Masked Rider in Nanoha 四十六話 平穏、そして決意
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 地上本部襲撃から数時間が経過し、既に六課の者達は隊舎へ戻ってそれぞれに休息を取っていた。明日に控えたラボ奪回戦を兼ねた最終決戦。それに備えて体を休めている者達がほとんどの中、ロングアーチの面々も様々な処理を終えた事もあり今はコーヒーや紅茶を手に談笑していた。

 

「お疲れさまです、グリフィス部隊長補佐」

「ルキノもね。まさかビートチェイサーの通信機能を利用して陸士達のデバイスへ連絡なんて考えつかなかったよ」

 

 グリフィスの言葉にルキノは照れくさそうに笑みを返した。地上本部への通信手段を失った時、彼女はビートチェイサーを中継してのデバイス間通信を提案したのだ。それをシャーリーが即座に試み、実行に移す。多少作業に手間取ったものの遠隔操作で出来る類だった事もあり、それは想像以上に早く実現した。

 そして本部との通信手段を失って狼狽える陸士達を繋ぎ、その動揺を沈静化する事に成功。更にトイやマリアージュに苦しめられていた者達へ108やゼスト隊の健闘を聞かせる事で励まし、最後に仮面ライダーも戦っていると教えればもう不安は無かったのだから。

 

「あれがある意味で被害を抑えたもんなぁ」

「それをやってのけたシャーリーも凄いよ。でも、一番はやっぱりグリフィス部隊長補佐でしょ。立派だったと思うな、あの演説は」

「いや、演説じゃないし立派って訳でもないよ」

 

 シャーリーがグリフィスの言葉に頷き、アルトもそんな彼女の手腕を褒めるが彼を褒めるのも忘れない。それにグリフィスは困惑した表情を返す。そう、彼は六課を代表して全ての陸士達へ語りかけたのだ。

 

―――落ち着いて対応してください。相手は手強いが勝てない相手ではありません。もし戦う事が厳しいのなら素早く撤退をお願いします。逃げる事は恥ではなく反撃のための準備だと思って欲しいのです。戦える者は手を取り合って、戦えない者は出来る範囲で生きるために足掻いてください。ここで相手が一番痛手に思うのは、誰も犠牲にならずに生き残る事ですから。

 

 そうグリフィスは告げた。その真摯で静かな声は六課に対し思う事があっただろう者達にさえ届き、大きな被害を出す事無く地上本部を守っていた者達は耐え切る事が出来た。グリフィスはその一因にはなったと思っているが、それが全てではないと知っているからこそ困惑していたのだ。

 陸士達それぞれが生き残ろうと懸命に足掻いた。そして、そんな彼らを勇気付けたのはやはり仮面ライダーの存在。恐ろしい怪人を相手に一歩も引かずに勝利する仮面ライダー。そして、ミッド中で人命救助をしていた彼らが参戦していると聞いた瞬間、陸士達の目に希望の光が戻ったのだろうとグリフィスは思っているのだから。

 

「気持ちは分かるけど、もっと胸を張っていいよグリフィス。貴方が立派だったのは、ここのみんなが知ってるんだから」

 

 そんな彼の気持ちを察してのシャーリーの言葉にルキノもアルトも頷いた。それにグリフィスはやや困惑するも嬉しそうに笑みを見せる。そんな彼へ三人が同時にサムズアップ。するとグリフィスも即座にそれを返してみせた。その瞬間、指揮所に四つの笑い声が響く。最後の戦い前の一時の安らぎ。それを噛み締めるように四人は過ごすのだった。

 

 その頃、隊舎屋上にあるヘリポートではヴァイスとシグナムが語らっていた。その手にはコーヒーがある。風は夕方ともありやや涼しさがあり、静かにその場を吹き抜けていく。それに心地良さを覚えながらシグナムはコーヒーに口を付けて一息吐くと視線をヴァイスへと向けた。

 

「そうか。お前がイクス達をな」

「ええ。昔取った何とかって奴っすよ」

 

 小さく笑うヴァイスを見てシグナムは少し意外そうな表情をした。だがすぐにその理由に気付いて笑みを見せる。ヴァイスがゼクスを撃退した事をリインから聞き、その状況を詳しく彼から教えてもらっていたのだ。それ故彼女は彼が過去の失敗を乗り越えたと知った。正確な狙撃を以ってヴィヴィオとイクスを怪人から守れた事実がその証拠だと。

 

「何すか?」

「いや、過去を乗り越えたのだなと思ってな。いい顔をするようになった」

「そうすか。ちったぁいい男になりましたかね?」

「ああ、今口説かれれば困るぐらいにはな」

 

 シグナムの茶化すような言葉にヴァイスは言葉を返そうとして―――その声が真剣なものだと気付いて声を失った。そんな彼へ彼女は少しだけ楽しそうな笑みを見せて歩き出す。そして背中を向けたまま一言告げた。

 

―――と、アルト辺りは思うだろう。

 

 それにヴァイスが呆気に取られた。それを雰囲気から悟りながらもシグナムは振り返る事もせず隊舎の中へ戻っていく。それを見送ってからやっと彼は我に返った。そのまま苦笑すると空を見上げる彼。

 からかわれたと理解しつつも、ヴァイスは嬉しかったのか笑みを浮かべていた。あのシグナムが自分をいい男だとは認めてくれた。口説かれれば困るとまではいかないだろうが、少しは考えるぐらいにはなった。そう言ってくれたのだと考え、彼は楽しそうに呟く。

 

―――姐さん、今の言葉忘れませんよ。いつか姐さんを困らせるだけの男になってみせます。

 

 彼によって守られた少女二人は食堂でリイン達と過ごしていた。ヴィヴィオはリインに後ろ髪を少し切って整えてもらっている。ゼクスによって髪を軽く散らされたためだ。イクスはそれを見つめ、ザフィーラはツヴァイとアギトへ明日の事を話している。今日の戦いでも温存された龍騎の奥手。その役目をいよいよ明日アギトが果たす事が来るためだ。

 

「そうか。では、明日こそお前と龍騎のユニゾンの出番か」

「おう、アタシと真司の奥の手だ。邪眼の奴も知らないからな。盛大に驚かしてやるさ」

「ふふっ、ですが気をつけてくださいね」

 

 ザフィーラの言葉に笑顔で応じるアギト。力強いその声にイクスが笑みを浮かべた。今回、龍騎は一人で邪眼を相手に立ち向かい勝利した。その戦いを見ていたアギトは龍騎が何故自分を最後の切り札にしたのかを理解したのだ。

 邪眼はアギトが知る限り無敵の龍騎がファイナルベントを正味三枚使ってようやく倒せる相手。しかも、まだ別の姿を隠しているとなれば余計に恐ろしい存在と言える。最悪龍騎だけでは邪眼の本当の姿には勝てないかもしれないのだ。もしかすると自分がユニゾンしても勝つのは難しいかもしれないとまで思ったぐらいだ。

 

「分かってるって。……アタシだって簡単に勝てると思う程馬鹿じゃないからな」

 

 そんな事を考えアギトがやや真剣な表情に変わる。するとツヴァイが彼女を安心させるように笑顔を見せた。

 

「大丈夫です! リイン達と仮面ライダーは負けません!」

「リインの言う通りだ。五代も翔一も南も城戸も負けん。もし危機に陥る事があったとしても我々が手を貸せばいい」

 

