅すような言葉にも二人は怯えを見せない。それがかつてのスバルとティアナを彷彿とさせ、ゼクスは苛立ちのままにその腕を振り上げた。

 

「「今だっ!」」

「何っ?!」

 

 それを待っていたかのように動き出す二人。それに驚きを隠せないゼクスの爪を襲う衝撃。それは一定間隔でゼクスの爪を一本一本砕いていく。それでもゼクスは二人目掛け腕を振り下ろす。それは僅かにヴィヴィオの髪を掠り、毛が宙に散る。

 それでも止まらず二人は走り抜け、リインの傍へと駆け寄った。ゼクスはそれに舌打ちをしISを展開して逃走する。その際、床に散った髪の毛を数本掴んで。リインは念のため二人を抱えると飛行魔法を使い天井近くへと上がる。

 

 そのまま待つ事数分後、外で戦っていたフィーアも倒れた事で完全に隊舎前は平和を取り戻した。それを受け、ロングアーチも六課内の非常警戒態勢を解除。リインは二人を床に下ろし、その頭を優しく撫でた。

 

「よく頑張ったな、二人共」

「えへへ、リインさんが声を掛けてくれたからだよ」

「私もそうです。ヴァイスさんが絶対守ると言ってくれましたから」

 

 照れ笑いを浮かべるヴィヴィオ。イクスも笑みを浮かべ、視線をゼクスの爪を狙撃していたヴァイスへと向けた。それに気付いた彼がやや苦笑しつつもサムズアップを返す。それに彼女もサムズアップを返す。それを見てヴァイスは過去の悪夢を吹っ切れたと感じていた。

 ウーノ達を通してロングアーチから頼まれたゼクス対応。リインはヴィヴィオ達を確保し離れないようにする事。ヴァイスに託されたのは、万が一に備え狙撃でゼクスの攻撃手段を破壊する事だった。

 

 正直、ヴァイスは自信が半分半分だった。実際イクスヴェリアに爪を向けたゼクスを見た瞬間、かつての事件を思い出して息を呑んだぐらいだ。だが、その瞬間ある言葉が頭をよぎったのだ。過去を乗り越えられない自分が光太郎へ言った言葉が。妹が捕まったのなら余計自分が助けてやろうと思わないといけない。

 

 それを思い出した瞬間、ヴァイスはそれまで封印していたデバイス―――ストームレイダーを無意識に起動させていた。

 

―――そうだ。今度こそやってやろう。

 

 そう己へ言い聞かせ、彼はあの頃の妹を彷彿とさせるイクスを助けるべく過去を打ち抜く事が出来たのだ。勇敢に怪人と対峙する少女へ念話を送り、不安や恐怖を少しでも軽減出来るように努力して。

 

―――絶対に守るから相手が腕を振り上げたら走れ。信じてくれ。必ず……守るから。

 

 その思いの丈を乗せた言葉通りにヴァイスは引き金を引いた。かつて大事な者を守れなかった狙撃手は、見事過去の悪夢を撃ち抜いてみせたのだ。

 

「……待たせちまったな、ストームレイダー」

”お帰りなさい、ヴァイス・グランセニック”

 

 小さく呟かれた言葉に返された言葉。それにヴァイスは軽い驚きを見せるも、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべ告げた。

 

「ああ……ただいま」

 

 その噛み締めるような言葉は歓声に沸く周囲の声に掻き消える。こうして管理局最大の危機は終わりへ向かっていく。この後、地上本部組と隊舎組の報告で襲撃に参加した邪眼の数が四体だった事が確認された。

 残っていた怪人達もゼクスが失敗したのを契機に倒された者と撤退した者がいた。バトルジャケットが怪人へ有効だった事も分かり、レジアスはその結果を以ってその配備を世間へ訴えた。その動きはきっと良い方向へ向かうだろう。

 

 だがそんな明るい報告ばかりだったのもそこまで。はやてから告げられたユーノの事実。それは五代達へ怒りと悲しみを与える。その気持ちや勝利の勢いを乗せたままラボへ攻め込みたい六課だったが、疲弊しているのも事実故に明日ラボへ突入する事を決め、それぞれが決意を新たにする。

 

 残る邪眼は六体。その残された理由がゆりかご起動とライダー抹殺のためだと、この時誰も知る由も無かった……

 

 

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後編。ライダー達の戦闘がほぼ無双状態なのは一応今後の伏線です。今までで一番加筆修正が入った回となりました。特にアギトVS邪眼辺り。

 

これから最終決戦へと向かっていきますが、まずはこの日の夕方と決戦前夜を二話構成でお届けします。次回更新からは二日おきになります。

説明
ライダー達やなのは達がそれぞれ怪人と戦う中、管理局員達もただ黙って見てはいなかった。
人々にその姿を晒し、贖罪のために戦う男がいる。人々に知られる事なく、親友のために戦う男がいる。その身に纏う鎧へ己が想いと力を乗せて。
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