 そのザフィーラの断言にアギトは嬉しそうに頷くと何かに気付いて視線をヴィヴィオ達の方へ向けた。それに倣うように三人も視線を動かす。丁度髪を整え終わったらしく、リインがヴィヴィオの髪を優しく撫でていた。

 

「……よし、これでいい」

「ありがとアインさん。えっと……イクスどう? 変じゃない?」

 

 リインの言葉にヴィヴィオは礼を述べるとイクスへ背を向け不安気にそう尋ねた。リインはそんな彼女に苦笑した。そこまで大きく切ってはいないから見せても仕方ないのだ。イクスもそんなリインと同じ考えを持っていたのだろうが、表情には出さずにヴィヴィオの後頭部を見て笑顔で頷いた。

 

「ええ、とても可愛いです」

「ホント?」

「はい。ヴィヴィオが心配するような事はないです」

 

 そこまで言われてヴィヴィオも納得出来たのか嬉しそうに頷いた。そして改めてリインへ礼を告げるとイクスの手を掴んで走り出す。行き先は五代達がいる会議室。今そこで五代達三人のライダーが大事な話をしているのだ。

 ヴィヴィオは話の邪魔をしに行くのではなく少し変わった自分の髪型を見て欲しいだけ。そう予想したイクスだったがそれは結果として三人の邪魔になってしまうと判断し、苦笑しながら彼女の手をしっかりと掴んでこう告げた。

 

「五代さん達のいる部屋へ行こうとしているのですか?」

「そだよ?」

「まだお話をしているかもしれません。邪魔になってしまうのでは?」

「なら廊下で待てばいいよ」

 

 ヴィヴィオの受け答えでイクスは自分の予想が当たった事を理解し、ならばとばかりに小さく微笑んでこう提案する。それなら何か飲み物を差し入れればどうだろうと。それにヴィヴィオが急停止。イクスはそれに転びそうになるものの何とか耐え切り安堵の息を吐いた。

 それにヴィヴィオは謝りを入れるも、やや不満そうに「もっと早く言って」と文句を述べる。イクスはそんな彼女を可愛らしいと思うも、少しお姉さん風を吹かせるように「最初に行き先を教えてくれなかったからですよ」と反論した。その正論にヴィヴィオが言葉に詰まってあえなく降参。だが、互いに浮かぶは笑み。

 

「じゃ、何か持ってこー」

「そうですね。アインさんなら五代さん達の好みを知っているはずです」

 

 そう言い合い、二人はまた来た道を戻っていく。その声は当然食堂にも届いていたため、リイン達が微笑みを浮かべながら五人分の飲み物と軽いお茶請けを用意し始めていた。だが、周囲に何故かモニターが出現する。それへ誰もが視線を向けて絶句する事になる。

 

 

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 六課隊舎内医務室。隊舎内が穏やかな雰囲気で満ちている中、そこには少し沈んだ表情のヴィータとシャマルがいた。ノインとの戦いでヴィータが浅くない傷を受けてしまったためだ。彼女はチンクとの連携で五分の戦いをしていた。だがつい撃破にこだわってしまったため思わぬ反撃を受けた事がその理由。

 咄嗟に自慢の防御魔法を展開して重傷にはならなかったものの、それがキッカケでその後彼女達は苦戦する事になった。それでもチンクの持つシェルコートの防御力と彼女自身が守りに長けていた事もあり、クウガとはやてが現れるまで耐え凌げたのだ。援軍がはやてでなければ少し危なかったかもしれない。そうシャマルに彼女は言われたのだから。

 

「はい、診察終わり。はやてちゃんのおかげで傷は綺麗に治ってるけど無茶し過ぎよ。もう私達の体ははやてちゃんでもすぐには治せないんだからね」

「分かってる。ある意味人間に近くなってるってんだろ?」

「そういうレベルじゃないの。今の私達はもう完全に生命体と言っても過言じゃない。仮に息を止められればそのまま消えるだけ」

 

 シャマルの言葉にヴィータは一瞬驚愕するもすぐに悲しそうに俯いた。以前の彼女であればどこかで喜んだ事実。しかし、今の状況ではむしろそうではない方が嬉しかったのだ。その理由はただ一つ。

 

「そっか……いざとなりゃ翔一達の盾になれるかと思ってたのによ」

「ヴィータちゃん……」

 

 消滅してもはやての魔力があれば復活出来るのであれば、最悪誰かのために身を挺する事が出来ると考えていたのだ。その考えが分かったのだろう。シャマルも複雑な表情を返す事しか出来ない。どこかでヴィータも自身の体の事を分かっていたはずなのだ。それでもそんな事を思うぐらい彼女は翔一の事を慕っている。

 

 はやてと共に八神家で過ごした時間の中、ヴィータが一番影響を受けたのは翔一だった。口汚い彼女を怒る事もせず、注意するとしても女の子だからとだけ。決して怒ったりせず、ヴィータと笑顔で接していた翔一。

 彼女が公園に行き出し老人会の者達と仲良くなった時、彼は差し入れとしてヨモギ団子を作って持たせた事がある。それを食べながら老人達はヴィータへこう言ったのだ。いいお兄さんだねと。それに彼女は照れくさそうに小さく頷いた。そんなヴィータだけの思い出だ。

 

(あたしは翔一のために何かしてやりたかった。でも、いつもあたしはしてもらうばっかりだ。だから今回こそはって……そう思ったのによ)

 

 脳裏に思い出す記憶の一ページに懐かしさを感じてヴィータは天井を見上げた。明日の戦いに勝利すればこの世界は仮面ライダーを必要としなくなる。それが意味するのは翔一達との別れ。故に彼女は最後に翔一の役に立ちたかったのだ。翔一が嫌がろうともその命を守れるのならと。

 だが、それは出来ない。復活出来ないのならそれは翔一だけでなくはやてを始めとする多くの者達を悲しませるだけにしかならないからだ。人と同じような限りある命となった今、ヴィータは別の意味でも悲しかった。

 

「なぁシャマル……」

「……何?」

「はやてが死んだら、あたし達も消えるんだよな」

 

 そのヴィータの言葉にシャマルは頷いた。それを見て彼女は小さく何かを呟いてから寂しそうに俯いて告げる。

 

―――じゃ、翔一と再会出来るのを待ち続けるのも無理だな。

―――そうね。……もうはやてちゃんが生きている間で仮面ライダーを必要とする事がない事を願うわ。

 

 ヴィータの言葉の意味を悟り、シャマルは噛み締めるように答えた。本当を言えばそんな事を考えているヴィータを叱らねばならない。だが、そんな事が彼女には出来なかった。ヴィータは静かに泣いていたのだ。

 やっと得た限りある命。だが皮肉にもそれは愛しい家族との再会と万一の手助けの方法を奪った。どこかで望んでいた物が手に入った時、違う何かが失われた。これを皮肉と言わずして何と言うだろう。シャマルはそう考え、ゆっくりとヴィータへ近付いた。

 

「大丈夫」

「……何でだよ?」

「ヴィータちゃんの気持ちは分かる。でも、考えてみて? 翔一さんがまたここへ呼ばれる事は本当にヴィータちゃんが願う事?」

「それは……」

「違うでしょ? だから大丈夫。待ち続けるんじゃなくて会いに行けばいいんだから」

 

 そのシャマルの発言にヴィータは涙を止めてゆっくりと顔を上げた。そこには真剣な表情のシャマルがいた。彼女は戸惑うヴィータへこう告げた。こちらへ来れたのだから行けない事はない。ならば、ユーノが探している平行世界への連絡手段から派生し行くための方法も見つけ出せばいいのだと。

 その言葉にヴィータは呆気に取られた表情からゆっくりと嬉しそうな表情へ変わっていく。その目には先程までとは違う涙が溜まっている。その意味を察してシャマルは微笑む。ヴィータもそれに力強い笑みを返し、目元を拭ってこう言った。

 

―――明日、絶対勝ってやる。それでジェイルの奴にも手伝わせて翔一へ会いに行けるようにしてみせるかんな!

 

 そんなヴィータをシャマルは姉のような眼差しで見つめる。そしてふと思うのだ。既にヴィータや自分がジェイルが元広域次元犯罪者だったと思わなくなっている事を。それどころか自然と仲間として扱っている事実へ気付き、彼女は微かに苦笑する。

 

―――まだ真司さん達と出会って半年にもならないのになぁ。

 

 どこか呆れるような声で小さく呟き、シャマルは視線を窓へと向けると両手を合わせた。そこに広がる夕日に明日の勝利を願うかのように。

 その夕日を同じように眺めている者達がいた。フェイトとはやてだ。部隊長室で二人は紅茶が入ったカップを握って外の景色を見ていたのだ。

 

「ほんま、無事に終わって良かったわ」

「うん、人的にも物的にも六課の被害は軽微。地上本部の方も思ったより被害は抑えられたしね」

「そこはロングアーチの機転と各陸士達の力や。きっと向こうはわたしらやライダーの力って言うやろけど、絶対それはちゃうもん」

「ふふ、そうだね。みんなが出来る限りの無理をした。その結果が死者ゼロに繋がってるはずだから」

 

 厳しい戦いを切り抜け久しぶりの安らぎを得たような気分だった彼女達だが、互いの無事を喜び合って少し雑談するともう会話の内容は重くなりつつあった。

 

「でも負傷者は結構出たし、本部自体や周辺の被害は馬鹿にならん。それに、個人的に気になってる事もある」

「邪眼の数と残した言葉、だね」

「せや。ゆりかごを墓場にする言うてたらしいけど、そこはラボとは別の部分。動かすには聖王の血族が必要」

「ヴィヴィオを狙った襲撃は凌いだ。これでゆりかごは動かせないはずなんだけど……」

「光太郎さんは何て?」

「……もしかしたらって言ってたけど……」

 

 フェイトは光太郎が考えた邪眼の目的とゆりかごの起動法を話す。六体の内、一体を本体にするのは変わらない。それ以外の四体は仮面ライダーへ差し向け、もう一体は六課への刺客とするはずと、そこまで言ってフェイトは何故か表情へ怒りを滲ませる。それにはやては気付くも不思議そうに見つめた。

 フェイトは一度呼吸を整えると、こう続けた。そして本体へゆりかごを起動させるための力を持たせるだろう事を。それを聞いたはやてがその方法を教えてもらおうとして、彼女の怒りの原因に気付き言葉を失った。

 

(そうか。そういう事やな……)

 

 結局邪眼の目的を阻止する事が出来なかった事を理解し、はやては悔しげに表情を歪ませる。今回の襲撃であった戦いははやても全て聞いている。その中にフェイトが怒り、尚且つゆりかごを起動させる事が出来る可能性を邪眼が得る機会があった事に思い至ったのだ。

 その悔しさを流し込むようにはやては紅茶を飲み干す。フェイトもそれに倣うようにカップを傾けた。共に大きく息を吐き、どちらともなく互いの顔を見つめて笑みを浮かべる。揃って考えた事が同じだと感じたからだ。

 

「これで悔しさはないね」

「やね。このお返しを明日邪眼に叩き込んだる!」

「うん、なら私も。明日で……全て終わらせるために」

「……そうやな。明日で全て終わるんや。全て……」

 

 そう言って二人は悲しげな表情を浮かべる。邪眼を倒した後の事を考えたからだ。共に想いを寄せる相手がいなくなる。それを覚悟はしているが、それでも辛いものは辛い。特に翔一と二度目の別れをしなければならないはやてにとって、この時間は最後の時間とも言えるのだ。

 フェイトはそれを理解しているからこそはやてへ告げる。後悔しないためにも伝えたい事は伝えた方がいいと。それにはやてはすぐ答える事が出来なかったが、それでも小さく頷きを返した。フェイトは知らない。はやての心にはある一人の人物の顔が浮かんでいる事を。

 

 そうして少しの沈黙があった後、二人が揃って意識を向けたのは共通の親友とその恋人の事だった。今頃どんな気持ちでいるのだろう。言葉を交わす事は出来ているか。そんな事を思った二人は強く願う。決してなのはとユーノが不幸にならないようにと。

 

 その願いを送られたなのはは本局にある医療施設の一室にいた。集中治療室のようなそこは本来ならば面会は許可されない。だがクロノがそこを何とか許可を取り付け、なのはをユーノへと合わせたのだ。

 

「ユーノ君……」

 

 ベッドに静かに横たわるユーノの周囲にはいくつもの機械がある。なのはは彼の手を握り締め、悲痛な表情を浮かべていた。そんな彼女にクロノは言葉がない。ここまでなのはが弱く見えたのは初めてだったのだ。

 ジュエルシードの時も闇の書の時も強くあったなのは。それが一人の男の状況でここまで弱々しくなるとは思えなかったのだろう。だが、それも無理はないと彼は考えた。ユーノはなのはにとって結婚さえ誓った存在。更に彼女が魔法と出会うキッカケになった運命の相手と言ってもいいのだから。

 

(いつの間にか、お前の存在はなのはの中で大きくなってたんだな。いや、当然か)

 

 あの後、クロノは移動しながらなのはへ事実を伝えた。ユーノが強力な毒に犯された事。そのせいで少しずつ体が弱っている事。毒が内臓等を腐敗させようとしている速度を何とかゆっくりに食い止めている事を。

 それらを聞く度になのはの表情が暗くなるのを見ながらクロノは隠す事なく全てを伝えた。隠すよりも事実を教えておく方がいいと思ったからだ。なのはは芯は強い。それ故、彼は彼女が自分で立ち直る事を期待したのだ。

 

「ね、見て。ユーノ君のくれた指輪、サイズ違うから緩いんだ。結婚指輪も同じ大きさで頼んだりしてないよね? だったら、ちょっと嫌だな。指のサイズ教えるから早く起きてよ。そして一緒に指輪見に行きたいな。ねぇユーノ君も……そう、思うよね……っ!」

 

 最初こそ儚げな笑みを浮かべていたなのは。だが、言っている内にそれも崩れていき最後には完全な泣き顔へと変わった。それを察しクロノは静かに病室を出る。彼女の泣き声を聞かないようにと思っただけではない。ここからは二人きりにしようと思ったのだ。

 

 明日、六課は邪眼との決戦を迎える。場所はベルカ自治区のジェイルラボ。クロノもそこへ参加しようかと思っていたが止める事にした。一番の目的であったユーノの仇は取った。確かにまた同じ怪人が現れるかもしれないが、それはもうユーノをこうした怪人ではない。そう考えて彼は決めたのだ。何よりクラウディアクルーにいつまでも負担を掛け続ける訳にもいかないと。

 

(僕の次の戦いは局員としてのものだ。個人の感情はもう片付けた。それになのはを支えるのは僕の役目じゃない。それは、あいつに任せるさ)

 

 そう自分へ言い聞かせるとクロノは念話を送る。その相手は分かったと一言だけ返した。彼はそれに小さく笑うとクラウディアに戻るために歩き出す。そこへモニターが出現した。そこに映し出されたのは一人の局員。それはクロノがあの時床の穴の解析を頼んだ相手だった。

 彼はクロノへある事を告げる。それを聞いてクロノは目を見開いて問い返した。本当かと。それに彼は力強く頷いて、何とか間に合わせてみせると返した。その内容を噛み締め、クロノは一度だけ病室へ振り返った。

 

「お前の葬式なんかしたくないからな、ユーノ。もう少し頑張れよ」

 

 そう笑みと共に呟いてクロノはその場から去る。その頃、病室ではなのはが突然聞こえてきた念話に驚きを浮かべていた。

 

【なのは、泣かないで】

【ユーノ君っ?!】

 

 思わず目の前のユーノを見つめるなのはだが、当然彼は未だに目を閉じたまま。だが、意識はしっかりしていると理解したのか彼女は先程とは違う涙が流れるのを感じた。

 

【念話ならまだ出来るんだよ。それもいつまでか怪しいけどね】

【驚かせないでよ。心臓止まっちゃうかと思った……】

【ごめん。それと指輪はどう?】

 

 ユーノの言葉になのはは泣き笑いを見せて答えた。デザインは好みだけどもサイズが違って緩いと。それを聞いた瞬間、ユーノはやや呆気に取られ、勘で頼んだのがいけなかったのかと反省。なのはへ聞くと驚かす事が出来ないと思い、秘密裏に事を進めた事を告げた。

 それを聞いたなのはは苦笑しつつ注意した。驚かすなら別の方法にして欲しいと。それにユーノも了解と返事を返し最後にこう告げる。

 

【体が治ったら、一緒に式場探しにでも行こう】

【その前に結婚指輪を買いに行こうよ。式場はその後ね】

 

 それになのはは驚く事もなくただ嬉しそうに返事を返した。その内容に彼が苦笑しつつ同意するのを聞いた彼女は最後に一言告げる。

 

―――絶対幸せにしてね?

 

 それに彼は返事をしなかった。だが、なのははそれに不満を感じない。何故なら、彼女の握り締めていた手をユーノが弱くだが握り返してきたからだ。それが何よりの返事だと思い、なのはは笑顔を浮かべ数回言葉を交わして病室を後にする。向かうは自分の居るべき場所。そこで帰りを待っている仲間や親友達、それとヴィヴィオに会うために。

 

(ヴィヴィオへ話さないといけない事もあるし……今は少しでもみんなの顔が見たい)

 

 迫る最後の戦い。それに備えるためにもとなのはは一人転送ポート目指して廊下を走る。愛しい男性との約束を叶えるためにも明日の戦いは勝たねばならない。その想いを強くし彼女は急ぐ。不屈の心へ愛と勇気を宿らせて。するとそんな彼女の近くにもモニターが出現する。そこに映る光景になのはは思わず足を止める事になるのだった。

 

 

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「いい演説だった」

「よせ。とてもではないがそう思えん」

 

 地上本部はレジアスの執務室。そこにグレアムの姿があった。怪人が撤退したのを受けてレジアスはバトルジャケットのままで全管理世界に伝えたのだ。今回地上本部を強襲した存在の正体やそれと戦い続けていた者達の事を。そう、六課と仮面ライダーの事を。

 その内容を疑う者はいなかった。実際目の当たりにした者達は元より、他の管理世界の者達には以前六課が提出した戦闘映像を見せる事で理解と納得を与えたのだから。そしてレジアスはそれを周囲が理解したのを見計らい告げたのだ。

 

―――怪人のような主義主張に関係なく人々の暮らしを脅かす者が今後も現れる可能性がある。それに対抗するには魔法だけでは駄目なのだ。全ての者達が、平和を守りたいと願う者が誰でも戦える術を持てるようにしたいと儂は考えた。そのためにこのバトルジャケットは生まれた。訓練次第で誰でも装着出来、武器は基本己の体。魔力の有無に左右されない性能とどんな環境でも適応させる事が可能な汎用性。これらは全ての者の笑顔を守るためにある。今すぐにとは言わないが、これを配備する事を許して欲しい。そう、誰かを倒す力ではなく誰かを守る力として。誰もが正義を、未来を、平和を守る事が出来る時代にするためにっ!

 

 そう締め括ったレジアスの言葉に大きな拍手が起きたのは言うまでもない。簡易的な質量兵器の解禁ではない主張に賛同する者達は多く、加えてアハトとの戦いでバトルジャケットは既にその有用性を示した事。それらを踏まえてグレアムは今後の事を見据えて告げた。

 

「さて、これで君は言った事に責任を取らねばならんな」

「……そうか。まだ全てを明かすには早いか」

「いや、もう明かす事は出来んよ」

「何?」

 

 レジアスの自嘲気味な言葉にグレアムはそう同じような声で答えた。それに疑問を浮かべるレジアスへ彼は語る。闇の書事件の際、自分が何を考えどうしようとしたかを。それを聞き、レジアスは言葉がない。

 次元世界のために一人の少女を犠牲にするを是とした。それが持つ意味は重い。管理局員としては当然だ。だが、人として見た場合それが果たして正しいのか。多くを救うためなら少数は見捨てられてもいい。それを肯定する事になってしまうからだ。

 

 命に貴賎はない。全て平等に守られ、扱われなければならない。それが理想なのだ。レジアスはそこでやっと以前グレアムが言った言葉の意味を理解した。仮面ライダーがグレアムにその選択をさせずに済ませたのだと。犠牲にされるはずのはやてが生きている事や、グレアムが今も管理局員として戦っている事からもそれを察する事が出来た。そして、どうしてグレアムがもう明かす事が出来ないと言ったのかも。

 

「この汚れた手で贖い続けろと言うのか……?」

「そうだ。汚れたからこそもうそれを誰かにさせないために戦う。それが私達に出来る唯一の贖罪だ」

「……仮面ライダー達がそう言ったのか?」

「いや、これは私が勝手に思っている事だ。しかし、彼らに報いるにはそれしかないと考えている」

 

 全てを秘めたまま、生きる。それは辛く厳しい道だ。いっそ明かしてしまえば楽になる。だが、それをしたところで自分が犯した罪の犠牲者は報われるのかと問われれば答えは否だ。故に自分の過ちをもう繰り返させないために敢えて卑怯者のそしりを受ける。明かすのは死した後でいい。例えそれで死後自分がどれだけ批判されようと、それで誰かの未来を、笑顔を守れるのなら。そこまで考えてレジアスは呟いた。

 

―――戦い続ける事でしか、償えんのだな……

―――何、始めてみれば辛くも何ともない。仮面ライダーがいなければそれさえ出来なかったと思えば、な。

―――……違いない。

 

 そう言って二人は笑い出した。共に人には言えぬ罪を犯そうとした。未然に防がれたとは言え、それは許される事はない。それを忘れず、自分と同じ事をせざるを得ない事態を無くすために戦う。ここにきてそれを共にする同志が出来たと、そう思ったからだ。

 

 そこへオーリスがカリムとシャッハを伴って現れる。これからレジアスが自分の知る全てを話す事にしていたからだ。彼女達は二人して笑い合うレジアスとグレアムに不思議そうな表情を見せた。だがその雰囲気から何かを悟ったのだろう。三人も柔らかな笑みを浮かべてソファへと近付いた。

 

「お話は終わったのですか?」

「ああ。さて、まずは予言について詫びなければならんか?」

「必要ありません。貴方は既に行動でそれを示してくれました」

 

 レジアスの言葉をカリムはそう言って終わらせた。それには周囲も苦笑するしかない。

 

「中将、まずは何を?」

「オーリス、今は非公式な場だ。階級での呼び方は止めてくれ」

「くすっ、はい、分かりました……父さん」

 

 変わった。そうオーリスは感じた。だが、それが少しも嫌ではない事に気付きつい笑みがこぼれたのだ。遠い記憶の彼方にあった父親の顔。それが今戻ってきたとオーリスは思った。

 カリムとシャッハもレジアスの雰囲気の変化に気付き、軽い驚きと共に小さく笑顔を見せた。グレアムもそれを見て笑みを浮かべる。そこからは、どこか和やかな雰囲気のまま話が進んだ。レジアスが教えたのは最高評議会の事。それを平和的に何とかしなければならないと。

 

 レジアス自身も今なら分かる。彼らも彼らなりに平和を守ろうとしているのだろうと。故に何とか手を取り合いたいと思ってはいた。しかし、それが厳しいだろうとも思っている。どこかで彼らは自分達が主導にならなければならないと考えているからだ。

 そう言うとカリムとグレアムが同じ結論を告げた。彼らの存在を明らかにし、管理局の大掃除をすればいいと。そのためにはレジアスに矢面に立ってもらう必要がある。そう言われた彼は迷いもなく頷いた。望むところだとさえ言い切ったのだから。

 

「だが騎士カリム、これ幸いと教会の影響力を増そうとはしないでくれ」

「あら、それは考えませんでした。今は管理局員としてここにいますので」

「カリムはそこまで恥知らずではありませんよ、レジアス中将」

 

 シャッハがやや苦笑しながらそう言うとレジアスが若干憮然とした表情を返す。聖王教会で大きな発言力を持っているカリム相手だからこれぐらい確約させないといけない。そう彼が告げると周囲が苦笑した。

 

「やはり変わっていないですね」

「いや、こうでなくてはな」

「お気持ちは分かりますが……」

「そうですよ父さん、少しは信用してみては?」

 

 そんな四人の反応にレジアスが余計憮然とする。その様子に四人がおかしいと言わんばかりに笑った。その声にしばらくレジアスは不機嫌な顔をしていたのだが、やがて耐え切れなくなったのか彼も小さく笑う。

 

―――こんな風に笑えるのだな、この者達とも……

 

 かつては毛嫌いするだけだった相手。それと今はぎこちなくではあるが友好的に話す事が出来る。ゆっくりとだが変わっている事を実感しながらレジアスは思う。いつか本局だけではなく教会とも心から手を取り合う日が来るようしたいと、四つの笑い声を聞きながら強く誓うのだった。

 

 一方、その外では警備をしていた陸士達が撤収作業を始めていた。心配された第二波攻撃もない事を受け、本部が警戒態勢を解除したのだ。その作業をしている中に一組の陸士夫妻の姿があった。

 

「無事で良かったわ」

「そりゃこっちの台詞だ。聞けば怪人とやり合ったらしいじゃねえか。もう若くないんだからあまり無茶すんな」

「何よ失礼ね。私はまだ現役です!」

 

 クイントの反論にゲンヤは苦笑で応じる。それを見てゼストとメガーヌは笑みを浮かべていた。怪人の脅威は去ったとはいえ、警戒自体はすぐ解かれた訳ではなかった。そのためゲンヤとクイントは互いの事が心配でも中々話す事が出来ずにいたのだ。

 六課は翌日の戦いのために早々と撤収したが、他の陸士隊は別。だがそれについて誰も文句はなかった。レジアスによって語られた真実。それが六課への揶揄や良くない噂さえも吹き飛ばし、同じ平和を守る仲間と認めさせたのだから。

 

「ま、お前が現役なのは分かってるがよ。相手が化物だ。心配するのは当然だろ」

「まぁそうでしょうけど……」

「お前に先立たれるのは嫌なんだよ」

 

 ゲンヤがそう言うとクイントが一瞬止まり、それから嬉しそうに彼へ抱きついた。その様子を見てゼストとメガーヌは苦笑するしかない。他の者はいないとはいえ、やはり熱烈な夫婦仲を見せ付けられるのは辛いものがあるのだろう。

 ゼストは未だ独り身でメガーヌは離婚している。共に理由は仕事の忙しさなのだが、決して独身を貫きたい訳ではない。故にそんな光景を見せられれば仲睦まじいと思う反面いつかは自分もと思ってもおかしくなかった。

 

(相変わらずだな、この夫婦は。妻、か。この事件が片付いたら、俺も少しは考えてみるか……)

(もう、クイントもゲンヤさんも仲が良いのはいいけどこっちの身にもなって欲しいわ。やっぱり似た境遇同士の方が上手くいくのかしら……?)

 

 そう思ってメガーヌはふと視線を隣にいる者へ向ける。ゼストはナカジマ夫妻を見つめ柔らかい笑みを見せていた。それに彼女は少し意外な印象を受ける。ゼストがそんな表情をするのは珍しい訳ではない。それでも、あまり見れるものでもなかったのだ。

 メガーヌがそう思って見つめ続けている事に気付き、ゼストが視線をそちらへ向ける。絡み合う視線。それに何故か気恥ずかしいものを感じてメガーヌは目を逸らした。

 

「どうした、メガーヌ?」

「い、いえ、何でもありません」

 

 そんな二人を見つめる一対の視線がある。いつの間にかゲンヤから離れ、同僚と上司の事を眺めていたクイントのものだ。

 

「もしかしてメガーヌって……」

「おい、あまりいい趣味じゃねえぞ」

「いいじゃない。親友と上司の幸せを願っても」

「……だから、それがいい趣味じゃねえってんだよ」

 

 お節介を焼きたいとの気持ちを全身から滲み出しているクイントを見て、ゲンヤは呆れたようにそう告げる。そして同時に思うのだ。あれ程の事があったにも関らず、こうして他愛もない話が出来る幸せを。スバルを、ギンガを、そして自分達を守ってくれた立役者である仮面ライダーの事を思い、ゲンヤは小さく呟く。

 

―――ありがとよ。お前さん達が俺の大切なもんを守ってくれた。この礼は、いつか必ず返すぜ。

 

 その瞬間、彼らの周囲にもモニターが出現する。そこに映っていた相手に陸士達がざわつき始め、ゼスト達も言葉を失う事になるのだった。

 

 

 

-4ページ-

 六課課員用宿舎。そこにある女性用大浴場。今、そこにはギンガを除くヴァルキリーズが勢揃いしていた。休憩室はスバル達が使っているため、大人数で話せる場所としてここを選んだのだ。話題はいよいよ明日に迫ったラボ奪回だった。

 

「遂にこの日が来たわね」

「ええ。明日、私達の家を取り戻す」

 

 ウーノの声にドゥーエが頷いて返す。取り戻すとの言葉に万感の想いを込めて。それに全員が力強く頷いた。みな想いは同じなのだ。

 

「撃破した怪人達は上手くすれば明日はいないかもしれん。だが油断は禁物だ」

「残った邪眼は六体。ライダー達が最低一体ずつは引き受けてくれる」

「で、もう一体は本体だから、あたし達が相手にするのは残りの一体」

 

 トーレの希望的予測に誰もが逆に気を引き締める。そう、最初はいなくても長引けば途中から現れる可能性もあるのだから。チンクはそれを踏まえ、一番の難関である相手の話を切り出すとそれを受ける形でセインが噛み締めるように告げた。

 ヴァルキリーズで邪眼を一体引き受けたい。それを彼女達ははやてへ願い出ていたのだ。自分達を家から追い出した邪眼。それを自分達の手で倒したいと。その希望を聞いたはやては躊躇いもなく許可を出した。ただし誰も欠ける事のないようにと条件を付けて。

 

 その時の事を思い出したのか誰もが目を閉じる。すっかり馴染んだ六課の空気。自分達もいつの間にか仲間になっていた。そう改めて思って小さく微笑む。だが、それもセッテの言葉で消えた。

 

「邪眼の強さはもう嫌という程理解した。だが、私達姉妹が力を合わせれば……」

「勝てない相手じゃない。絶対に」

「ああ。明日、あの目玉野郎に見せてやろうぜ。アタシ達の強さを!」

 

 静かな意気込みを込めたセッテの言葉にオットーが噛み締めるように続く。無敵ではない。それを知っているからこそ二人に不安はない。自分達姉妹が全員で手を取り合えばなのは達隊長陣でさえ打ち負かせたのだ。邪眼の一体などそれに比べれば恐れるに足らない。ノーヴェはそんな周囲の気持ちを代弁するかのように握り拳を見せて言い切った。その言葉に全員が無言で頷きを返す。

 

「でも、用心はしておくべきだね。邪眼はライダーみたいな姿にもなれるらしいし」

「そうッスね。聞いた話じゃ動きもかなり速くなるらしいッスから」

 

 警戒するようなディエチの声に呼応してウェンディが告げた言葉。それは今回の提案を許可した時、はやてが教えてくれた事。闇の書事件の際、邪眼が取った姿。それがライダーに近い姿だった事を聞いて、その特徴などから邪眼も変身するかもしれないと考えたのだ。二人の言葉に誰もが改めて明日の戦いの厳しさを思い出す。しかし、それを聞いても不安よりも希望が強い。そう、何故ならば彼女達は知っているのだ。

 

「大丈夫です。姿を真似ただけでライダーになれる訳ではありません。仮面ライダーとは、お兄様達のような心を持つからこその仮面ライダーなのですから」

 

 ディードの言葉に込められた想いを誰もが抱いていた。仮面ライダーを名乗れるのは、彼らのような気高い魂を持つ者達だけだと。姿をどれだけ似せようと、闇では仮面ライダーにはなり得ない。故に相手が仮面ライダーでないのなら負ける要素はあるはずもなかった。

 何よりもそんな事さえ関係なく不安を吹き飛ばす魔法があるのだ。そう、それは今ディードが見せている仕草。そして周囲も返しているサムズアップだ。それが勝利への合図。何があっても負けないと心強くする魔法の仕草なのだから。

 

 この後、彼女達は戦いを終えた後の事を話し合う。ジェイルの事だけが不安だがそれでもはやて達が罪の軽減に尽力してくれると聞いている今、強く心配する事ではない。

 それよりもはっきりさせておきたい事があると、そうセインが言い出した時、誰もが何の事だろうと首を傾げた。そんな周囲へセインは真剣な表情で問いかけた。

 

―――みんなは真司兄の事どうするの? あたしは助けに行きたい!

 

 それがどういう意味だと尋ねる者はいなかった。チンクはそれに迷う事無く答えた。

 

―――当然手を貸す。それ以外に選択肢はない。

 

 それに続いたのは予想だにしなかった者だった。

 

―――そうよねぇ。大体、シンちゃんには責任取ってもらわないといけないし。

―――同感だ。私をこんな風にしたのだからな。途中で逃げられる訳にいかん。

 

 クアットロとトーレの言葉には、さすがに全員が驚きを見せた。だが、トーレがそれに照れているのに対しクアットロが平然としていたのはらしいとしか言い様がない。それならばと口を開いたのは後発組だ。

 

―――私は兄上が教育担当ですので。

―――僕も兄様にもっと色々教えて欲しい。だから一生教わり続けます。

―――私もオットーと同じ意見です。お兄様から教える事はないと言われない限り学ばせて頂きます。

 

 真司に教育されていた三人の言葉。それに周囲は様々な反応を見せた。セッテの言い方に呆れれば、オットーの言葉には笑みを浮かべる。ディードのオットーを引き合いに出してのらしい言い方には納得すると同時に苦笑い。そしてそんな言葉を聞いた以上、負けてられないとばかりに残った者達も口を開いていく。

 

―――アタシもにぃにぃともっと遊んでもらいたいッスから放っておかないッス。それに、そっちの方が楽しいのは分かり切ってるッスからね。

―――兄貴はアタシ達に生き方を決めろって言ってくれた。だからアタシは兄貴を助ける。それだけだ。

―――そうだね。あたし達は真司兄さんを助けたい。それなら兄さんも受け入れてくれるんじゃないかな。

 

 あっけらかんと告げるウェンディとは対照的に凛々しさを表情に出すノーヴェとディエチ。だが、共通するのは三人も真司と共にいたいという事。ただ、ここで得た仲間や友人達と離れるのも心苦しくもある。しかしその気持ちを吹き飛ばすように二つの言葉が放たれた。

 

―――結局、姉妹揃って真司君の支えになりたいって事でしょ? ならきっと六課のみんなも笑って送り出してくれるわ。

―――きっとこれから先の龍騎の戦いは辛いでしょうけど、私達が手を貸せばすぐに終わらせる事が出来るはず。その後でこっちへ帰ってくればいいのよ。ドクターが行き来の手段を確立してくれるでしょうしね。

 

 想いを告げずでも周囲には分かった。ドゥーエとウーノもまた同じ気持ちなのだと。ウーノの言った龍騎の戦い。それが邪眼との戦いではない事も全員が察している。真司が元の世界へ戻る日が来るとすれば、そこで待つのはライダーバトルだ。

 それを彼は止めるために戦う。彼女達はそれを支えたい。仮面ライダーでなくても出来る事がある。そう知った以上、もう迷いはない。戦いを止めるために戦う龍騎を支える。それが今の彼女達共通の願いなのだから。

 

 邪眼を倒した後は龍騎を支える戦いが待つ。そう思うもそれはまだしばらく先の事だと考えて彼女達は笑う。彼女達はあの予言を知らない。そして、五代達が一度消えた事を知らない。故に思いもしない。龍騎も同じように邪眼を倒した時、消える運命にあるのではないかなどとは。

 

 ヴァルキリーズがそんな話をしている頃、ギンガを加えたスバル達も休憩室で談笑していた。もう暗い話題になりそうな物は片付け、今は明るい話題をしていたのだ。そう、邪眼を倒した後の事だ。

 スバルはギンガに海鳴へ行ってファリンとイレインに会おうと提案していたし、ティアナは上手くすれば六課の主要メンバー全員で出かける事も可能かもしれないと言い出していた。エリオとキャロはティアナの話が実現出来るといいと思って、その際の行き先はスプールスでキャンプなどはどうかと提案。ギンガはそれもいいと笑顔で頷いていた。

 

「あー……夢は広がるねぇ」

「そうね。邪眼がいなくなれば仮面ライダーは戦う必要がなくなるし、少しは翔一さん達も休めるでしょ」

「ジェイルさんは海鳴へ行く事は難しいかもしれませんけど、僕らと一緒なら管理世界へは行けるかもしれませんし」

「そうしたら、みんなでお出かけできるね」

「かなりの大人数だけど、祝勝会みたいでいいかも」

 

 笑顔で話し合う五人。明日はその夢を可能に出来るかもしれない日々を掴むための大事な決戦。そう思うも変な気負いはない。邪眼の圧迫感にも少しではあるが触れたエリオとキャロ。映像ではあるが隊舎前に現れた姿を見ていざという時の心構えだけはしたスバルとティアナにギンガ。

 明日自分達が相手にするのは生き残った怪人達やトイにマリアージュ。だが怪人達はなのは達隊長陣も参加して相手をする事になっている。それ故に不安はない。シャマルにザフィーラまでも投入しての最終決戦。隊舎の守りはゼスト隊が念のために引き受ける事になっているのもある。

 

「明日はビートチェイサー達も総動員だし、まさしく最後って感じだね」

「そうね。ライドロンは地下から突入出来るから奇襲も出来るし」

「アギトのバイクは滑空出来るから、それで突入するつもりだって翔一さんは言ってました」

「アクロバッターは龍騎が乗って行くみたいです」

「ゴウラムはいざって言う時の空戦用だし……うん、穴はないわね」

 

 話せば話す程不安がなくなっていく。そう思い五人は笑みを深めた。

 

「明日は全力を出し切ろう!」

 

 スバルの声に四人がそれぞれ力強く答える。その手は五人共サムズアップを形作っていた。こうして彼らも明日への気持ちと戦いの後への期待を抱く。訪れるだろう別れを知らぬままに。そこへもモニターが現れる。そこから聞こえてきた言葉に五人は怒りを抱く事になるのだった。

 

 

-5ページ-

「これを持って行くといい」

 

 ジェイルはそう言って一枚のベントカードを真司へ手渡した。それは間違いなく龍騎マークのベントカード。そう、ファイナルベントだ。

 

「じぇ、ジェイルさん、これっ!」

「奥の手だ。何とかコピーする事に成功したんだよ。ただ、現状それ一回限りだろうがね」

 

 そう言うとジェイルは苦笑してモニターを見せた。そこには何も映さなくなった画面がある。真司はその意味が最初こそ理解出来なかったが、段々とその状態に至った理由を把握したのか同じように苦笑した。

 ジェイルはファイナルベントのコピーを成功させた代償にデバイスルームの機器を駄目にしてしまったのだろうと。幸いにして犠牲になったのはジェイルが個人で使わせてもらっていた分だけなので、現在行っているスバル達のデバイスメンテナンスには影響はない。だが、これははやて達に怒られるだろうと思い、真司は苦笑いのままでジェイルへ告げた。

 

「ありがとうジェイルさん。でも、さすがにこれは……」

「いいさ。私がはやて君やシャーリーに怒られておくよ。それよりも……」

「ああ。これ、大切に使わせてもらう」

「邪眼は一番君のデータを有している。そこが逆に君の強みだ」

「分かってる。アギトのユニゾンにこの有り得ないもう一枚のファイナル。俺の切り札として取っておくよ」

 

 そう言って真司とジェイルはどちらともなく手を差し出し握手を交わす。互いの表情は凛々しい。視線だけで言葉を交わす二人。しばらくそうしていたが、真司はそのまま何も言わずにデバイスルームを後にした。

 その背中を見送りジェイルは呟く。まだ最後の仕事が残っていると。そう、彼に残された最後の仕事。それは平行世界への行き来の確立。真司が邪眼を倒した際いなくなるとしても、その後を追えるために。そして、自分達を受け入れ温かく接してくれた六課のために。

 

 それに今のジェイルにはある目的がある。それは光太郎の世界へ行き歴代ライダー達に会ってみたいという夢だ。戦闘機人の技術を広めるつもりはないが、改造人間の技術は詳しく知りたいと考えていたために。

 人体を機械に合わせる事が難しい戦闘機人の技術と違い、改造人間はどんな人間にでも機械を適応させる事が出来る。それを医療関係に活かせないかと思っているからだ。命を弄ぶためにではなく命を助けるために科学を使っていきたいとの思いがそこにある。

 

「私の贖罪は、まだこれからだ……」

 

 無限の欲望と呼ばれた自分。その欲望を向ける先を全ての笑顔のためにしよう。それが今の自分の欲望だと、そう心から思いながら彼は手を動かし始めようとして―――ふとある事を思い付く。それを試してみるためにもと彼は急いで何かを作り始めた。自分達とライダー達を引き離そうとする運命を逆に利用するために。

 

 一方真司は会議室を目指して歩いていた。そこで行われているライダーだけの話し合いに参加するために。だが、既にその話し合いはある意味で終わりを迎えようとしている事を彼は知らない。

 

「えっ……アギトの力がRXの基?」

「凄まじき戦士がBLACKの原型……」

「ああ、そうだと思う。リボルケインはベルトから出現する。アギトの武器と同じ原理だ。それに、太陽の光を受けて変化を起こしたしね。BLACKは体の色やその存在が世紀王と呼ばれていた事からも、凄まじき戦士に近い物がある」

 

 光太郎の話を聞き、五代と翔一は少し考えて頷いた。そして同時に思うのだ。何故RXが恐ろしい力を持っているのか。その理由がクウガとアギトの力をあわせ持ったからと言われれば不思議と納得出来たために。

 二人の仮面ライダーの能力を合わせ、更にそこへゴルゴムの技術が融合した結果だとなればそれは当然と言える。光と闇を象徴する二人のライダー。その力を両方融合した存在がRXならば、仮面ライダーとして最強と言えるかもしれない。

 

「……そういえば邪眼はアギトの力を光の力って言ったんですよね?」

「そうです。俺もそう言われました」

「それがどうかしたのか五代さん」

「実は、以前無人世界で邪眼と戦った時、クウガのベルトを見て光の力がどうのって言ってたんです」

 

 五代はそう言って自分の仮説を告げた。どうしてクウガが仮面ライダーの姿になったのか。それはアギトの力をベルトに込めてあるからではないかと。アギトの力がアマダムに作用しクウガの姿を決定したのではないか。そう五代は考えたのだ。

 

 それを聞いた光太郎も翔一も言葉が無かった。確かにクウガの姿が仮面ライダー然としていた理由に納得が出来てしまったのだ。アギトは神がおそらく与えた力。その姿が仮面ライダーらしくあった。いや、もしかすると仮面ライダーはショッカーを初めとする悪の組織の首領が神の力で変化するアギトを目指した物だったのでは。そう光太郎は推測を立てる。

 

 創世王も、もしかするとアギトの力を有していたかもしれない。光太郎はそう考え、一つの結論を告げた。

 

―――五代さんの地球にも俺達の地球にもアギトの力は存在していた。ただ、五代さんの世界ではそれを何らかの方法でベルトに集中したんじゃないかな。

 

 それに五代は驚きを見せて考え込んだ。元の世界に帰った時、色々と桜子に聞く事が出来たと思いながら。翔一はそれに頷きながらアギトの力がクウガにも影響していたのかと思い、少し嬉しそうにしていた。歴代ライダーだけではなくクウガとも繋がりがあったのだろうかと思い、自分が思っていたよりも仮面ライダーと繋がっていたと考えたからだ。アギトこそ仮面ライダーの原型かもしれない。そんな事さえ考えながら、翔一はふと思った事があった。

 

―――どうして邪眼はアギトの力を知っていたんですかね?

 

 その言葉に二人も表情を変えた。邪眼が光の力と呼んでいたアギトの力。それを邪眼はどこで知ったのか。もしかしたら、過去の世紀王だった邪眼を倒したのはアギトの力を持った相手だったのでは。そう五代が告げると光太郎が勢い良く立ち上がった。

 

「俺が倒した創世王は過去の世紀王だ! だとすれば、邪眼を倒したのは創世王のはず……」

「なら、その創世王はアギトみたいな力を持ってたのかもしれないですね」

 

 光太郎の言葉に翔一が告げた言葉。それに五代も頷いた。RXへの変化が偶然ではなく元から期待されていたのではと、そう言って光太郎に問いかけたのだ。

 

「……いや、偶然のはずだ。俺が宇宙空間に放り出されたからこそRXは生まれたんだ」

「それが早めただけだったってのはないですか? 本当は時間をかけてRXに変化したとか」

「それに、光太郎さんももう一人の世紀王を倒したんですよね。じゃ、創世王っていうのが本来はRXの状態を意味したとしたらどうです?」

 

 翔一と五代の言葉に光太郎は返す言葉がなかった。確かにそう言われればそうかもしれないと思ってしまったのもある。RXが突然変異ではなく本来キングストーンがもたらすはずの変化だった。

 だとすれば、何故世紀王が五万年に一度の皆既月食に生まれる者から選ばれるのか。それがアギトの力を持つ者を狙ってのものだとすれば、RXの変化は創世王を意味する事になる。ここにきて自分の変化の謎に理屈がついた気がして光太郎は複雑な気持ちになった。

 

 自分が出会った未来の仮面ライダーと異世界の仮面ライダー。それと出会った事がここまで自分に大きく関るとは思わなかったのだ。それは五代と翔一も同じ。まさか自分達の力が合わさった存在がいるなどと思わなかったのだから。

 その時、会議室のドアが開けられる。それに気付いて三人の視線がそちらへ向かって動いた。そこには申し訳なさそうな表情の真司がいた。彼は両手を合わせて謝りながら室内へと入る。と、ドアを閉め忘れている事に気付いて一瞬止まった。

 

「本当にすいません。遅くなりました」

「大丈夫だよ、四人で話す事は後回しにしたから」

「そうなんだ。じゃ、今まで何を?」

「俺達三人に関する事です。RXがクウガとアギトに関係してるかもしれないって」

「ああ、実は」

 

 その話を詳しく教えようと光太郎が口を開いた時、その場に空間モニターが出現した。なのは達の目の前にも出現したそれに映るのは、何とジェイルの姿をした邪眼だった。

 

 

 管理世界全てに出現した空間モニター。それを六課の者達が、ゼスト達が、レジアス達が、全ての者達が見ていた。そこから邪眼が語るのは仮面ライダーへの宣戦布告。そして世界征服のための前準備だった。

 

「この放送を聞いている全ての人間共に告ぐ。我が名は創世王。この世界を統べる者だ」

 

 その発言に動揺が走る。何を馬鹿なと言う者達は呆れているし、ジェイルの顔を知っているだろう者達は怒りに震えている。それらの反応を見ているのか邪眼は楽しそうに顔を歪めて続けた。

 

「今、我の手元には聖王と呼ばれた者のコピーがいる。そしてゆりかごというロストロギアと呼ばれる物もある。どんな物か分からぬ者のために簡単に教えてやろう。古代ベルカの戦乱を止めるキッカケとなった物だそうだ。これでどれ程の物か分かるだろう」

 

 その発言に誰もが言葉を失った。更に邪眼は続ける。明日、そのゆりかごの力を以ってミッドチルダを攻撃し、その後は管理世界毎に付けられた順番で侵略を開始する。だが、もし自分へ忠誠を誓い平伏すのなら助けない訳ではない。それどころか管理局亡き後の世界支配において重要な地位にするとまで言ったのだ。

 邪眼はそれだけではなくこれまでの怪人達の姿を見せて恐怖心を煽る。トイのAMFやマリアージュの特徴なども教え、加えて怪人達などを大量に複製出来る事を告げる事でまだ仮面ライダーの力を良く知らぬ者達へ絶望を与えていく。

 

「さて、ここからは仮面ライダーとその仲間達。貴様らへの忠告だ」

 

 その言葉に六課とその関係者全員が表情を引き締める。と、ジェイルはある事に気付いた。ここからは他の管理世界には映らず、ミッドだけの放送になっていたのだ。その理由は仮面ライダーを良く知る者達に聞かせるためだろうと結論付け、彼は密かに怒る。どこまでも人を見下す邪眼へ。そしてそれをただ黙って見ている事しか出来ない自分にも。

 

「遊戯はもう終わった。次は今までのようにいくとは思わん事だ。最早あの役立たず共は使わん。代わりに聖王とやらのコピーを差し向けてやる。怪人ではなくただの人間を、な。仮面ライダーや貴様らは何の罪もないそれを相手に戦えるか? もし、大人しくキングストーンを引き渡して軍門に下るのならば忠誠と引き換えに命だけは助けてやる」

 

 そう言った瞬間、邪眼は邪悪な笑い声と共に姿を変えた。しかし、それはおぞましい完全体でもなければ究極体でもない。それは、一つ目の銀色をした仮面ライダーだった。そう、仮面ライダーだったのだ。それに誰もが息を呑む中、それを見た光太郎は思わず叫んだ。

 

―――あれはシャドームーンと同じだっ!

 

 邪眼の体は銀色の甲冑のように変化していた。だが、腹部には緑の石ではなく紅い石が見える。そこまで確認し、光太郎はあの青年の言葉を思い出した。影の月が踏み躙られる。それはこれを意味していたのだと。

 恐怖の対象として、何より邪眼の姿として使われる事になったかつての親友の姿。それを光太郎は怒りに震えながら睨みつけた。最後には人の心を取り戻して眠ったシャドームーン。その姿をこうして利用する事に激しい怒りを覚えたのだ。

 

 映像はそこで切れた。隊舎内に沈黙が訪れる。直後、再び主だった者達の前に空間モニターが出現しはやてが告げた。会議室に集合するように、と……

 

 かくして終幕の鐘は鳴らされた。管理世界へ恐怖と絶望を以って圧力を掛けた邪眼。仮面ライダーを知らぬ者達にその闇は強烈に作用する。

 ゆりかごの起動迫る中、六課は最後の戦いへの結束を固めるべく集う。全ては、みんなの笑顔のために……

 

 

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穏やかに迫る最終決戦。最後にお目見えはやっとのシャドームーン体。

 

紅い石は何なのか。それは今後で明らかに。オリジナル設定だらけで申し訳ありませんが、もう少しお付き合いください。

説明
予言で予告されたXデーは越えた。そう誰もが思いながら安堵の息を吐く。翌日に待つ最後の戦いを前に、六課は思い思いの時間を過ごす。
静かに迫る終焉の刻。日が暮れていく中、闇による宣言が告げられるのだった。
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